●殺し遭う その無人島は地図の上にポツンと。立ち入り禁止の海域に。 静まり返った古い遺跡はいつ誰が何の為に造ったのか。 咆哮が響く。 咆哮が轟く。 そこは強者に支配されていた。 ●バトルデュエル 「ズドラーストヴィチェ皆々様、毎度お馴染みメタルフレームフォーチュナのメルクリィですぞ」 事務椅子をくるんと回して振り返ったのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)。 肘掛けに肘を突き拳で頬杖の姿勢、常のニヤニヤ笑いで集まったリベリスタ達を見渡した。 「サテ。今回の任務はズバリ――『ガチバトル』でございます。 それじゃ早速サクサクザックリしっかり説明していきますぞ。耳かっぽじってお聴き下さい」 そう言うメルクリィがモニターを手早く操作すると、画面上にいつどこの文化とも形容し難い古びた遺跡が表示される。 円形の……闘技場?まるでコロッセオの様だ。かなり広く、足場もしっかりしているようだ。 そしてそこを我が物顔で陣取っているのは――巨大なドラゴン。 雄々しい四肢に長い尾、大きな翼、分厚い鱗、禍々しい鋭さが窺える角に爪牙。モニター越しでも分かる。溢れるばかりの強者のオーラ、凶悪な殺気。 「E・ビースト『キラードラゴン』……フェーズは2、配下エリューションはおりませんがその分の個体能力値が高いですぞ。 優れた攻防値、体躯に見合ったタフさを兼ね備えた強敵でございます。攻撃手段も豊富で陸上戦も空中戦も可、巨躯に見合って攻撃範囲も広いですぞ。まさにどつき合いのガチンコバトルになりそうですな。 キラードラゴンの気性は獰猛そのもの、逃げる体力があるのなら一人でも多く切り裂かんと襲い掛かって来るでしょうな。負けず嫌いとでも言うべきでしょうか。 兎にも角にも半端な覚悟じゃ返り討ちでしょーな。お気を付けて!」 モニターの中のドラゴンがこちらを睨んだような気がした。敵意と殺意に満ち満ちたその瞳には思わず慄然としたものを覚えてしまう。 「それでは次に場所について説明しますが――宜しいですかな?」 事務椅子を揺らして放たれたフォーチュナの低い声にリベリスタ達は彼へと視線を戻す。メルクリィは機械の指でモニターの一つを示した――例のコロッセオのズームアウト画像だ。 「今回の戦場は無人島にある遺跡、どんなモンかはさっきご覧頂いたので説明は省きます……ってか説明するほどモノが無いんですが。広くて足場しっかりしてて戦い易いです以上。 時間帯は夜、満天星空で明るいので光源類や暗視の必要はございませんぞ。それから『無人島』なので『無人』です。 送迎はこちらで手配致します。任務完了の連絡をして頂ければ船でお迎えに参上致しますぞ。 ――以上で説明はお終いです。宜しいですか?」 見渡すメルクリィの視線に頷けば、「ではでは」彼は機械の指を膝上に組ませる。 「お気を付けて行ってらっしゃいませ。応援しとりますぞ! フフフ。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月20日(火)22:49 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●死闘 耳を澄ませば波の音。煌と輝く月は白々と、冷たい輝きと共に古びた遺跡を見下ろしていた。 誰が何の為に造ったのか。今となっては誰も分からない。分からない、が――ここでリベリスタが行う事はただ一つ。 「ドラゴンッスか。」 アザーバイドじゃないなら、元はトカゲとかなんスかね。『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)はソプラノボイスと共に鼠尻尾をくねらせ、吹き抜ける剣呑な風に目を細めた。 物語だと宝の番人等が定番だが、このドラゴンは何を守っているのだろうか。 月の下、正面、闘技場の中、首を擡げたそれと目が合った――ゾクリ。剥き出しの殺意、暴力の権化、本能が告げている。 『危険』 このドラゴンは何を守っているか探ってみよう。無事に倒せたら、の話だが。 