●承前 横浜市――明日真探偵事務所。 「コンチクショーメ。俺の城がボロボロじゃねーか……」 オフィステーブルを盾にして、肩で息をする明日真零(あすま・れい)は溜息を吐く。 数々の銃弾を浴び、事務所の中は滅茶苦茶にされていた。 見えない殺意が重く圧し掛かり、ずっとこの殺意と戦っている。 隣には彼の袖にしがみつく様にして、行動を共にしている美女が1人。 「なんだって、俺っていつも美人にゃ振り回されっぱなし……」 どうも美人が自分に絡むと、ろくな展開にならない。と、零は思い返す。 家出美少女を探し出したら、相手にブッ飛ばされて死にかけた。 フォーチュナーの美女や美幼女からは、厄介な仕事ばかりが押し付けられる。 オーナーの元美女には、ぎっちり小言を言われて家賃どころかビルの修繕費まで回収された。 依頼されて美女を保護してみたら、追って来た連中に事務所を破壊されそうだ。 不意に手が重なり、零は隣へ視線を向ける。 美女の名前は村川雪絵(むらかわ・ゆきえ)、どうもフォーチュナーの資質があるらしい。 たれ目でやんわりとした雰囲気に、不釣合いな大きい胸とボディラインを持つ。 アークの依頼でフィクサードの連中に監禁されていた雪絵を助け出し、保護してここまで連れて来た。 だが連中にここまで追跡され、銃撃戦になっていた。 (どうも変だな。追ってきた連中はここに逃げ込む随分前に振り切ったはずだが……?) 解せないところはあるが、追跡された以上は自身の失敗である。 過ぎた所でどうにもならないし、今この窮地を凌ぐ事が零の最重要課題だった。 (相手の数は、8人といったところか) 彼は冷静に相手の気配を探る。入口に4人、非常口に4人。 恐らく他にも増援は来ているのだろうと彼は推測した。 何れも革醒者――フィクサード達なのは間違いない。 零は1人、中空に向かって視線を向けて呟く。 「おーい、見てんだろ和泉ちゃん? 何とか応援頼むわー」 誰もいない空間にそう告げると、手持ちのリボルバーを窓越しの殺意へと向けて撃ち続けた。 ●依頼 集まったリベリスタに映像を見せて、溜息を吐いた『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が口を開く。 「依頼の内容はこの村川雪絵さんを保護してアーク本部まで連れてくる事です。 村川さんはフェイトを持ち、フォーチュナーの資質があります。ですがそれ以外は一般人と変わりありません」 明日真零は、どうでもいいのね。と、一同は肩をすくめる。 「明日真さんに彼女の保護を依頼し、監禁された場所から救出して頂いたのですが。 フィクサード達に追跡され、今回この様な状況に陥っています」 探偵なのに、逆に尾行されてしまったらしい。 リベリスタ達の苦笑気味の反応に、小さく首を横に振る和泉。 「いえ。明日真さんは向こうの追っ手を完全に振り切って事務所に逃げ込んでます。 それでもフィクサード達は迷わずに追跡してきました。 どうも雪絵さんの居場所が、彼等は手に取る様に判ってしまうみたいです。 敵の数はビル周囲に10人。増援も考えられますが、皆さんなら対処できると信じてます……誰かさんと違って」 少しだけ意地悪っぽく、和泉は笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月11日(日)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●奇襲 横浜市、萬田ビル――深夜。 上階で銃声が響くこのビルの前には、黒尽くめの男二人が見張りに立っている。 そこへ突然、現れた気糸が男達の身体を打ち抜いていく。 彼等から離れた位置にいる『生還者』酒呑雷慈慟(BNE002371)が、先手を打った奇襲の気糸で合図を送っている。 「一番面倒なのは……此処で見張りに逃げられる事だ」 雷慈慟と同時に気糸を放った『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)は、彼とは別に捕まっていた村川雪絵(むらかわ・ゆきえ)の事をふと思う。 「フィクサードに捕まってたなんて、きっと怖かっただろうな……」 必ず救い出してあげたい。それが遠子の正直な心情だった。 