●きっかけはラジオジャック 街が徐々にクリスマス色に染まる中だったから、その異常は異常として捉えられなかった。 三高平に隣接する、至極どこにでもあるいち市街地に、面積に似合わぬ数のクリスマスツリーが搬入されたのも。 それが異常なまでに煌びやかだったのも。 クリスマスに浮き足立った彼らには、とてもどうでもいいことだったのだ。 『Hey,最低辺の愚民共、元気してるかい? 俺だよ俺。知ってるかなァ、覚えてねーだろーなー。それでいい、すげぇいい。ちょっと早いクリスマスプレゼントだ。ちょっとしたプレゼント交換ってやつだぜェ? お前らの悲鳴と食事を全部くれ。俺はお前らに最ッ高ーのスクリームをプレゼントしてやるさ。つまらないだろ? 泣き叫べよ。ヒーローが来るか? 間に合わないだろうなあ。オーケイ、Let's scream♪ ……』 ●またお前か 「……なあ」 「はい?」 「これって『あいつ』でいいんだよな? 『あいつ』しか居ないよな?」 「でしょうねえ。イヴ君から資料もらってますけど、ここまで気が狂った系のフィクサードは一人しかいませんし」 呆れたように問い詰めるリベリスタに向けて、何故か鼻歌交じりで地図にマークを記している『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は半ば流すように応じていた。どうやら、三高平に隣接した市、その中心市街地の地図のようであるが。 「フィクサード『テラーナイト・コックローチ』……今更語るまでも無いですよね。害虫嗜好趣味を持ち害虫至上主義に浸る、僕達からすればもうどうでもいいようなフィクサードです。彼の行う犯罪は概して小規模だったのですが、どうやら『七色絶対者』の一件で少しタガが外れたんでしょうかねえ……恐ろしい策に出ましたよ、彼」 振り返った夜倉は、六つほどマーキングを入れた地図を手の甲で叩き、生暖かい目をして説明を始めた。 「先日、この六地点に相次いでクリスマスツリーが搬入されました。業者は支持されたままに搬入しただけですし、彼らに悪意はありません。加えて、まあ……色々と小細工が施されてまして。有体に言えば、今から三時間後、放っておけば街は……『あれ』によって阿鼻叫喚の地獄絵図と化します」 「ええと、それって……不倶……」 「皆まで言わなくていいですよ。僕も口にしたくないので。で、どんな仕掛けかというと、このクリスマスツリーには二段仕掛けが施されてまして。ひとつ、ツリー根元にアーティファクト『夢想幻灯機』が取り付けてあり、常時幻影を見せるようセットされているようです。で、このツリーは空洞で、時限式の開放装置が施されていると。……ですから、一般の方にはとても煌びやかなツリーとして認識されているとみて間違いないでしょう。最悪なことに、この搬入された中にひとつだけ、市が要請したツリーが混じってるってことで」 何というか、どこまでも最低な話だった。それでも、不倶戴天の類なら寒さで活動できないのでは、と思われるが……。 「『卵鞘』。それ以上言いませんよ?」 あ、そういうことッスか。 「皆さんはまあ、これらのツリーを早期に破壊し、その危機を救っていただきたい。ここから該当市街地までは車で三十分。初期ポイントのツリー撃破から単一チームで回ると、確実に三つほど取りこぼすことになります。分割作戦となるでしょうが……更にひとつ。最低ひとつのツリーに、『夢想幻灯機』で隠される形でE・ビーストが居ることにご留意下さい。まあ、フェーズ1ですが……精神的な意味で……」 畜生、俺たちのクリスマスはこんなんか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月17日(土)22:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●なっておしまいテロリスト 「ヒャッハー! リア充は絶滅だー!」 「クリスマス充実者、略してクリア充爆発しろー!」 クリスマスを前にして浮き足立つ街頭にあって、サンタの姿というのは目立つ。それがミニスカで――黒を基調としたブラックサンタであり、侍らせる子分の小物臭が半端ない……まあ、見るからに悪役である。ああ、目立つ目立つ。おまけに目出し帽。そう、典型的な犯罪者スタイルだ。