●あなたはともだち 『れいこさん、れいこさん、私達は友達です』 『れいこさん、れいこさん、私達のお願いを聞いて下さい』 『れいこさん、れいこさん、私達は友達です』 『れいこさん、れいこさん、だから裏切り者には罰を――』 「はいちょっとストップねはいはいそこまでそれ以上は駄目だからストップしちゃってねえお兄さんの言う事聞いてお願ーいってね」 「……は?」 人形の頭と手足、それぞれを掴んだ五人の少女が唐突な声に振り返る。 彼女らの視線の先には、派手な蛍光緑の頭をした男と、苦虫を噛み潰したような表情の少女がいた。 「んーとねお兄さん達ちょっとその『れいこさん』? だっけ、その人形が悪影響あるってんで集めて回ってるんだよねそれ、あ、さくらちゃん駄目よ怖い顔しちゃ、しっかしもー"Coda"ってば場所適当にしか言わないんだもん全部探すのすげぇ時間掛かったじゃねぇかって話でねえ?」 男の肩には小型のボストンバッグが掛かっている。何かが詰まっている。みっちりとしたバッグ。 他の四人が困惑と警戒の入り混じった視線を向ける中、さくらと呼ばれた少女は一人俯いて『れいこさん』を見ている一人に気付いた。 「……笑子?」 隣にいる同じ顔――双子だろうか、姉か妹がその様子に軽く突けば、少女は口を開く。 「だめだよ歌子……『れいこさん』の儀式、途中で止めちゃだめだよ」 「え、あ、そうだっけ?」 「止めたら、全員『裏切り者』に――」 交わされる囁きを聞き付け顔を向けた男の前で、人形が一度びくん、と跳ねた。 握っていた少女らから悲鳴が上がり、全員が手を離す。 床に落ちるはずの小さな人形は、糸で吊るされているかのようにふわりと浮き上がった。 男が床に落としたボストンバッグが不気味に蠢く様子にさくらが目を向けた同時、布を突き破って人形が溢れ出てくる。 それは先程少女らが手にしていた人形と同じ顔、同じ表情、同じサイズの人形達。 素材は布だろうか、赤茶の毛糸でできた髪を三つ編みにした、カントリー風の少女の人形。 少女らは目を見開いて、それを見詰めていた。男が小さく溜息を吐く。 「……ちょ、止めたら発動とか聞いてないんですけどつかデカくなってるしありえなくね何で人が気合入れて集めたと思ってんだよ全くもうさあ時間だけ掛ければ楽に終わるかなとか思ってたのに本当もうついてないよねえその分さくらちゃんと暫く一緒だったからいいけどさー」 「馬鹿言ってんじゃねぇよ。こいつらこのガキ共狙ってんぞ」 「マジでどうするそれじゃ俺ら暫く安泰かなこの子ら置いて逃げるってのは」 「却下」 「ですよねそうですよねそう言うと思ってたよもう俺さくらちゃんの事分かってるぅ」 ●あなたはともだち? 「それなりに緊急。話を聞き次第、現場に向かって」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタに、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう告げる。 「まず目的。アーティファクト『れいこさん』の破壊。この人形型アーティファクト、理由は分からないけれど、とある街で異様なまでの数が広がっている。『おまじない』と一緒に」 友人だと互いに信じあうメンバーが、特定の言葉で誓いを立てた後に土に埋めれば、『れいこさん』はその中に『裏切り者』が出現した時に罰を与えてくれるのだという。 「この場合の『裏切り者』が何を指すのかは分からない。曖昧。だけど、その町内の小学校では、互いの信頼と友情を試す為の儀式として噂が浸透している」 非合理的で何の実もない確認ではあるが、拒否すればそれこそ『友情』を疑われかねない。 故に、この『おまじない』は子供らの口から口へ、或いは秘密の手紙を通して瞬く間に広がった。 誰かが意図して撒いた噂とアーティファクトなのか、戯言に過ぎない噂がたまたまアーティファクトの人形を用いた事でその増力と増殖を招いたのかは分からない。 ただ、『れいこさん』は子供らの疑念や不安を吸い、力を付けていると少女は言う。 「本来なら『れいこさん』を探して回収して貰うはずだったんだけど、その必要はない。蜂巣・ハルトと一座木・さくら。アーティファクトの回収を主に行っているフィクサード。ほぼ全て、彼らが回収済み」 けれど、彼らから奪えという訳ではない、とイヴは付け足す。 