●赤く染まった翼 何が起きるか予感させる不吉の前兆――赤い月が自然豊かな公園内を照らす。 「ふふ、今日ね、今日なのね! 全てが達成される記念日なのね!」 池の水の上で無邪気にも遊ぶのは、クレイジーマリア。 いつもの様に地面に引きずりそうなほど長い金髪と、白いシンプルなワンピースを身体に纏う。少し印象が違うのは、寒い冬なのでモコモコのコートと赤いマフラーを首に着けているくらいだろうか。 「はい、おめでとうございます」 その横に佇むのはメイド服を纏った女性だった。 はたから見れば良いとこのお嬢様とその従者といった所だろうか。だが、どちらもフィクサードであり、マリアはシンヤに忠実で、メイドはマリアに忠実である。 「賢者の石の収集は思うようにいかなかったとお聞きしますが」 「うるさーい! マリアだって頑張ったけどあいつらしつこいんだもん!!」 その頬を不機嫌に風船の様に膨らましているマリアに微笑むメイド。 「ねえハイミル」 「はい、なんでしょうか?」 ハイミルと呼ばれたメイドはマリアに問われる。 「友達ってなんだと思う?」 「親しく交わっている人。本来複数の対象に使う言葉でしたが今は――」 「そーゆことじゃなくてー!」 もういいわよと打ち切ったマリア。池の湖上で羽を広げて水面を蹴った。 ――来るなら来なさい。 でも、その時は本当に譲れない。 石は譲ったけれど、今度は絶対に譲らない。 友達と慕ってくれるなら、私のために死ねる? 失敗に2度目という文字は無い。 水面に映った自分の顔を、素足で蹴り飛ばした。 ●力の集結 「神奈川……三ッ池公園」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)が高鳴る鼓動を抑えながら万華鏡から飛び起きる。考えている暇など無い。すぐにリベリスタを収集する準備を整える。 「皆さんこんにちは、かなり大規模なお仕事です」 軽く挨拶をし、すぐに本題へと移る。 アシュレイがアークへ交渉を持ちかけた件はもう知っているだろう。 そこから分かった情報で、日本に大きな穴をあけるという儀式の場所を、賢者の石を利用し強化された万華鏡が探知した。 「その場所は神奈川県の横浜にある三ッ池公園という場所です」 その場所に特異点が発生。赤い月――バロックナイトの夜に儀式が行われる。 「この特異点が、日本の崩壊の最大の原因だと分かりました」 すべての元凶がそこにある。その情報をアークは掴んだ。 それを止めるのがリベリスタの使命。 言葉にすれば簡単だが、実際は上手くいかないのが道理。 「皆さんお馴染みのシンヤ精鋭や、バロックナイトに賛同したフィクサード。そしてアシュレイお手製のエリューションが公園内を蔓延っているのです」 既に公園はジャック側の戦力で埋めつくされていた。そのため事前に何かするというのは完全に無理な話。 儀式を止めるためジャックの下へ行かなければならない。 だが、そこへ行くには障害となるであろうフィクサードやエリューションを倒さなければならない。 「アークの総戦力で、この事態を打破します。皆さんもお力を貸してください」 そう言いながらモニターに公園の地図が映し出された。 「正面玄関は封鎖されております。蝮原さん率いる部隊や、セバスチャンさん達が南門から陽動役を担ってくれています」 此処に集まったリベリスタはまた違う所から侵入する。その話はまた少し後で。 「アークとしては弱体化した儀式中のジャックさんを倒し、儀式も中断させるのが最善ですが、アシュレイさんが最大の壁になってますね……」 無限回廊を打破するのはアシュレイの任意か、倒すかのどちらかである。 とても大きな問題だ。 だが、その前に今回の依頼を打破しなければならない。 とは言ったものの、どんな選択となろうとも相手側の戦力は少しでも駆逐しておきたい。どんな事が起きても必要に応じて動ける範囲を作らなければならない。 「シンヤはアシュレイを信じていない様です。その結果、シンヤの戦力が事狭しと園内に居るのです……そのひとつと戦闘するのが今回の依頼です」 そう言って再びモニターを指さした。 「此処に集まって頂いた皆さんは西門から侵入して下さい。そこから道を辿り、里の広場と中の池に挟まった道まで行ってもらいます」 「敵は2人。シンヤ精鋭クレイジーマリアとその従者ハイミルと呼ばれた女性です」 クレイジーマリアは顔を合わせた者も多いだろう。戦力は変わらず神秘特化の少女だ。だが、今回はもう1人増える。 「ハイミル……彼女の戦力は皆さんと同じ位です。ですが、回復と支援に長けているのでお気を付けてください。