●未来の売買 雑居ビルの3階にテナント募集があったのは数ヶ月前、ずっとそのままであったがつい最近、新しい店が営業を始めた。看板には『占い館ルビームーン』とある。 「よろしくおねがいしま~す」 いかにもアルバイトらしいティッシュ配りのおねえさん達は、業務用っぽい声と笑顔で道行く者達にティッシュを手渡してゆく。その広告欄には『知る人ぞ知る脅威の的中率! 業界ナンバーワン、可愛すぎる占い師がアナタの未来を売買します』という、なんとも珍妙な文句がデカデカとあり、肝心の占い師の顔はベールに隠れて見えなかった。 アーク本部で『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はティッシュに入っていたとおぼしき長方形の広告を皆に提示した。 「自称占い師のフィクサードがアーティファクトを悪用している。放置するのは危険の確率を上げる事になる……だから、対処が望まれるの」 イヴは特に表情を変えることもなく言った。 フィクサード樋口未来(ひぐち・みき)は偶然手にしたアミュレットに他人の悪しき未来のみを吸収し、任意の人物に放出することが出来る。 「このフィクサードは秀でた戦闘能力はほんとんどない。幻視とハイテレパスとリーディング、それにわずかなサイレントメモリーが使えるだけの存在」 その未来が占い師の傍ら、おかしな商売を始めたのは質屋で見つけた青紫色のペンダントの力だった。未来は金を払った客のアクシデントを高額で取り去り、僅かな金でも欲しがる者達になすりつける。 「今はたいした事態にはなっていない。法律的にもせいぜい脱税ぐらいの罪状。でも、放置すれば力を増幅されていく」 だからいまのうちに手を打つ必要があるのだ。 「それから……樋口未来の顔は普通。可愛すぎる占い師っていうのは誇大広告」 まるでそれがこの事件の中で重要な情報だとでもいうよに、イヴはきっぱりと言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月05日(木)21:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「あ、かっこいーお兄さん発見!」 この台詞を言うのに一体何時間掛かっただろう。『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)は心の中で100回以上はもう止めた! と宣言したし、もう帰る! とも断言した。それでもお得意の『きまぐれ』を発揮しなかったのは、一緒に情報収集をすると決めたアナスタシアが店のスタッフに接触すると言って別行動しているからでもあったし、アークに所属するリベリスタとしての矜持でもあった。そもそも、占い館に行こうなんて客は圧倒的に若い女性が多くて、桜が標的と想定したような大学生やサラリーマン、人脈広そうな男性なんかは皆無だった。ごく稀にやってくる男は大概女連れで桜が声を掛ける隙はない。 「俺……のこと?」 「うん! ちょっとお話良いですかー?」 超勘違い系ブサメン相手に桜はギャルゲー画面の様な愛想の良い笑顔を浮かべて見せた。 適当なファミリーレストランの向かい合った席で桜はブサメンの話を適当に聞き流していた。 「だからぁ、あの占い師は全然わかってない。俺に先がないから未来を買うぐらいの覚悟が居るなんてほざきやがる。この俺の溢れる才能がわからないなんて……」 既に桜が方向性を必要もなく、樋口未来に悪感情しか持っていない。 「わっかるーしょせん未来ちゃんは占いの才能なんてないから雑誌の受け売りばかりって話しだし、詐欺の前科があって地元には居られなくなって逃げてここに来たみたいですよぉ」 桜は瞳をキラキラ輝かせながら、ひたとブサメンを見つめる。蠱惑の瞳に宿る幻惑の力に抗う力は向き合うブサメンにはない。 「……だよなぁ。雑誌の受け売りで前科者で逃げて来たんだよなぁ」 ブサメンは復唱するかのように桜の言葉を繰り返す。 「ネットに書き込んでみんなに教えてあげると良いですよ」 クスクス笑うと、桜は当然の事の様に会計を任せてファミリーレストランを出る。 