●滔滔(とうとう) 芝生の上に広げられる可愛らしいレジャーシート。 籐で編まれた大きな二つのランチ・バスケット。 それを囲むのは、お世辞にも似合うとは言えない不良らしい集団。 「なぁ、お前って乙女系男子?」 印刷された丸っこいキャラクターを一人が指させば。 「何だそれ、草食系?」 「ナントカ系って付ければ良いってもんじゃねぇぞー」 ベンチに凭れた男達が茶化す。 「つーかサンドイッチの具だけ食うなよ」 「米食えば」 ――くだらない彼らの日常のやり取り。 それを一段奥まった場から、青年と少女が彼らを観察する。 「いいの?」 「いいんじゃん? 雰囲気って大事だろ」 「……いいよ。さいごまで戦ってくれるなら、好きにしていい」 言う間にも少女――ロジェ・フィリーの月白色の瞳は歪な夜の象徴に魅入っていた。 「まァ、緊張も解けたところで」 暫し見つめた後、それをどうとも言わずに青年は賑わいに歩み寄る。 一杯に詰めたバスケットは、食べカスとプラスチックフィルムしか残っていない。 単純な同胞らに笑いを含ませながら、ぱんっと手を一度叩けば一瞬で14対の目が己に向いた。 少女だけは人形のように動かない。 「腹ごしらえオッケー?」 たったの一言、意図を察した全員の唇がにんまりと歪む。 「さー、やんぞ。我らが王様のためにな」 乾いた掌が重なり、二度続けざまに音を鳴らす。 「……伝説を見ようじゃねぇか」 ある者は拳を突き上げ、ある者は振り返って笑い、ある者は軽い声を返し。 (みんなで、ね?) ロジェのささやかな思念を通じた鼓舞。 それぞれに兵は応じ、暗がりの静寂に息を殺す。 赤い月の輝くバロックナイト。 狂気と血と、神秘と死と、公園に満ち満ちた香り。 ――刻一刻、運命は扉を叩く。 ●本部 記憶に新しい、争い奪われた賢者の石。 アーク・リベリスタによって多くを手に入れた。しかし『Ripper's Edge』後宮・シンヤ(nBNE000600)一派の手にも幾つかが渡った。彼らの予定数には足りていないであろうことは予想も容易い。 「ですが、手に入った分の『賢者の石』を使って儀式を行うようです」 「特定したのか」 リベリスタの声に相変わらず顔色の冴えない『灯心』西木 敦(nBNE000213)が地図を示す。 「儀式の場所は神奈川県横浜市、三ツ池公園。 万華鏡が捉えたのは儀式によって開く大きな穴、そしてそれは赤い月の夜」 「先日から続いていた異変はこれの『前兆』だったようです」 象徴的な血色の月を映し出すモニターを背に、フォーチュナは地図上に指を置いた。 「既に敵の戦力が配置されていて、バロックナイツ……中心部に向かうには戦って突破する必要があります」 リベリスタ達がちらと目配せをし合う。 バロックナイツの一員――『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)の言葉によれば、ジャック・ザ・リッパーは儀式の最中に一時的に弱体化する。 そこを突けと、魔女は『アーク』に囁いて来た。 だが、彼女は彼女の目的の『穴を開ける』ために『儀式が制御者を失っても成立する』まではアークの味方に成りえない。特殊な陣地の『無限回廊』を展開し大規模儀式と制御者を守る。 儀式がある以上、時間は限られる。悠長に構えてはいられない。 その『無限回廊』を越えるにはアシュレイがアシュレイの意思で解除するか、彼女を倒し突破するかをしなければならないそうだが。 どうしたものかと眉を顰めたとき、不意にツンとした油性ペンのにおいで意識が戻った。 見ればフォーチュナが解説を始めるところだ。 「正門周辺は敵で封鎖状態です。そこで」 地図上の正門に赤いペンで『×』。 「蝮原さんの率いる仁蝮組、『絶対執事』セバスチャン・アトキンス(nBNE000004)さん達、南門から陽動」 言葉に次いで、ファンシーなキャラクターの指人形の二つが南門に並べられる。 「その間に皆さんには残りの西と北にある門から侵入してもらいます」 きゅ、と赤いペンが音を立てて矢印を書きこみ――青い瞳がリベリスタを見据える。 