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<強襲バロック>雷陣を貫け

 花の広場。そこは公園の中でも有数の散歩スポットであった。
 広場を縦断するかのようにど真ん中を通りぬける歩道の両脇には、歩く人々の目を楽しませる花々が植えられている。
 花畑の外側には、広場という名に見合うほどの原っぱが広がっている。
 春には花壇の一角に植えられた桜の木が咲き乱れ、その原っぱはレジャーシートと駆けまわる子供達で埋め尽くされるのであろう。
「さて、皆。準備はいいか?」
 だが、今は冬の季節。それも夜。
 咲く花など一つもなく、桜の木は全ての葉を落として佇むのみ。
 本来ならば誰一人として寒々としたその広場に訪れる者はいないはずである。
「もちろん。前みたいにはいかねぇっての。来る方向はわかってるんだからな」
 だが、そこには確かに人影があった。散歩道と、その左右に広がる原っぱにそれぞれひとかたまりづつ、3つの集団が。
「東待機班はもう少し前に。回復が届かない。西側射手、もう半歩下がっておけ」
 散歩道から左右を見回し、的確に指示を与えていくのは黒スーツの男。それに応えて左右に居る集団達はその陣形を組み替えていく。
「そうだね、改めて作戦について述べておこうか」
 しばらくしてから、口を開いたのは赤きスーツの男、その集団の長である鬼嶋淳平。
 彼は普段通りの自信なさげな、それでいて凛と通る声で広場の中に居る仲間へと呼び掛ける。
「シンヤ達によれば、アークの人間が儀式を邪魔するために現れる可能性が高いらしい。皆にしてほしいのは、ここに来た場合に敵を食い止める事かな」
 天から大地を照らすは紅き光。赤く輝く魔性月を見上げ、淳平はさらに言葉を紡いでいく。
「多分、来るとしたらアークの総戦力か。となると、時間を稼げれば十分だと思う。やってくる敵を俺達中央で食い止めて、左右からの集中攻撃で追い返すのかな。敵のほとんどが皆より実力あるのは分かってると思うから、攻撃を当てる事に集中してほしいかな」
 一度、彼らはアークの人々によって敗北を喫した。それはある種痛み分けではあったが、敗北に変わりない。
 だから、彼は選択した。己の総戦力をぶつける方法を。
 前と違い、敵の来るであろう方向がわかりやすい場所を。
 そして、その地形を一番生かすための戦法を。
 自信なさげなその言葉の裏には、確かな闘志が宿っていた。『インドラ』の名にかけて、次の戦いでは決して負けぬという闘志が。
「とりあえずは待機か。皆、気は抜かないでほしいかな」
「「了解!」」
 フィクサード、『インドラ』の面々はその場で待機の姿勢を取る。
 花の公園に今、血の華が咲き乱れようとしていた……。


