●水面の月 三ツ池公園中央部、その西寄りにある『中の池』に彼は居た。 狂気の夜に月は降り、漆黒に染まった湖上に真紅の月が反射する。凪いだ水面に映ったそれは、上空の月と寸分違わず世界を照らした。 冬の夜。冷えた空気に沈んだそこは、『憩いの場』とは違う別の一面を見せていた。昼間の喧騒はとうに去り、全ての命が揃って息を潜めているかのように、静寂が彼の耳を打つ。 「……くふ」 思わず口の端が吊り上がり、堪えきれずに喉が鳴った。この場所で成りつつある重大な罪を思い、彼は肌を刺す緊張と、殺意に塗れた気配に身を震わせる。 愉快だった。余りにも愉快だった。 ジャック・ザ・リッパーを頭と掲げ、ついに赤い月の夜を迎えた。自分の選択は間違っていなかったのだと、そう確信して哄笑する。 月を見上げ、月を見下ろし、盃に映った月を飲み干す。そんな至福の時間を一時味わい、彼はゆっくりと立ち上がった。 儀式が成るのが間近ならば、当然それを妨害する者も動き出す。そんな邪魔者を平らげるのも、彼に与えられた楽しみの一つだ。 放られた盃が池に沈み、反対に彼の足場は水面から上空へと上っていく。水面を波打たせて現れたのは、人を丸呑みに出来るほど巨大な蛇の頭部だった。 ――邪魔者という呼び方は適切でないか。 蛇の頭を足場に、ゆっくりと上昇しながら、彼はそう思い直す。 迫りくる彼等もまた舞台の一部で、演目の一つで、配役の一人。使命を以って、命を懸けて、きっと自分を楽しませてくれるだろう。 「いざ、参ろうぞ」 時代錯誤で大仰な言葉に応え、大蛇の頭が全部で八つ、水面から顔を覗かせた。 ● 「作戦の目的は理解していただいているものと思います」 戦場となる三ツ池公園の地図を示しつつ、天原和泉(nBNE000018)が念を押すようにそう告げる。何しろ事態は切迫しているのだ、大前提となる事柄まで説明している暇は無いと言いたいのだろう。 切迫した事態とは言うまでも無い。賢者の石の欠片を得たジャック・ザ・リッパーが、この場所から世界に大穴を開けようとしている事だ。魔女の情報と強化された万華鏡から、その現場が横浜にある三ツ池公園であると判明している。 当然アークとしてはこれを放ってはおけない。一同の目を見て頷き返し、和泉が話の続きへと戻る。 「彼等の行う儀式を阻止するに当たり、障害となるのが後宮一派、そして魔女のエリューション達です。皆さんには、その一部の無力化をお願いします」 指し示されたのは、公園西部に存在する『中の池』。公園の名の通り三つある池の内一つだ。 「池の中央部にフィクサードが一名。そしてその周りに巨大な蛇のエリューションの存在が確認されています」 この場所に居る理由は当然、池の近くに現れた侵入者を迎撃するためだろう。 敵戦力の厚みを鑑み、南からの陽動を基に東西の二方向から侵入する事は全体の方針として決定している。そして西側から公園中央を目指すなら、『中の池』の近辺を通らざるを得ない。ゆえにこの敵を無力化する意味は極めて大きいのだ。 「排除できるならばそれが一番ですが、釘付けにするだけでも効果は絶大でしょう。それに……」 眉根を寄せ、彼女が一瞬だけ言いよどむ。 「恐らく指揮権はフィクサードが握っていると思われます。彼さえ倒せばその動きに乱れが出るかも知れません」 言葉を詰まらせた要因は勿論一つだろう。だが彼女はそれには触れぬままに先を続けた。 「……飽くまで不確定の要因ですが、気には留めておいてください。皆さんの力で排除できるのならそれに越した事はありません」 再度気遣うように視線を合わせ、彼女は皆を送り出す。 「健闘を祈ります」 ●付帯情報 ・ウワバミ ジャック側に与するフィクサード。中の池に配され、西側から池に迫る者の迎撃を任されている。 大太刀を佩いた中年の大男。時代錯誤な武芸者然とした格好をしている。恐らくは戦闘狂の類。 面接着で従えた蛇の身体を足場として動いているのが確認されている。 ・八頭の大蛇 魔女によって生み出された巨大エリューション。血のように赤い鱗を持ち、頭の上に人間を乗せられる程度に巨大。『中の池』に半身を潜ませているため全容は窺い知れない。 指揮権はウワバミが握っており、彼の命令に従って動いている。 特別な能力は有していないようだが、その巨体という一点のみでも十分な脅威と言える。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ハニィ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月22日(木)00:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●月下の大蛇 空に真紅の月が咲き、下界を妖しく照らし出す。理屈を語れば月の光は所詮陽光の反射に過ぎないのだが、今宵の月はそれだけ表せない異様な色味を湛えていた。 夜空に残った赤い染み。リベリスタ達の見上げるその前を、巨大な何かの影が横切った。 地響きと共に大地が削られ、その巨体はまた急速に元の場所へと戻っていく。地を這うそれの先端には紛う事なき蛇の頭があった。巨大な柱か、丸太か、そういうレベルの太さの身体は中の池へと引き戻され、水面に覗いた目がまた次の獲物を求めて静かに蠢く。 「ほう、あれが……」 感嘆の吐息を漏らし、『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)が『中の池』に陣取る大蛇を見遣る。あれほど巨大ならば探す手間もかからない。 「まったく、魔女の芸達者ぶりには頭が下がるな。いつか血ぃ吸ってやるぞ」 フードの奥から瞳を光らせ、『背任者』駒井・淳(BNE002912)がそう呟く。 この場所から手頃な敵へと首を伸ばす。あの蛇の仕事は今のところそれだけだろう。だがその所作一つがリベリスタにとって脅威になるのだ。 「こんなところで立ち止まっていられない」 『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)の言葉は、この公園に侵入した全てのリベリスタの思いを代弁している。皆の標的であるジャック・ザ・リッパーは、さらにこの先に居るのだ。時間が、そして戦力が惜しい。 誰かが。そう、誰かがあれを食い止めなくてはならないのだ。 率先し、中の池へと進み出た『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)が、滑るようにして水面を踏んでいく。これからの展開に対する期待を口の端に込め、向けられた視線の先には――。 「へんたいだーっ!!」 『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)が叫んだように、変態が一人。 今や複数姿を見せ始めた大蛇の一つに胡坐をかき、壮年の男が池の周りを睥睨している。武芸者然とした格好は今が何時代なのかを明らかに履き違えており、コスプレ野郎と言う蔑称も腰に佩いた大太刀には追いつかない。 そんな叫びは幸い届いていなかったようだ。やけに寛いだ様子の男は、やがて近づくおろちに気が付き、そちらへと大蛇の首を巡らせた。のんびりとした様子ではあるが、明らかにその目は獲物を見る獣のそれ。 「無限機関、アクティベート! 波動エネルギー、チャージ開始!」 肌を刺す緊張感に誘われ、『エリミネート・デバイス』石川 ブリリアント(BNE000479)が気合を入れる。彼女の身体が唸りを上げて、静かな重低音が周りの空気を震わせる。 が。『対峙』というには少しだけ、いや結構遠い。水上を移動できるおろちと違い、彼女は足を踏み出せば沈むのだから仕方が無い。 「……おのれーひきょうものめー、おりてこーい!」 まぁ、これも蛇の上の男に聞こえているかは怪しいが。 