●空を仰いで ロケットペンダントを開き、中の写真を見る。笑っている三人の女性。うち二人は姉妹で、その間で座っているのはその母親のようだ。皆笑顔だ。屈託も何もない、そんな笑顔。 握りしめる。壊さないように優しく、でも振り絞るように強く。時間は戻らない。知っている。 写真は過去を切り取って絵画にする。絵画は動かない。過去は動いて未来へ続く。 『賢者の石』。どさくさに紛れて得るつもりだったのに。けしかけた『最速』は鈍く、奪うつもりだった自分は脆く。ここに来たのもそれを得る最後の望みに賭けたのに。 ここにいる意味は、なくなった。 ●忠誠を誓い 「さぁ、諸君」 稔は唸るような声で背後のフィクサードに呼びかける。稔が上司というわけでもないのに、彼らはその言葉に耳を傾けざるを得ない。 「防衛戦だ」 鼓舞するように凄みを利かせる。最終防衛線とはほど遠い。しかし、稔の目に迷いはない。忠誠を誓う主君の名に賭けて、自分たちの防衛ラインを突破されるわけにはいかない。そう誓っていた。稔は指にはめた指輪を見て、意識を昂らせる。 「なんとしても守り通すのだ。シンヤ様の為に!」 フィクサードたちの間に歓声が沸き起こる。ただ一人、目を背けたものの存在など知る由もなく。 ●赤い月に踊る 「儀式の始まりは、もう止められない」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は呟く。その仮面のような無表情は、一切の感情をも感じられない。 「『賢者の石』は万華鏡を強化し、閉じない大穴とバロックナイトを観測した。その場所は敵の戦力が多く配置されてる」 『三ヶ池公園』。その場所にはバロックナイトに賛同するフィクサード集団や、、アシュレイの作り出したエリューションが、強固な防衛戦を張っている。 『大穴を開ける』という目的の完遂の為に。 「敵の予定は順調ではない」 『賢者の石』を十分に確保できなかったジャックは、アシュレイの情報が確かならば、儀式に集中する為に一時的に力を弱体化させる。儀式の始まれば、ジャック自身がそれを止めることはできない。アシュレイも、儀式が制御者を失っても成立する状態になるまではアークの味方をする意志はなく、また園内中央に『無限回廊』なる特殊な陣地を張った彼女の守りは完璧。これを超えるには、アシュレイの意志で解除するか、アシュレイ自身を倒すか。 彼女をどう対処するにせよ、ジャックの戦力の駆逐と、こちらの戦線の押し上げ、万全な状況を作り上げること。後宮派の高い戦意を押しのけて、この状態を作り上げることは、重要だ。 「公園は封鎖した。でも、ジャックの儀式を止めるには、彼自身を叩くしかない」 そこに行くまでに突破すべき敵の防衛力は、アークが総力戦を強いられるほど、高い。正門付近は事実上の封鎖。残りの入り口から進入することになる。 南門からは揺動を行う。協力を申し出た蝮原率いる舞台やアークの戦力が、それを遂行する。 「あなたたちには北門からの侵入をお願いする」 北門から入ってしばらく言ったテニスコートと池の付近。そこで防衛線を張っているフィクサードの軍勢がいる。彼らを駆逐することが、任務。 「素性がわかっているのは二名。『絶対防衛機関』仁村稔。ヴァンパイアのクロスイージス。それから木凪ヒカリ。ビーストハーフのインヤンマスター。あとは種々のフィクサードが七人の計九人。彼らを打ち倒して、突破して」 ただ、とイヴは言葉を詰まらせる。 「仁村稔がアーティファクトを所持している。壊す必要はないけれど、一応注意してほしい」 それは指輪型の、周囲の革醒者の戦意を高揚させ、戦闘能力を向上させるアーティファクト。名を『愚者の擬態』。軽度の興奮状態に陥り、攻撃以外の行動をとりづらくなる、という副作用があるものの、状態異常になりづらくなるなど、それを凌駕する効果は見込めるそうだ。ただし、最初に装備した者に『擬態』してその効果を発揮するため、最初の装備者と別の者が装備しても効果は発揮されない。 