● 深夜、薄暗く放置された倉庫の中。 本来なら、この場所に人などいないはず――なのだが。 「ははは、まんまとしてやったりだな!」 「まったくだ、たんまりと盗み出してやったぜ!」 つい先程、犯行に及んだのだろう。4人の男が戦利品を無造作に撒き散らし、喜びに打ち震えていた。 どうやらこの倉庫は、彼等の根城となってしまっているらしい。 「おい、次はどこ狙うよ?」 「そうだなぁ……こないだ下見にいった質屋なんかどうだ。金庫を抱えたオヤジが2階に上がって行ったのを覚えてるぜ」 エリューションとして覚醒した力をもって、犯罪に手を染める。彼等はそうして得た金をもとに日々を生きるフィクサードだ。 しかし元々が荒くれ者だったせいもあり、それぞれ実力は並のリベリスタと互角に戦うだけの力を備えてはいる。 そう、並のリベリスタだったなら。 「んぁ? 入り口の方で物音がしなかったか?」 「そんなもん聞こえなかったけどな……って聞こえるのはお前くらいだろ。まぁいいや、夜風に当たるついでに見てきてやるよ」 1人のフィクサードの耳に微かに届く、本当に小さな物音。 他の3人にはその音は聞こえなかったらしいが、気になったらしいフィクサードの1人が立ち上がり、入り口の方へと歩み進んでいく。 「どうせネズミだとかの類だろうに、心配性なヤツだな」 「ハハ、まぁ用心に越した事はねぇって」 その背中を見送る3人も、入り口へ向かった1人も、その物音が自らに死を運ぶ音だなどとは思いも寄らなかった事は間違いない。 「や、やめ……ギャアアアア……!!」 彼等の意識が戦闘へと傾いたのは、仲間の断末魔が倉庫に響き渡ったのとほぼ同時だった。 「……おい、なんだよ今の!?」 「知るかよ! 警戒しろ!」 凍りつくような空気と緊張感の中、武器を構えて警戒態勢を取るフィクサード達。 コツ……コツ……コツ……。 じわりじわりと近づいてくる靴音が、不気味さすら感じさせる。 無造作に積まれた荷物の影から真っ先に現れたのは、血の雫を滴り落とす剣の輝き。 「誰だ、テメェは!?」 問いかける声に返答は無く、代わりに聞こえてくるのはさらに近づく靴の音。 その姿がはっきりとフィクサード達の目に映ったその時、凶刃の主は静かに、そして威圧的に口を開いた。 「……お前達もフィクサードだな。ならば……この男を知っているか?」 と同時に見せ付けた写真には、額から右頬にかけて大きな刀傷がついた眼鏡の男が映っている。 「知るかよ! 誰だよソイツ!?」 写真をまじまじと見た後、そう答えたフィクサード達の体は、微かに震えていた。 コイツはヤバイ。 何かがヤバイ。 それなりの腕があるからこそ、わかる。この男は危険だ――と。 「そうか、ならば……死ね。この剣はお前達の血を欲している……。ヤツを斬り捨てるための贄となるが良い」 言うと同時に動く、凶刃の主。 3人の断末魔が倉庫に響いたのは、その直後の事であった――。 ● 「フィクサードを狩る……フィクサードって事か?」 「はい。行動的にはリベリスタとも考えられますが……フィクサードと見て間違いないでしょうね」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、1人のリベリスタの問いかけにそう答え、説明を続けていく。 一般のリベリスタと対等に渡り合う実力を持ったフィクサード4人を、簡単に斬り捨てるフィクサード。その実力は相当高いと考えるべきだ。 そしてフィクサードに狙いを絞って写真の男を探す辺り、写真の男もフィクサード――と見て間違いはないだろう。 「まぁ、それはそれとして。まずは4人のフィクサードが犯行を行うのを阻止する必要があります」 この4人のフィクサードは、放っておいてもフィクサード狩りに殺害されるのは事実。だが犯行をまず止める事が先決だと、和泉は言う。 しかしその理由は、どうやらそれだけではないらしい。 「フィクサード狩りの持つ剣は、エリューションを斬ると切れ味を増すアーティファクトなんです。