●不可逆に笑え 「あ……ぁアッ?!」 死によって繋がりの糸が切れた瞬間、血に染まった翼を天高く舞い躍らせた。 その舞いは無様そのものか、それとも必死の塊か。まるで蜘蛛の糸の中で藻掻く蝶の様な動きであった。 陸からも、上空からも止まらない攻撃。傷ついた身体を風に晒しながら、一つの答えが導き出される。 逃げる、逃げなきゃ、逃げないと。 思考回路は全てがそれに侵食された。本能によって汚染された理性は使い物にはならないのだろう。 瞬きをする暇さえ惜しいほどに、何も無い空中を掴み、冷たい風を蹴りつけながら、少しでも外へと進んでいく。 赤い月の下。荒れた公園のその中心で繰り広げられた戦火の渦は、どれほどまで脅威だったか。 ただ、無意識にその口から漏れ出すのは、慕う主の名だけ。 いつかの教会の中に居た。 意味を成さない扉を踏み越え、手当り次第に椅子や机を吹き飛ばした。 我に返って考えてみれば、自問自答を繰り返す。 私は何をやっているんだ? なんで、逃げてきたんだ? まさか死ぬのが怖いとでも? その程度の忠誠だったのか。 違う違う違う。忠誠は本物。 だが何故だろう、この胸にぽっかり空いた空白は。 埋めて欲しい、なんでもいい。 彼との出会いは今と同じ。リベリスタから逃げていたのを救ってもらった。 ならば、同じように逃げればきっと、きっと、きっと来てくれるはず――。 命からがら回収した人形を抱きしめ、教会の十字架に祈る。 「糞みタいナ神様。今日こソ素敵ナ一日を……」 その少女――クレイジーマリア。 さて、誰が迎えに来てくれるだろうか? 望むのは慕う、ただ一人。 けれど、来るのはきっと――いや、それも望んでいる。 「クッ、くはっ、あはァあ、きゃハハはは……っぶ、クスクスクスクス」 息をするのも困難な程に込み上げてくる笑い。口の端が裂ける程に笑い、目から涙を零した。 それから両手を広げ、頭上へ叫び始める。 「ハロハロハロー!!! アークウウウウウ!!! Merry Christmas! Happy New Year!! どウせそノ憎たらシい神ノ目で見てイるンでしョウ!!? 聞いてイルンでしょう!!! マリアは此処ダよ、逃げモ隠れもシなイ!!! オイデよ、遊ぼウよオオオオ!!! ピリオドの打てなかっタ決着を!! 再戦ヲ!!! これデ最後よ、何もかモぉおおお!!!!」 ●再戦 「皆さんこんにちは。フィクサードを万華鏡が捕らえました。野放しは大変危険ですし……どうにかできれば……」 いつもの様に『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)が淡々と喋り出す。 モニターに映し出された少女は言うまでもない。再三アークのリベリスタと相対し、先日の戦争でも啀み合った相手だ。 「マリアの力は、以前と大して変わらない様ですが、テディの力が完全に解放されているみたいなのです」 モニターを杏里が捜査し、映し出されたのはアーティファクトの最悪堕天のテディ。 「これを解析した結果、えーと……」 取り出して来たのは、両手サイズの綿の塊。 「これが、テディの力の全てだとします」 どうやらその綿とテディの力を置き換えて説明を始めるらしい。 すると杏里は綿を細かくちぎっては、ゴミ箱へと捨てていく。 「細かい綿がこれまでの戦いで生まれ、倒したアルメレミルです」 杏里がちぎればちぎるほど、綿は小さくなっていく。つまり―― 「アルメレミルを産めば産むほど大元の力は消えていきました。それはこれまで戦った方々の功績です。ですが……」 リベリスタの一人に片手サイズまでに減った綿を渡す。 「今回は、産むのは最初の三体のみ。ただし……力を密集させたそれが出てきています」 一体でも面倒だったアルメレミルが強化された。追追の召喚は無く、単純なだけに厄介かもしれない。 「場所は例の教会ですが、マリアが葬送曲を奏でやすいように、隠れられる椅子や机は破壊した様です」 しばらく沈黙が続いた後、杏里が深々と頭を下げる。 「それでは皆様、お気を付けて。お帰りをお待ちしております」 ● 噛み付く人形は、所々糸が切れて中身が飛び出している。 生み出した最後のアルメレミルを傍に置き、その中心で膝を抱えて時を待つ。 教会の十字架に反射した陽の光がマリアを照らしていた。 その姿は、天使真柄。 『生きとって欲しいんや……!!』 