「少しでも多くの防衛戦を突破しておきたい。頑張って」 あと、とイヴは最後に一つ付け加える。 「木凪ヒカリに不穏な行動が見られる。大勢に影響はないだろうけど、心の隅に止めておいて」 意味深な彼女の言葉は、リベリスタたちの顔を強ばらせた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月19日(月)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●猪突猛進 それは一見自然的な片鱗の一切見られないロボットのような姿に見えた。しかしそれは自身の強固さを示す為に、彼が好んで身体を晒しているにすぎない。自己に陶酔した司令官は指に光るリングを見せびらかすように手を前に突き出し、叫ぶ。 「敵襲だ、散れ!」 声の拡散に合わせて彼に感化された兵士が、散る。冷静さを欠いた怒号を伴い、まずソードミラージュの二人が高速で突き進む。そこへ『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が立ちはだかり、応戦する。 「突進するだけの馬鹿を通すわけにはいかねぇな」 フツは一人をうまく受け止めて、その勢いを殺す。もう一人がうまくフツをかわし、ナイフを振り上げる。しかしその脇を弓矢が擦り抜ける。彼の目が、微笑みながら自分を見る『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)を捉えた。 「ほら、ぼやぼやしてると撃ち殺しますよ?」 続いて残りの五人が一斉に戦場になだれ込む。『アルブ・フロアレ』草臥 木蓮(BNE002229)と『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)はそれぞれのライフルの引き金を引き、銃弾の嵐で敵を牽制しつつ攻撃した。攻撃の嵐をガードしつつ、一人の覇界塔士が『歩く劇物指定』嶺 繧花(BNE003180)に向けてかまいたちを放ち、斬りつける。 「痛ったーい! こっちだって負けないよ!」 拳に炎を乗せて、繧花は反撃する。彼はガードしつつ、よろけて後退した。入れ替わるように繧花の前に現れた男が、彼女に攻撃を仕掛ける。『影たる力』斜堂・影継(BNE000955)はその男に剣を振り下ろした。男はそれを避けられず、もろに食らう。 「ほら、てめぇの相手はこっちだ!」 男は言葉に乗せられ影継に素早く連続攻撃を浴びせる。影継はうまく受け流しながら、後衛への追撃を断った。しかし別の方向から二人の敵が猛進する。それを『超守る守護者』姫宮・心(BNE002595)が手際よく遮った。 「ここは通さないのデス!」 オーラをまとった連続攻撃が心を襲ったが、その体はびくともせず、立ち塞がる。思わず二人は後退し、心はジリジリと敵を後ろにやらぬよう距離を置く。 その時、木凪ヒカリが動く。戦意のあまり感じられない冷静なまなざしでこちらを伺いつつ、敵味方の少ない、しかし攻撃のよく通りそうな場所に移動を試みる。心は決して敵を後ろに逸らす事のないように注意しながら、ヒカリの方へ近寄っていった。 ●盲目の猪 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は神々しい光を伴って、周囲の敵を焼き払う。フィクサードたちは少し怯んだが瞬時に立ち直り、攻撃を再開する。彼らは少しも意味のある言葉を吐かず、ただ小煩い掛け声だけを伴って攻撃を仕掛ける。 一人の男の標的がカルナに向く。高速な跳躍から繰り出される強襲が彼女を狙うが、星龍がすかさず彼女を庇った。 「おっといけませんよ、こっちは」 彼は勢いよく男を突き飛ばすと素早くライフルを構え、狙い打つ。鋭い弾丸は男の脇腹を貫いたが、それでもなお男の目から戦意は消えずにいた。 