● 「テ……ッめえら、俺を誰だと思ってやがる! こんな事してタダで済むと思ってんじゃねぇぞ、あぁ!?」 口からダクトテープを引き剥がされた途端、男は喚き始めた。 言葉だけは威勢が良いが、その声には怯えが色濃い。男の四肢は未だ拘束されたままであり、目隠しのように顔に巻きつけられたダクトテープも取り除かれていなかった。 「喚くな、見苦しい」 低い声が辺りの空気を震わせる。 決して強い口調ではなかったが、拘束された男は打たれたように息を飲む。 しかしその後、言葉が次がれない事を知り、男の舌は再び回転を始めた。今度は先程より静かな口調で。 「てめえら、リベリスタか……?」 「いいや。我々もフィクサードと呼ばれるものだよ。一応、分類上はな」 「なら、益々もってわからねぇ。俺達の組織は何処とも利害対立なんざ無かった筈だぜ……」 崩界を食い止めるのがリベリスタ。ならば崩界に加担するのがフィクサードかと問われれば、必ずしもそうではないという答が返る。 無論それを至上目的として行動する者も居るが、殆どのフィクサードは自らの欲望に忠実に行動し、それが結果的に崩界を促進する事へと繋がるだけだ。 よって利害が対立すればフィクサード同士が抗争に発展する事もある。無論組織の力関係が存在する上、抗争自体が齎す物など然程多くは無いので、その頻度は稀であると言って良いのだが。 だが、声の主は笑ってみせた。男の打算に塗れた思考を笑ってみせた。 「考えるのは無駄な事だ。貴様達のようなチンピラと違い、我々軍人は利益によっては動かない」 ただ、為さねばならぬ事を為すまでだ。そう声は続ける。 男は混乱していた。軍人ってのは何だ、イカレたフィクサードにありがちな妄想か? そして真っ暗な視界の中、冷ややかな物が全身に降りて来るのを感じた。もしこいつらが単なる狂人なのだとしたら、自分は何を喋ろうが助からない。リベリスタにとっ捕まった方がまだマシだった。 「では、晶。教えた通りにやりたまえ。少なくとも72時間は殺すな」 「はい……お父様」 奇妙な足音を残して何者かが退く気配。それに続いて、軽い足音が近づいて来る。 不吉極まりない唸り声のような音色を伴いながら。これは、何処かで聞き覚えがある。 これは――ガスバーナーの立てる音だ。 「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 絶叫が響き、何人もの男達の笑い声がそれに重なった。 ● モニターを見つめるリベリスタ達。既に映像は終わっているが、誰も口を開かない。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、やや離れた椅子に座って彼等を眺めていた。 その顔色は蒼白と言える程に白かったが、それも無理はあるまい。 今まで流されていた映像とは、彼女と同じくらいの年齢の少女が4人の男性に見守られながら、椅子に拘束された一人のフィクサードを少しずつ解体してゆく映像だったのだから。 「……今回の任務は、フィクサード集団『御楯の会』の壊滅」 それは構成人数20人ほどの、小規模なフィクサード組織である。 元自衛官であり非公式にベトナム戦争へと参加、その際の負傷が元で除隊した、自称『中将』忌塚・陽一が立ち上げた組織で、10年ほど前から活動を活発化させ、同志を募っている新興の集団だ。 フィクサードにしては規律正しく、その活動も自らの研鑽のためか、エリューションとの戦闘やアーティファクトの収集が主である。資金調達にも合法的手段を用いている。 それだけを聞けばリベリスタを名乗っていないのがおかしいくらいだが。 「2年ほど前から変質。もっとはっきりと言えば、忌塚の娘である晶が参加した時から、手段に強引な……というか、組織の維持を考えるなら常軌を逸したものが増え始めた」 非合法な資金調達。エリューションやアザーバイドの捕獲。リベリスタ、フィクサードへの攻撃。 先に見た映像は、拷問方法の実践なのか。それとも殺人の度胸付けなのか。 