「神奈川県三ッ池公園。それがジャック達の執り行う儀式の舞台です」
 塔の魔女の告げていた予告通り、アークの万華鏡はジャック達を捉えた。『賢者の石』の導きによって。
 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が配布したのは公園の地図らしきものであった。
「まもなく、赤い月の上がる夜、『バロックナイト』が訪れます。彼らはその時に、特異点であるこの公園の中心で『閉じる事のない穴』を開くと言われています」
 それによる被害は未知数。無論、アークは見逃す事は出来ない。
 そしてもちろん、彼らもまたアークに妨害させるつもりはない。
 万華鏡によって情報が出そろう前に、彼らは既に公園内部を自らの手駒によって占拠させていたのだと和泉は言う。
「既に一般人は公園周辺から避難させています。周囲を気にする必要はありませんが、敵を倒しながらでなければジャックのいる中央部に至る事は出来ません。特に正門、南門といった中央部に比較的近い入口は圧倒的な数な敵がおり、突破は困難です」
 南門では蝮原やセバスチャン達の率いる有志の部隊が交戦予定ではあるが、彼らの突破はまず不可能。彼らが陽動している隙に、中央部から比較的遠い門からジャック達のいる中央部へフィクサードやアシュレイの呼び出したエリューションを撃破しつつ、制圧・進撃していくのがアークの作戦だという。
「皆さまには西門から侵入し、花の広場というエリアにいる敵フィクサード部隊『インドラ』を撃破していただきます」
 雷神の名を冠するその集団は、かつて『賢者の石』を奪い合った時にアークと交戦した事がある。
 射手が比較的多く、その平均的な実力は低いものの数と連携で押してくるタイプの厄介な敵といえよう。
「彼らは花の広場の中央散歩道にメイン部隊を、そして花畑を挟んだ左右の広場に射撃部隊を配置しています。中央部で敵の攻撃を食い止め、一気に攻撃を集中する作戦と思われます」
 厄介な布陣ではあるが、この陣形は中央に敵を食い止める部隊があるからこそできる戦法である。中央部の敵さえ撃破すれば、彼らは散り散りになって撤退する可能性が高いと和泉は指摘する。
「後、気をつけてほしいのは散歩道の左右にある花畑にアシュレイ謹製トラバサミなどのトラップが仕掛けられている事です。空を飛んでいれば影響はありませんが、花畑を通って移動する際には気をつけないと危険だと思います」
 敵はといえば、幹部格のホーリーメイガスが翼の加護をもっているため、ワンテンポ遅れはするもののほとんど罠を無視して行動できるようだと和泉は告げる。
「もちろん、敵の思惑に乗る必要はありません。中央の散歩道を通らずに初めから左右の広場を通って射撃部隊から交戦しようとする事は可能です、ただ……花の広場は本当に見通しが良いんです」
 ゆえに、リベリスタ達が近づくまでに中央舞台はリベリスタ達のいる方へと移動してくる可能性が高い。
 それに加えて、近づかれた場合は部下のスターサジタリー達は全体攻撃などの厄介なスキルも使用するようになる。その点に留意して作戦を考える必要はあるだろう。
「敵の一人一人は実力は決して高くありません。ですが、彼らは自分自身の弱さを自覚し、それを補うように戦術を組んでいるようです。おそらく、前回の戦いから学んだのでしょうね。それに、敵の幹部もさらに力をつけています。特に敵リーダーの新たに身につけた、圧倒的高度から落ちてくる雷を纏った矢を受けると、そのショックでまともに攻撃や回避する事が難しくなってしまいます」
 とはいえ、その必殺の矢は放たれてから着弾までに時間がかかる。発射を見てから対処を行う事も可能であると和泉は言う。
「彼らを倒したとしても、その先には『無限回廊』で守られたジャックや、シンヤ、そしてかの『塔の魔女』達が待ち受けています」
 儀式の為に弱体化しているとはいえ、ジャックの実力はそれでもなお圧倒的。
 そして、傍らにて仕えるシンヤもまた。
 ジャックの暗殺を持ちかけたアシュレイの取る行動も未知数。
 例え花の広場を突破しても、その先には圧倒的な困難が待ち受けている。
 だが、だからこそ。
「だからこそ、それに万全の状態で対処するためにも、そこまでの道を塞ぐ『インドラ』の布陣を打ち破ってください」
 リベリスタ達がしっかりと頷くのを確認し、彼女はにっこりとほほ笑んで告げるのであった。
「それでは、状況を開始してください」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:商館獣  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月20日(火)23:47
果たして皆様は敵の陣を突破する事が出来るのでしょうか?
今回のシナリオの結果は、決戦時に影響を与える可能性があるため、お気をつけください。

●成功条件
中央の部隊を全滅させ、中央突破が可能となれば成功です。

中央部隊を倒し突破した場合、敵の残存戦力を放置するならば、
残存戦力の半分はアークに降伏します。残りはジャックの元へと逃げ帰るでしょう。
ジャックの元へ向かう部隊のみへ追撃を仕掛ける事は不可能です。
追撃を仕掛ける場合は、残存戦力全てを敵に回す必要があります。

失敗時は残った敵全員がジャックの元へ合流します。

●敵部隊概要
・中央部隊
幹部格3名とクリミナルスタアの部下5名が花の広場の中央の道に陣取っています。
・伏兵部隊
マグメイガス、ホーリーメイガス、プロアデプト各1名、スターサジタリー2名
合計5名のチームが道の左側と右側に配置されています。
スターサジタリー達は中央の道から20メートル以上、30メートル以内の位置に立っています。

