●おでん屋『頑固一徹』本日営業中 「そういや、おやっさん聞いたかい」 「何をだい」 「正太郎さんとこの屋台も喰われたってさ」 「そうか」 「正太郎さんは無事らしいけどね? 屋台もなくなっちまったし、もう歳だし、いい加減店を畳むとさ」 「……そうか」 「おやっさんも気をつけなよ? せめて騒ぎがおちつくまで臨時休業ってワケにはいかないの?」 「今宵も俺のおでんを待つ人がいる。俺がここに居るものと信じてこんな辺鄙なところまで尋ねてくれるあんたみたいな常連さんがいるんだ。 そんな化物ごときのために暖簾を下ろしてたまるかってんだ」 「はは、相変わらずだねぇ、おやっさんは。どうだい、明日も来てもいいかい」 「……化物に遭ってもしらねぇぞ」 「なぁに、この旨いはんぺんが明日も喰えるってんなら、命のひとつやふたつ捨てたって惜しかないやい」 「安い命だねぇ、あんたも」 「辛口も相変わらずか。おやっさん、ちくわぶくれよ。あと熱燗追加で――」 ●竜いずくより生まれ出るか 「こんにちは。おでんが美味しい季節になりましたね」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はリベリスタたちを前に笑みながら、時候の挨拶を述べる。 「といっても私は母が作ってくれるものやコンビニのおでんばかりで、屋台のおでんは食べたことがないのですが……」 何故和泉がこんな話題からブリーフィングを始めたかといえば。 「今回の撃破目標について判明していることは主に以下の三点。 ひとつ、フェーズ2のE・ゴーレム『飛竜頭』ワイバーンヘッドは、その名の通り竜の頭部のような姿をしたエリューションであること。 ふたつ、このエリューションの発生源が、とあるおでんの屋台であること。 みっつ、このエリューションは、営業中のおでん屋台を補食することを至上命題としていること。以上です」 ファイルを閉じた和泉は、ディスプレイを指す。そこに映し出されるのは、『飛竜頭』の名を持つエリューションの姿。 金属光沢を帯びた鱗に、爬虫類じみた黄色い目。ずらりと並んだ鋭い牙は、とてもではないがおでんを常食とする和やかな生物には見えない。 「ワイバーンヘッドは屋台のおでん屋ばかりを次々に襲撃。少なからぬ被害を出しています。 次に狙われるおでん屋は『頑固一徹』という……まあ、その名の通りちょっぴり気難しいご主人のお店のようです。 アーク職員にも常連さんがいるようでして、当然この予知のことは警告したのですが……。 流石、といいましょうか。おでん屋『頑固一徹』の主人はそれでも営業を続行するようですよ。 まあ、餌となるおでん屋台がなければエリューションをおびき出すことはできませんから、こちらとしてもそれはありがたい話なのですが。しかし彼はあくまで一般人、彼と屋台を可能な限り守ってあげて下さい」 画面の中に大写しにされた髭面の男は、いかにも偏屈、といった様子で両腕を組む。 和泉はファイルに視線を戻すと、聞いてください、と手で合図する。 「ワイバーンヘッドを相手どる上で注意事項がひとつ。『神秘秘匿すべし』の原則はリベリスタにとっても馴染み深いものですが、今回はこの原則がエリューションに更なる力を与えています。 つまり正体不明である限りにおいて、ワイバーンヘッドは神秘に対する耐性を獲得しているということです。 当該エリューションが、三高平市内のとあるおでん屋台から発生したことだけは確かなのですが。 その素体となった物体が調理器具であるのか、おでんの具材であるのか、はたまた屋台そのものであるのかは、残念ながら判然としませんでした。 しかし、あなた方のお力でその正体を看破することができれば、このエリューションが纏う神秘のベールを剥ぎ取ることもできるでしょう」 説明は以上です、とファイルを閉じた後で、和泉はリベリスタたちに向けてにこりと微笑む。 「季節の変わり目は身体が冷えますから。夜のお仕事、皆さん風邪を引かないようにどうか気をつけてくださいね?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諧謔鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月30日(水)22:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●飛竜頭=ワイバーンヘッド さて、今宵おでん屋『頑固一徹』の前に居並ぶ面々は、いつもの常連とはちょっとばかし趣を異にする。 昔気質のおでん屋台に、猫耳うさ耳、翼の生えた子、物々しい武器を携えて、ちょっと厳しい面持ちで空を見上げる面々が集う事なんて、そうそうないだろう。 雲の切れ間から時折差し込む月光が、頭上、遥か上空をゆっくりと旋回しながら下降してくる塊のシルエットを描き出し。 しかしその姿は名状しがたいもやのようなヴェールに覆われ、貘として掴みがたい。 夜光する眼光、縦に割れた爬虫類の眼光だけが、リベリスタたちを睥睨する。 その正体がなんであれ、たとえ頭だけの不格好な姿であれ。 落とす威圧感はご立派に、竜の風格。 「ちーっす、化物退治に来やしたー!」 空き地の封鎖作業を口をへの字に曲げて見つめる男、おでん屋『頑固一徹』の店主に、宵咲 刹姫(BNE003089)は元気よく挨拶する。 「おいおい、うちは今夜も営業してんだ。あんたらが誰だか知らんが、勝手に貸し切られちゃ困るぜ」 「そうもいかねぇんですよ。あのエリューションは、おやっさんの屋台を取って喰おうと狙ってやす。 おやっさんと屋台、二つ揃って『頑固一徹』! 常連さんの楽しみの為にも暫く隠れて下せぇ!」 深々と頭を下げる刹姫を前にしても、店主は動じない。しかし。 「……お仲間の未練も、きっと晴らしやすから」 暫しの沈黙の後で、店主はくるりと踵を返した。