●破られた静寂 市街地から離れた、山間部の開けた草地。 何もないその場所に突然大きな音が響き渡った。 何かが破裂するような、引き裂かれるような……表現し難い轟音。 その後に続いたのは不気味な地鳴りだった。 黒い霧のような、その場所だけ夜が訪れでもしたかのような闇が現れ……そしてその中から……巨大な生物の頭部が、姿を現わす。 赤い鱗に覆われた蜥蜴のようにも見える生き物の大きさは桁違いだった。 鱗は一枚一枚が大きく厚い。鋭い牙は、一本で人の背ほどの長さがあった。 牙の林に覆われたその口からは……ときおり熱気と共に炎が噴き出し、周囲を焦がす。 少し遅れて別の場所にも闇が拡がり……続くように鉤爪の生えた巨大な腕が姿を現わした。 鉤爪が大地に刺さり、そのまま地面を抉り取る。 もがくように腕を振るい、頭部を暴れさせたその竜は、天を仰ぐと怒り狂ったように咆哮をあげた。 ●封印されし炎帝竜 「それでは詳しい説明を始めさせて頂きます」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に緊張したようすで一礼すると、ディスプレイにアザーバイトの画像を表示させた。 赤い鱗を持った蜥蜴に似た存在……例えて言うなら、西洋の物語などに出てくるドラゴンのような、とでも言えば良いだろうか? もっとも表示されているのは体の一部分だけである。 角と鋭い牙を持った頭部と、鉤爪の生えた巨大な片腕。 その根元は、どちらも黒い靄のような闇のような……何かの中へと消えている。 「『フレイム・タイラント』と呼ばれていたこのアザーバイトは、以前この世界に襲来し何らかの手段で……放逐というか封印というか、とにかく追い出された存在なのだそうです」 倒すことができず、それでも何とかこの世界から追い出そうとした結果、この世界ではないどこかへと追放し力を封じて閉じ込めることに成功したらしい。 「それがどのような手段で行われたのか……詳しいことは分かりません。資料等も消失してしまったみたいで」 そう言ってからマルガレーテは、ですがその追放は完全ではないみたいですと説明した。 「この世界から追い出す時に使用した穴が完全には消滅しておらず、アザーバイトが力を取り戻すとホールが開き、拡大していってしまうらしいんです」 ホールが開き切るとアザーバイトは力を完全に取り戻し、この世界へと戻ってきてしまう。 「現在はホールがある程度まで開き、アザーバイトの体の一部がこの世界に侵入してきている状態です」 皆さんにはこのアザーバイトの体の一部を攻撃し、撃退して頂きたいんです。 少女がそう言って端末を操作すると、画面にその体の一部が拡大して表示され、様々なデータが表れた。 「まず、本体……頭部と腕部に共通するものですが、頑丈な鱗に覆われているため高い防御力を持ちます」 物理防御力の方がやや高め。神秘攻撃に対しても充分な防御力を持っている。 また、鱗そのものが攻撃を弾く力を持っているらしく回避能力も巨体の割に高い。 「速度そのものは低いみたいです。力を封じられている影響もあるのでしょうが」 ただ、麻痺無効と呪い無効に似た力を持っているようなので、先手を取って動きを封じるというのは難しそうですとマルガレーテは口にした。 それ以外にも、冷気無効と火炎無効に似た能力もあるらしい。 「ですが、氷結や凍結はしませんが冷気のダメージそのものには弱いようです」 加えて、炎の方に関しても強力なものであるならば炎によるダメージを与えられる可能性はあると彼女は説明した。 「あと、耐久力や特殊な力を使用するためのエネルギーに関しては、分かれてはいても同じ個体ですし共有しています」 両方の部位に与えたダメージの合計が一定以上になれば、敵は行動できなくなって封印される。 「それまでは、ダブルアクションを強化したような能力で2回攻撃を行ってきます」 通常は頭部と腕部で1回ずつだが一方のチームが撤退などを行えば、もう一方の部位で2回攻撃を行ってくると思いますと説明してから、マルガレーテはそれぞれの部位に関しての説明を開始した。 ●Headside 「こちらの皆さんにはフレイム・タイラントの頭部を担当して頂きます」 説明と同時にディスプレイに、赤い鱗に覆われた蜥蜴のような頭部が表示された。 「攻撃手段は近距離では牙を、遠距離に対しては口から炎を噴出して攻撃するみたいです」 牙による攻撃は、近くにいるものに纏めて喰らいつくという近接距離範囲攻撃。 