●承前 いつものように階段を下り、笑顔を向けて挨拶する少女。 彼女は学校でも評判の長髪の黒髪、スレンダーな眼鏡美人。 成績は優秀。部活動は弓道で、熱心に取り組んでいる。 「今、片思いをしているの」 そう彼女はクラスメイトに打ち明けていたが、誰もこの子に告白されたら嫌がらないだろう。 そんな素敵な彼女が自宅へと帰って、親への挨拶もそこそこに自室へと飛び込む。 壁の至る所に、片思いの彼の写真がびっしりと敷き詰められていた。 大好きな彼の視線に囲まれた部屋。 ベットに座った彼女は、ジッと写真の青年を見つめ、心の中で呟きだした。 (ずっと、あの人の姿を目で追いかけてた。 いなくなった同級生の神楽を探してるって話しかけてきた、探偵さん。 カッコ良かったの、ハーフっぽい顔してて優しそう。 背も高くて、なんかあたしの周りの大人とは違ってた。 あたしの知らない世界の人。 恋人とか、いないみたいだし。 だってあの人の事務所には、いつも仕事の人しか来なかったもん。 でも、違った。 あの女が、ある日手を繋いで事務所に入っていったのを見たの。 手を繋いでた、話ししてた、大きな胸見てた、笑顔浮かべてた、何より――。 あの女、ぴったりあの人に抱きつく様にくっついてた。 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺…………。 ちょっと前に、あたし恋占いしてきたのを思い出したの。 ミカ様はその時、あたしに言ったわ。 もし彼を自分だけの物にしたければ、この『人形』に命令しなさいって。 これを使って告白して、あの人のハートをあたしに振り向かせるの!) 視線の向こう側には彼女を無表情に見つめる、彼女と瓜二つの『人形』が座っていた。 ●依頼 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000018)は集まったリベリスタ達に淡々と話し始めた。 「皆さんに、エリューションゴーレム『写身の人形』の破壊を依頼します」 この『人形』に所有者の体の一部を与えると、外見がその人そっくりの姿に変身するようです。 最初は所有者に従い、命令を忠実に従う操り人形の振りをしていますが……」 やがて『人形』は所有者の行動を学習し、凶悪な自我を持ち出すらしい。 そしてフェーズが進行すると本体を殺して、本人に成り代わろうとするのだ。 「今夜、『人形』の所有者である春村待子(はるむら・まちこ)さんが殺され、『人形』が本人に取って替わろうとします。 そうなる前に、このエリューションゴーレムを破壊してください」 殺害は自宅ではなく、萬田ビルと呼ばれる雑居ビル。この5階に彼女と『人形』がやってきた時に行われるらしい。 「本体と『人形』は顔立ちや身体の特徴等、見分けが全く付きません」 だが外見が瓜二つでも、その能力は全く異なるらしい。 待子は単なる一般人だが、『人形』は強力な力を持つマグメイガス。と、考えれば早いだろうと和泉は付け加える。 「……皆さんも、誰かさんみたいに変な相手に恋煩いとかさせない様、気をつけて下さいね」 少しだけ悪戯な笑みをした和泉は、話を終えて出て行くリベリスタ達を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月28日(水)23:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●潜伏 横浜市、萬田ビル――夜。 老朽化したビルはあちこちが破壊され、住宅街の中に浮かぶ奇妙な廃墟の様な様相で佇んでいた。 幾度となく繰り返されたリベリスタ達の戦いの痕跡が、そこかしこに残っていて見る者に戦場を連想させる。 既にビルのオーナーも、かつて入っていたテナントも半数近くがいなくなってしまっていた。 その5階のエレベーターホールの先、6階から降る階段の物陰にリベリスタ達が待機している。 二丁拳銃の弾丸を確認し、待ち伏せに備えるアルジェント・スパーダ(BNE003142)。 「たまには人の運転っていうのもいいもんだ」 最近運転手の仕事が多いと感じていたアルジェンタだったが、今回自身は同乗しただけ済んでいた。 