●敵幹部
・『付和雷同の』鬼嶋淳平 赤いスーツのスターサジタリー
インドラの矢、EX『ライジングフォール』(神遠範、溜1、雷陣、ショック)を使用。
・沢村光 黒いスーツのホーリーメイガス
聖神の息吹、翼の加護、ジャスティスキャノンを使用する。
パッシブで麻痺無効、精神無効、戦闘指揮LV2を所持。
・畑山麻紀 黄色いスーツのナイトクリーク
バッドムーンフォークロア、ギャロッププレイを使用する。

●戦場 花の広場、という公園の一角。
中央に歩道がまっすぐに伸びています。道幅は広くは無く、闘うならば横並ぶのは3人が限度でしょう。
その左右にはずっと花壇が続いています。その中には罠が仕掛けられており、踏むとダメージと麻痺を受けます。
花壇のさらに外側はただの原っぱです。横並びに関する制限はありません。

●その他
フィクサードは全員ジーニアス。フェイトによる復活は行いません。

以上です。皆様のプレイングをお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
プロアデプト
★MVP
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
クロスイージス
ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
クリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)


 冬の寒さに耐えきれぬのか、その道の両端に続く花壇には、他の季節には咲いているはずの花々の姿は無い。
 花の広場、そこは赤き月の光の下、不気味な静けさが満ちていた。
 立ちふさがる十八人のスーツの人影は一言も発する事なく、西門から中央の道を歩んでくるリベリスタ達の姿を見つめている。
「全部で18人……少ない方が嬉しいのですけど」
「あぁ。生憎、歓迎ムードとはいかねぇようだな」
 涙目で暗視ゴーグルを覗く『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)の言葉に、もちろん俺も歓迎する気はないがな、と『BlackBlackFist』 付喪モノマ(BNE001658)は吐き捨てる。
 フィクサード集団、『インドラ』……賢者の石争奪戦でアークと交戦した彼らと因縁を持つ者は少なくは無い。
「前は痛み分けとなりましたが、今回はちゃんと決着をつけましょうか」
 決意の表情を浮かべるのは源カイ(BNE000446)だ。前回、敵地潜入の為に女装したカイにとって、彼らはある種の克服すべきトラウマとも言えた。
「自らの弱さを自覚し数と連携で補う。彼らから得られるものは多そうだわ」
「確かに。報告書で読みましたが頑張り屋さん達ですね」
 コロコロと笑いながら『運命狂』宵咲氷璃(BNE002401)は深夜にもかかわらず開いたままの日傘を指の中でくるりと回転させる。それに頷くのは『粉砕メイド』三島・五月(BNE002662)だ。
「あぁ、うん。わかるんだよなぁ。彼らが頑張ってるっていう事は」
 まるで戯曲のように語るのは『メンデスの黒山羊』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)である。
「誰かに頼らねーと勝てねー。人でも、神でも、一人で生きてる訳じゃねーんだ。だからこそ、策を練り、協力する……だが!」
 チームプレイならリベリスタも負けてはいない。『インドラ』……雷『神』の名を冠する彼らは魔王を自称するノアノアにとって、ある種の敵愾心を抱かせた。
「とっととぶっ倒そうぜ」
「えぇ、偽りの神威を借るものは、ここで止めましょう」
 魔王に同意する神父。それはある種異様な光景であるが、『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は何ら気にすることなく、手の内の羊皮紙へと視線を落とし、笑む。
 彼我の距離は未だ射撃の射程外。されど、声は十分に届く距離まで迫っていた。
「久しぶりか。怖くて逃げるか、と思ったが」
「そっちこそ。よく逃げやしなかったな」
 月の赤い光の中に溶け込んでしまいそうな色合いのスーツの男、鬼嶋淳平は挑発の言葉を飛ばす。
 それに対し、モノマが返す言葉は端的。されど、その言葉には滲み出るかのような強い思いがこもっている。
(先輩……)
 不安げな表情で彼を見つめるのは、『すもーる くらっしゃー』羽柴壱也(BNE002639)だ。彼女は知っている、彼の思いを、彼の経験を。
 そして、今の彼が自分に接してくれる時とどれほどに違うのかも。
 ジャック、そしてシンヤ。彼らの巻き起こした戦いの中で多くの仲間達が傷ついた。彼女にとって何よりも大切な先輩もまた、その一人。
 漫画やアニメのような絵空事のような戦いではなく、本気の命のやり取りがそこにあった。
 それはとても、怖く。悲しくて、だからこそ彼女はその手の中の刃を構える。
 この戦いで負けるわけにはいかない。そう決意を込めて。
「わざわざ丁寧にど真ん中の道を歩いてくるとはなぁ。さすが女装癖があるのをお仲間にしてるだけあって戦いのときも女々しくご丁寧だね、アークってのは」
 黄色いスーツの女、畑山の言葉にカイは眉を吊り上げる。
「じゃあ、そんな僕達に負けたら格別に情けないですね」
「勝てるっていうのかい? どんな方法で? 前みたいに二人して『受け』に回るのが精々だろうさ」
「源さんも、先輩もそんな人じゃありません!」
 挑発の言葉の応酬を切って捨てるのは、意外にも壱也。
「あってもむしろ逆です、掛け算なら左側」
 続いた言葉にカイと畑山は困惑した視線を返し、その真意を一人だけ読みとれたモノマは心に誓う。後で叩いておこう、と。
 そして、そう考えながら自分が微笑んでいる事に気付き、彼は改めて思う。ここに、彼女がいてくれて本当によかった、と。
 もし彼女がいなければ、自分の心は殺伐に荒み、周りが見えなかったかもしれないから。
 そう考えている間にも彼我の距離は縮まり、ついにはリベリスタ達は敵の矢の射程圏内へと……。
「じゃあ、教えてやるよ。その方法を。お前らの知恵は」
 入る直前、リベリスタ達は向きを変え、足を踏み入れた。右側の花壇へと。
「不用意だな」
 そこには、左右の仲間への接敵を防ぐためにインドラの面々が仕掛けた罠がある。黒いスーツの男、沢村はそう小さく呟き……そして、目の前で起こった出来事に目を見開く。
「僕達には通用しない」
 花壇を無傷で乗り越えたノアノアの、勝ち誇った笑み。
 リベリスタ達は事前に千里眼で罠の位置をある程度調べ、彼女の直観力を用いてそれを回避したのだ。誰一人として罠には掛からない。
 予想外の出来事に、フィクサード達の動きは一歩遅れる。
「それでは、神秘探求を始めよう」
 これから先に起きる出来事の演算を始めながら、イスカリオテは敵との交戦圏内へと無造作に足を踏み入れる。
 手にしていた罠のありかを示した羊皮紙が、風に煽られ空を舞った。


