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<強襲バロック>72 Spirits of Solomon――63:Andras

●進撃せよ
「バロックナイトが。赤い月の夜が。――来ます。」
 モニターに映る血の色の月がブリーフィングルームを不気味に照らし渡していた。

  赤い月。それは、大規模な崩界を暗示する終焉の予兆。

 それを背景に、事務椅子に座し顔の前で指を組んだ『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は真剣な眼差しをリベリスタ達に向けた。
「神奈川県横浜市三ツ池公園――崩界加速が仄めかしていた『特異点』、バロックナイツがここに『巨大な穴』を開ける儀式を行います。
 それは園内の中心部にて行われます。ジャック様とその戦力を撃破し、戦線を押し上げ、必要に応じて対処を取れる状況を作り、最終的には儀式を中断させる事が我々の最善ですが――まぁ、そうホイホイ出来たら苦労はありませんな。当然、障害は幾重にも幾重にもございます。
 園内中央部にアシュレイ様の『無限回廊』なる特殊な陣地、園内中にジャック様側戦力の防衛線……先手は不可、厄介な状況ですぞ」
 言葉の終了と同時に卓上へ広げられる資料。三ツ池公園の地図や、アシュレイからの情報、賢者の石について、敵のデータ……様々な情報。
「近隣住民の避難や周辺封鎖態勢はこちらにお任せ下さい。
 ……サテ、三ツ池公園ですが正門周辺は事実上封鎖されておりまして、そこからの突破は敵戦力の厚さを考えればアレですな、云わば態々飛んで火に入る夏の虫しなくっても良いのです。
 で、蝮原様やセバスチャン様方が南門にて陽動作戦を行って下さいます。ありがたいですな。なので皆々様は戦略司令室の提案したプランに従って西門か北門から園内に侵入して頂きますぞ」
 メルクリィが卓上の地図に重量のある機械指をゴツンを乗せる。
 それは西門を示していた。
「今回、皆々様にはこの西門から侵入して頂き――この森付近に布陣している戦力を叩いて頂きますぞ。
 エネミーデータにつきましては……こちらをご覧下さい」
 そう言って機械男はモニターを操作し、『視た』ものを画面上に展開した――

●禁忌ファンブル
 木々に囲まれているその開けた場所を、赤い月が見下ろしている。
 赤、赤、不気味で神秘的で良い夜だ。
 耳を澄ませば遠くから音が聞こえてくる。
 それは銃声、刃のぶつかり合う音、神秘が炸裂する音、鬨の声、断末魔、……戦闘の音。
「やはり……来たか、アーク」
 ローブの奥、細めた瞳で彼方を見る。
 分かる。澄ませた五感、音が気配が徐々に近付いて来るのが。

 邪魔するつもりなのだろう。赤き月の夜を。
 阻止するつもりなのだろう。生ける伝説を。

 そうはさせるものか。

 こちらには切り札がある。
 とっておきの切り札が。

「――準備はどうだ」
 振り返った彼は部下達に問う。彼等は口々に答えた、「完璧です」と。
「良し」
 完璧、か、吊り上がる口角、これで完璧。
 きっと奴等は悲鳴を上げて逃げて行くに違いない。殺されて逝くに違いない。
 視界の先には魔法陣。並べられた護符。
 それは彼の手にする古朽ちた紙片に印されていた物と同一であった。
 あとは必要な呪文を唱えるだけ。
 あとは――そう。

