●ミタミライ 夜。冷えた空気が身に凍みる。 (寒い……早く帰ろ……) マフラーに顔を埋めて早歩き。近道を通って早歩き。 少女が『気付いた』のは、あるいは『気付いてしまった』のは、それから僅かな時間が経った頃。 (……あ、定期券……!) いつもの場所に無い。定期券が。立ち止まって慌ててポケットを探って鞄を探って――八つ当たりめいた溜息。 (落としたのかな) 多分そうなんだろう。 て言うか十中八九そうだ。 もう一度溜息を吐いて踵を返す。先程通り抜けたばかりの公園へ、 行き、 見た。 「……―― え」 公園の隅でクチャクチャと、何かを貪る何か。 居る。 そしてそれには『近寄っちゃいけない』と震え上がった本能が泣き叫んでいる。 だがもう遅い。 振り返った『ソレ』と目が あ 長い腕で這い寄って来て あ あ 目の前 に ●カエルウンメイ 「こんにちは皆々様、メタルフレームでフォーチュナの名古屋・T・メルクリィでございます。 初めましての方はドーゾ宜しく、そうでない方は今後とも宜しく。フフ」 そう言って事務椅子をくるんと回して振り返ったのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)。 集まった一同を機械の目玉で緩やかに見渡した後、 「今回の任務は戦闘経験の浅い方や肩慣らしをしたい方や新しい武器の試し斬りをしたい方や新しい技の試し撃ちをしたい方やあんな方やこんな方にバッチグーなイージーモード任務ですぞ。 ……ん? 『3ndはいつになったら』ですって? フフフご安心を、次は『2nd超絶』ですぞ。 それはさて置き、今回の任務は結構シンプル……ある意味王道」 言いながらメルクリィが卓上に置いた資料には――『エリューション討伐&一般人救出大作戦』と書いてあった。 大……作戦、なのか。 「大作戦なのです」 読心術なのか。 「サテ、それでは説明を始めますぞ。耳かっぽじってお聴き下さい」 かくしてモニターに映し出されたのは――公園。小広く、どこにでもあるような公園だ。 街灯に明るく照らされ、ブランコやジャングルジム、砂場などが浮かび上がっている。 「今回の現場はこの公園。まァ、ザックリ言ってしまえばここに塾帰りの少女がやって来て……エリューション二体に襲われます。 皆々様は丁度、彼女が今まさに襲われんとしているところに出会すでしょうな」 そこまで言って、機械男はフムと顎に手を添える。 「『神秘は秘匿されるべき』――魔女狩りの歴史が示すように、常識とはトコトン非常識を嫌います。『アルティミット出る杭は打たれる』ですな。 そんな訳でして一般人に『神秘』をお見せするのは……厳禁とまでは言いませんが、オススメできません。その辺、何とか頼みますぞ。言いくるめるとか色々で。それ以前に戦いに巻き込まれたら彼女は死んでしまうかもしれませんし。 因みに言っときますが、積極的に神秘を見せ付けたり喋ったりしてしまえば皆々様の名声に大ダメージですぞー」 くれぐれもお気を付けをと釘を刺し、機械の指でモニターを操作する。 映し出された画像には不気味な異形。異様に手が長く腹から下は煙の様になっているモノと、腹にポッカリ穴が開いた内臓無しの野犬だ。 「サテそれじゃエリューション達について。数は二、いずれもフェーズは1でございます。 先ずE・フォース『ヒキズリ』……この手が長い奴です。主な武器はご覧の通りこの長い手、それに生えた爪。遠距離攻撃法は持ちませんがそれなりに身体能力はありますぞ、ご注意を。 それからE・アンデッド『ワタナシ』、ヒキズリに殺された野犬がエリューション化したモノですな。これは毒攻撃をしてくる場合がございますのでお気を付けを。 彼らはチームワークのヘッタクレもありません、しっかり話し合って、作戦を立てて、一致団結して速やかに討伐して下さいね。 ……あ、そうそう。凄い因みにですが、一般人の少女はどうやらこの公園に定期券を落としてしまったようでして。 余裕があれば探してあげるのも良いかもしれませんな」 以上で説明はお終いです、と締め括る。それからリベリスタ達に視線を向け、ニコリと凶相を微笑ませた。 「それではくれぐれもお気を付けて。私はリベリスタの皆々様をいつも応援しとりますぞ、フフフ。