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ふたごのかたわれが死にました

●お姉ちゃんが殺しに来る
 愛花と藍菜は、同じ日に生まれたにも関わらず、仲の悪い姉妹だった。
 いつも姉の藍菜は妹をいじめており、妹の愛花はそんな姉を嫌っていつも陰口をたたいていた。
 けれど、藍菜は公園の階段から落ちて死んだ。享年11歳……小学6年生の春のことだ。
 階段の上から愛花を突き飛ばそうとして、誤って自分が落ちたのだ。頭から。
 動かない姉の姿に怯えて泣く愛花に通行人が気づいて救急車を呼んだが、もう手遅れだった。
 仲の悪い2人だが、もう永遠に争う必要は無くなった。
 ……無くなった、はずだった。
「ねえ、お姉ちゃんが私を怖い顔で見ているの」
 藍菜の死から半年ほどして、愛花は時折そんなことを言うようになる。
 相談された大人たちは幻覚だと決めつけた。両親はそんな幻まで見るほど姉が怖かったのかと同情し、優しく愛花を抱きしめたが、事実とはまったく考えなかった。
 さらに半年が経過して、藍菜の命日が近づいた頃、愛花は病院に運び込まれる。
 階段から落ちて大ケガをしているところを発見されたのだ。
 誰かに突き飛ばされたと彼女は語った。犯人は見つからなかった。
 そして、藍菜の命日が来た。
 入院していた愛花は、圧迫感を感じて夜中に目を覚ます。
「……っ!」
 声にならない叫びを彼女は思わず上げていた。目の前に死んだはずの姉の姿があったからだ。
 姉の額の皮膚は大きく破れていて、顔中が血まみれになっている。左腕は不自然に垂れ下がり、右腕は肘と手首の間でありえない方向に曲がっていた。
 目に焼きついて離れない、姉が死んだときの姿だ。
「なんであんた、生きてるのよ。私はあそこから落ちて死んだのに」
 重苦しい声音を聞いて愛花は悟る。自分を突き落としたのが、藍菜なのだと。
 身動きができない。身体になにかがまとわりついている。
「だいたい、あんたが避けなかったら私は死ななかったのよ。あんたのせいで私は死んだのに、どうして平気な顔してるのよ」
 冷たい手が愛花の首に伸びる。姉の周囲に憎悪を形にしたかのような黒い炎がいくつも浮かぶ。
「さっさと死になさいよ。身代わりになる奴を殺せば、私は生き返れるんだから。知ってるのよ」
 首を締め上げる手を必死につかむが、ひきはがすことはできない。
 翌朝、恐怖に目を見開いたまま息絶えている愛花が発見された。

●ブリーフィング
「エリューション・アンデッドになった姉に、妹が殺されることがわかった」
 淡々と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は告げた。
 ただ、勘のいい者なら、彼女の表情が普段よりわずかに暗いことに気づいただろう。
「生前の姉は妹のことを嫌ってた。その上、妹を殺せば自分は生き返ることができると思い込んでる。そんなことはありえないけど」
 死んだ人間は生き返らない。当たり前の事実も、エリューションとなってしまった者にはわからなくなってしまうのだろう。
 最初、アンデッドとなった姉の藍菜は、階段から突き落として妹の愛花を殺そうとした。しかし、重傷をおったものの妹は生き延びたのだ。
 ……実のところ、藍菜は愛花を何度も階段から突き飛ばしたことがあるらしい。皮肉なことに、『落とされ慣れていた』ことで、妹のほうは命を取りとめたというわけだ。
「みんなは、病院に忍び込んでエリューションから愛花さんを守って欲しい」
 残念ながら愛花が突き飛ばされた事件は『万華鏡』による予知以前に発生してしまったが、エリューションが止めを刺しに来るのには間に合った。
「敵はまずエリューション・アンデッドが1体と、それからエリューション・フォースが4体。フォースはアンデッドの憎悪が実体化したものよ」
 アンデッド……藍菜は主に素手で攻撃してくるが、影を操って抑えつけてくることもあるらしい。また、素手とは言っても呪いのこもった腕には馬鹿にできない威力が宿っている。
 フォースは暗い炎という姿をしている。姿の通りに炎を放って攻撃してくるらしい。基本的に単体への炎だが、残り1体になるか藍菜が弱ると強化されて、範囲に炎を撒き散らすようになる。
「愛花さんの病室は個室だから、他の患者に関しては気にしなくていい」
 ただ、部屋はあまり広くは無いので、8人全員で入ると動きが制限されてしまう。
 窓の外や廊下から攻撃すればフォースをおびき出すことができそうだとイヴは推測を語る。何人かは病室に入らずに戦うほうがいいかもしれない。
「病院への潜入方法は、申し訳ないけどみんなに任せることになる」
 使えそうな能力があればいいが、そうでなければ一計を案じる必要があるだろう。
「それじゃ、お願い。……彼女を助けてあげて」
 左右で色の違うイヴの瞳が、切なげに揺れた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:青葉桂都  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月07日(土)21:47
●マスターコメント
 こんにちは、青葉桂都(あおば・けいと)です。
 今回は、アンデッドになって妹を殺そうとする姉を倒していただきます。

