●承前 埼玉県、廃病院――。 数年前まで総合病院として機能していたが、病院自体が移転してそのまま遺棄されていた。 カルテや書類、高価な医療器具以外の設備は、割と手付かずのままで残っている。 だが、今は見違えるように綺麗に整理され、掃除も行われていた。 院内では慌しく医師が診断に当たり、看護婦が指示を受けて巡回、受付が来院患者を案内し、薬剤師が相談に乗っている。 通院患者が待合室を埋め、入院患者があちこちを歩き、見舞客が来訪して患者と会話していた。 そして、手術室では生き死にを賭けた手術が執り行われ、食堂にも客がまばらにいる。 院長らしき精悍な男性が聴診器を首に下げ、後ろに医師や看護婦を引き連れ、まるで大名行列のように歩いていた。 「西前院長の、総回診です――」 病院中にアナウンスが流れ、近くの入院患者は全員病室へと戻っていく。 彼等は常に一般病棟を隈なく歩き、患者の回診を繰り返し行っている。 院長の聴診器からは、時間を置いて次々と新たな医師、看護婦、患者達が誕生していた。 ――それ等全てが、青白い光を放ったエリューションフォース達なのだ。 ●依頼 三高平市、アーク本部――ブリフィングルーム。 『リング・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、リベリスタ達にカレイドシステムの映像を見せてから話を切り出す。 「前回アーティファクト『魂の帰還』の破壊を、他のリベリスタ達に依頼してのたけれど、失敗した。 場所は埼玉県の郊外にある、この廃病院の中」 その中にあった聴診器のひとつが革醒し、アーティファクトへと変化したらしい。 「見ての通り『魂の帰還』は周囲に存在する残留思念を、エリューションフォースに変える力を持っているの。凄い勢いで」 まるで肉体を持たずに魂だけが帰還してきた様に見えることから、この名が付いたらしい。 「生み出されるエリューションフォース達は、奪還に向かった時にある程度数は減ったのだけれど。 時間と共に増え続けて、今では病院内の至る所に出現するようになったの。 フェーズは殆どが1なんだけど、その数は既に100体以上」 その数にリベリスタ達の息を飲む音が聞こえてきた。 『魂の帰還』が存在している限り、延々とエリューションフォースは増え続けるのだ。際限なく。 「このままだと一般人もエリューションフォースを目撃してしまうかも知れない。どんなパニックが起きるか判らないから、早い対処が必要なの」 話が大事になる前に、今度こそ解決しなくてはならない。 イブの話によると、『魂の帰還』を持っている西前院長(さいぜん・いんちょう)とその大名行列は、2時間置きに2階と3階の一般病棟を行き来している。 戦いさえ挑まなければ、院内にいてもエリューションフォース達は外来患者か見舞客と思いスルーする様だ。 だが院長達と戦わずに『魂の帰還』を奪取するのは、困難だと予測された。 行列には20体のエリューションフォースがいて、その中に院長を含めフェーズ2の存在が2体もいるからだ。 「それと、やはり『魂の帰還』の回収を狙うフィクサード達がまた現れるみたい。 でもそっちは今回別働隊に対処してもらうから、皆はエリューションフォースの退治と、『魂の帰還』の破壊だけに集中して」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月06日(火)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●潜入 埼玉県、某町――廃病院。 「ササキさーん、診療室3番にどうぞー」 「本日は耳鼻科の診療はお休みです。緊急の方は内科へご相談ください」 「ほぎゃーっほぎゃーっ」 「急患です! 道を開けてくださーい!!」 「最近孫の様子がおかしくて……」 「あら奥様、お久しぶり~」 「お薬は一日3錠です。食後にお飲みください、お大事に」 次々と聞こえる、声、声、声。 リベリスタ達が病院の中に入るなり、待合室では患者がごった返しているのが目に飛び込んできた。 