口から吐く炎の方は、遠距離までの全ての敵を巻きこむ神秘攻撃。 「火炎のブレス等と呼称されるようですが、この攻撃には2種類あるようです」 赤い炎のブレスと、青い炎のブレス。どちらもダメージを与える以外に炎で対象を包む効果があるらしい。 「蒼のブレスの方が強力ですが、こちらは使用すると力を消耗するようです」 もっとも、その分だけ威力も高い。また、紅蓮の炎は火炎の効果だが蒼の炎は業炎の効果をもたらすようである。 「……あと、弱点と呼べるかどうかは難しいところですが……」 歯切れの悪い口調でマルガレーテは、眼の部分の防御力は他よりも弱いと説明した。 「ただ、一定のダメージを与えると破裂して、その時に溶岩のような液体を周囲に飛び散らすみたいなんです」 それによって付近にいる者に軽度ではあるが回避できないダメージを与えてくるらしい。 「何らかの手段で周囲を感知しているらしく、目が見えなくても戦闘に影響はないようですので放っておくのも手段かと思います」 ちなみに目の方は潰れても一定時間で再生する。再生が終わるまでは攻撃を行うことはできない。 「……以上が頭部に関しての説明になります」 そういって短く息を吐くと、少女は集まっていたリベリスタたちを見回した。 「……危険な相手ではありますが、皆さんでしたらきっと大丈夫だと思います」 どうか、御気をつけて。 マルガレーテは更に緊張した表情で一礼すると、リベリスタたちを送りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月15日(木)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●フレイム・タイラント 不自然に空間に浮かんだ闇の中から、それは唐突に姿を現わした。 爬虫類を思わせる尖った、鱗に覆われた頭部。猛々しい角、口に収まりきらぬ様子の鋭き牙。 「ドラゴンですか~。実際に見ると凄い迫力ですのう」 こんなのが暴れ出したら大変ですな。早急にお帰り頂けると良いのですが。 どこか気楽な調子で『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が口にする。 (フレイムタイラントって聞くとなんか技が閃きやすそうな気がしてくるんは何でやろう?) 「とりあえず誰かアイスソード持ってきてくれや」 どこか似たような雰囲気で『運命博徒』坂東・仁太(BNE002354)も、そんな冗談を口にした。 「炎の巨竜ね、面白ぇ」 念のために結界を張った『悪夢の残滓』ランディ・益母(BNE001403)の態度は前者たちとは異なるが、全く怯えらしきものを漂わせていないという点に関しては彼も前のふたりと同じである。 「それにしたってやっと追い返す何ぞ、規模こそ違うがRタイプを思い出すな」 そう、それだけの危険な存在なのだ。それを理解していても、理解しているからこそ……なのだろうか? 「しかし、竜退治とか何だかゲームや物語の話みたいですな」 上手くいけば、ドラゴンスレイヤー……倒してないから、バスター辺りだろうかなどと考えこむ九十九の傍らで。 「ドラゴン! 英雄の勲しの典型にして王道! いかにしてドラゴンスレイヤーが成し遂げられるのか、存分に書きとめなくてはなりますまい」 『世界を記述するもの』樹 都(BNE003151)が口にした。 興奮したようすで語りはしたものの、同時に彼は従軍記者のようなものとして足手まといにならぬように努めねば……と、自身についても冷静に分析している。 「竜退治なんてお伽話のような依頼だけれど、実際に対峙してみると暑苦しくて煩いだけね」 一方で『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は、素気ない態度で独り言ちる。 (アレを撃退すれば良い? 笑わせないで頂戴。目の前の脅威を先送りにする選択肢は無いわ) 「後の世に憂いを残さない為に、此処で倒し切る。それに――『竜殺し』の称号も悪くは無いでしょう?」 そんな彼女の言葉に『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)は力強く頷いた。 「誰がこんな物を封印したのかは知れませんが、世界の危機と在らば対するは私の本懐であります」 境界最終防衛機構、ラインハルト・フォン・クリストフ。 