●1888年10月 霧の中で鐘がなる。 『伝説』が生まれて120余りの年月を経た。 『彼』は『伝説』の事を鮮烈に覚えている。 『伝説』の撒き散らした鮮血と恐怖と狂気の漣は、『彼』の内に朧ながらも自我の波紋を呼び起こした。 『彼』が滅んで120余りの年月を経た。 『伝説』は『彼』の事を覚えている。 『彼』に包まれた時の『伝説』の心に芽生えた安らぎを未だ心に強く刻まれている。 『彼』は『伝説』の外套であり、隠れ家であり、自らを生んだ胞であった。 『彼』がリベリスタと呼ばれるものに滅されるまでの間に、殺人鬼であっただけの男は『伝説』となった。 赤い霧の中で鐘が鳴る。 ●2011年12月 「皆さん、血戦です」 リベリスタを真っ直ぐ見据え『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000018)は凛とした声を張り上げる。 ブリーフィングモニターに映るのは、神奈川県横浜市にある県立三ツ池公園の見取り図。 瞬く数多の光点はこの戦いの作戦ポイントを表しているのだろう。 「御存知の通り、県立三ツ池公園に特異点が発生します。既にジャックとアシュレイ、後宮シンヤ、そして、配下のフィクサードとエリューションは既に儀式の準備に入っているでしょう。残念ながら、状況は後手です。機先を制すには遅すぎました」 モニターに映る赤い光点は特異点。 そこにジャックは世界に閉じない風穴を開ける儀式の準備に入るという。 ならばその周囲、公園全域に散らばる光点は、賢者の石により力を増した万華鏡により導きだされた敵の布陣の数々。 「作戦の概要はこうです。蝮原さんやセバスチャンを始めとした陽動部隊は南門より突入。これにより敵の布陣は崩れます」 モニターに映る、公園の南方より突入する矢印は多くの光点を引き連れ、喰い込む事なく動きを止める。 「陽動が効いている間に、北門、西門より突入した本隊はジャックを目指し進軍することとなります」 皆さんは西門からとなりますね。 こほんと咳払いをすると和泉は言葉を続ける。 「しかし、総ての敵が陽動に釣られるわけではありません。皆さんの進軍ルート上で残るであろう敵対勢力の中で注意するポイントはここです」 和泉は公園中央部にある池を指す。 「そこには何が?」 尋ねるリベリスタに対し、和泉は厳かに答えた。 「赤い霧と鐘の音、です」 ●2011年11月 闇の向こうから 「いいですか? ジャック様」 「あぁ?」 「嘗てと同一の存在を呼び寄せるなんてことは不可能です。ましてや120年以上前の代物となると……」 「俺はやれといったはずだが? おい、テメェはいつからそこまで偉くなった?」 「えぇ!? やらないとは言ってないじゃないですかぁ」 「ち、相変わらず回って持った言い方をする女だ」 「それはジャック様が単刀直入すぎ……あ、なんでもないです。とにかく、似たような何かなら練り上げることが出来ます」 「つまり、何をどうすればいい?」 「そうですね、沢山の血と絶望があれば宜しいかと、後は私の方で何とかします。出来ます」 それは達成するには容易すぎて…… 「いきなり玩具が欲しいだなんて……餞別というには些か物騒ですけれどね」 虚無を孕んだ言葉は闇に溶ける。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:築島子子 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月22日(木)00:07 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●赫い夜 赤い月、天上より地上を紅く睥睨する。 赤い霧、水上より漂い地上を紅く覆い尽くす。 赤い、赤い、赫い夜。 今宵、流される赤い血は何よりも紅く。奪われる命は何よりも紅い。 この夜に捧げられ、献上される存在は何よりも多く。 この夜に奪われたものは、世界に穴を呼ぶのだろう。 神奈川県横浜市『三ツ池公園』を舞台に、饗宴の夜が始まる。 BaroqueNight この夜の総てはこの赤く歪んだ夜に捧げられる。 BaroqueNight 狂人が嗤い、道化が踊り、魔女が囁く、悪魔の夜。 儀式を阻止せんと、リベリスタは赫い夜を駆ける。 ●赫々夜霧 『三ツ池公園』の各所で戦闘の音が響く。 術師の呼び出す業炎は赤い夜空を照らし上げ、砲手の銃口より放たれる轟砲は雷鳴の如き轟きを響かせる。 儀式に集中するジャックを全力で守護せんとするフィクサード。 