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は、自身が5階に止めていたエレベーターへと視線を向けていた。 するとエレベーターランプが下へと移動を始め、快は非常階段で見張る『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)へとアクセスファンタズムで通信を始める。 「……夏栖斗、エレベーターが動き出した」 その傍らで集中を続けている『鋼鉄の戦巫女』村上真琴(BNE002654)は、初手の引き付けの準備に入っていた。 「恋は盲目と言いますが、手段を選ばすともなりますとどうでしょうね?」 『七つ歌』桃谷七瀬(BNE003125)は5階の明日真探偵事務所に入り、周囲を確認して隠れられそうな場所を探していた。 「行き過ぎる想いは、周りを見えなくさせるよね」 今回の事件の発端となった赤塚冬子(あかつか・ふゆこ)に少しだけ同情した様子を見せる。 『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)は、軽く肩をすくめながら車の鍵をユウへ渡した。 「一度惚れたら一直線ってか?」 本人に悪気は無いのは理解できていたが、その一直線ぶりが今回の事件の大きな要因になったのは間違いない。 弾丸によってボロボロになった室内を見て、この部屋の主である明日真零(あすま・れい)を思い出して不意に笑む『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)。 「つくづく罪な男ですねえ、探偵さん……そして、あの占い師……!」 次に思い浮かんだのは、かつてユウが仲間達と共に倒したフィクサード、神木実花(かみき・みか)。 未だにこの占い師が過去に撒き散らしていた負の遺産が連鎖する現実に、何か不吉な影を感じてならない。 ユウと同様、『Lost Ray』椎名影時(BNE003088)もまた占い師を滅したリベリスタの一人だった。 「残骸サン、お掃除しないといけないですね」 彼女は事務所の明かりを点け、隠れるポジションを壊れた家具から自身で作り出している。 『黒鋼』石黒鋼児(BNE002630)は険しい表情を浮かべ、その義手の指を軽く鳴らした。 「……上等だ。きっちりぶっ壊して送り返してやる」 それまであの世でのんびりと待ってやがれ。と、実花へと心の中で言い放った鋼児。 突然浅倉貴志(BNE002656)が人差し指を口に当て、一行の会話を止めた。 彼もアクセスファンタズムの通信から、快と夏栖斗のやり取りを受信している。 「彼女と『写身の人形』が来ました。エレベーターから来るようです」 貴志の言葉に応じて気配を絶ち、家具や物陰に一斉に隠れるリベリスタ達。 ●分断 快はその瞳に透視の力を宿らせ、エレベーターを上がって来た両方の少女を見た。 2人の外見は鏡かクローンの様に瓜二つ。まったく見分けが付かない程の酷似な姿に驚かされる。 だが更に熱を感知する彼の瞳からは、右手側の少女の体温だけが感じられ、左手側の少女が周囲とほぼ同じ温度なのに気づいていた。 やがてエレベーターが開き、長い黒髪とスレンダーな体型をした眼鏡の少女達がエレベーターから姿を現す。 快は無言のまま指で左を示し、アルジェンタと真琴にターゲットを確認させる。 明かりが点いている事に期待を膨らませたのか、右手側の冬子は勢い良く事務所へ駆けていく。 ドアを開けて飛び込んだ彼女を待っていたのは、廃墟のような惨状の探偵事務所だった。 「何……これ…………探偵、さん……?」 奥へと入ってきた冬子を、追いかけるようにして入ってきたもう一人の冬子。 「残念、明日真サンは此処にはいませんよ」 声を発した影時が二人の前に姿を現す。 それと同時に2人の冬子の前に割って入る貴志。 「後から入った方が『人形』です!」 貴志の熱を感知する瞳にも、先に入った方が本物の冬子だと確認できた。 声が発せられたとほぼ同時に、入口の影に待機していたブレスが飛び出してバルディッシュを振り下ろす。 