恐らくマリア自身が回復役をせず戦闘しに回るのだと思います」 だがやはり恐ろしいのはアーティファクトのぬいぐるみ。生み出されたエリューションを倒さなければ、新しく数が増えていく。 「厳しい戦いになると思います。あちらも大きな儀式を成功させるためにしくじる訳にはいかない様なので……」 少し間があいた。 杏里は深呼吸をし、リベリスタを見送る。 「それでは皆様、禍月の夜に正義の鉄槌を」 杏里は深々と頭を下げた。最後にこう付け足す。 ――お帰りをお待ちしております、と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月19日(月)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●対角に咲く花 紅月の燃える夜。 照らされる公園は不気味に赤く見えるのはそのせいだろうか。池の水面も赤く揺れていた。 クレイジーマリアが足の先だけを水面に着けて浮かんでいる。その横で器用に水上に立つ従者のハイミルがマリアを心配そうに見つめていた。 「来るね、すぐに」 慌ただしくなっていく公園内。その異変が察知できないほどマリアは子供では無い。 近づいてくる足音は、すぐに視界の中で形となって現れた。 十人のリベリスタが池の前に到着する。走ってきたため、彼等の後ろには砂埃が舞って空へと消えていく。 お互いに姿を確認した瞬間から戦闘は始まる。これは、リベリスタとフィクサードの譲れない戦いだ。 「ふふ、来たね、待ってたよ……さあ遊ぼうよ、アーク!!」 咆哮したマリアの甲高い声が肌で響く。 「歌ってね! 首の締まった豚の様に!」 速攻だ。『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)が揺るがず、そして冷静に煙草を吹かせながらも、扇から呪印封縛を放つ。 それは確かにハイミルへと向かったが――呪印封縛は突然召喚された歪な人形の一体に当たった。 水面には血が流れて、その中へと溶けていく。その血はハイミルの首から垂れ続けていた。 「……まさか、メイドさんがテディを持つなんてなぁ」 「だーって、任せてマリアが戦ったほうが手っ取り早いもん。そのための人柱なのよ、この子は」 マリアが高笑いする中、食い込む牙はハイミルの首を抉っていく。 ハイミルの忠実さは何処から来ているのか分からないが、以前失った主の時の様に、二度は失いたくは無い様子。 「そういう訳です。私はさして戦力にはなりませんが、やるべきことは果たして見せます」 ハイミルはエプロンドレスの両脇を持ち、丁寧に頭を下げた。 歪な人形がリベリスタを襲う。 一体が爪を立てて『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)の肩を切り裂いた。 「ぐるぐさんの事は覚えてるかちら」 傷口から血が溢れて宙へ舞っていく。破れた服を千切り、それで包帯の様に傷口を隠す。それからマリアの方向へ向き直し、オッドアイの瞳で優しく笑った。 「あの子はいないけどさ。また一緒に遊びましょ」 その言葉にマリアは言葉としては答えなかった。 視線のがっちり絡み合う中で、ぐるぐはコンセントレーションを発動させた。 いつだったか友達になろうと手を差し伸べられた。それでも消えない、こびり着いた忠誠が彼女の逆鱗に触れる。 「全ては、シンヤ様のため」 それだけがマリアの存在意義。 「今日だけは、譲ることはできないのよ!!」 紡ぐのは、慈悲も容赦も無い雷。金色の電撃が頭上に放たれ四方へと散り、リベリスタへと向かった。 「俺達は、世界のために……譲れないんだ!!」 『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)の身体に電撃が直撃する。痺れる身体だが、デュエリストの意地は消えない。 振りかぶるハルバードに風が纏う。 これが終わったら、友達になってあげよう。友達は大切だって分からせてあげよう――一緒においで、と。 そのためにもこの戦闘を止める。振り切った刃から放たれた風は、散開している電撃を切り抜けてマリアへと向かう。 だが、届かない。 シンヤからもらったアーティファクト。それを持っている従者が、マリアを守らないはずが無い。 一太刀の刃は人形によって阻まれた。 「お久しぶりね、私のことは覚えているかしら?」 『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)が動く。 まだ敵の人形は四体が健在。