●目的
 愛花を守りながら、エリューション・アンデッドの藍菜を撃破する。
 なお、愛花以外でも、病院の患者や職員に死人が出る状況になると失敗です。死人が出なければ、誰かが巻き込まれただけで失敗とはいたしません。

●藍菜
 フェーズ2のエリューション・アンデッドです。
『怪力』と『影を操る』攻撃をしてきます。『怪力』は近接単体への物理攻撃で、ブレイク効果があります。『影を操る』ほうは近接単体への神秘攻撃で、麻痺効果があります。
 また、一番最初に『影の支配』を行って自己強化してきます。

●憎悪の炎
 フェーズ1のエリューション・フォースで、4体登場します。
『漆黒の火炎』によって攻撃してきます。遠距離単体に対する神秘攻撃で、火炎の効果が発生します。
 ただし、残り1体になるか藍菜のHPが一定以下になると、単体から範囲への攻撃に変化します。

●愛花
 戦闘能力はありません。ベッドに寝ているので回避することもできません。そして、攻撃を1回か2回受ければHPは0になります。

●戦場
 愛花が入院している病室になります。
 障害物はありませんが、それほど広くないので愛花やエリューションを除いて5人以上部屋に入ると命中や回避に不利な修正を受けます。

●その他
 事前に夜の病院に入り込む方法を考える必要があります。
『強結界』などの非戦スキルを活用できれば、病院の職員は一般人ですので難しくないでしょう。
 ただ、なにも活用できそうなスキルがない場合、やり方がまずいと戦闘に遅れて参加することになるかもしれません。

 それでは、ご参加いただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
早瀬 直樹(BNE000116)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ナイトクリーク
八咫羽 とこ(BNE000306)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
ナイトクリーク
鷹司・魁斗(BNE001460)
ナイトクリーク
大吟醸 鬼崩(BNE001865)
ホーリーメイガス
月杜・とら(BNE002285)