別に殺す必要はなく、深手を負わせるだけで良いそうですが……」 「……が?」 言葉を止めた和泉に、リベリスタ達の視線が集中する。 「代償として、所有者はフェイトを失っていくんです。フィクサード狩りの男性は、いずれはノーフェイスとなってしまうんですよ」 敢えて言うならば、諸刃の剣。 そんな剣を振るってまで、フィクサード狩りは写真の男を斬るために動いている。 「ですがこの男性が斬り殺すのは、フィクサードだけです。リベリスタや一般人は、彼の目的を阻害しなければ攻撃をされる事もありません」 和泉の言葉を掘り下げれば、フィクサード、それも写真の男に対してかなりの復讐心を燃やしている――といったところだろうか。 「フィクサード狩りに対しての接触は、皆さんの判断に委ねます。ただ、復讐はやめようなどの言葉は、届かないと思った方が良いでしょうね」 むしろ生半可な言葉では怒りを買う可能性が高いため、言葉を選びつつ対応するべきだと言った和泉は、そこで区切りをつけるように一息ついた。 まずは4人のフィクサードの犯行を止める。 これを第一に考え、その後にやってくるフィクサード狩りへの対応は現場の判断次第。 接触しても構わないし、放っておいても良い。 「注意点はひとつだけ。フィクサード狩りは『そこにフィクサードがいる』という情報だけを頼りにやってきます。接触する場合は、くれぐれもフィクサードと間違われないよう、気をつけてくださいね」 最後にそう告げ、和泉はリベリスタ達を見送るのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月31日(土)21:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●倉庫急襲 「頼んでおいた情報、得られるかしらね?」 「わからないな、アークだって万能じゃないからな」 4人のフィクサードが潜んでいる倉庫へと到達したところで、『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)と『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)の2人が言葉を交わす。 潜んでいる4人の情報はあらかた掴んでいる。 望む情報は、この後にやってくるフィクサード狩りの件についてだろう。 「時間は……およそ……20分」 「あまり時間もかけてられません……早急にけりをつけましょう」 そのフィクサード狩りが到達するまでの時間をを告げたエリス・トワイニング(BNE002382)の言葉に羽柴・美鳥(BNE003191)がそう答えるように、時間がそれほどあるわけではない。 「そうだな、あんまり関わり合いになって襲われても困るでござるから、さっさと片付けるでござるよ」 美鳥に同意した『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)はそう言うと倉庫の扉の前に立ち、中の様子を伺いにかかった。 フィクサード狩りに対応するための時間に余裕を持たせるために、倉庫に潜む4人のフィクサードを早急に片付ける。 それがリベリスタ達のとった作戦であるらしい。 「中の様子はどうですか?」 「ここ以外の出入り口はないみたいね。そろそろ犯行に行くのかしら……少し動きが慌しいわ」 『消失者』阿野 弐升(BNE001158)の問いかけを受けたクリスティーナは、透視して垣間見た倉庫の中の状況を仲間達へと伝えていく。 彼女の情報によれば、入り口からフィクサード達までへの距離はおよそ20m程度といったところか。 「時間もないし、行こうか」 攻撃を考えなければ一気に詰められる距離だとわかり、真っ先に飛び込む態勢を取ったのは『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)だ。 