更に『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)の魔力の矢に襲われ、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)の光が包む。 不意を打たれた黒尽くめ達に向かって「したたーん、したたーん」という擬音を自身で付け加えながら六花がポーズを取る。 「ピンチの時にかけつける! アタイ、ひーろー六花様なのだっ!」 だが既にリベリスタ達が眼前へと迫っていた彼等は、その台詞をゆっくり聞く間も与えられなかった。 『黒鋼』石黒鋼児(BNE002630)とエクスキャリー(BNE003146)、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)と『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)がそれぞれの男達を一瞬で叩きのめしていたからだ。 不満げな態度の六花を他所に、萬田ビルを見やるリベリスタ達。 今回の依頼が救出優先にあり、エクスが得意といる殲滅仕事とは状況が違っていたものの、彼女は然程動じてはいない。 「いつもと少し勝手が違うが……まぁ、わたしは剣を振るうだけだ」 淡々と言って彼女が剣を収め、周囲を確認してから後衛達を招き寄せる。 その時、不意に銃声が響く。 すると倒れていた片方の男の手から携帯が転がり落ち、駆けつけたのは二丁拳銃を手にしたアルジェント・スパーダ(BNE003142)である。 「また此処に来る事になろうとは……何とも、奇妙な縁だな」 正確な射撃で連絡を取ろうとする男の腕を撃ち抜いた彼は、合流して周囲を警戒する様に壁際に立つ。 リセリアはそんなアルジェントや仲間達を見て、ふと呟く。 「チームを組んで戦える私達がどれだけ恵まれた環境なのか、こういう時に実感しますね」 孤独に戦う明日真零(あすま・れい)と比べ、仲間達のフォローが何よりも心強く感じるリセリアだった。 直後にビルの内階段へと静かに突入するエクス、雷慈慟、リセリア、六花、アンナ。 アルジェントと共に鋼児、遠子、夏栖斗がその場で待機し、増援に備える。 緊迫した事態にも関わらず、やけに嬉しそうな表情をしている鋼児へ、夏栖斗が警戒しつつ尋ねた。 「どうした?」 彼の問いに鋼児は小さく笑んだまま、上階に視線を向ける。 「不謹慎かもしんねぇけど……俺は今すごく嬉しいんだ」 かつて自分達が救出した零が、雪絵を助ける為に身体を張って戦っていた。 それは彼が今までリベリスタとしてやって来た成果が、目に見える形で表れたのだと感じている。 鋼児の視線の先にある五階の上空には、気配を断ったまま飛翔して近づく『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)の姿があった。 ●制圧 「コンチクショーメ。俺の城がボロボロじゃねーか……」 オフィステーブルを盾にして、肩で息をする零は溜息を吐く。 数々の銃弾を浴び、事務所の中は滅茶苦茶にされていた。 見えない殺意が重く圧し掛かり、ずっとこの殺意と戦っている。 隣には彼の袖にしがみつく様にして、行動を共にしている美女が1人。 「なんだって、俺っていつも……」 「垂れ目の美女なんて。隅に置けない所の話じゃないです」 割って入る声、咄嗟に雪絵を庇う様にして下げる零。 窓に現れたのは、見覚えのある垂れ目の美女。 銃弾が飛び交う事務所内をすり抜けた零が窓を開け、ユウは弾丸の入ったマガジンを手渡す。 「はいどうぞ、探偵さんの銃に合う弾をお持ちしました」 マガジンを換装した零は入口へと銃を向け、事務所に入ってきたユウと背中合わせに発砲を始める。 「それにしても。私と言う者がありながら、酷いですね……」 冗談めかして雪絵の事を示す彼女に、相手は小さく笑い返す。 「んなこたぁないさ。ユウちゃんみたいな天使にゃ、俺ぁ一途に尽くすぜ?」 言いつつ、自身が救援の言葉を口にする前に、彼女が現れた事に少し驚いていた。 恐らくこの後の展開を読んだ和泉が、先回りして手配してくれたのだろうと判断する。 ユウは入口への牽制射撃を行いながら、状況を手短に零へ説明した。 「……それと、雪絵さんに何らかの追跡手段が付いている様です」 だがそれを口にしたユウも、背中越しの零にもまだそこまでの余裕はない。 互いに反対方向の相手へと銃を放ち続け、仲間の合流を待つ時間が続く。 