「そっちは任せたぜ?」 オーラを込めた一撃でガッチリと『人形』を抑え込みながら、彼はユウへと言い放った。 突然の乱入者に混乱する冬子の身体を、突然抱きかかえたユウはそのまま飛翔する。 「冬子さん。思い込みで突っ走るのは、良く無い傾向だと思いますよ」 驚く冬子へ話したのと同時に、ユウ自身も人のことは言えないと心の中で同じ言葉を投げ掛けていた。 彼女は冬子を抱えたまま、事務所の窓から外へと出ようとする。 『人形』が阻止しようとブレスのハルバードから逃れて飛び出そうとするのを影時と貴志、後から加わった鋼児が取り囲む。 「『写身の人形』だぁ?」 鋼児はユウ達が脱出するまでの間、自身の守りを固めてブロックに徹する構えを見せる。 「違うわ! あたしが冬子よ!!」 必死の弁解を見せる『人形』の背後。入口から姿を見せた階段から快がその退路を断っていた。 「逃がす訳にはいかない」 隣に入った真琴がその集中から十字の閃光を見舞って、『人形』の動きを止める。 告げた快の後方、エレベーターホールから援護の構えを見せるアルジェンタが回り、一方で事務所内の最後尾には七瀬が援護に立っていた。 快の立案した挟撃作戦は、『写身の人形』を戦闘の序盤から脱出不可能な状態へと追い込んでいく。 ●命運 ユウが冬子を抱えて5階からゆっくりと車へ舞い降り、車で待機していた夏栖斗が出迎えた。 「こんにちは、お嬢さん、ちょっと乱暴なエスコートでごめんね。 僕達は明日真の……友人だよ」 「明日真さんの……?」 車に導かれ、2人の話を聞く冬子。 その友人達は、明らかに異質な能力の持ち主達だった。 翼を持ち、光を放ち、機械の身体を持ち、大剣を奮う――まるで何処かのファンタジー小説の主人公達そのもの。 「お嬢さんのもってたアレ、あんまよくないものってわかったよね。ここにいたら大丈夫」 「それに、あのお人形を見て分かったと思いますが、探偵さんも私達も常ならぬ世界に身を置く境遇です。 憧れて良い事もあんまりないというか、お勧めできないと言うか……」 「……あの女もそうなの?」 冬子の問いは、前回零によって救出されていた革醒者の少女を指していた。 その状況を目撃した事、それこそがすべてのピースを繋げている。 問いには答えず、視線を5階へと向けてふわりと浮き上がるユウ。 (彼女の事は、敢えて触れないでおきましょうか。諦めさせる為にも) ユウは再び5階の戦場へと戻り、夏栖斗は他愛のない会話で冬子を落ち着かせ、仲間が帰ってくるのを待つ。 取り残された『写身の人形』とリベリスタ達の戦闘は激しさを増す。 包囲したリベリスタ達の攻勢が続くが、『人形』も背後に立つ者を除いて稲妻を叩き込んでダメージを重ねている。 再度踏み込んだ影時の全身から、敵へと気糸が放たれた。 「無様な絶叫を歌いなよ!」 絡みつく気糸を振り解く『人形』は、警戒した様に後ずさる。 だが背後には別のリベリスタが立ち、すぐさま追い討ちをかけた。 「距離を取って、適度に距離を保ってください」 貴志は周囲に指示しつつ飛びあがり、横薙ぎに回転しながら蹴りと拳の連打を頭上から叩き込む。 強烈な雪崩の連打によろめいて後方へと押される『人形』。 視界から外れる事を嫌い、早抜きで二丁拳銃を打ち込むアルジェンタ。 「……逃げられたりしても困るからな」 『人形』の脚を狙った攻撃は、押し戻されて包囲の中央へと引き戻す効果を与えていた。 初撃から戦術を変えず、ブレスはオーラを纏わせたハルバードを叩き込み続ける。 「倒れるまでに一発でも多くぶち当てるまで!」 例え距離を取っていたにせよ、全体攻撃を喰らい続けていれば長くは持たない。 彼にできる事は、一刻も早く敵の体力を数多く削り取る事だと認識していた。 真琴の交差した光が『人形』を射抜き、為す術もないかの様に攻撃に合わせて身体を前後に踊らせる。 「……もう、いいわ。消えて」 人形は手を広げ、突然上を見上げて直立した。その瞬間、何かに気づいた前衛の2人がそれぞれ反射的に移動する。 5階へと登りかけたユウの目の前で、事務所が爆発して辺りは獄炎に包まれていく。 七瀬の眼前には、黒鋼の大きな背中が立ちはだかっていた。 