「左翼、花壇近くまで集合せよ」
 敵のとった対応は実に的確であった。
 指揮官たる男、沢村は仲間を近くへと呼び、その背に小さな羽根を作りだす。
 そして、即座に中央の部隊は右翼へ、左翼の部隊は中央の道路へと移動してゆく。
 されど、その的確な動きをもってしても、10秒強の時間が生まれた。
「付和雷同、まずは貴方達に敬意を表し、私達の札を切りましょう」
 まず打ち込まれたのは強力な範囲攻撃の数々。広場の草木が突如高熱の砂へと変じたかと思うと、それはフィクサード達の体を取り巻き、その身を焼き焦がし、痺れさせていく。
「ちっ、あの女……あの眼鏡に気をつけろ!」
「やーん、もうそれはいいですよぉ!」
 さらに降り注ぐのはイスタルテの聖なる閃光と、それに合わせて放たれた漆黒の閃光。
「さぁ貴方達、試し撃ちにつき合って頂戴」
「これは……狂える聖女の技、か」
「御名答よ」
 沢村の問いに氷璃は優雅に笑みを返す。イスタルテの光を受けて避ける事もままならなくなった右翼のフィクサード達は残らず石と化す。
「前は頼むぜ、僕は脆弱なんだ」
 ノアノアの声に応えるかのように、大きく踏み込んでカイはナイフを振るう。その刃は動けぬ敵の体を次々に引き裂いてゆく。
「全力で切り開くよ!」
 カイに続けて、壱也が、五月が、モノマが武器を手に前へと躍り出る。
 能力でも劣り、後衛のみで構成されていた右翼の人員は集中攻撃を受けて術師を二人失う事となる。
「くっ、まさか……」
 歯噛みしながら飛ぶ鬼嶋。その弓より雷が爆ぜる。彼らのチームと同じ名を冠する必殺の矢はリベリスタ達へと炎と共に降り注ぐ。
「臆しましたか? 貴方の技が見たいのに」
 以前、リベリスタ達を追い詰めた雷神の雷。しかしその場に集いし者は十分な神秘に対する抵抗力、あるいは回避の能力を持っており、そこまでの猛威とはならない。
 炎で体を焦がされながらも笑むイスカリオテ。それに鬼嶋は笑みを持って返す。
「それはどうかな、今のは布石かも」
 全身の力を解き放つのは黄色いスーツの女。その時、空にもう一つの赤き月が浮かぶ。双子のような赤い月達。
 それは圧倒的な不吉を示し……次の瞬間、呪力によって構成されていた月は弾け、その呪いの力が周囲にまき散らされる。
「今夜は赤い月夜だ。たっぷりと呪われておけよ」
 その一撃は威力こそ鬼嶋の技に劣るものの、かするだけで強烈な呪いがリベリスタを蝕む。
 咄嗟にイスタルテが福音を唱えるも、味方の体力を全て癒す事は叶わない。
 それと同時に、黒いスーツの男と中央に居るホーリーメイガスが福音を唱えれば、フィクサード達の傷は次々に癒え、石化した者達の半数が再びその体の自由を取り戻していく。
「実にすばらしい技ね。あと、仲間達も抜け目がない」
 微笑む氷璃。彼女は気付いていた。前線のリベリスタ達が壱也を除いて誰も雷神の雷の業炎を受けないだけの回避力を有しているのを見て、フィクサード達は回復手を除いて攻撃の手を止め、集中を開始したのだ。
「でも、残念ね。今宵はこんなに真っ暗な月明かりの無い夜なの。呪われるのは貴方の方」
 そう言って幼き容姿の魔女は天を仰ぐ。その視線の先に有るのは、彼女の手にした傘の色。偽りの漆黒の天蓋。
「これは、無効化できないそうね?」
「……くっ」
 その天蓋と同じ色の光を受けて忌々しげに唇を噛む沢村。その体はあっさりと石へと変じてゆく。
 これによって回復は封じられる事となる。
 一方、攻撃で厄介なのは、状態異常をダメージへと変ずる畑山の呪いの月である。それを野放しにしていては、回復は追いつかない。
「やれやれ、難儀なことだよ。知ってるかいインドラ、雷神を名乗る諸君? 雷っつーのは、神鳴りともいうんだぜ?」
 幾ら僕が魔王でも、神はちょっとキツいんだ、と大層な仕草で続けるノアノア。それを畑山は鼻で笑う。
「何それ。自分が本気で魔王とでも思ってるの?」
「あぁ、思ってるさ。何故なら、神様の威光を壊すのは魔王の役目」
 左手を掲げる。その手から放たれたのは、小さな光。それは仲間が受けた体の異常を消し去っていく。
「その神の雷とやらの起こす焔を僕は消せるんでね」
 畑山が怯む。状態異常を癒す手段がある事は、彼女の攻撃の威力が落ちる事を意味していたのだから。
 攻撃も回復も丹念に潰し、リベリスタ達はフィクサードから確実にアドバンテージを奪ってゆく。
 五月の脚甲から放たれた疾風は、右翼にいた射手の体を一瞬にして引き裂き、一人を屠った。


