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善人と悪人の境界

●欲した、知
 耳にこびりつくのは、その叫び。
 鬼子を見るような、その目つき。
「あんたなんて、生まれて来なければ良かったのよ!」
 おまえのせいで私の娘が死んだのだと、おまえが母の腹を喰い破って殺したのだと、初めて会う老婆は口角泡を飛ばす勢いで罵った。
 制止する老爺の深く刻まれた皺には苦渋がこびりついていたけれど、落窪んだその瞳は見たくもないものを見るように凍っていた。

 キンと冷えた夜空の下を宛ても無く彷徨いながら、ようやく己の愚かしさを知る。
 知りたかったんだ。
 ただ、知りたかった。どんな人なのか。
 聞いてみたかった。どんな人だったのか。
 知らぬ存ぜぬで通そうとした施設の職員らは、やはり『大人』だったのだろう。手掛かりを掴み、嘘吐きと罵声を浴びせて飛び出した俺は、所詮浅はかなガキだった。
 悲哀に凝った末の憎悪を叩き付けられるのと、存在を滅するように無視されるのと。果たしてどちらがより悲惨か……なんて、ふと考えた自分に、乾いた笑いが洩れた。
 本当に悲惨なのは、愛した娘の命と引き換えに憎い男の種を残された老親のほうか。
 忘れたい悪夢の残滓がある日突然押し掛けてきて、挙げ句、拒めば酷い人だなんて綺麗事を言われかねない、あの人たちのほうか。

 己が内包する咎を初めて知った。
 自ら望んで生まれたわけでもないのに、誰からも望まれない。
『哀れな女』を『哀れに死んだ女』に変えたのは確かに俺だったのかもしれない。
 でも、死にたいなんて殊勝なことを思えるほど健気でもない俺は——
 ……嗚呼、だから俺は罪なのか。
 蛙の子は蛙。見も知らぬ咎人の運命が、生まれながらに俺の中に在る。流れる血、それ自体が罪の系統。
 ……ならば。それならば。
 業を抱えて憐れみを乞うようなことはしない。憎悪しか抱けぬのに憎めば良心が咎めるような、そんな面倒臭い存在であるよりは、鬼のような悪魔のような、迷わず憎める者であるほうが、よほどお似合いじゃあないか。

●不可避の、知
「……フィクサードの馬鹿が、ひとり」
 ぽつりと発せられた言葉は冷たかった。伏し目がちの瞳は資料だけを見つめ、常より表情の乏しい少女の情を排した面持ちの下に何が在るかは判じ難い。
「元は、アークの孤児院に居たの。リベリスタだった……とは言えないけど、少なくともフィクサードではなかったわ」
 ——残忍な無差別殺人者でも、なかった。
「其れが、手当り次第に人を殺す。人の多い場所を選んで、悪鬼のように人を殺す。大人と子供なら、子供を。男と女なら、女を。……どうしてだか、解る?」
 言ってから、余計なことを口走ったとでもいうように『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は小さくかぶりを振った。白銀の髪がさらりと揺れる。解らなくても作戦に支障は無いわと話を区切って先へ進める声は、また一段、温度を無くしている。
「舞台は、白昼のイベント会場」
 テレビ局のビル前、広場に特設された野外ステージでマイクを握るタレントや司会者。取り囲む大勢の観客。中継するテレビカメラや報道陣。その最中で、彼は殺戮を生む。
 全国生中継の極悪人の出来上がりねと呟いた少女の声音は、どこかざらついていた。
 急げば、彼が最初の凶刃を振るう直前に会場へ辿り着けるとフォーチュナは言う。
 そして、被害をゼロにするのは難しいだろうとも言った。
 だが、極力ゼロに近づけねばならない。
 人で詰まった観客席。パニックを起こし騒然と逃げ惑う人々を、カメラは使命を帯びて映すだろう。護るべき一般人は同時にリベリスタらの足枷にも障害にもなり得るが、手を割かねば被害は増すばかり。
「フィクサードはデュランダルよ。生粋の革醒者——持って生まれた運命と力の扱いには長けている。相手は一人だけど、生半可なことで止められるとは思わないほうがいい」
 よろしくと話を閉じた少女は、待ってと腕を掴まれて睫毛を上げる。彼についてを問うリベリスタに諦観じみた視線を寄越した。
 必要以上のことを知っても荷が増えるだけよ。
 忠告した少女は彼の名すら明かさず、最後まで彼をフィクサードと呼んだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月14日(土)22:35
 熱く滾れるものをと考えたらやりきれないシナリオが出来上がる、はとり栞です。
 彼がフィクサードそのいちで終わるか、そうでないかは皆様次第。
 相談期間がやや短いのでご注意下さい。

