●寒空喧嘩ソング 年賀状を投函してきた。フィクサードだって、三尋木だって、ちゃんとお正月を満喫するのである。 男だか女だか良く分からん小綺麗なやくざ者がマフラーに顔を埋めて夜の街を闊歩している……ように見えるだろう、一般人には。幻視中だから。 あぁ冷える、なんて呟く実際の姿は電球頭、古ぼけた蛍光灯に照らされた古い小さな商店街を行く。シャッター。シャッター。左右の景色。 早く帰ろう。 そう思ったのに足を止めた。のは、前方に二人。 フェイトの気配。革醒者か。どこぞの組の鉄砲玉か。殺気が隠し切れていない……というより隠す気が無い、が正解か。 「フィクサードの阮高同……だな」 二人の内、フードを被った兎獣人が訊いてくる。もう一人、ガタイの良い女の方は兎の一歩前でゴキゴキ拳を鳴らしている。 「退くのダワー。今なら耳千切る位で勘弁してやるのダワー」 言いながら思考を読む。成程。 「リベリスタ? はーん。ナルホド、そりゃフィクサードのウチに喧嘩売るわなダワー。 ……アークのリベリスタなら協定違反とかのアレで殴れないけど。ウチ穏健派だし。 でもアンタらみたいな無名サン達なら まぁ うん いいよねなのダワー」 両手に金属バットを構える。思考を読まれた感覚にうろたえているらしい二人。あらら初めてだった?まぁいっか。 「『三尋木』ビッグ・マム親衛隊隊長『発光脳髄』阮高同――参る! なのダワー!」 年末年始のストレス解消! ヒャッハー。 ――かくして商店街に響く鈍い音、悲鳴、鈍い音、悲鳴、そして…… 誰にも気づかれず、影に蠢く『影』が、五つ。 ●暖房本部ブリーフィング 「こんにちは皆々様、爪が無いので爪切りを持っていないメルクリィですぞ」 そう言って事務椅子をくるんと回しこっちを向いたのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)。 その背後モニターにはまぁいっそ寧ろ面白い程フィクサードにボッコンボコボコ殴り回されているリベリスタ二人組の静止画像があった。 「うーん、まぁ、御覧の有様……ですな。リベリスタ集団『ボン・ボヤージュ』、むか~しに結成された『正義の味方達』ですが一旦潰れ、それを最近立て直したそうです。 しかしかなり小規模で構成員個人個人の戦力自体も低い。元ボン・ボヤージュ構成員も零。ほぼ戦闘経験は皆無の新人さんばかりのようでして。 で、彼等のフォーチュナが『この商店街で良からぬ事が起きる』『フィクサードが出没する』と……うーむ、こう、何とも断片的なモノを視たらしく。それで『フィクサードが何か悪さをするのでは』とこの二人が出動、御覧の有様なうですな」 しっかし運の無い人達ですなァ。肩を竦める。 「いや、場合によっては運が良かったのかもしれませんな。話の通じない危険極まりないフィクサードなら彼等は……」 視線の先にはヘンテコな電球頭。この妙チクリンな怪人物が口にしたのは『三尋木』――聞き間違いでなければ、千堂によってアークとは上辺だけの協定を結んでいる一大フィクサード組織だ。その中でも穏健派、と称されている部類らしいが。 「『発光脳髄』阮高同、三尋木一派のフィクサードで先日の賢者の石騒動でもアークのリベリスタと接触を持った人物で御座います。ボスである三尋木にゾッコンなんだとか。 へらへらしてて何かアレな奴ですが油断なさらず! 結構な切れ者です、この人。何考えてるか良く分かりませんし。 この人は単にストレス解消程度の気持ちでリベリスタ二人をボッコボコにしているだけで殺す気はないと思うんですが……まぁ。ね。」 目の前の困っている人はスルー出来まい。無言の言葉を理解したと頷き返した。 「取り敢えずボン・ボヤージュの二人を助けてやって下さい。あ、くれぐれも言っときますが三尋木一派である同様に攻撃してはいけませんぞ? 外交的に面倒な事になりかねませんので、ね。約束ですぞー。 ……サテ、今回の任務は『同業者救出』――だけではないんですよ、実は」 メルクリィが画像を拡大する。物影、黒……の中、これは。人影の様な。 「E・フォースフェーズ1『クロカゲ』、数は5。