「奇襲ですね、ビックリさせてあげましょうか」 「まずは私が仕掛けるわ、その間に突入して頂戴」 さらに『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)が後に続こうとしたのを確認すると、その場での援護を買って出るクリスティーナ。 (誘き出すのはなし、か) カレイドスコープで垣間見た未来のように、フィクサードの1人を誘き出す作戦が翔太の脳裏を過ぎるが、それを行おうとする者もいなければ、その時間ももったいない。 むしろ犯行に出る直前なのだから、4人で入り口にやってくる可能性の方が高かっただろう。 「では、行くでござるよ」 倉庫の鈍く錆びた鉄の扉を、虎鐵がなるべく音を立てないように開いていく。 それでもわずかに開く音が聞こえはしたが、この音は気付かれていない事を祈るしかない。 「――……」 最後尾で仲間達に頷き合図を送るクリスティーナの援護で、相手が少しでも乱れれば僥倖か。 まずはこの戦いに勝利する。 その目的に向け、リベリスタ達は今、静かにその足を進めていった。 ●倉庫に響く剣戟の音 「ドアが開く音がしなかったか? ゆっくりと開ける音が聞こえたんだが」 「バーカ、開けるならバーンと開けるだろ。ガサ入れが入るような事はまだしてねーんだしよ」 「どうせすぐ出るんだ、誰かいてもぶちのめしゃ良いのさ」 三者三様の会話。 どうやらリベリスタ達の侵入は、フィクサードの1人に気付かれてはいたが、気にも留められなかったらしい。 「あまり騒ぐんじゃねぇよ、勤めの前にこけたら話しにならんぞ」 そんな会話にため息をつきながら、冷静に仲間を諭す4人目の男。 (あれがリーダーでござるな) その様子を目の当たりにし、その男がフィクサード達のリーダー格である相馬だと虎鐵は判断するに至った。 相馬の戦術指揮に対してどう対処するか、その答はひとつ。 「見えざる敵から砲撃されるって、どんな気持ちなのかしらね?」 灯りの届かない暗闇からフィクサード達目掛けて飛んだ炎の塊が、その答だ。 クリスティーナが言うと同時に放ったその炎は闇を切り裂き、 「な、なんだ!?」 「おわっ、火がっ!?」 気付きはしても避ける事すら出来なかったフィクサード達を、まとめて炎に包んでいく。 完全に虚を突かれた彼等が逃げ惑う姿は、攻めるには十分な好機の知らせ。 「奇襲は成功か。いくぞ!」 真っ先に飛び出した翔太の動きはハイスピードの効果もあいまって、敵の懐に一瞬で飛び込むほどの速度を誇っていた。 侵入を気取られる事無く、奇襲が成功したがゆえの万全の態勢といったところか。 「それでは、さっさと決めてしまうでござるよ!!」 「相手は並以上の敵……。油断だけはしないようにしないとですね」 最も近い位置に立っていた水谷に跳躍しながら突っ込み一撃を加えた翔太に続き、滾る闘気とオーラを纏った斬撃で田村へと仕掛ける虎鐵。 そして翔太を援護するべく美鳥が水谷に向けて放った魔力弾も、体内で増幅した魔力の分だけ威力が増している。 「くそ、こいつ等なんなんだよ!」 先にクリスティーナの放った炎に加え、威力の増した攻撃を2発も食らった水谷にとって、そのダメージは決して軽いものではない。 床を蹴って後ろへと下がる翔太に苦し紛れに放った銃弾が、かすりもせずに暗闇に消えた瞬間に彼が膝をついた事からも、それは容易にわかる。 「落ち着け、焦っても不利になるだけだ。それにあの服、確かアークとか言う組織の……」 「関係ないさ、全員ぶちのめせば良いんだからな!」 その様子を目の当たりにした相馬が、何時までも慌てていては負けるだけだと状況を分析する最中、フィクサード側で最初にまともな攻撃に転じたのは田村だった。 彼の視界に映るのは、不用意に立っている『だけ』に見せかけたぐるぐの姿。 「待て、それはこう――」 あまりに不用意過ぎると注意を促しかけた相馬ではあったが、予想に反して田村のナイフが、ぐるぐのわき腹をしっかりとえぐる。 「それ見たことか、俺の分析に間違いはないのさ!」 「く、う……! でも、弱点探しならぐるぐさんだってちょっとしたもんですよ」 しかしそれは、やはりぐるぐの敷いた罠だった。 