「次はお店の子をナンパして貰わなくちゃですね。桜ちゃん、超忙しいかも~」 機嫌よく軽い足取りで、今度こそ桜は本当にイケメンが居そうな繁華街へと繰り出していった。 ● 雑居ビルの薄暗い階段を上っていくと今日は2階ぐらいからもう行列が始まっていた。多くは中学生か高校生の少女達で、占って貰う内容について声高に言い合っている。『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)にとっては少しうるさいけれど、我慢出来ない程ではない喧噪だ。 「お客さんは初めて?」 占い館『ルビームーン』のスタッフらしい若い……おそらくアナスタシアと同年代の女は安っぽい黒ベールを頭からかぶって気さくに話しかけてくる。 「はい。噂を聞いて来ました。あの、こんなお店で働けるってステキだなぁ……占い師さんは優しいヒトなのかなっ? それともアヤし~い雰囲気っ? 可愛いってホントっ?」 「好奇心旺盛な人だね」 店員は整理券らしい番号が刻まれた札を渡しながら笑う。 「この番号だと先生に会えるのは2時間ぐらい後かな? それまでお茶でもしてようか?」 女店員は話し好きの様だ。 「本当に? 嬉しい」 「なんかさ、最近の先生って妙にビビってるって感じでさ。誰かに聞いて欲しかったんだよね」 女店員はアナスタシアを先導し近くの喫茶店へと入っていった。 ● 「使い方次第って奴だよな……力なんてもんは何でもさっ」 離れたビルの非常階段に設置された冷たい鉄製の柵に肘をつき、ラキ・レヴィナス(BNE000216)は占い館『ルビームーン』を見張っていた。だが、ラキは樋口未来を嫌っている訳でもないし、未来のしている事が生きている資格がないほど酷い行為だとも思っていない。こういうケースは間々ある事だ。身の丈に合わない力を急に手に入れた人間といいう生き物の80%ぐらいはヤバイ道に迷走する。 「……体感だがな」 低くつぶやきながらその瞳を表す言葉のような店名が貼り付けられた窓へと向けた。 「でもさ、情報収集って結構地味? だよね」 ラキの隣では『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が目を凝らしている。視線の先はラキと同じく占い館『ルビームーン』だ。今も数人の客が並んでいるのが見えるが、普通の人には店の内部まで見る事は出来ない。 「見えるのか?」 「当たり前だよ。こーみえてもひよ子さんの目はメチャメチャ高性能なんだからね」 えっへんとばかりに比翼子は胸を反らせる。比翼子の目にはガラス一杯に貼り付けられたムの字の向こう側に立つ樋口未来の姿が見える。黒っぽい服地の上にごてごてと凝ったアンティーク調の装飾が施されたペンダントがある。 「あれがアーティファクトかな?」 比翼子はつぶやく。サラサラと簡単にスケッチをする。 「なんだ?」 それはラキの目にはどう見てもイヴのクレヨン画程度のほのぼのとした精度であった。 ● 『ロストフォーチュナ』空音・ボカロアッシュ・ツンデレンコ(BNE002067)は樋口未来が占い師として店を出しているビルの前にいた。見上げれば3階の窓ガラスには1つずつ貼り付けられた『RUBY MOON』の文字。 「樋口未来……あいつ、生意気にも色々計算ずくだったってわけ?」 3階という微妙な距離では地上からリーディングの妨害をするのが難しい距離だった。加えて、公道に店を構える事も一朝一夕に許可が下りるものでもないし、許可される事も少ない。後は許可無く営業するかこの策を見送るか……だ。 「術なき様に見ゆるが……如何にせん?」 空音の店でスタッフ役をすることになっていた『灯火』月熊 吟鶯(BNE002180)が静かに尋ねる。外見と生きてきた年月はあまりに違い過ぎていて、見た目との違和感は『マジハンパない』状態で、激しく達観した子供の様に見える。 「占い師の正道を踏み外した奴にこれ以上好き勝手なんてさせないわ。予定通り『可愛らしい占い師の店』を開店させるつもりよ」 未来にこれ以上『占う事』を汚されたくはない。空音は決意を秘めて断言した。 