ペラっと薄くて回避が高い上に気配遮断的な能力を持っとりますぞ! 恐らくボン・ボヤージュさんトコのフォーチュナさんはこの情報を視たのでしょうな。 サテ、皆々様にはこの『クロカゲ』の討伐もやって頂きますぞ! ボン・ボヤージュの皆々様には『これがリベリスタだ!』ってのを、同様には『年末ぐらい平和にやろうよ!』ってのを、宜しく頼みますぞ!」 それでは場所について、と機械男が画面上に映し出したのは件の商店街だ。古い小さな商店街。チープな街灯の明かり。シャッターがズラリ。 「ボン・ボヤージュの方が強結界を張って下さってるので一般人については問題無しですぞ。明るいですし足元も問題なし。特筆すべき事も特になしです。 ――以上で説明はお終いです、宜しいですか?」 見渡す視線にリベリスタ達は頷いた。リベリスタにフィクサードにエリューション……騒がしい夜になりそうだ。 「ではでは! くれぐれもお気を付けて行ってらっしゃいませ。 私は皆々様をいつも応援しとりますぞ! フフフ。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月29日(木)00:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●年末商店街 チープな蛍光灯、蜘蛛の巣と小さな蛾。 強力な結界は何人たりとも寄せ付けない。 『用の無い人間』であれば。 この身は彼岸の花なれど、誰も送らぬに如くも無し。 「誰も犠牲を出さない様に、っと。綺麗に終わらせるとしましょうか」 三度笠をすいと持ち上げ『彼岸の華』阿羅守 蓮(BNE003207)は彼方を見遣った――声と、それから人影が三つ。剣呑な気配。さて、急がねば。 (電球頭って目立つッスね) 仲間と駆け出しながら耳と尻尾を隠した『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)は思う。 アークのフォーチュナみたいにパリンッて割れないッスかねぇ。割れたらやっぱりあとから生えるのか、新しい顔みたいに取り替えるのか……だが割っちゃ駄目なのだ。気になるけれど。 「『三尋木』ビッグ・マム親衛隊隊長『発光脳髄』阮高ど…… ンッ!?」 駆けてくる足音、気配に金属バットを構えた同が振り返った。『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)と目が合う――おぉ、同さんや。 (前回ちゃんと話せてへんかったから、ちょうど気になっとったんよなぁ) ボンボヤの二人は……まぁ、交通事故にでも遭った思ってやね。そう思うボン・ボヤージュのリベリスタ二人はいきなりのアーク登場に全く想定外と驚きを隠せないようだ。お陰でアーク勢がリベリスタとフィクサードの間に割って入る事に成功する。 「はい、そこまでそこまで。そーこーまーで」 「特務機関『アーク』ッス。ちょっと待って欲しいッスよ」 蓮とリルが真っ先に声を。蓮は完全に二勢の真ん中、リルは同を庇う様に。 「この戦い私が預からせて頂きます」 凛然、二勢の攻撃を受ける覚悟で『初代大雪崩落』鈴宮・慧架(BNE000666)は立ちはだかった。 「やあレディ、どうたんだいこんなところで。 いけないなぁ、女性がそんな物騒な事してちゃあいけないなぁ。 それに、今はそんなことをしている場合じゃないんだぜ?」 本当はフィクサードの野郎を蹴り割ってやりたいところなんだが――今回の問題はそこじゃない。問題はエリューションが出てくる事。フィクサードがリベリスタ苛めてるのも問題は問題だが……『まごころ暴走便』安西 郷(BNE002360)はユノを庇いながら颯爽とウインク。迸るセンスフラグ。 どうせ郷君はボンボヤージュの彼女に色目を使うつもりなんでしょう? 指をごきごきならすような女性、絶対男か女も見間違えるような大女でしょ? 面食いなあの子には手が出せないに違いないわ! そう思っていた安西 篠(BNE002807)は言葉を失う。ユノはボンキュッボンだしアイツ色眼使いやがった。 「……うっせぇぜ」 フイッとそっぽを向くユノ。