「彼らが最後の一個を回収しようとした時、『れいこさん』がその場で発動して彼らと一般人を襲う。 ……で、前にもこの二人に関わる案件を受けてくれた人には分かってると思うけど、彼らは基本的に穏健派。流れでこの少女らを守る」 ただ、彼らが助けられるのは二人が限度、とイヴは首を振った。 少女らは恐怖で動けない。 一座木が二人を抱え逃亡し、蜂巣が逃げる彼女らへの攻撃を防いだとして残る三人はノーマーク。 「二人を安全圏まで連れて行く頃には他の三人は死亡する。故に彼らはれいこさんを放置しその場から逃走。彼らはリベリスタじゃないから、暴れる神秘に自己防衛以上に介入する気はないみたい」 イヴは肩を竦める。仮に戦ったとして、それなりに実力のある彼らにも討伐は可能だが、数の問題で時間が掛かる上に効率が悪く、あまり長引けばそれだけ人目にも付く危険性も上がるだろう。 なので結局は、リベリスタが介入するのが早い、という話だ。 「『れいこさん』の出所も気になるし、ね」 フィクサードの存在は今回の依頼達成の害とはならず、使いようによっては事が楽に運ぶ、と少女は向き直った。 「それと。前回彼らの経歴調査を依頼したリベリスタがいたので。一座木に関してはここ数年の間に革醒したのだろう、という事だけ判明。蜂巣は、過去はかなり性質の悪いフィクサード組織に所属していたみたい。今生き残ってるのは彼だけ。他は全員、数年前にアークとは別のリベリスタのチームに掃討された」 どういう経緯か分からないけど、彼らが組んで活動を始めたのはその組織が壊滅した少し後。 「現状の活動とはあまり関係がない……と、思う。存在するだろう現在のバックも気にはなるけれど、今彼らを捕まえた所で有用な情報が得られるとは限らない」 なので、最優先はアーティファクト『れいこさん』の破壊と少女らの無事、と少女は紡いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月08日(日)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 眩いばかりの夕日が差し込む室内。 過去は生徒と喧騒で満ちていたはずのそこは、異様な場と化していた。 次々と浮き上がる人形。幼い子供ほどもある人形が、床すれすれで、窓の傍らで、蛍光灯を外された天井の近くで笑っている。 派手な緑色の頭をした男は口の端に笑みを浮かべながらも、視線を忙しなく巡らせていた。 隣に立つ一座木・さくらはすぐに飛び出せるように前傾姿勢を取り、少女らの誰かを捉えるべく隙を窺う。 彼女が抱えられるのは二人が限度。 残した三人は、恐らく死ぬと分かっていた。歯噛みしても変わらない。 誰を助けるか。命の天秤。 ほんの一瞬の差で、生き残る者と死ぬ者が決まる。 コップ一杯に張った水に一滴ずつ垂らされる雫。表面張力の緊張が破れて決壊する前に、コップを置いた机が揺れた。 たん、と飛び込んだのは、残像写す『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)その人。 「ルカ、羊、ソミラ。また会えてうれしいわ」 「……お前」 名乗り。薄く笑いながら告げたルカルカに、さくらは軽く目を見開いた。 割り込むように多目的教室であった場所に入り込んだのは、彼女一人ではない。 「う、うわ、人形もこれだけあると怖いよね」 小柄であるが故に、その圧倒感も他の仲間よりも強烈か。『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は所狭しと犇めき合う人形に不安げに視線を走らせた。 オカルト染みた噂。こっくりさんにエンジェルさん、呪いの人形に秘密の呪文。 子供がそれらを好くのは、未だ道理を知らぬが故に迷信を飲み込むのか。 それとも知識が足らぬ故に、感覚で得るそれらを察するのか。 既に神秘に触れ、神秘の領域に住む身であるアリステアには分からないが、信頼を試す行為に関しては首を傾げざるをえない。 「実際に見るとまた……奇妙なアーティファクトですね」 噂の拡散、その通りに存在するアーティファクト。『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301) は目を細める。 ただの偶然であれば構わない。時に偶然は重なり奇跡と呼ばれる類を起こす。 