儀式を阻止するべく護りを何を持ってしても突破せんとするリベリスタ。 凶兆を呼ぶ歪んだ赤い月が見下ろす中で、遂に起こった双方の衝突は激闘を起こし、さらなる激闘を呼び寄せる。 現アーク随一の使い手との呼び名が高く、欧米リベリスタの重鎮シトリィンの懐刀『絶対執事』セバスチャン・アトキンス。 元フィクサード組織・関東仁蝮組の元顔役であり、今ではアークの強力な協力者たる『相模の蝮』蝮原 咬兵。 敵陣深くに食い込む彼らを陽動とし、ジャック・ザ・リッパー、後宮・シンヤを討ち、果ては魔女アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアまでも対処せんと侵入するリベリスタ達の行く手を阻む闇は未だ色濃い。 攻勢のリベリスタ、防戦のフィクサード。奇しくも『平時』とは立場が逆となったこの戦場において、十人のリベリスタは遂に赤い霧と相対する。 「赤い月……不吉な色をしていやがる」 赤い夜空に歪に君臨する月を忌々しげに見上げ、桐生 武臣(BNE002824)は同色の鮮血の如き赤い霧を前にする。 魔霧ミスト・ルージュ。 その性質は不明瞭にして、その本質は理不尽。万華鏡を持ってしても解に至るには難解極まる。赤き魔性の霧に武臣の鋭い眼光が突き刺さる。 バロックナイツ。厳かな歪夜十三使徒第七位『The Living Mystery』ジャック・ザ・リッパー。『伝説』の殺人鬼。新たな『伝説』を造る者。 彼を彩る色とりどりな鮮血の『伝説』を演出してきたアーティファクト『倫敦の鮮血乙女(ミスト・ルージュ)』と同じ名を持つ造られた存在。 関連性をつけるには早計かもしれない。賭けとしても多少分が悪い。だがしかし、彼はその可能性にbetした。 「この一戦、なんとしても乗り越える」 この先の戦いで勝利を手にするためならば、これから背負う苦境など軽いものだ。 この背に負う、『仁義の赫』に比べれば尚の事。 互いに結ばれるゴムの紐。霧の内で互いの命を結んで繋ぐ命綱というには余りにも心許ない。だがその心許ないゴム紐に互いの信頼を寄せる。 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)と繋ぐゴム紐を弄びながら、『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は、高揚を隠せないでいた。 ジャックに繋がる前哨戦。どうしようもなく、厄介で、面妖で、悪意が滲む……面白い相手。 「ふふっ」 普段では殆ど働く事を拒否している表情筋が珍しく緩む。 この赤い月も、闘争の空気も、掻い潜る死線も、赤い霧も、総てが総て、天乃を高揚させる。 ああ、楽しい楽しい、戦いたい。その衝動はまず体を動かした。 「霧に入って、簡単に出られるか、確認してくる」 言うが早いか身を翻し、単身霧へ跳躍。 赤く染まる視界。さあ、死線の上で踊ろう。 ふふ……本当に、いい夜。 霧に入った天乃を見送り、ユーヌは持ち寄ってきた道具の準備をする。 天乃と繋いだゴム紐に異常はない。切られた様子も、伸びきっている様子もない。近くにいるということだろう。 アタックチームを組み、相談のうちに必要になると思い、ユーヌが持ち寄ってきたのは、地図、方位磁石、GPS。 霧の中はどうなっているのか? 現実に則しているのか? 判らないからこそ、入念に準備をし、臨む。位置情報の把握は探査に於いて何よりも助けになるだろう。 (霧といえど、エリューションの内部に入るとなる。自分の感覚ほど信用しにくいものは無い) 冷静に、冷酷といえるほど合理的にユーヌは物事を割り切って行く。 死への恐怖はそこにはない。命を使い潰す覚悟はとうに出来ている。死よりも、任された仕事、役目が果たされない事の方が気に入らない。 GPSは問題なく作動する。地図の把握も完了だ。 準備完了といったタイミングに幻想纏いに通信が入る。 通信の主は星川・天乃。疑問符が、頭上に瞬いた。 「結論から言えば、中に入らなければ始まらないな。これは」 ユーヌは腕に結ばれたゴム紐を見る。天乃と繋がっているそれは、張り詰めても弛んでもいない。 一定の距離を保った状態でありながら、通信の主は霧より退くことも出来ないから、動きまわったと言っている。 「何らかの方法で物理法則が歪められているのか、やはりエリューションだな。非常識極まりない」 普通の少女と標榜する非凡な少女は、嘆息と共に言い捨てる。 