愉快犯とも言う。 チラシすら作って配っていくその様は、何というか心底楽しんでいるのだなと感じさせもする。あんたら、既に充実してるじゃねーか悪戯で。 しかし、「クリア充」だと年末商戦のゲームをいち早く攻略したプレイヤーみたいな響きですね。 ……ところで。色々酷い状況下にあるが、これもれっきとしたリベリスタ達の作戦である。 ミニスカサンタに扮しているのが小鳥遊・茉莉(BNE002647)であり、彼女に従って小物臭を振りまくのが誰あろう『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)。目出し帽なしでやっていれば、そこらのフィクサードが噴き出すようなそうそうたるメンバーであることは間違いない。 既に人通りがそこそこある街道ではあれ、フツの強結界のお陰で順調に人が減りつつあるというのは……何とも、惜しい。 「そこまでだよ! 寂しん坊の諸君! 僕が居る限り、クリスマスを妨害させたりはしない!」 そんな状況下、颯爽と現れたのは本家本流・サンタ衣装の『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)だ。紅白である。裾なしである。正統派というか、セクシー的なノリであることは疑いようもないだろう。 発泡スチロールを満載したアンデッタのサンタ袋が、茉莉の持つ黒いサンタ袋と激突する。因みに、この黒い袋はブリーフィングルームに居合わせた包帯野郎が持ちだしたアイテムです。あしからず。 「聖夜の美少女対決! ツリーを奪うのはどっちだ!」 てってれー、みたいなSEが鳴ってもおかしくないノリで、唐突にフツが叫んだ。どっちが奪ってもアウトだと思うが、というかこれ作戦名だから叫ぶ必要ないんだが、ノリだろう。幸いにして、通りすがりに見ていく人々はそんな些細なことは気にしていない。 「リア充はサンタを応援するがいい! オレ達みたいな非リア充はこっちの女王様を応援しようぜ!」 おー、と声が上がった気がした。どうやら非リアが居るらしい。リア充も居たらしい。いい感じに盛り上がってまいりました。いいのかなあ。 それはそうと、ばしばしとサンタ袋同士が激突する様は大ぶりであることもあって、非常に派手且つサマになっていた。下手な演者の殺陣よりもリアルなそれが、周囲に僅かながらの熱狂を振りまかないはずもない。それが目的であったのは言うまでもない。 (――フム。こいつがアーティファクトか。取り敢えず最初の一つってことで、回収してもらおうかね) その熱狂の裏、フツとアンデッタの感覚を刺激する情報が、目当てとしていたツリーだと暗に告げた。回収対象、ということだ。 「クリスマスにアレ、か……」 フツ達実働班から若干離れたビルの間で、軽トラックの運転席から小さく鉄を擦り合わせる音が響き渡る。窮屈そうにその座席に身を押し込めていたのは、『さまようよろい』鎧 盾(BNE003210)。どうでも良さげに呟く彼の異常な状態を、しかし周囲を通る人間は深く意識せずに通りすぎていく。彼は、一人ぼっちだ。比喩表現ではなく事実として、周囲から違和感なく認識されるとかそれどころではなく、存在そのものが意識の外に置かれている。 トラックを当該ポイントに移動させる間、彼は既に幾つかのポイントをツリー焼却の現場として選びとっていた。三高平の近隣に位置するこの市街地は、かの市ほどではないが商業的にも自然環境的にもバランスがいい。比較的目立たない川原など、探せば多かったのは幸いであったろう。 『――鎧、こっちのは回収対象だぜ。来てくれねえか!』 「…………ああ」 幻想纏いから響くフツの要請に、しかし盾の返答は遅かった。 彼にとっての肯定は、無言だ。だが、それは居合わせた時にこそ理解できることであって、通信機ごしには確実に伝えねばならない。ままならぬものだ、などと思いながらエンジンをふかした彼の元へ、もう一つのグループからの通信も響く―― 僅かに遡って。 「シングルベール、シングルベール♪ 鈴がぁ~なる~♪ 浮かれたリア充どもに鉄槌を……あるぇ? 違うの?」 陽気に歌う『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)は本当に相変わらずだった。