『来たれ72なる魔神の1柱にして30の軍団を指揮する尊厳なる地獄の大侯爵』
『Andrasよ』

 禁書に印されていた通り。
 偉大なる悪魔。その力を以てすればアークなど。
 そうなる筈。

 筈だったのに。

 血に染まる。臓物をブチ撒ける。
 部下達が。
 悪魔が、あぁ。睥睨している。
 黒い狼に跨り、血に染まった剣を携え。

 まさか、失敗したと云うのか――

 赤い月が見下ろすのは、絶望。

●覚悟せよ
「ソロモン72柱……って御存知ですか? 悪魔学によるとイスラエル王国の第三代の王であるソロモン王が封じたとされる72人の悪魔の事だそうですが」
 メルクリィがリベリスタ達へ視線を戻なり、そんな事を口にした。
「フィクサード集団『四方津会』(よもつかい)……シンヤ様の兵隊で、神秘・魔法を専門とする集団でございます。
 彼らはトンデモないアーティファクトを何処からか入手したようでしてな。
 ……『ゴエティア』、というモノを御存知でしょうか。別名『悪霊の書』、ソロモン王が使役したという72人の悪魔を呼び出して様々な願望をかなえる手順を記した魔術書の一つで、その為に必要な魔法円、必要な呪文等や、72人の悪魔の性格姿特技などが詳述されているとかいないとか」
 まさか彼等はそれを手に入れたというのか――質問に、フォーチュナは「いいえ」と答える。
「彼らが手に入れたのはその模写、しかもそのごく一部分のみ。
 アーティファクト『ゴエティアの模片』……悪魔の召喚・送還方法などが記載されておりますが、朽ち果て過ぎている所為で欠落してたり文字が滲んでいたりとかなり不完全な状態です。
 その『不完全』は不完全な儀式を、不完全な結果を。
 そして現れたのが――アザーバイド『アンドラス』」
 モニターに映る悪魔。アザーバイド。半実体の曖昧な異形。天使の様な翼のある身体に黒い鳥の頭、手には鋭い剣を携え、黒い狼に跨っている。
 禍々しく、神秘的で、おぞましい。
「ゴエティアによるとソロモン72柱の魔神の1柱で、30の軍団を指揮する序列63番の地獄の大侯爵だそうです。
 なんでも……アンドラスは召喚者を仲間共々皆殺しにしようとする、とか。一方で召喚者に敵を皆殺しにする方法を教えるという説もあるそうですが……真偽は一切不明です
 能力としては、不和を齎す力を有しております。
 ……ここまで聴けば、絶望するっきゃない状況ですが!」
 メルクリィが機械の指をピンと立てた。耳かっぽじってお聴き下さい、と続ける。
「『不完全な結果』――このアンドラスは、正確には『アンドラスというアザーバイドの力のごくごく一部分が半実体化したモノ』です。アンドラスフォース、とでも名付けましょうか。
 皆々様でも十分に太刀打ちできる相手でございます。
 ……サテ、情報が多くってゴタってきましたな、簡潔に纏めましょう」
 詳しい事はこの資料にも、とメルクリィは卓上に資料を重ねた。それから、組んだ足の上に指を組む。
「皆々様にはフィクサード集団『四方津会』の撃破をして頂きますぞ――理由は言わんでも良いですよね。
 それからアザーバイド『アンドラスフォース』の送還か討伐もして頂きます。
 理由。それはアンドラスフォースの『不和を齎す力』。アンドラスフォース自体は超不安定な状態なので一時間ばかしで消滅してしまうのですが、それまでにこの力で戦場を無茶苦茶にされたら……どうなるか分かりますな?」
 静かな眼差しに深く頷く。ただでさえ後出しばかりの戦況、不安要素は一つでも無くしたい。
 頷き返した予言師は説明を続ける。
「まずはアンドラスフォースの送還について。これには四方津会部隊の部隊長の持つゴエティアの模片が必要となります。
 ゴエティアの模片にはアンドラスの送還方法も記載されている……筈。しかし分の悪い賭けですな。この紙、さっきも言いましたが超超読み辛いんで。何語で書いてあるかも不明ですし文字欠落してますし。
 それにもし読めても……送還儀式をするとしてもかなりの手番を消費する事になるでしょうな。アンド、必ず成功するとは限らない」
 次に討伐について。「あと少しなので」苦笑の後に続ける。
「討伐に関しましては特に私から申し上げる事は御座いません。いつも通り――しかし油断なく、皆様の最大火力で圧倒して下さい。
 如何に『アザーバイドの力の一部』とは言え、そんじょそこいらのエリューションとは格が違いますぞ。
 ――以上で説明はお終いです。宜しいですか?」
 メルクリィの低い声。信頼と、希望と、……心配の眼差し。
「私は」
 ニッコリと笑う。
「何がどうなってどうなろうと、リベリスタの皆々様の味方です、応援しとりますぞ。
 くれぐれもお気を付けて――どうか、ご無事で!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月14日(水)22:55
●目標
 戦力が遭遇戦に勝利して突破する
 アザーバイド『アンドラスフォース』の送還or討伐