受付には職員が並び、列を成した患者を受けつけ、看護婦が診療室を走り、患者に話しかけている。 医者が時折受付や患者の下を訪れ、何やら話しこんでいたり、看護婦達に指示したりしていた。 そしてその身体全てが弱々しく発光していることで、院内は明かりがなくても充分に中を見渡せる状態だ。 普段ならよく見かける、総合病院の風景――ただしその全部がエリューションとあって、『さくらのゆめ』桜田京子(BNE003066)は首を横に大きく振る。 「うわっ、これ全部エリューションフォース? 流石に全部相手にしてる時間は無いよね」 余りの数に顔を顰めた京子に、同調した『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)が頷きながら、待合室を横目に廊下へと向かう。 「厄介なもんだ、全部ぶちのめすって訳にも行かないしな」 リベリスタ達が院内に入っても、行き交うエリューション達は存在を無視し、それぞれの作業に没頭している様だ。 『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は溜息混じりに、進行を塞いで話し込むエリューションを避ける。 「すでにおわったその場所……理不尽ね」 だから理不尽を不条理で叩き潰す。それが自分達リベリスタの為せる事だとルカルカは考えていた。 『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)は、ちらりと廊下の先を見やる。 「さっさと片付けてやるとするかのぅ」 ま、面倒な掃除はヌシらに任せた。と、笑んで『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)の肩を軽く叩いて歩き出す。自身は回復の役割に徹する算段の様だ。 肩をすくめた『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)が指で階段を示し、一行は階段へと向かう。 「文字通りの最速で以って、この鬱陶しい破界器をぶち壊させて貰うとしようじゃねえか」 彼等の作戦は院長の西前(ざいせん)が率いる大名行列が、部屋へと完全に入る時点まで集中して一斉に攻撃を仕掛けるというものだった。 「西前院長の、総回診です――」 階段を登った所で、アナウンスと共に3階にいる大名行列を見つけた『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)は、その光景に一人妄想した。 「妾もヒャッハ-いいながら看護婦引き連れて診察する医者を目指すのじゃー」 誰もヒャッハーは言ってないのでは? と、『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)を始めとしたリベリスタ達がツッコミを入れる。 廬原碧衣(BNE002820)は行列が右往左往する様に思わず呟く。 「実に滑稽だな……」 かつて、権威を誇示する事に固執していたんだろうか? と、彼女は疑問に思う。 所詮は単なる残留思念達であり、実体を持たぬ仮初の姿でしかないというのに。 リベリスタ達の会話を他所に、来栖奏音(BNE002598)はずっと集中を続けていた。 「むむむ~……っ」 戦闘が始まった時に直ぐに対応出来るよう、万全の体制で挑もうとしていたのだ。 やがて行列は各部屋へと診察に回り始め、一行は大名行列の後ろから部屋へと向かう。 彼等はそれぞれが集中を始めていて、一斉に跳びかかる機会を狙っていた。 だが個室では行列の全員が入りきらない為、扉は開け放たれて通路まで敵が並んでいる。 この状態では襲撃すれば、簡単に増援を招きかねない為、一行は大部屋へと移動するのを待った。 破壊へのストーリーが、幕を開ける。 ●先制 大部屋では、西前と里井の診察が続いていた。 里井は目の前の患者を指し、西前へと順を追って説明していく。 「ササキコウイチさん、53歳。胃癌の所見で待機入院しています」 西前は慇懃な態度で聴診器を当てる。 「明日には手術をしましょう。