「当たるも八卦、当たらぬも八卦、先のことは知り難く……」 薄く笑って吟鶯はうなずいた。 その後も色々と策を講じては『ルビームーン』のすぐ近くで占い師として営業する事を試みた空音であったが、どうにも上手くいかなかった。同じ雑居ビルの内部にはテナントが幾つか入っていたがどれもすぐに押しのけて開店する事は出来ないし、別のビルでは距離があって『ジャミング』の効果が期待出来ない。 「如何に? 客人にでも装って乗り込むべき也?」 ビルの裏口で3階部分を見上げながら吟鶯が静かに言う。 「こうなったらこちらから出向いて『ジャミング』するしかないわね」 だが、明らかに未来よりも占い師としての才能があると自負する空音は、未来の店の客のふりをするのは不本意極まりない。 「客の振りなんて必要ないわ。近くに行けば良いんだもの」 「「委細承知。俺は周囲を警戒していよう。お主はなすべき事に専念せよ」 吟鶯は年齢相応の落ち着いた様子で言う。 「えぇ、そのつもりよ。最初から向こうが来ないならこちらから乗り込むって、最初から決めていたんだものね」 「行くぞ」 吟鶯が先に立ち非常階段を上る。関係者以外立ち入り禁止の札がかかっていたがこの際守ってはいられない。念のために4階まで上ると空音はそこで力を使った。吟鶯は空音の側で身構える。すぐにも未来が乗り込んでくる可能性も否定出来ない。 10分が経ち、20分が経過し……そして30分を超える頃になると3階がざわざわと騒がしくなり始めた。 「偵察して参る」 吟鶯は短く言って空音を残して階段を下りビル内へと入っていく。だが、すぐに戻ってきた。表情は変わらないがなんとなく緊張感が途切れている。 「どうしたの?」 「いきなり閉店だ。こちらの『ジャミング』に気づいて未来は逃げたらしい」 「な、なんですって!」 空音は唇を噛む。急いで3階の占い館まで走ると、もう並んでいた客達は引き上げていくところだった。 「びっくりしたね」 「急病? 占い師でも自分の事はわからないもんなんだ」 「さぁ。警察にでも追われるんじゃない?」 「まじまじ?」 「なんか噂あるしぃ」 客達は勝手な事を言い合いながら階段を下りてゆく。 ――都合によりしばらく休業します―― 店舗の扉には走り書きのような文字で書かれた紙が貼ってあった。 ● 欲しい物を手に入れる最も単純で最も簡単な方法……それは自らその場に出向き奪う事。計略も策略も何もかもかなぐり捨てて『合法』御厨・九兵衛(BNE001153)は樋口未来の住むマンションの前にいた。時刻は超ミッドナイド……あと3時間もすれば朝を迎える頃合いだ。 「やっぱり夜襲は丑三つ時と古来より決まっておるのじゃ」 嘘ではないが真実でもない事を本当らしく言うのは長い人生を歩んできたからなのか。 「まぁ夜這いならばもうちぃと早めに出向かないと色々段取りが大変なんじゃろうがのぉ」 楽しげにマンションを見上げながら、見た目は小学生としか見えない九兵衛はまさしく子供らしい格好で、夜陰に紛れる猫そのものの様に気配を殺してたたずんでいる。 「そろそろ時間だね」 アナスタシアがマンションの大部分がカバー出来る様、付近一帯に『強結界』を張る。 「ラキくん、本当にほんとうにほっんとーーーーに、部屋にはいかないの?」 比翼子は振り返ってラキに問いかける。もう何度目かの問いなのかラキは無造作にうなずいてみせた。 「俺は後詰め……っていうか、逃走ルートを潰す。窓から飛び降りても逃がしゃしねぇから安心して行って来い」 「うん! じゃあまた後でね」 比翼子はタンポポの様に明るい色の翼を振って元気よくマンション入り口へと走っていく。 「さぁて、樋口未来の部屋の下っと」 あらかじめ下調べは出来ているのか、ラキは施錠された非常口のフェンスを難なく乗り越え敷地内に潜入した。 同じ事をもう一度やる……難易度は下がる。ごく普通のセキュリティを備えたマンションに侵入するする事は難しくはない。だが、痕跡を残さずになすべき事を為すのは決して簡単な事ではなかった。エリューション化したリベリスタとしての能力を発揮すればこその荒技……だ。『威風凛然』千早 那美(BNE002169)が樋口未来のマンションに侵入するのはこれが2度めであった。