ブリーフィングルームで確かにそんなこと口走ってる包帯野郎を見かけたという報告があるが、気のせいだろう。気のせいであって欲しい。 というか、ブラックサンタ衣装は概ね彼女のせい。彼女に限って目出し帽に「ネ兄」とか刻印してあったりして本当にどうしたらいいのこの悪ノリ。 「クリスマスツリーを燃やすだけの簡単なお仕事と聞いてやってきたわ!」 すいません、食べ合わせというか組み合わせが最悪でした。 『ぺーぱーまじしゃん』リウビア・イルシオン(BNE003100)の意気揚々たるテロリストライクな着こなしは、とらとハイタッチするほどに存在感が濃厚だ。顔隠れてるのになんなの、そのドヤっぷり。 「誤って市が要請したツリーだと不味いしなあ。三時間か。時間が勝負だな」 とらとリウビアを送り出し、待機状態に入った『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は、幻想纏いを兼ねる「アークフォン」を片手に時間を再度確認する。トラックを持ちだしたことで多少の時間短縮は狙えるが、強結界が無い分、より派手に周囲を惹きつけ、より鮮やかに事を運ぶことを余儀なくされる。然し、彼はアクション俳優。その程度の演技などお茶の子さいさい(死語)でやってのけることだろう。 「ん、面倒くさいけど危険なツリーは回収しないとなー……面倒くさいけど……」 テロリスト二人の後ろから距離をおいて移動するのは、『日常の中の非日常』杉原・友哉(BNE002761)。残念ながら幻視が伴わないその姿見は、アンニュイな外見と相まってF1層にバカウケしそうなものだったが、正味、ツリー周辺はそれどころではなかった。 「ヒャッハー♪リア充どもめぇ~、祝ってやる~!」 ツリー前でそわそわするカップルへ向け、とらはスキップで接近する。紙吹雪を振り撒く彼女の様はテロリストというより、明らかに祝う気満々のイベントスタッフである。怪しいが。 「くくく……聞きなさい、愚民ども!そのツリーには爆弾をしかけたわ!逃げるなら今の内よ!」 そんなとらの背後から悠然と現れたリウビア、高らかに宣言。うわぁ、マジテロリスト。冗談抜きであっぶねぇ。 だが、そのインパクトある外見と台詞のコンビネーションが齎す効果が少ないはずもない。絶大すぎるくらい絶大に、近辺のカップルが、道行く主婦が、悲鳴を上げて逃げまわる。 「テロリストが暴れていると通報を受けました、大丈夫ですか!?」 そこに颯爽と現れる疾風。リベリスタとして、に限らず、一人の俳優として知る人間もあろうかという状況で、転びそうなところを抱きかかえられた少女にはひとたまりもない。恐慌が僅かにピンク色に染まった気もするが、残念疾風はリア充だ。 「リア充ktkrーっ!!」 「来たわね愚民! ここで会ったが……何年目かは知らないわ!」 あ、知らないんだ。 そんな感じのドタバタ劇が展開される中で、友哉が密かにツリーへと近づいていく。結構なサイズではあれど、そこはアークのリベリスタ。一般人とは圧倒的に身体能力が違う。桁が違う。あっさりと持ち上げ、トラックへと即連行。直行。いざ次へ。手早いものである。 「面倒くさいけど」 うん、でもちゃんと義務は果たしてるよ。えらいえらい。 ●だいたいおまえたちのせい 「ウム、これは普通のツリーらしいな。適度に騒ぎを起こして次に行くとするか」 フツの透視で拓けたその内部は、ごくごく一般的なツリーそのものであった。幸いにして、其れらしい影も形も見当たらない。精神衛生上、とてもいい例である。 「クリスマスは中止だ-!」 「させないよ! クリスマスは絶対に成功させるんだからね!」 しかし、既に火がついた茉莉とアンデッタを前にすると、フツもそれを述べていいものか、悩んでしまう。彼女らのノリの良さは凄いと思うし、自分も結構ノっていたが……これはすごい。 アンデッタの振り下ろされた一閃を、茉莉が横薙ぎに払って返す袋で打ち上げる。次々と打ち込まれる互いの一撃は、息を呑む迫力に満ちていた。 だがちょっと待って欲しい。アンデッタも茉莉も、術師じゃねーか。 むしろ、茉莉は「だいたいマグスメッシスのせい」で理解できるけど、アンデッタのこの袋さばきはなんなんだ。 そうか、集音装置で気配を いやいやいやいや。 「……楽しそうで何よりだな」 盾さーん、ストップに入ってください、もう人はだいぶはけてますから! ぼっちタイム発動してますから、是非! 