●登場
フィクサード集団『四方津会』(よもつかい)
 後宮シンヤの兵隊。神秘・魔法を専門とするフィクサード集団
 数は30程。実力はそれなり。
 種族は様々、ジョブはホーリーメイガス・マグメイガス・インヤンマスター・プロアデプトを主とする。

アザーバイド『アンドラスフォース』
 アーティファクト『ゴエティアの模片』によって召喚された、『アンドラス』という上位アザーバイドの力のごくごく一部分が半実体化したモノ。(不十分な召喚儀式の所為)
 天使の身体に黒い鳥の頭を持った姿。手には鋭い剣を携え、黒い狼に跨っている
 不和を齎す力を有するという
 曖昧な状態なので、一時間弱ばかしで消滅する
 飛行状態
 混乱、魅了、怒り無効
>主な戦法
 不和を齎す。全体。常時発動。
 剣で斬り付ける、狼が噛み付くなど。稀に流血
 裏切りの宣告。単体。呪い、混乱
 皆殺しの宣告。全体。弱体、隙、重圧
  など

アーティファクト『ゴエティアの模片』
 とある禁書のページを模写した紙片。
 悪魔の召喚・送還方法などが記載されているが、古びて朽ち果て過ぎている所為で欠落している箇所も有り、非常に読み辛い

●場所
 三ツ池公園の西門付近、木々の中の小広く開けた場所
 時間帯は夜。赤い月で不気味に明るい

●その他
 全体シナリオの結果が決戦に影響を及ぼす可能性があります
 アンドラスが召喚された直後から始まります
 送還儀式にはかなりのターンが必要(アーティファクト『ゴエティアの模片』が必要/必ず成功するとは限らない)

●STより
 こんにちはガンマです。
 ソロモン72柱。
 皆様の本気をお待ちしております。


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
瀬伊庭 玲(BNE000094)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
プロアデプト
天城・櫻霞(BNE000469)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
マグメイガス
オリガ・エレギン(BNE002764)
クロスイージス
夜逝 無明(BNE002781)

●強襲、奇襲
 真っ赤な、真っ赤な、真っ赤な月が、睥睨して、居る。
 駆ける。遠くで、遠くから、あるいは近くから音――銃声、魔法、刃、鬨、断末魔――匂い――血、炎、硝煙、血――異常で、狂乱で、戦争で、死で、死だった。
 そこかしこに『死』が。死が、見て、窺って、笑って、手招いて、笑う。笑っている。笑っていた。

 そつなく侵入、駆けるは森の中、瞬間に前方で不気味に瞬いた光は――間違いない、儀式によるものだろう。
 悲鳴が聞こえて、見えてくる。不和を招く悪魔――

「アンドラス」

 ソロモン72柱の中でも争いを好み、油断すれば術者すら殺しうる最悪の悪魔。
 出来損ないとはいえ厄介な存在を呼び出してくれた。尻拭いをするのが自分達と言うのが気に入らないが、重要な戦場をかき回されるのは勘弁願いたい。
「全くもって愚かとしか言いようがない。さっさとお帰り願うとしよう」
 木々の合間から現れた『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は儀礼杖クロノスを構えつつ周囲を見据えた。巨大な魔法陣を、赤い月光を、悪魔の残滓と、それに翻弄される敵影。布陣する仲間の気配を感じ取りながら深呼吸、酸素を脳へ。
「さあ、始めようか……潰しあいを」
 言葉と共に自らの脳内信号を極限にまで高めつつ。
 アンドラスは儀式失敗とリベリスタの出現にうろたえる四方津会の構成達を粛々と、ただ粛々と、剣を振るって魔弾を放って殺戮してゆく。
 また断末魔。――フィクサードの死のお陰でリベリスタ達が十分に布陣する時間が確保できている、とは何とも後味の悪い好機だ。
「ううう……怖いよめっちゃ怖いよぅ……。でも、頑張らないともっと怖い事になるんだよね」
 気合入れなきゃ。体内魔力を活性化させる『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は震える拳を握りしめ、きっと顔を上げるや戦場全体が見渡せる位置に立った。
「ここで時間取ってる場合じゃないのっ。全力で皆まとめてふっ飛ばしちゃうんだからっ!」
 そう意気込む回復手アリステアの前に盾の如く立ちはだかるのは『闇夜灯火』夜逝 無明(BNE002781)、包帯の奥の目に凛然と闘志を宿らせ輝く守護のオーラを纏う。
「不和を招く悪魔。伝説の存在であるソロモン72悪魔の一柱。
 例え残滓と言えどもなかなか出会えるものではないね」
 構える電光刃、己がオーラと月の光で鮮やかに輝く、赤。剣の彼方には悪魔、こっちを見ているおぞましい双眸。
 さて厄介な相手ではあるけれど、彼の道も照らすとしよう。