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月31日(土)00:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●サイレント公園 シン、と静か。夜の街。夜の公園。 街灯。照らし渡した一人の少女。 蒼い顔で後退る。 ――日常の中の非日常。 彼女には一片たりとも覗かせてはならない―― 「すいません! 撮影中なんです!」 真っ先に静寂を切り裂いたのは花屋敷 宗司(BNE003298)の精悍な声だった。幻視によって立派な角と尾を隠し、夏帆とエリューションの間に素早く割って入る。 たまたま定期券を落とした為に巻き込まれそうになるなんてついていないな――『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)は横目で宗司と夏帆の様子を見遣りつつ、同時に一先ず間にあった事にホッと息を吐きつつ、思わぬ邪魔者に立ち止ったヒキズリの真正面に立ちはだかった。 (俺たちが絶対に守ってやらなきゃならねーと) 血だらけの牙を向く悍ましいそれを、虎の双眸は真っ向から睨み返す。威圧しながら一歩、一般人の目から異形の姿をその背で隠す。 異形の奥、血溜り、暗がりの中、血腥い臭い、横たえた野犬がモゾリと動く。革醒。臓物の無い犬。だが間に割って入ったリベリスタのお陰で夏帆の目にはそれが入っていないようだ。 手筈通りに、神秘を秘匿する為『これは映画の撮影である』と動き出す。 「きゃー! ごめんなさい今映画の撮影中なんです! 襲われる役の人と間違っちゃったみたいですみません……撮影許可された時間が短いので申し訳ないんですけど、ごめんなさいっ!」 わたわた慌てふためく演技をしながら『サーチライト』大月・望美(BNE003225)は目を丸くしている夏帆へ一気に捲し立て、 「おっと悪いね、大丈夫かいお嬢さん。火薬とか使ってて危ないから離れてて」 一般人が被害を被るのは防ぎたい。『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は特撮ヒーローっぽいポーズと共に夏帆へ振り返り、『誰かの為に』鈴村・優樹(BNE003245)はビデオカメラを構えて映画撮影らしさを演出する。勿論「ごめんなさい」と仲間に続いて。 「あら? 撮影関係者じゃ無い人が混じってたのね……ごめんなさい、時間が無くてちゃんと通行止めできてなかったみたいで」 ヒキズリは敵役、そして『以心断心嫉妬心』蛇目 愛美(BNE003231)は魔法使いの役。作り物にしてはリアル過ぎよね、という理由で羽は幻視で見えない様に。 無事に助けないと……愛美の視線の先では『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)がワタナシを全力でブロックしていた。高度な技術にまで高められた一人ぼっち能力は夏帆の意識からフィネの姿を除外する。 「え、あのっ……ごめんなさい! ここで落とし物をしたかもしれなくって、それで私……」 夏帆は突然の事に驚きつつも『これは映画撮影なんだ』と思ってくれたようだ。そろりそろりと後退ろうとするので、宗司が足早に彼女を公園外へ誘導する。遠退いて行く。 「すみません、先の役者が貴方をエキストラだと誤解してしまったようで。 撮影はもうすぐ終わるのですが、公園外も撮影に使用するので、ここでお待ち頂く訳にはいかなくって……。 お忘れ物はスタッフに探させますので、駅の方でお待ち頂けませんか?」 「はい、こちらこそいきなりすみませんでした……!」 宗司の安心させる様な優しい声音に夏帆も少しホッとしたようだ。宗司は目元をゆるりと笑ませる。 「危ないですし、宜しければ駅の場所を覚える序にお送りさせて下さい」 「あ、すみません何から何まで……」 「謝罪は此方の台詞ですよ。お詫びに何か温かいものを奢らせて下さいな……」 足早、二人は公園の外へ。向こうの方へ。上手く言いくるめる事が出来て良かった。 あんなに上手く誘導できるなんて。妬ましい。 それに目の前の異形達。死んでも活動し続けるなんて。妬ましい。 「……妬ましい。妬ましい。元ある形に戻してあげるわ」 離れ行く夏帆に聞こえるよう、演技っぽい言葉と共に愛美はヘビーボウを構えた。 これが初の依頼――フォーチュナ曰く王道依頼らしいが、映画撮影のなりきりとか、これって。 (アークの王道って斜め上をいってるのね) まぁ何はともあれ依頼は依頼。ディートリッヒが抑えているヒキズリとフィネが抑えているワタナシを見遣る――作り物の目の方に片手を添える。眼帯を引き剥がす。 紅の睥睨。 義眼で捉えないとスキル使えないとか我ながら不便ね。 だから目玉が二つもあるアレが妬ましい妬ましい嫉妬してしまう。 「貴方も目の玉が一つだけになればいいのに……」 直後に放たれたのは流星の矢、鋭く素早く異形達に突き刺さる。 念の為と結界を張った『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)もパイルシューターを構えた。目標は全ての敵――何時も通りにアークの敵を倒し、アークに利益を。すべき事を歯車の様に。 この類の任務は途絶える事はないが……まぁ、出て来たら出てきただけ撃ち込んで倒せばよいだけなのだ。 銃火の猟犬が構える大型ライフル銃の大銃口から放たれた杭は無数、罪を裁く様に、磔刑が如く、幾重にも降り注ぐ。 これが戦い――あちらこちらで仲間が動き、武器を閃かせ、あるいは傷つき、回復し、声を掛け合い、立ち向かう――初めて体験する戦場に望美は我知らずぎゅっと剣を握り締めた。手汗をかいている。心臓の音が聞こえる。それと、自分の呼吸音も、ヤケに大きく。 「頑張らないと」 一般人はいなくなった。 結界は張った。 幻想纏いから武器防具をダウンロードし武装した。 剣もある。盾もある。 それじゃあ、次は?それから自分は? ――戦わねば! 「緊張しますが……初めての戦いがこれでよかったかも」 走る。走る。髪を靡かせ剣を閃かせ、ワタナシへ、初めて『敵』の目の前へ。敵だ。エリューション。 異形が牙を剥く。初めて向けられた本物の殺意。ぞわっとする。牙が肌を裂く。痛い。攻撃されたんだ。恐い、かもしれない。 でも――それでも、引かない。瞳に凛然と闘志を宿す。目の前の敵と殴り合うなんて、 「分かりやすくていいじゃないですか!」 己を奮い立たせる様に。全身の膂力を爆発させ、思い切り剣を振り下ろす! 一方で己が身体の臨界点を突破したディートリッヒはNagleringを構えた。目の前にはヒキズリ。この事件の元凶。フェーズ1と言えど1人で相対するとそれなりにしんどい。爪で切り裂かれた体のあちらこちらから赤い色が滲み滴っている。 まあ、他の連中がワタナシを倒すまで何とか耐えて見せるぜ。傷なんかほっとけば治る。文字通り『ほっとけば』治るのだ。自己修復の力。 「――叩ッ斬るのみだぜ!」 いつものように。研ぎ澄まされた鋭い銀色に彫られたその名が銀の尾を引いた――強引な踏み込み、零になる間合い、裂帛の気合、ヒキズリを圧倒する。怯ませる。 危険なエリューションを討ち、無関係な人を守る。 リベリスタとしての正に基本となる任務。 (戦うことはあんまり得意じゃないけど……) その分仲間が思いっきり戦えるように。皆に翼を与えた優樹が癒しの祝詞を紡げば清らかな微風が巻き起こる。仲間の傷を、痛みを拭い去る。 「ファイトですよー!」 自分では大きなダメージを与える事は出来ない。ならば味方を支えよう。この声が枯れ果てようとも呪文を唱えよう。応援しよう。それが自分の役目だ。大事な大事な役割だ。 リーゼロットの弾幕、愛美の光矢、疾風の真空刃がエリューション達を牽制・圧倒してゆく。 夜の公園に響く戦闘音楽、日常の中の非日常。 (学生さん。こんな夜遅くまで、お勉強頑張ってるん、ですね) 怖い思いもさせたくない。寒いから早くお家に帰してあげたい。フィネは毒入り注射器Rein Hilfeを構え眼前のワタナシを見澄ました。 それはリベリスタの猛攻にガクガク身体を痙攣させ血肉を滴らせ、それでも裂けた口を大きく開く。直後の凄まじい悪臭――毒の瘴気、苦しい、が、直撃は免れた。 コホリと咳き込む息に鮮血を混じらせながら……それはそれで目的達成。 「……痛く、ない」 あなたの方が、ずっと痛かった。 待ってて。 今、眠らせてあげる、から。 「フィネ、がんばります」 超集中状態、電気信号が駆け巡る脳味噌、注射器の先から奔った気糸がワタナシの首へ的確に絡みついた。絞首刑が如く、ギリギリ、キリキリ、絞め付ける。 初めて決まった……ちょっと嬉しい。 (しっかり狙いをつけて……) 動けぬワタナシを優樹が狙う。彼女の詠唱は小さな魔法陣を、魔法の矢を形作る。 