想定していた以上に鋭い攻撃によって受けた傷は深いが、余裕を見せた田村に出来た隙こそが、彼女の狙っていた攻撃のタイミングでもあったのだ。 ぐるぐの狙い通りに動き、そして結果までも想定通りになった田村は、あまりに迂闊すぎたと言えるだろう。 「迂闊なプロアデプト、ってのも矛盾しているような。ま、俺もプロアデプトらしくは無いですけれどもね」 一方でそんな田村を冷静に分析した弐升の気糸が、一番後ろに控えている相馬の足目掛けて飛ぶ。 「む……俺を狙ってくるか、だが!」 「怒れば僥倖でしたが、そう上手くはいきませんか」 可能ならば相馬を怒りに燃えさせたい弐升ではあったものの、戦い慣れている相馬も早々狙い撃たれるほど弱い存在ではない。 では次はこうだと思考を切り替える弐升と、弐升を無視して最も厄介な存在だと認識した翔太に一足飛びで一撃を加える相馬。 「は、まったく頭のいい連中ってのは、力強さが感じられねぇよな!」 プロアデプトと戦術指揮者、どちらも頭脳派といえる2人の様子を鼻で笑い飛ばし、葦名はパワー勝負の出来そうな虎鐵へと殴りかかっていく。 「中々いい攻撃でござるが、拙者達には頼れる仲間が後ろにいるのでござるよ!」 虎鐵は炎を纏った拳をまともに受けて火に包まれ呻くが、決して怯みはせず、これくらいはどうという事は無いと、さらに笑みまで浮かべ葦名へと向き直った。 「……大丈夫……任せて」 彼が笑みを浮かべたのは、後ろに立つエリスの存在があるからに他ならない。 エリスの響かせる福音が傷を癒してくれる。 その存在がある限り、他のリベリスタ達は安心して攻撃だけを考える事が出来るのだ。 「そしてこれで、こちらは足場を気にせず戦える――という訳だ」 仲間達に短時間の飛行能力を与えた卯月は、仮面の奥に隠れた瞳で水谷をしっかりと見据えている。 視線は次に田村へと向き、相馬、葦名へと移り変わっていった。 (彼はもうすぐ倒れる。ならば次はあっちか) 水谷の様子からそう判断し、田村に視線を合わせて攻撃の態勢を取る卯月。 この戦場で翼の加護は特に必要はなかったのだが、僅かでも有利に闘いを進める事が出来るならばそれに越した事は無い。 「わりぃが、お前らほっといたら悪事行うの分かってるんでな」 そして僅かに地面から離れ浮いた翔太の攻撃によって、卯月の予想通りに水谷はそのまま倒されていく。 いかに個々の戦力が高くとも、それに近い実力に加えて数でも勝るリベリスタが有利なのは、誰が見ても明らかだった。 「そういう事でござる、大人しく捕まった方が良いでござるよ!」 「抵抗しても構わないのだけどね?」 激しい攻撃の応酬を続ける葦名に鋭い刃の痕を残しつつ、虎鐵が降伏を促したのは絶妙のタイミングだったのだろう。 さらにその葦名を十字の光で撃ちぬいたクリスティーナの自信に満ちた言葉を聞けば、並のフィクサードだったならば降伏していた事は間違いない。 しかし対峙するフィクサード達は強さに自信があり――諦めも、悪いのだ。 「逃げ道は向こう側。そして相手の数は多い、か。ならば……!」 「わッ!!」 リベリスタ達の後ろにある逃げ道を見据え、次の指示を出そうと相馬が動く。 彼の動きを目で追っていたぐるぐは指示の声を掻き消そうと大きな声を倉庫に響かせるが、相馬が声ではなく指で入り口を指差して指示を示してしまうと、その声は何の弊害にもなりはしなかった。 「なるほど、了解した!」 「殴り合いに勝っちゃいねぇが、しょうがねぇか!」 頷きあう葦名と田村は、相馬の行動の意味を瞬時に理解したらしい。 強行突破。 戦い続けても敗北が見えてきたのならば、強引に逃げ道まで走り抜ければ良いという事か。 かといって、リベリスタ達も簡単にその行動を見過ごすはずはなかった。 「そうはさせませんよ!」 出鼻をくじくように葦名目掛けて美鳥が魔力弾を放てば、 「そも、前哨戦みたいなものですしねぇ。当然逃がすわけにはいきませんし、油断なく、速やかに詰めていきましょう」 疾風の刃での攻撃に切り替えた弐升がそれに続く。 