「あちらに普通のツリーがあったということは、残りは全部回収ですね……ッ!?」 二つ目のツリー前に到着した疾風一行は、フツ達からの連絡に胸を撫で下ろす。だが、直後に足元に触れる謎の気配。這いずる何か。これは心臓に悪い、まさかもうタイムアップか――!? 「『あれ』かと思った!? 残念! リウビアちゃんでした!」 「……驚かさないでください。『あれ』かどうかは置いておいて、時間計測をミスしたものかと……」 「リウビアちゃんったらゴイスー! とらもやりたーい☆」 何とかに刃物といいますが、純真なまま「やらかす」とらにテレキネシスをあたえないでください。頼むから。本当に頼むから。リウビア一人で結構大変だからこれ。 「見てるだけなら楽しそうでいいな。面倒くさいけど」 自分がやられたら最悪だね! 「ちょっと、音が大きい気がする……『あれ』が居るかな?」 「大分人もはけているな。このまま行ってしまうか」 三本目にさしかかったところで、アンデッタが耳ざとくツリーの異変に気付く。それを聞き届けた盾はそのままアクセルを踏み込み、突撃、スピンターン。 飛び出してきた『あれ』はカウンター気味に吹き飛ばされ、べちょりと地面へと這いつくばる。間髪入れず、茉莉のフレアバーストが夜を焦がす。ツリーを燃やす。 ……まあ、これくらいはね? イベントとして処理してくださいっていうか、ね? 疾風、走ってます。出来るだけそれっぽく、慎重さを忘れず大胆に。 とらとリウビア、逃げてます。できるだけツリー周辺で。 「あ゛っ――!!」 絶妙なタイミング。完璧な間。とらが全力のズッコケを見せ、周囲を沸かせる。だが、退散する彼女を見て安心した周囲はまたいつものように去っていく。日常として処理していく。 その合間を見計らって、リベリスタ達は順調にツリーを処理していく。 「面倒くさいけど、ぼちぼち終わりそうだな……面倒くさいけど……」 なんだかんだいって頑張ってます。 まあ、そんなこんなで。 市のツリーを何とか守った上で、多少の混乱はあったけど、結果として制限時間を一時間残して回収完了というウルトラG(現代体操最高値)を達成し、当面の危機は去った、かも。 ●ちょっと早いどんど焼き さて、場所を変えて盾が見つけた焼却ポイント。既にアークの方から場所借用は許可してもらってるよ。 どんどんやっちゃってー。 「焼却処分しないとな。街を地獄絵図にするわけにもいかないし」 精神衛生的にもね。 『幻想幻灯機』をしっかり五つ取り外したリベリスタ達は、一気に焼却処分にとりかかる。 或いは、疾風の業炎撃。灯油がかかっているだけあって、燃焼速度がとんでもない。 或いは、リウビアのフレアバースト。未だ修練の入り口にいる彼女で合っても、一般的なツリーを燃やすことなど容易い。 ついでに、茉莉のフレアバーストにいたっては威力がとんでもないわけで、夜空を全力で焦がしていく。まあ、灯油補正がね。 「ごめんね、君が墓地に来てくれるなら歓迎するんだけど……」 ぶちぶちぶちぶちぎゃーぎゃーぎゃー。 アンデッタが創りだした鴉が、次々と逃げ出す「あれ」を啄んでいく。瞬く間に減り行くそれらは、川原という墓場に晒し身の刑。ぐろいさすが墓守ぐろい。 「お疲れ様だ、乗りたい奴が居れば乗せていくぞ」 小さく、ぶっきらぼうながらも温かみを感じさせる声で、盾が軽トラックを指差す。幌つきである以上は特に問題なく、帰路に就く彼らがクリスマスに湧く街を堪能したかは、別の話。 回収された『幻想幻灯機』は、アンデッタの提案で街を再び彩った、とか何とか。 「……え? 名古屋君が観たビジョンがこちらと関係している? テラーナイト君が? ……わかりました、資料全部持ってけばいいんですよね? え、嫌だ? 冗談はその機械化部分だけにしましょうよ。はい、……はい、了解しました」 無人のブリーフィングルーム。 同僚が感知した事件が、どうやらテラーナイト絡みらしいと聞いて、夜倉は深々とため息をついた。暫く肩の荷が下りるなら、それもいいか――なんて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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