  ――地獄への帰り道という道行だけれどね。

「さあ始めようか、魔の使徒。今宵は戦うには素晴らしい夜だ」
 放たれた魔弾、それを光剣で薙ぎ払う。

 そんな戦場を、ニヤニヤ。まったくなんてぇもの呼びだしてるんだよぅ。常識外れに馬鹿でかい剣・月龍丸を担いで、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)は遥かな血色の月を仰いだ。
「まぁ敵が強けりゃ強いほど面白いけどねぇ……く、くく、今宵の月はなんと綺麗なことか」
 ざわざわ、本能の奥底に眠るケダモノの血が、狼の血が、嗚呼、騒ぐ。騒ぐ。血が熱い。
 刹那、戦場へ向き直った瞳は恐るべき狂人、破壊神、鬼神のそれであった。

「くくく、今宵は獲物が仰山おるわ……」

 手加減無用。情け無用。容赦無用。全力、圧砕、無双。
 四方津会から放たれる魔法の弾幕を突っ切り、跳び、巨剣に激しい稲妻を纏い、

「皆殺しだァア!!」

 轟墜、落雷、目の前の有象無象を完膚無きまでに叩き潰す。
 始まる戦闘――暴力の嵐に恐怖する己を叱咤し、『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)は仲間達に翼の加護を授けた。必要以上の高さへは飛ばないようにして下さいね、と注意しながら。
(不十分な情報から不完全なモノを召還するなんて)
 なんて迷惑極まりないのだろう。しかしこのまま放置すれば甚大な被害を齎す事も確か。
 初めて自分の力が役に立つかもしれないから……

  ――唯、自分の成すべき事を。

 瞳に決意を、手には茨姫を。
(ソロモンの悪魔……力の一部とはいえ、そんな大層なモノと戦う事になるなんて)
 与えられた翼、高められた身体のギア、靡く銀髪、高めてゆく集中。『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)は斬禍之剣を構え、四方津会から放たれる魔法を躱し掠めながらアンドラスへと吶喊する。
 アンドラスと目があった――底の無い穴へ落ちて逝く様な恐怖が、ゾクリ、悪寒が、それでも怯んでいられない。

「あたしは――あたし達は、勝たなきゃならないんだから!」

 繰り出す高速の剣、禍を斬る銀の刃、応える様にアンドラスも剣を振るう。
 ぶつかり合う剣、速さは霧香が、威力はアンドラスが上。
 なんて重い一撃――剣から伝う衝撃、腕がビリビリする。それでも退くものか、頬を掠めた刃に白磁の肌を赤く染めながら剣を振る、振るい続ける。
 その様を横目に――体内魔力を高めた『不幸自慢』オリガ・エレギン(BNE002764)は痛悔機密の為の通過儀礼を手に常の暗い顔を更に暗くして戦場を見渡した。
「いやあしかし、こんなおっかないのに駆り出されるなんて、ホント運悪いですよ僕」
 悪霊の書か……ロシア語かラテン語なら多分何とかできるかもしれないのだが。まぁ擦れたり破れたりで読めなきゃ意味がないのだけれど。
 そんな彼の視線の先には四方津会の部隊長。アンドラスにやられたのか、血だらけで片膝を突いている。呼吸と咳き込みの度にその口からはごぼごぼと血が溢れだしていた。それでも手にはしっかりと、禁書の模片。
「悪魔は正しい手順を知る術が無くては代償を術者から奪うだけですよ、知ってるでしょ?」
 少し間を開けつつ……いつでも戦えるよう身構えつつ、オリガは彼に話しかける。視線が合う。
「アーク、か」
「そうです。……あの、無駄死にしたくなかったら送還手順でも試しておいて下さいよ、やらないよりマシですし」
「……ク、くく、ふ、ゴホッ、ははは、……リベリスタを一匹でも潰すのが我々の」
 言葉はそこで止まった。
 口から剣が生えていた。
 オリガの顔にべシャリと、何だこれは。赤い。血だ。目の前のフィクサードの。
 口から剣が生えていた。