「僕もウラジミール君と色々やってみたけれど、ダメだね。霧を攻撃するのは確かに削れるけれど、総量の違いかな? 余り効果的とは言えないみたいだ」 『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)の言葉に『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は頷く。 「文字通り、つかみどころの無い敵だから、情報も少ないし。思いつくことは試してみるしかないでしょ」 と、開き直りにも似た割り切りで、都斗は準備の間もバディであるウラジミールと共に行動に出ていた。 神秘による霧を攻撃を加えてみた。確かに霧の一部は消えたが全体の総量に比べるとその効果の程は想定以上に望みは薄い。遠回りをし、池を見たが、現在池の上には霧は出ていない。赤い月、バロックナイトは霧に強い影響をもたらしていない。そして、鐘の音は霧の外までは響いていない。 判断材料を集め、考える。結果…… 「中に侵入しなければ、この霧を対処することができない。と、自分と兎登殿は判断した。中に入る事で生命力を奪われるとすれば、星川殿の安否が心配だ」 ウラジミールの言葉にユーヌが頷く。 「そうだな、行くか」 そして、リベリスタ達は赤い霧に挑む。 ●霧中模索 天乃は果たしてそこにいた。霧の中に侵入したユーヌが戻ってきたゴム紐の物理法則に引かれバランスを取られる程度に。 だが、中より外、幻想纏いは繋がった。GPSの位置情報も神奈川県横浜市『三ツ池公園』を指している。中より外に連絡はとれ、だが、容易に脱出することはできない。 まったくもって理不尽極まりない。周囲に立ち込めるのはエリューション、赤い霧。視界は常に不明瞭。かすかに血と排煙の臭気が立ち篭めるこの霧の中は赤い夜でも更に赤かった。 簡単に脱出は不可能という事は、この事象を内部から解決する他の選択肢を奪われたということだ。若干の焦燥と消耗。魔霧ミスト・ルージュはこの瞬間も無遠慮に体力を奪っている。 ヴァンパイアの吸血の如き、生命力の奪取。霧に溶けるように奪われる力に武臣は眉を顰めた。 周囲を覆う赤い霧。 それは、『私』の首を掻き切った死神の鎌に余りにも酷似していて……。 (怖い……苦しいし……辛いよ) 頭によぎる、悪夢の残滓。 『さくらのゆめ』桜田 京子(BNE003066)は赤い霧の内にて、一つの戦いをしていた。 それは、己の記憶でもない、継がれた決意と記憶によるものであった。 ジャック・ザ・リッパーの凶刃に倒れた、桜田 国子(BNE002102)より受け継がれた最後の幻像(イメージ)。 しかし、挑む足を緩ませる『最悪の未来』に屈するほど、京子の決意は脆いものではない。 手に結ばれたゴム紐を強く意識する。 固く、固く結ばれたゴム製の紐。その向こうには、仲間がいる。 視線の先には、生真面目なフライエンジェの少女が赤い霧を不安気に見渡している姿。 「大丈夫、仲間を守る為なら、私はまだ、戦える」 胸に溜まった決意を言葉として吐き出す。そう、この絆が結ばれている限り、私は絶対戦える。 アークに所属し得たものは、間違いなく京子に立ち向かう力を与えていた。 きっと眼尻を上げ、霧を見据える。翻し構えた腕には、ライフルが握られていた。 運命蜃気楼。フェイトミラージュの名を関する長銃より放たれた魔弾は、赤い霧を引き裂き、そして……。 ゴォーン……ゴォーン……。 鐘の音が、響く。 「何も、わからない」 戦いの渦中にありながら、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は目の前の事象に惑う。 赤い霧。魔霧ミスト・ルージュ。1888年の悪夢。多くの命を犠牲にして創り上げられたジャック・ザ・リッパーの玩具。わからない。わからない。不明の霧。 ボクが少女だからわからないのか? 悪夢に囚われてしまっているのか? 悪夢、残酷な夢。大切な人がボクからいなくなる。大切な人からボクがいなくなる。そんな未来は絶対にいやだ。 家族、友人、皆が皆、戦っている。 この赫い夜に膝を屈する事だけは許したくない。 「みんな、無事で」 戦いの前に、家族と、友人に送った言葉。変わらぬ笑顔で再び会おう。そのような真摯な祈り。 突如の銃声に驚き、横を見る。そこにいるのは吹っ切れたような京子の笑顔。長銃の引き金を引き、赤い霧よ晴れよと言わんばかりに魔弾を放っていた。 若干、引きつったようなそれは、恐れを完全に払拭したとは言い切れないし、魔弾は霧を晴らすまでには到らなかったけれど……。 