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Happy Refrain

●Case of Her
 死んだ、と思っていた。
 だから私はずっと目を閉じていたのだけれど、時間が経つにつれて薄らとした明るさが目に入るようになった。天国だろうか、或いは地獄だろうか。程なく目を開けると、眩い光と共に誰かの顔が見えた。眩しさでしばらくそれが誰かは判別できなかったが、やがてそれが恋人である事が、わかった。
 私はしばし訳が分からず目をぱちくりさせていた。彼は私の事を確認すると、情けなく涙を流し始めた。私はそれを呆然と見ている。私はしばらくして、思い出す。
 死んだ、と思っていたんだ。
 偶然出会った通り魔に刺された私は意識不明の重体に陥った。私はあと一歩で死に至るような状況であった。そんな中、医者であった恋人は私の手術を買って出て、見事成功させたという事だった。後で聞いた話では、かなり困難な手術であったらしい。
 あぁ私はこの人に一生着いていかなければならないな、と落ち着いて来た時期にふと思った。多分彼は私を助ける為に、全身全霊を尽くしてくれたんだろう。それが嬉しくて、感謝しきれなかった。恩を返そうなんていうのではなく、ただ純粋に、切実に、彼を愛して、尽くしてあげたいと、そう思ったんだ。

●Case of Him
 死んだ、と思っていた。
 だから僕はせめて彼女の体を綺麗なままに、葬ってやりたい、そう思って綺麗に縫合し、手術を終えたんだ。意識不明、そのままなら、明日にでも死んでしまうだろう。そういう状態で、諦めた。彼女の家族には、浅ましくも自らの体を保つ為に、最善を尽くした、と一言告げた。そしてしばらくして病室に戻り、彼女の顔を覗き込んだ。その時、彼女のまぶたが、開いた。
 僕はしばし訳が分からず声が出なかった。そのうち感情が決壊して、ぼろぼろと涙が零れた。それは嬉しさであり、後悔だ。僕は彼女にそっと、抱きしめられる。しばらくして、僕は思う。
 死んだ、と思っていたんだ。
 出会って三年、ついに結婚までこぎつけた彼女の事を、僕は易々と見捨てたんだ。愛しているのに、大切だと思っていたのに、諦めたんだ。彼女は僕が手術を成功させてくれたおかげだと喜んでいたけれど、そんなものではないんだ。
 あぁ僕はこの人の隣に一生いなければならないな、としばらく悩んでから決意した。僕は彼女を助けられなかった。それなのに彼女はまだ生きて、僕の元にいてくれる。それが嬉しくて、感謝しきれなかった。僕は彼女を、僕自身の一生を捧げてでも、幸せにしてあげたいと、幸せにしなければならないと、そう思ったんだ。

●Case of Them
「天上の幸せを最悪の不幸に変えてでも、エリューションは排除しなければなりません。我々はいつだってそうして来たはずです」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000018)は極めて冷酷に、告げる。誰の方を見るでもなく、淡々と依頼の内容を読み上げる。
「二体のエリューションが発生しました。ノーフェイスとアンデッドが各一体。フェーズは共に2。攻撃・行動傾向は資料をご覧になってください」
 和泉は言葉を詰まらせる。小さなため息をしてから、彼女は、ただ、と続ける。
「二人がどんな言葉を口にしても、二人がどんな行動をとっても、決して聞かず、倒す事だけに集中してください」
 男と女がいた。二人は婚姻関係を結んでいた。男は、通り魔に刺された女の手術をし、失敗。一度は女のことを諦めたのだが、しかし女はなお生きた。いや、死んでなお生きていた。信じられなかった男は、それでも女を愛する為に、心を壊す。その結果、男はノーフェイスに、女はアンデッドに。
 二人は幸せのまっただ中にある。彼らがすでに人でないとしても。
「彼らが幸福を深めるに従って、彼らのフェーズ進行が著しく加速していく事が確認されています。幸せを壊してでも、止めなければならないんです」
 私たちの『正義』を以て。
 和泉は振り絞るように、言った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:天夜 薄  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月28日(水)23:58
どうも、天夜薄です。