正面の入口には4人の黒尽くめの男達が銃と魔力の矢を事務所へ乱射していた。 そこへ突然「ポーン」というチャイム音と共に、5階へと突然登ってきたエレベーターが開く。 正面で事務所内へと壁越しに発砲を続けた黒尽くめの男達が、一瞬気を取られた。 中には誰にも乗っておらず、視線を事務所に戻そうとするその時、眩しい光が4人の男を貫いた。 エリスが事前に集中して放った光を合図に、階下から一斉に駆け上がるリベリスタ達。 だが男達の視界は直ぐに炎でかき消された。 「くらえ必殺、アタイばーすと!」 六花が口上と共に彼等を一気に魔炎で焼き払ったのだ。 先頭切って駆け上がったリセリアが、奥にいた魔力を放つ男へと一気に跳びかかった。 「きちんと救出して……全員で、必ず帰還しましょう」 高速で残像を作り出した彼女の素早い斬撃が、容赦なく敵を斬り裂いていく。 続いてエクスの二刀から激しい雷撃が迸り、相手に反応する間を与えず感電させていた。 「悪いが行くことも退かせる訳にもいかない……」 踊り場まで駆け上がった彼女は悠然と剣を構え、残る男達に視線を向ける。 残った敵がリベリスタ達へと跳びかかるが、そこへ雷慈慟の気糸が飛ぶ。 「こんな所でのんびりしていて良いのか?」 気糸に貫かれて膝をつく男を見下ろし、彼は下を指す。 「アークの御厨夏栖斗が、まもなく到着するぞ? 我々はそれまで、のんびりやらせて貰うから、構わんがな」 男達が夏栖斗を知っているかどうかはわからないが、アークの増援とさえ理解できれば良い。 余裕を持った雷慈慟の発言に、動揺を見せる男達。 更に事務所内からもユウと零の援護射撃が男達を貫いていく。 それから間もなくして、正面入口はリベリスタ達によって制圧された。 ●増援 制圧が完了し、リベリスタ達が事務所の中へと入る。 先頭を切って飛び込んだ六花は、片手を突き出したポーズでユウ達を見据えた。 「またせたな!」 そこへ裏口から銃弾が跳んできて、慌てて物陰へと六花を連れ出す零。 その際に肩に鈍い衝撃が当たり、苦痛に顔を顰める。 新たな増援に正面が抑えられた事を受け、裏口の銃撃の数が一段と激しくなった様にも思えた。 リベリスタ達は一斉に物陰に入ると、エリスは手早く癒しの風を傷を負った零へと送る。 「……しかし、プロの探偵がこんな事になるってのも締まらない話ね。 美人だからボディチェック甘くなったとか?」 無表情に尋ねるエリスに、零は「したよ」と、肩をすくめて答える。 脱出の際に、きちんとボディチェックは済ませているらしい。 一部を確認した時、多少の照れが合ったことは否めないだろうが。 庇われた六花はそんな事を気にも止めず、むんずりと下から両手で雪絵の胸を持ち上げた。 「この、ちちがあやしいのだー!!」 「きゃあっ!」 「うなーっ!、まどろっこしいのだ、いっそぬげーっ!」 いきなり胸を揉まれる様に掴まれた上、スカートを引っ張り出す六花に激しく動揺する雪絵。 そうこうする間にも、間断無く非常口からの射撃は続いている。 雷慈慟は六花を抑えつける様にして止めさせ、敵の様子を視線で窺った。 盗聴器の確認をしている時間よりも、今はここからの脱出が一分一秒でも早くなければならない。 「待たせた上で言わせて貰う。急ぐぞ!」 雷慈慟の言葉に全員が頷き、ユウと零が威嚇射撃を行って雪絵達を先に後退させ、自身等もエクスとリセリアを殿にして事務所を後にする。 入口で待機していた遠子達は二人の確保の連絡を受けたが、直後に敵の増援の襲来を受けていた。 反対側からビルへと走って近づいてくる4人の黒尽くめの男達。 それぞれの手には武器が握られ、真っ直ぐに特攻してきていた。 鋼児と夏栖斗は先頭に回り、車から距離を置いて路地の真ん中に並び、それぞれ構える。 夏栖斗は大仰に構えを見せ、敵を引き付けるようにして手招きした。 「ちっす、アークでっす!」 現れたフィクサードの一人に素早く正面から掌打を当て、相手の動きを封じに掛かる。 自らの守りを万全に固め、鋼児も彼等を迎え撃った。 「明日真のおっさんが孤軍奮闘して此処まで辿り着いたんだ。無為にする訳には……いかねぇなぁ!」 炎の拳が黒尽くめの一人を打ち、その進軍を止めさせる。 後方から遠子が気糸の網で敵を絡めとり、その動きを完全に封じた。 「時間を稼ぎましょう、もうすぐ雪絵さん達が下に来ます!」 