何故との問いに答えは返らない。五十半ばになって儲けた一人娘がフェイトを得、この組織へと加えられた事が引き金になっているのだとすれば、多少の推測は可能かもしれないが。理解が出来ない事に変わりは無い。 そしてどのみち、あんな事を続けていれば、放っておいてもフィクサード同士の抗争で潰されるのだろう。 「でも……貴方達はそれでいいと思う?」 イヴは問いかける。 「人の性向を決定付けるものは、半分は遺伝子で半分は環境。そう言うわね。でも人の運命を決定付けるものはどこまでもその人の意思。私にはあの子が選択を済ませたとは思えない」 しん、と静寂が落ちる。 映像の中でフィクサードを解体していた少女は、硝子球のような目をしていた。 「私の我侭みたいな依頼内容だけれど、あの子に選択をさせてあげて。その上で、フィクサードとして彼等と共に歩む事を選ぶのなら、眠らせてあげて。それが今回の任務達成条件」 言って、イヴは標的5人の資料を卓上へと静かに滑らせた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:RM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月27日(火)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 赤く塗り込められた記憶。 人と、かつて人であったものと、人ではないものの血と臓腑の匂いに塗れた記憶。 その時から、父に笑顔を向けられた覚えは無い。覚醒した事を知った時、父の表情は漂白されていた。 同時に運命に愛された事を知った時、その顔は深い悲しみに彩られていた。 それ以降、父の顔に感情が表れたのを、私は見た覚えが無い。 廃ビルの前には8つの影が寄り添っていた。リベリスタ。この世界で抗う者達。 内部には標的5名と囚われた1名、6人のフィクサードが居る。哀れな犠牲者の悲鳴も此処までは届かず、しかし幻聴を聞いた気がして、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は僅かに顔を顰めた。 それは現在ではなく過去から響いて来る声。かつての記憶が鳴らす、苦さを伴う響きだ。 「では、打ち合わせ通りに。俺の合図で突入してくれ」 『Dr. Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が告げ、するりと壁の中へと身を沈ませる。 『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)と『素兎』天月・光(BNE000490)は肯いて、軽い靴音と共に二人の姿はかき消えていた。否――壁に足場を取り、天井へと身体を吸いつけたのだ。 (2年前にいったい何があったんだろう……) 気配を殺しながら、光は口中にごちる。 陽一は晶が可愛いには違いないが行動が矛盾している。 今の彼、そして彼等を動かしているのは何なのだろうか。 「御楯の会、ね……」 闇に身を潜ませながら、『彼岸の華』阿羅守 蓮(BNE003207)は呟いていた。 一つの仮説は立ててある。彼等の方針転換は果たして何を要因とするのか。 「となると、俺が話をするべき相手は……」 ふ、と息を吐き、揺れるまばらな照明が作り出す、僅かな翳にその身を溶かして行く。 『第9話:香夏子復活』宮部・香夏子(BNE003035)と『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)は音も無く廊下を進んでいた。標的の存在する部屋まではあと少し。 クローチェは、今回選択を強いる相手が、このままであればどのような道を辿るか知っている。 それはかつての自分と同じ道だ。そして彼女が自ら選び、別った道でもあった。 だからそれは歩ませない。結末がどのようなものになるかは、未だ見えないけれど、ここで。 「準備は?」 「大丈夫だ。