●季節外れの蝶 その日は複数の家族が公園へと遊びに来ており、雄大な自然の中で、のびのびと遊んで羽を伸ばした。そんな平和な日だった。 夕方過ぎになり、少しずつ人が減っていく公園内。 帰りかけたその時。 「蝶……?」 時期は十二月。蝶なんて飛んでるものなのかと感心しかけたその瞬間、視界が真っ暗になった。 その場所は神秘によって占領された。 邪魔な一般人は蝶によって操られ、かつ一箇所に集められては壁となる。 来るであろう、リベリスタを止める壁として。 ●力の集結 「神奈川……三ッ池公園」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)が高鳴る鼓動を抑えながら万華鏡から飛び起きる。考えている暇など無い。すぐにリベリスタを収集する準備を整える。 「皆さんこんにちは、かなり大規模なお仕事です」 軽く挨拶をし、すぐに本題へと移る。 アシュレイがアークへ交渉を持ちかけた件はもう知っているだろう。 そこから分かった情報で、日本に大きな穴をあけるという儀式の場所を、賢者の石を利用し強化された万華鏡が探知した。 「その場所は神奈川県の横浜にある三ッ池公園という場所です」 その場所に特異点が発生。赤い月――バロックナイトの夜に儀式が行われる。 「この特異点が、日本の崩壊の最大の原因だと分かりました」 すべての元凶がそこにある。その情報をアークは掴んだ。 それを止めるのがリベリスタの使命。 言葉にすれば簡単だが、実際は上手くいかないのが道理。 「皆さんお馴染みのシンヤ精鋭や、バロックナイトに賛同したフィクサード。そしてアシュレイお手製のエリューションが公園内を蔓延っているのです」 既に公園はジャック側の戦力で埋めつくされていた。そのため事前に何かするというのは完全に無理な話。 儀式を止めるためジャックの下へ行かなければならない。 だが、そこへ行くには障害となるであろうフィクサードやエリューションを倒さなければならない。 「アークの総戦力で、この事態を打破します。皆さんもお力を貸してください」 そう言いながらモニターに公園の地図が映し出された。 「正面玄関は封鎖されております。蝮原さん率いる部隊や、セバスチャンさん達が南門から陽動役を担ってくれています」 此処に集まったリベリスタはまた違う所から侵入する。その話はまた少し後で。 「アークとしては弱体化した儀式中のジャックさんを倒し、儀式も中断させるのが最善ですが、アシュレイさんが最大の壁になってますね……」 無限回廊を打破するのはアシュレイの任意か、倒すかのどちらかである。 とても大きな問題だ。 だが、その前に今回の依頼を打破しなければならない。 とは言ったものの、どんな選択となろうとも相手側の戦力は少しでも駆逐しておきたい。どんな事が起きても必要に応じて動ける範囲を作らなければならない。 「シンヤはアシュレイを信じていない様です。その結果、シンヤの戦力が事狭しと園内に居るのです……そのひとつと戦闘するのが今回の依頼です」 そう言って再びモニターを指さした。 「皆さんは西門から侵入。そしてあずまやという売店まで向かってもらいます」 「敵は2体です。小型の黒い蝶の形をしています」 アシュレイが一般人を除去するために作ったのであろう、黒き蝶。それが今回の相手だが、厄介な問題もある。 「勿論、処理された一般人が催眠状態で集められています。リベリスタを見たら壁役のように使役してくると思われます」 一般人をどうするかはリベリスタ達の誠意に任せるとしよう。 「他にも死期が近づいたのが分かると、コピーの様に分離して完全回復で生まれ変わるのが観測されています。処理の仕方にはお気を付けて」 そして少し間があいた。杏里が大きく深呼吸する。 「それでは皆様、ご武運を……」 杏里は深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月16日(金)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●赤い夜 頭上に輝く禍月の下。 公園内を飛び回る黒い蝶に連れられて歩くのは、人のいう名のお人形。 そこで遊んでいたのが不運か、たまたまフィクサードに侵食されたのが不運か。どうであれ、必然的に重なった不運が一般人を神秘の世界へと引きずり込んだ。 