●成功条件:フィクサードの撃破 & 被害を10人以下に抑えること
 止められればフィクサードの生死は問いませんが、殺すほうがラクです。
 一般人の被害者が11人以上で失敗です。

●フィクサード
 ジーニアス×デュランダルの青年。
 非戦スキル:[電子の妖精][痛覚遮断]
「母の腹を喰い破って云々」は言葉の綾であり、老婆から見ての物言いです。本当に喰い破ったバケモノなわけではありません。
 言葉は武器にもなりますが、火に油を注ぐ危険もあります。

●戦場
 休日、昼間の、イベント会場。
 事前に手回しなどする時間の猶予はありません。
 場所的には広々としていますが、人や椅子、機器など障害物は多々有ります。



参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ソードミラージュ
坂本 ミカサ(BNE000314)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
クロスイージス
黒金 豪蔵(BNE003106)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
デュランダル
天龍院 神威(BNE003223)
■サポート参加者 4人■
覇界闘士
テテロ ミーノ(BNE000011)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
覇界闘士
浅倉 貴志(BNE002656)

●情報湾曲眼球誤動作人間不確定
 テレビ局前には何百と言う人間が群れを成していた。
 この時点で彼らに個性は無く、ただ群衆と呼ばれている。
 あちこちのテレビ局員はそれをレンズ越しに移し込み、世へリアルタイムで『無個性の群れ』を報道していた。
 そんな日常的なやり取りの一部として、ニュースキャスターが今日の天気や記念日の由来を話し始める……その後ろで、空にボールが飛び上がった。
 どこか毛むくじゃらで、妙な汁をまき散らして飛ぶボール状のものが、幼い女の子の首であったと知れた時、群衆に個性が生まれた。
 パニックである。
「みんな逃げろ、そいつは人殺しだ!」
 群衆の中に生まれた二つのパニック中心点。その内首の落下地点でない方を指差して、『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139) は大声で叫んだ。
 中心には、手を血に染めた少年がいた。
 名称不明、身元不明。少年フィクサード。
 彼は笑っているような泣いているような、左右非対称な顔でヴァルテッラの方を振り向いた。リーディングをかけていたヴァルテッラの眉が上がる。
 内心後悔もあった。事前準備もままならない状況である以上、通常一人目の殺人が起こるまで少年の居場所は特定できない。超直観で捜索をかけた仲間もいたが、現場に駆けつけてからの数秒では超人的捨て目すら後手に回らざるをえなかった。
 間髪入れずに『超重型魔法少女』黒金 豪蔵(BNE003106)が叫び立てる。
「あの少年テレビでやってた連続殺人犯!」
「連続殺人犯!?」
 少年の周囲に隙間もない程密集していた群衆は一斉に少年から飛び退こうとした。
 情報伝達速度と人間の反射的移動速度が反比例し、少年を中心とした放射状のドミノ倒しが起こる。
 少年は手近な親子連れに目を付けると、子供に向けてギガクラッシュを叩き込んだ。
「二人目だ」
 小さく呟く少年。
 それを見て群衆は完全なパニックに陥った。
 幸運と言うべきか、テレビカメラは人垣に遮られてまだ少年の姿を映してはいない。
「まだ二人目なのにさ。連続殺人だってさ……はは……」
 三人目に狙いを定める少年。
 そこへ、翼の加護を受けた『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406) が飛び込んで行く。
 少年のギガクラッシュを名も知らぬ一般人に代わって受け止めた。
「死んだ者は二度と生き返らない。お前自身が良く知っている筈だ」
 しびれる腕でアウラールは言う。
「婆さんが言っただ、甘えんな! 自分が何者かは自分で――」
「おい、何故知ってる」
 アウラールの襟首に掴みかかり、少年は顔を寄せた。
「俺の過去、何で知ってるんだ」
「な……」
「よそ見はいけませんぞ!」
 程なくして、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179) と『爆砕豪拳烈脚』天龍院 神威(BNE003223) が少年の背後に降り立つ。
 丁度少年を囲むような位置取りだった。彼らの体力が持つ限り、これ以上一般人に被害が及ぶ心配はない。
「そっちはどうだ」
「フツさんと舞姫さんがカメラを破壊して回ってくれました。貴志さんは誘導を初めています。私達の守りはミ-ノさんが」
「そうか、そんじゃ……一戦やるとするかねェ」
 手をぷらぷらとさせる神威。少年は悪態と共に振り向いた。
「俺を殺しに来たのか」
「別にあたしぁあオメーを救おうとか考えてねえよ。ただなぁ」
 少年へ殴りかかる神威。少年は両腕でガードするが、力量は圧倒的だった。
「自暴自棄になったって何もかわらねェんだよ!」
「ぐっ!」
 強引に突き飛ばされる少年。その肩を『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003) が受け止めた。
「……」
 無言で背中を見る雷音。少年は慌てて彼女から離れる。
 とは言え、既に周囲を囲まれた状態ではどこに行っても同じだった。
 目を細める雷音。
 人は面倒くさい生き物だと思う。だけど、だから意味があるのだとも。

