●ヒャッハー!! 「ヒャッハァアーーー!!!」 深夜の通りに男達のハイテンションな声とバイクのエンジン音が響き渡った。 厳つい風貌をしたマッチョな男達四人はエンジンを吹かせて、前方に発見した会社帰りのサラリーマンをあっという間に取り囲んで急停止すると、とある掃除用具と化した己が手をズイと突き付けドスの利いた声で訊ねる。 「おいテメェ! この掃除用具の名前を言ってみろ!!」 「えっ、あっ、えっ……!?」 いきなりの出来事に、親父狩りだろうかと怯えるサラリーマンはただただ狼狽えるのみ。 「ラバーカップだ!!」 「プランジャーだぁあ」 「カッポンだぜぇ!」 「通水カップだよこの汚物がぁ~っ!!」 「え、えぇええええええ!!?」 もう何がなんやら。掃除用具なんか詳しくないし……そう思ったところでサラリーマンの意識は途絶えた。 「なぁあ~ぜだァア~~!!?」 「俺達は詰まりが大っ嫌ぇなんだ!」 謎のマッチョ達のとある掃除用具から噴き出した炎が電気が氷が闇が、彼をすっかり包んでいたからである。 ●その様な掃除用具があるか 「ハローモルゲン皆々様、毎度お馴染みメルクリィですぞ。そしてこれが毎度お馴染み『ラバーカップ』――又は通水カップ、俗に言う『かっぽん』とか『スッポン』、英語での正式名称はPlunger。 『ラバーカップ』ってのは『ラバー製のカップ』から生まれた和製英語なんですって。ヘェ~ですな」 事務椅子をくるんと回してリベリスタ達の方へと向いた『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)の手にはお馴染の清掃道具。便器の詰まりをかっぽんと直してくれる頼もし~いアレだ。 「サテ。今日はラバーカップの魅力を伝えようの会でもないんでちゃちゃっと本題に入りますぞ。耳かっぽじってお聴き下さい。 ついでに言うとこれは……、結構前のブリーフィングで説明用に買ったラバーカップなんですが、いやぁ、ハハハ。まさかまた使う事になろうとは! あ、前のブリーフィングで使ってからは私の自宅に置きっぱなしだった奇麗なラバーカップなんで、そんな嫌そうな顔をしないで下さい。断じて使っておりません故。いやマジで。ホントです。ホントですってば、いやホントにホントですってば使ってませんってばマジでいやホントにそこダウトって言わないのッ!!」 ぜぇはぁ、ラバーカップを突き付けて必死に主張してきたので信じてやる事にしよう。 フォーチュナは一息吐くとラバーカップを傍らに置きつつ、アンテナだらけの機械ハンドでモニターを操作する。 かくして映し出されたのは――バイクを乗り回す屈強な男が四体。見た目こそあまり人と変わりないが、そのサイズは一回り以上大きい。そして最も特徴的なのはそのラバーカップ化した両腕だ。何故かっぽんなのだ。何故なのだ。ツッコんだら負けなのだろう、考えないでおこう。 それにしても先の予言師が視た映像でも見たが、一体全体あのラバーカップ化した両腕でどうやってバイクを運転しているのか……ツッコんだら以下略。 「フェーズ2ノーフェイス『かっぽんの使徒』――数は四、今回皆々様に討伐して頂きたいエリューションですぞ。 彼らは何故か、異様にラバーカップを崇拝しておりましてな……何故でしょうか。ツッコんだら負けなのでしょうか。きっとそうなのでしょう。フフフ。」 嫌なシンクロだ。メルクリィが組んだ足の上でメカ指を組む。 「専門的な事は兎も角、サクサク説明してゆきますぞ。 御覧の通りノーフェイス達はバイクを乗り回しておりましてな。パコーンと撥ねられると痛いです。物理が苦手でも分かるかと思いますが、正に『レベルを上げて物理で撥ねる』ですな。それに多分ノックBの揚句ショック状態になるかと。お気を付けを。 