「それっ!」 放つ矢、それは身体の自由を奪われ無防備なワタナシの脳天に突き刺さった。臓物も無く、締め付けられた気管から断末魔は漏れず。静かにどうと頽れた。 「やった……!」 「ナイスシュート、です」 ガッツポーズをとる優樹へ、フィネは勇気を出して小さく小さなサムズアップ。 その直後だった。 「うぉっ!?」 ディートリッヒがヒキズリに投げ飛ばされる。咄嗟に疾風が受け止めた。 「大丈夫か?」 「問題ねぇ」 剣を握った拳で頬を拭う。その間にリーゼロットは貫通弾でヒキズリを牽制し、愛美は義眼の紅を爛々煌々と光らせながら重弓の弦を引いた。 「私よりも戦闘慣れしてるとか……妬ましいわね」 自分じゃ絶対ディートリッヒを投げ飛ばすなんて芸当は出来ない。ギリ。歯軋り。妬ましい。放つ矢――掠めた、躱された、ひょろ長い腕で這いずって、飛びかかって来る! 見開く目、その刹那。 「どこへも行かせません、よ……っ!」 素早く割って入った望美の軽盾が突進するヒキズリを真っ正面から受け止めた。ズ、と踏ん張る足が僅か下がるも――胆に力を込めて思い切り圧し返す。 ならばと振り上げられる腕、回避か、いや間に合わない防御か……!? しかし、その必要はなかった。 「――遅れてすまない。只今戻った!」 駅にて「お待ちください」と夏帆に告げ、全速力で走り戻って来た宗司が肩で息をしながら展開した結界。ヒキズリの爪が空しく守護の防壁を引っ掻いた。間にあって良かった……深呼吸を繰り返し、宗司は息を整える。 「お返しだ!」 「そろそろ倒れて貰おうか!」 その横合いからディートリッヒと疾風の真空刃が息を合わせてヒキズリを切り裂き飛ばす。 「止まれ」 体勢を立て直そうとした異形の腕をリーゼロットの弾丸が貫き阻む。 そこへ死角より跳躍したフィネが気糸で動きを封じ、宗司も符術の鴉に「穿て」と命じて支援する。藻掻く。藻掻く。鋭い気糸に縛られ、鴉の毒と怒りに歯を剥き出して。 キリ……弦を引く音が、更に重なる。 「逃がさないわよ?」 嫉妬天使の言葉と同時。ヒキズリの眉間を撃ち抜いた光の重矢。 ピュー。街灯にアーチ状の血、みたいな煙。 シュー。消える。消える。 「……私の嫉妬、早々簡単に抜けられるほどやわじゃないから」 溜息。嫉妬。眼帯。消える。消える。消えた。静寂。 ●捜索タイムとさようなら サテ、任務はもう少し続く。 任務というよりはボランティアだが――「無くしたままだと困ってしまいますものね」と言う優樹の言葉の通り、夏帆の定期券捜しだ。 「もしかしたら意外なところに落ちているかもな。本人がテンパっているとそんなことは良くあるだろうし」 ディートリッヒは遊具の下を覗き込み、宗司は暗がりを捜索。折角だから手伝ってあげるよ、と疾風も加わった。 「うーん……」 望美は研ぎ澄ませた嗅覚で捜し、優樹は超直感に加え千里眼で周囲を見渡し――あった! 「これで無事解決ですね」 拾い上げた定期券を軽くはたいて土を払う。傍らで超直感による捜索を行っていた愛美が「迅速に見付けるなんて……妬ましい」と呟いた。 見付けたのなら、さぁ届けに行こう。 アークに連絡は付けました、とリーゼロットが皆に告げる。 後処理は本部に任せ、自分達は駅で待つ夏帆の元へ――静寂と平穏を取り戻した公園を後に、冷えた空気を横たえた夜の街を行く。 ●正義の味方だもの 駅。それなりに人が往来している。そこはあまりにも日常的。 少女は隅の方で待っていた。宗司が奢ってあげた温かいミルクティーを両手に包んで。 「お待たせしました」 宗司の声に顔をあげる夏帆。その前に差し出された彼女の定期券。 ありがとうございます、彼女は何度も頭を下げた。 それから溢れる笑顔で言う。 「映画、楽しみにしてますねっ!」 あ。ごめんそれ嘘。当然「実は嘘なんです」とはバラさなかったが。 眩しい笑顔で言われた分、それだけ心に引っかかったが……まぁ、この笑顔とその周りの人の笑顔を護れたのだから、万事解決である。 電車の窓からも、夏帆は手を振っていた。ありがとうございます、と。 さて、自分達も三高平に戻るとしよう。 振り仰ぐ空はシンと静かだ。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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