 一方、群衆の誘導は着々と進んでいた。
 誘導や整理の訓練を受け場数も踏んでいる局スタッフである。彼らにかかれば数百人の誘導くらいなんてことは無い。
 だがそこに別の要素が加わり、少々おかしなことになっていた。
「全員屋内に避難して下さい。別方向に分かれず順番に――」
「いや待て、二手に分かれろ。そう徹底するように言われたんだ!」
 拡声器でかわされる言い合いに、群衆が戸惑いを見せる。
「何言ってるんだ、有事の際は訓練通りに……」
 言い返そうとするスタッフの肩をぽんと叩く『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314) 。
「誘導に従ってもらえる? 道を開けて……ああ、カメラスタッフも一緒に避難してって」
 彼は魔眼を使ってスタッフを催眠状態にして回っていた。
 スタッフの数はかなり多かったが、フツ達の協力でそれなりに掌握は可能だった。
 かくして、数分の混乱はあったものの一般人の避難は概ね完了しつつあった。
 少年の周りに残っているのはリベリスタのみ。
 『初代大雪崩落』鈴宮・慧架(BNE000666) がゆっくりと少年へ歩み寄る。
「私はあなたを止めます。溜めこんでいる全てを吐きだすまで付き合います。だから……かかって来てください」
 ガントレットを構え、戦闘準備に入る慧架。
「償い終わったら、美味しい紅茶をご馳走しますね」

●悪は正義に淘汰されるが、正義が人を救うとは限らない。
 少年は焦っていた。
 群衆に紛れて何十人も殺害し、那由他の地獄まで落ちていくつもりでいたというのに……この状況は何だ。
 十数人のリベリスタに囲まれ、手も足も出せずに歯噛みしている。
 この自分は一体何者だ。
「くそ……っ!」
 ミカサとヴァルテッラの入念なトラップネストと京一の呪印呪縛により、少年はほぼ無力化されていた。
 とは言え無力化できるのも数十秒の間に過ぎない。それまでの間に彼を殺すか、もしくは説得するかだ。どの道、時間を無駄にはできない。
 雷音は少年のそばへと歩み寄る。
「君に業なんてない。それは勝手に思い込んでるだけだ。自分が悪い物だから憎まれるのが当たり前なんて、思わないでほしい」
「…………」
 目を細める少年。
 リーディングをかけているヴァルテッラもまた、同じように目を細めた。
 少年の気持ちが動いていないのが分かっているからだ。しかしそれを口に出して良いものだろうか。
 『お前の考えが読めているぞ』と教えてやる様なものだ。先刻、彼が何故自分の過去を知っているのかと動揺したように、この手の情報は相手への脅迫になりかねない。
 慎重に扱わなくては。
「少年。人を殺し続けたとして、君の望むものは手に入らぬ。解っているだろうね?」
「知ってるさ。でも望みは変えられる」
 歯噛みするヴァルテッラ。
 その一方で、ミカサは冷ややかな視線を少年に送っていた。
 思えばこうして走り回っているのも少年の所為で、被害者が出てしまったのも少年の所為だ。
 ミカサは誰にも聞こえないような声で呟く。
「寂しいって大泣きすればよかったんだ。感情に蓋なんかして……」

