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コドク

●孤独-コドク-
 わたしにはおともだちがいないの。
 おともだちがほしいから、魔法のおさらにおねがいしたわ。
 たくさん、たくさん、おともだちができますように、って。
 でもどうしてかしら。おともだちは、おともだちを食べてしまうの。
 おともだちって、そういうものなのかしら。
 食べちゃいたいほどいとおしい、っていうものね。
 でも、ほんとうのところはわからないわ。
 だって、おともだちができたのなんて、はじめてなんだもの。

●蠱毒-コドク-
「『蠱毒』という呪術を、知っているかしら」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターに映し出された見るからに禍々しい文字を示す。
「蟲。爬虫類たとえば蛇。両生類たとえば蛙。
 そんな生き物たちを沢山、ひとつの皿に寄せ集めて、互いに喰いあわせる。……殺しあわせる。
 そうして生き残った最後の一匹は、強い呪いの力を持つの。これは、そういう術式。
 古くから行われて来たこの業は、神秘の世界ではそう目新しいものではないわ。
 そういう目的のために造られたアーティファクトが存在したとしても、不思議はない」
 それを訊いて頷くリベリスタたちの間にも、その呪術の存在を聞き知って……あるいは見知っている者はちらほらといるようだった。 
「でも今回貴方たちに対処してもらいたいのは、少し変則的なタイプの蠱毒の実行者。
 アーティファクト『蠱毒の皿』を手に入れてしまったのは、年端もいかない少女なの。
 革醒者でもなければ、もちろんそれが恐ろしい術式だなんて露ほどにも知りはしない。
 彼女は『友達が欲しい』とそう切に願っただけなの。
 ただそこに、悪意に満ちたアーティファクトがあっただけ」
 モニターに表示された少女のプロフィールには、彼女が生まれてすぐに家族の全員を失うまでの経緯が。
 感情を失った彼女が、虐待の末に孤児院から放逐され、廃ビルの地下へと漂着するまでの経緯が。
 ……記されていた。
「『蠱毒の皿』の起動によって集められたのは、低フェーズのエリューションたち。
 場所は廃ビルの地下駐車場。アーティファクトはその空間全体を、蠱毒の皿に変えている。
 蠱毒のエリューションが、起動者の少女を襲うことはないけれど……
 行き場を失った呪いは、最後にどこへ向かうか分からない。
 解き放たれる前に、術式を止めて頂戴。
 ……アーティファクトを壊すのは最低条件だけど、それだけでは蠱毒は止まらないの。
 術式を壊す方法はみっつ。
 まずはひとつめ。集められたエリューションを全て排除する。
 互いに喰いあうエリューションは、同士討ちを重ねるほど強くなるから気をつけて。そもそもの数も多いわ。
 ふたつ、異界と化した空間を破壊する。
 ……でもこの方法は、場所が地下でその上にそこそこ高いビルが乗っかっていることを考えるとあまり現実的ではないね。ビルを崩せば、周辺にも甚大な被害が及ぶでしょうし。
 そしてみっつめ。
 術者である少女が絶命すれば、呪いはその効力を失う。
 彼女を殺せば、集められたエリューションは呪力を持たないただの『フェーズ1』に戻るはず。
 一番安全で、一番確実な方法であることは確かだけど……」 
 この方法を進んで選びとろうとする人は、この中にはいないよね、とイヴの視線は問うていた。
「これは対象のない呪い。持ち主も、行き先もない悪意。
 愛も、憎しみもなく、ただそこに呪いだけがあるなんて、本当に孤独な話。
 最終的に、彼女をどうするかは。貴方たちに任せる……任せる、わ」
 



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:諧謔鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月27日(火)23:29
<成功条件>
アーティファクト『蠱毒の皿』の破壊と術式停止