 集中からの一斉攻撃、それは十分な精度を持ってリベリスタ達へと襲いかかる。
「くっ……これだっ!」
 中央の道にいるスーツの男が放った気の糸。それはカイの心を怒りで満たす。思わず敵の元へと走り出しそうになるが、彼は咄嗟に動きを止めて、手のナイフを投げるにとどめる。
 敵へともし近づいていれば、罠の餌食になっていた事は想像に難くない。投擲具が無ければ危うい所であった。
 フィクサード達の技量自体は前とさほどの違いは無い、しかし、リベリスタ達との敗北で学んだ彼らの作戦は以前とは段違い。
「前と違うのがてめぇらだけだと思うなよ! 手の内は見たんだからな」
 数が多ければ、減らせばいい。モノマはより傷ついた者へと狙いを定め、疾風を放つ。ふらつきながらもまだ倒れぬ男を確認し、隣の壱也は素早く刃を振り下ろしてその命を絶つ。彼らは着実に敵の数を減らしていく。
 真っ先に沢村を無力化して打ち倒したおかげで、その指揮を失った彼らは回避もままならない。
「皆さん、大丈夫ですか?」
 仲間達を再びイスタルテの癒しの歌が包み込む。攻撃が多いとはいえ、敵の攻撃は集中しなければ当たらない。
 数ターンに一度の猛攻、攻撃が集中した折に瀕死に陥る者もいたが、彼女の回復とノアノアが前線の人に与えた高速治癒能力とが合わさり、ギリギリのラインで戦線は保たれていた。
「呪われろ!」
 残り二人となった幹部格。その片割れの女は再び赤き月を生みだして呪いの本流を巻き起こす。
 されど、敵の攻撃手は『十分に距離を取った遠距離攻撃手』がメインであった。彼女もその例に漏れない。
 彼らの射程圏外から仲間を支援する事は容易で、攻撃はイスタルテには届かない。
 もし、これが中央の道での戦いであれば、こうはいかなかったであろう。
 回復手が安全を確保したことで、リベリスタは安定し戦いを繰り広げる事が出来ていた。
「呆気ないわね。この程度?」
 氷璃の掌から放たれた炎が、イスカリオテの放つ砂塵が、後方の射手達を焼き尽くす。
 全ての要素が綺麗に重なり、リベリスタ達は敵を圧倒していく。
「淳平、こっちの手の内はばれてる。アレを使え!」
「なるほど。手の内を見たから、か」
 イスカリオテが怒りを与えてなお、インドラの矢しか使わなかった鬼嶋のその一手は、言うなれば奥の手であったのだろう。
 付和雷同と呼ばれた男は、仲間の声を受けてその弓を空へと向ける。
 まるで赤き月へとどけとばかりに放たれる矢。
「注意してください。来ますよ、付喪さん」
 即座にイスカリオテはその思考を読む。誰を狙っているかは容易に読み取れた。
「ぶっ飛ばせ壱也!」
「先輩、行ってください!」
 次の瞬間、流れるような動きでモノマは敵陣へと突っ込んだ。
「なっ!?」
 咄嗟に迎え撃とうとする前線を構築する男達。その突破口を壱也が開く。その刃はモノマへと飛びかかる男の体を吹き飛ばす。
「よぉ、付和雷同。会いたかったぜっ!」
 わずか一挙動で駆け抜け、モノマは鬼嶋を射程内に収める。
「こちらとしては、間近で顔を合わせたくは無かったかな」
 後方へ下がろうとする鬼嶋。しかし、モノマは斜め前方へと体を捌き、その腕を握る。
「そうはいかねぇ。借りは消すぜ」
 次の瞬間、雷が落ちた。正確には、雷を纏いし天よりの矢が。
 それはモノマを中心に弾ける。モノマと、フィクサードを巻き込んで。
「な……っ!?」
