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【雨業の衆】斬鎖降らすは血の大河

●『贄』であれ
 彼らは全が一つの妄念である。
 彼らの血筋は犠牲者であることを強いられ、犠牲者であることを受け入れた一個の集団だった。
 故に『贄』であることを疑いもしなかった。『贄』たることを誇りすらした。
 だからだろうか。
 たった一滴の毒が全ての水を汚すように、彼らはたった一つの因子で、
 一個の悪であり狂気であるように出来上がった。そうなってしまったきっかけは、
 きっと永い歴史の果て。
 信仰と狂気が生んだ彼岸の存在であるのだから。

 そして『贄』は新たに生み出された悪意を携え動き出す。
 血の雨を降らす為だけに生み出され、全てを贄とする雨の呼子。
 死を渇望する悪意は果てず、朽ちず。

●鉄鎖斬鎖の檻を抜け
「前回の依頼に於いて、アーティファクト『雨乞いの秘跡』を所有したフィクサード集団は自分達を『贄』と称し、好戦的な性質と狡猾な側面を持つ上で、アーティファクトの存在そのものがその精神と深く結びついている可能性を得ることができました。皆さんに回収して貰った破片からも、ある程度の精神束縛の性質を持つことが分析結果として挙げられたのは大きいです。……そのデータがあればこそ、新たなアーティファクトの発現を観測できた、ということになりますか」

 状況は有効に推移している、といっていい報告だった。だが、それでも『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)の表情は優れない。これから口にする内容を既に見通している身として、それがどれだけのものかを知っているからなのだろう。然るに、それが決して楽ではないことも。

 モニタに映されたのは、ローブとフードに身を包んだ――体躯からして、恐らく男。その装いが既に特異ではあるが、それ以上に目を引くのは、周囲を旋回する鎖の雨。幾条にも折り重なって旋回するそれは、既に赤を纏ってまき散らしている。

「アーティファクト『驟雨の斬鎖』……これもまた、件の『原型』が産み出したものと推測されます。見て頂ければ概ね分かるかと思いますが、鎖型、自律系アーティファクトの一種と推定されます。接近する敵意に対しての対応力は極めて高いと想像されます、が……厄介なことに、この鎖は遠距離攻撃、その全てを受け付けないようです」
「接射でも、か?」
「未知数です、とだけ言っておきましょう。この反射速度を超える程度の接射なら、つまりは相手の間合いです。そのリスクを上回るリターンが期待できるなら、価値はあります。それに、この自律防御を無効化する策も、既にこちらで算出済みです」

 一部から、僅かに快哉が上がったかもしれない。だが、リベリスタの一人は彼の視線を見逃さなかった。
「無効化する」と言った時、確かにこの男の視線の温度は数度ほど下がったのだ。冷徹な光を灯したのだ。

「……言ってみろよ。俺だって碌でも無い策らしいのは分かるぜ」
「そうですね。『碌でも無い』、言い得て妙です。僕だってこんな馬鹿らしい事は言いたくはない」
 そう返すと、夜倉はひとつ呼吸を整え、口にする。

「『驟雨の斬鎖』が距離をとった相手を狙った時、または接近した敵を二名以上束縛した時。その時が最大の好機かと」
 さらりと言ってのけるこの男の冷静さが、リベリスタへの信頼なのか。不安を感じつつも、戦端は開かれる。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月08日(木)23:44
●成功条件
『驟雨の斬鎖』の破壊。破壊=フィクサード精神崩壊の為、生死不問。

●エネミーデータ
『贄』の男-デュランダル。Rank1の全て、Rank2はデュエリスト、戦鬼烈風陣を習得。
 活性化はランダム。戦闘スキルは暗器熟練Lv2、麻痺無効。
 非戦は痛覚遮断とジャミング。
『驟雨の斬鎖』による精神操作により、WPはかなり高い。
 アーティファクト固有スキルについては以下を参照。
 

●アーティファクト『驟雨の斬鎖』-男の腕に絡みつき、常に周囲を旋回する鎖型アーティファクト。
 使用者に以下のスキル使用を可能とする。
・自律防御(P):近接距離以遠から放たれた遠距離攻撃(物神問わず)を無効化。
 近接攻撃の命中を1/3にする。

