●依頼 集まったリベリスタ達に『戦略司令室長』時村沙織(nBNE000500)から状況と作戦の全容を説明される。 『賢者の石』の一部を利用して機能強化された万華鏡の感知で、ジャック達の儀式実行の現場が判明した。 敵が陣地を構えているのは神奈川県横浜市にある三ツ池公園という大きな公園だった。 この所、日本を騒がせていた崩界の加速はこの公園に生まれる『特異点』の前兆であったらしい。 万華鏡は連中の儀式の当日に大きな穴が開く様と、大規模な崩界が起きる際に発現する血の色の月夜――すなわち、バロックナイトが起きる様を観測した。 三ツ池公園には既にジャック側の戦力が配置されているが、これに先手を打つのは不可能な状況だ。 各所では既に何度か交戦を重ねている精鋭達に加え、バロックナイトに賛同するフィクサード達、アシュレイの力で作り出されたエリューション等が防衛線を張っている。 後宮派の戦意は高い。一部を除けば彼等の忠誠はジャックとシンヤに向いている。 シンヤはアシュレイをどうやら信じていないようで、準備を万端に整えているらしい。 付近の住民を念の為避難させ、封鎖の態勢は整えたが状況上、迎え撃つバロックナイツ勢力を撃破し、儀式を行なうジャックの待つ中心部に進まなければならない。 敵の防衛力は高くアークはこれを突破する為に総力戦を強いられる。 正門周辺は事実上封鎖されており、そこからの突破は敵戦力の厚さを考えれば得策ではない。 部外から蝮原率いる部隊が協力を申し出ていた。彼等はアークの戦力等と合わせ、南門からの陽動部隊に回している。 リベリスタ達は戦略司令室の提案したプランに従って西門と北門から園内に侵入し、敵を叩く主力部隊とする算段だった。 しかし最大の問題はやはりバロックナイツである。 ジャックの暗殺を持ちかけてきたアシュレイの情報を信じるなら、『賢者の石』を予定通り確保出来なかったジャックは儀式に集中を余儀なくされる為、一時的に弱体化するらしい。 一度大規模儀式が始まってしまえばジャックはそれを中断する事は不可能だ。 彼を撃破し、儀式を中断させるのがアークとしての最善だが、アシュレイは『儀式が制御者を失っても成立する』まではアークの味方をする心算は無いらしい。 園内中央部に『無限回廊』なる特殊な陣地を設置する彼女の守りは完璧だ。 或いは時間を掛ければ攻略法を見つける事も可能かも知れないが、これを即座に突破するのは難しい。 『無限回廊』を越えるにはアシュレイが任意で能力を解除するか、彼女を倒すかのどちらかが要求される。 アシュレイの対処をどうするにせよ、アークとしては園内に攻め入りジャックに味方する戦力を駆逐し、戦線を押し上げておき、必要に応じて対処を取れる状況を作り上げる必要がある。 「……君達に向かって貰う戦線は『里の広場』だ。 此処を抜ければ、アシュレイのいる『百樹の森の碑』は目と鼻の先となる」 沙織は一旦言葉を切り、一行の反応を見てから言葉を続ける。 「だが広場にはフィクサードの竜潜拓馬(りゅうせん・たくま)と佐伯天正(さえき・てんしょう)、加えてアシュレイの作ったエリューションが待ち構えている。 何れもかなりの強敵だが、ひとつだけ考慮すべき点がある。彼等2人はジャックやシンヤ、アシュレイの何れにも忠誠は誓っていない」 傭兵として純然に金で雇われている彼等には、狂人の如く付き従う意志はなかった。 だが彼等は戦闘を欲するが故に戦場を渡り歩くフィクサード達である。油断してかかれば、死に繋がる相手だ。 「彼等は簡単に説得で矛を収める事はないだろう。だが何らかの状況の変化が彼等にも判れば、その可能性はあると見ている。 どちらにしても、ここでの戦線が突破できれば、我々の側にまたひとつ勝利が傾くのは間違いない。頼んだぞ」 ●承前 横浜市、三ケ池公園――里の広場。 血の色の月の夜。広場には2人のフィクサードとエリューションが待ち構えている。 拓馬は憮然として天正を見やりつつ、背後の『百樹の森の碑』を顎で指す。 「……好かねぇな、あの女。なんか裏がありそうな顔だ」 天正はちらりと視線を拓馬に向けつつ、しばし黙考して口を開く。 「だとしても、我等の仕事に変わりはない。前回は遅れを取ったが、今度は真っ向からの対決だ」 骨のある相手なら良いのだがな、と天正は笑う。 彼等は賢者の石の回収に失敗していた。