● 一般的な家庭の一般的なひとコマ。 外は冬の風が吹いているものの、温かい食事に温かい家。 父親と母親、それに娘が食卓を囲んでいた。 けれど、神秘外であっても不運、不幸、災難はあるものである。 突然家の中に男が二人入ってきたと思えば、あっという間にナイフで父親が刺された。 内蔵に貫通し出血は多量、瀕死の状態……そして、動かなくなった。 母親が大声を上げて死体に寄り添って叫ぶように泣いていた。 その間にも男達は家の中を物色し、金目の物を探していた。強盗殺人というものだろう。 奪い奪い、全てを奪い。最後には母親にまで手をかけていった。 並ぶ両親の死体の横で、残ったのは娘が一人。 それと――飼っていた犬が一匹。 強盗達は顔を見られた娘を殺そうと近づく。 だが、一番娘に懐いていた犬が走り出し、強盗達へと噛み付く。 何度も何度もぶたれようが、切られようが、それでも強盗へと立ち向かった。 「コロ……」 泣きじゃくる娘は飼い犬の名前を口から零しながらも、どうすることもできない状況にただ呆然とするばかり。 そのうち、コロは動かなくなった。 ついに、ナイフが貫く順番は娘へと回ってきた。限りなく迫る死へのカウントダウン。一歩一歩と強盗が近づく度に、その鼓動は高まっていく。 もし、これが最後にハッピーエンドが待っている物語だったらどれだけ良いだろうか。 もし、運命が彼女に微笑んだら何が起こるのだろうか。 だがそんな事は起きたりしない。 ナイフはいとも簡単に、少女の胸を貫いた。 全てをやり終えその場から去ろうとする強盗だったが、無情にも神秘は此処から介入する。 起き上がったのは、犬だった。 それも普通の犬ならまだしもエリューションと化し、怒りと憎しみで瞬時に育った結果、その力はフェーズを一段階上へと上げた。 状況の読み込めない強盗達は、紙屑の如く命を散らす。 その後、その家を訪れた人々が次々と姿を消したという。 ● 「皆さんこんにちは、今回はE・ビーストの討伐をお願いします」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)はブリーフィングルームのモニターを弄りながら話を始める。 「見ての通り、惨劇が起きた痕跡です。この家で飼われていた犬がエリューションと化しました」 娘は小学生だったが学校にも音沙汰無く、父親も仕事場へと赴かない。完全に外界から消えた家族。おかしいと思う者は居て当たり前だろう。 その家を、これから訪れる親戚や警察が次々に姿を消してしまうのだけは阻止しなけばいけない。 「敵は一体ですが、少々時間的な問題があるのです。増殖革醒現象は皆さんもご存知ですよね? 運悪く此処には死体が五つもあります」 E・ビーストの影響を受けた死体が起き上がる可能性もある。早めの対処が必要な様だ。 「E・ビーストは中型犬ですが、素早さに長けています。お気をつけて下さいね」 忠犬は今でも主だったものを守っているという。 「それではご武運を」 杏里はリベリスタに頭を下げて見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月06日(火)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●気まぐれの意思 12月の風は肌に冷たく突き刺さっていく。 とある一戸建ての玄関前、8人のリベリスタが集まっていた。夜中ということもあり、明かりの無いそこは一段と冷たくなって見える。 『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)が拳を握り締め、静かに怒りに震えていた。 「神秘さんの間の悪さには本当に頭にきますねえ。まあ一番気に入らないのは強盗の方なんですが……」 けして怒っている訳では無いが、気に食わない事件に気に入らない神秘の介入。 今回の依頼は救いがなさ過ぎる。とはいうものの、神秘とは気まぐれであり、無情。