そのうち二体はリベリスタの近くに居るが、残りは壁となりマリアとハイミルを守っている。 本来ならダンシングリッパーで纏めて片付けたい所だが、水上に立つ術が無い。 即座に切り替え、黒いオーラを構成する。 「ええ、覚えております。忘れるはずが無いでしょう?」 ハイミルからの返事は何処か皮肉が篭っていた。怒りを抑えているような、遠回しの言い方。 これはビンゴとクローチェの口端が一瞬だけ吊り上がったが、すぐにいつも通りの無表情へと戻る。 「あの時貴女を逃したのは大きな過ち…… 貴女が双子の意志を継ぐのなら、その運命共々断ってあげるわよ」 ハイミルの口内でギリリと音が鳴る。それは確かにハイミルにとっての屈辱の合図。 ブラックジャックは確かに人形の頭部を綺麗に貫いた。 ●友達 マリアのフレアバーストが辺りを包みながらも『Dr.Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が動く。 未だアルメレミルに守られて健在のハイミルが狙いだが、それも人形に当たる。 「ふむ……人形が邪魔であるな」 「せやなぁ」 椿と合わせてハイミルを狙うが、ことごとく呪印封縛を重ねるだけであった。 庇うために召喚された人形が文字通り庇い。その行動でダメージが無いのは一番痛いかもしれない。 椿は臨機応変にカースブリットへと体勢を変え、それを放つ。 それに続いて『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)が盾を片手にグリモアを開いた。 「全部吹っ飛ばそうか」 恨まれても良かった。憎まれても良かった。ただマリアを救いたい。 マリアにかかる、フィクサードの手を吹っ飛ばせたら、どれだけ良いだろうか。 同時に小鳥遊・茉莉(BNE002647)も動く。 「出会いさえ異なれば、きっと笑顔が似合う女の子だったでしょうに」 生い立ちか、境遇か、何かが間違えば現状も全く違う状態になっていただろう。 だが、人々は運命に沿って歩く。 成ってしまった現状があるならば、正して見せる。 齢は八十を超える少女が生み出す炎は救いの光りと成りえる。 ――その二つの想いは、人形の盾を貫く。 マリアの威力には劣るが、付喪が同じように雷弾を頭上へ放てば、龍の様に柔軟に、蜂のように俊敏に電撃が舞う。 茉莉が神秘へと呼びかければ、異界の炎が人形を燃やしていく。 「アルメ!!」 マリアの目の前の人形が炎に消える。 それに続いて、ぐるぐの眼前のアルメレミルも雷に貫かれて消えていった。 「またお前!! 邪魔だよ!! 前も、今も!!」 「マリア、よく聞きな」 吼えたマリアに付喪は冷静に対応する。 人形はマリアの心の壁か。装甲がひとつ消えたマリアと付喪の目線が、がっちりと合い、諭す。 ――マリアと友達になれるって信じてる。 ――今日は、遊びに行けなくてごめんなさい。 「あんた、愛されてるよ」 「う、うるさぁいいッ!」 誰の言葉か一瞬にして分かった。きっと近くて遠い場所で、戦火の中にいるであろう彼女達。 「関係無い! マリアは目の前のおまえらを、倒すだけ!!」 「お嬢様、落ち着いてください……!」 だが、マリアは殺すとは言えなかった。それは今までのリベリスタとのかかわり合いで何かが変わった証拠だろう。 我を失いかけたマリアをハイミルが宥める。 だがその瞬間。一匹の鴉がマリアを突き抜けていった。 「議論は、全てが終わった後でも大丈夫ですか」 蘭堂・かるた(BNE001675)の放った式神がマリアの怒りを買った。その瞬間に広場の方へと後退。 かるたに釣られ、マリアが地上へと降り立てばそれは此方の優勢。 ――だが、テディの効果発動まで残り十秒。 ● かるたが下がったのに釣られてマリアも前へと出た。 しかし遠距離を得意とする彼女は、その攻撃がかるたに届く範囲より前へは出ない。 攻撃を終えた直後に後退した分だけマリアが前に出るが、静達の手にはまだ届く位置ではなかった。 それを見たかるたが、再び後ろへ下がる。 きっと、次でマリアは地上へと足をつけるはずだ。 素早くハイミルがブレイクフィアーを唱えれば、マリアを怒りから解放しようとする。 「消えろおおおお!」 叫び、マリアが歌うのは葬送曲。 高速で紡ぐ詠唱から繰り出される鎖はリベリスタを飲み込むために伸びていく。 「わ、っぷ!?」 直線上にいた静を血の鎖が飲み込んだ。 近接でアルメレミルと戦い続けた彼の身体が悲鳴を上げ、フェイトが窮地を救った。 「まだ倒れられないよな!!」 両頬を叩いて意識をはっきりさせた静にエリス・トワイニング(BNE002382)の聖神の息吹が包む。 