京子の手を取り力づけるように、笑顔を見せる。完璧な笑顔は難しい、でも。 祈りが力になればいい。また明日皆と出会える為に。 ゴォーン……ゴォーン……。 鐘の音が、響く。 周囲の霧を震わすように響くその音は、正しく霧の最奥より響き渡る。 天乃、ユーヌ、都斗、そして、『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)。その4人の類まれなる聴覚により、方角までも導きだされていた。 癒し手ならば、雷音、メアリ、都斗、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)がいる。 そして、ユーヌ、雷音の二名の施す守護結界は効果の程までは確信できないが、若干の不安材料を払拭する事は出来る。 ならば、進む他はない。リベリスタとして、この夜の参加者として、ここで立ち止まる理由など存在はしない。 彼らはこの戦いの先にこそ目的があるが為に……。 リベリスタは歩みを進める。お互いがお互いをゴム紐で結び。音で、光で、互いを認識し合いながら歩き続ける。 天上の赤き月をも覆い隠す赤々とした霧は、尚もリベリスタの往く道を覆い隠す。 足が蹴る地面の感触が変わった。赤い霧の見せる単調な風景が渦巻き、視界に変化を見せる。 油断なく周囲を見渡していたウラジミールが身構える。 そして、移り変わる風景がリベリスタに驚愕を与える。 轍の跡が残る石畳。西洋の街並みを色濃く残す無機質な建物。喉を突き刺すような排煙の臭い。街を覆う霧。霧と赤に包まれているが、それらは……。 1888年霧の倫敦。悪夢が、伝説が、ジャック・ザ・リッパーが生まれた時代に相違なかった。 「なんと……鐘の音に霧。まさにロンドン名物かと思っていたが、まさか、そのまま運ばれるとは思いもしなかった」 洗練された戦士であるウラジミールでさえも、呆然と呟く。この場に何が起きたかなど、完全な把握は不可能に近い。 依然として赤い霧は存在する。だがしかし、何かが変わった。雰囲気が、空気が変わった。 雷音がユーヌが慌ててGPSの位置情報を確認する。取得位置は変わらず、神奈川県横浜市『三ツ池公園』。 「目の前の出来事を信じればいいのか。GPSの情報を信じればいいのか……」 またわからない事が増えてしまったと、雷音が気弱に笑う。 「何にせよ、状況が変化したという事は、いい兆候だよね」 都斗が言う。前向きなのか、何も考えていないのか、判断に迷う天使のような笑顔、から一転、にやぁと笑う。 「ぼく達は、間違いなく真相に近づいているよ」 都斗の言葉に応えるかのように、状況は動いていく。 ゴォーン……ゴォーン……。 鐘の音が響く。 赤い霧の倫敦の冷たい石畳の上に二人の男女が浮かぶ。 ●1888年8月31日 「この季節でも、この格好は少し寒いわね」 一糸纏わぬ姿で肩を抱く女。8月の末のロンドン。深夜となれば相応に冷える。 「もう夏も終わりって時期に、そんな格好でウロウロ出来る方がおかしいんだ。狂ってんだよ、お前」 苛立ちを隠そうともせずに、男は吐き棄てるように言う。女に比べて随分若い男だ。だが、しかし、焦燥している。 焦り、戸惑い、感情を、心を、持て余している。 「あら、そう?」 ころころと笑う女の表情はまるで憑き物が落ちたかのようで、病魔に侵されているとは思えない程で……。 「なあ、おい、やっぱり病気というのは嘘」 「死ぬわ」 「……」 言葉に被せられ、男は沈黙する。 「もう、私の感覚も信用出来ない。暑いのも、冷たいのも、どこまで正しいのかわからない。きっとこのまま病気が進行すると、何もわからなくなって、わからないまま死んでいくのでしょうね」 そんなの嫌よ。と告げる女の顔は拗ねる子供のように頬を膨らませ、口調にはどこか笑みが潜んでいる。 「……ああ」 滲む苦渋、男は決断を迫られている。 「綺麗に……いえ、惨たらしく殺して頂戴。目を背けたくても、背けられないくらい、残酷で、衝撃的で……っ」 抱き寄せた男の腕は未だ震えていたが、振り上げられた銀光は、鋭く鋭利で、夥しい赤と引き換えに、白い女の体に吸い込まれていった。 「ねぇ、――、私を殺して、伝説になりましょう」 引き裂かれていく女の最後の口づけは、血の味しかしなかった。 「…………」 男は、黙々と殺し続ける。殺して、切り裂き、打ち捨てる。 血煙けぶる、凄惨な光景が続く。 ひと通り『作業』が終わった頃、男はようやく立ち上がる。