<敵情報>
何れもフェーズ1のE・ビースト4体。
『蠱毒の皿』による濃縮で強化されている他、エリューション同士の相補食でさらに強化されうる。

・大百足
物理攻撃力に優れたムカデ型のエリューション。
大顎による噛みつきに麻痺・出血が付与される。

・クチナワ
耐久力に優れた蛇型のエリューション。
噛みつきに猛毒が付与。
また、その目を正面から見ると石化する。

・白鴉
回避、速度に優れた白い鴉のエリューション。小型。
1ターンの溜めの後に放たれる特殊な鳴き声は神遠範攻撃であり、ダメージに加え致命・不吉を付与する。

・猩々
知能に優れた猿型のエリューション。全ての物理攻撃に混乱を付与。
状態異常回復系のスキルを持つ者を優先的に攻撃する。

それぞれのエリューションが特記される状態異常攻撃の他に、原型となった動物の行動に相応しい物理攻撃、移動方法、感知能力を持つ。
大型のエリューション(大百足・クチナワ)は、近距離物理攻撃の一部が範囲攻撃となっている。

エリューションは基本的に、戦域において最もHPの低い対象(リベリスタ、エリューション問わず)を優先的な攻撃対象とする。
エリューションが別のエリューションにトドメを刺した場合それは補食として扱われ、該当のエリューションは強化される。

補食を行ったエリューションは補食されたエリューションの状態異常攻撃を継承。
BS回復、HPが最大値の50%回復し、物神攻撃と物神防御が2体分加算される。
一方、動きはやや鈍重になる。

※糸部美佳
感情を失った身寄りの無い11歳の少女。
アーティファクト『蠱毒の皿』の所持者で非革醒者の一般人。
エリューションを「自分の呼びかけに応じて集まった友達」だと認識している。


<戦域>
障害物のない廃ビルの地下駐車場。
地上階は16階立てのビルとなっているが、一般人が迷い込む危険は少ない。
光源は少女が持ち込んだ僅かな光の他に存在せず、蠱毒が完成するまで(エリューションが残り一匹になるまで)敵は自ら戦域を離れようとはしない。

戦域にはアーティファクトの起動者である少女がいるが、エリューションは彼女を攻撃しないように行動する。
ただしリベリスタの範囲攻撃に巻き込まれた場合、高い確率で死亡する。

<その他>
行き先のない呪いをどのようにして止めるか。その判断は皆サマに一任されました。
無いとは思いますが、倒したエリューションを食べてもフェイトを持つリベリスタは『蠱毒』の力を得ることはできませんので悪しからず……
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
スターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
クリミナルスタア
稲野辺 雪(BNE002906)
マグメイガス
霧里 まがや(BNE002983)

●人を呪わば穴二つ
 この警句の真に恐るるべきは、呪いが術者に跳ね返ってくると示されている点ではない。
 命を捨てる覚悟と呪いの対象さえあれば、人ひとりを呪殺できると保証している点にこそある。
 ……はてさてそれでは行き場を失ったこの呪詛は、いったい誰が為の墓穴を穿つやら。
 蠱毒の皿は廻る、廻る。外道畜生有象無象の坩堝となりて、呪いの宛先/行先/矛先を待ち構える。