●夜
 病院は夜の闇に沈んでいた。
 夜だからといって、通常なら病院は無人にはならない。入院患者や急患に対応するために、必要な人員を残しているものだ。
 しかし、その日はいつも以上に病院は静かだった。
 それが『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲瑠琵(BNE000129)の展開した強結界の影響によるものだなどとは、一般人である病院の職員たちにわかるはずもない。
 リベリスタたちは鍵の開いた裏口から入り込む。
「病院の案内図は手に入れてきました。公開されている分だけですが、十分でしょう」
 普段とは違う丁寧な口調で『不動心への道程』早瀬直樹(BNE000116)が言う。
 持ってきたのはインターネットで掲載されている程度の代物だ。それでも、病棟の構成や、そこへと向かう階段の位置はわかる。今回の依頼には十分だった。
「こっちはあんまり有用な情報は無かったよ。まあ……知りたいことの1つはわかったがね」
 ゆるくスーツを着こなし『終極粉砕/レイジングギア』富永・喜平(BNE000939)が肩をすくめる。
 フリーライターを装って聞き込みをしてきたが、外からわかる範囲では、両親は娘の死に悲嘆に暮れ、入院するほどの大ケガに心配をしていたという話だった。
 姉妹に対して、差別などが行われていた様子はない。
 少なくとも……端から見ている限り、両親は娘たちに等しく愛情を注いでいた。
 足音を潜めて、リベリスタたちは愛花の病室へ近づいていく。
『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)は見回りをごまかすために寝巻きと包帯といういでたちで来ていたが、強結界の中をしっかり見回ろうとするほど意思の強い者はいないようだ。
「愛花ちゃん達ってとこたちと正反対なの。お姉ちゃんはとこのために戻ってきてくれたけど……」
 病室が見えてきたところで、『二重の姉妹』八咫羽とこ(BNE000306)が呟く。
「藍菜は殺すために戻ってきた。絶対に止めないとね」
「ああ、歪みきったもんだな……。これも運命とでも言えばいいのか」
 幻視で蜥蜴の尻尾を隠した『捜翼の蜥蜴』司馬鷲祐(BNE000288)がとこに同意した。
 その頃、暗い病室の中では眠っている愛花のそばに『深闇を歩む者』鷹司魁斗(BNE001460)が立っていた。裏口の鍵も、彼が開けていたのだ。
 不機嫌にシガレットケースをいじっているが、吸っている様子はない。
「病院じゃ煙草が吸えねーじゃねーか……」
 愛花はうつむいていた。魁斗は彼女に姉が来ることを説明していた。以前から、死んだはずの姉の存在を感じていた彼女は、普通なら信じられるはずもないような説明をどうにか信じてくれた。
 思わぬ禁煙を強いられた彼の耳に、病室の扉が開く音が届く。
 内部で敵を迎え撃つ予定の者たちが入り込む。
「病院の中は静かなもんだぜ。さすがだな、ロリババア」
 一見して幼子にしか見えない瑠琵に魁斗は不敵な笑みを向けた。
「口の悪い男よな、おぬし。見つかりはせなんだであろうな?」
「はっ、ただの人間が、オレの気配を感じられるはずないだろ」
 魁斗は集中すれば完全に気配を絶つことができる。一般人に見つかる道理はない。だからこそ、彼が潜入役として入り込んでいたのだ。
 予見された時間が来ると、ベッドの周囲に4つの暗い炎がともった。
 壁際に血まみれの少女が立っている。藍菜は愛花を感情のない目で見つめていた。
「来たな……」
 魁斗が部屋の明かりをつけた。
 部屋の外で『不視刀』大吟醸鬼崩(BNE001865)が静かに得物を抜き放つ。
 彼女は包帯で目を隠していたが、見えない目には確かに敵の姿が映っているようだ。
 他のリベリスタたちも同じだった。
「大丈夫! 絶対守ってあげるからね」
 とこが愛花に声をかけ、瑠琵が彼女のそばに行く。
「……なんなのあんたたち。私が殺さなきゃいけないのは愛花だけよ」
 藍菜の顔は目の辺りが大きく血にまみれている。無残な傷跡からは赤く染まった肉が見えている。
「その子を殺せば私は生き返れるの。邪魔するんなら……あんたたちも死んじゃえ」
 エリューションの宣言とともに、恨みの暗い炎が燃え上がった。