「大事な決戦につながる任務だ、絶対に任務完了してみせるよ!」 『白面の金狐』白鈴 藍(BNE003075)が頭上に生える耳をぴこぴこ動かしながら、両腕へクローを嵌めた。 そして何より負けられないのは、彼の師匠である方への敬意と忠誠心から。きっと、今も何処かで闘っている彼のためにも負けられない。 頭上で舞う、二体のエリューション。それと顔を合わせた瞬間に戦闘は開始される。 藍がクローで桎梏蝶と一般人を繋ぐ気糸を切ってみようと試みたが、風邪に揺られて上手く捕らえられない。これは少し時間が掛かりそうだ。 「関係ねえ人、盾とかふてえ野郎だぜ」 『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)がガスマスクを被りながら流水の構えにより、神秘を身に纏い、『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)がGazaniaを取り出す。 「レン、藍、そっちを頼む!」 手で丸を作ってそれに答えた藍。 その横で『まめつぶヴァンプ』レン・カークランド(BNE002194)は一般人の攻撃を避けている所だった。催眠状態にかかった一般人は、糸で操られているマリオネットの様な動きをしていた。その行動は遅く、そして弱い。 「オレこの戦いが終わったらナンパするんだ」 『阿呆鳥』クランク・ファルコン(BNE003183)が軽い死亡フラグを立てながらもロープをその手に前へと出る。 一概に操られていると言えども強化されている訳では無い。子供を抑えてロープを回せばすぐに拘束することができた。 それをレンが運んで『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)が控えるトラックの荷台へと入れる。 「何よもう、簡単に捕まえられるじゃないの」 『ツンデレ邁進娘』漣 瑠奈(BNE000357)がクランクの行動を見てそう呟いた。だが、ひとつ試してみたい事もある。 バトルアックスを天へと高く振りかざし、光りが溢れた。 ブレイクフィアーを発動させ、その魅了の糸を解こうと試みたが――。 「気糸、消えてないわね。ブレイクフィアーは駄目そうよ」 やはり物理的にでも神秘的にでも、その糸を切らなければいけない様だ。 「それでは皆さん、手筈通りにですよ~」 来栖 奏音(BNE002598)が瞳を見開き、蝶のデータを調べる。今ある蝶の体力を頭に刻み、攻撃すべきその時を待つ。 ●戦線回避 「ここは任せろ」 レンが走り出し、子供をロープで拘束しようとする。 二匹の蝶が結ぶ一般人の数は五人と六人の計十一人。 暴れだす子供。リベリスタであるレンなら力でねじ伏せることも容易だが、それでは子供を傷つけてしまうかもしれない。 扱いには一層注意しながらも、少しの権勢を振りかざして抑えていく。 (罪も無い一般人なのに……っ) レンの心は燃えていた。ジャック一派はけして許す訳にはいかない。そのためにも、ひとつの仕事をこなす。 「うわぁ! ちょっ、動かないでっ!」 藍も一般人の扱いには苦労していた。拘束しようとすれば暴れだし、そこに感情も無い人形はどこか不気味だった。 苦戦しつつもトラックへと運ぶ。そこでヘルマンが難儀していた。 「ちょっと! 大人しくしててくださいって!!」 ロープで拘束され、寝ていても足でトラックの荷台を蹴る。それをやめさせようと、ヘルマンがその身体で抑えていた。ダメージこそほとんど無いものの、今は数が少ないだけであり、これから増えていくとヘルマン一人では面倒見切れないかもしれない。 その気糸だが、トラックで寝ている人から気糸が出て、物理を無視してトラックの荷台を貫通して蝶へと繋がっていた。 そこで動き出したのがジースだった。 「あれ、どうなってんだ……」 見た目的には摩訶不思議。 トラックの壁から飛び出ている気糸をハルバートで切りつける。見事に切り落としに成功し、気糸が空中で千切れて消えていった。 その瞬間にヘルマンを蹴る足が止まる。気糸の消えた子供はそのまま大人しくなった。 「ふぅ……あっ! そちらさんもトラック蹴ってはいけませんって!!」 ひとつの仕事が終わったヘルマンだが、まだまだ増え続ける。 頭上の一点。 黒い蝶の攻撃が始まる。 