●殺し遭う その無人島は地図の上にポツンと。立ち入り禁止の海域に。 静まり返った古い遺跡はいつ誰が何の為に造ったのか。 「くくく ひひ いぃひひひひひひひひひひひひひひひ」 よくも、よくも、よくも、ああ、おなかがすいた、パーティ、ズバッとモーニング、心臓、パーティ、よくも、いたい、リベリスタ、リベリスタ、リベリスタ、リベリスタ、リベリスタめ。 「ゆぅるざないぃンだがらぁァぁあ」 咽を掻き毟る。咽が渇いた。渇いた咽。 そこは狂った怨念に支配されていた。 ●バトルデュエル 「こんにちは皆々様、メタルフレームなので無限機関が使えるメルクリィですぞ」 事務椅子をくるんと回して振り返ったのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)。 肘掛けに肘を突き拳で頬杖の姿勢、常のニヤニヤ笑いで集まったリベリスタ達を見渡した。 「サテ。今回の任務はズバリ――『ガチバトル』でございます。 それじゃ早速サクサクザックリしっかり説明していきますぞ。耳かっぽじってお聴き下さい」 そう言うメルクリィがモニターを手早く操作すると、画面上にいつどこの文化とも形容し難い古びた遺跡が表示される。 円形の……闘技場?まるでコロッセオの様だ。かなり広く、足場もしっかりしているようだ。 そしてそこにヘラヘラゆらゆら佇んでいるのは――身の丈ほどの巨大メスを持った不気味で奇妙で異様な男。 年の頃は四十ばかりか、お洒落な紫スーツで着飾ったひょろながい痩身を包む皮膚にはびっしりとショッキングピンク色のハートの刺青、縫合痕、そして……生々しくバックリと裂けているのに血の流れていない傷口、小さいとは言えない幾つもの銃創。 それらと、アクセサリーよろしくあちこちに着けられたテルテルボウズや藁人形の対比。何とも不気味で気味が悪い。 殺意と殺意と殺意と殺意に満ちた眼球。ギラつく目玉。ソレにマトモが無い事など、火を見るよりも明らかであった。 「サイコキラーのフィクサード『ラヴハート』。狂気の偏食家で好きな食べ物は心臓……殺害した者の心臓を奇麗にくり抜いては喰らうというイカれきった殺人鬼でございます。 少し前の『ズバッとモーニング事件』はご存知ですね?」 リベリスタの表情に苦いものが走る。もう随分と昔の事の様な気がするが、思い返せば生々しくもおぞましい――ジャック・ザ・リッパーによる殺人鬼達への『プロパガンダ』、恐怖と狂気と破壊と血臓に満ち満ちた怪事件。 全国で暴れ始めた凶人達と戦ったのは――そう遠い記憶ではなかった。 「ラヴハートもジャック・ザ・リッパーの思想に賛同した殺人鬼の一人。そして……皆々様に討たれたフィクサードの一人。今回皆々様に討伐して頂きたいのは彼、の、思念体のエリューション。E・フォース『ラヴハートソウル』でございます。 どういう感じのアレでラヴハートの思念がこの遺跡で革醒したのかは分かりませんが……取り敢えず今から説明致しますね。 ラヴハートソウルのフェーズは2、配下エリューションはおりませんがその分の個体能力値が高いですぞ。特にスピードとテクニックが優れたトリックスタータイプです。回避も並以上ですな。て言うか元々この人強かったですし、思念体とはいえ革醒した事で色々タガが外れたとでも思って下さい。 彼はヴァンパイア×ナイトクリーク、おそらくナイトクリークの……タガが外れた版の技を繰り出してくる事でしょう。範囲や威力がマシマシになってるかと。 ……それからこのメスですが」 と、フォーチュナがメタリックな機械の指で示したのは狂人の身の丈ほどもある巨大メス。 おそらくこれも思念体とやらなのだろう、不気味な輝きは禍々しく、おぞましい。 