運命や神秘に感情というものがあったのなら、それは絶対の地位も揺るぐのだろう。 それは重々承知しているが、いざ目の前に運命の被害者が表れた今、その無情を感じずにはいられるものか。改めて神秘には呆れたものである。 「運命とは、かくも残酷なものですね……」 『不屈』神谷 要(BNE002861)も同じように思っていた。 けれど自分達はリベリスタであり、飽くまでも世界のセイギノミカタ。経緯がどうであれ倒すべきものは倒さなければいけない。それは世界のため、現実世界のため。 リベリスタに志願した瞬間にその使命は課せられたか。いや、考えるのは止めよう。議論するべき時では無い。目の前の壁は倒すだけである。 「主人を護りたい思いさえ踏み躙らないといけないのか」 要の武器を握る手が震えた。 「……あれ、玄関開いてますね」 エクス キャリー(BNE003146)がドアノブへと手をかければ、それはいとも簡単にガチャリと開いた。侵入はそこからできそうだ。 それが今回の事件の最大の過失だろうか。無用心も良いところだ。 それを見た『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)と『半人前』飛鳥 零児(BNE003014)が辺りへ結界を張った。これで一般人の介入は無いだろう。 ――突入の時間も近い。 「任務を開始する」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がそう言いながら馴染んだ帽子を被り直す。それと同時にハイディフェンサーを発動させた。 それに続く様に各々が自らへの能力を強化させるスキルを発動。 そして、そのまま玄関の扉を開く――。 要を先頭に扉を開いても、E・ビーストである『コロ』は襲っては来なかった。 中は酷く静かで冷たい空気のみが漂う。 フツが家の明かりを点けたため、電球の光りが闇の中を照らした。玄関先はまだ日常的な風景だったが、リビングへと一歩踏み入れば、辺りに血が飛び散った形跡のある殺人現場であった。 リビングの出入口には逃げようとした強盗の死体が重なっていた。所々かじられた跡がやたら目立つ。 奥で家族の遺体が重なる様に転がっている。 『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が一連の事件の思い返して、少しその顔が悲しみに歪んだ。 神秘の世界でも人殺しは絶えないが、一般の世界でも当たり前にそういう事は起きる。それも万華鏡で予知して介入できればどれほど良いだろうか。 「死してなお、主人を護るですか……」 エリューションで無ければ素晴らしいハッピーエンドだったはず。その主人公とも言えるコロをその目で探し始める。犬の唸り声は聞こえているため、いともたやすく見つける訳だが……。 リビングの奥。小さな遺体の横で、エリューション化したコロが声を唸らせてこちらを見ていた。 勿論長けた嗅覚は、誰かが家の中に入ってきたのを既に悟っていただろう。 「主人を護ろうという心意気よしや。挑ませてもらおう」 ウラジミールがダブルシールドを構える。 守るべき遺体からは離れず。だが、主人を脅かす部外者が侵入したと見なしたコロが、牙を剥いてリベリスタへ襲いかかった――。 ●積み上がったそれは赤く、冷たく 飛び出してきたコロの牙は、真っ直ぐに『無影絶刃』黒部 幸成(BNE002032)へと向かった。だが、その間にウラジミールが割って入り、その牙を代わりに受ける。 その後ろで幸成が壁を蹴り、面接着で壁を伝う。その姿は忍者らしい忍者だ。 向かうは遺体の下へ。 コロは娘の身体の護衛が最優先だった。すぐにウラジミールから離れては、幸成と遺体の間へ向かう。 その行為は意地か本能か、どちらにしても救われない遺体にとってはコロの接近は増殖革醒の危機を起こす。 「その忠義、見事で御座る。だが……」 こちらも譲る訳にはいかない。 幸成はペルソナの仮面の下に感情を残し、無表情でコロへ気糸を放ちその動きを縛った。 