●憎しみの暗き炎
 真っ先に動いたのは鷲祐だった。
 彼は高速で動いて、愛花に飛びかかろうとする藍菜の前に立ちはだかる。
 怨念の炎が愛花へと飛ぶ。
 事前に説明されていたとはいえ、彼女は一般人だ。悲鳴をあげることしかできない。
 身を挺して彼女をかばったのは瑠琵だった。
 あるいは愛花よりも幼く見える姿で、4体の炎を一身に受け止める。
「お前らは、邪魔なんだよ」
 魁斗が軽やかなステップで炎の化け物を牽制し、とこも黒いオーラを放つ。
 開いている扉から仲間たちが攻撃をしかけた。攻撃に反応して、炎たちの気配が変わったのがわかる。
 藍菜の周囲に影がわだかまる。死者に影がまとわりつき、まるで鎧のような形を取った。
 血まみれの瞳が、守られている妹の姿を憎々しげに見つめてくる。
「……何故、そんなに嫌い合う?」
 思わず漏れた問いかけに、エリューションは答えない。
「そんなこと考えても仕方ないか。寸暇の差でも、今運命が分かれているのなら、エリューションを倒し生きてる奴を守る。理不尽だな。姉妹なのにな」
 高速で突き出した鷲祐の刃は幻影をともなって閃き、敵の弱点を確実に突く。
「……だが死んでもらう。その力の矛先が余所に向けられる前にな」
 加速したビーストハーフの動きについてこられる者などいない。ナイフは敵を確実に貫く。
 炎……エリューション・フォースのうち、3体までが外にいた者におびき出されていった。部屋に残った敵をリベリスタたちが迎え撃つ。
 とらは素早く隠れて、飛び出してきたフォースをやり過ごす。攻撃した直樹と喜平を敵が追っていた。
 循環する魔力がとらに力を与えてくれる。癒しの微風を扉から室内へと送り、傷ついた瑠琵を癒す。
 その間に、仲間たちは飛び出してきたフォースへ対処していた。
 直樹の弓から光弾が飛び、2体の敵を貫く。貫いた一方へと、病院の壁を蹴った喜平が飛びかかる。本来ならば投擲用のナイフが縦横無尽に走って敵を裂いた。
 別の敵に、鬼崩の小さな手指から巨大な漆黒のオーラが立ち上って、強烈な一撃を加える。
 反撃とばかり炎が撒き散らされるが、一撃で倒れるようなリベリスタたちではない。
 とらは一瞬、部屋の中の少女見た。
「仲の悪い姉妹なら仲良く一緒に死ななくてもいいと思うの。物分りの悪いお姉ちゃんは、死者の国に追い返すから……」
 だから、愛花には最後にさよならを言ってあげて欲しいと思った。
 とらは癒しの微風とともに送り込んでおいた気糸を引く。
 糸に縛り上げられ、藍菜は動きを止めた。
 鬼崩は外に出てきた敵を、順にまんべんなく攻撃していた。
 ビーストハーフの速度を当てに、彼女は敵の注意を自分にひきつけているのだ。その甲斐あって、敵が放つ炎は鬼崩に集中していた。
(小生の狙い通りです)
 見えない彼女の瞳には、敵の動きが映っている。先読みの力を発揮して、鬼崩はできる限り炎をかわす。
 もっとも、すべてを回避しきることはビーストハーフの速度でもできなかったが。
 鬼崩がひきつけている間に、直樹と喜平が確実に敵の体力を削る。
 とらは傷ついた鬼崩を回復してくれていた。
(死した姉は目標を持ち行動をし、生きた妹は何も出来ず一人で怯えている。これでは、どちらが死しているのか。早く恐れから解放してあげたいです)
 すぐにでも飛び込みたい気持ちを抑え、少女はひたすらに漆黒のオーラを放つ。
 室内のことが気にかかった一瞬に、炎が鬼崩の正面から直撃した。熱気が小柄な全身を包み込む。
「今はた ……小生にでき ことを」
 炎にひるむことなく、突進する鬼崩が放った力は、敵の1体をかき消した。
 大きな傷を受けつつも、鬼崩が1体を撃破した。
 直樹は別の1体を狙って、弓に矢をつがえる。
 複数を一気に攻撃できる直樹は本来なら敵に狙われやすいはずだったが、鬼崩が敵の注意を引き付けてくれたおかげでさしたるダメージは受けていない。
 だが、矢を放とうとした瞬間に彼は気づいた。
 傷ついて燃え上がる鬼崩へと、残る2体も炎を放とうとしている。
「鬼崩さん!」
 負傷によって読みが外れたということもないだろうが、不運にも2体の炎が少女に直撃した。炎の中で鬼崩がくずおれる。
「く……!」
 驚異的な集中から、放った精密な射撃が2体の敵をまとめて吹き飛ばす。
 けれど、倒れた鬼崩はもう起き上がれないようだった。
 直樹は戦闘音が聞こえてくる室内を振り向く。
(……これ以上、虚しい話としないよう、終わらせなければ)
 かつて革醒によって家族を失った直樹は、血を分けた双子が争うことを嘆く。
 室外にいたリベリスタたちは、休む間もなく室内の戦いに意識を向けた。