「このボーダーラインは、超えさせません」 それは、護り抜くという少女の誓い。 (幻想の頂点に君臨する最強の種、ある意味憧れの存在ですね) 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は静かにその威容を 見上げたあとで、挨拶でもするかのように口にした。 「相手にとって不足無し、私に出来る全てを以って挑ませていただきます」 既にフレイムタイラントの口元には赤く、蒼く、何かが揺れ、熱気は頬をなでるほどに漂ってくる。 「こんなサイズのアザーバイトを追い返したなんて、昔の人は凄かったんだなって思います」 『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)冷汗をかきながら、素直な感想を口にした。 負ける気はない。撃退し、被害が出る前に封印し直そうという想いはもちろんある。 それでも、念のために。腕部と戦う者たちといざという時は連絡を取り合うことを確認しあって。 「そいや最近、暴君の名前持った武器手に入れたんよ」 仁太は相変わらずの口調で言うと、パンツァーテュランと名付けられた禍々しい巨銃を炎の暴君へと向けた。 「君主は二人もいらんのや、じゃけん消えてもらうで!」 ●戦いの始まり 「さぁ、今此処に――新たな英雄叙事詩を紡ぎましょう」 氷璃はアザーバイトの動きを確認しながら行動範囲を推測し、敵の攻撃射程の外で自分を中心に複数の魔方陣を展開し魔力を爆発的に増大させた。 レイチェルと都は脳の伝達速度をスキルによって向上させ、九十九は意識を集中することで射撃手としての感覚を研ぎ澄ます。 ランディは白兵戦距離まで一気に近づくと、グレイヴディガーを振りかぶった。 冷気が篭められたブロードアックスが唸りをあげ、フレイムタイラントの頭部へと叩き込まれる。 イスタルテはフィンガーバレットを高速で構え、ドラゴンの巨大な眼球を撃ち抜いた。 その様子を仁太は冷静に窺いながら待機していた。 簡単に眼球が壊れるようなら他の部位を、容易に壊れないようなら自分も同じように眼球を攻撃しようと考えてのことである。 フレイムタイラントは咆哮をあげると、牙を剥き出しに接近していたランディとラインハルトに襲いかかった。 ふたりはそれを何とか回避する。 ラインハルトはクロスジハードによって味方に十字の加護を与え意志の力を強化する。 敵の動きを見た仁太も、暴君の名を冠された巨大な銃を機敏な動きで構えた。 「安心せぇ! ひゃっぱつひゃくちゅうじゃけぇ! ……外してもうた~っ」 圧倒的な速度で構えられ、そこから放たれた砲弾は……主の美学主義に従うようにして不思議な跳弾を行い明後日の方角へと飛んでいく。 「……今です、狙ってください!」 集中力を高めたレイチェルが聖なる光を放ってアザーバイトの動きを一時的に怯ませる。 「くっくっく、強装甲でも目が弱いとは、お約束の分かっている竜ですな」 九十九は竜の動きを確認しながらショットガンを構えた。 (お約束通りに、その目を撃ち貫いて差し上げましょう) 敵の動きを、自分の銃の性能を、確認し、神経を研ぎ澄まし……狙いを定める。 銃口から放たれた無数の散弾は、まるで操られでもしたかのように正確に高速で飛び、巨大な眼球の一ヶ所へと直撃した。 仲間たちの攻撃を利用するようにしてランディは闘気を滾らせ全身に纏い、都は更に敵の動きへと意識を集中していく。 イスタルテはフィンガーバレットで普通に照準を合わせて眼を狙い、冷気の篭められた弾丸の威力と、先刻の射撃が相手に与えたダメージを比較しようとする。 魔力を高めた氷璃は前進すると、属性の事なる四の魔力を組み上げた。 組み上げられた魔術が四色の魔光を放ち、絡み合いながらフレイムタイラントの眼球へと直撃する。 それを冷静に眺めていた氷璃は、アザーバイトの態度から竜の眼球が大きなダメージを受けていると推測した。 彼女の言葉を確認した仁太は、狙いを眼球以外へと変更し機敏な射撃を行いつつ後退する。 放たれた砲弾は今度は鱗を貫き、竜の体を傷つけた。 怒りの咆哮を発しながら巨竜は大きく口を開く。 そこから紅蓮の炎が放たれ、暴れ狂うようにして一帯を包み込んだ。 ラインハルトは身を焼かれる仲間たちに向かって邪気を退ける光を放ち、炎を消失させる。 受けた傷に欠片も怯む様子なく、むしろ満足気にすら感じられる表情で、武器を構えながらランディは言い放った。 「牙も炎も大したモンだが、これでいい。