「『サドクター』。元はラヴハートの武器であるアーティファクトであり、これはラヴハート討伐の際に破壊が確認されました。 今モニターに映っているこれはラヴハートソウルの一部……と言って良いでしょうな。握っているように見えますが、実際は手と繋がっているかと。 ……サテ。このサドクターが厄介な能力を持っとりましてな、これによる傷は『どんな掠り傷でも激痛になる』んですよ。 どれくらいって言ったら――、ま、一般人なら、ちょちょいっと突っつかれただけで痛みで気を失うでしょうな。 如何に皆々様と言えども、斬られたら痛みで怯んでしまう場合がありますぞ。十分にお気を付け下さい」 へらへらけたけた不気味に笑う狂人の怨念、その狂った犯行に使われてきたのだろう狂気の刃。モニター越しからでも、ゾクリと背骨を舐め上げる。 「それでは次に場所について説明しますが――宜しいですかな?」 事務椅子を揺らして放たれたフォーチュナの低い声にリベリスタ達は彼へと視線を戻す。メルクリィは機械の指でモニターの一つを示した――例のコロッセオのズームアウト画像だ。 「今回の戦場は無人島にある遺跡、どんなモンかはさっきご覧頂いたので説明は省きます……ってか説明するほどモノが無いんですが。広くて足場しっかりしてて戦い易いです以上。 時間帯は夜、満天星空で明るいので光源類や暗視の必要はございませんぞ。それから『無人島』なので『無人』です。 送迎はこちらで手配致します。任務完了の連絡をして頂ければ船でお迎えに参上致しますぞ。 ――以上で説明はお終いです。宜しいですか?」 見渡すメルクリィの視線に頷けば、「ではでは」彼は機械の指を膝上に組ませる。 「お気を付けて行ってらっしゃいませ。 皆々様の任務達成を心より応援しとりますぞ! フフフ。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月31日(土)00:28 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●月夜と血みどろ あはっはっははぁはハははハハァハははアはァアハハ 笑っている 聞こえる 悲鳴 逃惑う 切り裂く 殺される ぶちまけて 赤い血溜まりポツポツと 哄笑 絶叫 臓物 過去形の異常空間。『だった』。 最期に見たのは血溜の中。リベリスタの足だった。だった。 「まさかまた戦えるとは思いませんでしたね」 無人島の広い闘技場、『絶対鉄壁』ヘクス・ピヨン(BNE002689)の瓶底眼鏡に嘗て対峙した狂フィクサードの異様な姿が映った。 あの時は途中からだったし、こいつはあんまり覚えていないんだろうが。鉄鍍の盾扉を構えて仲間達の先頭――最前線の最前線へ、臆する事無く踏み入った。目の前まで近付いてあげましょう。 「リベリースタ リベリスタうっひひひひひひ」 裂けた首を傾けて歯を剥き出し笑う狂った怪人。メスを構える異形。 鉄壁の少女はフンと鼻で一笑した。金と銀と鉄でできた盾扉を構えた。 「ごきげん麗しゅう、あの時は自己紹介ができませんでした……。 この盾で思い出してくれますか。心臓ジャンキー」 「おマエとタチのだけァハハはユルさんないゼッタイぃいヒヒヒッヒ」 「あぁ、そうですか。それは何よりです」 殺意、しかない。ラヴハートの足元から立ち上る不気味な影、一気に地を蹴り襲い掛かって来る。落とす様に一直線のサドクターを、不埒な侵入者を扉で堅牢に防いだ。鼓膜を狂人の笑い声が、扉を狂人の影がガリガリガリガリ引っ掻いて引っ掻いてノイズ。 あぁこの奇ッ怪な笑い声を再び聞く日が来ようとは。 「やだ本当に居る」 中衛置にて『現役受験生』幸村・真歩路(BNE002821)は息を飲んだ。 