そんな彼女の肩に手を置き、『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は困ったような表情を何とか引き締める事に成功する。 「あひるの翼で、とんでけ……っ!」 翼の加護が皆の背を押し、地から空へと舞い上がる。そして、彼女も自身の翼をはためかせ、空へ。 「おまたせ、ウワバミ」 翼の強張りはすぐに取れた。この場での使命、そして自身がここで出来る事も彼女はしっかりと理解している。けれど。 上空には赤い月。そして揺れる水面に、もう一つ。彼女の『ヤな感じ』は未だ消えていない。 ●翼を広げて 「――アナタの獲物がここにいるわよ、さぁハヤク・キ・テぇん」 聞いた男の背筋を残さず粟立てるような声色で、おろちがウワバミを誘う。あひる達より一歩早く前進した彼女は、自ら餌を買って出たのだ。 それが確かに効果を上げているのは、値踏みするように睨む複数の蛇の目からも分かるだろう。無視はできない、だが襲い掛かるわけでもない。ただ、主の指示を待つように。 「おろち、と」 当の主は知らぬ顔で、女に名乗られたそれを舌に乗せ、味わうように転がす。おろちに大蛇、そしてウワバミ。 「同類か」 愉快気に呟き、ウワバミが軽く指を振る。 下から上へ。察したおろちが飛び退いた場所に、水面を割って大口を開けた大蛇が現れる。勢い良く首をもたげたその蛇は、すぐに狙いを付け直す。 その横面に強烈な一撃を叩き込んだのは、飛んできた『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)だ。 「格好つけてる割に蛇任せかよ! オマエなんかその蛇がいなかったらただの落ち武者だろ?」 頭を揺らされ仰け反る大蛇を見遣り、牙緑がたっぷりと揶揄を込めて言い放つ。だが、彼の向けた視線の先に居たのは、みすぼらしい落ち武者ではなくまた別の大蛇。 頭突きと言えば軽く聞こえるが、突っ込んできた質量は言葉の響きを遥かに越えていた。巻き込まれた牙緑がおろちの視界から消え、代わりに蛇を足場としたウワバミが迫る。 既に刃は鞘から解放されている。剥き身のそれは光の尾を引き―― 「同じ蛇のよしみだ。甚振ることなく一呑みにしてくれる」 「――っ!」 ばくん。そんな音がしそうな勢いで大太刀が奔り、月と同色の火花が散る。血風が二人の頬を濡らし、染める。 「すっごくキツイわ……オジサマの事好きになっちゃいそうよ」 だが、まだ浅い。 「でも一瞬で終わったらツマラナイでしょう?」 艶然と笑んだおろちが、至近距離のウワバミに練り上げた気糸を見舞う。だが絡んだかの確認をする暇は無い。続けて追いついた陣兵衛が斬撃と、そしておろちの言葉を継いだ。 ウワバミと陣兵衛の刃が激しい音を立てて絡み、噛み合い、軋む。 「急ぐ事はなかろう。それとも、女子や小童如きに敗けるのが怖いかのう?」 不敵に言う陣兵衛と顔を突き合わせ、ウワバミはこちらも深い笑みを浮かべた。 「女子に子供とは異な事を。主らは皆平たく戦人で――」 平たく獲物だ。言葉よりも雄弁に語る瞳に、陣兵衛は悟る。最早挑発などと言う必要は無い。 「それは重畳、ならば」 ウワバミは恐らく公平性なぞ考えてもいないだろう。だが、手加減無くかかるという一点において紛いは無い。ここで一番相応しい文句は、そう。 「「いざ、尋常に」」 正に時代錯誤。だがこちらもある意味では、『同類』か。 ウワバミの合図に応え、大蛇の群れがめいめいに動き出す。体当たりや巻きつき、そしてその動作によるウワバミへの足場提供が主な行動か。 自らに鬼人符を張った淳が、今度は味方を守護結界で包み込む。身に生じた壁を頼りに、牙緑と瞑が蛇の網目を越えてウワバミに武器を向けた。 「そこになおれ、成敗してくれる!」 尋常に勝負、などと言ったところで殺戮者たるウワバミに共感などできようはずもない。好戦とは離れた立ち位置にある瞑は、ゆえに勝負ではなく断罪の刃を連続して降らせる。 