●形見の髪留め 集まったリベリスタに、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、1つの髪留めを差し出した。 中心にバロック・パールがはめ込まれたシンプルな髪留め。デザインとしては余り新しいものではない。 「この持ち主はもう死んでいる。ちゃんと成仏もしているし、未練のような思念は今まで一切無かったの」 それが、最近になって事情が変わってきた。 「紫陽花畑に立つ、青や紫の霧を纏った花飾りの女性―――」 それだけ聞くと、よくある幽霊だの妖怪だのの噂話だろうが、アークに話が持ち込まれている時点で、エリューションの類だろうと簡単に予想できる。 「本物の女性ではないけれど、シルエットは女性のもの」 そして、詳しく話し始める。 この髪留めから、花飾りの女性のような姿が読み取れるようになったのは最近のこと。 もとの髪留めの持ち主は、紫陽花がとても好きだったということ。 つい最近、この髪留めを贈った男が老衰で亡くなり、葬儀も無事終了しているということ。 ただ、死因は老衰ではあるが、男が亡くなっていた場所は、紫陽花畑の中だったということ。 そして、髪留めの持ち主は、若くして亡くなった男の妻だということ。 「あなた達なら簡単に倒せてしまえると思う」 敵を甘く見ているわけではなく、負けることはないと信じているだけ。 「亡くなった妻をいつまでも思う夫……そう聞けば、美談に聞こえるわね」 イヴはそう告げると、リベリスタの1人に付属の資料と思われる手書きの便箋を差し出す。 『今年も君が大好きだった紫陽花は綺麗に咲いたよ。 子供たちも無事成長し、独立していった。 やっと君の元へ行く事ができそうだ。 叶わぬと分かっていても―――』 それ以上は、破れていて読めなかった。 「止めなければいけないのは、エリューションだけじゃない。彼の娘もよ。今は何もしないエリューションだけど、それにも限界がある」 最初の犠牲者を出す前に、倒して。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:紺藤 碧 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月04日(水)21:50 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●通りすがりの女性たち まずできる事として、犠牲者として予告されている娘――久遠 紫を紫陽花畑から遠ざける。そのために、一同は不審者が出るという噂を流すことで合意した。 それを伝える『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)は、ぎゅっと胸の前で拳を握り締める。 (あの便箋……) 思い出すだけで胸が苦しくなる。エリューションである以上、害がなくても滅ぼさなくてはならないことに、躑躅子は眉根を寄せた。 「何だかむずかしいね」 『傷顔』真咲・菫(BNE002278)も、そんな躑躅子の顔を見遣り苦く微笑む。 「死してなおその人を思う……引きずっているだけなのか愛しているのかは私たちにはわからないわね。人の心はどんな理論や学説でも説明がつかないから」 躑躅子や菫と同様に、通行人を装う役の『甘くて苦い毒林檎』エレーナ・エドラー・シュシュニック(BNE000654)も、遠く紫陽花畑を見遣る。 「それに考えるのは戦ってから、人の邪魔になるなら、倒すだけ……ね。さ、行きましょう」 「そうですね。まずは、紫さんの安全確保です」 躑躅子は、一度ゆっくりと瞬きする。 「それに、あんまり荒らさないように気をつけないとね」 菫もそれに同意し、決意も新たに歩き出した。 近づくにつれ、目の前に広がっていく青と淡いピンク系紫のコントラスト。確か紫陽花と言うのは土壌の性質によって色が変わるらしいが、確かにこれは心に残るほどに見事な畑だった。 「凄く綺麗……」 思わず菫の口から零れ落ちた感嘆詞。 その声に、1人の中年女性が顔を上げた。 「あら、ありがとう」 そういって微笑んだ女性、久遠 紫。 導入は躑躅子。 「本当に、こんな綺麗な紫陽花見たことありません。貴女が世話してらっしゃるんですか?」 「ええ。今は私が。