※「射抜く鎖」の使用ターン、又は「戒め」の効果で2名以上を束縛した場合、この効果は発揮されない。

・射抜く鎖:神遠単・中・神無。遠距離の相手を高速の鎖で撃ちぬく。
・戒め:物近範・麻痺。麻痺した場合、回避半減。

●戦場
 駅前通り・深夜。
 人通りはさほど多くなく、強結界で人払いは可能ですが、不測の事態が起こりやすい環境です。

 単一の敵ですが、御しやすい相手ではありません。
 選択はどうあれ、皆様の尽力を期待します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ソードミラージュ
雪白 凍夜(BNE000889)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
ソードミラージュ
番町・J・ゑる夢(BNE001923)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
マグメイガス
オリガ・エレギン(BNE002764)

●贄が歩き贄を求め
 小刻みに、蛍光灯が点滅を繰り返す。
 既に夜は半ばを過ぎ、中規模の駅であれば既に終電は過ぎて久しい頃だろう。
 だが、万華鏡の予測が残酷なことは、戦場となる場所が比較的規模の大きい駅であること。
 出現するであろうフィクサードが狡猾さを発揮するには、余りに周到な場所であると言えたのだ。

 バスプールは既にはけ、僅かに残るタクシーは徐々にその数を減らしつつあった。
「この辺、これから工事らしいんで人来ないと思うんですよ。一旦抜けてもらっていいですか?」
「ナンだいあんちゃん、急だねぇ……ま、そう言われちゃおまんま食い上げだ。しゃあねえなあ……」
 地道にだが、一台ずつその誘導に買って出たのは『不幸自慢』オリガ・エレギン(BNE002764)だった。既に一度『贄』との戦いを経験している彼にとって、過剰な戦場構築が相手へ付け入る隙を与えることは今更語るまでもない。だが、一度の後手で救える命がある以上、それを怠る愚をアークのリベリスタは良しとはしないだろう。
「はーい、ちょっと取り込み中ですので場所を空けてくださいねー?」
 無論、初見のインパクトの大きさという面で言えば人払いに最も適していたのは番町・J・ゑる夢(BNE001923)なのかも分からない。そこは感性の問題というやつだろうか。

「人の信仰は尊重する主義だけど、エリューション絡みじゃ話は変わるわよね……」
「あの鎖、もう生贄とかそういう次元じゃなくなってるよね……」
『崩壊印度魔女うーにゃん』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)と『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)は、揃って封鎖作業に従事しつつ、様々に思考を巡らせていた。麺でも鰯の頭でも、信じる者があればそれは信仰の導となろう。が、世界に害意を与えるそれは見過ごすわけには行かず。無差別に人を殺し続ける破界器の存在は、既に贄を求めるという単純行動から逸脱しているようにすら思える。彼女たちの思考は尤もなものであった。

「差し詰め祈雨の贄、とでも言った所か。贄がなきゃ祟るんだろう、そういう神は」
「世界にそういう一面があるとはいえ、犠牲者が加害者になろうとするのはナンセンスだ。迷わず倒すさ」
 犠牲を『贄』と言い換え、神事と忌避を合一し、罪を多くで共有する神秘的共犯思想。それが此度の混乱の根底を流れるとするならば、それの愚かしさは『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)や『原初の混沌』結城 竜一(BNE000210)達が考えるそれを大きく上回る。その愚かしさを如何とせん、この場に集まったリベリスタ達にとってそれが憎むべき悪意の一端であることは語るべくもない。
「ならば……遠慮はいらんな」
 周囲に同意を求めず、自らに言い聞かせるように、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は静かに怒りを練り上げ、自らの意思をひとつの方向へと傾けていた。その拳を覆う手甲は、その名に違わぬ戦闘を成し遂げんとその覇気を立ち上らせている。

「ここまでやった上で不意打ちを仕掛けてきたなら、それこそ褒めてやってもいいけどな? まあ、どちらにせよ倒すだけだが」
 何時敵が現れるかも分からぬ状況下、襲撃に神経を尖らせながら『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は毒づく。多少の知恵を以て戦闘を優位に進めようとする相手ではあるが、それに先手を打ってその目論見を潰すのがアークのリベリスタの戦い方だ。多少のイレギュラーはあれ、それも含めて先手を打ってこそだと彼女たちは理解している。