すぐに切除したほうが良い」 患者が不安げに何かを西前へ尋ねようとするが、彼は行列に視線を向けて対応させるだけで、さっさと次の患者へと向かう。 行列から出てきた医師が、つたない説明で患者と話し始めている。 やがて大部屋の奥まで西前と里井が進み、行列は大部屋の中へと完全に入った。 その様子を確認した先頭のルカルカがアイコンタクトで合図し、充分な集中を得たアッシュは後ろの仲間達に告げる。 「仕掛けるぜ、遅れんなよっ」 リベリスタ達は一斉に、アッシュとルカルカの動きに合わせて走り出す。 入った大部屋では患者達を前に、西前と里井が順番に診察を行っていた。 2人を先頭に一同は部屋へと飛び込み、行列の先頭へと回り込む。 リベリスタ達が包囲するように続き、最後尾のメアリが部屋に入って扉を閉め、鍵をかけた。 それとほぼ同時にルカルカが診察していた西前の前へ立つ。 「一気にいくわよ」 無骨なスレッジハンマーを振りかざし、超人的なスピードで前へと詰めると立て続けに繰り出した。 突然の乱入者に対して、行列は攻撃を受けながらも特段動揺する様子はない。 西前が、里井が、医者が、看護婦が、診察を受ける患者が一斉に敵対行動を始める。 だが彼等の行動よりも、先手を取ったアッシュがルカルカに続けて西前と里井との間へと踏み込む。 「最速にて御命頂戴仕る、なんてなっ!」 棘とナイフを交差し、巧みな連続の刺突で里井を押し込んでいく。 集中によって研ぎ澄まされた連続攻撃を正面から受け、里井は身動きが取れなくなっている。 しかし西前は即座に立ち上がって、反撃を取る態勢を見せた。 2人の攻撃を合図に、京子はライフルを立て続けに行列に向けて乱射し続ける。 「魂のあるところを決めるのはお医者さんの仕事じゃないよ?」 乱射は無差別にエリューションフォースを襲い、次々と撃ち抜かれていく。 メアリは防御姿勢を取り、リベリスタ達と距離を取った部屋の隅でエリューションの出方を待つ。 「長引くはこちらの不利ゆえ、短期の終結をめざすのじゃ」 加えて、彼女の役割は回復役である事を考慮し、前線と後衛が見渡せる位置へと陣取っていた。 最後尾のゼルマは自身のマナの力を増幅させ、次手に備える。 「油断するなよヌシら」 狭い部屋に双方の大人数が押しかけていて、何れの距離も近い位置にある為、乱戦になるのは必至な状況だったからだ。 部屋を回り込んで星龍が西前を捉えようとするが、満員の室内で西前が敵とリベリスタ達に囲まれていて、『魂の帰還』を射界に収められない。 僅かな隙から西前へと貫通する銃弾を放ったが、アーティファクトには当らずにいた。 宗一は『魂の帰還』が何処にあるかを視認しようとする。 「ちっ……」 診察を受けていた患者が西前の方へと動き出し、宗一を思わず舌打ちしながら剣を叩き込んで吹き飛ばす。 その光景を同じく見ていた碧衣は、壁を背にして気糸を行列の中へと放つ。 「精々縁の下の力持ちとして頑張るとするよ」 気糸は真っ直ぐに行列の幾人かを貫き、西前へと到達するが『魂の帰還』にまでは届かず、その身体を貫いただけに留まった。 同じく後方にいた奏音は厳然たる聖なる光を行列へと投げかける。 「まずはその他大勢を蹴散らすのですよ♪」 行列のエリューションフォース達が焼き払われ、京子と碧衣からの攻撃も重なっていた3体がその場で消え去っていく。 西前は一行をぐるりと見渡し、両手を掲げて言い放つ。 「360にチャージ……下がって!」 その瞬間。西前の両手から電流が迸り、リベリスタ達を激しく撃った。 攻撃を合図にしたかの様に、行列が一斉に散ってリベリスタ達へと噛み付き、引っかき、襲い掛かる。 ジースは対抗して後衛へと襲い掛かる一人を真空刃で切り裂いた。 行列によって手傷は負わされたものの、最初の集中してからの先制で、敵は全体的に体力が落ちている。 先制攻撃は成功したといえるだろう。後は作戦通り短期間で『魂の帰還』を破壊できるかに掛かっていた。 ●破壊 里井が自身の連続攻撃で動けなくなったのを見て取り、アッシュは電光石火で西前へと反転する。 「雷光は、奔り出したら止まらねェ!!」 