昔は父が世話をしていたんだけどね……」 語尾を少しだけ消え入りそうに小さくしながらも、紫は寂しそうに微笑んで答えた。 そして、その話に乗ったかのように、菫が身を乗り出す。 「私も紫陽花大好きなんだ。ここまで、見事な紫陽花にするには、何かコツでもあるのかな?」 「さぁ…しいて言えば、きっと、愛……かしら」 紫は一度、紫陽花を見遣り、 「私の両親ね。好きだったのよ、ここ。父もね……あ、ごめんなさい。初対面の子にする話じゃないわね」 少しだけ涙を滲ませて言葉を止める紫。続きを促しても、紫は暗い話だから、と、話すことはしなかった。 「見せてもらっていいですか?」 聞きつつも、紫の了解を得ず躑躅子は紫陽花畑に足を踏み入れる。 「入らないで! 色が変わってしまうわ!!」 「すいません……」 正直踏んだだけで色が変わるものではないのだが、紫のほっとしている表情を、じっと躑躅子は観察するように見つめる。 「いいのよ。入り口は向こうよ。見るならどうぞ」 「え……いいの?」 「紫陽花を好きな子を、無下にはできないものね」 てっきり完全にダメと言われると思っていた菫の呟きに、紫は「でも」と前置きを置いてから、言葉を続ける。 「入り口から進める範囲以上は絶対に入らないで」 ありがとう。と、進もうとした菫をエレーナが止める。 「ねぇ……」 なぜならば、紫陽花を見学する事が目的ではないからだ。ここへ来た目的は、彼女をここから遠ざけるような噂を吹き込むため。 最大限紫陽花畑を傷つけずに戦うことが最良だが、エリューションの攻撃法によってはそれも叶わない。 命の重さを有機物と無機物で分けるものではないが、現状、紫の命の方が重い。 「そちらの子は、どうかしたの?」 そわそわと辺りを見回し心配そうにしているエレーナに、紫は首を傾げる。 「躑躅子さん、菫さん、行きましょう」 エレーナが軽く躑躅子と菫の服を引っ張った。 「……この辺りって、不審者が出るって先生が言っていたもの」 「え?」 驚く紫に、エレーナは少し困ったような表情で告げた。 「貴女も気をつけてください。何かあってからでは遅いと思いますから」 逃げるように2人の手を引いて小走りで駆けるエレーナ。 行動は言葉よりも雄弁。 その背を見つめる紫に、疑心が芽吹く。 ●不審者の青年 不審者が出ると告げただけで何もなかったら、人は自分にはそんな事は起こらないと、驕るだけ。 そうならないよう、不審者の役をかってでた『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は、紫陽花畑と久遠宅辺りを、全く何時もと変わらない感じ(多少目つきは悪くしながら)で歩いていた。 そもそもこの役にしたのも、人付き合いが苦手と言うことと、警察の振りだの何だのは性に合わないし、説得力も足りないと分かっていたからだ。 それくらいなら、通報されない程度に『不審者は本当にいるんだぞ』という役が一番向いている。ただそれだけ。 鉅は、紫陽花畑が見える位置で足を止め、前髪でわざと顔の半分を隠すと、じっと紫を見つめた。 目的は紫に不審者が居ると印象付けることと、ついでに紫陽花の見物。 暫く見つめていると、何かはっとしたように紫が振り返り、こちらを見た。 じっと前髪の陰から紫を睨みつける。そして、暫くした後、視線を外すと、その場からさっさと立ち去る。 (任務完了……か) 後は、夕方のエリューションを待つばかり。 そして、噂の不審者は現実味を帯び――― ●凸凹な警官 一通りの手入れを追え、家の中に戻った途端、インターホンが鳴り響き、紫はそっと玄関を開けた。 「すいません」 その場に立っていたのは、警察に扮した『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)とアゼル ランカード(BNE001806)。 2人ともグレー系のスーツに身を包み、紫の姿を確認するや、懐から警察手帳を見せて、早速とばかりに話し始めた。 「捜査中の窃盗犯の残留品に『髪留め』があがったもので、調べたらこちらにたどり着いたんですよ」 言葉と同時に、証拠品とばかりにビニール袋に入れた髪留めを持ち上げる。 「そ、それは!?」 「話しだけでも聞かせて貰えないでしょうか?」 「は……はい」 警察手帳と、証拠品。どうやら紫は完全に信じたようだ。 