マリアの葬送曲で受けたダメージのほとんどを彼女がカバーした。その行動は真柄チームの要。 攻撃を終えたマリアが更に前へと出る。 「オーウェン! あれをやるぜ!」 静が叫び、オーウェンが静のハルバードの上へと飛び乗った。 大人一人の体重が乗っても、ハルバードを軽々しく振ったのは流石デュランダルといったところか。 「オーウェン砲だぁっ!」 ぶんっ、と音を立てて振られてオーウェンがマリアの頭上へと飛んだ。 「たまには地べたを歩いてみてはどうかね?」 葬送曲のお返しと言わんばかりに、叩き込まれたのはJ・エクスプロージョン。 マリアは無抵抗に、地面へと叩きつけられた。 呪縛を受けていた人形がマリアを庇おうとする。 だが、すぐさま『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の無慈悲なハニーコムガトリングが人形をぶち壊す。 マリアに壁は無い。 見逃さないぐるぐがノックダウンコンボを仕掛ける。 四つん這いから起き上がろうとするマリアの弱点を見抜き、プロアデプトとは思えない早さで拳がマリアへと飛んだ。 その拳は、確実に胴を捕える。ただし―― 「……させませんよ」 寸前でハイミルが割ってい入り、その身体でマリアを守った。 だがそんなハイミルにクローチェが向かい、愚者の聖釘からハイアンドロウが唸った。 それはクローチェ自身にも被害が行くが、そんなの関係無い。 かわせないハイミルが舌うちする。 その音を捕らえながら、クローチェはハイミルの弱い方の防御をつき、確実にその体力を削っていった。 ――カウントダウンはとっくに始まっていた。 「おいで、アルメ」 ハイミルの背中を見つめながら、マリアが小さく声を出した。 その瞬間に、完全なアルメレミルがハイミルとマリアを囲んだ。 戦況は振り出しか? 否。リベリスタ達の方がフィクサードを追い詰めている。 それは確実ではあったが、マリアの奥の手がまだ出てきていない。それもまた確実。 ●くれいじー? 「来た、来た!! 残念!! もうちょっとだ、とか思ったあぁあああ!?」 未だにダメージがあまり無いマリアが笑い出す。 その瞬間、爆発的に魔方陣が空中に描かれ始めた。 「まさか、これって、堕天落としやないか!?」 資料を何回も見返してきた椿が咄嗟にエリスをその背で隠す。 オーウェンがカラーボールを取り出し投げようとするが、それよりもマリアの方が早かった。 「あはっ!! 今日はとてモすてきナ一日なのよォオオ!!!」 速攻で描き終わった陣。 瞬間的に、黒い閃光がリベリスタを飲み込む。 「これは、ちょっと……っ」 「ああ、まずいな……」 茉莉が完全に石となった腕を見つめながら言い、付喪が頷いた。 パキパキと四肢が石となっていく感覚がリベリスタ達を襲っていた。残ったのはエリスとぐるぐだけか。十人中八人は被弾していた。 「キャハハッハハハハッ、アハハハハハハハ!!!」 響く笑い声。 マリアは陣の消えた瞬間、再び水面へと下がる。 「どうする?? どうする?? 危ない、危ないねええええ!! きゃははははは!!!」 エリスが咄嗟に聖神の息吹を発動しようとした……が、アルメレミルが二体、絡みついてはその行動を抑える。 更に残りの二体が静を狙い、計二回の切り裂きが静を襲った。 「っく、そう……っ!!」 切り裂き自体が決定打とはいかないが、流れる血が出過ぎたか。目の前が真っ暗になっていく。寒気までしてきた。 伝えたいことはいっぱいある。友達にだってなってあげたい。 倒れる身体に鞭打ち、ハルバードを握る。だが――静の意識が完全に切れた。 「……まずは一人だねぇ」 足をばたつかせるマリア。神秘に長けている彼女は物理的に有能な彼は脅威だった。 カウントダウンは残り、三十秒。 動けるぐるぐが羽を広げてマリアへとノックダウンコンボを仕掛ける。 マリアが放ったフレアバーストの炎から飛び出し、身体に火が付き纏うがいともせず、彼女の下へと向かう。 「お気に入ったら自重しないのがぐるぐルール」 その身体に、フェイトの光りを纏わせながら拳をマリアへ叩きつける。 すれ違った目線は一瞬。それはすんなりマリアに直撃する。 「ぁぐッ!? ふ、くく、マリアね、貴女のことね、好きだよ」 それにアルメレミルは庇ってこなかった。それは攻撃一択としたマリアの覚悟か。 ぐるぐの拳を掴み、笑う。 「アルメレミルはね、偉いんだぁ。なんでもやってくれるもの」 オッドアイの瞳と赤い瞳がとても近い。 空いている片方の手で後方を指をさし、ぐるぐが振り返れば人形がリベリスタを襲っていた。 