彼をバックアップするように、二人の男が彼の両脇を走り抜け、拳を振り上げる。しかし星龍を挟むように、七海と木蓮が遠めに位置を取り、得物を構える。二人の男は、構わず猛進した。 「お前ら、ちょっとそいつは無謀すぎたな!」 両側からの弾幕が二人を包み、片方はライフルの餌食になり、もう片方は首に決して浅くはない傷跡をつけられた。しかし彼らの勢いは止まらない。その意志はただ単に、自らの拳を敵に叩き込む為に動いた。二人は勢いのままほぼ同時に飛び、星龍に燃え盛る豪炎と凍て付く冷気を纏った拳を、これまた同時に叩き込んだ。 強烈な同時攻撃を受けた星龍は緩やかに宙を飛ぶ。それを見て、七海は急いでライフルを構える。 「背中が、お留守ですよ」 二人の背後に陣取っていた彼は慌てて構えたにもかかわらず、それでも冷静に、撃つ。弾丸は彼の声に振り向いた男の左肩を、貫いた。男の左腕がダラリと下がり、その額に薄らと汗が見られた。 「七海、後ろだ!」 声を受けて彼が振り向くと、二人の男がナイフを自分に、まさに振り下ろそうとしているところだった。ライフルを構える間もなく彼は後退し、その攻撃を避ける。再び追撃が来たが、フツが間に割って入り、彼を庇った。 「そいつは通らねぇぜ!」 攻撃を加えると、二人は少し後退する。フツは腕の式神を少し眺めてから、前進して追撃を加える。怒濤の猛攻にさすがに動揺したか、二人はフツから距離を置いた。代わりに後ろから男が一人オーラを纏いつつ突進を計ったが、堰を切ったような連続射撃が彼の頬をかすめて、怯んだ。 「そっちが集団突撃なら、こっちは集団射撃ってな!」 途切れない連続射撃が周囲にいたフィクサードを悉く撃つ。少しづつ、少しづつ体力を削られていく彼らの顔から、少しづつ戦意の色が失せていく。 「さぁ、一気に畳み掛けるよ!」 繧花の声が、リベリスタ陣の闘志を一層盛り上げた。 が。 「皆さん気をつけてーー稔さんが動き始めました」 仏のような微笑みを称えて鎮座していた指揮官が重い腰を上げ、ノシノシと前に出てくる。カルナの忠告に少し動きを止めたリベリスタだったが、止まぬ猛攻にその意識を削がれ、再び交戦状態に入った。 木蓮は自分に向かってくる男にライフルを乱射する。その弾の嵐に稔は突っ込み、男を庇う。男は稔を盾に嵐を避けると、猛スピードで木蓮に接近し、素早く攻撃を二発加える。横からもう一人男が近付き、追撃を試みたが、心がそれをブロックし、突き飛ばす。そして心の後ろにいたフツが式神を飛ばして、男の足を貫いた。男は流石に立てずへたり込み、そのまま動けなくなった。別の男がバックアップに入ったが、やはり心にガードされ、繧花が二人ともをなぎ倒す。二人の男が次に戦場に立つ事は、なかった。 「……その程度では我らは引かぬぞ、貴様ら」 味方がやられたにも関わらず、その声と共に戦意が再び高揚していく。つられて冷静さを失ってしまいそうになる、そんな高揚感。 「突撃だ! なんとしてもここを死守するぞ!」 高まった高揚感を爆発させて、闘志はぶつかり合う。 ●偽者の憂鬱 ヒカリは声の後ろで様子をうかがう。あの熱気に中られたら、自分を見失ってしまいそうで。それは本意ではないのに、得策ではないのに。 「何をしてるんデス? ヒカリさん」 戦場の中心から少し離れたところにいた心が、声をかける。その真っすぐな目線に、ヒカリは思わず身構える。 「……あぁ、あの時のおちびさんね」 最後のとき、立ちはだかった少女の姿を、忘れたわけではない。届かなかった刃、掴めなかった宝。 「どきなさいよ、アンタのお仲間、狙えないでしょ」 「気になってた事があるのデス」 ヒカリの言葉を無視して、心は訊く。 「なによ」 「落ち込んでおられる理由、お聞かせ願えませんか」 「……あなたに言って、何になるのよ」 やんわりとした拒絶を振り切って、心は続ける。 「なんで最速さんをけしかけてゲームみたいな事したんでしょう? 