首尾良く室内に侵入すると内側から開錠した。 「夜風は年寄りの身体には障るのじゃぞ」 「都合良く立ち位置を変える者はおとぎ話では痛い目を見るわよ」 「それはそれじゃわい」 那美が細く開いた扉から軽口を叩きながら九兵衛が室内に入る。すぐにアナスタシアと比翼子が続く。 既に一度侵入済みの住居である。部屋の間取りや寝室の場所は完全に把握済みだ。そっと部屋の扉を開くと未来は熟睡していた。 「取るよ」 柔らかそうな羽掛け布団をそっとアナスタシアはずり下げる。 「きたああああぁああ」 鼻息は荒いが声は出来るだけ絞って叫んだのは九兵衛に僅かに残った理性のなせる技であったのだろうか。横向きの顔はハッキリと見えないが横になっても流れない気合いと根性と矯正下着に支えられて盛り上がる胸の中央にペンダントがある。 「ふ、普通サイズでも充分じゃったのに……なんじゃこれはぁ~~」 両手を突きだしたままの姿勢で九兵衛は動けない。 「いかん理性を保てワシー!! 目的はペンダントじゃ。その下は土台にすぎんのじゃ。あそこに手を突っ込もうとしてはいかん!!」 「比翼子さん」 「うん」 那美と比翼子が未来に迫る。あと少し、もう少し……じりじりと迫る2人の手が未来の胸元に迫る。 「う~ん……」 寝返りを打った未来の頬が固まっていた九兵衛の手に触れた。パチッと音がするほど唐突に未来の目が開く。 「きゃ……きゃああ!」 「待って待って!」 「こうなったら話だけでも聞いてぇ」 比翼子と那美の隙をついて未来がベッドから転がり落ちる。 「お金は稼げても、その陰で誰かを不幸にするのは良くないよぅ……未来殿はこれからもずっとずっと、そんな生き方をするつもりなの?」 「手荒にはしたくないわ。むしろ私達と一緒に来ない? より有効な力の生かし方について、一緒に考えてあげられると思うわ」 アナスタシアと那美が必死に声を掛けるが、パニック状態の未来に聞こえているかさだかではない。 「来ないで!」 窓をあけた未来がベランダへまろび出る。 「行かないで!」 アナスタシアの身体がもの凄いスピードで動き、鋭い蹴撃は真空の刃を作って未来の足を切り裂いてゆく。 「いや! 絶対に嫌よ!」 とっさにベランダから身を躍らせる未来。さすがにこの高度では命が助かる筈もない。 「わあああ、待ってぇ~」 「まだまだ十分に使い手のあるナイスバディがぁああ」 比翼子と九兵衛の叫びが重なる。 「そこまでの覚悟嫌いじゃないけど……」 那美の手から黒いコードが落ちてゆく未来の身体を追ってゆく。シュンと軽い音がして巻き付く! けれど落下の速度は僅かしか衰えずコードの端の那美ごと地面へと急接近してゆく。 「那美さん!」 ベランダの柵を越える那美の足に九兵衛がしがみついたのは、電光石火の早業であった。 「不幸な未来なんてさせるかよ」 加速の止まった未来の身体は落下予測を瞬時に判断し行動していたラキの腕にすっぽりと収まっていた。 「……嘘。どうしてわかったの?」 「とーーーぉ!」 その時、ラキと未来の遥か頭上から比翼子の小さなかけ声が聞こえた。 「ペンダントに降りかかる不幸までは押しつけられないに違いない!」 なんとなく気合いのこもった声と共に飛び降りた比翼子の幻影の剣は、狙いを外す事なく未来の胸のペンダントを……ぱり~~んと砕いた。 「あっ」 「あああっ」 「ひゃああ」 「きゃああ!」 多くの落胆混じりの悲鳴が響く。 「……え? え? なんで?」 邪悪なアーティファクトを仕留めた正義のヒロイン、比翼子は目を見ひらいて2度ほどまばたきをした。 「ラーニングしたかったのに……」 ボソッと哀しそうにラキがつぶやいた。 身柄を拘束された樋口未来はアークに連行され、残骸となったアーティファクトも回収された。雑居ビルの2つの占い館はすぐに別の店へと様変わりし、何事もなかったかのように街には今日も人が溢れている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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