「皆さんには此処、『いこいの広場』に配置されたチームを突破してもらいます。 覇界闘士3、デュランダル2、ナイトクリーク3。インヤンマスター2、マグメイガス2、ホーリーメイガス3。そして、白い翼の生えたプロアデプト1。名前はロジェ・フィリー。全員で16人になります。 外見で種族が分かるのはマグメイガスとホーリーメイガスが、フライエンジェとヴァンパイアで組まれていること。ナイトクリークはビーストハーフで……その他は、外見特徴が隠されているようです」 ぞんざいな扱いで敵に該当する駒を並べて、息を継ぐ。 「ジャックとシンヤに賛同するフィクサードで、士気も高い。連携も取って来るでしょう。 皆さんが射程に踏み込んだとき、姿を現すと思います。ロジェは分かりませんが……その他は全員」 敦は一挙に調べた限りを告げて、まばたきを忘れていた目を擦る。手に入った情報はこれで全てらしい。 「念のため、周辺住民は避難済み。非常時に備えHPやEP回復部隊も控えていますから」 集められた資料を、運命を拓き行く手に託す。 「存分に、その力を奮って来て下さい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:彦葉 庵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月21日(水)23:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 赤い月が空に君臨するバロックナイト。 舞台となった三ツ池公園では戦いの幕が切って落とされ、休みなく戦いの音が響く。 その内の一角――いこいの広場も、冠する名前を裏切って戦場となる。 敷き詰められた枯れ草が淡く赤光に濡れ、そこかしこから香る危険な予感にざわめいた。 「『いこいの広場』で戦いとは中々皮肉だよ」 暗視装置ARK・ENVG[HERO]を介し『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が暗闇を見つめ、腕を組んで『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)も物を透かし見る瞳を凝らす。 どうにか前に陣取る人影らしい物を捉え、息を吐いた。疾風の千里を見通す眼は暗視装置を介しては機能せず、暗中で距離を置いての偵察はこれが限界だった。 「サンドイッチでピクニックなんて暢気なものですね」 ――こっちはいつ世界が崩壊するか、ホントに止められるのか、不安でいっぱいなのに。 中央に取り残されたレジャーシートとバスケットを見やり、 『蒼輝翠月』石 瑛(BNE002528)は溢れそうになる言葉を呑み下した。 彼女の隣には『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)。大きなパピヨンの耳が震えているのは緊張か、寒さか、恐怖かもしれない。それでも懸命に、耳と尾を立てて瑛より少し幼い彼女が地を踏みしめている。 前を陣取った疾風の背に瑛の瞼は伏せられ静かに運命に愛された者達に守護の力を施した。 「あくまで此方が動いたら、狩りに来るつもりですか」 「らしいな。随分ノンキにもしてたみたいだしな」 『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)への返事に、『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)が「場数を踏んでいるかもしれないが」と付け足す。 気配遮断、暗視から待ち伏せて襲う気だと分かった。確認された人物達の射程にはあと一歩踏み込むだけだが、敵に動きはなく、敵方は孝平の予想を貫くつもりらしい。 傍らの囁き声を聞きながら赤い月下で常闇の影が伸びる。『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)は称号の通り影を従えて、戦場の門前に立つ。 