●目的
 エリューション二体の討伐。
 逃走を許した場合失敗。

●敵
・ノーフェイス『藍崎 君彦』
 フェーズ2。20代後半くらいの青年。E・アンデッド『宇佐美 雛』の婚約者。
 リベリスタの攻撃時点で敵として認識し、行動を開始する。
 雛共々逃走を優先する。
 エリューション化によって動きがかなり機敏になり、二回行動が可能。

 戦闘時の行動:
 殴打……近接単体攻撃。威力はかなり高く、また5割程度の確率で混乱を付与。
 回復……単体を回復。回復量は『天使の息』程度。
 雛に攻撃が放たれた時、全力防御しつつ庇う。

・E・アンデッド『宇佐美 雛』
 フェーズ2。20代中盤くらいの女性。ノーフェイス『藍崎 公彦』の婚約者。
 君彦と共に攻撃を開始する。
 動きはかなり鈍重だが、防御性能が高い。
 エリューション化により、暗視性能を手に入れた。

 戦闘時の行動:
 雷光……遠距離全体攻撃。敵全体に雷の閃光を飛ばす。威力はそれほどでもないが、高確率で感電を付与。
 回復……全体を回復。回復量は『天使の歌』程度。状態異常を高確率で回復。
 回復を最優先。余裕ができたら攻撃。

●状況
 人通り、車の通りの少ない森林地帯を通る抜け道。
 二人は君彦の運転で自宅に帰る途中。スピードは結構出ている。
 道は真っ暗。車のライトが消えた場合、敵味方共々相手を判別する事が困難な程度の暗さ。
 依頼遂行の手段は問わないが、車にひかれた場合、致命傷とはいかないまでもそれ相応のダメージを負う。

●備考
 幸せを壊し、それでも新たな幸せを見つけられるような、そんなプレイングをお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
プロアデプト
廬原 碧衣(BNE002820)
デュランダル
館霧 罪姫(BNE003007)
ホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
スターサジタリー
ブレス・ダブルクロス(BNE003169)
デュランダル
天龍院 神威(BNE003223)

●夜襲
 闇が続く道路。僅かな月明かりさえも、周囲の木々が遮る。そこにあるのは夜の静寂。昼は抜け道として程々に車が通行するが、夜はあまりの暗さにとても通れたものではなく、通るのは一晩に数台ほどだ。余程急ぎの者か、あるいは無知でない限り、あまりここを通りたがらないだろう。
 彼は、急いでいた。ついに彼女が退院した。早く家に帰って色々なことを話したい。車の中だけでは話し切れない。今までのこと、これからのこと。逸る気持ちが車の速度を上げる。なるべく早く帰れるように。彼はそのことに専心していた。
 暗闇を車のライトが照らす。二つの光が通った道筋だけが浮かび上がる。しかし車の速度は落ちない。闇を切り裂く速度で車は走る。走る。注意力は落ちていた。
 だから、闇に紛れておいてあった障害物に気付くのが、ほんの少し遅れた。
 ハザードランプに気付く。ハッとして、慌ててブレーキを踏む。減速よりも先に車がパイロンを弾く。やっとブレーキが掛かる。甲高い声で車が鳴く。車は急に止まれない。看板が吹き飛ぶ。徐々に止まっていく。その時彼は闇の中に影を見た。それは車。映る助手席の人の姿。彼は願う。止まれ、止まってくれ。
 車の声が徐々に収まる。タイヤは滑り、傾く方向が上手く相手を避ける。やがて完全に止まった車は、相手の車と触れるほどに接近していた。安堵する。大事に至らなくて、よかった。
 彼はライトに照らされた看板を見る。映る工事中の表示。なるほど、こういうこともあるのか。彼は自分の不注意を悔いた。
 助手席の宇佐美雛に声をかけ、車を降りる。一応、相手に謝る必要があるだろうから。バタンという大きな音が、森に響く。
 彼はふと冷静になって、看板をもう一度見る。ここが工事中だったとして、どうしてここに車があるのだろう。いやまず工事をしているならここはもっと光っていていいはずだ。それよりもこんな所に車を止めたら危険なのになぜ気付かない。駆け巡る考えの中、胸騒ぎがあった。息を呑み、彼は周囲を見渡す。
 包囲されている。複数の男女に。どうして気付かなかったのだろう。異変を察した雛が車から出て、彼の後ろについた。
 男が一人前に出て、刺々しい口調で言った。
「うっす、死神だ。お嬢さん、キミはもう死んでる。いまはただのロスタイムだ。彼氏さんは、言ってる意味わかるよな? 医者なら」
 『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉は、藍崎君彦の胸に、深く突き刺さった。