「ちょっと待ってな、今その傷なんとかするからな!」 狭いリビングだったが、フツがウラジミールへ傷癒術を展開した。 その前に貼っておいた守護結界が幸だったか、その傷は完全に治癒されていく。 一番奥にあった家族の死体の下へリベリスタが立つ。 父親であろうその上に母親が重なり、その隣に娘が蹲っていた。なんと痛々しい状況だろうか。 流れた血は既に酸素に触れて黒く染まっている。遅すぎて、手遅れで、これから黄泉がえりの悲劇も待っているかもしれない。 「……ごめん」 心苦しくもセルマは武器を振り上げ、まず遺体の足を切り取る。 「後で丁重に葬るので、ご勘弁を」 孝平もそれに手を貸す。 記憶を持ったままエリューションとなるのであれば、リベリスタが手を汚してでも止めたい。その行為がどんなに酷なものであろうと。 零児もその顔を歪ませた。 零児はコロがずっと傍にいた娘が一番始めに起きあがると確信していた。 その身体を傷つけつつも、やりきれない思いが心を埋める。 「……もうちょっと力があれば」 ――一瞬で全て片をつけるとこなんだがな。 動かない娘にギガクラッシュを放ち、冷たい肉塊がいとも簡単に飛んだ。 気糸で縛られたコロが、高い音で鳴き、泣く。縛られた気糸が身体に食い込むほど動いたが、幸成の意思はそれよりも強く脱出できず。 ちぎれて飛んだ娘の腕が、悲しくコロの身体を掠った。 エクスは強盗であろう遺体の下に居た。 「時間が惜しいので手加減できないが、許せ……」 両手に構えたブロードソードを振り落としてギガクラッシュを放つ。 ふたつを巻き込んでは、死体の解体を始めた。神秘に遭遇してしまったのは同情してもいいが、その剣は容赦無く作業を続ける。 その横にいた要が麻痺をもらっているコロへと攻撃を仕掛けた。 「すまないな、私はこれしかできなけど……」 放たれたジャスティスキャノンは吸い込まれるようにコロへと直撃した。 怒りは娘を傷つける者達へと向いていたが、矛先は要へと変わる。コロのその怒りに血走った目が要を見た。 死骸を傷つける事ができなかった要は、その怒りの目は受け入れようと難儀する。 ――そう、そのままでいなさい。 その目はずっとこっちを向いてい欲しい。けして、死体は見てはいけない……。 せめて少しくらいは救ってやりたいものだった。 ●流れる涙は血となりて その中で怒りの増したコロが気糸を抜け出す。 ジャスティスキャノンの影響を抜け出したコロは、やはり娘の身体を傷つけた孝平へ牙を剥いた。 小さな身体を少し後ろへ下げて勢いをつけ、そのまま力任せに走り出す。 その突進を見極めたウラジミールが再び割って入り、その胴でコロの攻撃を受け止めた。 「く……ぐっ!?」 力強いその攻撃は重く、ウラジミールがつい油断すれば胃の中の物を出しそうになったが、意地で喉元で止めた。 だがその攻撃を受けた衝撃で、その身体が後ろへ後退する。 狭いリビングの中だ。孝平へとウラジミールの身体がぶつかり、その勢いのまま倒れ込む。 それだけでコロの攻撃は終わらない。 再び体勢を整えたコロは身体を回転させ、家族の死体の傍にいた4人を巻き込んで攻撃。 遠心力によって回された尻尾がリベリスタを薙ぎ払った。まるで傷つけるのをやめて欲しいかの如く、その攻撃はあたっていく。 すぐにフツが回復に回ったが、全員を回復させるのに全体回復が無いため少し時間がかかるだろう。 娘の肉塊の上に立ったコロ。どんな形であろうと、その死体を守るのが最優先事項である。 だって、一度。守れなかったから――せめて、今は。 理性のほとんど無いエリューションは本能に任せて動く。その行動が意味を成さずとも、それに忠実に。 薙ぎ払われた幸成がふと娘の遺体を見れば、ピクリと動いたのを見た。 「まさか!?」 コロの足元で肉塊が震える。 「もう……いいよ」 小さな少女の声が響いた。コロと接触していたのが駄目だったか、少女がE・アンデットとなったのだ。 コロを見つめ、動かない身体で訴えていた。フェーズは1故、リベリスタが止めを刺すのは容易だろう。 