「俺は強いんだよ、だからどけよ! てめぇ!」 「ゲージたまっちゃったもんね」 その傍ら、倉庫内に響き渡る田村の怒声。 どうやらぐるぐが田村の怒りを誘うような攻撃を仕掛けていたようだ。怒りに我を忘れた彼は、逃げる事よりも眼前のぐるぐへの攻撃に思考が移り変わっている。 (何をやっているんだ……!) 相馬はそんな田村に歯噛みしながらも、何とか逃げる策を講じようとぐるぐに一太刀を浴びせるものの、次に彼の目に映った光景が彼の心を折る事となった。 「ぐ、はっ……! ちくしょう……!」 「さぁ、これで残るは2人だ。一気に畳み掛けていこうか」 倒れる葦名に背を向けた卯月が、包囲網を狭めようと相馬へと向き直ったのだ。 「どうにもならんか、これは……」 怒りに震える田村と、倒れた葦名の姿。 それはまもなく訪れるフィクサード狩りとの戦闘よりも、眼前のフィクサードを倒す事に全力を注いだリベリスタ達が、ひとまずの目標を達成した瞬間でもあった。 ●諸刃の剣を手に、男は復讐を望む 「何かわかった事はあるか? ……――なるほど、わかった」 仲間達がフィクサードを縛り上げたりと戦闘の後始末をしている最中、翔太はその言葉と共に電話を切る。 「……何か……わかった?」 「せめて追ってるフィクサードの情報くらいは、欲しいわね」 彼が電話をポケットに無造作に仕舞いこむと同時に声をかけたエリスとクリスティーナは、少しでも役立つ情報がないかと気になって仕方がなかったようだ。 その勢いは翔太が後ずさりする程、静かではあるが勢いがあるものだったらしい。 「ま、まぁ……少し落ち着け。残念な事に、まったくわからなかったんだとさ」 「……そうなんだ」 しかし得られた答は『わからない』という言葉だけ。 頷いて答えたエリスは残念そうな表情を浮かべるが、この答も致し方のないものかもしれない。 「破界器はその性能を考えると、万華鏡に引っかかったら回収対象になる事は間違いないでござるからな……引っかかってはいなかったんでござろう」 何時の間にか話を聞きつけた虎鐵の言葉に3人が周囲を見れば、後始末が終わった様子が見て取れた。 「大体終わったよ。時間は後どれくらいかな?」 「5分といったところですか」 卯月の問いへの弐升の答を聞くと、時間の余裕もある。 「では先に撤収させてもらおうか、余計なトラブルになる前に逃げておくのだよ」 「拙者も行くでござるよ! この4人を連れていくのに、1人では厳しいでござろう」 ならば倒したフィクサードを連れて離れようと、倉庫をそそくさと後にする卯月と虎鐵。 特に仮面を外したくない卯月が倉庫を出たという点は、フィクサード狩りと対峙するに当たって正解だったと言えるだろう。 「知るためには、これから接触するぐるぐさん達が自力で調べなきゃならないってことですか」 2人の姿を見送った後、ぐるぐがゆっくりと口を開く。 「まずはフィクサードと間違われないようにして、情報を引き出せるようにして……翔太さん達が頼りですね」 隣に立つ美鳥はどう対処しようか考えを張り巡らせ、交渉を担当する翔太達に託す姿勢を見せた。 その交渉結果が如何なものであったとしても、フェイトを食らう剣を使わせたくはない。 しかし復讐を成すまでは、その剣を離す事はありえないはずだ。 「復讐は別にいいんじゃないかと思うんですよね。自分の気持にケリをつける、って意味では譲れないでしょうし。個人的には、応援してもいいですけどね」 「だな。目的達成までは止められないだろう」 それでもフィクサード狩りが剣を最も穏便に収めるためには、復讐を成就させる以外にはない。 弐升の言葉に同意した翔太のみならず、それは誰もが理解している事だろう。 「自滅してでも……求めたいもの。エリスには……分からないけれど……きっと……その人には……何物にも……替えがたいことなの……だと思う」 フィクサード狩りがそこまで写真の男を追い求めるのは、エリスが言うとおりの理由であることは間違いない。 