それからかっぽんの使徒達は戦闘になってもわざわざバイクから降りて正々堂々と~なんて有り得ませんぞー。 スマートに戦う為には……バイクから引き摺り下ろすとかズッコケさせるとかバイクぶっ壊すとか、まぁ、色々あるかと思いますぞ。そこんとこしっかり話し合っといて下さいね。 ――それでは、エネミーデータについてをば。一応、資料にも纏めてありますがザックリと」 そう告げるなりメルクリィは手早くモニターを操作し、各ノーフェイス達のズーム画像を展開させる。 「彼等はそれぞれ火、雷、氷、闇属性を持っているようでして。火は攻撃に火炎業火を、雷は感電麻痺を、氷は凍結氷結を、闇は呪い呪縛を伴う場合があります。また、火は火炎業火無効、雷は感電麻痺無効~といった具合ですぞ。 予め誰がどれを狙うか話し合っておいた方が宜しいでしょうな。スキル使用も要注意ですぞー。」 オッケーですか?メルクリィがリベリスタ達を機械の目玉で見渡す。その頷きを確認するや、モニターを操作して画面をズームアウトした。今回の戦場となるであろう場所が映し出される。 そこは小広い通りであった。定間隔に設置された街灯のお陰で視界には苦労しなさそうである。 「では最後に場所について。御覧の通りの明るさですので懐中電灯とか暗視は要らないでしょうな。 通りには建物が並んでおりますが、空き家や閉店後の店しかないので『建物の中から誰かに見られる』という可能性は零と言っても宜しいでしょう。ご安心を。 他には……、そうですな。色んな物が色々とありますな。必要に応じて活用してみるのもグッドかもですな。無理に使う事もないですが。 ――以上で説明はお終いです!」 フォーチュナは明るく凶悪声を室内に響かせた。それでは、と。 「お気を付けて行ってらっしゃいませ。私はリベリスタの皆々様をいつも応援しとりますぞ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月19日(月)22:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦慄のラバーカップ 深夜、定間隔に光る街灯が閑散とした通りをポツネンと照らし渡している。 冬の夜。彼方の遠くの方で賑わう通りは多分、クリスマス一色なんだろうか。 「かっぽんの使途、ですか」 乗り捨てられた自転車を運びながら『白虎ガール』片倉 彩(BNE001528)は通りの彼方――未だノーフェイス達が来る気配は無い――を見遣る。 一体化するまでラバーカップを崇拝するなんて、一体全体ラバーカップに何を見出したのだろうか。考えてみたが分からないし、分かりたくもない。分かった所で得る物は何もない寧ろ何か失ってしまう様な。一先ず思考に区切りを付け、かっぽんの使徒達が来る前にバリケードやトラップの完成を急ぐ。 「いやはや元気なノーフェイスだ……。ここは通さないぜ~! とか言いそうな奴等なこって」 『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)はトラップとしてロープをピンと張りつつ。大体こんなモンだろうか……うっし。立ち上がって辺りを見渡せばその辺の物(自動販売機やゴミ箱や看板や自転車etc)で築かれたバリケードに張り巡らされたロープのトラップ、一先ず出来る事はやった、つもりだ。 (後は来るまで待ちっとな、人に見つかる心配もないし明るさも大丈夫かな) 念には念を。しっかり現場を見……直後に飛んでくる「ヒャッハー!」の声、思わずガクッとズッコケそうになる。 こっちの連中も元気なら負けてなさそうだ。見遣る先には『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)の姿、相棒の邪斧アンタレスは幻想纏いに仕舞いこみバリケードの傍にて集中を重ねている。 