 状況は依然動いていない。
 拘束状態を維持すると言っても、拘束を自力で食い破ってからの数秒間まで抑え込めるわけではない。
 豪蔵は大きく深呼吸して構えを取り直した。
「この筋肉の輝き受けなされ、マッスルキャノン!」
 やや離れた場所からジャスティスキャノンを連射する豪蔵。少年は押し倒され、再びトラップネストの拘束状態に戻された。
「こんなことして何になるんだ。俺に何か言いたいことでもあるのか」
 這いつくばった姿勢で言う少年。
 豪蔵は油断なく構えたままで応えた。
「多くの人に嫌われる方も居ますな。だからといって敗北を諦めるのですかな?」
「……」
「他人の想像通りの悪人になれば、それこそ相手の正しさを実証することになりますぞ。そのような運命を受け入れるのですかな?」
「……」
「今敗北を認めてしまえば、それこそ負け犬ですぞ!」
「……正しかったら、いいのか?」
 地に手をついて拘束を解こうともがく少年。
「正しかったら、救われるのか。正しいことを言ったやつが救われるのか。自分の親を知りたいって、人として正しいことを言った筈の俺は……何故救われなかったんだ?」
「……」
「答えろよ。正しいなら、答えろよ!」
 拘束をまたも食い破る少年。腕に紫電を纏わせて殴りかかる。
 その腕を、アウラールが受け止めた。
「全ての祈りは、女性が命がけで生み出したものだ。お前の母さんは命がけで生んだ。その子に何を望んだと思う」
「知るかよ!」
「アークの施設で育ったなら、母はリベリスタだったんだろう!? 俺らと同じ……!」
「知るかって言ってんだよ! 予測と想像で俺の過去を勝手に決めるな! 母が皆善良だなんて幻想は、幼い頃とっくに捨てたんだよ! もし俺が祝福されて生まれたんなら、婆は俺を罵ったりしなかった筈だ。違うのか!」
 アウラールの頬を殴りつける少年。アウラールもまた、彼の頬を殴りつけた。
「そんなのは……!」
「待ってくれ」
 小さく手を上げる京一。
 立ち位置は離れていながら、まるで間に割り入ったかのように彼の存在感が広がっていた。
「君のことは、イヴちゃんから聞いたよ」
「……は?」
「彼女なんて言ってたと思う。ただ馬鹿って言ったんだ。それ以上は語らなかったけど、言葉に込められた思いは……」
 それ以上言おうとして、ヴァルテッラに肩を叩かれた。
 耳打ちする。
「それは君の勘違いだ。彼とイヴ君に面識はない」
 恐らく一方的なシンパシーだろうとヴァルテッラは言った。
 自分の口を押える京一。
 少年の方はと言えば、わなわなと手を震わせていた。
「何なんだよ、俺の過去探ったり、知ったようなこと言ったり、意味わかんない奴の名前で揺さぶったり……かと思えば連続殺人犯だの人殺しだの言いやがって!」
 激情に任せて叫ぶ少年。その頭を神威が強引に殴り倒す。
「オメーみたいな境遇のやつはごまんといるんだよ。オメーひとりだけ特別じゃねえんだ」
「だから我慢しろってか。バラバラだぞお前らの言い分!」
「五月蠅え、オメーはその他大勢の一人なんだよ。どん底で、これ以上下がれねえんだ、生きていけなくなるからな」
「……っ」
「最後までどうしようもないろくでなしで終わるか否か、決めるのはオメーだぜ」
 少年が膝から崩れ落ちる。
 アスファルトの地面に両手をつけてうなだれた。
 再び歩み寄る雷音と慧架。
「辛い時はつらいと言っていい。泣きたい時は泣けばいい。君は……君と言う存在を認めて欲しいんじゃないかな?」
「そうです、だから……」
 慧架が手を差し伸べる。
 今まで死にたがったひとは沢山いた。
 悪行に手を染めようとした人もいた。
 そんな人達を、もしかしたら救えるかもしれない。
 いや、救えたのだ。
 だから今回もきっと。
「……」
 そうして少年は顔を上げた。
「分かったよ、分かった」
 腕に紫電を奔らせる。
 その様子を交渉決裂と見て神威が飛び掛らんとする。
「残念だぜ、チャンスをチャンスで終わらせたな」
「待って!」
 手を出す慧架。
 そんな彼女の視界の端で、少年は――自分のこめかみに腕を当てた。