『後宮さんのところにもって帰る』ことが目的なら必要のない事デス。楽しんでおられるのかと思えば、賢者の石が目的だったみたいですし、そうかと思えば素直に帰りましたし。……教えて欲しいのデス、あなたが落ち込んでおられる理由を。私はもう、貴方に関わってしまいましたデス」 「……どうしても欲しいものが、策を弄してまで欲しかったものが、手に入らないと知れば、落ち込むでしょう?」 それは理由ではなく、ただの事実。心は、ヒカリが自分に答えなど明かす気がない事を悟った。 「……それから一つ、あなたに言っておくわ」 「何デス?」 二人の間に、吹っ飛ばされた影継が転がり込む。彼は素早く起き上がると、口元を拭って自分の飛んだ軌跡に目をやった。 心がそれを目で追い、ハッとしてヒカリに目線を戻す。彼女の肩に、式神の鴉が止まっていた。 「ここは戦場よ、話をするには適してないわ」 一閃、鴉が宙を舞い、心を狙う。心は防御するが、その衝撃に顔を歪める。ヒカリは微笑みつつ、心から距離を取る。 「でも、敵にもバレバレなくらい、足下がお留守だぜ」 男が倒れる。撃った木蓮が、険しい顔でヒカリを見ていた。 「思い悩む事があるんだろう? ……賢者の石に関わる事かは、知らないがな」 稔が遠くで叫ぶ声が聞こえる。木蓮が軽快な動きで援護に向かう。ヒカリに見られたのは動揺。真実の指摘と、決意の揺らぎ。 「ウジウジ悩んでんじゃねぇよ」 すれ違い様に、影継が声をかける。 「自分ひとりじゃ救えないと思うなら声を出せ。その手を掴んでくれようとする連中だっているだろうよ」 彼らが自分に攻撃の矛先を向けないのに、ヒカリは拍子抜けしていた。 「……戦場なのよ、ここ」 「むやみにやたらに戦う事をしたくないだけだよ、きっと」 別の敵と相対する繧花が、少しだけこちらに気を向けて言う。言い終わると、再び敵に向かっていった。 「私たちにはやらねばならない事がございます。そのための障害は少ない方がいい。……退いていただけないでしょうか」 お互いここで果てる心算はないでしょう? カルナが告げる。その言葉が、ヒカリの胸に鋭く突き刺さる。 「……全く、リベリスタがお人好しなのは変わらないわね」 だから嫌いなのよ、とヒカリは呟く。そして心と足を動かし始める。戦場から遠ざかる方向に。 もしそれがシンヤやジャックのいる方向だったなら、心は瞬時に味方の援護を要請したろうが、彼女は動かなかった。 「どこにいくのでしょう」 心は訊く。ヒカリは振り向かずに、言った。 「ここにいる意味がないなら、行くところなど決まっているでしょう? 『賢者の石』なんて私が得るにはおこがましかったのかもしれないわ。……でも、私には変えるべき『運命』がある……なら、またいつか相見える日も来るでしょうね」 その時になったら、ちゃんと戦いましょう? 彼女は言うと、風のように戦場から姿を消した。 ●愚者の憤慨 「やはり逃げたか……だから兵隊に加えるのは嫌だと言ったんだ」 稔は呻く。決戦と言う雌雄を決する舞台で、彼女はそれと違う何かを抱えてここに来た、役目を演ずるに相応しくない役者。シンヤへの忠誠の薄い、偽者の兵隊。 「構うものか、我らはここを通すわけにはいかぬのだ!」 兵隊の声は大きく、闘気が昂っていく。既に三人の兵隊が地に伏していた。それでも彼らは猛進を止める事はない。動力となるのはアーティファクトの効果のみならず、シンヤへの忠誠の大きさ。 何度も、何度も、突撃を繰り返す。どれだけ体力が削られても、繰り返す。数の上では優勢にあるのに、リベリスタたちは押され気味だった。 木蓮がフィクサードの軍勢の中心に向けて銃撃する。彼らは味方に余波が来ぬよう器用に避け、なお直進する。なだれ込む人の波を遮るように、心が立ちはだかる。 「邪魔な人はここで止まってくださいデス」 オーラを纏った打撃をその身で遮りつつ、その行き先を封じる。しかし目にも留まらぬスピードでその脇を抜け、男が七海に連続攻撃を仕掛けた。 