ほっぺた赤いぞ。 二勢とも互いに手が出せぬ状況――同は一歩離れて様子見と片っ端から読心術、ボン・ボヤージュは相手がアークだという事と多人数という事で押し黙って様子見している。 一先ずは安心か。ボン・ボヤージュの二人を護る『朧蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)は安堵の息を吐く。それだけ確認できれば結構、自分の仕事は他者を守る事だから。 「今日はやめておいた方がよろしいでしょう。 貴方々が得た情報の真相は『エリューションの出現』、我々アーク側のフォーチュナがカレイド・システムでそう予知したのです。 それに加えて阮高同――実力差がありすぎます」 「アンリエッタさんの言う通りッス。 同さんはここにいるリベリスタが束になっても勝利が覚束ない相手ッスし、それに今はアークとの協定に縛られてるッスからリル達が居れば特に害がないッス」 「阮高同は偶々現場に居合わせただけよ」 アンリエッタ、リル、篠の説得。同からの読心のにゾワリとしながらも――特にリルは最中にも懐中電灯で辺りを照らし、物陰に注意を向けていた。 あっちは上手い事いってるようやな――椿も同の宥めに入る。電球頭はハイリーディングで大まかな全体像は掴んでいるらしく、戦闘意思が無い事を示しているのか両手の金属バットは地に突いていた。 「同さんお久ぁ。先日はどぉも」 「オッス椿ちゃん、お久しなのダワー。今日は呪縛しないのダワー?」 「せぇへんよ……前にしたんもうちちゃうし。 えーと、ストレス発散予定のところ申し訳ないんやけど、ちょっとその二人から手を引いてもらえへんやろか? この辺にE・フォースが出るらしくてなぁ……その二人はフォーチュナの断片的な予知で、同さんとE・フォースを混同しとるんよ」 「ンー。大体皆の心を読ませて貰ったからその辺は了解なのダワー。仕方ないのダワー。 プリチィな椿ちゃんのお願いもあるし。偶には友軍らしく友軍友軍するのダワー」 言いながら同がリルの方を向いた。リルの笑み。嘘を吐けない読心会話。 「奇遇ッスね。リルも思考は読めるんスよ」 「赤裸々大会なのダワー」 クスクス笑う。心を読む存在、寧ろ興味を持ったようだ。 「そんな訳でリルも心を読めるッス。同さんは嘘を吐いてないッス」 「それでも戦うのでしたら、私なりのやり方で話を聞いてもらいます。終わったらお説教もですよ?」 リルと慧架の言葉にボンボヤージュの二人が顔を見合わせた。一方で椿は同へ言葉を重ねる。 「なんやったらE・フォースから同さん守ってもえぇし、ストレス発散したいんやったら一緒にE・フォースでも倒す?」 「あっはん、じゃあウチの援護は宜しくなのダワ十三代目」 「ちょ、何で十三代目って」 突っ込みかけた所で心を読まれる。 『フィクサードやけど、なんか同さんは憎めへんっていうな。前回は敵同士みたいなもんやったけど、今回は友好的にいこか』 「ウチも椿ちゃんはリベリスタだけどお気に入りなのダワー。紅椿組がデッカくなったら三尋木の配下にしてあげてもいいわよダワー」 「ハハ、そらどーも」 「ところで十三代目椿ちゃん、あの殺気マンマンの子はどーすんのダワー?」 同の視線の先。それは顔を見合わせて相談しているボン・ボヤージュではなく――『サムライガール』一番合戦 姫乃(BNE002163)。 同盟だとか、そういうのはわらわは良く分からないでござるです。 だってフィクサードって悪者でござるですよね?わらわたちが手に入れた力と同じような力でもって、悪事を働く生粋の悪者でござるです。 それを打ち倒すのがわらわ達リベリスタでござるですよね? でもなんで、そのフィクサードと戦っちゃいけないんでごさるですか? なんで、同盟って、なかよくしましょーってことでござるですよね!? なんで、そんなことになったんでござろうか!? 理不尽。読まれた心。当所ない怒り。祖父達の教え。睨み返せどフィクサードはその殺気すら楽しむかの様にへらへら、余計に腹が立つ。 (あぁ……俺が一番危惧してた事だ) 郷の溜息。フィクサードに憎しみを持っているお姫さん。 