震えはいつか止まっていた。 名前をもたない男も、ここで死んだ。 此処から先は、明日から語られる『伝説』の人生だ。 色抜け、白銀に染まった髪を血濡れた手で撫で、世を捻ていた視線は鋭く世界を睨みつけ、男は闇に溶けていく。 彼を追う様に、赤い霧が一塊、血煙より浮かび、溶けていく。 ●赫霧に挑む ゴォーン……ゴォーン……。 鐘の音が響く。 呆然と立ちすくむリベリスタ達は正気に戻る。 余りにも突然の惨劇。ジャック・ザ・リッパーの伝説の始点。 あまりの光景に、誰もが息を飲んでいた。 「この事件の発覚直後、新聞社に手紙が送られます。その時の送り主が、ジャック・ザ・リッパー。これより、彼の伝説は始まります」 その後の顛末を、悠月は語る。 それと同時に悠月の心が生み出した疑念と朧気ながらも確信するに到った一つの事実。 (塔の魔女が生み出した似て非なるものかと思いましたが、廻る因果が時を超えて呼び繋げたのか……神秘の深奥は容易成らざるものですね) 先程の事象には塔の魔女には知り得ない事実であろう事を悠月は理解している。知り得ているとしたら恐るべし予知の精度であると言えるが、あのアシュレイがジャックの過去に触れる迄の危うい真似をする事は無い筈だ。 運命が織り成す皮肉な奇跡か、妄念の呼び寄せるこの世為らざる業か、現在と嘗てが繋がってしまった魔霧ミスト・ルージュの力は未だに未知数。 (ともあれ……この霧に屈する訳には、参りませんね) 看破をするには、霧の規模は広大であり、その体積は極薄。薄く伸びた霧は毛細血管の様で捉えるにもその情報は余りにも少ない。ならば、最奥のむき出しの神秘に触れる他はない。 (必ず、看破して見せます) 必ず打ち破り――その先へ。 中心部に近づくに連れ、霧は色濃く、淀んでいく。 響く鐘の音は、未だ遠い。 体力の吸奪以上の攻撃を赤い霧がしてくる気配は現状無い。 現状回復魔法が間に合っている状態では探査の障害というにはあまりに弱い。 だが、霧の濃度により、そのエリューション性を確保しているとすれば……この奥は? 「ここから先が正念場……か」 武臣の言葉に、バディであるニニギアが頷く。 「大丈夫! 桃子さんに挑むと思ったら、この程度怖くもなんとも無いわ!」 「あー……確かにな」 自信を持って言うニニギアに、武臣が苦笑で返す。 確かに、あの、色々と有名なあの双子の妹に挑むのは、無謀というか何と言うかとにかく勘弁願いたい。 「あ! 今のは桃子さんにはどうか内緒でお願いね」 さっと周囲一同が視線を外す。え? あ? ちょっと!? と、すがるニニギアの姿に一同に笑顔が浮かぶ。 おどけ、笑う、ほわりと柔らかい笑顔に恐怖心や緊張を払拭される。それは、ニニギアの持つ天性の素質に他ならない。 赤々と淀む霧が視界を覆い尽くす。鐘を打ち鳴らす音はこの霧の奥だと、メアリの聴力が語る。今までに無いほど霧の赤は濃く、深い。だが、リベリスタ故に彼らは挑む。。 さあ、行こうと都斗が、うむと油断なく周囲を警戒しながらウラジミールが、メンバーの中でかなりの頑丈さを誇る二人の男性が続けと進み出る。 さて、鬼が出るか蛇が出るか、ユーヌが呟き、天乃がどちらが出ても面白そう、と続ける。それもそうだ。ユーヌの顔に笑顔が浮かぶ。赤い霧だけでは飽きてしまう、と二人揃って進み出た。 やれやれ、厄介なことになったものじゃ、メアリは嘆息し、悠月は、厄介ではない仕事なんてそうはないですよ、と返す。それもそうじゃな、とメアリは苦笑し、二人続いて進み出る。 それじゃあ行こうよ。京子がくいっとゴム紐を引っ張る。雷音は携帯電話に落としていた視線を慌てて外し、後に続く。みんな、無事で……再び祈りを胸に、霧に進む。 すまねぇな、解れた。武臣はニニギアの背中に声をかける。いつの間にか緊張で硬くなっていた体は、先程の問答で随分と解れていた。ニニギアは目をくりくりさせて、笑う。怖いのは皆同じだから、飲まれないようにしなくちゃ! むんっと力を込めるニニギアに敵わないなと武臣は笑みを返し、足を踏み入れる。 リベリスタを飲み込んだ深紅の霧は静かに躍動する。糧を得たと、絶望を担えと…… リベリスタは赤い霧の深部に到達する。響く鐘の音を導き手として、この事象の真髄に触れる。 ●血華に霞む ゴォーン……ゴォーン……。 鐘の音が響く。 命を吸うに飽きたらず、赤い霧はついにリベリスタに牙を剥く。 轟々とうねり渦巻く、赤い轟きから放たれるのは直死の幻像。 渦巻く霧から万華鏡のように折り重なって投影される切り裂かれる、撒き散らされる死の瞬間。 