戦火の轟音の中で聞こえたその言葉が、頭から離れない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月09日(月)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 黒鎖が貫く、教会内。 ――大丈夫だよ―― 鮮血がマリアの顔を染めた。 伸ばされた手。 それに身を委ねれば、何が消え、何が生まれるのか。 ――……マリアは……マリアの答えは―― ガタガタと震える躰で、必死に救いを求めた。 その日、確かに『クレイジーマリア』は死んだ。 大きな犠牲と、少しの―――を手に入れて。 ●Crazy Crazy 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が中を覗くと、マリアは教壇の上でずっと蹲って座っていた。生きているのか、死んでいるのか分からない程に動かず、ただじっと。 戻り、それを仲間に告げる頃にはリベリスタ達の準備は出来ていた。いや、既に杏里から再戦を告げられた時から全ての手筈は整っていた。後は全て自分達の行動と運命とマリア次第だ。 「んじゃ、喧嘩といきますか」 『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)を先頭に、勢いよく教会の中へと入りマリアの姿を視界に入れる。 その時、九十九が違和感を覚えた。先程まで座って静止していたマリアが、教壇の上で立ち上がっていた。表情は見えない。俯き、何か呟いていた。 『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)の目に見えたのは飛んでくる何か。それが教会の入口の壁に当たり、壁が砕けた。 「鎖。いや、これは……!!」 宗一は本能的に仲間を庇う――刹那、赤黒い血の鎖がリベリスタ達へと突き刺さる。 キャーーーーーッアアアハハハァァハハハッハッハハハハハハハ!!! 小さな教会、鎖が閃光の様に飛び舞う。 だが、その前に『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)がマリアの下へとたどり着いていた。 「マリアちゃん、こんにちは☆ 待った?」 「Wellcome!! 一日千秋、うウん、一日万秋で待ってタヨおお!!」 交わされた言葉だけ残し、終はソニックエッジを誰よりも早くアルメレミルに叩き込んだ。 初っ端の不意打ちの攻撃なんて彼には効かない。『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)の躰に数本の鎖が掠っていったが、怯まず疾風居合切りを放つ。 「マリアちゃん……!」 真空波をアルメに当てつつ、目線の先にはマリアを見た。敵を見る目では無く、心配そうに気遣う、そんな目。 ギギギと音をたてて一体のアルメが飛び出していった。 マリアに忠実に、マリアが指さした獲物を狙う。 「アルメ、あれを狙って」 なんで居るのよ……正直マリアはそう思った。少女が俯き指さすのは―― 「マリアちゃんのこと、迎えに来たから……!」 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が居た。 敵と見なされるのはあひるは分かっていた。けれど笑顔で、それこそ友達に語りかけるように。 「今度こそ、貴女と友達に」 だから絶対に逃がしたりしない。今回逃したらきっともう二度と会えない。 肥大したアルメの凶暴な爪があひるを切り裂く。痛みにあひるの顔が歪んだ。それでも、それでも。 「ナンで、笑っテられルのよ」 ズキっと、マリアの胸が苦しくなった。 「あひる!」 「あっくん!!」 よろめいたあひるに『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が癒やしの符を貼り付け、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)がブレイクフィアーを放ちながらその躰を支えた。 フツの腕の中であひるは大丈夫だよ、と笑った。 ――飽きちゃった! いつだったか、そんな事を言って赤黒い鎖を放った。 ――動ける者は隠れるのだ! 自分は動けないのに、馬鹿ね ――あひる、マリアちゃ、助けるって決め…… 助ける? 何、言ってるの? 「マーリアちゃん、あーそぼ!」 好きなものは全部手に入れる。そこに遠慮なんてない。 欲しいのは、貴女だよ。『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)のピンポイントがあひるを切り裂いたアルメを打ち抜く。 