「上等ッスよ、ぶちのめしてやるッス」 視線を合わせたまま好戦的に笑み、ひらりと揺れる袖からいつの間にか鋭く輝くクローを覗かせ。 応える様にドラゴンが牙を覗かせ、唸る。客人を持成す気はさらさら無いらしい。牙の合間からは炎、地面を打つ尾は堅くしなやかで。 刹那の咆哮がリベリスタ達を打つ――音の暴力、『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)は魔導杖を構えながらも嘴から感心の声を上げた。 「おー! 本当にドラゴンなのダ! カッコイイのダ~。ファンタジックなのダ~」 我輩とあるゲームで防御型職種の騎士のみを使うプレイをしていてナ、そのメンバーだとレベルの高いドラゴン倒すのがすっごく大変なのダ。あ、大変じゃないガ時間が掛かるのダ。攻撃型職種を配置すればせいぜい2~3分ですむところヲ、リアルタイムで30分とカ!我ながらバカだなァと思っているのダ。だガ我輩、騎士が好きなのダ。だからクロスイージスになったのダ。なのニ……あレ?いつの間にか中途半端にホリメっぽくなってるのダ? (出来れば華麗に庇うをしてみたいガ……) 夢に見る鳥、夢を見る鳥。散開する最中、ズイと前へ立つのは前衛の面々。 「ドラゴン、といえば古来より強敵の代名詞のようなものでございますね」 凛然、銀の髪を靡かせて、ノエル・ファイニング(BNE003301)は髪と同じ銀の光を纏う巨大な騎士槍を構えつつ死角を狙い走り出す。 「竜殺しで名を上げた英雄も数知れず……斯様な強敵と早くも見える事が出来ようとは、僥倖と言う外ありません」 未だ熟達したとは言えぬ身なれど、我が技の冴えがどこまで通じるか。 「試させて頂きましょう」 輝くオーラに光る騎士槍、先ずは小手調べに連続で突き出す白銀の猛攻。 それはキラードラゴンの横っ腹に命中するが――堅い。月下に鈍い色を放つ鱗から槍へ、己の腕へ伝わる衝撃。集中が必要か、そう思った瞬間に脳内へ飛んで来るのはリルのテレパシー。 『飛び退くッス!』 「!」 その声にほぼ反射運動で後ろへ、刹那の直後に視界の隅からやってきたのは空を裂く尾の一撃。 「くッ……!」 間一髪で槍を楯に豪撃を防いだ。が、その重い一撃に圧し遣られる。バランスが崩れる。後ろへグラリ、しまった! 「しっかり……!」 しかしノエルの手を掴んで助けたのは身体能力のギアを上げた『朧蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)の長い腕、共に飛び退きながら――アンリエッタはホッと安堵の息を、そしてノエルから離れ殺意の目付きをした竜の前へ。 煌々と明るい。それでも爛々と赤い竜の双眸、ゾッとするほど。 「しかしドラゴンですか」 火を吐き仲間を牽制するそれから目を離さず、短剣の切っ先を構える。 過去には大形の爬虫類……つまり恐竜がE・フォースとして出現した事例もあったが、幻獣や幻影種と呼ばれるドラゴンは爬虫類に近いモノなのか。それに一番興味がる。そんな事を思いながら、敵から眼を離さず、蛇は凛乎と言い放った。 「私が出来る限り引き付けますので、その隙に攻撃をお願いいたします」 自分に火力が無い事は自分が一番分かっている。 だからと言って悲観するアンリエッタではない。ならば『自分のできる事』を。 皆の役に立つ為――傷つくのは私だけで結構。 「さあ、おいでなさい」 刃の切っ先から放つ十字の光、それは仲間へ喰らい付こうとしていた竜の顔面に思い切りブチ当たった。かくして怒りに染まる凶悪な眼光、アンリエッタを睨む。 「皆さんはあまり私の近くにいらっしゃらないで下さい。近付いてもすぐ離れて……」 それでも彼女は臆さない。盾を構え、振り下ろされた凶爪ごと睨み返す。 「私の近くは、危険ですから!」 大楯に激しくぶつかる爪、一瞬散った火花。重い。ならばと巧みに受け流す。 刹那に竜の翼へ降り注いだのは星の雫矢、『深樹の眠仔』リオ フューム(BNE003213)の一撃。 狩人は目立つべからず。コロッセオの砂色に合わせ、茶色の布を被る事でカモフラージュ。