 いや

 正しくは

 霧香を吹き飛ばしたアンドラスの剣が、後ろから部隊長の頭部を突き刺していたのだ。

「…… !」
 瞠目するオリガ、彼に部隊長の死体が投げつけられる。もんどりうって転んでしまう。そこへ四方津会が魔法で攻撃しようとして来た――のを、軽やかな銃撃緋舞踏が切り裂いて往った。

「貴様ら! 妾の華麗なる一撃を食らうがよいわ!」

 ソロモンだかクトゥルフだか知らないが、取り敢えずボコボコにして勝利するのみ。妾のすたいりっしゅなところをみせてやるわ、と二丁拳銃の『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)が艶やかに舞う、靡く緋月、ワンステップの度に鳴る銃声はさながら手拍子のリズム、瞬く発砲炎は煌めくダンスホールの様であった。
「むぅ、何やらよく分らぬアザーバイドが出てきておるわい……。
 で、あやつらはうまく制御出来……とらんようじゃな、どう見ても」
 転んだオリガに手を貸しつつ玲はアンドラスを見る。霧香が斬りかかり、櫻霞は気糸で動きを封じようと励んでいる。櫻子の破魔の聖光が、アリステアの天使の歌が響く。他の仲間達も四方津会と各々戦っていた。
 ありがとうございます、立ち上がった返り血塗れのオリガは顔を拭い礼を、その手にはゴエティアの模片が。
「お、入手したんじゃな」
「はい。取り敢えず……どうしましょう? 僕が持っておきましょうか」
 言いながら身を屈める。頭上を魔法が飛んで行く。同じく身を屈め、ドレッドノートを構えた玲は頷いた。
「うむ、任せたぞよ。だが流石に壊さぬようにの?」
「わっ分かってますよ……!」
 上出来じゃ、緋月の幻影は巨銃を構え、撃った。最早人類では扱えない代物――その分の衝撃ときたら。
「ぐっ……な、なんじゃ、この重圧は……!」
 頼みますよ。オリガは浅く息を吐くとアンドラスへ詠唱を始めた。

「予てより僕に試練を与えられた神よ、僕に不運と試練を与えるくらいならそこの悪魔のひと欠けに盛大な罰をお与え下さい。マシマシで」

 構築される魔法陣、放つ四光。
 神よ、ああ我らが神よ。頼みますから偶には微笑んで下さい。Amen.

●不和、悪魔
 激戦は続く。戦闘音楽が鳴り響く。月はただ赤く煌と見下ろしている。
 不和を齎す力、か。成程本当らしい――彼方で互いを殺し合う者が見える。無明は炸裂した魔炎に耐え、傍に居たフィクサードを聖なる力を纏った電光刃で叩き潰した。
 そのまま声を張り上げる。四方津会の不和を拡大させる為。
「フィクサード諸君、今宵は素晴らしく赤い月だ。このような環境で戦うのはなかなか風情があっていいことじゃないか。
 けれど、その風情とは無縁なものがあるね? 君達の利益、尊厳、そういった話の事だ。
 君達が望むのは最終的には自らの利益、功名心だ。
 さて、そんな君達の隣に立っている隣人は。果たして味方なのだろうか? 一つ考えてみては、――」

 え。

「……!?」
「夜逝さん……?」

 どうして私は
 味方の方へこんな事を言って
 アリステアと櫻子へ
 剣を
 振り上げているんだ。

 ……味方? こいつらは本当に味方か?