その為、敵の攻勢に晒される広い持ち場での迎撃を命じられたのだ。 前回の失敗で直接雇われていた拓馬は信用を置かれなくなり、シンヤ達の手元から遠ざけられている。 2人にしても彼等を全く信用する気がなかったので、それはそれで構わなかった。 だがアシュレイという女魔導師が、援護する為にエリューションを回すと申し出てきたのだ。 その時、彼等に言った言葉――『2人の役目はリベリスタ達をできるだけ引き付け、時間を稼ぐ事』という言葉に、拓馬は妙な引っ掛かりを感じていたのだ。 だとしても天正以外は信用していない拓馬は、誰かにそれを告げる気等なかったのだが。 「まぁ、いい」 彼は口に出して考えを止めた。魔術師や狂人の計画等が簡単に推測出来る筈もない。 報酬を既に手にしてる以上、雇い主にそれ相応の働きは示さなければならなかったのも確かだ。 だが戦場を求めて彷徨う傭兵の2人の興味は、ただひとつだけしかなかった。 「此処へやって来るリベリスタは、果たして……」 俺達が全力で戦える相手かどうか、その一点のみ――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月17日(土)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●分断 赤い月が天空に輝き、里の広場に風が吹いて花畑が揺れていた。 広場の向こう側でも飛行する多数のフィクサード達と、地上で迎え撃つリベリスタ達が激しく争いを始めている。 奥で待ち構える竜潜拓馬(りゅうせん・たくま)と佐伯天正(さえき・てんしょう)の前に現れたリベリスタ達。 一団は二つに別れ、半数が大きく左へ迂回する様に移動し、もう半数は右へ僅かに回り込もうとしている。 天正は視線のみで、拓馬がどちらへ当りたいかを見て取っていた。 彼の瞳が左へ迂回するリベリスタ達を追っているのに気づき、天正が言葉をかける。 「行くが良い。向こうとやり合いたいのだろう?」 「……コイツはお前に任せる」 拓馬が視線を向けたのは、三つの顔と六本腕を持つエリューション。 アシュレイからの置き土産で、彼等の指示に従う様に命令されていた。 気味の悪い味方が来たものだと2人は感じている。 (あの女、何か別の狙いがあるのか……?) 考えても仕方がない。と、視線を向きなおした拓馬は、速度を最大限に高めて飛翔した。 天正は小さく笑むとその防御を完全なものへと高め、リベリスタ達へと向き直る。 「ワシを援護しろ。敵を殲滅する」 エリューションへ指示した彼は、庇う様に前に立ったままゆっくりと接近していった。 拓馬が此方を迎え撃つのに気づき、ずっと待ち焦がれた時を迎えた『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)。 視線を拓馬に真っ直ぐ見据え、自身の速度を最大限に高める。 かつて『賢者の石』を巡って拓馬と戦い、亘は彼によって生かされたも同然だった。 その借りを返す為に。再度誇りを賭け、全力勝負を挑む事を心に決めていたのだ。 亘の隣を走る『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は、拓馬と天正について事前に賢者の石争奪戦の時の報告書を読み込んで確認している。 此処さえ抑えれば、すぐ先にはアシュレイの居る『百樹の森の碑』へと続く。 速度を一段と高めたリセリアが駆け、亘から距離を取り始めた。 後ろに続く『捻くれ巫女』土森美峰(BNE002404)の姿は、こちらにも向こうの集団にもある。 事前に影人の符を用意していた彼女は、天正へと向かったリベリスタ達に随伴させていた。 「ま、たまにはしっかり働くとすっか」 更に符を広げて自身の分身を作り出し、一番後ろのエリス・トワイニング(BNE002382)の護衛へと回す。 「ありが、とう」 自身のマナをコントロールしつつ、戦闘の開始に備えて魔力を高める。 『半人前』飛鳥零児(BNE003014)はエリスと共に後方へと位置して進む。 (片方は足止め、片方が戦闘回避に見せかける) 二つに別れたのはあくまで陽動の為だった。 自身の役割を認識していた零児は、冷静に仲間との間合いを計って進んでいく。 拓馬はやって来た5人の動きを見やり、誰から攻撃するかを瞬時に判断していた。 その刹那。