「――周到だな。怯えすぎだと思わないか?」
「また、上からですか……!」
 厳かな声が、上空から降ってくる。落下を操るか、或いは飛行能力がなければ危険な行為をしてその声に怯えはなく、応じたオリガの魔曲をもその自在な動作ではじき飛ばす。落下地点に幾条もの擦過痕を残し、それでもなお暴風のように荒れ狂う鎖を従え、その男は戦場へと現れた。
「託されたものらしいが、そんなくず鉄に命を預けるとはお笑いだな」
「芸もなく上から来るだなんて、本当に碌なものじゃないですね、貴方達は」
「言っていろ。じきにその軽口にすら後悔する」
 あからさまな挑発を向けるユーヌとオリガに、しかし男の声色は揺るがない。絶対の自信に裏打ちされたそれは、相対するには余りに苛立ちを感じさせるものであった。

「そんな神の加護なんて要らねえよ、だから」
「ここで、お前を潰す……!」
 凍夜の言葉を、優希が引き継ぐ。静かに、しかし赤く燃え上がるその怒気は激しく。
 開戦の口火を切ったのは、真っ先に飛び込んでいった竜一の咆哮だった。

「月ヶ瀬さん、あなたの策……のらせてもらうわよ」
 ウーニャが、竜一の背に目を向けながら静かに口の端に載せたそれは、果たして冒涜か称賛か。
 それは、彼らが示すことだ。

●犠牲とはなんぞや
「……チ」
 竜一の一撃は鋭かった。フェイトを持たぬ者としての偽装が、男をして彼から意識を外させていたがゆえに、その一撃は不意打ちに等しいものだった。だが、それでも自律防御の壁は厚い。戦闘巧者の部類に入る彼をして、的を絞らせはしない。
 だが、彼の目的はそれではない。ブロードソードを一度手から離し、その勢いのままに強引に鎖に手を伸ばす。だが、返ってくるのは指先を叩き斬る如き鋭い痛み。指先が繋がっていることが奇跡とすら思えるその鋭さに戦慄すれど、可能性を探るにはそれで十分。
「かまわねえぜ、存分に、お前らの味わった辛苦を俺にぶつけてこいよ!」
「抜かせ、その強がりが間違いだったと今、知ることになる!」
 鎖を伝い、電流が錯綜する。速度を上げ、唸りを上げて竜一に叩きつけられる。
「叩けば壊れそうな鎖で、よくやるものだ。その程度とは、安い信仰もあったものだな」
「貴様……ッ」
 竜一の影から飛び出す形で、優希の拳が唸り、爆ぜる。一瞬の間を利用して精度を上げてはいるが、それでもその防御には届かない。だが、それも策のうち。それが狙いのうち。そうでなければ戦いは成立しない。

(仲間を信頼しているからこそ、出来ることだってあります……!)
 己の絆の一端に手を添え、ゑる夢は声もなく仁義を切る。己が己であると高らかに宣言し、自らを高める準備行動。己の高めた戦闘様式を尚も高めようとする意識が、その一瞬に確かに宿る。
(優希さんが粘っている間を、無駄には出来ないよね……!)
(分の悪い賭けは嫌いじゃないのよ、私)
 凪沙とウーニャも又、その一瞬を微塵にも無駄にするつもりはない。故に、その行動を次の一撃に賭けるべく意識を傾ける。