それは『伝説』の一撃。嘗てのジャック・ザ・リッパーの姿を知る魔霧ミスト・ルージュだからこその不完全で完全なる模倣。 『運がなかったなぁ、女ぁ。今の俺の機嫌は最悪なんだよ。なぁ、死ねよ』 『ジャック・ザ・リッパーって知ってるか? そうか、そうか、そいつは結構だ、死ね』 『お前のような豚の命で、俺の格が上がるんだ。嬉しいか? そうか。黙って悲鳴を上げてろよ』 『大人しく狩られるような豚は死ね。逆らうような気骨がある奴は遊んでやるからそれから死ね』 ―――――――― ――――――― ―――――― ――――― ―――― 『弱い。手応えがない。屠殺されるのを待ってんな! 下らねぇんだよ、手前らはよ!』 幻像より響くジャックの叫び。積み重なった幻像の刃は、虚像の内で引き裂かれる女性達と同じようにリベリスタを引き裂いていく。 嵐のような刃の乱舞。それを模した深紅の霧の刃。襲いかかるのは、都斗、ウラジミール、ユーヌ、天乃、メアリ、悠月、京子、雷音、武臣、ニニギア。 リベリスタ。総てだ。全員だ。尽くだ。無差別に、無分別に、ありとあらゆるを引き裂く殺人鬼の刃の殺意は留まるところはない。 出血した。流血した。失血した。衝撃で朦朧とした意識は激しい痛みで現実に引き寄せられる。飛び散る血は霧と混ざり、霧の紅を濃くしていく。 「皆、しっかりするのだ」 「皆、大丈夫?」 雷音が魔術書を掲げる。邪気を払う聖光が夥しく吹き出る血を払い、二二ギアの歌が刃の暴風より受けた傷を癒す。 だが、違和感、悠月がゴム紐の先を見るが、その相方たるメアリは見当たらない。 「メアリさん!?」 メアリの姿が、無い? 銀のナイフは滑るようにメアリを斬りつける。その瞬間、霧が覆い、メアリの視界は赤に染まった。 痛みに軋む体は、思うようの動かないが、周囲を見渡すが人の気配もなし。じわりと滲む血液が石畳を染める。 「ジャックの前座と侮ったわけではないが、この状況は流石にまずい気がするのう」 自身の聖光で出血自身は打ち払った。やはり消耗は激しい。 周囲を見渡せど、赤、赤、赤。 なるほど、赤い霧はジャックの外套であり、隠れ家。ならば、人ひとりの視界を遮断し、気配を滅する程度のことは可能ということか。 「今襲われると、アウト、じゃな」 そう呟くメアリの眼前、霧の中に立つジャック。その姿は虚像であるが、その刃は、刃と同調して振り下ろされる霧の刃はメアリを討つだろう。 せめてもの足掻きとゴム紐を引っ張る。手応えがある。霧の向こうに悠月がいるのだ。強く、強く引っ張る。祈りを込め、強く! 「……せめてっ」 このような死地に置いても祈りに耳を傾ける神がいるものなのか、眼前の霧が爆ぜた。霧が四散し視界が明ける。 眼前にはライフルを構えた京子の姿。アーリースナイプ、神秘を討つ魔弾が霧を四散させ、ウラジミールが間に立ち霧の死の渦からメアリの運命を拾い上げる。 「ふぅ、何とかなったのだ」 「無事で何より」 雷音が額の汗を拭い、天乃が周囲の警戒を固める。 咄嗟のカバーで何とかなったものの、居場所を知らせるゴム紐がなければメアリの命を救うことは出来なかったであろう。 「大丈夫そうだな。さあ、任務を果たしに行くとしよう」 メアリの肩を支え、ウラジミールが立ち上がる。 「鐘は、この奥で鳴っているのだろう?」 ゴォーン……ゴォーン……。 鐘の音が響く。歩みを進めるたびに徐々に大きくなっていく鐘の音。中心は近い。 ●1888年11月 人通りの途絶えた夜の倫敦。男は笑う。 笑う。哂う。血煙の霧を纏い男は嗤う。 人を殺し、壊し、屠り続けた。無為に、無意味に、理不尽に、衝動的に、殺す為に、殺し続けた。 一つの国を恐怖の渦に陥れ、男は遂に『伝説』を得た。 男の名は、新たなる『伝説』の名は『ジャック・ザ・リッパー』 「どいつもこいつも下らねぇ。吹けば飛ぶような命をしてやがる」 安酒では最早酔えない。今や酔えるのは殺しの快楽のみ。 だが今となってはどの様な命も殺しも安酒のような物、最高にゴキゲンな美酒には出会えずにいる。 こんな物じゃない。俺の『伝説』がこの程度で終わってしまうはずがない。 間違いなく最高級の美酒は世界には隠されている。この、俺の様に。 隠された世界にも、名を、恐怖を、ジャック・ザ・リッパーを刻まなければならない。ジャックの直感は導き出す。 ジャック・ザ・リッパーは血に飢える。だが、それ以上に、名に餓えていた。 求めよ、ならば与えられん。 「故に君は狩られるのだよ。切り裂きジャック君」 ジャックの一重二重に取り囲み包囲する。