この偶然の重なりは決して良い奇跡ではないにしても。 しかし、それよりも今は注意を払うべき事がある。 「まずはその子らを!」 「僕らが前で耐えます」 頭を抱えて座り込む少女に視線を向け、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)と浅倉 貴志(BNE002656)が周囲と頷き合った。 原因は二の次。そこで害されようとしている命があるならば救わねばなるまい。 ひゅう、と蜂巣・ハルトが口笛を鳴らす。 「やっはァカッコいいねリベリスタは」 「フィクサードの尻拭いがリベリスタのお仕事、ってね。貸しにしといてあげるわん」 「あーあれだね綺麗な薔薇には何とやらで綺麗なお姉さんは流石に抜け目がないねじゃあ俺ら帰っていい?」 ちろりと唇を舐めて微笑む『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)に、ハルトは己とさくらの位置を測りながらじりっと後退。 が、その背後にも鳥影一つ。 「やあきみは前に会った以下省略! 人命超大事だから今日はお遊びはなしだよ!」 「えっあひよこさんだ何こないだ俺弄ばれてたのやだ小悪魔じゃねやっべでも助か……るのかないきなり仲間割れとかしないよね必殺技で」 「そこらのリベリスタ以下略はあとで見せてあげるから! ちょっと手伝ってよ蜂巣ハルトくん!」 「いや秘めておいていいよ! え、手伝うって何を」 『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)の言葉に訝しげな表情を浮かべるハルトの斜め横、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)がさくらを一瞥した。 現状この二人と自分達は犠牲を出したくないという一点においては同様だと思いたい。 睨み付ける少女の視線を受け流し、簡潔に言い放つ。 「一座木と蜂巣は少女を連れて避難しろ」 「……はあ?」 「この室内にいる限り庇い続けてくれるわ。それが嫌ならとっとと行け」 「んだよ、リベリスタ様がフィクサード信用すんの?」 「今この時点では、な。……ただし彼女らを無事に逃がさなければ心底軽蔑してくれる」 使い手の性格を現すかのように、無骨にも見える金属の手甲。 向けられるのは、フィクサードではなく『れいこさん』と名付けられた人形。 「こいつらは倒してやる。貸し一つな。さっさと逃げて自分達の身でも守ってろ」 阿修羅を翳し前に立つ優希の言葉にさくらは眉を寄せ、ハルトの様子を窺った。 竦められる肩。 「おっけおっけ、逃げないように見ててやるからお前ら戦えって言われるよりは万倍マシだね」 「じゃ、ルカと違うほうよろしく」 声を切欠に、三人が一斉に跳んだ。 さくらが近くの姉妹を引き寄せ、ルカルカが人形の合間を縫って滑り込んだ先で二人の少女の手を掴む。残る一人をハルトが抱えれば、一斉に向けられる人形の目。目。目。 「さて、悪いコはどこかしらん」 その視線を受け止めるようにおろちが前に出た。 深い湖沼の瞳が浮かび上がる人形を捉える。 紛れ込んだ鏡、数で押すだけかと甘く見て攻撃すれば牙を剥くトラップ。 けれど彼女の視線は罠を踏み抜かず曝け出す。 ――最初から、アタリ。 「三番目の窓、今サッシに触ってるれいこさんは攻撃しちゃダメよ!」 「了解です」 「分かったよー!」 カラーボールを構えたアリステアだったが、ノエルも同様の動きを見せた事で行動を切り替えた。 弾ける赤、ダメージはなくもまるで血のように人形から滴る。 自分達が来なければ少女らの誰かがそうなっていたのか。 ふう、と息を吐いたアリステアは両腕を翳した。 「皆頑張ろうね、痛いのは全部治すからっ!」 舞い降りる加護。 彼女の翼を小さくしたような擬似の白が、飛ぶ事が敵わないリベリスタにも力を与える。 「よし、来い!」 おろちの隣でエルヴィンが人形を手招いた。 アリステアと同じ癒し手ではあるが、彼は前衛支援型。 体力面で引けを取る訳ではない、攻撃を受けたのならば癒して耐えて見せよう。 巡る魔力が体内で量を増していくのを感じ、彼は笑いながら人形を睨め付けた。 「通さない」 ルカルカが手を引く少女を指さした人形の前に、貴志が立ちはだかる。 黒い矢。裏切り者を指し示す矢。 肩に刺さるが、大した事はない。