●呪い-マジナイ-
「これはね、おまじないなの。おともだちができる、おまじない」
 胸に銀色の皿を抱いた少女は、まるで誰かに教わった言葉をそのまま復唱するように無表情で繰り返す。
 まるで温度を感じない、その声。
『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)はしかし、彼女と繋いだ左手に感じる温もりに微かな希望を見いだしていた。
 ――心をすり減らしているけれど、友達を求めることができる……心が壊れている訳じゃない、強い子だ。
 少女の小さな手に、自らの過去を想い。
 七海は彼女を戦火から少しでも離れたところへと導いてゆく。
「ねぇ、どうして? わたしおともだちといっしょにいたい」
「あれは友達じゃなくて最後には君を食べるお化けだよ」
「じゃあ、あなたたちは?」
「自分はああいうお化けを退治する専門家みたいなものかな」
 七海に手を引かれ、ふらふらと進んでゆく少女には一瞥もくれない四体のエリューションたちはしかし、まるでそこに見えない結界でも張られているかのように彼女を避けて戦っていた。
「そう、友達とはもっと楽しいものだ」
『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は、装填の間隙を縫って少女を振り返る。
 近接射撃による返り血に染まった頬、ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、その声はいたって柔らかい。
 張り巡らせた感情探査の網から、少女の心だけが零れ落ちてしまう。
 そんな理不尽が、どうしようもなく杏樹の胸を締め付けていた。
 だがそんな感傷に浸る暇もなく、弾幕をくぐり抜けた白鴉が音波攻撃の予備動作に移るのが見える。 
「そう、あれは友達なんかじゃない……それに友達なら一番最初にする事がある」
「なにかしら。わたし、分からないわ。だっておともだちなんて、いたことがないのだもの」
 悪意ある攻撃の余波から少女を背中で庇いつつ、七海は後衛へと抜ける。
「お互いの名前を教える事さ。……『彼ら』は君に、名前を教えてくれたかい?」
 少女は黙って首を横に振った。
「自分は、七海という」
 風切羽の先で、自分の胸元を指し、七海は少女に名乗った。
「……みか。『美佳』っていうの」
 俯きながらも、確かに応えた美佳にむかって、七海は優しく微笑んだ。
「そう、ぼく達もまたキミの願いでここに集まった『ともだち』」
 白鴉に向ける銃撃の手は休めずに、それでも銃声に負けじと美佳に声をかけるのは、『悪夢<不幸な現実>』稲野辺 雪(BNE002906)。 
 同年代。その身を襲った不幸。雪とはさほど変わらぬ身の上の少女だ。
 それでも自分はなんとか生きている。同じことが、きっと彼女にもできるはずだ。
「……ちょっと離れててくださいね。ともだちのいう事は、聞くべきです」
「そうなの? わたし、分からないわ。だっておともだちなんて、いたことがないのだもの」 
「ええ、そうですよ……キミには本物のおともだちというものを教えてあげないといけませんね」
 そう、それを教えることができるということが、雪と美佳との、決定的な違いだった。
 逆を言うなら、それさえ乗り越えることができるなら。

「はぁ……ご退場願えれば楽だったんだけど……」
 七海、雪らと美佳のやりとりを横目で見ながら、『霧の人』霧里 まがや(BNE002983)は気怠げに肩に刀を傾ける。
「イージーモードは小学生までですか。人生詰んだな……。
 まあ、やるってならやるだけやるさね」
 気の抜けた声に反して、鋭い跳躍。戦場ど真ん中に降り立つと、大仰な動作で踵を返す。
 動きに従う着物の裾がばさりと派手に翻った。
「フハハハっ我 光臨っ!」
 仁王立ちにして、ドヤ顔。これ一度はやってみたかった、と呟く。
 オーディエンスの有無はさしたる問題ではないのだ。要は自分さえ愉しめれば、それで良い。
 まがやは地下駐車場で蠢くエリューションたちを順番に指差してゆく。
「ひ、ふ、み、のよ、っと……。
 ……お嬢さんは花火とか好きかしらね」
 血腥い戦場にも、ひとさじばかりの遊び心を。
 縦横に走る雷が、仄暗い地下駐車場を紫光に染めた。
 
「我ながら、酷い有様だな」
 手鏡の中に映る自らの姿を一瞥して、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は嘆息した。
 自ら苦無で引き裂いた胸元は鮮血で紅く染まり、今もどくどくと血を流し続ける。
 これが敵につけられた傷ではないこと。そして痛みの自覚がないことが、より一層その違和感に拍車をかける。
 しかし鉅の止めるべき相手、全長8メートルはあろうかという大蛇のエリューションは。
 その血の匂いを嗅いで執拗に彼を狙っていた。
 鉅はその魔眼を避けるため、クチナワに背を向け手鏡でその動きを窺っていた。
 牙の一撃を、逆手に握った苦無の振り返り様の斬撃でいなす。
「……自らを見て石になったというメデューサの神話に倣い、どうだお前も見てみないか。
 自分のその、醜い姿を」
 身長を越えて伸ばされた鎌首を、ギャロッププレイで捕まえて。
 鉅は縛り上げたクチナワの頭を手鏡の近くへとぐいと引き寄せた。