次なる来襲に目を光らせる遠子。 一方、アルジェンタはアクセス・ファンタズムから4WDの大型車を出現させ、エンジンをかけて待機していた。 すると運転席からは反対側にもフィクサード達が4人、遅れてやってきているのが見て取れる。 「チッ、挟み撃ちか……向こう側からもやって来るぞ!」 無理やり車の助手席側を入口近くに移動させ、アルジェンタは窓を開けて敵へと射撃を始めていた。 ●脱出 階段を下るリベリスタ達だったが、非常口から事務所を横断してきた黒尽くめの男達に背後を取られてしまう。 殿にいたエクスは立ち止まり、先を進む仲間達を先に逃がす事を優先した。 エクスは両手に剣を構え直すと、踊り場に現れた敵へと雷撃を見舞う。 「先に行け! 後から追いつく!」 相手が立ち止まったのを受け、不敵に笑みつつ剣を構え直す。 「……ここで足止めさせてもらうぞ」 敵の数は3人、そこへエレベーターを抑えていたリセリアが入れ替わりに駆け上がって来る。 「エクスさん、手伝います」 素早く残影を纏わせた剣を舞わせ、2人は黒尽くめの男達との戦いを始めた。 フィクサード達に、路地の前後を挟まれたリベリスタ達は劣勢に立たされている。 鋼児を置いて夏栖斗が反対側へと回り、引き付けるようにして路地の真ん中でフィクサード達と向かい合った。 残った鋼児はその場で敵達を釘付けにすべく、炎の拳を奮う。 「俺みてぇなガキにビビるたぁ、随分とヘタレたフィクサードがいたもんだなぁ!」 黒尽くめの男達は邪魔な2人を打ち払うべく、それぞれの側で集中して襲い掛かっていたが、彼等の高い防御力を前に攻略仕切れないでいた。 弾丸、剣撃、魔力の矢、気糸、光が間断なく次々と襲い掛かる。 だが彼等は自らの内なる力を呼び起こし、同じ言葉を吐きつつ不屈の精神で立ち向かっていた。 「「此処から先へは行かせねぇぜ!」」 2人の援護射撃に回るアルジェンタと遠子の攻撃が続き、遠方からの魔力の矢が対抗して襲うも、前線がまったく車へ近づけない状況だった。 「上は……まだ来ないのか?」 銃を撃ち続けるアルジェンタにも、少し焦りの表情が見え始める。 遠子が通信を確認して彼に返した。 「降りてきました、ドアを開けます!」 そのまま彼女は車の後部座席のドアを開け、一行が降りるのを待つ。 駆け下りてきた雷慈慟を先頭に、六花とエリスに護られるような形で雪絵が車へと飛び込む。 先頭にいた彼は前後の状況を見て、鋼児と夏栖斗に声を掛ける。 「引き上げるぞ!」 雷慈慟は車の後方にいた鋼児の敵へ、遠子と合わせて気糸を放ち牽制をかけた。 「鋼児さん、下がって!」 続いて出てきたユウと零が、前後に別れて射撃を続け、鋼児と夏栖斗の退却時間を作り出す。 「今ですよ、2人とも」 「ありがてぇ!」 急ぎバックステップから反転して車へと走り出す鋼児。夏栖斗もそれに呼応する。 六花は後退した夏栖斗の動きに合わせ、前方の敵全体を魔炎で一気に焼き払う。 「じゃまなのだー!!」 車の前後から鋼児と夏栖斗が戻った時、上から敵を抑えつつエクスとリセリアが階段を降りてきていた。 中からもう一度、ビル内の敵へと牽制する銃弾や魔力を飛ばし、視線を車外に残った2人向け雷慈慟が叫ぶ。 「飛び込め!」 後部座席に飛び込むようにして全員入ったのを確認し、アルジェンタは猛スピードで車を発進させた。 銃弾と反撃が車を襲うが、外壁を盾にして前方の敵を跳ね飛ばして加速していく。 満員の車内で、傷だらけの身体をエリスに治療されるリベリスタ達。 後ろの窓から様子を窺っていたリセリアが、大きく溜息を吐く。 フィクサード達は追撃を諦めたのか、その場から立ち去っていくのが見えたからだ。 「……何とか、逃げ切りましたね」 仲間がいるからこそ、今回の任務も乗り越えることができている。 そう安堵する彼女だったが、一方で隣の雷慈慟の表情は優れなかった。 任務自体は成功に終わり、結果としては良好だろう。 それにしても何故、発信機も持たない雪絵が簡単に追跡されたのか? 何より、あの黒尽くめの男達は何者だったのか? 謎の多い一件だと感じつつ、三高平市へと戻るリベリスタ達だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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