「意外とエリューションって世紀末仕様が多いよねー。 やっぱり種籾とか持ってると優先的に襲ってくるのかなー? 売ってなかったけど」 ところで、とコンビニで大量購入したカイロでぬくぬくホカホカしている岬は白い息を立ち上らせて言う。 「ボクん家だとズッコンバッコンって呼ばれてたんだけどマイナーなのかなーと悲しみが鬼なった」 ラバーカップ、プランジャー、すっぽん、かっぽん、通水カップ、ズッコンバッコン、ゴッペンサン、キュッポン、スポイト――実に多種多様な名前を持つ奇跡の掃除道具。 またまたかっぽんかぁ……と『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)は苦笑を浮かべる他になかった。 「これで3回目だよね」 ジャスティスプランジャー、フライプランジャーズ……そう、彼こそはラバーカップと熾烈な戦いを繰り広げてきた猛者の一人である。 ラバーカップって怖いね。ガクガクブルブル。そんな智夫は念の為と結界を張り、懐中電灯で灯りを増やし、構築したバリケードの手前に空き缶を設置する。うっかり踏んだら転ぶように。 良し、準備は万端。次に仲間達へ十字の加護を与え、ふとバリケードの上に視線を遣ればそれらを足場に立つ人影が一つ。 月を背に、ブースターを凛と輝かせ。 その手に握るは正義の証――ジャスティスプランジャー! 「違う、違うんだ。この依頼の募集案内を見ていた女の子比率が結構高かったから、ハーレムになると思ったから来ただけなんだ! なのに、送り出す仲間達が『あぁ、行ってこいよ、お前向きの依頼だ』って、違うんだ! しかも、畜生、俺以外にも男が二人も居やがる! どうしてこうなりやがった!」 智夫と同じくかっぽん皆勤賞の『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)である。 「どうしてこうなった」「どうしてだろうねー」と遣り取りする智夫と零六、少し離れた位置でそれを眺めていたのは『ぺーぱーまじしゃん』リウビア・イルシオン(BNE003100)。 「静止物体ならリウに掛かれば液体すらもお茶の子おぉっと、意外と難しいわね」 いつものように箒に腰掛けふわふわ宙に浮き、周囲にはテレキネシスで浮かべたインク瓶とその中身を小さな球体にしたもの。まるで彼女の周りだけ無重力空間の様だ。 そしてその『インク玉』を、 「むっ、敵発見!」 世紀末っぽくて腕『に』プランジャー『を』『持ってる』人へ。 つまり零六へ。 「うぉっ危ねっ!」 咄嗟にジャスティスプランジャーを振るう零六、正義の風圧でインクを回避。まさかジャスティスプランジャーに救われるとは複雑な気持ちだ。 「いきなり何するんだぜ!?」 「ごっめんごめんご! 余りに世紀……ちょ、やめて、かっぽん構えたまま見ないで、ぶふっ」 「ヒャッハー!」 岬の合の手、箒に腰かけつつお腹を抱えながらひたすら笑うリウビア、智夫に苦笑を向けられる零六、翔太の溜息。 あらあら。そんな中、口元に手を添え雅やかな頬笑みを浮かべるのは体内魔力を活性化させた『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)、ニッコリ細めた目で仲間達の遣り取りを眺めつつ光の鎧を皆へ順番に与えてゆき――聞こえてきた音にその目のまま彼方を向いた。 けたたましいエンジン音。バイク音。 「ヒャッハー!!」 制限速度をブッチギリで。 「ふふ、何あれ。愉快な人たち。珍走団?」 近付いてくる。どんどん。ヒャッハー。 「それにしても面白いものを使うわね。一つ貰えないかしら?」 まあ――答えは聞いてないわ。殺戮天使が鈍い色をした鉄球を構えたのと同時、 「倒して奪い取るわね。