随分と昔の様で、つい先週の出来事の様な。今年の出来事、正しくは約3カ月前。心臓喰らいの狂った男。 フィンガーバレットで武装した拳を構え、前衛陣と攻防を繰り広げるそれを見据えてすぅはぁ深呼吸――凛然、目を開いて誇りを胸に見得を切る。 「『現役受験生』幸村・真歩路! 絶賛受験大ピンチ中だけど――今年の仕事は、今年のうちに! きっちり清算して新年を迎えさせてもらうわ!」 死んだ場所に化けて出なかっただけマシだと思う。 本当に――やっかいな人が復活したとは思うが場所がここで救いだった、と『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)は思う。真歩路と同じ中衛置、流水の構えを取りながら全神経と第六感を研ぎ澄ませてラヴハートを観察する。 すぐに見極めるのは無理だろうが、一つでも捌いて防いで隙を突いてみせる。今回は回復手がいないからこそ慎重に、且つ大胆に。 「さて……どこまで削れるかが勝負だな……」 攻撃を一つでも防いでくれるヘクスを信じ、『名も無い剣士』エクス キャリー(BNE003146)は戦気を漲らせ双剣を構えた。 (ジャックザ・リッパーの狂信者……いやもう人ではないだろうが) ここで確実に仕留めるとしよう。双の刃に電撃を宿し、肌を焼く痛みすら呼吸の一つに呑み込んで。 「ガマン比べだな。どちらが先に倒れるか勝負だ――手加減不要でいくぞ!」 薙ぎ払う。圧し遣る。仲間を信じて吶喊する。 「行くわよラヴィアン!」 「おう宮代! 頑張ろうぜっ」 後衛置、『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)と『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)は互いに目配せし合った。 闘技場、倒した敵が復活。で、ガチバトル。なかなか燃える展開じゃない?久嶺は思う。この前重傷負わされた分もきっちりお返ししてやらないと。 無人島なんかに出現した理由なんて知らないが、そこに敵がいるのには変わりない。体内魔力を活性化させたラヴィアンは思う。 二人の位置はラヴハートを中心90度に離れた所。 クロスファイアだ! 「アタシの銃弾で、また黄泉に送り返してやるわ!」 「さっくり倒して凱旋だぜ! 突撃ーッ」 久嶺のライフルから放たれる執拗殺意の弾丸、ラヴィアンの右拳から放たれる脅威の魔曲。 「うヒぃ!?」 炸裂。爆裂。怒涛。砂煙。 どうだ――巻き起こる硝煙に目を細めつつ普段無くGauntlet of Borderline 弐式を構えた悠里はじっと見澄まし…… 「キャハァアーーー!!」 いきなり砂煙を突っ切って飛びかかって来た狂人に、おどろおどろしい程の殺意の権化に思わず嫌な汗が噴き出した。 飛び退く。同時に脚を鋭く振るい真空刃で攻撃する。視界には振り上げられた破滅のオーラ。でかい……! 「くッ!」 ズドン、と重い音を立てて悠里の真横の地面が陥没した。間一髪――観察を続けていたおかげか。掠めた蟀谷からどろっと血が伝った。もし直撃していたら。考えただけでゾッとする。 「ちっ……前よりも早くなってるわね」 久嶺はぼやきながらもラヴィアンと息を合わせて再度照準を合わせる。速い、ぐらぐら動いて照準を合わせ難い。 だが――久嶺は不敵に笑うのだ。鼓膜を劈く奇笑の中、仲間の血潮がまた一つ散る中で。 今回も負けるつもりはない。とにかく押していくしかない。 「アタシも、前よりも格段に強くなってるんだから!」 十字砲火の弾丸、思念体を穿つ。倒れたとしても意地でも立ちあがってみせよう。 