ただ、これを無数に重ねられれば厄介か、と軽く眉を寄せる。 身を挺して立ちはだかるが故に、突き刺さる矢。 擦れ違い様に囁いた言葉は、果たしてどれだけの効果を持っていたか。 優希は矢の残滓を振り払いながら思い返す。 軽薄な男がサングラスで隠した目にどんな色を浮かべたのかは分からない。 ただ一瞬だけ動きが止まったのは確か。 例えこの場だけとは言え、味方の数が増えるなら、越した事はないのだが。 少女らへ攻撃が及ぶ事を避けて完全な防戦に回ったリベリスタの前には、未だ数を減らさぬ人形が笑っている。 ● 駆ける人々へと巻き戻し。 「フィクサードならほっておけばいいのに」 「やー俺もそう思うんだけどねさくらちゃんほら優しいかぐふっ!?」 「下らねぇ事喋ってねぇで走れよ阿呆」 「さくらちゃん走ってる最中に脇腹は痛いから勘弁して下さいやだもう癖になっちゃう」 「ね、ルカたちあれ倒さないとだけど、さくら達も手伝って? や、でしょ、ルカ達に借りつくるの」 「……借りもなんもお前らが勝手に来ただけだろうが」 「うん。でもルカの借りはトイチなのよ」 「だから聞けよ人の話」 「"Coda"……組織名? ルカ達の秘密の情報網。知ってるの、でも知らないからお友達として知りたいわ」 「組織名。ああそうか、そうだね、……神の目も全知全能じゃない訳だいや分かってたけれどね全部分かる訳もないかうんじゃあそういう事でいいよ俺らの仕事先は"Coda"それで良くねそういう事にしといてよ」 「投げやりね ほんと?」 「あっ傷付くお友達の言う事信じてくれないのルカルカさんってば」 「ルカ、二人と一緒に戦ってみたいの、弱くないんでしょ?」 「……わあったよ、あの人形ぶっ壊せばいいんだろ」 「ああ、はいはい後々まで言われるのもキツイしねえトイチじゃ尚更だしほっといてお兄さんにさくらちゃん口説かれるのも嫌だしねえ」 「は?」 「うーうんこっちの話」 ● 滲む赤は二つ。 少女らの離脱を確認したリベリスタは防戦から反撃へと転じていた。 とは言え数は暴力。最も辛いのは、敵の多い序盤。 一気に優劣が覆る訳でもなく、襲い来る攻撃は確実にリベリスタの体力を削った。 時には少女と青年の二人がかりで一人を癒し、戦局を保つ。 頼りになるのはおろちのエネミースキャン。 約二十体を見る間に『当たり』、もしくは『外れ』というべき物理反射の特性を備えた個体を二体発見できたのは幸いだっただろう。 「……どうやらこれ自体に知恵はなさそうですか」 安全と示された一体に向けて、ノエルが薄く輝く槍を振るう。 既に数撃を掠りながら重ねられていたそれは、腹を貫かれて動かなくなった。 観察していたが、人形達に互いを庇ったり注意を払ったりする様子は欠片も見られない。 時折囁くように『うらぎりもの』『うらぎりもの』と呟き攻撃する以外は、どれもこれも全く同じ動きしかしない。 自律して動いている――というよりは、『スイッチを押されたから、予定通りの行動をしている』だけだ。道具としては正しいのだろう。 「んじゃ、ともかく分かったのから潰してくのがいいかね」 エルヴィンが呼ぶ歌が、残るリベリスタの傷を癒す。 笑いながら、笑ったまま周囲に浮かぶ人形から放たれる矢は無作為だ。 少女らがいなくなった後は回復手を狙うような頭もなく、無差別に飛んで来る矢は時にターゲットを重ねた。 確かに人形は強くはないが、攻撃を真っ向から当てられないのが問題であった。 高い威力の一撃も、掠るだけではあまり効果がない。 けれど、人形の攻撃が弱くとも重ねられれば脅威な様に、掠っただけだとしても重ねる事には意義があった。 「くらえ!」 比翼子の足に持った剣が残像を描きながら人形を切り裂く。 中身は綿であるはずなのにどうにも重く、どさりと頭や上半身が床に落ちた。 「うー、ずっと同じ顔なのもなんかやだ……!」 「ふふ、少なくなったらいきなり怒り出したりするかしらん」 「それも怖いよー!」 掌でカラーボールを転がしながら、アリステアはおろちが最後の一体を見付けるのを待つ。 当然意識は仲間からも逸らさない。誰も怪我をさせずに帰る、それが彼女の目標だ。 優希が放った真空の刃は、少し離れた人形へと傷を付ける。 マーキング、動く人形への対策として『これは大丈夫』と示す印。 彼の一撃が敵を捉えたその時に、少女の両足が跳んだ。 渾身の力と闘気が、彼女の構えた太刀に漲っているのが分かった瞬間、人形は弾き飛ばされていた。