髪留めについて紫が話した内容は、父から母への贈り物だったということと、今の今までそれが無くなっていたことに気付かなかったということ。 残留思念が読み取れるほどなのだから、大変大切なものなのだろうが、それは当事者間のみだったのかもしれない。 話を進めるウラジミールから、ちょっと控えるような位置で一生懸命メモを取るアゼル。 じっと見つめられているような視線を感じて、アゼルが顔を上げると、ばちっと不信そうな瞳の紫と目が合った。 「まだ成り立ての若輩な者ですから教えを受けてる身です。背の低さと童顔で頼りないと思われるかも知れませんがそこはご容赦を願います」 「余計なことは言わなくていい」 「す……すいません」 一般人に取ってみれば、老いも若いも等しく警察。相手を不安にさせるような言動はするなとウラジミールは釘を刺す。そして、 「ベテランと新人のツーマンセル。現実もドラマと同じ」 と、言えば、紫も納得したように頷いた。 暫く不審者や窃盗犯の話をし、ウラジミールは帰り際紫に告げる。 「最近、事件も多いので夜の外出は控えるようにお願いしたい。」 ――不安は、確定に変わる。 ●謎の男 なぜ今日になってこうも人が現れたり、警察が来たりするのだろうと、ため息をついた紫に、また1人男が現れる。 「さっき、サツが着ただろう?」 「誰!?」 わざと居間の窓から背中が見える位置に立ち、『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は、ひらりと破れた手紙を紫に見えるようにちらつかせた。 「俺が誰なんてことはどうでもいい。この手紙、知ってるだろう」 破れているだけならば、知らないとも言えたろうが、ゲルトが少しだけ読み上げた文面に紫は思わず固まる。 「この手紙が破られた理由を俺は知っている」 「……嘘よ!」 「あんたが信じようが信じまいが、そんな事はどうでもいい。この先の内容、知らないんだろ?」 威圧的なゲルトの雰囲気に、紫も動けない。 「あんたにとっても他人に知られたくない内容だ」 「嘘……嘘よ。そんな事あるはずないわ! あの、手紙は…だって!!」 紫本人が何か知っていいそうだと感じ、予定していた言葉を変える。 「なら、分かってるだろう」 ギロリと視線だけを紫に向けて、脅すように睨み付ける。 「今日一日、あんたが紫陽花畑に近寄らなければ俺は何もしない」 「何ですって……?」 ゲルトは紫に振り返り、テンプテーションを使用する。 なぜか食って掛かろうと思っていた紫の心から、その刃がなくなっていく。 その変化を見て取り、ゲルトは薄っすらと微笑んだ。 「あの紫陽花畑を傷つけることはない。そこは安心してくれ」 ●夕方5時の攻防 ゆらりと何かが身を起こす。それは、霧を纏った花飾りの女性―― 名乗りだけ上げ、何の打ち合わせもなく一同の前に現れた『静灰の禊』甲府 修(BNE002200)は、花飾りの女が放った水のつぶてを受けてその場に昏倒した。 黄昏。 空が淡い紺色に彩られる。けれど、まだ明るい橙の太陽が映し出したのは、花飾りの女性ではなく、 「花飾りではなくて、髪のように咲く紫陽花!?」 叫ぶように確認した躑躅子の言葉に、女性のようなシルエットを持つそれが振り返る。 だがそこに顔はなく、あるのは束のように纏まった、緑に近い茶色の枝。 まるで、紫陽花でできた動くマネキン人形。 「E・アンデッドではなく、E・ビーストだったか」 鉅はそう小さく言い捨てる。そう言えば、誰かが紫陽花のE・ビーストではないかと言っていたような気がする。 最終的に不審者の演出を担当していたエレーナだったが、早々に出現したエリューションが、予想外に攻撃に転じたことで、役を果たすことなく騒音が立ち上がる。 その音は昼に聞き忘れがあったとして、久遠宅を訪れていたウラジミールとアゼルの耳にも届く。 2人に取っては打ち合わせ通りの物音に、アゼルは、 「物音がするので見てきます」 と、玄関から離れ一路紫陽花畑へ。 「待て……!」 残ったウラジミールも後を追いかけるような素振りだけを一瞬見せ、その後を着いて駆けていこうとした紫の道を塞ぐ。 「今部下が見に行っている。万が一もあるから確認がとれるまでは動かないで欲しい」 「でも……!」 「公務執行妨害で逮捕してもいいが?」 