コロを止めたいのは最期の願いの所以か、小さな声で霞んだ願いを吐いていた。 「もう、いいから……」 遺体は破壊していたおかげか、E・アンデットは思うように動けていない。だがその前にそれを守っているコロを排除しなければならないだろう。 すぐさま動いた孝平がバスターソードを握り、ソニックエッジを発動。剣先はコロへと向かっていく。 「感情が残ってるのは、なんとも残酷な……!」 その攻撃は惜しくも掠ってしまったが、リベリスタがそれに続く。 感情を押し殺した幸成が再びギャロッププレイを放とう手を出したが、その前にコロが動く。 「……ッ!!」 声鳴き声で叫びながらも、牙が幸成へと向かう。 「まだ倒れてはられんのでね」 だが再び間に割って入ったウラジミールがその牙を受けた。滴る血が傷口から流れ出ていく。 だがウラジミールは止まらずにそのまま前へと全身し、壁際へと追いやる。 悲しいE・アンデットはこれ以上はいらない。 「死後も続くその忠義は見上げたものです。が、それもこれまで!」 セルマが集中に集中を重ねた一撃を舞った。 祭器「化身の樹」を振り上げ、コロの頭上へと一気にたたき落としては、魔落の鉄槌を放った。 高い声で鳴いたコロの声がやたらセルマの胸に響いた。横を見れば強盗の死体が転がっている。 (お前等さえいなければ……っ) 確かにそう思ったが、目の前のエリューションが死ぬまで感情は表に出さない。 「ころ……?」 動けないE・アンデットがコロの名前を呼んだ。 彼女も立派なエリューション。ほおっておけば、増殖革醒を引き起こす要因ともなる。 「悪いな……」 回復のし終えたフツが式符を放つ。 「あんたの家族を守るために、あんたを殺すよ」 悲しい最後は見ていられないほど悲しいものだが、それが最善。放たれた黒い鴉が娘を居抜き、動かなくなった。 残ったのはコロ単体。 勿論影響を受けた違う遺体が再び起きあがるかもしれない。それだけは防がなくてはいけなかった。 義足の右腕が痛む気がした。 零児はつい先日神秘に触れ、殺されそうになった。 無くなった右腕でバスターソードを振り上げ、ギガクラッシュを放つ。 「俺はまだ無力だけど、こんな依頼でも必死にもがいてみせるよ」 反動が自らを襲うがそんなのは関係無い。きっとコロはもっと痛い思いをしていたはずだ。 それと同時か、エクスが交差させたブロードソードをコロへと放ち、同じくギガクラッシュを放った。 「向こうでは、きちんと幸せになるんだぞ」 ふたつのギガクラッシュがコロを襲う。 ふらふらに立つE・ビースト。口から零れる唾液が涙の様にも見えた。 最後に要が引導を渡す。 長い銀髪の髪を揺らしながら、ブロードソードが残った体力を根こそぎ削り取る。 血の涙を流してるそれは、やがて動かなくなった――。 ●せめて向こうでは幸福で 再び静けさを取り戻した家内。 「ゆっくりと休むが良い……」 エクスがコロの頭を撫でながら呟いた。 その横で孝平がAFを電話代わりにアークへ連絡。埋葬の手配をする。 「お前さんみたいなのを忠犬って言うんだろうな。家族も幸せもんだぜ」 フツがそう言った後、手を合わせて念仏を唱える。それに合わせて仲間達も一緒に冥福を祈った。 それを背で聞きながら、セルマがその場を後にした。 「死んだら仏、か。私は矢張りそんな風に達観はできませんねえ」 ため息を吐けば、空気が白く染まる。 玄関を開いて外に出たら、やはり12月の風は冷たく。ただ、その肌を撫でていくだけであった。 「任務完了だ」 念仏が終わった頃にウラジミールがそう呟く。 少女の手の中には、要が握らせた赤い首輪が握られている。 ――あっちで散歩するのに、必要だもんね……? 虚空に響いた声は、きっと向こうにも伝わっているはず。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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