……行けるさ」 問われて、楓・巽(BNE003314)は片方だけ残った肉の瞳に意思の炎を燃やす。 もう片方の瞳は機械の冷たい光をたたえていた。 「絶望も死も、もう充分だ」 そうだな――と、雷慈慟はその若き男の呟きに、肯かずにはいられなかったろう。 どの戦場でも吐かれ、そして血の染み込んだ大地へと消えていった言葉。 だからこそ人は繰り返す。その言葉と行為を。 炸裂音にやや遅れ、室内へと踏み込んだ彼。 その処理能力を向上され、視野を拡大された脳は、スローモーションのように景色を捉えていた。 ――ああ、良く見たものだ。こういう状況は。 灼き落とされた指は肌色の芋虫のよう。室内には蛋白質の焦げる異臭が漂い、椅子に座らされた男の口と、手足の拘束された部位からは暴れて裂けたものか、血が流れていた。 それを見る者、そして自らそうした者は、己に覚悟を刻み付けるのだろう。同時に己が囚われた時どうなるのかも。 やり口は軍というよりゲリラ。そして自分の娘へ行う教育としては些か度が過ぎるが。 しかし、そう。やはり良く見たのだ。こういう状況は。 ――自分も昔、やらされたのだから。 ● 壁から不意に現れるオーウェンに、御楯の会に所属する男たちは即座に反応できなかった。 ただ一人、晶だけが既に得物を引き抜いている。 しかしそれは織り込み済み。構わずフィクサードへと接近し、J・エクスプロージョンを起動する。 噴出する圧力に、木の葉のように吹き飛ばされるライフル持ちと軍刀を提げた男。残る一人が漸く銃のスリングを肩から外して射撃の準備を整えるが、それに対してオーウェンは不敵に笑う。 「いいのかな? こちらだけに目を取られて」 同時、部屋の入り口から他の襲撃者が踏み込みつつある事は、片腕片足を義肢へと変えた男――『中将』にも見えていただろう。 しかし、その男は唇に薄い笑みを刻む。感情によって動かされたものではない歪んだ笑みを。 「構わん。……そいつを先に潰せ。後藤と私が後方を押し留めよう。晶は援護だ」 「……はっ!」 パニックに陥りかけた男達が瞬時にやるべき事を思い出す。軍刀を引き抜き陽一に付き従った男が入り口方向に立ち塞がり、オーウェンは晶とライフルを持つ二人の男に囲まれる。 「あれでは合流が出来ん。早急に一人落とすぞ」 「……分かってる」 まず始めに狙う相手はソードミラージュ。 こちらへ向かって来るのであれば好都合と、天乃は全身から気糸を紡いだ。 「……止まれ」 「くっ!」 気糸は敵を締め上げるが、完全に拘束するまでには至らず。 技量は自分より若干劣る程度か。相手の動きを見ながら、天乃はそう判断する。 それと前後して、天地逆に天井を駆けるクローチェと光。そのまま光は中将を標的と定め、クローチェは晶を抑えるべく敵陣後方へと突っ込んで行く。 「……助けたわけじゃない、邪魔なだけだ」 巽は椅子に拘束されていたフィクサードへと突進し、部屋の隅へと転がしていた。 吐き捨てるように呟いて、後は振り向きもせず戦いへと向かってゆく。 無数の蜂が唸るように打ち鳴らされる銃声。ハニーコムガトリングの暴風に耐えながら、雷慈慟は気糸を張り巡らせる。狙いは技量に優れる二人の拘束。 「中将、貴方が娘に課す事を成せば、残るはただ修羅道一つ。それをお望みか?」 同時に低く、しかし戦いの喧騒には埋もれない明瞭たる声で、問いかける。 「何故、愛するものに血塗られた道を歩ませようとするんだ!」 ソードミラージュの動きを読み、回避方向を見切ったブロードソードを叩き付けながら、巽は声を張り上げた。 「成る程……リベリスタか。事情をやけに知っている所を見ると、噂のアークとやらだな」 光と切り結びながらも静かな声が返ってくる。 「笑わせるものだ。お前達の歩む道が血塗られていないとでも云うつもりかね?」 「何を……!」 「足を止めます、その隙に」 影を従わせながらブラックジャックを放つ香夏子。頭部を強打された男がよろめく。 「心得た」 次いで、蓮が振るう足からかまいたちが生み出され、軍刀を持つ男は漸くにして膝をついた。 