影使いだけではなく、戦いに備えてリベリスタ達はそれぞれに己を高めた。 「準備完了、オープンコンバット」 仁義上等。己の方へ運命の女神の顔を引き寄せた『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)もその一人。クリスティーナがはぁっと息を吐きかけてかじかみ始めた掌を温めた。鼓動に乗って巡る血と共に身に宿る魔力が増していく。 今ある限りの護りを、速さを、運命を、力を以て。 勝利するために戦場を見据える。 さくり。誰ともなく芝生を踏みしめた。 此処に戦いの幕が開かれる。 ● 「変身!」 真紅のマフラーをはためき、疾風の身を装備品が包みこむ。 それを合図代わりに待ちかねたフィクサード達は姿を月下に晒した。が、ロジェ・フィリーは見当たらない。 資料からして彼女はビーストハーフか、フライエンジェか。恐らく後者だろう。しかしまだ――その姿はない。 「フィクサードの人数が多いが、此方も負けられない。気を引き締めていくぞ!」 「敵が数の多さで守るのなら、こちらも力押しで押し通るのみ」 決戦に向かう為の戦いの先手、飾るのは孝平、そして吾郎。 「遠慮なく行かせてもらうぞ、フィクサード共」 薄ら赤く輝いた大剣が揮われる。孝平の軌跡を残す白刃が裂き、吾郎の幻影の剣が追って惑わす。 そして、彼ら前衛の中でも飛び出したのは文。 彼女は真っ直ぐに突き進む。 ヘッドライトの光が照らすまま真っ直ぐに敵の中央に駆ける。駆ける。 肺に流れ込む冷たい空気に背筋を汗が伝う。恐怖に震える足を叱りつけて、きっと前を睨みつけた。 「下がれ!!」 「このチビ……! くっそ、臆病者ってガセか!?」 怒声。罵声。身が竦む。 (恐い。すごく恐い。でも、ここで私が頑張らなきゃ……っ!) ブレードナックルを握り緊めて、毒づきながら防ぐ姿勢になった男の懐に滑り込み――ぱっと鮮血が散る。 少女は躍る。無差別に切り裂く血に濡れて、生温かなそれに眉を顰めて踊る。 文の切り裂く血肉は総数に対し多くはない。しかし、彼女を避けた陣は形を崩す。 「フライエンジェとヴァンパイアを狙うんだ!」 リベリスタ達は撃破の優先順位を定めていた。 まずはホーリーメイガス。そして後衛、前衛と続き、ロジェは後回し。守りに回って動きを見せない今は、翼と牙を目印にするほかない。疾風が叫ぶ。 「あー。やっぱ来るし」 一寸遅れてフィクサード達に守護結界が張られ、歯車を回し始めた。 指揮棒から四色の閃光が吾郎に、反対側からはステッキを構えた男から孝平へ、魔曲が奏でられる。 長けた速さで凌ぐ。四重奏は狙いを定め、止む事を知らず光が瞬く。 「うーん、小癪です」 「私達と同じ位置を取っているな」 スコープ越しにマグメイガスを睨みつけたエーデルワイスがぼやき、クリスが霊刀「東雲」を鞘から抜いた。 虚空を裂き、朝焼けに似て対極に存在する赤い月の光を振り払う。 敵である彼らが位置するのは、前衛からなら手が届く距離である。だが、後衛に控えた彼女達の位置からでは攻撃が逸れてしまう。 「それぐらいの知恵はあるってことね」 クリスティーナは焔を燻らせた掌を下げて、即座に雷光に切り替え、放つ。 炎を放つわけにはいかなかった。前衛は既に斬りこんでいる。 それも人数を減らしにかかっているため前にのめり込み、癒しが届くかと三人が双眸を眇め――はっと瑛の顔が振り向いた。 勢いのまま、白蝋杵を真一文字に振るった。 「クリスさん!」 澄んだ音が鳴る。 「あはは!! お姉さんやっるー!」 「伊達に、スタントこなしてませんよ」 「わざわざ回り込んだの?」 ナイトクリークのナイフを弾き返せば、彼らはステップを踏んで下がる。 片割れは寡黙に、片割れははしゃいだ声を上げてナイフを手中で弄び。再び地を蹴った。 「女性の背後から襲うなんて、いけませんねー」 エーデルワイスに贈られる死の接吻。月光が彼女の髪に冠を載せ、身に染み込む毒に歯を食い縛る。 