 ――そして、そのタイミングでさえ自分達へと運を引き寄せるべく行動する者もまた、存在する。

「『雨乞いの秘跡』を持っていた4人の事を、知っていますか?」
 静かに問いかけを投げたのは、オリガ。男からの返答はない。だが、そのフードの奥から溢れんばかりの殺気が溢れ、自らを貫いているのだけは分かる。彼が陽動に乗る安直な性質であれば、直ぐにでも彼を貫かんとしたであろうほどの殺気。
「――皆まで言うな。貴様も彼女らの後を追わせてやろう」
「目の前の戦いから目をそらす余裕があるのか、舐められたものだな俺達は!」
 優希が、叫ぶ。その全力をも容易く止める防御網は、二人がかりで責め立てても尚もその顔をだそうとしない。男は、怒りを孕み、狂信に身をやつし、それでも精神の際で冷静だった。鎖の速度を限界まで押し上げて、竜一の『掴み』を無為とする。優希の拳を容易く弾く。返す刀で打ち据える。
 絶対防御、限定的であれその名をほしいままにするには十分すぎる防御力を持ちながら、悠然とその戦場を支配する。

 戦場が有機的であればこそ、その状況は当たり前のように起こり得た。
 その一瞬が意味を成す程に、彼らはその役割を果たしたということだ。

「もっと広い視野を持てよ、狂信者」
 男の視界の果て、完全な意識の外からその声は襲来する。

●誇りをその手に、矜持をその身に
「――、何っ、だ!?」
「前の敵ばかりに意識向けてっと、痛い目見るぜ……まあ、もう遅いけどな」
 反射的に振り抜かれた鎖は、しかし虚しく空を切る。自律防御をして背後から強かに切り裂かれたという事実は、男の意識を揺るがして余りある戦果といえた。気配を断ち、男の意識から徐々にその姿を消し、一気呵成に一撃を与えて離脱する。凍夜の想定通りの展開を生み出したそれは、確実な勝算をそこに割り込ませた。
「便利な鎖だけど、近くで見ると大したことなさそうね」
 悠然と、さりげなく近付く様にウーニャが歩を進める。反射的に振り返った男の視界を覆ったのは、連続して錯綜する気糸の乱舞。気糸と鎖が鬩ぎ合い、男の頬、腹、脚と断続的に削り取っていく。縛り上げるほどの精度まで辿り着かなかったとして、連続してその防御を抜けられたことは、男に大きな焦りを与えたことは間違いない。

「大丈夫か、竜一? 焔も、少し休んでいいぞ」
「有難うユーヌたん、そうしたいのはやまやまなんだけど」
「あの二人ばかりに任せるわけには行かないからな……」
 初動の激戦を抜けて尚、二人の戦意は微塵にも衰えなかった。その防御を目の当たりにしたからこそ、対峙する二人の一撃が如何ほどかを身をもって知ることが出来る。だからこそ、その鎖の脅威が理解できた。
 だが、だからこそ。凍夜とウーニャが生み出すであろうチャンスを逃さぬ手は何処にもない。

「調、子に……」
 鎖が、僅かに動きを鈍らせる。不規則に旋回していたそれに規則性が生まれ、誘導性が生まれ、踏み込んだ凍夜とウーニャを巻き込んで荒れ狂う。
「……乗るなッ!」
 鎖の末端を引き絞るように腕を振るった男の挙動で、鎖は二人を同時に縛り上げ、その動きを制限する。全身に食い込む鎖の音が生々しく、その肉体を強く戒めて離そうとはしない。その一瞬が成した痛撃が二人に与えたダメージが如何ほどかなど、最早考えることすら愚かしい。

「はっ、やっと捕まえたぜ……そんじゃ、我慢比べと行こうじゃねえか」
「分の悪い賭けにも、出てみるものよね……!」
 縛り上げられた二人には、しかし痛撃を受けたことへの辛苦は全く見られない。それどころか、自らを縛る鎖を無理やり掴み、自らを的にかけようと全力を振り絞っている。自律防御は、既にその用を足さず。自らの射程外を完全に遮断した猛威は彼を守るには値しない。

「所詮子供遊びに等しかったということだ……!」
 優希の拳が、勢いを載せて男を打ち据える。そのまま一気に叩きつけられた相手には、その驚きで表情に余裕が無い。追い打ちをかけるように、彼の視界の端に幻影を描いたのは、ゑる夢の構えた刃の軌道。
「弱いですね。貴方も、貴方の信じるそれも、全く、弱い」
「もう、逃さないよ!」
 彼女の斬撃を縫って突き出された凪沙の拳が男の身を焼き、痛撃を重ねていく。