「ふふ、面白イよぉ、遊ボ? 歌ッてね! 綺麗な声デ断末魔をォ!!」 ●狂信cRAzY ふと、マリアを庇うアルメに呪縛の封が起きた。 見るまでも無い。マリアは目を瞑り、思い返すはつい最近の屈辱的出来事。 「生きとってくれて、嬉しいよマリアさん」 『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)がラヴ&ピースメーカーの銃口をアルメに向けていた。 「てめぇの『遊び』はこれが最後だ、クレイジーマリア……」 『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)が呪縛を受けたアルメを綺麗に吹っ飛ばす。 零六の目と壁の消えたマリアの目線が合うと、マリアの躰が後ろに倒れ、尻餅をついた。その目から優しさの欠片が一切見えない。獲物を目の前にした獅子の眼が見えた。 「……あ」 その眼をマリアは知っている。いつか、慕う彼に助けてもらう前に見つけた眼だ。 下手するとこの人に殺されると瞬時にマリアは悟った。だが、怯む訳にもいかない。 壁の消えたマリアに九十九が照準を定めた。が、しかし。 「何を遊ンでイるのアルメ!!」 終の麻痺を抜け出したアルメが更に壁となる。 それではテディを破壊する事ができない。瞬時に的をぐるぐの手前のアルメへとピアッシングシュートを放った。 「そういやマリアさん、付喪さんから伝言ですぞ『生きな』と一言だけですがのう」 「……ッ!」 そう言う九十九も同じ思いだ。例え今初対面だとしても、マリアの背負っている傷がどれほどのものか理解しているつもりだ。 それに続く様に小鳥遊・茉莉(BNE002647)の魔力で固められた大鎌がアルメへと刺さる。茉莉もマリアを助けようと尽力した一人。けして逃がさないけれど、願うは友達と成りえる事。 ――ああ、全くだね。見逃せない……ほおって置けない子だ ほおっておいてよ、マリアの勝手だよ ――神様のトコいくなら一緒にいこーよ 馬鹿じゃないの、罪深いマリアが行くのは地の下、地獄よ ――待ちなさいっ、シンヤの下へ帰ってはいけない! 石化、効かなかったのかな、追いかけてこないでよ 「……どイつモ、コいつも、マリアの事なンニも知らナいクセにいいい!」 ついに放たれるマリアの十八番。空気読んで使わない訳にはいかない。 高速で紡がれていく陣がリベリスタ達の視界に見えていた。 「堕天落とッ……!」 静が咄嗟にあひるを突き飛ばした。その瞬間に黒い閃光が放たれる。 ピキピキと石と化すその躰。零六がその違和感に顔を歪め、フツが瞬時にブレイクフィアーを放とうとした。 ――が。 「まだまだイっくよォォオ!!!」 「なーっ!?」 瀬恋の目に見えたのは、ひとつの火種。 チリリと燃え始めたそれが、辺りの酸素を吸い爆発的に大きく膨れ上がる。 紅月の下で、敵味方関係無く燃やしていったその威力は健在。 あひるを中心に、その範囲に居た者達全てが異界の炎に飲み込まれていった。同時にフェイトが飛んだ者も少なくは無い。 聞こえるのは、少女の笑い声。 ――ねえマリア、私のものになりなさい 何故だかその言葉、凄く心に響くの。 「邪魔だ!! 人形おお!!」 「アンタの罪はアタシがここで穿ァつ!」 いち早く、業火の中から飛び出した者達がいた。 宗一が大剣を振りかぶり、壁となるアルメを叩き斬る。それと入れ替わる様にして瀬恋が人形の頭を打ち抜くと、綿と布がいっきにもげていった。 二人の目はまだ光り、希望を捨ててはいない。躰にまとわりつく炎がなんだっていうんだ! 思いを伝えたい人達がいる。だからそれを支えるために来た。 マリアがその瞳に怯えた瞬間、九十九の光弾が更にアルメに直撃する。 「愛されてますなぁ」 「う、煩い……!」 はっと気付いたマリアが耳を抑えた。強力な天使の歌が辺りに響く。 炎が風と共に消えていくと、祈り手で歌うあひるを中心にリベリスタが立ち上がる。 まだ倒れた者は一人としていない。 ●禍月の狂女 ――俺達は、世界のために……譲れないんだ!! そんなの、知ってるよ ――わが身を呈しても守ろうとする。これも友達の形の一つなんよ 私の友達はアルメだよ ――君が死んだら悲しむ人がいる! ……そう 「マリアちゃんの友達になりにきたんだっ!」 マリアを生かしたい、その方がきっとハッピーエンドに近づくはず。 終がマリアを庇うアルメに数度目のソニックエッジを放ちながら、マリアへ言葉を送る。 