翔く羽から粉が降り、その下に居る瑠奈へと降り注いだ。 「こっ、昆虫如きの魅了になんか……っ!」 言いつつ、次の言葉に詰まっては動きが止まる。ふと、ハルバートを構えては味方へと向かう。 「蝶綺麗じゃないの! なにやってんのよあんたたちー!」 「何すん、ぎゃあああー!!」 魅了の威力は上々。 クランクへと牙を向いた瑠奈が、その身体を器用に吹っ飛ばした。 「瑠奈ぁあ! しっかりしろ!!」 その光景を見たジースの次の一手は決定した。 それと同時にもう一方の蝶が幻影を飛ばす。 七色に光る蝶型の幻影はジースを射貫き、その身体を毒が蝕んでいく。 「奏音の出番、ですね~」 それまで防御待機していた奏音が力を振るう。 神秘に呼び掛け歌を奏で、仲間の傷を癒していく。 壁となる一般人の数は残り、八人。 ●桎梏の解放 一般人もそこそこ回収し終えている頃、猛へ魅了の粉が降り注ぐ。 ガスマスクは神秘には効かなかったか、通り抜け、その身体全身で浴びた。 「蝶……蝶っ」 桎梏に魅入られた猛は走り出す、向かった先は両手に二人の大人を抱えたジースへ。 「猛!?」 「……っ!」 ジースがそれに気づき、その横で奏音が天使の歌を使う準備に入った。 猛の腕には炎が巻き付き、振りかぶり、それは見動きが取れないジースへと。 咄嗟にジースが大人二人を守るように背中へと隠し、レンがその間に割って入った。いくら大人といえど、猛のその炎は重い、重すぎる。 「猛!? 何のための力だ?! 守る為の力だろうが!!!」 無意識か、ジースは叫ぶ。 関係の無い人を傷つけるのだけは避けたかった。そして何より、それが仲間の手で行われるのだけは、何としてでも。 「そ、うだよ、な……」 その想いが届いたかは定かでは無い。 だが、確かに猛が途切れ途切れに言葉を返した。 「蝶が綺麗だの、なんだ、の言ってる場合……じゃね、んだよ……っ!」 炎の拳は寸前でレンを空振る。炎がレンの頬を掠っていった。 猛は虚空を殴ったまま、その勢いで地面に滑り込んで止まる。捻った身体の節から嫌な音が聞こえた。 魅了は確かに効いている。だが、その攻撃は失敗に終わった。 冷や汗のかいたジースがはっと我に帰り、大人を荷台へと乗せる。そこではヘルマンが暴れる一般人の上に自分の身体を乗せて抑え、葛藤していた。 「気糸!! 気糸を早く切っていただけませんかっ!?」 「わかった、もうちょっと耐えていてくださいー!」 奏音は、天使の歌から変更。もし一般人が攻撃をくらえばすぐにそれを放つつもりだったが、それはしなくても大丈夫となった。 選んだのはマジックミサイル。 手から放たれた魔力がそのまま気糸の一本を切る。風に吹かれて、消える気糸。また一人、大人しくなった。 ●漆黒の蝶 「関係ない人に怖い思いさせるの、一番嫌いなんです」 大人しくなった十一人から離れ、荷台を降りるヘルマン。 「だから、わたくしは貴方のことが! だいっきらい、です!!」 そして扉をバンッと閉めた。蝶の関与を防ぐために、完全に一般人を隔離する。 「なので、そこで大人しく守られてて下さい……」 扉に話かけ、振り向き見上げれば舞うのは二匹の蝶。後はそれを処理すれば、終わる。 「待たせたな。行くぞ」 「はい! 保護完了ですっ! ボクたちも行こう!」 レンが影を纏い、藍がヘルマンに言いながら流水の構えを発動させる。その横でヘルマンも爆砕戦気を発動。 藍は蝶の下へと走り出し、レンとヘルマンはトラックを護る。 「ほら、しっかりしなさいよね! あとちょっとなんだから!」 「皆さんーまだ敵は体力満帆ですよ~」 瑠奈がブレイクフィアーを仲間へ放ち、奏音が天使の歌で仲間を助ける。 十秒で全ての体勢を立て直し、蝶へと向かう。 藍が一番始めに動く。 その腕から炎が生まれ、従わせながら小さい身体の蝶をしっかりと捕えた。 クローから炎が伝わり、蝶が燃え上がる。赤い月が照らす暗いその場で、人魂が出来上がった。 攻撃はそれに続く。 「うし、気を取り直して……いくぜっ!!」 魅了から立ち直った猛が同じく業炎撃をもう一方の蝶へと当てる。先程の魅了の分もお返しと言った所か。 「あのぼいんの姉ちゃんも変な置土産しやがってよぉ……」 クランクが取り出したリボルバーを蝶へと向け、そのまますこぶる早さで弾丸を放つ。そのまま弾は蝶の羽をかすり飛んでいく。 続いて、レンが両刀のグリモアを開き、魔力でカードを構成する。 