ラヴハートはエクスの斬撃を躱し、真歩路の弾丸をサドクターで弾く。焦点の無い眼球は久嶺の方へ。裂けた口がパクパクと――コ・ロ・ス・コ・ロ・ス。 しかしその進撃を、恐怖のメスをヘクスが受け止める。頬が裂けて――意識が混濁しそうになる程の激痛がまた一つ彼女の細い身体を駆け巡った。うぐ、と思わず悲鳴が漏れる。痛い。本当に痛い。全身にできた痛々しい傷はまるで全てチェーンソーに巻き込まれたかの様な。 ただ、それが攻撃なら自分は全て防ぎ切る。 「あなたの必殺技をすべて受けきって差し上げましょう」 防ぐ。 「さぁ、全力を出し切り絶望して下さい」 防ぐ。 「砕いてみせて下さい」 防ぐ。 「捩じ伏せてみせて下さい」 防ぐ。 「――この絶対鉄壁をッ!!」 気合で怒号で吹き飛ばして、絶対鉄壁は立ちはだかる。鉄鍍の盾扉で思い切り圧し返して文字通り吹き飛ばす。 はぁ、はぁ、しかしヘクスはかなり体力を消耗していた。これまで一度も仲間が倒れていないのは彼女の働きによるところが大きいだろう――だが、もう限界だ。既にフェイトも燃やしている。エクスも回復手なしの状況で反動のある技を連発した事が祟って倒れてしまった。 はーっ、はーっ……咳き込む吐息に血を混ぜて、久嶺とラヴィアンの砲撃を受けながらもムクリと起き上がる狂人を見据える。 (潮時ですね……) 踊る様なステップと共に振るわれまくるサドクターを辛うじて致命傷は避けつつ防ぎ、押し返し、大きく飛び退いた。 それは前衛、中衛の交代合図。 「お疲れヘクス! よく頑張ってくれたっ」 「あたし達に任せて!」 勇気凛凛、悠里と真歩路が大きく前に出る。作戦通り。回復手は無し、背水の陣。 だが、上等だ。 「ぶっちん殺すここころころころころ殺すススススス!!」 ラヴハートが飛びかかって来た。繰り出される気糸を冷静に躱す、二人がいた場所の地面に気糸が突き刺さる――これまでの観察の効果がやっと出て来たようだ。攻撃の範囲も真歩路がハイテレパスで皆に伝え、大まかな攻撃方法や範囲が分かってきている。威力については伝えなくとも見れば分かる。 真歩路の眼前に破滅兇運のカードが投げ付けられた。 「ちょ、こっち投げちゃダメ!」 不吉は超鬼門なんだから!全力で横に飛べば、カードはラヴィアンの頬を掠めてコロッセオの壁に突き刺さった。 (あっぶねー……!) 頬の血を拭う。闘技場に彼女の鮮やかな金髪が数本だけ舞った。 やりやがったな。自分ひとりなら突撃!でも良いのだが……皆を信じ、歩調を合わせねば。 「さて、次は俺のターンだぜ!」 右拳をきっと天に突き上げた。唇には呪文、組み上げる四つのフォーミュラ。 奏でよ。歌え。彼の者に滅びを。 「魔法ってやつを見せてやるぜ! うりゃりゃーーッ」 裂帛の意志と共に右拳を突き出せば、勢い良く放たれていく四つの光。四つの滅び歌。 1発2発――3発目は掠め、4発目は躱された。 そしてその瞬間である。 「――そこだッ!!」 いくら回避が高くても連続攻撃を全て躱すのは容易じゃない筈。悠里の目論見通りだった。ラヴハートの意識が悠里に向けられた時にはもう、遅い。間合いは零。 疾風にも負けぬ圧倒的な速力。 纏うは蒼白く煌々と火花を散らす雷撃。 夜に白く白く残像を残す『Brave』と『Borderline』の文字。 圧倒的な、壮絶な、凄まじい、次々と繰り出すは今まで身に付けた全ての武舞。 幾重もの式は即ち壱に、迅く迅く雷が如く。 圧倒的な手数、手数、最後にと悠里はGauntlet of Borderline 弐式でサドクターを殴り付けラヴハート自身を切り裂かせた。思念体の耳が飛ぶ。千切れた耳が掻き消える。 