……腕から引き抜いて取れるかしら?」 そう、全くの同時だった。 「今だ、投擲!」 「了解です!」 翔太と彩が息を合わせてゴミ箱や自転車やアレやらソレやらを投げまくり、 「良く考えたらこっちの方が歴代ブレイクショットね!」 リウビアは浮かせた大量のインク玉を幕の様に広げ、驚かせる為と視界妨害の為に襲い掛からせる。さっき誰かに当てる必要なかったけど気にしない! 「トワッタ!」 「ワヒィ!」 ちょっと可哀想なぐらいの猛攻撃にバランスを崩す使徒達。スピードが落ちる、インクで汚れた顔を拭い、何とかバランスを保ちつつ見遣った先には――バリケード上の零六。 「ヒャハッヒャハハハァッ!! 来いよ三下! 俺が正義だ! そして俺はこいつを……便所掃除用のアレ、と呼ぶ!」 高笑い、ジャスティスプランジャーをジャキンと構え、挑発を。 「な!? アレはまさか……」 「馬鹿な、とうの昔に滅びた筈じゃ」 「ラバーカップ神拳継承者にのみ所有を許されているという」 「神々に愛されし伝説にして究極のラバーカップ――」 「「「「ジャスティスプランジャーだと!!?」」」」 エェー何この反応。予想外です。 なんて気を取られた拍子に、その所為で、使徒達は――見事ロープトラップに引っ掛かった! うわらば、ドンガラガッシャンと面白い位スッ転ぶノーフェイス達、それを見下し薄紅の口唇から牙を覗かせ、邪悪ロリ(26)は柔らかに微笑んだ。 「ふふ、良い子は真似しちゃだめよ?」 そして足を踏み出し鉄球を振り上げようとした、その瞬間……だった。 「ギャハハハ! 死ね! ゴミは纏めて潰れて死ね!!」 ズッガーーーン。 バリケードをアクション映画宜しくド派手にぶっ壊して『メンデスの黒山羊』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)の運転する4DWがアクセル全開フルスロットル! 「ぐわぁーーー!?」 なんかバリケードに居た人間魚雷さんも撥ねちゃったけど、 気 に す る な ! 「ついにきやがったな……暴走族《愛人容器(ラヴァーカップ)》との決戦が! え? 別に決戦じゃねーの? つーか血栓? 大して上手くねーよ! 詰まってねーし! さあ、水洗……じゃなかった、聖戦の始まりだァーー!!」 瞳孔が開いている。この時の為ノアノアはコッソリ隠れて様子を窺っていたのだ。リーディングに超直感までもを活用して。 何の為って? 「轢殺する為に決まってんじゃん! Oh! KAMIKAZE!」 バイクを起こして急いで逃げようとした使徒達であったが、運悪く智夫の空き缶トラップで転んでしまう。そこをバムッという鈍い音と共に4DWで撥ね飛ばされる。そして轢かれる。うわぁ痛そう。 「ひ、ひぃいい!?」 運良くバイクに乗れたのはグラサンマスク唯一人、であったが。 「喰らえー、アンタレス神拳奥義メガクラッシュー」 飛び出してきた岬のアンタレス、その集中に集中され研ぎ澄まされた真っ黒い一閃がグラサンマスクを的確に捕らえた。そのままピック部分に引っ掛けて引き摺り落とす! 「由緒正しい斧槍の使用方法だよ―」 本来は馬だけどー。そのままブロック役としてアンタレスを構えた。 一方、 「俺さー、たまに自分がリベリスタなのか分かんなくなるんだよねー」 ま、名乗ったもん勝ちだよな!ノアノアは撥ねて轢いた使徒らをバックで踏み直し追い討ち追い討ち。流石魔王汚い流石。 既に心身共にズタボロな使徒達、しかし黙ってやられる彼らでもない。モヒカンの火炎放射が4WDを包む。こりゃヤベぇ、急いで降りるノアノア、しかし先程の恨みといわんばかりに幾つものかっぽんが彼女を狙っていた。 が。 「かっぽんかっぽんするんじゃねぇ!」 