「シンヤの代わりにはならないかもしれないけど、俺達に賭けてみない?」 神だなんて不安定なものじゃなく、共存を。きっと、素敵な日々を贈るって約束するから。 それだけ言うと、アルメの爪が終の躰を抉った。 マリアから返答は無かった。むしろ、返答できなかった。 侵食する者であるマリアが、心変わりするには重ねた罪が大きすぎている。 ドコ ドコナノ ワタシ ノ イバショ 終に続いて言葉は紡がれる。 「おい、それ爆発しやがんぞ!!」 茉莉の大鎌が直撃した時点で体力はギリギリ。 零六がESPを利かして静に叫んだが、静は止まらない。ハルバードを大きく振りかぶり、アルメへ最大攻撃力のデッドオアアライブを放つ。 人形だらけで、全く届きやしない。早く、人形(かべ)をどけて。 「殺し合いなんてもう止めよう? 傷つけたくない。泣かせたくなんかない!」 刃がアルメを直撃した瞬間、アルメが静を巻き込んで大爆発した。 轟音が響き、衝撃と痛みの中、見えたのは 「うっく、うっ」 声を押し殺して泣いているマリア? 意識が飛びかけたが、それが見えた瞬間に足で踏ん張って耐え、運命がそれに味方した。 今そっちへ行くから、マリアちゃん ココロニ ササル 狂喜 「マリアさん! 確かに今は敵同士、でも仲良くなれないはずないやろ? そうやろ!!?」 椿がアルメに呪縛を放ちながら叫び出す。 呪縛は掠ってしまったが、確かに言葉はマリアへ届く。 言葉選びもよくわからないし、不器用。でも、だからこそ正直に思いを伝えるんだ。 一度は失敗してしまったが、まだ今この瞬間の機会は逃さない。 「もうこれ以上、傷つけ合うことは……やめ、ガハッ!!」 それだけ言うと、アルメの巨体が椿の躰を押し飛ばしていった。 椿は教会の壁に叩きつけられ、ずるずると地面に腰が着く。そしてフェイトの加護に守られた。 雷音がすぐに飛んできて、肩を貸しながら癒やしの符を張る。 椿の視界は回る。顔を振り、気を確かに前を向く。 「また、来るのだ」 「せやな……」 見えたのは――堕天落とし。 あひるの手前で、フツがブレイクフィアーを放つ準備をした。 ●Last Crazy 非道い世界だよ。壊れた教会に住み着いた堕天使。妥当だね。 ――本当に思います。出会い方が近ければと もう過去には戻れないの 気付いた過ちは正せられないのよ ――生きとって、欲しいんや!! 罪を背負って生きろって言うの? 想いと共に、涙は溢れる。 マリアが手を伸ばすものは全てが壊れた。 次のお相手は誰? 血がこびり着き、ボロボロのワンピースを着たマリア。何を思ってか、口数は段々と少なくなっていっていた。 爆発の余兆が見えているアルメだが、そんなのは関係無い。堕天落としを打たれ、アルメの餌食になる訳にもいかない。 「俺には……もっと大きな、成すべき事が有るんだよッ!!」 九十九の射線を作るためにあえて地雷を踏んでやろう。なに、大丈夫さ、こんなんで死ぬ主人公じゃない。 「ガキを救うってんなら見せてもらおうじゃねーか!」 Desperado “ Form Bastion ” 握る手が更に強まる。メガクラッシュがアルメに綺麗に吸い込まれていく。 直撃し、胴を切り裂くと綿が弾けた。そして、轟音と共に爆発し、零六の躰を炎が包み込んでいった。 「同感だね」 残るアルメレミルは一体。倒せるか? いや、倒してみせる。 「おい、マリア、愛されてるな。だから助けてやる!」 そのために、最後の壁を壊す。報告書だけでマリアは知らない。だからこそ、マリアの心を開ける人達の支えになる。 けど、それでも駄目だったときはこの手で―― 宗一はアルメへと飛び込む。だが一人じゃない。 「アタシも付き合ってやるよ!」 瀬恋が一緒に飛び出した。 既に庇い続けた宗一の躰は限界が近い。 痛み耐え歩き出すのは感心する。だから此処はアタシに任せろってね。 振りかぶり、渾身の力を込め、宗一のメガクラッシュがアルメの胴を突き飛ばす。躰の二倍はあるだろう人形が吹き飛んでくる。 「おい、マリア!」 瀬恋がヘッドショットキルを放ちながらマリアを見た。 「……アンタの大切な人奪ってゴメンな」 苦笑いし、続ける。 アタシの親もフィクサードだったから、気持ちよくわかるよ。大切な人だったんだろう? 「……ぁ」 マリアがそっと言葉を零しそうになった瞬間、瀬恋は爆発に巻き込まれていった。 「あ、あああ、アルメェエエエエエエエエ!!!?」 叫んだマリアの声が教会に響いた。 壁を無くしたマリアに九十九のショットガンが唸る。 