「あんな二本の矢程度じゃ、俺の心は折れなかったぁっ! ぶちぬけぇっ!」
 単身での敵陣特攻、それは敵の奥の手を『敵の方が大きな被害を被る技』へと変える最良の秘策。
 範囲攻撃を逆手に取ったその方法は、敵の必殺技を使おうという心を折るには十分であった。
 そのまま、彼はその拳を突き出す。雷のショックで震える拳は普段よりも数倍遅い。
 だが、その雷は敵もまた受けていた。避けきれない。
 掌が触れる。速度が無くとも、それで十分。一瞬で彼はその練りに練った気を敵の体にたたきつける。
「貴様!」
 そこへ飛びかかるのは畑山。その手から伸びた不可視の糸からモノマは逃れられない。
 咄嗟に庇おうとする壱也だが、敵陣へと特攻した彼の前方からの攻撃をフォローする手段は無い。敵陣深く切り込み過ぎて、このままではイスタルテの癒しの術も届かない。
「問題無い。止まってなんかいられるかよっ!」
 だが、彼に倒れない。壱也の前では、先輩としても彼氏としても無様な姿は見せるつもりは無い。
 敵陣に突っ込むことで危険にさらされる事は承知の上。
 だからこそ彼は突撃するその瞬間、攻撃ではなく息を整えて己の体を癒す事を選んだのだ。
「全くもぅ、そういう気持ちは一人だけじゃないんですよぅ!」
「実質最後の詰めです。一気に行きますよ!」
 その時、再び戦場に福音が響き渡り、モノマの体が癒されていく。カイの護衛を伴ってイスタルテが前に出たのだ。
 彼らとて、以前インドラと戦った身。彼だけに無茶をさせやしないと、二人は一気に状況を動かしていく。
「リーダーを守るぞ! 撃て!」
 イスタルテが前線に向けて出たことで、中央の道に布陣した敵からの攻撃が白熱化する。今こそ要たる回復手を落とさんと。
「おっと、それ以上はやめときな。狙うなら天使より魔王様だぜ!」
 ノアノアは敵陣へ正義の光を撃ち放ち、敵の狙いを逸らす。
「こ……のぉっ」
 叫びながら鬼嶋が矢を放つ。弱点を看破された必殺技にすがるほど、彼は愚かではない。
 ゆえに放つのは業炎を纏いしインドラの矢。
「お見事……と言いたいところですが、切り札とはならない一撃でしたね」
 己の雷のせいで動けぬ鬼嶋の矢。それは回避能力の低いイスカリオテにすら掠らない。
 逆に彼の逆十字の刻まれた籠手で構えた弓より放たれた矢は敵の前衛の男の額を容易く射抜く。
「このまま潰させていただきます」
 崩れ落ちる男を踏み越え、五月の手甲が畑山へと突き刺さる。その一撃は、氷璃の炎の魔術の余波で弱っていた女の体を打ち崩す。
「くっ……沢村……畑山……」
 既に敵陣は完全に崩壊していた。残されたのは中央の部隊を除けば、敵自身の必殺技の力で無力化されたままの三人のみ。
「手前の負けだ。諦めな」
 端的なモノマの言葉。だが、それでも雷神を名乗った男は己の武器を構える。
「ここで降伏するのは『インドラ』の名の誇りを汚してしまうかな……あの三人の為にもっ」
「そこは付和雷同らしく、私達のいうとおりに……とはいかないんですね」
 だが、それよりも早くカイは左手に構えたダガーをふるう。
「貴方に勝利出来た事は、誇りに思っておきますよ」
 彼は確かに称号の通りであった。信じる仲間の言葉を信用し、実行してしまう付和雷同。
 しかし、リベリスタ達は、彼らの絆を乗り越え、打ち倒した。
 死の爆弾は傷口に。切り裂かれた喉笛は大きく開き、男は血の海に倒れ伏した。