攻撃を受けるわけにはいかない、当たったら確実に倒れてしまう。 一矢でも多く……半獣の狩人は深呼吸と共に次の矢を番えた。狙いはただ一つ、その翼。怒りに任せてアンリエッタへ襲いかかる竜。幻想の生物として広くその名を知られるもの。目にするのは初めて。 (何を思いこの地に留まるのかしら) こんな、晒し檻の中なのに。 細い腕でぐっと弦を引く――片角の狩人の視線の先、リルの気糸を振り解くや防御するアンリエッタを圧し遣って、攻勢に出たノエルとカイを炎で牽制し、鼓膜が破れそうな程の音量で吼える竜。 瞬間に黄金が靡いた――赤い帽子、折れた刃、生命力さえ戦いに捧げた鋭い瞳。 肉体のタガが外れた痛み、全身を包む電気のオーラの痛み、ドラゴンの爪に切り裂かれた痛み。 それらに対し『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)は顔色一つ変えず、眉一つ動かす事無く、ドラゴンの後ろにてその尾へ雷撃の刃を振り上げて。 「貰うぞ」 振り下ろした 激しい閃光、スパーク、肌が焼ける。竜の悲鳴。飛び散る血がマリーの金髪に散った。赤と金。 流石に一撃では切断できないか。身を素早く反転させ突き上げられた角を跳び下がって躱したが、長いそれは彼女の肩口を切り裂く。ぱたりぱたり、赤が落ちる。闘技場に浸みこんでゆく。 攻撃よりも避けを優先。欲を出せば攻めることもままならない。リルのテレパシーによる補助のお陰で身動きがとり易い――それはマリーだけでなく、この場に居る全てのリベリスタに当て嵌まっていた。 「火力に自身は無いッスけど……これがリルの戦い方ッス!」 大きく跳び掛かって振るわれた豪爪を宙返りの要領で軽やかに躱す。夜風と爪の風圧に靡くのは踊り子の衣装、それは踊る様にステップを踏んで戦うこの小さな侵食者の為だけの戦闘衣装と言えるだろう。 動きながらも彼の視界には常に全ての味方。フル活用する己が第六感、映像付きのテレパシー。じっと見る。目の前の敵の予備動作、攻撃方法、タイミングetc。 戦闘指揮能力は無いけれど皆がスムーズに動けるように。連携出来るように。勝利の為に。 頑張ってフォローするッスよ! 「――Let's Dancing♪」 くるんと回って、闇月に煌めいたのはリルの気糸。踊るかの如く竜を厳しく締めあげる。逃れようと藻掻くが、藻掻けば藻掻く程それはきつくきつく異形を締め付けた。 その間――アンリエッタが攻撃を一身に引き付けていた間、リルが竜を拘束している間、集中に集中を重ねたノエルがランスを構えて竜の横腹へ一気に吶喊する。 正に勇猛な騎士の如く。退く事を知らぬ武士が如く。 「わたくしは搦め手は全く出来ませんが、事この槍の扱いにはそれなりに自信を持っているのです。 ――味わって頂きましょうか!」 研ぎ澄まされた鋭い突きは正に一騎当千、何機もの騎兵が怒涛の突撃で堅牢な城砦を突き崩す様に。 攻める時に思い切り攻めねば足りぬだろう。体力に優れた相手となれば尚更だ。 しかしノエルの視界が真っ暗に――リルの気糸を振り解いた竜の鋭い鉤爪が目の前に、脳内でリルの声、速く回避を―― 「護るのダ~!」 ズシ、ン。 重く重く振り下ろされた竜の前腕、それを割って入ったカイが受け止めた。 「うっ、ぐぐぐ……!」 重い、重い、重い! ビシリメキリと全身が、悲鳴、骨が、筋肉が、血管が、破けて避けて外れて折れて砕けて――徐々に、徐々に、仲間が火力支援をしているが、 …… 圧 し 遣 ら れ る ! それでも彼は、 「――ふんごゴォおおおおお!!」 運命で身体を修復し、全力で圧し返した! ぜぇはぁ肩で息をしながら、そのまま癒しの詠唱を。奇跡の祝詞を。楽園の聖歌を。 頑張るのダ、飛び出して行く仲間達へ応援の言葉を。 その更に後方、集中を重ねたリオは竜の死角より翼へ星の矢を打ち出す。同時に動物会話を活用し耳を澄ます――その声を聞く為に。 「 っ!」 ゾクッ、と。全身の肌が粟立った。「お前達が憎い」なんてものじゃ生温い。 『殺す』 それだけ。ただそれだけ。 (なんて……) なんて、嗚呼。