「――あアァッ!」
 咆哮と共に、鎖の余丁が薙ぎ払われ、振るわれ、彼らを一気に引き裂いていく。既に満身創痍の二人をして、その一撃が有効でないはずがない。集中攻撃に出た面々とて、容易に受け止めきれる勢いでは決して無い。
 それでも、彼らは退こうともしない。立ち止まらない。全身全霊を賭して、その限界を超えるまで戦い抜く、ただそれだけだ。

●捧げられるべきは、
「信仰は、人が勝手に行う事。神や誰かが、言葉やモノで縛ってさせる事じゃない」
「抜かせ……! なれば、我々の命運をも身勝手な言葉とその手で止めた者達はどうなる? 我ら『贄』を生んだのは、誰あろう大衆の想いであろうが! 斯様なことも知らず、勝手を抜かすな――!」
 静かに言葉を連ねながら魔曲を放ったオリガだったが、しかし男とて、何時までも自律防御を恣に突破されるわけではない。防御を妨害した二人の意識が途絶えた一瞬をしてその鎖を引き戻し、彼の一撃をゆうゆうと防いでみせたのだ。

 だが、男は同時に、その身にふりかかる違和感を感じても居た。自らの行動が正しく成立しない違和感、本来なら当てることなど容易い一瞬が手の中をすり抜ける違和感――

「やっと気付いたか。不感症なのはつくづく大変そうだな?」
 ユーヌが、嘲るように口の端を歪めた。先の一瞬の交錯に於いて、その運を穢す呪力の影が彼を覆っていたことに、本人すら気付く暇を与えなかったのだ。
「雨は俺の味方でもある!吹き荒べ、雷よ!斬り裂け、雷切ィィィィ!」
 竜一が叫ぶ。雷切(偽)に雷を乗せ、その名を真にせんと男へと打ちかかる。意識の外で発動させたはずの男の自律防御は、しかしその軌道をあらぬ方へ散らしてその一撃を招き寄せ、吹き飛ばす。

「あなたの信じる神とやらは、そんなもの頼らなければ奇跡を為せないと?」
 別方向から、ゑる夢の言葉が吹き抜ける。反射的に鎖を振り抜いた男は、自らが貫いた相手、その瞳の奥に恐るべきものを見出した。恐れがなく、自負がなく、しかし如何なる攻撃からも立ち上がって見せようと高らかに宣言する強靭な意思。それが自らを狙わせたとするなら、それは脅威以外のなにものではなく。

「畳み掛けるぞ、衛守!」
「おうっ!」
 優希が、そして凪沙がその絶好機を逃すはずがなかった。互いの手の内を晒して競い合った好敵手の二人が、相手に同期して連携を重ねることなど難しいわけがない。完全な左右対称の移動軌道、ほぼ同時に左右から振り下ろされる拳が男を強かに打ち据える。優希の大雪崩落が地面へと叩き付け、凪沙の炎を纏った拳がその追撃を容易くこなす。

 叩きつけられた拳の先で、鎖が音を立ててひび割れる。徐々に砕けていくそれが跡形もなくなるまで、殆ど時間はかからなかった。

 崩れ落ちた男の瞳から、光が消えて行く。直前、彼の肩をつかんだゑる夢の脳裏に流れ込んだイメージは、圧倒的な負の感情、そしてそれを越して尚輝きを増す人形の『なにか』だった。あれは決して人ではない、と本能が叫ぶ。唐突に断線したイメージを振り払い、ゑる夢は空を振り仰ぐ。

「空は雲行きが怪しいですね。一雨、来るでしょうか……」

 オリガの祝福が、竜一とユーヌへと向けられる傍ら、彼女は迫り来る雨の気配を少しずつ感じ取っていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 依頼参加、お疲れ様でした。
 アーティファクト依存技が余りにピーキーであることもあり、相当堅実な 戦闘の組み立てを行ったはずなのですが、まさか「鎖を掴む」という選択肢が出てくるとは……。
 ダメージ被害はえらいことになるとしても、その選択は驚愕しました。
 結果的に、肉を切らせて骨を断つを地で行った形となりました。
 多少の被害はあったかもしれませんが、総合的にはかなりのものです。
 次の依頼も、頑張ってください。