こんな時に運が悪いと鼻で運命を嗤う。 「絶対有罪。判決極刑。――私の痛みを刻みつけろ」 彼女は己の身をも削って、彼女は断罪の魔弾を刻み込んだ。 癒しをクリスが歌う。歌は響き、消耗した体力を充填し、傷を癒していく。 なおも阻みにかかるナイトクリークの黒い影は瑛が引き留めた。 「遅くなった!」 急襲に駆け付けたのは後衛への攻撃を気に掛けていた疾風だ。 彼が抜ければ前衛の孤立者も危うい。それでも、生命線を断たれる危機を優先した。 「! ありがとうございます」 斬れた額から滴る赤を拭い、瑛が顔を上げたときには疾風の業炎撃がもう一人の男の腹に沈み込んでいた。 男はその場に膝をつき、それからも距離を置いて見つめるのは真白を着飾った少女。 「ロジェ・フィリー」 「こんばんは」 背に生やした翼を一度羽ばたかせ構えた面々の肩越し、ロジェは闇を見通す眼差しをすいと文達に向けた。 文は傷を負ってなお、敵中を押し進んでいた。 そしてホーリーメイガスの一人を沈め、もう一人に深手を負わせる。 「わたしの刃も……血に染まってる……それでも! わたしは、みんなのために……!」 戦うのだと、血濡れの刃を握る手に力を込めたとき、視界は白に包まれた。 彼女がいたのは、クリスの歌が届かないほどの敵の真っ只中。 その中で多く傷を負わせた。その中で多く傷を負った。 「はは……お嬢、やってくれたなァ!!」 攻撃の片手間の治癒では間に合わない。退けない、退く道は閉ざされていた。 溶けるようなキスを袖にして、指揮をとる青年が全身のエネルギーを込めて小さな体にぶつける。 「金原さん!」 弾き飛ばされ、押し戻される。 フィクサードの輪の中で、リベリスタは背を預け合う。 ● 剣戟と閃光の煌めき、爆音が聞こえる。――どこか遠くから、不吉な犬の遠吠えが聞こえる。 「儀式が成功したら、ッ……部下の皆さんは無事でいられると思っているんですか? いざ穴が開いたら、見捨てられるんじゃ……」 「弱けりゃそうなるだけだろ?」 削られたと言っても未だ数に勝るフィクサードに囲まれ、音を立てて体力が削られる。 クリスと瑛が癒し手として歌を紡ぐのに休む間は無い。 中でも二人は狙われ続け、凌ぎ切れなかった刃に運命を代償にし戦場に立っていた。もう一度、歌を。癒しを。 「怯むな!」 ――先輩の檄に掠れた声を張り上げた。 ひたすらに攻撃を交わし合い、毒に体力を削られたエーデルワイスがその身の加護を擦り減らす。 加護を持たない敵は、彼女の弾丸に首を撃ち抜かれて呼吸を止めた。 怒りを煽るのも、ステータス異常を与えるのも、リベリスタ達だけではない。 「わたしが回復だけの存在だと思ったか?」 「そうじゃないの」 くすくすと天真爛漫に笑ったロジェが暗器から伸びた気糸がクリスの肩を貫いたとき、彼女の怒りを呼び起こす。 怒りを一身に受けて少女は解析し、渦中に誘い、間合いを詰めて混乱の種を撒く。 ――ジャックを倒さなければ多くの命が、私の大事な人達までもが死んでしまう。 立ち止まっている場合じゃない。急げ。急げ。止めなくてはならない。誰だ、私を止めるのは――! 「食らい尽くせ、バッドムーンフォークロア!」 急速に芽吹いた種は彼女の目を覆い、彼女の手からもう一つの赤い月を生み出した。 標的は定まらない。射程内の全てへ赤い月の悪夢が降り注ぐ。 降る呪いにホーリーメイガスとインヤンマスター、ナイトクリークが沈黙に落ちた。 瑛、エーデルワイスが意識を手放し、疾風が受け止める。クリスティーナがブレイクフィアーを試みようとした瞬間、クリスは青年の刃に貫かれ胸を鮮血に染め地面に伏した。 「タデ食う虫も好き好きってこの国では言うそうだけど、ちょっと男の趣味が悪いんじゃない? アレ、典型的なナルシストよ。女はまだしも、男で自己陶酔が強いのは、ねぇ……」 ロジェの怒りを買ったのは、唯一クリスティーナの言葉だった。彼女の心酔する者への些細な侮辱。 途端に少女の瞳は剣呑な光を宿し、気糸が視界に入ったリベリスタを貫いた。 執拗に追う糸はその身に癒しを拒絶させる。 