「ううぅうぐぐ、リベリスタめリベリスタめリベリスタめリベリスタめぇえええええ!!」 怒り、恨み、しかし一度死んでいる為か痛みだけは感じないらしい。血が出ない傷だらけのラヴハートが感情に任せて悠里を突き飛ばした。 「っ、」 悠里は一歩飛び退き、追い詰めようと足を踏み出そうとした所で――ズドン、爆発。弾けた。飛び散った。体内に仕掛けられた時限爆弾……さっき、突き飛ばされた時か! 「っぐ……!」 胸から噴き出す大量の血、ひしゃげた肋、肉片、爆煙、肉の焦げた臭い、耐え切れず膝を突いた悠里へ狂人は無慈悲にサドクターを振り上げる。 「させるかぁっ!」 それを咄嗟に真歩路が蹴り退け、更に自己再生である程度回復したヘクスが前に出て鉄壁の扉を狂人の真正面にて構えた。 「ここまで来たらぶっ倒れるまで齧りついてあげますよ」 何発もの猛撃を受け止めて腕の感覚が色んな意味で楽しい事になってきた中、治りかけた傷口が更新される中、血を失い過ぎてふらついてきた中、激痛というのも憚られる程の痛みの中、ヘクスは牙を剥いた。 ぶっ倒れるまで齧りつく。 そう、文字通り。 気糸に首を身体を絞め付け折られ倒れても、その足首に喰らい付く。掠れる意識の中、力尽きる代償として無理矢理食い千切った。振り下ろされるメスに、あっかんべぇ。 運命を燃やす――再び立ち上がった悠里は吸血を行い、口元を拭いながら飛び退いて間合いを取った。ギリギリの戦い。視界に居る真歩路も肩で息をしている。 フェイントを織り交ぜながら、部位破壊を狙いながら、確実に追い詰めてはいる。 「アタシが相手よ! もう一度頭に風穴開けてやるわ!」 久嶺の殺意弾にラヴハートの頭が仰け反った。人間ならば首が折れ千切れているだろう角度に首が曲がっている。それでも思念体だからか、狂人は口から狂った笑い声を。 なんて不気味な。生理的嫌悪感すら覚える光景にゾクリと――そして、振り上げられた巨大すぎる破滅のオーラが視界に入る。 ズ、ドン。 地響き、砂煙。 誰もが衝撃に怯んだ最中――しかしラヴィアンだけは一直線にラヴハートへ駆けていた! 欠けた味方前衛、これ以上彼等にばかりダメージが偏れば危険だ。 決死の覚悟。捩じれた首をぶらつかせた狂人がメスを振るう、腕を交差して防ぐも。 「――~~ッってぇええ、な! こんのヤロォオオーーーー!!」 一瞬『痛み』と分からなかった。それ程の激痛、それでも目に涙を浮かべて我慢する。 こんな痛さ、味方が死ぬのに比べればどうってこと無い。 気合とド根性、痛みに歪む口元で呪文を、両手を組ませた後に掲げるのは『右』の拳――ラヴハートが飛び退いた。 かかった! それは罠。『攻撃は全て右拳で』。そう見せかけ、そう刷り込ませた、ラヴィアンの罠。 ラヴハートのずれた回避タイミング、その崩れたバランスでは躱せまい。 「行っくぜぇえええ俺のターンッ!!」 突き出したのは左拳。とびっきり魔力を練り込んだ巨大魔法陣。 放たれた四光は悉く無防備なラヴハートを撃ち抜いた。 「……!」 激しい魔術に縛られ、異形の動きが止まった――今こそ好機。 「アタシに殺されるがそんなに怖かった……?」 ニヤリ。久嶺の照準が的確に。 「またあの時……いえ、それ以上の恐怖と共に消えてなくなりなさい!」 撃った。弾丸、それに悠里が並走する。 全身を切り刻んだサドクターの激痛は根性で耐え、それでも眩む目を牙で唇を噛み切る事で明朗に。 両手に握り締めるは『勇気』と『防衛線』。 胸に燃やすは絶対に譲れぬ誓い。 「地獄に帰れ! ラブハート!!」 久嶺の弾丸と共に、展開する雷神が如き武舞。 圧し遣る。圧し遣る。狂人の身体がボロボロと朽ちて逝く。 それでも、それでも、あぁ、憎し憎しやリベリスタ。そう言わんばかり。 