相当恨んでいる様に見える割りに内容が薄っぺらというか、何と言うか……今回は我慢すると言ってたがどうなるか分からない。一応諭してやるか。 言っておくがロリに興味は無いぞ? 「よぅお姫、フィクサードと言っても悪い奴ばかりじゃねぇ、仕方なく悪事を働いてる奴もいる。 まあ、あいつがどっちなのかは分からんが、早急に決め付けて掛かるのは止めようぜ? 自分らだって、あちらから見たら同じようなもんなのかもしれないんだぜ?」 「……っ、」 言い澱む。何で自分はこんなにフィクサードを憎んでいるのであろうか。大好きな祖父達の教え、だが……。 「ふ、ふん! いいでござる! わらわからは特に何も言わないで御座るです!」 そっぽを向く。ただ一つだけ、と。 「その同盟とやらは守ってやるで御座るが、万一お前がその同盟を破るような事があるならアークが動く前にわらわがお前をずったずったのぎったぎたの、ミンチならぬガラスの粉末にしてやるでござるです!」 「アハン、ならその前にたっくさん強くなりなさいダワー。実力の伴わない暴言は空しいだけなのダワー」 「何をー!」 「まぁまぁ、まぁまぁまぁ。年末年始、師走で多忙でストレスが溜まる。うん、分かるよー、分かる。クリスマスとかね、無かったしね。リア充爆発しろ」 からかう同、怒れる姫乃の間に咄嗟に入ったのは蓮、柔和な笑みで取り繕う。 「でもま、この辺でE・フォースが出るそうだからそっちを殴る方向でお茶を濁そう、ね? うちの顔を立てると思って」 姫乃の頭にポンと手を置き、蓮は二勢へ。 「ボンボヤのお2人、リベリスタの本分は何だい? 崩界から世界を護る事だろ? そっちが優先、異論は無いでしょ?」 「電球の兄さんも」 「兄さんで姉さんなのダワー」 「失礼、電球の兄さん姉さんも上の憶えは出来るだけ良い方が良いでしょ?」 「マァネー」 「……分かったよ。仕方ねーから信じてやるし協力する」 イナバシはアークとフィクサードが手を組んでいる事が若干気が喰わない様だが、人数差にこちらの不手際、アークという巨大勢力。NOと言えない状況だと理解する。 破戒僧はニッコリ笑んだ。 「はいおーけー、俺達は分かり合えないかもだけど協力し合える。 助けてよー、こっちもバロックナイトの事後処理諸々大変なんだよー」 駄々っ子トーク。ギスギスした空気も解れた所で……サテ。 ●黒が蠢いた ピクン、リルの髭が動いた――視線の先に懐中電灯で照らされた物陰、光に消えなかった黒い影。 「見付けたッス!」 クロカゲだ、言葉と同時にカラーボールを投げる。 『こっちも見付けたわ』 超直感でクロカゲを探し当てた篠はテレパスで、シムニッション弾でペイントしつつ仲間へ連絡を。 「―― !」 死角からの黒い影、しかしアンリエッタと蓮の遺伝子に組み込まれた獣の因子が不意打ちを許さなかった。 そのまま二人はクロカゲのブロックに入る。蛇は楯を構え、猿は流水の構え。 ペイント出来た影は二つ、ブロックしている影も二つ。 あと一体――シュボ。煙草に火を付け極限集中。フェイトを持つ者達へ結界を施し、椿は第六感を研ぎ澄ませた。 あっち?目を向けた方向、直後に聴覚を研ぎ澄ませたイナバシが「あの看板の裏から音がする」と皆へ声を走らせた。 篠がペイント弾を撃つ。攻撃されると思っていなかったらしい影に着く色、 「ナイス姐さん!」 脚部ホイールを唸らせ、身体のギアを上げた郷が飛び掛かる。「姉さんって呼びなさいよ」――義姉の声に苦笑を浮かべつつ、集中して。 「喰らえ必殺、幻影蹴(ファントムシュート)!」 熱き咆哮。幻影の蹴撃。 だが――決まりが浅い。命中しただけでも僥倖か。反撃に飛び退く。 リル、篠のお陰で全てのクロカゲにペイントする事が出来た。お陰で目で追いやすく、物陰に隠れ見失う心配も無い。作戦勝ちだろう。 更にアンリエッタ、蓮が全力で二体をブロックしている。そして残りの三体と言えば椿、リル、同、イナバシが呪印に気糸を放ってクロカゲの手番や協力を一つでも奪っていった。 となればアタッカーは攻撃に尽力するのみ。ユノの攻撃を躱したクロカゲを、鉄槌を構えた姫乃が睨み付ける。 