その数二十名。明確な殺意をジャックに叩きつける。 殺意の最中にあって、いや、あるからこそ、ジャックの口元により深く、凶悪な笑みが浮かぶ。 「リベリスタの使命を果たすべく、凶悪なフィクサードたる君を討たせて貰……がっ」 リーダー面したそのリベリスタとやらの肩口に深々とナイフが刺さる。 噴き出す鮮血をその身に浴びて、ジャックは凄惨に嗤う。歓喜が湧き上がる。 「フィクサード? リベリスタ? 知らねぇ、知らねぇな。だがな、だがなぁ」 ナイフを抜く。間欠泉のように血を吹き出し、運命を燃やすまでもなく絶命するリベリスタ。 「歓迎するぜリベリスタ。俺はテメェらのような奴らを待ち望んでいたんだぜ」 美酒が来た。聖餐が来た。この上ない至上の快楽が来た。 「お前らを殺し尽くし、俺はお前達の世界の『伝説』となる」 赤い霧に溶けるようにジャックの姿が掻き消え、次の瞬間数名のリベリスタが絶命する。 「さあ、パーティーだリベリスタ共! それまで俺を酔わせてくれ!」 人知れぬ夜。鮮血の雨が降る……。 ●紅い鐘塔の戦い ゴォーン……ゴォーン……。 鐘の音が響く。その距離は最早頭上にほど近い。 ジャック・ザ・リッパーと過去のリベリスタの衝突。殺戮。 これもミスト・ルージュの見せた幻像だと、リベリスタは理解する。 だが巻き起こる余波と共に霧の刃はリベリスタを引き裂いていく。 庇い合い支え合い癒しの施術を施し、徐々に徐々にと前進をする。 そして、遂に到達する。 それは、浮き上がる大きな鐘であった。 鐘塔を持たず、いや、赤い霧そのものを鐘塔の如く鐘の支えとし、鐘は高らかに打ち鳴らす。 その鐘の音は、死の肯定。恐怖の肯定。殺すも殺されるも『伝説』の想う内にありと。エリューションでありながら魔霧ミスト・ルージュはジャックに熱狂していた。 『ああ、ジャック……愛してるわ』 鐘に取り憑く様に取り巻く霧が形取る女性の顔。綺麗に整ったその顔が熱っぽく囁く言葉に背筋に薄寒いものが走る。 ゴォーン……ゴォーン…… 赫い夜に鐘が鳴る。 続く戦いの夜に一つの戦いの終わりが始まる。 先駆けて動くは京子の一撃。霞みゆく運命、潰える可能性のある運命、それらに真っ向から立ち向かう心の強さを込めて、破魔の魔弾を放つ。 確かに姉は挑み、戦い、運命を超え、そして死んだ。でも、姉の護りたかった物は、護りたかった日常は、今私の心に刻んでいる。だから、私の心で姉は今も微笑んでいるんだ。 「行っけぇぇぇっ!」 放たれる魔弾。渦巻く弾道が霧を穿ち、鐘を強かに撃ちつけ、ゴワァ……ッと鈍い音を立て、鐘に俄に亀裂が走る。 魔霧ミスト・ルージュはその特異性故に広大な範囲をそのエリューション能力に捉えることが出来る。それ故に、核たる鐘の防護そのものは非常に微々たるものであった。 過去のジャック・ザ・リッパーの一撃の模倣たる斬撃、それ自体は決して緩い攻撃ではない。夥しい出血と意識を一瞬であれど刈り取る一撃。 嘗てと繋がったこそ、尚も完全に近い一撃となったそれを乗り越えて、ここまで到達するなど誰が想像するであろうか? 乗り越えたのは、リベリスタ達の地力の高さ、回復陣の多彩さ、そして、ユーヌが絶えず維持してきた守護結界の力に他ならない。 そして、今は再び、霧は渦巻き、その斬撃はリベリスタに襲い掛かり、猛威を奮う。 ジャックの幻像を用いず、只々打ち倒すだけの一撃、鋭い斬撃が次々とリベリスタに襲いかかる。 武臣は二二ギアの前に立ちはだかり、その一撃を受ける。 噴き出す血が、赤く染める。 「ひゃっはー! 汚物は消毒だぁぁぁ!!」 明らかに効果とはそぐわない掛け声を上げながら、メアリがメスを掲げ破邪の神光を放つ。涼やかな光が多数のリベリスタの出血を止め朦朧を打ち払う。 「あの時妾を滅しきれなかった時点で、お主の敗北は決定づけられておるわ! 妾は仲間を癒して癒して癒し尽くしてくれるわ!」 傷を押しての呵々大笑。一流の辻治療師を志すメアリにとって、総ての怪我はサーチアンドヒーリングでラブアンドピースだ。 「武臣さん!」 「あんたの存在は生命線だからな。こんな霧野郎はとっとと片付けて、クソみてぇな伝説を叩き潰しに行こうぜ」 庇い、傷を追った武臣を気遣うニニギアに、武臣は強気に笑み浮かべる。 こんな所はジャックへ行くための中継地点だと、語る。本来の目的地は、あっちだろ。と、視線で、背中で語る。 その背中に背負うのは、周囲の霧に比べても更に鮮やかなまでの『赫』 ニニギアはコクリと頷き、歌を紡ぐ。歌に乗せるは真摯な想い。紡ぐ歌詞は清廉な祈り。 (あなたはビッグベンの音色と、かつてのジャックが恋しいの? でも、ここは1888年のロンドンじゃないわ。あなたの居場所じゃないの) 悲しげに鳴り響く鐘の音に対抗するように、優しく響き渡る癒しの歌。その音色は次々とリベリスタの傷を癒していくが、完全ではない。 現状ではこれが精一杯。ならば打ち壊さんと、鐘に、ミスト・ルージュに挑む者達の覚悟に託す。 『ジャック、ジャック、ジャック……』 揺れる、響く、鐘の音と共に女が叫ぶ。 「ボクは少女だから、貴女がジャックに託した物が何であるのかわからない。でも」 魔術書を広げ、印を結ぶ。バササササッと頁が広がり乱れ飛び、宙に空間に舞う。 「でも」 頭に浮かぶのは言葉で表すには複雑な養父の姿。いつも勝手にお店の苺をつまみ食いする困った、でも大切な親友の姿。いつもおちゃらけた姿しか晒さない兄の姿。大事な人を心に重ねる。彼らが消える未来を否定したい。 「ボクは少女だからこそ、そんな悪夢を否定する。勝手だけれど、ボク達は愛しい希望(ゆめ)が欲しい」 だから、さよなら。 「來來氷雨」 頁がちぎれ飛び、氷雪を呼び寄せる。 吹き荒れる氷雨の嵐は鐘を穿ち、霧の水分を奪いながら荒れ狂う。そして、吹き荒れる嵐の中を縫い飛び鐘を穿つ、凶兆の星。 噴き出す血を解すこと無く、ユーヌは強気に霧を、鐘を睨む。 「なかなか楽しませてもらったぞ。体が真っ赤に染まるくらいな。なるほど、死地とは心底楽しいな」 先程のはその礼だ。と、穏やかに語る口調に潜む零下の怒り。 吹き荒れる暴風を掻い潜り、真下より垂直ジャンプ。 大地を蹴った天乃は、鋼線を空に泳がせ、鐘を縛り上げる。 鋼線より鐘を伝い縛ったオーラのコードが、鐘の動きを封じ込める。 「ままならなかったけれど……それもまた。こういう戦いもあることを知った。勉強になった」 これが、私の戦いと、天乃は語る。そこに、弾丸のように駆け寄った、ウラジミールが跳ぶ。 (任務の為に、今まで自分はそう思い、戦いに望んでいた。だがしかし、世界の命運、粉骨砕身の気概を語った……自分は、今……) ウラジミールの長駆が舞う。手に構えるは二枚の盾。先端を合わせ、切り落とすかのように、鐘を、打つ。 まばゆい光を点ったその一撃は、法理の剣となりて、両断するかのように、鐘を、ミスト・ルージュを斬る。 (使命を果たすべく、自分は戦っている) 『ジャック、ジャック、ジャック、ジャック……』 音も発せぬ鐘に変わって女が哭く。 自壊が始まる。鐘は、霧は、最早その形すら保ち切れていない。緩やかな滅びの運命が確定されたミスト・ルージュに死を届けんと、二つの鎌が迫る。 「最早、その体も何時まで持つか分からないでしょう。ですが、私達にはやるべき事があります。ですから……」 朔望の書。天の銀輪。月の魔力をも支配しようとした魔術書が魔力を発する。悠月の御する魔力の奔流は、死神の鎌の形をしていた。 「今にも壊れそうなのに、こうして動くぼくって、すごく親切だよね。だからさ……」 翼をはためかせ、天使のような笑顔を浮かべ、ミスト・ルージュに肉薄した都斗は大きくデスサイズを振りかぶる。 「「せめて一思いに」」 魔術の鎌とデスサイズ。振り下ろされる二振りの大鎌に両断され、魔霧ミスト・ルージュの核は崩壊した。 『……――。愛してるわ』 核の崩壊。失われた名を囁き、名も知らぬ女の120年続いた妄執も、消滅する。 こうして、魔霧ミスト・ルージュの核の二度目の消滅により。赤い霧は完全に消滅する。 ●終わらない闘劇 徐々に霧が晴れていく。 不明瞭であった視界も次第にクリアに、戦場の様子もだいぶ見渡すことが出来る様になった。 歪んだ赤い月は未だに天上にあるが、リベリスタ達は生き抜き、一つの決着を得た。 「ふう、連絡終わり。本部の人達、これで少しは楽になるって喜んでいたわ」 本部と連絡をとっていたニニギアが笑顔を見せる。 携帯電話より、メールを送信していた雷音もどの様なやり取りがあったのか、安堵の表情を浮かべていた。 「そう、でも、もうすぐ……いよいよ……だね」 誰ともなく、呟く。 この夜の総ての戦いが終わったわけではない。 まだ戦いは続き、真に恐ろしい相手が、いる。 誰ともなく、一人、一人と、戦士達は歩き出す。 次なる戦場へ、決戦の、その場所へ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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