拓馬は前後で挟もうとする亘とリセリアの間を抜け、彼の小太刀が後ろの美峰を大きく斬り裂く。 だが速度に置いて、現在の亘は拓馬とほぼ同等の動きを見せていた。 素早く反転して美峰のカバーに回り、それ以上の拓馬の攻撃をナイフで防ぐ。 「無駄な言葉はいらないです。共に刃で語りましょう」 そのナイフを構え、亘が拓馬へと一気に詰め寄り連続した刺突を繰り出す。 動きを見切るようにして交わし続ける拓馬に、背後にリセリアが回った。 「私達がお相手致しましょう――竜潜拓馬さん」 前後からの間断なき刺突。それを拓馬は笑顔のまま小太刀で払い、身体を反転させて避けていく。 それと同時に零児とエリス、美峰の影人が拓馬から一気に距離を離して天正の方へ駆け出す。 鼻で笑った拓馬は小太刀を亘へと向け直した。 「また足止めする気か……前回よりは、楽しませてくれよ?」 死闘が、静かに幕を開ける。 ●本命 迎え撃ったフィクサード達の行動は予想通りの別れ方を見せたものの、天正とエリューションの移動自体はゆっくりとしたものだった。 6人の先頭を走る『鬼蔭の虎』鬼蔭虎鐵(BNE000034)は身体が熱く高揚しているのを感じている。 「今宵はいい月だな。血みたいな真っ赤な色をして、血が騒ぎやがる」 闘気を全身に覆った彼は、鬼影兼久を抜き放った。 天正と二度目の対決となった『鋼鉄の戦巫女』村上真琴(BNE002654)。 「前回はほんの僅差での勝ちを収めることができましたが、今回はうまくいくかどうか……」 直接は相対していないが、凄まじい攻防の力は眼前でしっかり記憶していた。 だとしても、私達はそれまで耐え切る。そう彼女は自分に言い聞かせつつ、仲間に十字の光の加護を与える。 真琴の言葉に視線を返したのは、『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)だった。 「けど……だからこそ、倒し甲斐が有るってもんだ」 気合が入った声で、自身の生命力を解放して力へと変換する。 『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)が宗一に同意し、宣言するように声を発した。 「……きっちり力を示してやろうっ!」 金で雇われたフィクサード達なら、雇い返す事も可能だろう。 だが今回の戦いは既に始まってしまっている。後戻りはできない。 「さーて、ひとつ気合入れて行くか!!」 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が頷き、歩を進めたその時に異変が起こった。 迂回した踏み込んだ花畑で小さくカチリという音が聞こえる。 その瞬間、ドムッという鈍くて小さな爆発音が響き、エルヴィンが脚に衝撃を受けた。 「来るのが判ってて、何の準備もしてないと思ったか?」 確かに視界上には何にも存在していなかったが、花畑に隠して地雷が仕掛けてあったのだ。 幸い大きく迂回した左手側の一行は意図せずに地雷を避けて進めたが、一行は地雷原の中を通ってしまっていた。 同様に走りこんでいた宗一や斬乃、美峰の影人も、仕掛けてあった地雷へ相次いでかかり、強かに傷を負う。 そこへ天正の光とエリューション『冷血』の気糸が襲い、影人は一瞬にして符へと戻り、斬乃が更にダメージを受けた。 地雷を交わした真琴が一早く天正へと張り付き、ダメージを無視したエルヴィンもそれに続く。 「同じメタルフレームにしてクロスジハード。格上とはいえ、2人掛りで抑え切れないことはありません」 自身の守りを極限にまで強化して、天正と真っ向から向き合う真琴とエルヴィン。 行動を遅らせていた残りの全員が一斉に動き出し、天正の背後に居るエリューションへと回り込もうとしていた。 「悪いが……そいつは少し任せるぜ」 宗一は真琴に声を掛け、そのまま突き進む。 天正はその様子を見て取り、小さく自嘲する様に笑った。 「前回2人で抑えられたから今回も、か。ワシも随分舐められたものだ」 回り込んだリベリスタ達は、一斉に天正の後ろのエリューションへ突撃する。 先制して飛び込む斬乃が、チェーンソーに込めた雷撃を叩き込んだ。 「我が刃、雷霆の如く……斬り裂けー!」 幾ら腕の数が多くても、一斉に雷撃を送り込めば防ぎ切る事はできないと彼女は判断していた。 