狙うは意味を無くしたテディ。 もはや力を無くしたそれは、所有者に精神力と苦痛を与えるだけの存在である。 「悪いとは思いますが、その絆、断たせていただきます」 これ以上の好機があると言うのか。放つ精密な弾が光りの軌跡を描く。 救うというのは命を助ける事だけでは無い。マリアの、その人生を背負う覚悟が必要。 気付いたマリアだが、遅かった。テディは鈍い音と一緒に弾けて消えた。 え!? あ、あえ? あ、あああ、あぁあ? 「くそう、く、くそおおおうああああああああああん」 最後の絆でさえ消えていった。 信じるのは、紅月の下でリベリスタの軍を壊滅にまで追い込もうとした己の力。 紡ぐ赤黒い鎖。 「マリアさん! もうやめるんやああ!!」 届いて、お願い。 「テディが居なくても、オレ達がいる! もう君に血を流させたりなんかしない!」 想いに触れて想いを返す。届いて。 「氷璃ちゃん、生きていて欲しいって、逢いたいって言ってた!」 この場にいない彼女でさえ思ってくれた、届いて! 「あひるも、マリアの事愛してる!」 きっとこの場の人達も。 「待ち続けて、手を伸ばしても届かない。そんなことは無いんだ!」 心に呼びかけて、友達がいれば乗り越えられるはず。 無情にも鎖はリベリスタを貫く。 動いた零六と宗一が剣を握る。告死天使? なってやろうじゃないか。 血に手を染めてでも殺さなければいけないことはある。 鎖を避け、避け、躰を擦るがそれがなんだ。 見上げたマリアの目に、二人の刃が光ってみえた。 これで何もかも消える。 壊れた私は、本当の意味で消える。 ――生きてください、お嬢様 なによ、貴女もマリアを庇って死んだじゃない。 ● 「マリアさん、見えたで。アークや」 椿の背中には小さな天使が眠っていた。 「マリアちゃん、真っ白な服着て、あひるといっぱい遊ぼうね」 今度は何も犠牲の出ない遊びをしよう。 いや、教えてあげよう。世界はこんなにも優しく包まれているのだから。 「美味しいケーキ屋さん。知ってるよ♪ 今から買いに行く?」 冬の中。薄いワンピースではあまりにも寒すぎるだろう。 その上に上着を着せてあげた。 だが返答は無い。 心は完全に、守る者と侵食する者の狭間で、罅割れ、砕け散っていた。 生きている人形、と言えばいいか。けれど、そう。『生きている』のだ。 いつになるだろう……いや、いつでもいい。 いつか、再び目を覚ます。その時に、笑われないようにリベリスタは強くなる。 ―― ― フィクサードのクレイジーマリアは確かに死んだ。 零六と宗一の振り落とされるギガクラッシュ。 これでやっと、終わるの やだ、な もう、でぐちは ない の? 「マリアちゃん、大丈夫だよ」 最速が、いた。にっこりと笑った終が目の前に居た。 「……ふぇ?」 何を、しているの? 温かい血がマリアを染めた。 ふたつの剣が終の背に貫通していた。刃は数センチでマリアに届いていない。 「こうすれば君は生きる」 泥沼からだって助けてみせる。その力は、ある。 そのまま終がマリアに身を預ける様にして倒れた。身を呈しての時間稼ぎ。 まかさ此処までして守ってくれる人が居ただなんて、思っていなかった。 「なんで、こんな……」 もう、どうしたらいいのか分からない。 動かず、血が溢れる終を抱きしめながら、放心した少女にリベリスタ達は手を伸ばした。 「手を、手を取るんや! 一人が寂しいんやったら、うちらが一緒に居ったる!!」 椿がボロボロになった服、ボロボロになった躰で、なお伸ばし続けた。 「マリアちゃん好き、ずっと遊ぼーよ」 ぐるぐが運命に呼び掛けながら、マリアへ向かった。 「まだ、これから何度でもやりなおせるはずです」 茉莉がにっこり笑った。 もう大丈夫だろう。そう思った零六がマリアに背を向けた。確かに零六の行動は正しかった。けど……なんだろうこの胸のもやは。 さ迷い続けた少女は、最後の運命を選択する。伸ばされた手を握り返した。 引き寄せられ、引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられる。良いにおいがした。でもちょっと、焦げ臭い。 約束 だよ ずっと 友達 うん 一緒だ! 静の腕の中で、クレイジーマリアの全てが砕けて壊れた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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