●記憶は夜に開く 最悪なビジョンだった。 振り向き様に向けられた「さよなら」の声が鮮明で、暴力的な破界器のノイズがその表情すらかき消した。 黒々しい姿に身をやつした『彼女』の姿が痛ましく、死を、罪を山と重ねたその姿が殊更憎い。 だからこそ、『俺』は『彼女』に引導を渡さねばならない。 だからこそ、『俺』は認めるべきだ。 非力であるからこそ出来ることがあると。 非力でなければ気付けなかったのだと。 『彼女』が褒めてくれたその非力さを、誇りに変えるのだ。 誰もいないモニタールームで、自らの頭を掻き毟りたい衝動に囚われても。 報いろ。 ●汝、永劫不変に不幸たれ ブリーフィングルームに集められたリベリスタが最初に目にしたのは、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)の隈の浮いた目元だった。 常に一定の余裕とリベリスタへの距離を忘れない彼にしては、その様子は尋常ではない。 背後の映像は、爆炎の中に佇む女性の姿。周囲を煌々と照らす炎の一切が彼女を避けていく。その拳を除いて。 炎が僅かな生き残りすらも生きているかのように舐め回し、燃やし尽くす。 そこがどこであったかなど関係なく、そこは只の『火の海』だった。 女性の目には光がなかった。黒のベリーショート――本来なら美しかったであろうそれも煤け、頬に浮き上がった血管が痛ましく、 全身を這う文様も悪夢めいて凄まじい。引き締まり、しかし適度な靭やかさを感じさせるその姿見は、既に人として『終わった』空気を宿していた。 「『朝峰 平音(あさみね ひらね)』、元リベリスタです。リベリスタとしての活動は最低でも六年を超え、その実力は、 恐らくアークのリベリスタの最精鋭をして、単騎で対峙するには非常に困難なものと考えます。僕が知っている限りでは、覇界闘士でありながら距離を置く戦いに長け、 其れに付随する技術の研鑽も怠っていませんでした。……本来の性格は温厚無比であり、自らを省みず、紺屋の白袴よろしく自らの痛みを理解出来ない女性でした。 だから、なのでしょう。歪んだ破界器に心身を食い散らかされて尚、彼女は自分の傷に気付かない」 何時になく、相手についての情報が雄弁かつ蛇足的である、と感じた者も居た。疲れきった目の端に、何か含む雰囲気があると気付きもした。 「知り合い、だったのか?」 「僕の革醒直後の恩人で、元恋人です……と言ったら、驚きますか。嘗て、僕から別れを告げた相手ですよ」 目の下の隈を歪めて、夜倉は力なく笑った。身に纏う包帯の理由ですら虚実織り交ぜるこの男のどこに本心があるか分からないまま、呆けたように見つめる相手へと彼は言葉を続ける。 「アークは、彼女を革醒者として認識していません。寄生型アーティファクト『逆臣の紅』――『贄』の持つ『原型』たるアーティファクトから派生した塗料系統のアーティファクトであり、彼女が『贄』との交戦の最中に寄生されたものであると推測されます。当然、その『贄』のフィクサードは既にこの世にはいませんが、その意思を継いだ形でそこに居る、というのは間違いないでしょう」 「それは……」 「僕はフォーチュナですからね。知っていたんです、きっとあの日からこうなる、と。逃げたんですよ、運命から。 愚かでしょう、僕は。弱いでしょう、何もかも。だからこそ、こうやって生き抜くことができたんだと思います。 ですからせめて、僕がその最後を選びとる必要がある。最期を与える権利がある――彼女を、お願いします」 既に懺悔すら遅すぎる。慟哭すら枯れ果てた。浮いた隈の意味は、そこにただあるだけだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月22日(木)22:59 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