 雪の銃弾と杏樹の銀矢が白鴉の羽根を貫いて交差する。
 呪いをその身に宿す鳥は、身の毛もよだつような怨嗟の声を上げて啼いた。 
「白鴉周辺、補食注意!! あいつ、弱ってるよ!!」 
 戦場の冷静な観察者、四条・理央(BNE000319)の声が告げる。

●呪い-ノロイ-
 たたん、たん。たたたたん。
 独特のリズムを持ったステップと、そこから繰り出される爪や蹴脚の一撃。
 尋常ならざるその速度としかし、対等に斬り結ぶ隻腕は『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)。
 あの子を守ってみせる。その笑顔を取り戻してみせる。
 決意は鋼。見据える眼光は刃。
「わたしの力は、そのためにあるのだから!」
 武骨な太刀を片手で軽々と取り回し、流れるような連撃。
 が、その隙間を縫って、猩々の拳は舞姫のこめかみを撃つ。
 揺らぐ視界に、闇雲に振り上げた刃。
 そしてその刃の下には――
「戦場ヶ原さん、しっかり!」
 杖先の光に照らされて、戦太刀の刃は振り下ろされる前に止まる。
 敵味方全員に意識を配り、味方にほつれあれば繕い敵に崩れあれば衝かんと狙う理央は、これ以上ないタイミングで舞姫に降り掛かった脅威を除く。
「ご、ごめん、ありがと!!」
 礼を言う舞姫に、あっちは任せたよ、と猩々を視線で示し。
 理央は癒しの手が届かぬ場所を探して戦場をすり抜ける。
 道力の剣が付き従って、彼女が駆けるための道を確保した。
 
 舞姫の意識が外れた隙に壁へと取りついた猩々は、天井付近にある通気ダクトの蓋をべりべりと引きはがしていた。
 人一人が悠々と通り抜けられそうなほど太いダクトの蓋は、それだけに大きい。
 猩々は力任せに毟り取ったそれを、雪の銃撃に崩れる白鴉にむけて円盤投げの要領で放つ。
「させません!」
 間一髪、追いついた舞姫が飛び上がり、その身を放物線へと差し込む。
「――っ!!」
 エリューションの筋力から放たれた鉄塊は、重厚な大袖越しにも重い衝撃を伝え。
 舞姫は肩を抑えて着地する。
 すぐさま追い撃つソニックエッジは、猩々の背中を抉った。

 ウオオオオォオォオウ……
 オオォオオォウ……
 
 口の端から血を迸らせながら、猿は啼いていた。
 孤独で、孤独でたまらないというように。
 この呪いから、この蠱毒から、今すぐにでも逃げ出したいというように。
「……呼んで、いるな」
 杏樹の言葉が意味するところを、他のリベリスタたちもすぐに理解する。
 蠱毒の皿はまだ破壊されていない。そのエリューション誘因力は強力なものではなかったが、それでも新たなエリューションが引き寄せられる可能性は無いとは言い切れなかった。
 ……急がねば、ならない。
 
 乱暴に振り回されるその巨躯が、仲間達を傷つけることのないように。
 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)は、叩き付ける大盾で長大な蟲型エリューションを他の三体から十分に距離をとった一角へと追い込んでゆく。
 金属質な甲殻、顎と盾とが衝突する度に火花が散る。
 ――蠱毒という呪術は昔から存在していると聞きますが、私たちの世界も似たようなものかもしれませんね。
 真琴は両側から挟み込むように彼女を捉えた大顎に抗いながら、それでも尚ひとりごちる。
 リベリスタとフィクサードという革醒者同士、時にはエリューションやアザーバイドと戦う。
 そうして純粋に強いものだけが生き残っていく様はまるで蠱毒そのものではないか、と。
「それでも、私たちは……生き残るべく戦います!」
 滑る牙に肌を割かれながらも。真琴は大百足の顎を渾身で撥ね除けた。
 
「猩々、白鴉に続いて補食対象化!! 鴉が高速度飛行で猩々へ向かったよ!!」
 理央の声に即座に反応したのは七海。
「共食われれば、火急、か。まあそうなる前に仕留めてこそ射手というもの。この矢を喰らえ!!」
 おおよそ地下駐車場の対角から対角を狙う最長の距離を、七海の放つ魔力と意志の結晶は真っ直ぐに射通す。
 蠱毒とは相反する『呪い』が、深々と刺し貫かれた鴉の羽根を再び黒く染め上げて。
 ただ一羽の鳥の亡骸として、地に墜とした。
  