手を伸ばした先に真歩路がいた。 その細い首を掴んで引き寄せた。 頭部がグチリと元の位置に戻った。半壊した頭部。崩壊した自我。 目が合った。 よくも殺したな。どうして殺した。何故殺した。死にたくなかった。痛い。痛かった。殺した。殺された。殺す。殺す。よくも。何故。痛い。許さない。 真歩路の脳味噌に雪崩れ込む大量の記憶――死に彩られた死の記憶。 それは被害者であって、加害者であって。 死ぬ。死ぬ。こうもあっさり人は死ぬ。殺す。殺される。 「―― 」 真歩路の手がだらりと垂れた。鼓膜の裏で仲間達の声が聞こえる気がする。 でも脳味噌がとても静かだ。頭蓋骨がガランドウになった様な。 こんな時だから。 こんな時だから、見詰め直せる事があると、思う。 人を殺す事の重み。罪の意識。 そう、確かに、自分は、『殺した』。この手で殺した。 何人殺せば殺人鬼か。どう殺せば罪か。誰を殺せば正義か悪か、殺す事とは何なのか。 でも、見過ごす事なんて出来なかった。 やり直せたとしても、きっと同じ道を辿る。 だったら、悔やんでも苛まれても、ここで立ち止まることに――意味は無い。 本当に『正しい』のか? 本当は『悪い』のか? 真っ白な意識の中、或いは濁流の様な死の記憶の中、自問自答を繰り返す。 そう、きっと自分は自問自答を繰り返す。 答えに辿り着くまで歩みは止めない。絶対に止めない。 それが――自分が殺した彼に返せる精一杯。 「ごめんなさいは言わない」 運命を燃やして。拳を握り締め。首に食い込む指の冷たさを感じながら。 「――今度は、あなたの痛みも背負って行くわ!」 絶対に立ち止まらない。 振り抜く拳、その一撃に全てを、全てを、全てを込めて。 真歩路は立ち止まらない。 絶対に立ち止まらない! ●月夜に静寂 思念体が掻き消え、静寂を横たえた闘技場。 「ふぅ……もう流石に還ってこないわよね」 息を吐き、久嶺はライフルを漸く下げた。そして振り返り見遣る先には重傷状態で壁に座り持たれるヘクスの姿。 今回は逆ね、との久嶺の言葉にヘクスは無言。クスリと笑って傍にしゃがんだ。 「ほらほら、ヘクス。へばってないでいつものやるわよ」 「前回と逆になってなければ心の底から嬉しい限りだったんですがね。あー……死ねっ」 なんて言いながらもハイタッチ。 ヘクスと同じく重傷のエクスも意識を取り戻し、厳しい戦いを乗り越えた事に安堵の息を吐く。 それにしてもあの思念体が出現したのがこの無人島で本当に助かった。もしも町中だったら……いや、もう杞憂か。 しかし何かこの島に出現の理由があるのだろうか。そう思ったラヴィアンは迎えの船が来る間の時間に少し辺りを探索する。 闘技場自体にフェイトの気配もないし、建物もとても古い感じ……が、する。考古学者じゃないので良く分からないが。 それに壁面に彫られた模様も何とも形容し難い。抽象的で、現代アートのような感じもしない事もないが。 (特に『これ』と分かった事は無し、か) 分からない事は分からない。仕方ねーやと後頭部を掻いた。 一方、真歩路は先日クリスマスの異空間交流任務で手に入れた心臓っぽいお菓子とその辺のコンビニで購入したお茶のペットボトルを供えていた。そこはラヴハートが倒れた所。 「お腹すいたまんまは辛いわよね。アレはちょっと反省してる」 なむなむ。手を合わせて。本物はあげられないけど、これだって絶品よ! もう蘇っちゃ駄目だからね。 星が一滴、夜空に流れた。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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