●汝、悪意であれと 爆炎が夜暗に散る。夜が焦げ落ちそうなその熱気を、しかしフォーチュナである男は肌で感じることはない。 だからこそ、自分の身勝手で送り出したリベリスタ達に対して感じる所が大きく。 それでいて、自らの提案が間違っていないと断言できる。遡る、幾分か前の記憶。 「これで本当の最後なんだから、生きてるうちに伝えたい事あるでしょ」 ブリーフィングルームで唐突に差し出されたのは、『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)が持ち込んだICレコーダだった。これに、声を残せと。伝えさせろと、彼女は言う。 「他人のことばかり気にしている平音さんのことを気にすることができるのは、夜倉さんしかいなかったのではないですか?」 追い打ちのように、『下策士』門真 螢衣(BNE001036)のの言葉が続く。 「そんな、事……僕にだって、」 「大事なら人任せにだけしてんじゃねぇよ。あんただってリベリスタだろ」 「簡単に言ってくれますね、モノマ君も。……ですが、確かに。それは否定できない事実です」 言葉だけなら、掴みかからん勢いを以て『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)の言葉が重ねられる。確かに、夜倉とて理解はしている。革醒し、フェイトを得て、正しくあれと言うのなら自分はリベリスタだ。彼らと肩を並べて、しかし戦場に立つことの出来ない存在だ。 簡単に言ってくれる、と思う。ノイズだらけの未来でも、狂おしいほどに変えたいと願うものなど数えきれない。 だから、その言葉を選択したのだろう。痛ましいほどの現実を押し付けたのだろう。 「……言っとくけど、俺は夜倉と一緒に泣くためにこの依頼受けたんじゃないからな?」 『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)の言葉が、最後の一押しだったことも否めない。彼らの言葉を頭から否定することは、彼らを信じていないことと同義として受け取られても仕方あるまい。 「全く無駄だって言う訳じゃあ無いって事だろ?」とシニカルな笑みを浮かべ、地図を開いた『ザ・レフトハンド』ウィリアム・ヘンリー・ボニー(BNE000556)の言葉に応じるように、夜倉は口を開く。 「ええ……提案その他、概ね了解しました。ですが、代わりに僕からも一つ、策の改訂を求めます」 努めて冷静に応じながら、しかしアンデッタからレコーダを受け取るその手は、震えたまま。 肌を灼く熱が十名のリベリスタに振りかかる。炎の奥は未だ見えないが、しかしあの中に目的とする相手が居る。朝峰 平音がそこにいる。 「リベリスタの真価が問われるのかもしれないわね」 誰に向けるでもなく、しかし自分の仁義を押し通すと『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は宣言する。 モノマ、エーデルワイス、『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)、『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)の四人に、アウラールの癒しの加護が舞い降りる。 (最悪の結末も勿論覚悟しているでしょう……けど、かすかな希望も信じている) 搾り出すように口にした言葉の端に、おろちは彼の意思を薄々ながら汲み取っていた。最悪を想定した上で、ああして平素を気取っているその姿に報いるべしと、自身に言い聞かせ。運命を賭すると、自身が誓う。 「だが、無理を承知で押し通らせてみるさ」 英雄の剣を名乗るそれを構え、ディートリッヒもまた笑う。過ちなどそこにはない。ただ、奇跡を起こせばいい。 「それがリベリスタってもんだろう?」 その言葉を最後に、炎の中へ身を躍らせる。 