「腕の一本くらい安いもんだ!」 フツが無理矢理腕を動かして、相手の攻撃を妨げる。斬られた腕から血が噴き出したが、構わずもう片方の腕で男を殴り飛ばした。すぐさまカルナが呼んだ微風が彼の腕を包み、血を止めた。 フツの攻撃を受けた男は、頭から血を流しながら立ち上がり、仲間と共に影継を狙う。影継ぐはその片方をもろに食らい、後ずさる。 「やってくれるねぇ……じゃあこっちはド派手にぶちかますしかねえな!」 リボルバーを構え、心のままに乱射する。跳ねた銃弾がデュランダルの一人を撃ち落としたが、素早い動きで残り一人のソードミラージュがその弾幕を潜り、影継に接近する。それを許した彼は唇を噛みながら銃口の移動を試みるが、しかし敵の方が動きは、速い。 肩に突き立てられたナイフは一瞬のうちに姿を消し、代わりにそこから血がトクトクと流れ始める。フツのかざした癒しの符が彼の傷口を癒す間も、猛攻は続く。 木蓮に向いた攻撃の目を心が摘もうと立ち塞がり、怯んだ隙に繧花が彼を殴り飛ばす。しかし代わりに現れた稔が、彼女の腕を握って防いだ。 「そろそろ一人ぐらいご退場願おう」 逃さぬように彼女の腕を掴んだまま、手にした剣を振り上げる。輝きを放ちつつ振り下ろされたそれが、繧花を斜めに切り裂いた。その衝撃に、繧花の意識は飛びかけるが、彼女の運命がそれを許さなかった。空中で体勢を立て直して着地し、真っすぐ稔を睨む。 「負けられないんだから……いくら鉄壁でも、これならーーどおだっぁぁぁああっ!!」 繧花は稔に向けて、破壊的な気を孕んだ一撃を放つ。当たるーーしかしそれを受けたのは、稔ではなく稔が腕に掴んだ男。 「所詮は駒に過ぎぬのだよ」 すでに動かなくなった男を投げ飛ばす。リベリスタの前に立ちはだかるのは、二人の男と、稔のみ。しかしカルナは不思議と優勢という気はしなかった。 強烈な踏み込みを伴って、男がフツに飛びかかる。全身の力を溜め込んだ一撃はフツを吹き飛ばし、その背後にいた木蓮の存在を露にする。稔がすかさず十字のヒカリを飛ばす。それを心は受け止めるが、男がリベリスタの後ろから回り込み、木蓮に攻撃を浴びせる。木蓮は苦痛に顔を歪め、体のバランスを崩す。体の重さを感じながらも、彼女は決意し、叫ぶ! 「っええい!こんな足の引っ張り方してられるか!!」 木蓮は倒れつつも狙いを定め、鉛玉を撃つ。銃弾は狙い通り、星龍を狙っていた男の胸を貫いた。 「やっと暇ができましたね……出来得る限りの攻撃を今ここで」 星龍の周囲に炎を帯びた幾つもの矢が現れる。彼が呼吸を整え、やがて手をかざすと、矢が飛んでいった。目の前の男にとどめを刺し、そしてもう一人のデュランダルと稔にもそれは強烈な衝撃を与える。激高した男に反撃を食らい、目が霞んだものの、その目は笑っていた。 「終わらせよう、全ての力を以て」 七海が呟き、そして放たれた光弾は男と稔の足を止める。男は戦意を失くして力尽きる。一人になった稔はしかし、諦めない。 「ここを通すわけにはいかぬのだ……他ならぬ、シンヤ様に誓って!」 光を飛ばす。心がそれを弾き、そして影継が素早く稔に接近する。 「もう飽きたぜ、その物言いはよ」 星龍、七海、木蓮の放った銃弾と、影継の一閃が、稔に残った戦意を残らず削ぎ落す。 薄れ行く意識の中で、稔はフツの問いを訊く。 「絶対防衛機関たるお前だからこそ、知らされている事実は、ないか?」 稔は微笑みながら、嫌みたらしく言う。 「情報を守る最良の手段は、知る者を増やさぬ事だよ」 言葉を紡ぎ終わると、彼は動かぬ人形となる。彼の息吹が途切れると共に、彼の指にはめていた指輪が、砕けた。それが一つの決戦の終わりを示していた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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