「おいおい、勘弁してくれよ……」
 表情を引きつらせる鉅の足下で、クチナワは縛り上げる気糸をずるりと抜け出す。
 麻痺による足止めをすり抜けるために蛇がとった手段は、脱皮。
 気糸は対象を失ってぐしゃりと抜け殻を掴み潰し、バランスを失った鉅の瞳をクチナワは正面から覗き込んだ。
「ちっ……」
 足元から石化が始まる。
 鉅のブロックを抜けたクチナワと、新たに狙われる猩々の間に立ちふさがるのはまがや。
「……やんのか? いいよ、私は遊べりゃなんでもいいのだし」
 食い込んだ牙にも眉ひとつ動かさないまがやの手に、紅蓮の魔炎が灯った。
 ……が。まがやはその炎をしかし、自ら掌の中に握りつぶす。
 一度間合いを取り再度魔力を練り直すその視線の先には、彼の繰る魔法の煌めきを物珍しそうに見つめる美佳の姿があった。
「あー……この辺か。精密作業は苦手なんだけどな」
 誰に対する言い訳か。ぼやくまがやの指先から、クチナワに向かって。
 今度こそ炎の種子が爆ぜた。

 揺らぐ巨体を、白鴉のブロックから解放された人員が囲む。
 石化から解き放たれた鉅も自らの任へと戻った。
 全ての道を塞がれたクチナワの背後には、壁があるのみ。
 が、しかし。リベリスタが塞ぐこと能わず、またクチナワには利用できる道がひとつだけ残っていた。
 蛇の頭脳ではそれを発見することは出来なかっただろう。しかし密かに観察していた猩々の動きを通しての、発見。
 クチナワはその身を持ち上げて、通気ダクトの中へと滑り込んだ。
 壁の内部を通り、別の通気口へと繋がるダクト。その中を、クチナワは這い進んでゆく。
 ちろりと出した舌が蛇の狙う獲物の場所を探り、そして猩々にもっとも近い場所、誰にも邪魔されないポジションのダクトの蓋を、突進で打ち破る――

「出し抜いたと、思ったか? ……残念だったな」

 ダクトの真下杏樹は地に片膝を衝き、重弩を床に固定して真っ直ぐに上を向けていた。
 壁に背を向け、蛇と目を合わせぬように。
 ただ音と感情の接近のみを頼りに放たれた矢は……
 クチナワの下顎と上顎とを、深々と縫い合わせていた。

 蛇の長大な身体が、ダクトからずるりと落ちる。
 しかしこれまで魑魅魍魎共と補食を重ね、蓄えて来た生命力は尚も鎌首をもたげる。
 鉅は今度こそクチナワに引導を渡すべく、しっかりと握り直した苦無を手に突進した。
 
「さあ、年貢の納めどきですよ! 覚悟なさい」
 フレアバーストの炎に包まれ、もがく猩々。
 舞姫は猿が纏う炎の衣ごと、その姿を袈裟懸けに――斬って捨てた。

 ――蠱毒の皿は、一体どこから来たのでしょうか。どうして彼女の手に渡ったのでしょうか。
 大百足の頭部を殴打しその顎をへし折る真琴は、その疑問を自己解決しようと思考する。
 彼女の身体には、味方に回復の手を差し向けるために割いた手数の分だけ傷が刻まれていた。
 対象の無い呪いなんて、存在しない。そもそも対象が無ければ、呪いではないのだ。
 蠱毒の皿は少女の願いに引き寄せられてやってきた。呪いを始めてくれと訴えた。
 感情を失った少女はしかし、本当はこの世を呪いたかったのかもしれない。
 この、コドクな世界を。 