重要なのは、フェイトを失ったフィクサード狩りが、ノーフェイスになる結果を作り出さない事。ただ、それだけだ。 コツ……コツ……。 しばらくの後、響く靴の音。 「待っていたのですよ。ここにいたフィクサードは全員片付けておいたのです」 先んじて声をかけたのは、ぐるぐだった。その言葉に、靴の音がピタリと止まる。 「あぁ、私達はフィクサードじゃありませんよ。服を見て貰えればわかるとおり、アークのリベリスタです」 「額から右頬にかけて大きな刀傷がついた眼鏡の男を、探しているんですよね」 そして弐升と美鳥がそう声をかけた時、暗くてはっきり見えはしなかったが、フィクサード狩りが息を呑む音が微かに耳に届く。 現時点で持っている情報は全て出した。 さらにアークの制服を着る事で、フィクサードではないと証明する事は出来たはずだ。 (どう動くのかしら?) じっと息を押し殺し、何時でも動ける態勢を取りながら、鋭い視線でフィクサード狩りの動きを捉えようとするクリスティーナ。 次のフィクサード狩りの行動が、交渉の成否を決める最初のファクターとなる事は間違いない。 「知っているのか?」 僅かな沈黙の時間を破り、フィクサード狩りはゆっくりそう尋ね、同時に剣を収める。 「詳しい事はまだだ。だが……探しているんだろう? アークの情報網を使えば、協力する事は出来るぞ」 フィクサードではないと理解してもらえた事実にホッとしつつ、その問いに答えたのは翔太だ。 「私達は情報を、貴方は力を持っている。私達は力が欲しくて貴方は情報が欲しい」 翔太に続いたクリスティーナの言葉を、果たしてフィクサード狩りは聞き入れるのだろうか? 「だから可能な限り、その剣を振らないでほしいんだ」 「この剣についても知っている……という事か」 フェイトを食らう剣を振り、眼前のフィクサード狩りがノーフェイスとなる未来を防ぐ。 そのために情報を出そうとする翔太を始めとしたリベリスタの提案を受け、僅かに沈黙したフィクサード狩りは、考えを張り巡らせているようだった。 「ビジネスライクにいきましょう? 私達も、そのフィクサードを放っておくわけにはいかないのよ」 「ふん……まぁ良いだろう。ならば早くその情報を得てもらおうか。だが期待はしない。ゆえにヤツを斬るまで、この剣――鬼狩は振り続けるがな」 即ち、リベリスタが確かな情報を得るまで、フィクサード狩りも情報を求め、動く。 答を求めたクリスティーナへのフィクサード狩りの返答は、こう判断して間違いはないだろう。 「情報については、出来るだけ迅速に集めるのですよ」 「だからその、鬼狩でしたか。その剣はなるべく、振らないでくださいね」 「それは、お前達次第だ」 話をまとめにかかったぐるぐと美鳥にそう告げ、もうここに用はないと言わんばかりに踵を返すフィクサード狩り。 「あぁ、大事なことを忘れてますよ。あなたの名前と連絡先、教えてください。それと、追っている人の事もね」 だが最も必要である情報をもらっていないという弐升の声に、その歩みがピタリと止まる。 「それもそうだな、受け取れ。だが……この男は、俺もこの写真以外に手がかりはない」 さらりとペンを走らせた紙には、『高原・征士郎』という名と、彼の携帯の番号が記されていた。 狙う男の手がかりは写真だけ。だからこそ、フィクサードを狩りつつ虱潰しに探しているという事だろうか。 「……待ってて。……すぐに……見つけるから」 背中を見送りながらのエリスの言葉に軽く手を振り、再び歩み始めた高原の姿は闇に溶けていく。 鬼狩を振らせないための、フィクサード探し。 彼はこのまま復讐を果たす事が出来るのか。それとも志半ばにノーフェイスへとなってしまうのか。 その運命がどうなるかは、これからのリベリスタ次第だ――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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