 敵か? 敵ならば、殺――

「無明ちゃんッッ!」
 刹那、アリステアの叫び声と共に放たれたブレイクフィアー。視界を照らした光に無明はハッと我に返った。
「く……すまない」
 今のが不和を齎す力か、恐ろしいモノだ。頭を振って仲間に詫びて無明は再度戦場へ向く。
 視界の先――気糸に貫かれ怯んだ霧香が、その瞬間にアンドラスに深く斬られて……落ちる。しかし、倒れないのは運命を燃やしたから。
 血に染まる唇を拭い、櫻子の天使の息に包まれながら霧香は四方津会へ凛然と言い放った。
「コレを放っておいたら貴方達も皆殺しかもしれないんだよ!? それでもいいの!?」
「お前達を殺してからアンドラスの送還をしても遅くはあるまい!」
 和解は不可か。致し方ない。そのフィクサードの首筋を食い千切り、血潮を啜って櫻霞は息を吐く。
「不味いな、まあ文句を言ってもいられんか」
 見渡せば四方津会自体はほぼ壊滅したか。しかしアンドラスの相手をしながらの戦闘は流石に厳しかった、残滓とは言え強力なアザーバイド……尤もそれ以外の方法が無かった故に仕方の無い事で正解の行動なのだろうが。

 フェイトを、己が運命を焼いて立ち上がる。オリガと御龍がそれに当て嵌まっていた。
「くく、ヒヒヒヒヒ。やるじゃないか、えぇ? 楽しくなってきたじゃあないか!」
 血だらけ傷だらけ満身創痍、月龍丸片手に目の前の者を豪快に叩き斬って千切っては投げ千切っては投げ。お陰で精神力は尽きたが、予想以上に早く四方津会を掃討する事が出来たのはその鬼神の様な怒涛の攻めに因る所が大きい。
 傷を負う程ケダモノの血が滾る。戦いは楽しい。楽しいは戦い。残酷で冷酷で、しかし頭は冷静平静。

「来るが良い悪魔、その鳥頭を奇麗にブッ潰してやろう」

 悪魔へ、外道龍は牙を剥く。
「隙だらけだな、舐めるな悪魔風情が――縛り付ける」
 直後に櫻霞の気糸が厳しく悪魔を縛り上げた。それを狙うのは玲の舞踏、オリガのカード。
「妾のドレッドノートを食らうがよいわ!」
「僕の信仰を違えさせ給もうな『僕の神』よ、どうか目の前の敵を打ち砕く力を」
 弾丸舞踏と、一直線に穿つ破滅の道化。霧香も幻惑の武技を刃に立ち向かう。
 そして傷を負った悪魔の残滓は気糸を振り払って剣を赤月に掲げた。
 何か、モゾリと喋ったが――理解できない言葉。

 刹那、リベリスタ達の体から血潮が迸る!

「ッ――!?」

 皆殺しの宣告。ゴボリと口から溢れる血塊、猛烈に痛む全身、身体から力が抜ける、意識が霞む――仲間が次々と頽れる。
 しかし玲、無明が回復手二人を庇った事が不幸中の最大奇跡か。倒れた彼等にアリステアは悲鳴をあげそうになったが……それを何とか堪え急いで詠唱を。

「皆ここで倒れるわけにはいかないのっ。頑張ろうねっ。痛いのもしんどいのも治すからねっ!!」

 怖い、怖い、でも頑張らなくっちゃ。涙で滲みそうになった視界を拭い、運命を燃やして立ち上がる仲間達に奇跡の歌を、癒しの福音を。
 攻撃を耐え切った櫻霞は癒しの歌に包まれながら集中を重ねる。

 その背後に寄る、影が在った。

「!」

 気配に振り返る、そこには恋人の姿――何だ君か。
 なんだ。
 君か。
 だが、如何して、君は――俺の 目を 抉っ て 、

 櫻霞のモノクルが落ちた。真っ赤に染まったモノクルが。
 櫻子の茨姫が落ちた。真っ赤に染まった禁断の書が。

 不和の悪魔は笑う。裏切りの宣告で唆した恋人達を剣で一刺し、離れ離れにならない様に。
 悪魔は、不和は、平等。誰にでも。何にでも。

「貴様ァアアアアッ!!」

 よくも。何て事を。怒りの儘に霧香が吶喊する。高速の剣で動きを縛る。仲違い、仲間割れ、そんな事をしないよう気を強く持っているお陰か、未だ彼女を不和が蝕む事は無い。
「ちょっとでもダメージ負って貰わなきゃ。当たれーっ!」
 アリステアもマジックアローで援護射撃を、無明はこれ以上悪魔の齎す不和が仲間を傷付けぬ様ブレイクフィアーを放つ。