孝平の迷いのない連撃が迎え撃ち、交錯。暗器は孝平の脇を抉り、過多の重圧を与えて彼の傍らを擦り抜け――正義の砲がロジェの身を穿った。 体勢を崩したロジェをすかさずクリスティーナが抑え、青年に顔を向ける。 「今なら貴方達は皆で帰れるわ。でも、ここで退かなかったら動けない全員が死ぬ」 交渉。 「勿論このロジェもね。それでも、続ける?」 青年は周囲を見渡す。地に伏せていない者を数えるには片手で事足りる。 総じて消耗は大きい。そして彼らには寵愛など齎されず、生き残るだけなら強気な少女の誘いに乗るべきだ。 故に賭けとはいえ、クリスティーナに勝算はあった。それは枯渇した魔力を隠す虚勢ではなく、本心から。 「やっぱさ、女の子ってああいうのが可愛いよな」 「私は貴方なんか好みじゃないわ」 「ちげェよ」 そして、ゆっくりと胸の上で作られる二本指の交差。 彼らの天秤は微動だにしない。 「やっぱり、わたしたちは……絶対に、分かりあえない……っ!」 彼らは仲が良く、楽しげに、そしてあまりに自然に王(ジャック)に心酔していた。 「度のあった計算する女は可愛げがある。そこの餓鬼は釣り合いを計るってモンがねェし、なァ?」 ――答えは『NO』 それを見届けた瞬間、手が乱暴に彼女の胸倉を掴む。引く。引き寄せる。 バカみたいだと色の無い瞳が笑い、赤い瞳が見開かれた。怒りは退いていた。 瞬く間に色の無い思索が物理となって襲いかかり、問答無用にリベリスタ達を跳ね飛ばす。 今は目を閉じるエーデルワイスはその水をドーピングのようと評した。 ドーピングだとしたらそれは、あまりに強迫的な毒。 「動けないなら、動かせるようにしたらいいの」 一滴、二滴――死に逝くならば生ける兵(つわもの)の器に最期の呼水を注ごう。 過激な毒薬だろうと構わない。それこそが兵に残る蜘蛛の糸。王の為、捧げる一縷の希望。 「それになァ、お前らもそうだろ? 仲間がヤられて、すごすご帰れねェよ」 違いねぇと、ぼやいて吾郎が大剣を支えに体を起こした。 立てるリベリスタは己の運命を削り、フィクサードは呼水に身を浸して立ち上がっていく。 「此処からが本番、ですよ」 体の悲鳴を聞かぬふりで、互いにぎりぎりの線で鬩ぎ合う。 互いに譲れず、決して交わらない線上。大剣が交差し芝を赤に塗り変える。 「だが、分からないままだ。あれの何処が良いのか、どうしてお前らがジャックに付いたのか」 簡単よと、少女は唇を開いた。 「どこかが皆、狂ってる。だから、彼の狂気に魅せられるの」 ● 一度は倍の人数を沈めたリベリスタに、特別な術を使いこなす力を残す者はいなかった。 双方に癒手はいない。地力ならばリベリスタに勝利の天秤は傾き、ロジェが付与する能力と青年の体の無限機関――彼らの持てる力が天秤の傾きを阻む。 剣と拳が交わり、泥と血が混じり合う。 覇界闘士は胸を突いた疾風の拳で、デュランダルは居合に似た剣さばきで孝平の前に息絶えた。 残るデュランダルはリーダー格の青年。青白い雷光を纏い、吾郎に狙いを定め突っ込む。 捨て身は一度、吾郎の息を確かに止めた。 だが、青年は顔を歪めて剣を握り直す。倒れない。まだ、倒れない。 「クハハッ! どうした、まだ俺はまだ戦えるぞ? さあ続きといこうぜ!」 彼を戒める手錠に月光が反射した。 運命の女神は真に寵愛を受けた者に微笑みかける。 そして呼水の呪いが尽きる前に、無骨な大剣は青年の心臓を止めた。 広場に弾んだ息の音だけが響くとき、ロジェは羽と血痕を残して姿を眩ませていた。 血痕を追う余力は無い。まずは仲間と無事に戻る必要があった。 クリスティーナが自分より大きな体を相手に肩を貸し、仲間を背負った孝平が手を添える。 それを見ながら、疾風は幻想纏いを開き告げる。 「ポイント27制圧、突破完了」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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