●塵は塵に
 病室の外と同様に、室内での戦いも激化していた。
 瑠琵は愛花によりそうようにしている。部屋に残っていたエリューション・フォースの炎から、鷲介と共に愛花をかばっていた。
 魁斗は藍菜に気糸を放って縛ろうとし、藍菜のほうも魁斗を影を操って縛ろうとする。
 とこは黒いオーラを放って、フォースを狙っている。
 炎から愛花をかばっていると、とらが部屋の入り口から回復の風を吹かせてくれた。
「本当に邪魔ね! さっさと縛られていればいいのに」
「ガキに縛られる趣味はないんでね。愛花殺したって、テメーは生き返らねーぜ?」
 激戦を繰り広げる2人を見て、瑠琵は嘆息する。
「やれやれ、気性の激しい姉じゃのぅ」
 妹は妹なりにやり返していたようなので、一方的に藍菜だけが悪いとは言えない。
「だが、全ては過ぎた事……よな」
 フォースが突如、巨大な炎を放った。愛花が巻き込まれると判断した瞬間に、瑠琵は彼女をかばう。
 ベッドを燃やす黒い炎に色白な肌が焼かれる。……が、愛花には傷をつけさせない。
「く……本当に、気性の激しい娘よ!」
 苦痛に思わず表情を歪め、瑠琵は叫んだ。
 外で戦っていた仲間たちが援護に戻ったのは、その瞬間だった。
 喜平はとらの頭上を越えて、病室の中に飛び込んだ。
 とこが炎に攻撃を繰り返している。
 病室の外での戦いで、能力はすでにかなり使ってしまっていた。だが喜平には機械化した体がある。眼帯に隠された右眼をはじめ、光学繊維へと変じた身体が無限のエネルギーを湧き出させる。
 目の前に恨みが顕現した炎が見える。
 藍菜は、愛されなかったと思っていたのかもしれない。それがこの炎の熱さとなっているのだろう。
 だが、少なくとも……両親は愛情をこめて2人を育てていた。
 高速で動く喜平のナイフが、残像でいくつにも分かれる。
 炎は切り裂かれ、跡形もなく消滅した。
「こんな風に、心の問題も簡単に解決できりゃいいんだがね」
 恨みの炎は消え去り、残ったのはアンデッドだけになっていた。
 とこはエリューション・フォースが消え去った時点で、気糸を生み出して藍菜に放つ。
「あなたはここにいちゃいけないの」
 巻きついた糸がアンデッドを傷つける。が、捕縛するには至らない。
 藍菜が影を操る。
 魁斗の身体に影がまとわりついて、その動きを縛った。
 直樹が扉の外から矢を放つ。とらは魁斗へ癒しの風を送るが、巻きついた影は振りほどけない。
「憎しみも苦しみも忘れ、安らかに眠るが良い」
 瑠琵が符を放つと、鴉へと変じて藍菜へと突撃する。
「うざいよ!」
 符は毒と怒りでアンデッドを侵していた。
 瑠琵へとありえない方向に曲がった腕が突き出される。
「く……」
 怪力で首をつかまれた瑠琵が苦しげに息を詰まらせていた。腕が離れると、彼女は床に倒れてしまう。
「どうしてこんなことするの!?」
 とこには、藍菜が理解できなかった。愛花たちと同年代の彼女も、かつて姉を亡くしている。けれど、とこは誰よりも姉のことが大好きだった。ケンカするなんて、昔も今も考えられない。
「くらうといいの」
 死の爆弾を敵に埋め込み、炸裂させる。それはアンデッドの脆い部分を、確実に吹き飛ばした。
 魁斗は自らを縛る影を引きちぎる。
 とこの一撃は藍菜を確実に弱らせているようだ。
 喜平が幻影を生み出しつつ攻撃し、その幻影を追って鷲祐も幻影の剣で敵を切り裂いた。
 藍菜が動きを止めた。いつの間にか、とらが気糸のトラップを張っていたのだ。
「ほら、閻魔様が待ってるぜ」
 3メートルにも及ぶ漆黒のオーラを生み出して、魁斗は皮肉げに唇を歪める。
 血にまみれた藍菜の頭部が、破滅的な一撃を受けて砕ける。
「姉妹喧嘩は、もうおしまいだ」
 首から上がひしゃげ、エリューションは病室の床に倒れる。
 もとより死んでいるまだ動きを止めてはいなかったが、時間の問題なのは明白だった。