こちらはもう良いとして、オーウェンとクローチェが戦いを演じているライフル持ち二人の方へ。 味方が倒れても言われた通りオーウェンを攻撃対象とし続けるスターサジタリー達に、彼は苦戦を強いられていた。 「だが……これで挟み撃ちの態勢にはなった」 片目を瞑りながら、オーウェン。手近な標的にピンポイントを打ち込み、注意を惹き付ける。 彼と背中合わせになるようにして、クローチェは晶と対峙していた。彼女を前にしながら回避のみにつとめ、ハニーコムガトリングで戦場全体の削りに専念する晶は非常に厄介だ。 数の優位を感じられないほどに、リベリスタ達の体力は削り取られてゆく。 「父親の指示がなければ何も出来ない。今の貴女はまるで操り人形ね」 眼前の硝子球のような瞳に向かい、語りかけるクローチェ。その瞳には宙に舞う膨大な真鍮の輝きしか映っていなかった。悲鳴も、疑問も、命乞いも説得も、倦むほどに見て最早意味をなさないのだろうか。 ならば、やはり――その瞳を動かすための言葉は、はじめからこの場に置かれ、伏せられた札にある。 ● 「東、黒澤。晶の脇へつけ! その位置では喰われるぞ」 自分が抑えられているだけであり、狙いが部下の二人に向いている事に気付いた陽一が指示を出す。 自身は目の前の光にギャロッププレイを発動。部下の支援に回ろうとする。 「陽一、晶くんのお母さんはどうなったの?」 その背には光の言葉が投げかけられていた。 「……あれは、死んだ」 振り返りもせず吐き捨てられる言葉。 彼女も同じ所に眼をつけていたか、と思いつつ、蓮は自分の想像が間違ってはいなかった事を知る。 「うおぉぉぉっ!」 自分へと接近する天乃に、雄叫びを上げながらライフルを向ける男。肩口を抜ける銃弾に天乃は軽く顔を顰めるが、構わず男の体へと死の爆弾を植え付ける。 「……爆ぜろ」 爆発。ものも言わずに倒れる男。残る一人は拡散する光弾を放ち、リベリスタの側もダメージの蓄積されていた二人ほどが膝を折るが、フェイトを燃やして再び立ち上がる。 「……流石に、手強い。でも、それがいい……お人形さんには、わからないだろう、けどね」 背後にその気配を感じながら、天乃。雷慈慟は残る一人にピンポイントを放ち、好機と見た蓮は斬風脚を飛ばして最後のスターサジタリーを沈める。 「一人娘だ。……さぞかし大切なのだろうな」 前後に分かれ、まるで娘を守るような形となった陽一へ、オーウェンは言葉を投げかけていた。 「生きるための残酷さを身につけさせるため、と言った所か?」 巽に退けられたまま、部屋の隅へと倒れているフィクサードを一瞥して言う。 「それだけならば、ここまで手間を掛ける事も無い」 陽一はそう答える。 「貴方が真の意味で楯であるなら、護るべき者が居るでしょう。それを武器に仕立ててしまって、貴方は後悔しないんですか」 自分へ向いた攻撃を捌きながら、蓮。問われた側はその言葉にぴくりと顔色を変えるも、無言。 ダンシングリッパーがリベリスタを刻み、香夏子は返礼のブラックジャックを放つ。 クローチェは横合いから晶と切り結んでいた。愚者の聖釘が腕を切り裂き血を舞わせるが、痛覚を遮断した晶は顔色を変える事も無い。 「身体の痛みは感じなくても、心の痛みまでは消せないわ。私もそうだった……だから、貴女の心の声を聞きたいの」 「私は……迷いなんてない」 しかし、初めて彼女は言葉を発していた。それを聞いた陽一の顔には苦さが浮かぶ。 「アンタは親父さんを愛しているんだろう。だが! 抵抗もできない人間を解体する事が好きか? 誰かを嬲るのが楽しいか? 違うだろう! ただいいなりになることが、アンタの愛か!?」」 巽は必死で言葉を紡いでいた。晶の眉間には深い皺が刻まれる。 「娘が可愛いという気持ちと自分の抑えられない気持ち、大切なのはどっち?」 光は問うが、返答は刃だった。この言葉では引き出せないのか、と歯噛みする光。 結局、決め手となったのはこの戦況それ自体と、そしてオーウェンの言葉だった。 