●死守
「なんのことだかわからないな」
 君彦は搾り出すような声で何とか言う。認めることは、すなわち自分を否定することだ。彼女を否定することだ。
「私罪姫さん、今宵貴方達を殺しに来たの」
 『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)は不快に表情を曇らせる。
「死体は死体らしくきちんと静かに転がっていないと。罪姫さんの美観に触るの」
「死体……? 死体がどこに……?」
 雛は怯えたように周囲を見回す。彼らの言うことも、君彦の動揺も、彼女にはわからない。
 彼女に伝える気も、義務も、リベリスタにはない。
「仕事なのです。悪く思わないでくださいね」
 『鉄拳令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)の言葉に含まれる冷徹さは、雛の顔をひきつらせる。
 刹那、暗い闇を光を従えた影が駆ける。『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)のオーラを纏った攻撃が、雛を狙う。
「車壊さなかったのはありがたいが、消えてもらわないとな」
 思い切り振り下ろされた攻撃は、しかし雛まで届かない。君彦がそれをガードし、押し返す。雛を守るように位置を取り、君彦は囁く。
「僕が食い止める。君は車へ、早く」
 雛は頷き、周囲の影の動きに気を配りつつ、車へと向かう。だが素早く現れた影が、その行く手を阻む。
「ここで取り逃がす訳にはいかねェんだよなァ。」
 『爆砕豪拳烈脚』天龍院 神威(BNE003223)の拳は雛の頬を捉え、なかった。君彦が彼の攻撃を上手くいなし、代わりに神威の腹に拳を叩きこむ。神威は苦痛に顔を歪めながら、距離を取る。
「……触れさせるもんか」
 君彦は凄む。吠えるように、誓うように。

 死んだ、と思っていたんだ。
 駄目だ、と諦めていたんだ。
 生きて、と願っていたんだ。
 やった、と喜んでいたんだ。
 未来を望むのが、いけないというのだろうか。
 教えてくれよ、誰か、誰か。