炎が散り、肌を灼き、意識を焦がす。だが、彼らにとってそんな情景など問題ではない。 ウィリアムが予め調査を行った、というのも大きい。位置を完全に特定できないまでも、危険性の高い建造物を予測して回避できたというのは、戦場においての安全性を否応無しに高めていた。 故に。 戦闘をひた走るモノマが、建造物を貫いた一撃を回避できたのもまた、当然の帰結に近かった。 火線が迸る。建築物だったものを飴のように熔かし、後方の空間を両断して消滅した一撃は、彼らの目的とする相手のものであることは疑いようがない。 「朝峰平音サンよね、『月ヶ瀬夜倉の意思』として貴女に会いに来たわ」 「――、あ」 炎の中心に立つ平音の周囲から、爆発的な暴風が巻き起こる。攻撃のためではなく、ただの意思の発露。自身のものではなく、寄生した存在のそれであろうことは、頬まで伸び上がった文様――『逆臣の紅』からも明らかだ。 故に、彼女はおろち達リベリスタが夜倉を知っていることも、夜倉という名の意味すらも知らぬ。だらりと下ろしたままの両手に、炎が灯る。 「一発、ぶん殴らせろッ!」 モノマの拳に、同様に火が灯る。互いの拳が交錯した次の瞬間、平音の拳は大きく弾かれ。 奇跡のようなタイミングで、モノマの拳にオープニングヒットをもたらした。 ●我、無為謀略の影であれと 「てめぇも覇界闘士ならぁ! この技知ってるよなぁ!」 吹き飛ばした姿勢から、残心。相手に言葉以上の何かを叩きつけようと、彼は声を振り絞り、叫ぶ。 「踏み込み過ぎたら、危ないか……?」 続け様に、数歩踏み込んだディートリッヒの刃が風を巻き上げ、平音の肩を僅かに裂いた。ぎりぎりのタイミングでの、僅かな回避。 「邪、……魔」 返す蹴り技が、ディートリッヒを真正面から捉え、巻き上げ、切り裂いていく。モーションこそ彼の知る範囲のスキルながら、生み出された破壊力は想像するだに恐ろしい―― 間髪を入れず、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)の回復の波長がディートリッヒの傷を癒す。しかし、それでもタイミングを測ったような一撃の傷は、完治にまでは至らない。 「熱を。地を冷まし血を醒ますほどの雨を呼び込む熱を。捧げよ、血を、肉を」 底冷えのする声が、平音の喉から響き渡る。そこに感情の一切は無く、トーンも明らかに本人のそれとは思えない。全身の血液が暴れているのか、活性化しているのか……その全身は浮き上がった血管と異形の文様で半ば以上染められている。顔、そして腕が半ばまでしか侵食されていないのは、ある種の奇跡か。 「彼は己の非力を、自ら嘆いた。責め……そして苦悶のなかで決断したわ」 ディートリッヒ、そしてモノマの二人とは別の方向から、おろちの気糸が乱舞する。腕を振り下ろし、一息でその拘束を引き千切る平音の耳に忍び込む言葉は、果たして彼女に届いているか、否か。 (ここまで侵食が進んでいるとは……予想外だった、か) 『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)の視線は、平音の全身に巣食った『逆臣の紅』に向いていた。激戦下にあって、意思を殺すことはできても自らの状況を隠蔽する程の能力は、そのアーティファクトにはない。しかし、その侵食域はリベリスタが考える除去レベルを大きく振り切っている。 だが――エネミースキャンの最奥、リンクが途切れるその直前で、綾香は確実に『その声』を捉えたのだ。 「私も回復に回ります、とらさんは彼女にテレパシーを……!」 螢衣が、癒しの札をディートリッヒへ貼りながら叫ぶ。 「夜倉にも言ったけど……貴女ももっと我侭になればいい」 アウラールの剣が放つ光がディートリッヒから流れる血をせき止め、静かに平音へと言葉を紡ぐ。 だが、平音の瞳は虚ろなまま、構えすらとらない無形の形から、恐るべき反射速度でモノマの、そしてディートリッヒの攻撃を最小のダメージで受け流していく。 