「鋼児君!?」 鋼児はその身を挺し、獄炎から彼を護りきっていた。 「……ダチだからな。傷付く姿なんざ見たくねぇんだよ」 その言葉に七瀬は歌う、庇った友と仲間の為に。 「眼前に傷付いた仲間がいる限り癒しの旋律をのせて、僕は歌う。僕は祈る。――優癒祈歌!!!」 歌に乗せて、リベリスタ達の傷が次々と癒されていく。 アルジェンタを襲った炎も、入口を遮るように庇った快によって防がれていた。 「仲間は、俺が守りきってみせる!」 腕を交差して炎を完全に防ぎきったその姿に、奮い立って再度攻撃を叩き込むリベリスタ達。 獄炎によってできた間隙を縫って包囲から下がり、窓を背にした『人形』。 だが鋼児はその動きから何を企んでいるのか、既に読みきっていた。 「神木サンで痛い目見たからな……」 彼自身が何度も痛烈に味わった鎖の濁流を、また真正面から喰らうつもりはない。 鋼児が七瀬から離れて走った先は、影時が隠れる時に使ったオフィステーブル。 力技で『人形』へと蹴り飛ばし、その視界を塞いだ。 そこを窓の向こうから飛翔するユウが狙いをつけ、気糸を放って窓の向こう側を貫く。 予期せぬ背後からの攻撃に振り返る『人形』。 そのたった一瞬の動作が、このエリューションの命運を分けた。 ●恋文 影時から更なる気糸が放たれていたのに反応が遅れ、完全にその身体が絡め取られる。 「お前のエゴで、春村サンの恋を終わらす訳にはいかないんですー!」 呪縛して気糸を強く握り締める彼女。 そこへ膂力を爆発させた快の砂蛇のナイフが貫く。 「終わりだよ」 直後に次々とリベリスタ達の武器が『人形』へと重なり、崩れるようにしてその場に座り込む。 「……そう、神木……を倒したの……貴方達………だったの…………」 可笑しそうに笑い出す『人形』、その血に塗れた身体はもはや人の姿にしか見えない。 「……神木も、『人形(あたし)』も。すべ、て……は………。 ……『ハーオス』に創られ……し……駒…………」 聞き捨てならない言葉に、貴志は拳を離して尋ねる。 「どういうことです?」 だが言いかけた『写身の人形』の動きは、それっきり完全に停止した。 直後、黒鋼の拳で壁を殴り付ける鋼児。 「どこまで人をコケにすりゃあ気が済むんだよ、クソッタレ!」 爆破された事務所を外から見て呆然としていた冬子の乗る車に、リベリスタ達が戻ってくる。 夏栖斗に宥められていた冬子も、爆発を見てからひたすらに足元だけを見て塞ぎこんでいるようだった。 車を降り、唇を噛んで俯く冬子に、影時が躊躇いがちに声を掛ける。 「好きな人振り向かせるのに、殺すとか神秘とか占いとか、そんなの必要無いはず……」 彼女自身、迷いがある為に冬子とは視線を合わせられない。それを振り切るように影時は首を振った。 そんな影時と打って変わって、七瀬は膝に両手を付いて覗き込むように冬子を見上げる。 「真っ直ぐに好きな人を想う気持ちは間違ってはいないよ。でも、それは『好き』という感情を本人にぶつける事だよ」 伝えたくても、想い人に言葉を伝える事が出来ない彼の目が、真っ直ぐに冬子を見据えた。 誰かを想う影時と七瀬だからこそ、冬子へ紡いだ言葉の真意が実直に伝わっていく。 「じゃあ、会えない探偵さんに、私はどうやって伝えたらいいの……?」 自分の間違いに気がついても、そうすることでしか接点を作ることが出来なかった冬子に快が唸りながら妙案を出した。 「最初は紙の手紙とかどうかな? メール全盛の今、結構印象に残ると思うよ」 「そ、それよっ! 私、明日真さんにお手紙書きます!」 事務所が壊れてしまってどこに送ればいいかわからないという彼女に、彼等は三高平郵便局止めの送り先を教える。 明日からは、零宛に大量の手紙が届くかもしれない。 だが、それ以上がなければ単純に零が片付ける仕事となるだろう。 それはもう神秘の秘匿作業ではなく、一人の恋する少女が送るラブレターを読むだけなのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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