身体のギアを高めた翔太がモヒカンへ強襲多角攻撃を仕掛け、 「いざ勝負!」 彩は拳を絶対零度にスキンヘッドへ、 「鎧忘れちゃった……胸でかっぽんを受けようとか思ってないのに」 智夫は角ヘルムの前へ、集中からの神気閃光を放ち、 「これはロードローラーですよ」 体内魔力を高めたリウビアは彩の拳に飛び退いたスキンヘッドへ建築現場で地面をローラーで圧し固める黄色いボディが特徴的な建設機械をその頭上にて他の道具と共に幻想纏いから召還、どぐしゃっ。 なんて言うか、フィクサードも真っ青な奇策のお陰で戦局はリベリスタの圧倒的優位と言えた。初手からクライマックス。 「おめぇの相手は俺だって、心なしか残念がってねぇか?」 モヒカンの炎を軽やかに躱しつつ、翔太は十分な隙を見付ければ反撃を。 「かっぽん出来るもんならしてみやがれってんだ。まぁ俺は何一つ詰まってねぇが」 「つまらないって事か」 「うるせぇ」 炎に飛び退く。抑える事がメイン、全力防御。攻撃を喰らってもティアリアの鎧が仕返ししてくれる、多少の傷はノアノアのオートキュアーが修復してくれる。 (皆戦闘楽しんでるようにも見えるしな) 視線の先には黒の連撃、漲る戦気を纏った岬がグラサンマスクへ邪斧のラッシュを仕掛けていた。 連撃の合間、それでもかっぽんを向けたグラサンマスクが凍て付く吹雪を放った。しかし少女はアンタレスを大きく構えて耐え、味方にまで絶対零度が届くのを防ぎ、フーッと息を吐いてアンタレスの紅睨と共に敵を見澄ました。 「凍らせたら逆に詰まるだろ―! 氷属性のソンザイイギて何ー?」 負けてたまるか。ズッコンバッコンに倒されたって友達に噂されると恥しいし。輝くオーラを纏って吶喊、切り裂き斬り裂き切り裂いた。 (そういえば、魔王が胸にカッポン受けたいとか言ってたわね。受けたらどうなるのかしら。わたくしも興味は有るわね、受けたくはないけれど) 癒しの祝詞を紡ぎつつティアリアは思う。ふふ、感想よろしく。 (でもわたくしはそこまで胸にこだわってないのよ) むしろバランスが大事ね?心は邪悪、歌は神聖。 そんな福音に包まれつつ、撥ねられた零六がやっとこさ戻って来た。 「行くぜデスペ……こいつじゃねぇ」 ジャスティスプランジャーからDesperado “ Form Harvester ”へチェンジ。 手に馴染む相棒、電撃と共に高速回転する歯車の駆動音を轟かせ――彩を呪縛で追い詰めていたスキンヘッドへ吶喊する! 「デスペラード! 狩りの時間だ!」 落雷の如く、豪撃。黒焦げに葬り去った。 その間に智夫は破魔光で彩や他の仲間達を苛む危険を払拭し、角ヘルムへ向き直る。 既に仲間が倒されない事を最優先に、そしてかっぽんの攻撃が胸に当たらないよう細心の注意を。 「胸が大きくならないかな……とか、そんな事思ってないし!」 ナイチンゲールフラッシュ。つまり神気閃光。 それは角ヘルムだけでなく、次の目標となったグラサンマスクをもふらつかせた。しかしその異形は踏み止まるや周囲のリベリスタへ冷たい吹雪をモロに浴びせて抵抗し、翔太を吹っ飛ばしたモヒカンも火炎をぶちまける。 そんなモヒカンへノアノアは十字の光を放った。 白い光はプツン、と。その思考を怒りに染め上げる。向かってくる。向かってくる。 「来いよ! そんなちいせえ愛(ラバー)で僕の胸を抑えられると思うなよ!!」 向かってくる――かっぽん。お胸に。 「グフッ!? この器……計り知れぬ包容力!?」 すさまじい熱と衝撃。それでも耐えた、不敵に笑った。 「だが残念だったな、僕は着けない派だ!!」 上着開放!お久しぶりお胸様こんちゃっす!角に輝くらーめんすとらぷー 「ブゥゥレイク! フィッアアァァアアアアア!」 邪気を退ける神々しい光が皆を包む。「あらあら」と笑うティアリアの歌と共に。 こんな行動指針で大丈夫か?