きつい口調でそう告げるも、すぐさま表情を和らげ言葉を続ける。 「平にご容赦を。貴女を危険にさらすわけにはいかない」 あくまで警察官として、だが、一般人を守るリベリスタとしての気持ちも含まれている。そして、彼の役割は、アゼルが戻ってくるまで紫を足止めしておくこと。 そして、一方ウラジミールから離れ、紫陽花畑に到着したアゼルは、辺りを見回す。まだ攻防は始まったばかり。 エリューションは、鉅のエネミースキャンによって霧状のE・フォースと、紫陽花のE・ビーストだと分かる。 だが、エリューションは何もしてこない。きっと、最初の攻撃は突然目の前に出てきたための自衛のようなものだったのだろう。 だからといってこのまま放っておくわけには行かない。 躑躅子はゲルトにオートキュアーをもらい、アジサイに攻撃を仕掛ける。常にまとわり着いている霧が少々邪魔ではあったが、関係ない。 「動かれると面倒……的になればいいの」 走りこんだ躑躅子を補助する用にエレーナがトラップネストでアジサイの動きを止める。 躑躅子が放ったヘビースマッシュがアジサイを傷つける。 悲鳴のような声が上がった気がした。 「…っ」 躑躅子は思わず眉根を寄せるが、後衛からどさっと何か倒れるような音がして思わず振り返る。 菫がライフルを抱きしめ軽い寝息を立てていた。 「これが、子守唄……」 「大丈夫!」 つかさずアゼルが菫にブレイクフィアーをかける。 不思議なことに、動きを止められたアジサイから霧は一切離れようとしない。 子守唄から回復した菫はシューティングスターを自分にかけ、スターライトシュートでアジサイと霧、両方に攻撃を仕掛ける。 「アジサイは物理、霧は神秘系……子守唄を操っているのは霧か」 鉅はアジサイと霧を直視したまま伝える。 高い神秘攻撃力を持っているのは、エレーナ。 「霧は任せたぞ」 「分かっているわ」 走りこんでいくゲルトの背中に、エレーナは答える。 そして、霧を標的としてマジックミサイルを放つ。その隙間を埋めるように菫もスターライトシュートを放った。 物理的なものであるアジサイの左右から、躑躅子とゲルトがヘビースマッシュを放つ。 まるで腕を上げるかのように枝を伸ばしたアジサイから、水のつぶてが飛び、躑躅子の頬を掠めるが、オートキュアーによってその傷もすぐさま癒える。それに、背後にはアゼルが控えているため、少々の怪我をしても天使の息や歌で回復してもらえる。 じっとエリューションを観察していた鉅は、段々その法則性が見えてきた。 「子守唄が来るぞ」 だからと言って跳ね返せるわけでもない。 「させないわ」 「最後にするよ!」 同時に放たれたマジックミサイルとスターライトシュート。 断末魔もなく、アジサイを被っていた霧――E・フォースは消えていく。 菫は放つスキルをピアッシングシュートに切り替え、参戦。 徐々にアジサイの輪郭がボロボロと崩れていった。 アジサイにも最期が近い。 躑躅子は最後のヘビースマッシュを振り下ろす。 その顔は、何時もと変わらないものの、一筋涙が零れていた。 バラバラと木屑と化してしまったアジサイのE・ビーストの中に、すす汚れた紙を見つけ、ゲルトはそれを拾い上げる。 「これは……!」 破れた便箋の続き。 紫を脅すために持っていた片割れとあわせてみる。すると、完全に破れ口が一致した。 ●繋がった手紙 エリューションを撃退し、アゼルはウラジミールの下へ急いで戻る。 そして、その耳元へ状況を報告した。 「仲間が無事不審者を逮捕したようだ。ご協力感謝する」 「あ、いえ……」 ほっとしたような、腑に落ちないような、そんな返事の紫だったが、これで事件は解決したのだからそれ以上の事はいいだろう。 ウラジミールは紫に信じさせるために見せていた偽の証拠品を片付け、アゼルを連れ早々に久遠宅を後にした。 2人が合流すると、ゲルトは完成した便箋を広げる。 手紙に焼きついた、君を想う気持ち。 綺麗な気持ちも革醒してしまえばただの毒。 それだけが少し、やるせなかった。 もう一度、君と一緒にこの紫陽花を見たかった。 だから、私の目に焼き付けていこうと思う。 君よ。 あの時のように、紫陽花を贈ろう。 その時は、笑って迎えておくれ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|