言葉を失う程に。 その破壊衝動を終わらせたい――なんて思うのは、独善だろうか? (ああ、私は) 独善?偽善?ご都合主義?エゴ? それでも自分は弓を番える手を止めない、狙いを定める目を閉じない。 「――それでも、戦います」 視界から逃れる様に走りながら、発射。 アンリエッタも挟み討ちの様にジャスティスキャノンを発射したが、共に外れた。 二人の狙いが甘かったのではない。ドラゴンが飛び上がったのだ。 竜がリオを睨む――急降下、爪、リルが咄嗟に庇いに入った。が、ならばと巨大な手は彼を掴み、宙へ飛び上がる。 「リルっ……!」 リオは咄嗟に矢を番える。が、その目の前を――闘技場を、埋め尽くしたのはキラードラゴンが思い切り吐いた業炎。獄炎。凶焔。 抑え、テレパス、あの手この手で戦線を堅牢なモノとしていたが……一気に瓦解するか。 「が、ッッ……!」 掴まれたリルも口からゴボリと血塊を吐いた。鉤爪が細い身体に突き刺さり、大きな手が彼を万力の様に締めあげる。 「……ッ、~~!」 声にならぬ悲鳴、霞む意識、消える意識、ホワイトアウトする視界。 その中で リルは見た。確かに見た―― 竜の尾に片手一本でしがみつく赤い帽子の女剣士を。 「絶対に離すか」 離れろと言わんばかりに振り回される尾に折れた大剣を突き立て、強引に上って行く。竜が空中で暴れても、藻掻いても、火を吐いて唸っても、振り落とされないよう焦らず確実にマリーはその頭部へと。竜を撃ち落とさんと放たれる仲間の猛攻に被弾する覚悟。 覚悟。 絶対の覚悟。揺るがぬ覚悟。常軌を逸している、とも言えるか――リルを手放し暴れ回る竜の首の頭の上、血だらけ傷だらけで黄金の髪を靡かせる欠剣の赤騎士。 「竜とは、」 その角を掴む。 零距離、暴力的な色を宿したその目へ、ガン付け。 「眼球までも硬いものなのか?」 もう片手の大剣には電気。 振り上げる雷槌。 陥とす――稲光。 「ギャアアアアアッ!」 凄まじい悲鳴、竜の片目に深々と突き刺さった大剣、迸る血潮、刹那に放たれたリオの矢が遂に竜の翼を破壊した。 落ちる。落ちる。空中に放り出されたマリーを強かに尾で殴り付けた。吹っ飛ばされる――壁にぶち当たる。砂煙。 直後にボトンと落ちたのは竜の尾だ。マリーが散々痛めつけたそれを無理に動かしたからだろう。 『皆、無事ッスか?』 砂煙の中、フェイトで死の運命を焼き変え立ち上がったリルの声。 返事は5つ。カイと、彼が庇ったリオ以外は竜の空中砲火に運命を焼かざるを得なかったが――それでも無事。 ホッと一息……カイの歌に包まれながら、それでも安堵している暇は無い。晴れていく視界、片目にマリーの大剣を突き刺したままのドラゴンが突進してきた! 「おっと、踊り子の機動力甞めるんじゃないッスよ!」 小さな踊り子のステップは蝶の如く、軽やかに。 「ドラゴン退治。いいじゃないッスか。燃えるッスね。倒せるまで立って見せるッスよ!」 着地の同時に気糸で締めあげる。固まる同時にノエルが何度も攻撃した横っ腹――血肉が覗く傷口へ、死の爆弾。 3 2 1、 ――0。 『右側面の横っ腹ッス!』 大きな傷を与えたその個所、爆煙の吹き上がるその位置を飛び退きながら皆へ連絡。 直後に竜を射抜いた十字はアンリエッタの砲撃であった。怒りの睥睨を一身に受けながら、身構える。 「さぁ、こちらです。これ以上……仲間には手出しさせません!」 翼、尾、目。竜の戦力は大幅に落ちていた。 それでもドラゴンは尚も驚異、猛威。 「ふふ、やはり強敵との戦いはこうでなくてはいけません」 精神力は尽き果てた。それでもノエルは口元に笑みを、ランスを構え。 「尚気合が入るというものです!」 アンリエッタが引き付けている間に重ねた集中、鋭い一突き。分厚い鱗を砕き突き刺さる。反撃に振るわれる尻尾は短く回避防御ともに苦は無かった。 主な攻撃はアンリエッタが全力で引き付ける。しかし代償にその身体には幾つもの傷が刻まれ、脳を打つ痛みに顔を顰めた。それでも竜は攻撃を止めない。マズイ。 刹那の強矢。竜の横っ面に突き刺さる。 「こっちよ」 竜が見遣った先には次の矢を番えるリオ。