だが、事はそう上手く運ばない。手傷を負わせ、畳み掛けるべきタイミングは、しかし横薙ぎに振り回された大蛇の身体に潰された。足場をそちらの蛇へと移したウワバミが変則的な起動で離れて行き、牙緑と陣兵衛がそちらを牽制する。 「痛いよね、ごめんね……すぐに、癒すから……っ」 取り残されたその場所で、あひるの歌声が瞑を、そして最前線から一歩引いたおろちを癒す。彼女の力量を以ってすれば体勢を立て直すのは容易いだろう。 だが、そんな彼女の下にはすぐに別の首が迫りくる。顔を出した大蛇は合わせて八つ。これだけの数ならば分担も容易いものだった。 「うぅ、蛇がこんなに大きいなんて、聞いてないわよ……!」 巨体相応の大きな目玉に睨めつけられ、あひるが呻く。特に回復役と知れた彼女には、ウワバミから直の攻撃命令が下ったらしい。迫る瞳の数はすぐに三倍に膨れ上がる。 勢いに押されるように退き気味で応戦する彼女等の姿勢は、勿論ウワバミ達を陸の方へと誘導するためだ。幸いウワバミも剣戟に夢中でそれには気付いていない。 だが、『押されている』という状況は演技だけとは言い切れない。絡み合うように殺到する大蛇の首から逃れ切るのは至難の業だ。庇いに入ったおろちを撥ね飛ばし、やがて一匹の蛇があひるに狙いを定めて大口を開ける。 「喰らって吹っ飛べ!」 高らかな衝撃音と共に、顎が閉じる。だが閉じたのは蛇自身の意思ではない。ブリリアントが渾身のギガクラッシュで顎を捉え、力づくで閉じさせたのだ。 衝撃に朦朧とした様子の大蛇の目に、続けて光が突き刺さる。いかに巨大な化け物と言えど、これが効かないわけがない。絶叫するように喉を鳴らし、大蛇が身をよじらせる。 勝ち誇る暇もあればこそ、目に復讐の色を湛えた別の大蛇が、二人に向かって首を伸ばす。この巨体が絡みついてくるというのは、ある種珍しい体験とも言えるだろう。逃れ損ねたブリリアントが悲鳴を上げる間もなく水中に引きずり込まれる。 「ま、待って! すぐ、動けるようにするから……!」 鷹の目とメガクラ 落ちるブリリ、うきわ、カバー 何かおかしい。それに最初に気付いたのは当然、ウルザだ。両の眼を失った蛇が、真っ直ぐにあひると石川を狙っている。ピンポイントで眼を潰してきた彼にはその状況が一際異様に見えている。 蛇にはピットという感覚器を持つ者もいる。その目が無いとは言えないが…… 違和感を覚えながらも彼の身体は的確に動く。再度のピンポイントが落ち窪んだ眼窩をさらに抉り、淳の放った鴉が追い討ちをかけた。 「そら、暴れてみろ、化物」 集中を重ねたそれに確かな手応えを感じ、淳が静かな声でそう告げる。 「ついでに、上に乗ってるのを振り落とせ」 彼の言葉を聞いた一瞬の後、ウルザは自分の疑いを確信へと変えた。 状況は激変する。 ●狂乱 首から首へ、軽業師のように飛び回り、ウワバミがリベリスタ達に傷を負わせていく。 翼の加護によって空を舞う彼等も、自在な足場をさらに自由に使って戦う相手にやり辛さを感じていた。上下逆さまの相手に防御の隙間を抉られ、陣兵衛が空中で姿勢を崩す。 『水平』の意味を見失いかけながらも、彼等は懸命に堪えていた。 変化は、そこで訪れる。 「な……っ!?」 隙を見逃さなかった瞑のソニックエッジが体勢を崩したウワバミを刻み、牙緑のギガクラッシュがその身を蛇へと叩きつける。 「やった……!?」 歓声を上げかけた瞑が舌を噛んで悶絶する。訪れたそれは、もはや激変と言っていいだろう。 足元が……正しくは、足場としていた蛇の身体が大きく波打っている。交戦どころの騒ぎでは無い、面接着を維持したウワバミの身体も上下左右に踊り回り、陣兵衛が、そして瞑が振り落とされる。姿勢を立て直す暇も無く、彼女等は水面に叩きつけられた。 「何だよこれ……ッ」 そんな中で唯一人、牙緑は咄嗟に大蛇の身体に剣を突き立て、喰らいついていた。 状況は離れて見れば一目瞭然、大蛇が怒りに駆られているのだ。それも、八匹全て。 