強い相手と戦って勝てば俺はもっともっと強くなれる!」 ●総てを焼き尽くす、蒼き炎 レイチェルが再び閃光で敵を怯ませる。 氷璃からの連絡を受けたランディは武器を振るった真空刃で竜を切り裂きながら、一旦後退し距離を取った。 前衛後退を確認した九十九が正確な射撃で眼の一方を破壊する。 「滅びなさい。それが貴方の運命よ」 炎のブレスで受けた傷を気にせず、氷璃が反対の目を狙って再び四属性の魔術を解き放つ。 『勇者たちの息もつかせぬ連撃! 圧倒的な強靭さを誇る火竜といえどもそのまなざしが傷つくのを抑えることができない』 「……このような感じでしょうか」 都は今の戦いを書に記述する場合は、などと考えつつ敵の動きに集中しながら狙いを定めた。 片目を潰されてもフレイムタイラントは怯む様子もなく、むしろ怒り狂い猛るように、紅蓮のブレスでリベリスタたちを薙ぎ払う。 レイチェルと都が放った気の糸でもう一方の眼を潰されても、その攻撃は止まらなかった。 もっとも、リベリスタたちの側も怯みもせず、攻撃を止めなかった。 両眼の破壊を確認したランディは再び距離を詰め、強烈な打ち込みでドラゴンの動きを鈍らせる。 ラインハルトも前進し力を籠めた十字の光で竜の体を撃ち抜いた。 「目の次は牙も破壊すれば、報酬もアップ……おっと、それはゲームの話でしたな」 牙を狙って攻撃を試してみた九十九は、効果が薄いと判断すると銃弾に魔力を篭め貫通力を増すという攻撃方法へと切り換える イスタルテは癒しの符で都や氷璃、自身を回復し、氷璃は更に四重奏を放とうとした所で……微かに首を傾げた。 敵の放とうとする、ブレスの違い。 レイチェルも竜の息の吸い込み方が先刻と微妙に違ったような違和感を覚え……ふたりの口からほぼ同時に、警告の声が発される。 そのままレイチェルは詠唱で福音を呼び、味方の傷を癒しながら後退し、氷璃も射程外へと移動しながらも意識を竜へと集中した。 ランディやイスタルテ、遅れてラインハルトも全力防御の態勢を取る。 一方、九十九は委細構わず魔力を籠めた銃弾でアザーバイトを攻撃する。 直後、フレイムタイラントの口が大きく開かれた。 燃えるというよりは輝くと表現した方が相応しい、蒼色の炎が広がり……一帯を、包み込む。 音は寧ろ、紅蓮の炎の方が激しいように感じられた。 蒼い炎に触れたものが、静かに変化し、あるいは蒸発するように消え失せる。 身体を一瞬で焼き尽くされかけた都は、無理矢理に運命を手繰り寄せ、動けなくなるほどの重傷から逃れた。 九十九は酷い火傷を負ったものの、それでも身体が動くのを確認すると銃口を静かに竜へと向ける。 全力で防御の態勢を取っていたイスタルテも、痛みを堪えて符に癒しの力を籠めた。 フレイムタイラントの動きを牽制するように仁太が前進してパンツァーテュランを取り回す。 「運任せの一撃が当たりゃ防御力は関係ないけんのぅ」 鱗の間を縫うようにして弾丸が命中するのを確認し、さらに早撃ちで連続攻撃。 その間にレイチェルが前衛たちに届くようにと前進し再び福音を響かせる。 ランディがグレイヴディガーで重圧をかけると、ドラゴンは牙でランディやラインハルトに反撃する。 「盾たる私を貫けると言うなら、貫いてみせると良いのであります」 ラインハルトも敵の怒りを自身に向けさせ、仲間への注意を逸らそうとする。 それでもドラゴンが炎を吐こうとした時、イスタルテは自身を符で回復させつつ前進し、前衛の数を増やすことで何とか敵の行動を牙による近接攻撃に変えさせた。 だが、そこまでが限界だった。 ドラゴンはふたたび……あの、蒼い炎を吐こうとする。 ゆっくりなようで、実際は事前の動きの分かり難く無駄のない動き。 (……戦況を冷静に見極めろ) レイチェルは自分に言い聞かせた。 (攻撃か援護か回復か、今は何が必要なのか確実に判断しろ) (戦いをコントロールして、流れを引き寄せろ!) その必殺の攻撃の精度を少しでも落とせれば。 厳然たる意志をもって生みだされた聖なる光が、アザーバイトに放たれた。 ●総力戦 前衛たち3人は全力で防御態勢を取り、退避可能な後衛たちは一旦後退する。 その中で都は攻撃の機会を窺って敵の動きを探り再度気の糸を放ち、九十九は黙々と……ではなく色々と口にしながらではあったが負傷に動ずることなく、射撃でアザーバイトを攻撃し続けた。 そしてフレイムタイラントの口が開き炎が放たれる直前、仁太は高速で射撃を行いつつ後方へと飛び退いた。 