平音の体が、音もなく流れる。 「――より、猛る血潮を」 踏み込んだ四人を一度に纏め、雷陣が駆け抜けた。 ●其は只の悪夢であれと (平音さん、聞こえてるなら返事をして! 夜倉おにーさんが――) (――たい) 「……?」 視界が白光に包まれる中、とらは平音へ向けて言葉を紡ぐ。声ではなく思念として、その奥底へ届かせるように。だが、応じる言葉は、濁流の如く暗澹とした負の感情の濁流だった。 (子々孫々贄として産み落とされ適切に育てられ定められた日、定められた死を享受せねばならぬ絶望があり悪夢があり怒りも覚えぬ諦観があり、救われぬ許されぬ産み落とされた苦痛無碍な死に浸る苦痛をこの女に貴様達に与える潰す毀す倒す――) 対話を目的としたわけではなく、ただ圧倒、威圧のみを石の塊として叩きつける悪意の波濤。 (平音さん――居るんでしょう……!?) 悪意にさらされながら、なおも対話を試みるとらをよそに、おろちが叫ぶ。偶然でも奇跡でも必然でも構わない。その気糸は、その瞬間をして彼女を縛り上げたのだ。 「失せなさい!亡者が生者に纏わりつくな!!」 (――お願いだから。私を、この呪いごと殺して) 「平――」 「さて。ぼちぼち始めるとするかね」 その流れを、真なる開戦の合図と見て取ったのか。ウィリアムの両手の銃が、唸りを上げて平音へと弾丸を吐き出していく。 (鉄火場に立ってる以上、同情ってのは所謂『上から目線』ってモンでさ……俺には出来ねえ。だから、やれることをやらせてもらうぜ) 彼の言葉は正確だ。そして、その狙いは正確性ではなく――仲間の次撃を優先して放たれた、策の一撃。 「死者の魂を運ぶ鳥よ、彼女の猛る心を引き出して!」 平音の回避は、あっさりとした動作だった。だからこそ、別方向から迫ったアンデッタの式符を意識すらしなかった。故に、彼女の狙いはアンデッタに。 「そんなのに振り回される為に鍛錬してた訳じゃねぇだろうがぁっ!!」 モノマの拳が、 「夜倉の兄ちゃんにも、悔いの無いようにしてもらいたいからな……!」 ディートリッヒの刃が、各々の方向から放たれ、硬直した平音の体に叩きつけられる。だが――その目の闇は尚深く。 「貫き、撃ちぬく獄(ヒトヤ)の火。猛らず灯る夢の虚」 だらりと下げていた右腕が、居合の如く振り抜かれる。火線が迸り、障害物を溶断した一撃が、アンデッタへと突き進む。 そして、その火線は軌道を変えず真っ直ぐに―― 『平音。君ってやつは……痛みの限度を知らない癖に、まだ痛がりなんじゃないか』 月ヶ瀬 夜倉を貫いた。 「――――あ。ア。違ウ、辞めろ、『俺』は『この女』じゃなイ、ヤメロ……!」 平音の声が、狂う。トーンが乱れる。顔を覆った彼女の血管が、個別の生き物のように鳴動する。『逆臣の紅』が、明滅する。 「……っ!」 分かっていても、とらには戸惑いを隠すほどの器用さはなかった。回復の光を編み上げ、放ちながらもその姿を凝視する。 超幻影。革醒者すらも取り込む幻想の帳は、アンデッタの姿に夜倉を重ねることを可能とした。絶対の火線、その一撃を受けて尚立つその姿に、瞳に、光は絶え絶えになりつつも残されている。光は途絶えない。レコーダから流れるその声も、まだ。 『忘れたなんて言わせないぞ。怪我をさせないと言ったのに、傷だらけで帰ってきた君も、立てなくなるまでふらふらになっても無理をしようとした君も、最後に言った言葉も聞いた言葉も、だ。だから辞めてくれ。自分と、彼らを信じてくれ』 「こんな物があるから、人を狂わせると言うのだ」 「貴方もリベリスタなら、運命を撃ち破って見せなさい!」 綾香が、エーデルワイスが僅かに露出した『逆臣の紅』を狙い穿つ。確実性を期したそれぞれの一撃が確実に打ち込まれ、平音当人にもダメージを蓄積していく。 螢衣から貼りつけられた癒しの呪符を確認しつつ、アンデッタは一歩一歩、平音へと近づいていく。 