大丈夫だ、問題ない。 そして光と歌に包まれながら……リウビアは緊張感の声で唇を震わせ顔を蒼褪めさせた。 「はっ……何という事なの、まずい、とんでも無い事に気付いてしまったわ……! リウ、アークに来てからの仕事が黒い悪魔退治とかゴミ捨て場とか、そんなのばかりだわ! リウってば可愛い乙女なのに!」 言葉と共にマジックミサイル、グラサンマスクのグラサンを頭部ごとドカンと破壊。 残るは角ヘルムとモヒカン――だったが、智夫の閃光にふらついていた角ヘルムに彩の業炎撃がクリーンヒットし、燃えるそれを岬のアンタレスが一刀両断に切り伏せる。永遠の沈黙を齎す。 ラスイチ、ティアリアの吸血を躱したモヒカンへ零六がギガクラッシュを振り下ろす。が、かっぽんでギリギリガードされてしまう。 「あァ! ガード出来るたァ意外に賢いな! ちゃんと脳味噌も『詰まって』んだな」 「ンだとコルァアア!」 挑発、易々と乗る異形、その背後から翔太が高速の強襲攻撃を放った。 「グラサンマスクの生き残りかと思った」 「うるせぇよ!」 なんて掛け合い、飛び退いたのは彩の斬風脚が異形を狙ったから。 「あたしの拳はかっぽんになんか負けません。カッポンで胸を大きく? 必要ないんで結構です」 更に彼女の背後にはリウビア、魔力を練り、詠唱で仕上げ、魔法陣を作り出す。それは破滅をもたらす歌の楽譜。 「必殺……魔曲・四重奏、略してまきょしー! れっつごー!」 箒のリウビアがモヒカンを、放たれた炎を指差せば、激しい光が炎を撃ち抜き飛んで行く。 それは立て続けに異形へ着弾し――断末魔と静寂を齎した。 ●キレイサッパリティ 静けさを取り戻した通り。 戦闘も終われば、温もった身体が少しずつ夜風に冷えてゆく。ただし、カイロで完全武装の岬は今もなおぬくぬくのホカホカであったが。 「ふふ、懲りたかしらね。暴走行為はダメよ?」 口元に付いた返り血を上品にハンケチで拭いつつ、ティアリアは物言わぬ使徒達へ優しく優雅に微笑んだ。 「ある意味強敵だった……」 武器を収め、翔太は息を吐く。あー、そういや何か拾って来いと言われたっけ。知り合いに言われた言葉を思い出し、拾える物を探して値を見渡せば……何この惨劇。 とりあえずノアノアが撥ね飛ばしたバリケードの残骸。 通りの隅に転がるリウビアが落としたロードローラー。 あと一面にゴミ、ゴミ、ゴミ。ロープの残骸とかも。 「………。」 取り敢えず片付けだな―、と。せっせと片付け作業を始めていた彩と智夫に加わった。 「カッポンの力侮れませんでしたね。 もし武器として出たら購入を考えてみてもいいかも。どう見たって格闘武器ですものね」 真面目に後片付けしながら、彩は至極真面目な声音でトンデモない事を。 「これ以上かっぽんが進化しませんように……豊胸機能とか要らないし!」 同じく片付けを続けている智夫の身体がぷるぷる震えたのは、寒さの所為だけではない。 そんな一方で…… 「戦闘前とか戦闘中ならフレンドリーファイアも許す……が!」 零六の手には『刈り取る者』、オーラを電気にバチバチギャルギャル駆動音。 視線の先にはノアノア、リウビア。 目が合う。 Desperado “ Form Harvester ”を振り上げる。 二人が逃げ出す。 素振りしながら追い回す。 「コワクナイヨーシュジンコウダヨー」 そんな愉快な様を見て、それから辺りを見渡して、ティアリアは髪を掻き上げ呟くのであった。 「そもそも。大体、何でラバーカップなのかしらね? 」 それは―― 神のみぞ知る。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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