石化により、回避はほとんど不能といってもいいだろう。 「まだ……負けてませんから!!」 それでも石化を抜け出せた茉莉がフレアバーストを放ち、人形へと攻撃する。 燃える人形達。 「どうか、戦闘をやめて……っ」 マリアが一言やめると言えばその場が全て丸く納まるものの、それは運命が歪曲しない限り無理かもしれない。 アルメレミルがカウンターの如く爪をたてれば、茉莉が切り裂かれる。 途切れる意識の中で、マリアを見続ければ、マリアがそれを見返してくれていた。 「きっと……いいこ」 茉莉の身体が倒れる。 一歩遅かったか、エリスの聖神の息吹がその後に放たれる。 ●Crazy Crazy 次に石化を抜け出したのは椿だった。 その頃には、マリアもハイミルも池の上へと戻ってしまっている。 「まぁ、なんや……マリアさん、自分、友達って何かわかってへんみたいやけど、わが身を呈しても守ろうとする。これも友達の形の一つなんよ」 椿がマリアへ話かけた。その内容はマリアには興味深かったらしい。 目線は合わせないものの、珍しく静かに聞いていた。 「友達っていうんはな、仲良しこよしだけやあらへん」 カースブリットをハイミルへ放つが、やはり先程と同じく人形に庇われるハイミル。 「時には間違った道へ進もうとしとる友人に対して、嫌われる覚悟で道を正そうとする……友人が本当に幸せになれるよぉに、な?」 「……マリアまちがって、るの?」 揺らいだ。 確かに、何かが揺らいだ。 椿とは初対面なはず、なのに真摯に自分の事を見ていたのはマリアには意外だった。 だが、マリアの中で正義はシンヤであり、存在意義さえもそれ。友達なんて――。 「マリア、友……欲し……違っ! ま、ままマリア、や、やああ!」 不安定なマリアが見えない何かに抵抗するようにチェインライトニングを放った。 「死んでも止める、おまえらああおおおおお!」 「マリア! 君が死んだら悲しむ人がいる! 少なくとも二人、いるんだ!」 マリアの意思に付喪が気付いた。 その場の誰もがマリアを殺したくは無かった。 けれど死ぬ気の相手に、殺さない加減は優しすぎるのかもしれない。 突き抜ける電撃がリベリスタを飲み込んでいく。 また一人、椿が倒れた。 「私が、もう一度引きつけます」 放つ鴉がマリアを射貫き、マリアの怒りを刺激しては後ろへ。 近距離でなくとも、攻撃すべき機会は見逃さない。 「今です!!」 かるたが叫び、ぐるぐのノックダウンコンボが唸る。 それに続き、付喪のチェインライトニングが走った。 「お嬢様!!!」 アルメレミルは庇わない。ならば、自らが盾となって――リベリスタの攻撃は、ハイミルがその身で全て受けた。 オーウェンの呪印封縛が効いて動けない彼女に追い打ちが走る。 「命を賭けて護るものがあるのはお互い変わらない、でも 私達の想いが貴女の気持ちを上回った……ただそれだけの事よ」 クローチェの二回目のハイアンドロウがハイミルの胴を突き抜けた。それが決定打か。 ハイミルの口からは荒く吐息が出入りする。 「く、ふふ、私達の、勝ちですよ……」 ――アルメレミルが四体増えた。計八体。 その瞬間、反動でハイミルの命は断たれその場に倒れる。 命を捧げ、主を護る盾を作ったハイミルと血塗れになったテディを見つめながらマリアは笑った。 「ねえ、知ってる? テディを壊さないと、効果は中断されないんだよ」 八体の人形の中心で笑う少女。 リベリスタの精神力も底を尽き始めている。 「もう一度、堕天落としを撃ってもいいよ?」 それは脅しか、本音かは分からない。だが、その言葉意味するのは。 「それともマリアがテディの力を継承して、戦うのが好み?」 オーウェンが頭の中で打開策を探したが、戦力も数も足りない。 「……下がろう」 付喪が倒れている仲間を抱えようと行動を移した。 動ける者で椿に静、茉莉を抱えて下がる。 非常時のあの場所へ。 人形を止め、テディはハイミルの腕の中へとあげた。 「みんな、ばっかみたいだよね、人のために命捨てるなんてさ。貴女も馬鹿よ馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」 それだけ言い、血がこびり着く翼を広げ高く舞い上がる。 「マリアも馬鹿かなぁー……」 向かうは――絶対の彼の下。 ――アハッ アハハハッ!! キャハハハハハハハ!! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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