●病院に静けさが戻る
「……死人は生き返れない。其れと同じ位に確かな事も在る」
 喜平は潰れた目で憎々しげに見上げるアンデッドに、静かに語りかけた。
 両親は藍菜の死を悼んでいたと。けして、彼女よりも愛花のほうを愛していたりはしていなかったと。
……なかば喜平の希望的観測も混ざってはいたが、少なくとも偽りではないはずだ。
 喜平の言葉が通じたのか、通じなかったのか。
 アンデッドは、そこで完全に動きを止めた。
「……片付きましたね。これで任務は終了ですか」
 直樹が息を吐いて、弓を下ろす。
「……本当に……お姉ちゃん……だったの?」
 息苦しさを感じさせる、愛花の硬い声。
「――愛花よ。アレは藍菜では無い。お主自身の自責の念が生み出した虚像じゃ」
 倒れていた瑠琵が、とらに支えられながら愛花に語りかける。
「じせきの……ねん?」
 実際にどうであるかはわからない。ただ、瑠琵はあえてその通りと断言する。真相などどうでもいい。
(生まれる前から一緒だった片割れならば――)
 言葉を飲み込んで、彼女は告げる。
「まぁ、ドジ踏んだ事を罵って泣いてやる事じゃ」
 憎みあった記憶しか残らないよりはマシだろうと、彼女は思う。
「おい、騒がれねーうちに、退散しようぜ」
 魁斗が仲間たちに声をかける。
 タバコ好きの彼は、全館禁煙の病院からは早く退散したいのだろう。
「姉を乗り越え、今貴女は生 ています。もう恐れ ことはありません。お大事に」
 音もなくそばに寄った鬼崩が金平糖を手渡す。
 大ケガをしている彼女を見て愛花が息を呑んだ。
「もう階段を怖がらなくても大丈夫だからね! ……それと、お姉ちゃんにさよならを言ってあげて、くれるかな?」
 とらの言葉に愛花が言葉を詰まらせる。
 沈黙する愛花を見て、とらは残念そうに眉を寄せた。
 リベリスタたちは死体を回収して病室を後にした。
「……じゃあな」
 鷲祐が扉を閉める。
「……さよなら、お姉ちゃん。」
 扉の向こうから、かすかに少女の声が聞こえた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 ご参加どうもありがとうございます。
 いろいろ工夫していただけて、リプレイに盛り込むのにうれしい悲鳴をあげてしまいました。
 また、機会がありましたらどうぞよろしくお願いします。