それは一直線に蝶へと飛び、その体に突き刺さる。蝶のその身体が一瞬だけ翔くのを辞めて地上へと落下しそうになった。 確実にダメージは蓄積されていっている。 だが、蝶もやられてばかりでは無い。 一体が高く舞い上がり、鱗粉を振りまく。その対象は藍だ。 魅了により仲間の認識が曖昧になると同時に危害を加える。それは藍自身やりたくないことであるのは確かだが、その理性さえ魅了は持っていく。 それが蝶にとっては愉快極まり無いことだったろう。 すかさず瑠奈がブレイクフィアーの光りを放つ。 もうひとつ、恐れていた事は起こる。 一方の蝶が放った幻影の蝶。それはクランクを貫く。 「く、っそが! やりやがったなてめえ!」 「あっ、ちょっと待つですよ~体力が……っ!!」 奏音が敵の体力の低下を指示したが、クランクの怒りは止まらない。 再び放たれたバウンティショットが蝶を貫通し、その体力を持っていく。 それと同時だった。 貫かれた瞬間、黒い蝶が光だしては奇妙な音が辺りを包んだ。 ――メリッ メリッ 蝶の皮が剥がれ、剥がれ。一段階大きくなったような蝶が姿を表した。 その傷は完全治癒。 所謂脱皮の様なものが終わった瞬間、再び元気に赤い空を飛び始めた。 「……気持ちわる~、なんというか奇妙な技ですね~」 「あの蝶の幻影には気を付けようか」 レンが気を取り直してグリモアを開く。 奏音がエネミースキャンをしてみれば、確かに片方の体力は元に戻っている……というより増えている。 「もう一方の蝶はもう少しダメージ与えたほうが良いですね~」 片方は体力回復、片方は少なく。厄介なエリューションである。 何度目かのクランクのバウンティショットが放たれようとしたとき、奏音が止めた。 「――今です、片方はこれ以上の攻撃は危ないです!」 機会がやってきたのだ。すぐさま攻撃を止めたクランク。仲間と合わせて一斉に攻撃していかなければいけない。 その間にも蝶の攻撃は飛ぶ。 幻影が飛ばされ、それは藍へと向かったがギリギリの所で寄けた。ただ、その幻影の羽が身体を掠った瞬間、フェイトの光りが藍を包んだ。 それにも挫けず立ち上がる。 「ここで……倒れるわけにはいかないんだよっ!」 毒も怒りも回避した。まるで目の前の敵を倒せと運命が呼びかけているようだ。 藍が叫んだと同時に、全員での攻撃が始まる。 「一気に、ブッ飛ばす!行くぜぇっ……!」 猛が咆哮し、重なる業炎撃が、ギガクラッシュと共に蝶へと当たる。 そこから追い打ちするかの様に攻撃が続く。 「くらえええ!!」 遠距離から放たれる鎌鼬や弾丸、それに連なりカードが蝶を射貫く。 一体の蝶が弾けて消えた。その残骸は近くの池へと流れて消えていく。 残るは、もう一体のみだった。 時間は長かった。リベリスタの精神力は底が見えてきている。回復はもう打てない。 「かなりギリギリになりそうだな……」 レンが呟いたが引く訳にもいかず、リベリスタは前へと走り出す。 もう一回、あと一回。 それで、突破できる――。 ●アシュレイの意思 個々が尽力をつくし、蝶の体力を削る。 「あ! 今です!! でも、一気に体力削れるでしょうか~?」 リベリスタの精神力は底をついた者も少なくは無い。体力の三割は削りきれるのだろうかという疑問が奏音にはあった。 それでもやらなくてはいけない、どうにかして倒さなければ。 「なんか……なんか策、ありませんかね!?」 ヘルマンが一般人を乗せたトラックを背に悩む。 「くっそ、此処まで、とか絶対やだかんな……!」 ジースが地面の砂を蹴り飛ばす。その上で遊遊と舞う黒き蝶。 「やるだけ、やる! 駄目でもまだ俺等の体力はあるんだから――!!」 「そうよ、駄目ならもう一回やんのよ!!」 レンが咆哮し、すり減った精神力でライアークラウンを放つ。それに続いて瑠奈も飛び出す。 届く、その想いは、きっと――。 蝶へと攻撃は当たる。まるで、その時を待っていたかの様に。避けられなかった……いや、避けなかったのかもしれない。 消える蝶を横目に、藍がその場へと倒れ込んだ。 確かにその瞬間、リベリスタの勝利が決まる。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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