「不和は信故に起きると言うけれど。ならばそれを取り持ち道を繋ぐもまた一興、というやつさ」

 倒れた者も数多い。死屍累々。濃厚な血の臭い。濃密な死の臭い。
 それでも追い詰めている。確実に。アンドラスの姿は徐々に、掠れている様な。
 ならば攻めるのみ、であるが……無茶のしすぎは駄目だ。一旦下がった玲の体をアリステアが癒す。くるんと手の中でドレッドノートを回し、玲はアンドラスを見上げた。
 刹那にアリステア目掛けて放たれた魔弾――それを庇う。礼を述べた少女に笑う。何、これが今の妾の仕事じゃ。ふんばるのじゃー。アリステアの頭をワシャっと撫で。
 敵を見遣る。赤い月を背景にした悪魔を。

 ――倒してみせる。どんな巨大な敵だろうと。

 一緒に戦っている仲間が居る。
 支えてくれる仲間が居る。
 ここだけじゃない、この三ッ池公園中に。

 その為にも。彼等の為にも。

「ここで妾は倒れるわけにはいかぬのじゃ!!」

 立ち向かう。二丁拳銃。ドレッドノート。緋の舞踏。弾丸。
 霧香も、無明も力を振り絞って武器を振り上げる。何度でも。

「喰わせて貰おう、その力。――貫け…!」

 フェイトを消費し、頽れた恋人を片手で抱き締め、静かな瞳に裂帛を宿らせた櫻霞も精度の高い予測の下に鋭い気糸を放った。

 怒涛の猛攻、迎え撃つ悪魔、月下に響く恐怖の宣告――

  ――そして、

 シンと、僅か一瞬、あるいは錯覚なのかもしれないが、

 赤に照らされた一帯が、静まり返った。

●進撃、進軍
 立っていたのは玲、アリステア、霧香、無明。

 アンドラスは彼等の目の前で掻き消えた。

 ――勝った。

「皆っ……お疲れ様、大丈夫……?」
 最後の精神力を振り絞り、アリステアは仲間を癒す。重傷者も何とか身を起こした。それを見届け、肩で息をし、

「誰でも何でも、人さまに迷惑かけちゃダメなんだからねっ!」

 と。
「これが完全な召還だったら、そう思うと恐ろしいですわ。
 でも、滅びるべくして滅びたモノは同じ運命を辿るのでしょうね……」
 恋人に支えられ、或いは重傷の恋人を支え、櫻子は落としてしまった禁書と櫻霞のモノクルを拾い上げる。
 次からは下手な代物を使わない事だな、と。櫻霞は四方津会の屍に心の中で告げる。もう聞こえてないだろうが。
「できる事はやりましたし、後は中央までいくしか、ないですね……」
 癒え切らぬ傷を抑え、オリガは呟く。その手には禁書の模片。
「そーだねぇい。でも……取り敢えず一時撤退、かなぁ?」
 月龍丸に凭れた御龍もヤレヤレと息を吐いた。敵も居ないので元の状態、髪を掻き上げ、首をコキリと鳴らす。その言葉に無明が頷いた。公園外部に待機した無限機関・錬気法部隊の所まで一時撤退し、傷を癒すのが先決だろう。
「……行こう、他の敵に発見される前に」
「そうじゃな」
 玲も頷き、仲間に肩を貸し、迅速に走り出す。

 その背を照らす月は――未だ、赤く、赤く、赤い。



『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ:
「お疲れ様です皆々様! ご無事で、ご無事で何よりですぞ。
 僅かな時間ですが、しっかり休んで下さいね。」

 だそうです。お疲れ様でした。
 如何だったでしょうか。

 判定等に関しましてはリプレイ内に込めました。
 アーティファクト『ゴエティアの模片』はアークの手に。

 お疲れ様でした、ご参加ありがとうございました!