「この、何処に向けたら言いか分からない鬱憤をぶつけるでござるです!」 先程のメガクラッシュに疾風居合い斬りは易々と躱されてしまった。ならばと集中を挟み真空刃を放つ――掠めた、浅い、向かってきた鋭い影が身体を貫く。赤が散る。 それでもサムライガールは巨大鉄槌をどんと地に突き倒れない。運命を燃やし、闘志を燃やし、再度鉄槌を振り上げた。 「悪いものは……絶対に、打ち倒すでござるです!」 轟。真空刃と共に叩き落とした豪槌、クロカゲを完全に打ち倒した。 上手く説得が出来たおかげで仲間割れも無く共闘出来ている――ある意味奇跡の様な光景。 「ソニックキーーック!」 熱苦しく叫び熱苦しく戦う暴走便の超速キックを義姉の殺意射撃が援護する。打ち倒す。一方でフェイト持ちへ跳びかかろうとするクロカゲを蓮の金剛杖が阻み、アンリエッタは十字の光でクロカゲの注意を引いた。 戦闘開始直後の一瞬だけ、作戦理解の齟齬に足並みが揃わなかったものの――今では三勢とも協力し着実にクロカゲを追い詰めていた。 「せやぁッ!」 リルの気糸で身動きのとれぬ影を掴んだ慧架が雪崩の様な勢いでクロカゲを強引に地面へと叩き付けた。フ、と消えたそれの最期を見届けた彼女の傷をイナバシの術が癒す。 倒れた者は未だ零、更に一体を姫乃と手の空いた蓮が倒し――残り一体。ラヴ&ピースメーカーから放たれた呪いの弾丸に冒されたそれに椿の呪印が絡み付いた。呪いと相俟って雁字搦めに拘束する。 「今や!」 「お任せなのダワー」 椿の傍で援護攻撃していた同が気糸を放とうとして――リルの視線に気付く。 「ハイ・バー・チュン。習得してみたいッスし、ボン・ボヤージュの後学のためにも見せてもらえないッスかね」 「ヘェ? エラくストレートね……んっふ、気に入ったのダワー。 コチョコチョと盗み取りされるより真っ向からデェンと来てくれたほうがウチもスカッとするのダワー。 でも、一回しかやらないのダワー? ……しっかり見てるのダワー!!」 電球頭が真っ直ぐ、縛られた影に吶喊する――瞬間、リルは見た。 同の姿がブレた。二つに分裂、否、分身した! 「必殺革命ッ Hai Bà Trưng!」 その分身は質量を持つ分身、計四本の金属バットと計何百本もの気糸による死角零の完全攻撃。 リルは見た――見逃さなかった。瞬きすら忘れて見た。視た。確かに見たのだ。 そして今の光景を脳に身体に全てに刻み付ける。――確かに、見た。 「きゃー、阮さん素敵ー、電球頭が超イケてるー! うん、何だ。声援を上げるのがよりによって成人男で超すまんけどヒュー!」 「アナタも守備範囲なのダワーうっふふふ」 更にリルは見た。コイツ、オダテにクソ弱い。 ●かくして静寂、平和な年末 静寂の戻った商店街。慧架は宣言通りボン・ボヤージュにお説教(因みに同にもしようと思ったがロクに話を聞かなかったので断念)。 正座してたっぷり反省中の彼等に電球頭は「ザマァー」と北叟笑う。 「さて椿ちゃん、アークさん達」 「あ、賢者の石は無理やよ?」 「違ーうのダワー! ……全く」 溜息を吐き、マフラーを巻き直し、同が彼方へ歩き出す。 「いつまで同盟が続くかは知らないけど」 離れて行く。 「次に会う時も友軍として会えるといいのダワー。良いお年をダワー!」 手をヒラヒラ。アークのリベリスタは一瞬顔を見合わせたが……取り敢えず手を振り返しておく。良いお年を。ただし姫乃はそっぽを向いていたが。 ボン・ボヤージュも拠点への帰路に。 「アンタ達みてーなリベリスタ組織目指して……これからも頑張るよ、俺達」 「ボン・ボヤージュは不滅なんだぜ!」 良いお年を。 商店街から出れば白雪。もうじき年も明ける。 寒い。今夜も冷える。速く帰ろう。 あぁ、年賀状書かなきゃ。 あぁ、大掃除しなきゃ。 あぁ、早く寝たい。 銘々の気持ちの中、アークのリベリスタも帰路へ。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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