 君彦は素早い動きで雛を狙うすべての攻撃を、ブロックする。雛は彼の傷を思い、それは彼の傷を癒す祈りとなった。だが、彼の傷の全てが塞がることはない。あまりにも、リベリスタ側の手数は多かった。雛の放つ電撃も、君彦の殴打も、彼らへの致命傷にはなりにくかった。
「この歪な状況が、幸せだというのかい、君彦」
 『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)は挑発し、気糸で罠を展開する。しかしそれは君彦を絡めとるには至らなかった。
「あぁ、十分に幸せさ。僕らがどんな状態であれ」
「しかし、君らは運命の加護を得ていないんだ」
 碧衣は哀れむように、言う。
「『化物』にとって唯一の幸せな結末は、破滅だよ」
「……ふざけるな」
 君彦は語調を強める。
 二本の足で、自分の意志で、立ち、歩き、幸せと共に進む自分たちのことを、彼らはなんと言い、何をしようとしている。
 『化物』と呼び、殺そうとしている。
 『化物』とはなんだ。『化物』とは誰だ。『化物』とは。
「怨嗟の声って、心地いいわ」
 『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は笑みを投げかける。残酷さと、同情をそれに孕んで。
「死ぬ前に幸せになれれば、よかったのに」
 君彦への攻撃が強まる。彼もそれに応戦する。
「そのまま攻撃したら、痛いわよ」
 非情な笑みは傷となって君彦に突き刺さる。追撃が、君彦に振りかかる。
「止めて!」
 雛の叫びと共に放たれた電撃が、周囲の敵を蹴散らす。ブルブルと震えながらも、彼女はしっかりとした口調で、叫ぶ。
「君彦を傷つけないで! 彼が何をしたの? 私が、何をしたというの?」
「何も…してないよ…ただ」
 エリス・トワイニング(BNE002382)は辿々しい口調で、雛に言葉を投げかける。
「死んでも…なお…世界の敵と…なった…2人に…」
 言葉が暗い影を落とし、雛へとにじり寄る。エリスと雛の距離は、少しも変わっていないのに。
 真実は胸を刺す。
 虚言は真実を照らす。
「死の眠りを…再び…与えなければ…ならない」
「死んでも……? 私、もしかして……」
 真相に雛は表情を失くす。心は放たれ、世界が壊れ始める。
「死体は、私?」
「止めろ、止めてくれ!」
 君彦はエリスに殴りかかる。雛に真実を与えたくなかった。自分を誤魔化し続けたかった。例えそれが歪であるとしても、例えそれが偽りだとしても。
 夏栖斗が間に割って入り、君彦の攻撃を止める。君彦は舌打ちしつつ、彼らと距離を取る。
 雛と彼の距離が、ほんの少しだけ遠くなる。
 罪姫が、体中の力を武器に込めて、雛を狙い攻撃する。君彦が焦る。守りたい、守らなければ。歯を食いしばって地を蹴る。届け、この体だけでも、届け。
 罪姫の武器が、雛と彼女の間に入った君彦の腹を、貫く。雛には、届かない。
「なぁに?そんなに罪姫さんに愛して欲しいの? 恋人さんの前だって言うのに、悪い人ね」
 言葉を残して後退する罪姫。流れだした血液。雛は言葉も無く、絶望する。

●美醜
 死んだ、と思っていたんだ。
 駄目だ、と目をつむったんだ。
 生きた、と目を開いたんだ。
 嬉しい、と喜んでいたんだ。
 なのにそれが嘘だというの。
 私は、彼は、死なねばならぬというの。
 おかしいよ、そんなの絶対、おかしいよ。

 溢れ出る血液。彼の体はまだ動いていたが、それでも悲痛を抑え切れない。
「大丈夫だから」
 彼は自分の体を癒す。しかし、血は止まり切らない。
 雛の声が狂気を帯びる。彼の血に怯え、自分の体に怯え、世界に怯え。
「嫌あああぁぁぁぁぁ!」
 彼女の体から電撃が溢れる。デタラメに放たれたそれは何人かのリベリスタを捉え、その体に感電を宿す。体勢を立てなおしたエリスやティアリアが彼らの体の異常や疲労を癒す。徐々に自分に寄る彼らに、雛はますます恐怖を覚える。
「来ないで、来ないで!」
 狂気に呼応して放たれる電撃の中を押し進み、神威が雛を狙う。だがその攻撃は、息も絶え絶えに立ち上がった君彦に阻まれる。
「まだ、死ぬわけにはいかないんだ!」
「この世界じゃあすでにオメーらの居場所はねェぜ?」
 君彦と距離を置き、神威は次の攻撃のタイミングを図る。ブレスが彼の背後から追撃を加えるが、しかし攻撃は掠るだけで、直撃には至らない。
 罪姫の、彩花の、碧衣の、途切れなく続く攻撃を、君彦は自分の体を癒しつつ、受ける。電撃を放ち続ける雛にも攻撃は届いていた。庇うだけの手数が、力が、なかった。
「オメーらをあるべき場所に還すぜェ」
 神威の攻撃は、防御体勢にある君彦をはじき飛ばす。立ち上がり、追撃に備えた彼を、夏栖斗が狙う。
 振り下ろされた武器を、満身創痍のその身で、受け止める。その破壊的な気にも負けじと、君彦は叫ぶ。
「僕を、雛を、殺せるものなら殺してみろ、『化物』!」
「……僕の正義はアークにある。やることは一つだ」
 夏栖斗は静かに言う。
「僕のほうがひとでなしで構わない」
 ティアリアの放ったマジックアローが、雛を狙う。重くなった体を懸命に動かし、それを払う。できた隙を、碧衣の展開した罠が捉え、彼の体に痺れを加える。
「嫌、嫌、あなただけは、あなただけは……」
 冷静になりかけていた雛が、それを癒す。しかし、それよりも先に神威の捨て身の攻撃が彼を襲う。電撃を纏った攻撃に、彼は怯む。
「まだだ、まだ、終わらせない……?」
 違和感を感じ、彼は、自分の胸の辺りをさする。一本の矢が、自らの胸を貫いていた。空気に溶けるように消えたそれは、致命の傷を君彦に与えた。
「死が二人を別つまで…とよく言われている…けれど…死んでも…2人で…一緒に居たいから…なの?」
 彼が、彼女の問いに答えることは、なかった。