『僕は君を助けるとは言わない。君なら、俺の知る平音なら、自分で立ち上がってみせるんだ』 「やめろ――やめ、て……!」 叫びのトーンが、更に乱れる。それが誰の意志で声なのか、確認するすべはない。だが、それでも、平音の拳はアンデッタへ向けて放たれる。 「ふざけんな……ッ! わからねぇままなのは俺の流儀じゃねぇんだよっ!」 アンデッタへ襲いかかる平音へ、モノマは側方から掴みかかる。露出した『逆臣の紅』へ指を伸ばし、掴むように触れる。 「こいよ、寄生させてやる!」 叫ぶモノマの真意を測りかね、平音の動きが再び止まる。 「貴女は生きてる! 貴女を待つ人がいる! 貴女を待つ人の為に、貴女を護って!」 おろちの叫びが、平音の思考を反響する。その精神を呼び覚ますように叫びがこだまする。 『……愚か、ナ』 「あづ……っ、ァ――!」 乖離しかけた精神に見切りをつける様に、文様が光る。触れた掌から、モノマに思念が流れこむ。モノマを呪いが侵食しようとする。 * それはありきたりの不運。死を運命づけられ儀式に殉じた人々の成れの果て。悲しまぬことを目的として自らを守ろうとした人々の、ほんの些細な夢だった。 (大なり小なり負の感情何ざ誰にでもあるだろうが……! ) ささやかな夢に応じるように『それ』が生まれ、『それ』が人々の心を縛り、食いちぎり、『贄』とした。 皮肉なるかな。 『贄』の運命から逃れようと生まれたモノが、『贄』と名乗ることを強要させている―― 「んなのだけに囚われる暇なんざねぇっ!! 捻じ伏せてでも前に進むと決めた!」 「オレが汲みとってやれる意思は、一つだけなんだよ」 抗うモノマの絶叫に、ウィリアムの声が重なる。侵食域を穿ったその射撃が二人を、『逆臣の紅』の一部を引きちぎって抜けていく。 「――ぁ」 「諦めるな、夜倉が貴女を待ってるんだ!」 茫洋とした瞳で立ち尽くす平音に、アウラールの言葉が飛ぶ。残されたアーティファクトを引き剥がせ、そう彼は言っている。僅かに残った意識を以って、成し遂げろと言っている。 故に、平音が選びとった選択肢は一つで。 「有難う。夜倉を、お願い」 薄く微笑んだまま、彼女は自らの腹部にその掌を触れ―― 文様を焦がすように、その全身を炎が舞った。 ●その結末は不幸ではなく、然して 「……お疲れ様でした。今時作戦は成功です。モノマ君はそのまま病院へ向かって下さい。精密検査を――」 「最後を選びとる必要があるって言ったよな、月ヶ瀬。これがあんたの選んだ最後なのかよ?」 火の海から逃れたリベリスタ達を迎え入れた夜倉に、寸暇を置かず詰め寄ったのはモノマだった。後ろに立つアウラールの腕には、嘘のように小さく感じられる平音の体が抱えられている。 「イエス、とは言いません。僕は全てを選ぶ権利はないですから。でも、君達の選択肢を間違っていたとはいいません」 「そういうことを聞いてるんじゃ――!」 「……アウラール君。至急、平音を病院へ。モノマ君の検査、それと彼が得た情報の解析をとら君、綾香君……任せていいですね?」 「夜倉、平音に言うことは無いのか!? 戻ってきたんだぞ!」 「私情は、判断を鈍らせます。僕が鈍ったら、運命が狂うでしょう。……大丈夫です、君達ならわかるでしょう?」 「幻想は潰え、人の身が狂わず戻った。その意味を。君達だって、疲弊している。本当に手遅れにする前に、早く」 アウラールの言葉に、搾り出すように夜倉が告げる。舌打ち混じりに救急班へ搬送されていくモノマ達に僅かに後れ、アンデッタがICレコーダを渡す。僅かに違う質感は、自らの声を録ったものではないことを伝え。 「これが、彼女の――」 「『最後の言葉』ではないでしょう……少なくとも」 裏返るほどに毀れた声で、夜倉はICレコーダを握りしめた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|