「姑息な戦い方やけんどこれがわっしの戦い方ぜよ」 下手に耐えて回復の手を煩わせるよりかは攻撃に専念したほうがええからな。 (何より盾になってくれる仲間を信頼しとるからこそわっしは砲として動くんや) 砲弾は竜の身を抉り……直後、蒼い炎が再び一帯を埋め尽くす。 すべてを焼く尽くさんとする蒼炎はしかし、密度と精度という点において前の攻撃に劣っていた。 もっとも、その代償として今回はレイチェルまでもが業炎の洗礼を受け負傷している。 しかもドラゴンは一行を強敵と判断し、ふたたび大きく口を開いた。 蒼炎のブレスの連続攻撃で葬ろうということなのだろう。 確かにそれは放たれれば、傷ついたリベリスタたちを一掃することが可能な威力を持っていた。 だが、それを察知していたデュランダルの青年は既に距離を詰め、自身の武器を大きく振りかぶっていた。 「その馬鹿でかい口をのんびり開けるの待っていた!」 危険など承知の上である。 「歯が冷たくなって頭痛起こすんじゃねぇぜ! 砕けろ!」 冷気を帯びたブロードアックスが、再び唸りをあげてフレイムタイラントの口内へと叩きつけられ、牙を直撃し頭部を揺らす。 直後、三度目になる蒼の炎が戦場一帯に放たれた。 直前の攻撃で方向はそれ、タイミングがずれることで威力も落ちている。 だが、それでも蒼炎は充分な破壊力をもっていた。 そして、都がそれに耐え切れなかった。 無念の言葉を残し、記述者は膝を折り崩れ落ちる。 だが、本来の威力であれば耐え切れなかったであろう九十九とイスタルテはかろうじて攻撃を耐え抜いた。 対して……ランディの受けたダメージは一言では表せないほどに酷いものだった。 離れていても未熟なリベリスタなら一撃で戦闘不能に追い込まれるほどの高熱の炎の直撃を、至近距離で受けたのである。 事実、彼の身体は炭化を通り越して灰へと還元されかけたのだ。 失われかけた身体、命を、彼は無理矢理に、運命そのものをねじ伏せるような力で手繰り寄せたのである。 蒸発した血潮が身体に力を流し込み、躍動する筋肉が弾けるように動く。 戦気を漲らせた一撃が、ふたたび炎帝竜へと叩き込まれた。 九十九とイスタルテも、攻撃を、そして符による仲間たちの回復を再開しようとする。 そのわずかの癒しを嘲るようにドラゴンは炎を吐こうとする。 しかし、それは叶わなかった。 フレイムタイラントが放ったのは紅蓮のブレスだった。 この時、腕部と戦う班のリベリスタたちも激闘を繰り広げていたのである。 彼らを迎撃するために体表から炎を噴出し続けたこと、そして蒼炎のブレスを3度も使用したことによって一時的にその力が限界に達したのだ。 それでもドラゴンは強敵だった。 前線を支えていたランディが鋭い牙によってついに力尽き、前のめりに崩れ落ちる。 紅蓮の炎によって限界を迎えかけたイスタルテと九十九は、それを運命の加護によって堪え抜いた。 「ふっふっふっ、怪人は不死身なのです」 そう言って武器を構え直した九十九は、再生したアザーバイトの瞳に向かって引き金を引く。 ラインハルトが前線を支える間に、氷璃が、仁太が、強烈な一撃を叩き込む。 総攻撃を受けた炎の暴君は、天を仰ぐと大きく咆哮した。 それが、戦いの終わりを告げる合図になった。 アザーバイトの巨体が、引きずり込まれるようにして闇の中へと消えていく。 「折角出て来れたのに、また封印とは少し可哀想ですかのう」 そんなことを呟いてから、九十九は微かに首を振った。 「まあ、暴れられても困りますしなー。これも世のため人のためってやつですのう」 呟く間にも竜の姿は失われ、そして存在していた闇も……掻き消されるように消えていく。 それを確認したラインハルトが、アクセスファンタズムを使用し腕班へと連絡を取った。 もう一方の班も撃破を完了し、ゲートが閉じたことを確認すると……一行の内にようやく任務を達成したという実感が湧きあがる。 戦いの痕の残る、静まり返った戦場。 レイチェルは、何もなくなった空間へと視線を向けた。 不思議な闇が存在していたその場所には、ただ何もない空間が広がっているだけである。 「もっと強くなりたい」 小さな声で呟いた後、彼女は心の中でこう続けた。 (いつか、あの竜を殺しきれる程に……!) |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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