「そうか、こいつら全部……!」 八匹の蛇ではなく、根元が一つにつながった、化け物。その正体を悟ってウルザの顔が引きつる。 それならそれで、やりようはいくらでもあるだろう。そして怒りに駆られた大蛇は、結果的に当初の目的通り陸へと上がっている。殺到と言っても良い。 だが、その向かう先が問題だ。 猛禽にも似たその目は、逃げ切れず撥ね飛ばされる淳の姿を捉えてしまった。 陸に乗り上げたような姿勢でなお、大蛇は怒りに任せて荒れ狂う。その眼前に飛び込み、ウルザは神気閃光を放った。 光は全ての目玉をまとめて灼き、狂う巨体を惑わせる。 「せいぜい蛇に守ってもらえよ。ああ、今はもう無理か?」 そんな蛇の上を絶妙なバランス感覚で駆け、牙緑がウワバミへと斬りかかる。衝撃波を伴う一撃、ギガクラッシュとウワバミの構えた大太刀が、唸りを上げてぶつかりあった。 そのまま不安定な足場を蹴り、翼の加護に身を任せる牙緑を、ウワバミは構わず追って見せる。 「すまぬな。……蛇抜きの、落ち武者一人ではこんなものよ」 跳ぶのではなく走り抜け、白刃が夜風を両断する。 ●散る赤 うっそりと、億劫な様子で淳が身体を起き上がらせる。死に至るような衝撃を浴びつつも、最後の一歩でどうにか踏み止まっていたようだ。正直なところ、粉々に磨り潰されていても不思議ではなかったのだが。 庇うように立つ我が子の姿に、彼が何を思ったのかは読み取れないが…… 「動くな」 血の塊を吐き出しつつ、淳は八ツ頭の大蛇へと指を向けた。 呪印封縛。紡がれたそれが首を一つ縛り付ける。『八頭』ではなく『八ツ頭』であるところのそれは、伝播する呪縛の影響に残さず晒され、動きが鈍る。 蛇の這いずるそこは既に池のほとりであり、悶えていた蛇の動きもやがて止まる。……結果として、ウワバミの足場の有利は完全に消えた。 「さぁ、続きをしましょうオジサマ」 血飛沫の中で踏み止まった牙緑を追い抜き、おろちが弱点狙いの短刀を突き込む。 致命傷になる位置以外を無視して攻め立て、注意を釘付けに。その血塗れの笑みの裏側には、当然の如く計算高さが潜んでいた。 大蛇の呪縛が解けるその前に、おろちと再度入れ替わるように進む出た牙緑のギガクラッシュが放たれる。その一撃は今度こそウワバミを真芯で捉え、その身を大蛇の上から突き落とした。 「加護を」 もはや有利も不利も無い。落下中の彼には足場がないのだから。 「一足先に黄泉路へ参られよ!」 再度の加護を背中に受け、空を駆けた陣兵衛が刃を振り切る。 両断されたそれは、小さな水飛沫を上げた。 ●そこは、なおも戦場 呪縛から解かれた大蛇を前に、リベリスタ達が身構える。 目の潰れた頭がいくつかあり、ダメージの蓄積もそこそこに見受けられる。だが、それはリベリスタ側の被害の比ではない。 一同は悲愴感にも似た決意を固めかけるが、しかし。 「……動きが無い?」 陣兵衛が探るように一歩前へ。視線を合わせたまま、しばしの間があった後、八ツ頭の大蛇は静かに池の中へと潜って行った。 これからあの蛇がどうなるのかは分からない。だがこの行動の意図は明白だ。 「魔女、か」 リベリスタ達はめいめいに武器を収め、公園中央へと視線を向ける。 決着と言いたい所だが、まだここは戦場の一区画に過ぎない。 「だ、大丈夫?」 「……」 ウルザの言葉に、淳が無言で視線を返す。あまり大丈夫そうには見えないが、ここで立ち止まっているわけにはいかない。 「お友達の蛇と、ここでゆっくりしていってね。……ばいばい」 仲間達へと天使の歌を捧げた後に、あひるが小さく手を振る。 使命を果たすため、そして見届けるために、彼等は中の池を後にする。 気が付けば、水面は月と同じ色に染まっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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