「中将……今回受けた任務に、娘さんの殺害は必ずしも含まれて居ない」 目に見えて陽一の動きが鈍る。それを肯定するように、彼は自嘲の笑いを漏らした。 「……その言葉は有効だ。口惜しいが、こんな娘でも死なせたくは無い」 恐らく、敵がもし撃退出来ないような戦力であっても、最前線に立つ自分が倒されれば一人二人は逃げ延びるだろう。その中に娘は確実に入っている、そういう心算であったに違いない。 「こんな……?」 顔色を変える光。晶もまた、表情に疑問符を浮かべていた。 「お前には失望した。この2年、私はお前に己の全てを伝えた筈だが、お前は一度として意味を考えようとはしなかったな。私が片手片足と引き換えとはいえ一度の戦争で学べた事が、お前には学べなかった」 陽一の言葉は続いてゆく。 「間違っていると分かっていても従うのが軍人ではあるが、それにすら気付かないのはただの狗だ」 これを以て最後の授業とする。そう言い捨てて、陽一は突進して行く。 ● 「リベリスタ……お前達も、余計な事に首を突っ込むものだな」 笑みすら浮かべ、陽一。 「雁字搦めに自分の手足を縛りながら、どうしようもない物に向って行く。少なくとも私には名乗れん」 「だとしても、それは自分自身が選んだこと」 クローチェは一撃を弾く。両腕を揃って流された陽一に出来る一瞬の隙。 「貴君等同様、此方も躊躇いは無い!」 雷慈慟は陽一の頭部に向かいピンポイントを放つ。それは狙い違わず眼球を直撃し、破裂させていた。 次いで香夏子が一撃を加え、ひどく苦い顔をした光が一撃を突き入れる。 誰が見ても分かる致命傷だった。晶は信じられないとでも言うように、細い膝を落とす。 「…………私は、全てに失敗したな……。後悔は、無いが」 片手半の長剣に貫かれたまま、長く息を吐く陽一。そして、彼は初めて晶に笑みを向ける。 「当部隊の指揮を解き、父親として言う。……お前も、悔いが残らぬように死ね」 それだけを言って絶命する。暫くの間、重い沈黙が落ちた。 「ずっと軍人だった。でも、ずっと家族でもあった。……止められなかったの?」 俯きながら荒い息を吐く晶に、光は問いかける。 こちらを見てすらいない彼女を、今倒す事は簡単だったろう。しかし彼女には一つの選択を行わせなければならない。自らの意思で、この先進む道を。 だが、選べるのだろうか、とは当初からリベリスタ達が抱いていた疑念だ。目の前で父親を殺され、その相手に降る。それは選択と呼べるのだろうか。父を憎んでいたならまだしもとしても。 だから、どちらでも構わない、と香夏子は、天乃は思う。 ただの人形ではなく意思ある敵として相対するなら、その方が良い。 「あなたの道は、三つ。……人形として、戦わされて壊れるか。人として、抗うか……人として、手を取り合うか。……どれを、選ぶ?」 長い長い沈黙を続けて、ゆらりと立ち上がる晶。 俯いたまま、彼女は左右の手に持った銃器を床に投げ出す。 「……投降、します……」 搾り出すように吐かれた言葉は、掠れるほどに小さなものだった。 「でも、私は貴方たちのようになる事を選べない……今は」 乱れた前髪の奥に疲れた目が覗く。それはもう硝子球ではなかったが、幼さは感じられない。 実年齢に見合わない、この一戦闘の間に急速に老いたような、そんな瞳だった。 「そうですか」 香夏子は言う。 「では、悩んで下さい。もしリベリスタを選ぶ事になるなら、その時は美味しいカレーを作ってくれる人を教えてあげるかもしれません」 「……我々の組織は君程の子が沢山居る。生きる術は学べるだろう」 告げる雷慈慟。 「貴女はまだ自分の道を歩んでいない。この先何を望むのか……それは貴女が決めなさい。運命は、どんな時でも変えられるのだから」 そして、クローチェは晶を促し、部屋から出ていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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