デュランダルと呼ばれる仲間らが扱うメガクラッシュに似たそれを放ったのは、さくらだ。 酷く酷く不機嫌そうに、優希を睨む。 超幻視を解除したさくらは、首筋から顔のほぼ半面に掛けて硬質な金属に覆われていた。 同類か。目を眇める暇もなく、悪態が少女の口から零れる。 「倒すとか大口叩くなら一発で潰してみせろよ、バーカ」 「……ふむ。多少は根性があるようだな」 眉を上げたのに気付いたかどうか、さくらはあっさり背を向けて他の人形に目を向けた。 遅くなったのよ、と呟きながらルカルカが戦列に舞い戻る。 振るわれる槌が人形を叩き落とすのを見ながら、ハルトは手袋に似た手甲を腕に嵌めた。 「んもーさくらちゃん積極的なんだから俺に対してもそんくらい積極的に飛び込んで来てくれれば俺それ以上何も言わないのになあ」 「あ、赤いの危ないよ!」 「うんありがとう聞いてるよでも俺多分アレ狙うのに向いてるから大丈夫よアリステアさん」 「え?」 己の名を呼ばれた事に少女が首を傾げる前に、銃弾が踊った。 頭部のみを執拗に撃ち抜いたそれは、赤ペイントの一体を墜とす。 「……参ったねえあんま有名所とは関わらないで地味にひっそり生きてたいんだけどさあ俺」 「いたわ、最後の悪いコ」 ハルトの呟きに重なる様に、おろちの声が響き――赤いカラーボールが弾けた。 ここでリベリスタの向きは、完全なる攻勢に変わる。 「よーし、もうちょっとだよ、頑張ろー!」 少女の明るい声が、仲間を鼓舞した。 「さっさと決めてやろうぜ!」 戦列に増えた三人。それは一人当たりのダメージの分散が図られた事も意味する。 エルヴィンは全員の傷が深くないのを見て取って、ノエルによって色付けされた人形の一体を十字の光で撃ち抜いた。 落ちていく。 浮き続ける人形が、一体、二体と落ちていく。 「裏切り者なんて、ココにはいないわ」 だからね、『れいこさん』、あなたはもう眠っていいのよ。 囁いて、おろちがステップを踏む。眠りへ誘う為のダンス。覚めない眠りへ。 集中を伴い踊られたそれに、一気に人形が数を減らした。 「さあ、カウントダウンです」 ノエルが槍を振るう。 雷撃を纏わせて、痺れる手も構わずに人形を刺す。 そして。 「これで終わりだ!」 優希の拳が、最後の一体を床に叩き伏せた。 ● 「サンキュ、あんたらのおかげで助かったよ」 「ふふ、あのコ達も無事。有難うねん」 「……」 笑顔で握手を求めるエルヴィンと、微笑むおろちに一瞥。 当然の如く無視したさくらは、再び幻視を纏って足早に歩き出した。 「はは、なかなかガード固ぇなー。でもソレが良いってヤツもいるし、アンタもそんなクチ?」 「やだ落としにくいからさくらちゃんが好きじゃなくてさくらちゃんがさくらちゃんだから俺はさくらちゃんが好きなのよあれ早口言葉になりそうじゃね?」 冗談の如く二人の関係に水を向ける青年に、ハルトもおどけて返す。 そんな会話に一度舌打ちしたさくらは、落ちた『れいこさん』をワイヤーで縛る優希と一瞬目線を合わせ、互いに目を逸らした。 ルカルカの呼び掛けも切り捨てて部屋の外を出て行くさくらを追おうとするハルトに、比翼子が声を掛ける。 「なあハルトくん、前にリベリスタになるには理由がいるとか言ってたね」 「うん?」 「あたしはね、あたしの家族と仲良く過ごしたいだけだよ!」 世界を守る事は、家族を守る事に繋がるからそのついでに過ぎないと。 笑う比翼子に返されたのは、苦笑。 「……『ついでに』世界守るって考えになる辺りが多分もう違うんだろうね」 やっぱり俺はそっち側には行けそうもない、と手を振るハルトの真意は今日もサングラスの中。 派手な姿の男が歩み去るのを横目に、優希は引き寄せた『れいこさん』の一体を見る。 不明瞭な噂。 曖昧な裏切り者。 少なくともこれだけの数のアーティファクトの場所を把握しうる彼らが、発動の条件を知らなかったというのは有り得るのか。 もしくは彼らでも知り得ない、外部要因が原因だとしたら――。 首を振る。一人で考えても詮無い事だ。 首を切り落とされた『れいこさん』は、それでも笑っている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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