●劇終
 膝から崩れ落ちる様を見、雛は悟る。愛する人が死ぬ瞬間を、かつてその人が同様に自分に対して感じた感情を。そして彼が動かなくなった時、自身の感情が崩壊したことを。
 選択肢が浮かぶ。死ぬ、逃げる、死ぬ、逃げる。交錯。逃げたい。彼からも、ここからも、何もかも捨てて。
 雛はすくむ足に命令する。動いて。彼は自分が生きて帰ることを望むだろう。都合の良い考えを希望に乗せて。
「良いの?逃げて。貴女の愛ってそんな物?」
 罪姫が、その顔に不気味な微笑をたたえて言う。
「だったら、罪姫さんの方がずっとずっと藍崎さんの事愛してるって事、よね?」
 ええ、だって。殺したい程、アイシテルもの。
 彼も、彼女も、皆、皆、ね。

 違う違う違う違う違う。
 誰よりも彼を愛したのは私。
 誰よりも私を愛したのは彼。
 この女に何がわかるというの?
 私と彼が共にしてきた喜びも、悲しみも、痛みも、愛も、知らないというのに。
 どうして、どうして、どうして。

 狂気は電撃となって発現する。その電撃の道筋はあまりにも不安定だった。この世のものとは思えない悲愴な叫びが、響く。
「いい叫び声ね」
 ティアリアが思わず呟く。美しいと思えるほどに、その叫びは切ない。
「悲しいけど…それでも…エリスたちは…2人を…倒さなければ…ならない」
 エリスが周囲の人間の異常を癒し、雛の最後に向けて仲間に活力を与える。
 神威が攻撃を避ける。彼女の狂気は、近づき難くあった。
「逃げるなよ、彼を殺したのは僕らだ。僕も君の幸せを壊すことから逃げない」
 夏栖斗の言葉は、果たして雛に届いたかは、わからない。
「貴女の雷光も中々の冴えの良さですが……遠くを射抜く光は逆に、下暗しの灯台となるもの」
 雛の放つ電撃をかいくぐり、彩花は接近する。
「これだけ近い間合いならば、わたくしの放つ迅雷の距離です!」
 電撃を宿した攻撃が、雛の胸を抉る。悲痛な表情は、しかし狂気を失っていた。力なく、体は地に倒れ伏す。
「さっさとあの男の後を追わせてやるよ」
 ブレスの言葉には、ささやかな優しさが感じられた。
 雛は薄れる意識の中、それを聞く。最後に聞こえたのは、碧衣の言葉。
「『化物』は、早く眠りにつくといい」
 ──だが、あちらで結ばれるくらいは祈ってやってもいいさ。

 あぁ、おかえり。
 うん、ただいま。
 来ちゃったんだね、こっちに。
 うん、来ちゃった。
 ごめん、嘘吐いて。
 ううん、いいの。私のために吐いてくれた嘘だから。
 自分のために言ったかもしれないよ。
 それでも、いいの。私はあなたのために生きたかったから。
 許してくれる?
 許すことも、謝ることも、ないよ。
 そっか。
 うん。
 これからも一緒にいてくれる?
 うん、喜んで。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
実はクリスマス出発だったのにネタの使い所がありませんでした。
仕方ないですね。