「のろわれろ、偽善者ども」

 ボール状のものが空高く飛んだ。
 それは、テレビ局の屋内で様子を見ていた人々の目に鮮烈に映った。

●悪意と善意の間に、人を殺すと言う意味において違いはない。
 サイレンカーが近づいてくる音が聞こえる。
 慧架はその場に立ち尽くしていた。
「……」
 肩から上を失った少年が、仰向けに倒れていた。
 それだけである。
「終わった……のですかな」
 豪蔵が小さな声で呟いた。
 事態が沈静化したのを見て、屋内に避難していた人たちが外へと誘導されていく。
 群衆は遠巻きに、そして白い目で彼らを見ていた。
 足早に通り過ぎる人々。
 その足音を、ミカサは涼しげな顔で聞いていた。
「被害者数二名。任務完了……と。依頼は成功だね」
「お前っ」
 掴みかかろうとする神威。
 だが手が触れる寸前で思いとどまった。
 ヴァルテッラが俯きつつ口を開く。
「あの瞬間、リーディングをかけていた」
「……!」
 振り向く神威。ヴァルテッラは重々しく語ってくれた。
 初対面の人間たちが自分の深部へと這入ってきたことに、少なからず戸惑いを感じていた。
 連続殺人犯だと人殺しだとなじられたかと思えば、大事な生命だなどと同情される。
 少年はその時リベリスタ達のことを、自分を言葉巧みに騙して利用するつもりなのだと、考えたのだそうだ。
 自分の過去や気持ちを知り、追い詰める人々。
 そんな連中に囲まれて、彼は最終的に……逃げたのだ。
 目を瞑る雷音。
「彼を、救えなかったのか」
「どうかな」
 首をかしげるミカサ。
 その時、シャッター音がどこからか聞こえた。
「なっ……!」
 振り向く京一。
 確かに今のは、携帯電話やデジタルカメラのシャッター音だった。
 だが誰が押したのかは分からない。
 なぜならば。
「や、やめろ……」
 通り過ぎる群衆達が、横たわった『少年だったもの』にカメラレンズを向けていたのだ。
 ――殺人鬼だって怖いわねえ――グロっ、超スゲえ――初めて見た何あれ。――死んで当然だろ――人殺し死んだんだ、よっかたー――捕まってもどうせ出てくるしな、死んでくれて助かったよ――本当本当。
「おい、やめろ!」
 アウラールが群衆に駆け寄る。対して群衆は恐れおののいた顔で逃げだした。
 人を見る目……ではなかった。
 言ってみればそう、化物を見る目だったのだ。
 豪蔵達はこの後のことを想像する。
 きっとどこかの雑誌か何かにこのことが書かれたり、噂されたりするのだろう。
 『少年殺人鬼、幼い子供を二人殺して自殺』とでも題し、教育の問題や社会問題に絡めていくのだ。
 しかし、そこに少年の名が載ることは無い。
 『身元不明の少年』だ。顔すらまともに残っていないのだから。
 そうだ、そう……。

 少年は何者にもならぬまま、この世から逃げたのだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
代筆を完了しました。
判定について述べます。

事前準備が効かない中、多くの対策が用意されており、その内の多くは有効に働きました。
そのため一般人の死亡者は二名にまで抑えることができました。
しかし数百の群衆の中から少年を発見するに至らず、今回は第一第二の被害を抑えることはできませんでした。
少年の心がダークサイドから動かなかった主な原因は、連続殺人犯として糾弾し、彼の立場を決定づけてしまったことにあります。
ともあれ、依頼は『被害者を10名未満に抑えた』ため、成功です。