「ああ、やっぱりおともだちは、おともだちを殺してしまうものなのね」
 一匹、また一匹と、リベリスタの刃の元に倒れてゆくエリューションたちを眺めながら、少女の呟きは至って平坦だ。 
「どうしてかしら、おともだちは、たくさんのほうがいいのに」
 失血によって霞む目。よろめいた真琴の上に、大百足の影が覆いかぶさった。
「あ……」
 少女の口から、小さな声が漏れる。
「させません!!」
 叫びと共に撃ち込まれたのは、雪のバウンティショット。
 大百足は頭部から緑色の体液を噴き出しながら仰け反る。
 その柔らかい腹に向かって、追撃する銃弾の雨。
 体勢を立て直した真琴も、攻勢に加わり……
 はぁ……と、吐息が漏れて、美佳は自分が息を詰めていたことに気がついた。
「いまの感じは、いったいなんだったのかしら。わからないわ」
 ただひとつ確かなことは、大百足が真琴に叩き潰されるその最後の瞬間、美佳は先程のようには『感じなかった』ということだけだった。

●友達
 四つのエリューションの亡骸を前に、美佳はぼんやりと立ちすくんでいた。
 杏樹に貰ったガムを、ぷぅと膨らませながら。
「落ち着いたか」
 問う杏樹に、美佳は小首を傾げる。問いの意味そのものが、分からないというように。
「私は杏樹という……君は?」
「美佳だよ」
「……そうか」
 たったそれだけのやりとりだけれど、人と人との繋がりはここから始まる。
 それが、肝要なのだ。
 
「ほら、開けてご覧」
 七海が差し出したのは、リボンを結ばれた小さな箱。
「ありがとう。これ、なぁに?」
「携帯電話だよ。そうだな、ちょっとしたプレゼントってところかな。ほら、こんな時期だしね」
 美佳はアークの管理する施設に保護されることになるだろう。
 物珍しそうに携帯電話を撫でるこの少女の傍に、いつでも七海がいてやることはできない。だけど。
「……一緒に居なくても、これがあればお話できる。
 呪具なんかに頼らなくても、寂しい時に友達を呼ぶことができる」
 だからほら、もうその呪具は要らないだろう、という七海の言葉に、美佳は首を横に振った。
「だっておさらはかなえてくれたもの。わたしの、おねがいを」
 俯いてかぶりを振る美佳の前に、舞姫がしゃがみ込む。
 少女の頬にそっと手を触れて、その瞳を覗き込んだ。
「もう、さみしくないよ。ひとりぼっちじゃないよ。
 ……おねえちゃんと、ともだちになろう」
 美佳は抱き寄せられるままに、舞姫の温もりを感じる。
「もう二度と、コドクにはさせないから」
 だからもうそんなものに頼ることはないの、と舞姫は優しく言い聞かせる。
「ともだちは、ともだちの言うことを聞くんでしょ? だったら……」
「……間違っていることを『間違っている』と教えてあげるのも、ともだちの役目、なんですよ」
 こわさないで、と繰り返す美佳を諭すように、雪はその肩を優しくたたいた。
「ま、ともだちがどんなものかについてはコレから知っていきましょうか。
 ……ぼく達がともだち、では不満ですか?」
「不満かどうかなんて、わたし、分からないわ」
 舞姫の胸に顔を埋めたまま、美佳は呟く。
 その手から滑り落ちた銀色の皿が、がらんと虚ろな音を立てた。
「だっておともだちができたのなんて、はじめてなんだもの」
 一見、今までの答えとなんら変わらないその言葉だったが。
 静かに瞑目する杏樹は脳裏に描く感情マップのなかにひとつ、ちいさな明かりが新たに灯るのを――視た。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
コドクに囚われていた少女、糸部美佳は、リベリスタたちの要請によってアーク関連施設で保護されることとなりました。
彼女が手放した『蠱毒の皿』も、回収の後破壊されています。

さて、せっかく補食ギミックを用意したのですから一度くらいは発動させてやろうと目論んでいた諧謔鳥ですが、完璧な撃破順とブロック戦略で完封されてしまい大変悔しがっております。

必須条件ではなかった少女の保護と合わせて、拍手とともに大成功を贈らせて頂きます。

それでは皆サマ、良いお年を――