なるべく長い間生き残ってダメージを稼ぐことが大事、少しでも貢献できるように慎重に戦う――そんな心持だが、目の前の仲間が危機に陥っているのに自分だけのうのうと安全地帯で鼻歌を歌う事が出来ようか? アンリエッタには随分と護って貰った。今だ重傷者が一人も居ない事の一つに彼女の行動が由来する所は大きい。 今度は私が、護る。 襲い掛かる炎――全力で横に飛んだ。が、巻き込まれる。倒れる。殺してやった。竜が残りの5人へ顔を向け――リル、ノエルが集中攻撃を浴びせる横腹の傷に突き刺さった矢に悲鳴。 片角の狩人は死んだ振りをしていたのだ。失敗して追撃をもらう可能性もあったが……心を静めて回避すら行わない心算で。滅茶苦茶ね。我ながら思う。思いながら矢を番える。精神力は尽きたが、それでも少しでも攻撃を。 お陰でカイがブレイクフィアーと天使の歌を放つ時間を稼ぐ事が出来た。力を取り戻した6人は武器を握り直す。アンリエッタは再度集中を重ねた十字の光を。 「来なさい……何度でも、防いでみせる」 頬を伝う血をそのままに。優しい蛇は護る為に。誰かの役に立つ為に。 随分と攻撃を受けた盾は傷だらけの凹みまくり。また爪を受ければ火花が散る。痺れた腕の感覚は既にない。疲労の溜まった脚の感覚も既にない。それでも、それでも。 「護ってみせる。護ってみせる!」 ただその一つの念がアンリエッタを突き動かした。頭に響くリルの声に従ってステップを踏み、ただ只管に。 咆哮。 激しい咆哮。 月夜を劈く。 音の暴力に鼠耳を伏せながら――リルは跳躍して竜の顔へ、赤騎士の欠剣が刺さっていない無事な方の目へ、懐中電灯をフルパワーで。 「ッ!」 竜の視界が零になる。効果は一瞬だけだろうが――いや、一瞬で十分だった。 正面にマリーが、赤帽子を片手に、焼き捨てた運命を過去に、 立って居た。 「お前はドラゴンだ」 帽子を目深に被り直し、片手は剣の柄を握り。 肌で感じる圧倒されそうな力――迫る死の気配。濃密な。 だが、攻める。徹底的に。 「圧倒的存在を以って闘志を喰らえ」 片手で握る竜の目に刺さった剣。割れてしまった剣。 竜はびくとも動かない。いや、動けない。力で振り払おうと抵抗しているのだが、マリーの力がそれすらを圧倒的に上回っているのだ。 「強者よ」 無謀だっていい。全力でぶつかりたい瞬間が、存在が。そこにある 「――強くあれ!!」 刹那、凄まじい電光と雷音がコロッセオを覆い尽くした。 絶対零距離のギガクラッシュ。 残響。砂煙。 皆の網膜にこびりついた光。 皆の鼓膜にこびりついた音。 それすらも消えた頃―― そこ竜の姿は無く。 ただ、己が欠剣を凛と片手に握り締めた赤の剣士が、一人。 ●終焉 迎えの船の中。 遺跡は、無人島は、ぐんぐん遠のいて行く。 「ドラゴン良いナ~、ドラゴン」 きらきらのウロコ素敵だったのダ。と、頬杖のカイが彼方を見詰めつつ。 「落ちてたラ、持って帰りたかったのダ~……」 「ム。スマン」 「いやいや、気にしなくって良いのダ~」 竜を焼き潰した当の本人であるマリーへ気さくに笑った。 結局あの竜は何を守っていたのか。 (そもそも何も守ってなかったのかもしれないッスけど) 戦闘後、少し周辺を散策したリルは思う。あの無人島にはコロッセオ以外に目ぼしい物は無かった。ただ鬱蒼と木々が茂っているだけで。 まぁ……この勝利を自分達が手に入れた『お宝』としよう。深く息を吐き目を閉じた。到着まで時間がある――それまで眠ろう。 アンリエッタも激しい疲労に我知らず眠りこけていた。お疲れ様、ノエルは苦笑を浮かべ彼女とリルに毛布をかけてあげた。 一方、リオは最後まで――見えなくなっても、船内の窓から無人島の方をじっと見詰めていた。 それから星空へ目を映し、静かに、小さく、呟く。 「――おやすみなさい。」 さて、自分も到着まで眠るとしよう。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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