先頭の虎鐵も、ほぼ同時に電撃の迸る刀を奮う。 「俺の狙いは……お前だよ!」 初めから彼等はエリューションにターゲットを絞り、その為に左右にフィクサード達を引き剥がす側に出ていた。 強引な踏み込みで相手との間合いを奪い去った宗一。 「間違いなくこいつが一番厄介だろ……!」 彼は全力でバスタードソードを胴薙ぎに打ち込み、吹き飛ばしに掛かる。 しかしエリューションはその腕で、剣を受け止めていた。 少し遅れて零児とエリスも、エリューションへと向かう。 その間にエリューションの顔が『冷血』から『怒り』へと変貌し、その六本の腕が殺意に荒れ狂うオロチと化して周囲のリベリスタ達を襲った。 死闘は、激しさを加速する。 ●乱戦 足止めに回った3人は、拓馬の速度とその間断なき攻撃、回避の高さに梃子摺っていた。 亘は攻撃を連続して続けることで、自分への注意を引き付けていく。 リセリアはそれを見て、亘の動きに合わせて位置を常に対極にし、まとめて攻撃を受けない様に配慮していた。 「……相当な手練。ならば」 亘とのアイコンタクトで、リセリアはその場その場で攻撃に防御に動きを自在に変えている。 2人が拓馬の剣舞によって自由を封じられると、美峰が符で作った影人をブロックに当てた。 「建て直す時間を作る」 その間に美峰は神々しい光を放って、動けなくなった仲間を回復させていた。 前回相対した時と比べ、実力差が格段に変動した訳ではない。 リセリアも亘も手傷を負い、状況が不利なのは以前と変わっていなかった。 だが違う。一人きり絶望に近い状況で拓馬へと立ち向かっていた、あの時とは。 「あの時は圧倒されたけど……今なら」 今の亘には共に戦う、仲間がいる。 拓馬は三人の動きを計り、幾度となく三人へと圧倒するように斬り込んでいた。 しかし彼等が怯む気配は微塵に感じられず、それどころか勢いを増して攻撃を続けてくる。 自身の予想より、拓馬は既に多くの時間をこの戦闘へと使い過ぎていた。 天正とエリューションの間に割って入り、エリューションを一斉に叩きに回るリベリスタ達。 戦いはその凄惨さを増していた。 足止めに回った真琴が、膂力を込めた一撃で敵を打ち払おうとする。 「私は全力を持って、自身の力の全てを相手に叩きつけるのみ」 ただ拓馬の場合と違い、真琴とエルヴィンは位置取りを然程重視してはいなかった。 彼は真正面に真琴の攻撃を受けきった直後、突然背を向けて後ろへ突進し、膂力を爆発させた一撃を斬乃へと叩き付ける。 「なっ、好きにやらせは……」 「合わせろ!」 反撃しようとする斬乃の声を打ち消す如く叫ぶ天正。 その声に応じた『怒り』はその六本の腕で直線的に、斬乃を拳での殴り飛ばしにかかり、立て続けに背後から攻撃を受けた彼女は喀血してその場に跪く。 ブロックが完全に整う前に、敵は乱戦へと持ち込んだのだ。 「防御や自分の身の心配をしてる暇なんてない! 今の自分ができる全てを出すんだ!」 零児は自身達の役割を続ける様に告げ、電撃を込めた剣でエリューションを斬り裂く。 天正が来た以上、これ以上の時間はかけていられない。 斬乃と入れ替わるようにして、雷撃を帯びた一撃を見舞う宗一。 「此処で立ち止まっちゃ居られない!」 雷撃の絶え間ない連続攻撃は、エリューションの体力を確実に削っていく。 エルヴィンが癒しの風を送り、一行の回復を担う。 それにエリスが呼応し、二人の治療で仲間の傷を手早く塞いだ。 虎鐵はそれを見て、にやりと口元を歪め、剣に雷撃を込めて振り下ろす。 「へっ確かに俺らは弱いがよ……数を束ねれば強くなるだろ!」 何人かはこの場に倒れるかもしれない。だが、最後まで立っているのは自分達だという強い信念を彼等は持っている。 死闘は、広場に血の雨を注ぐ。 ●幕切 逡巡した拓馬が、突然亘へと駆け出す。 太刀筋を見てナイフとマントを翳した亘は、拓馬が次の瞬間視界から消えた事に驚愕した。 「まさかっ!」 決して、亘はあの時の様に目を離した訳ではない。 拓馬は防御の構えをした彼の腕を踏み台にして、大きく跳躍していたのだ。 リセリアが彼の動きを察知して止めようと試みるが、背後からでは間に合わない。 急角度で飛び込んだ拓馬の斬撃が、美峰の身体を切り裂く。 「しまっ……た………」 影人をブロックに当てた為に護りが薄くなった美峰、そこを狙った拓馬の攻撃が彼女を沈黙へと追い込む。 