 そして、戦いは終結する。中心となる部隊を壊滅させた事で、残された敵はその場から退散していった。
「次への道が開けましたね」
 微笑む五月、それにイスカリオテは頷きを返す。
「なんにせよ、ここからが肝要です。頼みますよ、源さん」
「えぇ」
 真剣な表情で何かを見つめるカイ。
 その千里先を見通す瞳が見つめるのは……逃げ出したインドラのメンバー達。
「これで何かわかればいいのですがね」
 彼らの一部が無限回廊へと接触するまで、カイはその瞳を凝らし続けた……決戦の時は、近い。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
『敵の挙動を見て、陣形を整えて迎え撃つという特性』と、
『100%ヒットするとほぼ無力化されてしまうEX攻撃』
これら2つの点は、今回の敵の強みでした。

しかし、皆様は作戦によってこの『強み』を逆に『弱み』に変えて、勝利しました。
これを大成功と言わずに何と言いましょうか。

MVPは相談を活発に回し、EXスキルの弱点をあっさりと看破した彼へ。
EXスキルへの対策が上手過ぎたため、
敵は『EXスキルを撃つと自分の方が損をする』状況に追い込まれ、
結局最初の一度しか打たず、十分に観察しきる事が出来ませんでした。

かくして、フィクサード集団インドラは壊滅と相成りました。
願わくば、決戦を超えてなお、
また新たな物語の中で皆様のお会いできることを楽しみにしています。