その手で西前の防御をすり抜け、『魂の帰還』を鷲づかみにした。 が、相手も手にしている為に完全な奪取とまではいかない。 ルカルカはそれを見て、自身の集中を高めて再度西前へとシュトルムボックの鉄槌を奮う。 「叩き潰してあげるわ」 衝撃で西前の持つ手の力が落ち、ルカルカと視線を交わしたアッシュは聴診器を一気に引き抜こうとする。 そこへ京子からの無作為の乱射が西前を貫いた。 「アナタ達が本来あるべきところへ還ろうよ!」 京子の乱射は行列を襲い続け、その数を徐々に減らしていく。 星龍は視界にやっと捉えた聴診器目掛け、銃を構えた。 「破壊することに専念しましょう」 正確な射撃が『魂の帰還』を捉え、銃弾によってアッシュと西前の手から弾き飛ばされそうになる。 そこへ真っ直ぐ気糸が伸び、聴診器を絡めた上で西前をも貫いた。 「さて、と。終わりにしようか」 タイミングを見計らって放った碧衣は、冷静に詰みまでの最前手を進めていたのだ。 一方扉の向こう側から、エリューションたちが大挙して殺到し扉を打ち破ろうとしている。 後衛のカバーに回っていたジースに、ゼルマが扉を見て声をかけた。 「ホワイト、そいつを防げ」 「やらせるかよ!!!」 ジースはドアを全力で塞ぎ、これ以上のエリューションの加勢を抑えにかかっている。 だが向こう側のエリューションの数は多く、間もなく鍵ごと破られて雪崩れ込むのは必至な状態だ。 「やれやれ。面倒じゃのぅ」 ゼルマ自身も背中で扉を抑えつつ、前線へと癒しの歌を振り撒く。 メアリも重ねて天使を召還し、仲間達の傷は瞬く間に癒えていった。 「速く片付けるのじゃ!」 奏音は行列の数が減ってきた事を確認し、魔力を集中して高めに回っていた。 「後ろからの攻撃に専念なのです」 後ろの戦いを知ってか知らずか、宗一は気糸に絡まる聴診器目掛けて渾身の電撃を叩き込む。 「チェックメイトだ! おらっ!」 里井が止めに入るよりも速く、電撃は『魂の帰還』を撃ち抜いて地面へと落下する。 だがまだ破壊には至らない。更にもう一撃、あと僅かに足りていなかった。 西前は護るために再びリベリスタ達に電流を叩き込み、麻痺から回復した里井が立ち上がろうとしていた。 地面に落ちた『魂の帰還』を誰が最初に手にするか。一秒でも、速く動けた者が勝つ。 ここ一番で速度が段違いに他より上回ったのは、やはりルカルカとアッシュだった。 視線を交し合った2人は、同時に駆け出す。 ルカルカが聴診器を蹴り上げ、西前との盾になるかのように反転して立ちはだかった。 半透明の西前を見つめ、彼女は小さく笑う。 「最速の羊はあまくないのよ? ね? アッシュ」 宙を舞い、ゆっくりと回転しながら眼前へと迫る『魂の帰還』。 そこへ棘とナイフを両手に翳したアッシュは、一気に猛ラッシュをかけた。 「遅ェ遅ェ遅ェ、十年、百年、一億年遅ェ―!!」 突きが、斬りが、払いが、叩きが、容赦なく連続して聴診器へと叩き込まれていく――。 その刹那。エリューションフォース達の身体が揺らぎ、そして消えた。 病院中を包んでいた会話の声や、ドアの向こう側に殺到する音。 半透明で発光していたエリューションフォース立ちの光が一斉に消え、暗闇と静寂が支配する。 暗転した院内に戸惑う一行だったが、それは『魂の帰還』の破壊を意味する事も理解できていた。 その中で、気の抜けたような声で奏音が呟く。 「あんまり暗いと……うとうと~と眠たくなったりします~」 何人かがその言葉に軽く笑い、京子が明るく声を返した。 「私達はさっさとこの場を離れよ!」 聴診器が破壊できれば、地下の侵入者達が例え昇ってきても既に意味のない事だ。 一同は頷き、速やかに廃病院を出て行こうとする。 階段を1階まで降りた彼等は、地下からの争いの音は聞こえず、人気も既にない事に気づいた。 破壊は成功し、迎撃もまた別働隊の手で成されていたのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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