更に拓馬はリセリアへと反転した。 光のシャワーが如く、刺突が彼女へと降り注ぎ、彼女をその場から退場させようとする。 仲間が倒れていき、また一人きりになろうとしていた亘は意を決した様に言う。 「……死を覚悟しても、貴方には届かなかった」 拓馬は小太刀を構え直し、無言で亘を見つめた。 ナイフを翳し、既に己が運命を手繰り寄せていた亘。 「だから決めたんです。どんな時でも諦めず生き続ける覚悟を持とうと。 力を誇りを速度を全てを賭けて……貴方を超えてみせる!」 猛然と拓馬に突進していく亘。 悠然とナイフを受け流そうとする拓馬が、不意にガクリと膝を折る。 リセリアが運命を解放し、立ち上がり様に背後から脚を斬り裂いていたのだ。 「私達は負けられません……今です!」 2人はアイコンタクトで呼吸を合わせ、そのまま突き、払い、斬り、叩きつけ、刺し込む。 前後の乱舞を全ては交わしきれず、次々と斬り裂かれる拓馬の表情が苦痛に歪んでいく。 彼等の諦めない戦いによって、遂に拓馬の牙城が崩れ始めていた。 「絶対に、負ける……もん、か……よ…………」 エリューションを雷刃で叩き斬る宗一は、直後に天正からの爆裂的な鉄槌によって強制的に大地に沈められる。 斬乃と宗一が倒れても戦いが収束する気配はなかった。 既に運命を手繰り寄せて立っている者も数多い。 無尽蔵とも思えるエリューションの体力。天正の強力で重い攻撃の数々。 虎鐵にはそれでも戦わなければならない理由があった。 「まぁ、この世界を守る為にも……暴れようじゃねぇか?」 エリューションの矛先がエリスに向いたのに気づき、虎鐵は彼女を護って庇う。 雷撃を『怒り』へ打ち込んだ零児は、淡々と天正へと尋ねた。 「このエリューションについてちゃんと把握してるのか?」 視線だけを零児に向けながらも、真琴の膂力を込めた攻撃をガッチリ受け止めた天正。 勢いを付けた鉄槌が直撃し、真琴が叩き伏せられる。 「まだ、私達は……」 真琴はまだ立ち上がろうとするが、既にその傷は体力の限界に達していた。 エリューションに意識を向けつつ、更に揺さ振る言葉を投げ掛ける零児。 「アシュレイはシンヤを裏切るぞ、お前達の雇い主はどっちだ?」 「……どういう意味だ?」 言いかけてハッとする天正。 アーク機構はカレイドシステムを有している。 その情報収集の正確さは他の組織を圧倒していた――。 彼はふと気づく。 アシュレイが『時間を稼ぐだけで良い』と言った、その意味を。 「あの女。自身が裏切る為の時間稼ぎを押し付けたのか」 目の前の真琴を払いのけ、舌打ちする天正。 例えこの戦線を維持しても雇い主達が二分して争い出せば、配下に待っているのは全滅か壮絶な撤退戦だけとなる。 傭兵の彼には、冷静にその判断が付いていた。 零児はその様子を見て、エリューションへと電撃の剣を奮いながら申し出る。 「お前達とは、停戦したい」 少しの間を置いてから天正は、無言のまま広場から立ち去る事でその答えを出した。 死闘は、意外な形での幕切れを迎える。 一連のやり取りは、通信越しに拓馬にも届いていた。 「油断ならない女だとは思っていたが」 不意に小太刀を収める拓馬。 互いの視線を交わし、警戒を続ける亘とリセリア。 「此処でこのまま戦いを続れば、返って窮する事になりそうだ」 溜息を吐いて周囲の様子を見ている拓馬に、肩で息をする美峰が立ち上がって尋ねる。 「どうする? まだ続けるか?」 三人とも依然戦える。相手にそう見せておきたかったのだ。 「時間稼ぎならもう充分だろう、仕事は果たした」 片手を上げ、ゆっくりと飛翔する拓馬。 「お前達の連携、見事だった。また戦場で遭う事があれば、何時でも相手しよう」 その言葉に亘が真っ直ぐ見据えて告げる。 「生き続けて、貴方と何度でも戦いますよ……必ず」 亘の返答に小さく笑った拓馬は広場を飛翔して、空へと消えていく。 美峰はそれを見送った直後、リセリアに凭れ掛かるように倒れて意識を失った。 傷ついた身体を引きずり、合流を果たしたリベリスタ達。 一斉攻撃がエリューションを四散させ、彼等はこの地での勝利を手にしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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