そして背中越しに言う。 「……ふん、そいじゃあ俺は仕込みして待っててやっから、とっとと片付けてくれよ」 店主が屋台に戻り、鍋の蓋をとると。 「あー、お腹空いたー……ねー、先におでん食べていい?」 『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)は、背後の屋台と上空のエリューションが放つ香りに鼻腔をくすぐられ、呟く。 「だめですよ。まずは奴の正体を看破して、倒してしまうことが先決です」 『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)は、泣き叫ぶ斬乃の腹の虫をたしなめるように言う。 「と、言っても。皆さんもう既にお分かりのようですが」 「かぐわしい香り……ああ、あれこそはおでん必勝の具材」 斬乃は胸一杯におでんの香りを吸い込みながら恍惚の表情を浮かべる。 「もちろん私も分かってますよ〜」 間延びした口調ながら自信ありげに言うユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)に、『素兎』天月・光(BNE000490)は頬に指をあてて首を傾げた。 「飛竜頭の正体~? 飛竜頭は飛竜頭じゃねぇのか? 正体って材料か? 豆腐、こんにゃく、人参ってことかな~?」 関西以外ではね、こういうんだよ、と『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)が光の耳元に囁く。 「おお、そういう風にも言うのか!」 「ところで光さん、なんか鼻声だね。風邪? だいじょぶ?」 「匂い対策に鼻栓してきたのらっ!! へふへふ」 そして光と同じ目的でマスク着用、白布に覆われたプラカードを肩に傾けた『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)は、これからデモ行進にでも参加するのやら、といった風体。答えならここに、と、黙ってプラカードを指す。 匂い対策ならば、大仰なのがもうひとり。ジルは酸素ボンベをくわえた隣の彼女に問いかける。 「それで、そこのベイダー卿は勿論正解が分かってる筈よね?」 「こー……ぱー……って、誰がベイダー卿!?」 ノリツッコミも鮮やかな『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)は、酸素ボンベは流石にちょっとやりすぎたか、と反省する。 「ほら、シュコーシュコーって音も見た目も案外可愛いと思…思……思わないよね、うん。 ここまでやって効果なかったら、ちょっと切ないかな。あはは……。 飛竜頭の正体はアレよね、勿論分かってるって!」 「何、飛竜頭の正体の話? 検索したら一発でした!」 封鎖を終えて戻って来た刹姫が、得意気に携帯の画面を指す。 「そう、飛竜頭とは水気をしぼった豆腐にすったヤマイモ、ニンジン、ゴボウ、シイタケ、コンブ、ギンナンなどを混ぜ合わせて丸く成型し油で揚げたもの……。 しかし全く原型が……エリューション恐るべし、です」 ルカが皆の推測を纏めるように呟いた。 「なぁ、せっかく皆分かってるなら、神秘暴きは『せーの』で行こうぜっ!!」 『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の提案に。 「ああ、ちょうど良く射程圏内に入ったことだしな。銃も、声も」 『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が同調する。他の者たちも、異論は無い。 「さあ、いつでも降りてこいワイバーンヘッド!! お前の神秘をひっぺがしてやらぁ!!」 「我が仮の名を呼ぶのは何者ぞ!! 我が真の名を知らずして、この誇り高き竜の血族ワイバーンヘッドを堕とすことなど能わぬと、骨身に沁みさせてやろうぞ!!」 「何とでもほざけ、君の正体はとうに割れてんだっ」 光は天の飛竜頭を指差し、啖呵を切る。 「そんじゃいくぜ、せーの!!」 夏栖斗の掛け声に合わせて、各々が、各々のドヤ顔。ジルのプラカードから白布が舞う。 「「「「「「「「「 が ん も ど き ! ! 」」」」」」」」 「……はんぺんっ!!」 その叫びは波となって、急降下し始めていたワイバーンヘッドを包み込む。 「な、なにィ!?ば、馬鹿な、認めん、絶対に認めんぞ!! 若干の不純物が混じったとはいえ、我の正体をこうも容易く看破するとはっ」 どうやらリベリスタたちの『神秘暴き』は功を奏したようだ。ワイバーンヘッドの輪郭は現実味を帯び、正体不明の威圧感は幾分和らぐ。 が、一方で僅かに混じった異物の気配。犯人は確定的に明らかである。 「ユーフィェ……」 ユーフォリアに向けて降り注ぐ、仲間達の哀れみの目。 そして空からはダメ押しの、豆鉄砲。 エリューションの成分(まあ、つまるところ大豆である)と屋台の残骸が混合した砲弾が、重力加速度を借りてユーフォリアを狙う。 戦闘に備え高めていた疾さが、間一髪彼女を直撃から救った。 「し、死ぬかと思いました〜」 「一撃じゃ死なないでしょ、流石に」 「いや、攻撃じゃなくて皆さんの視線が突き刺さって〜」 そっか〜、がんもどきか〜、と繰り返し呟きながら、ユーフォリアは飛翔する。 直径5メートル。完膚なきまでに原型を無視した変異を遂げた『飛竜頭』ワイバーンヘッドの頭上へと。 「さあ、空中戦といきましょう!! 皆さんもユーフォリアさんに続いてください!!」 ルカの宣言とともに、リベリスタたちには飛竜と闘うための翼が、授けられる。 ●飛竜頭=がんもどき 精進ダシ100ミリリットル、木綿豆腐一丁、醤油15ミリリットル、料理酒10ミリリットル、砂糖3グラム、大和芋1/4本、キクラゲ4個、春菊1/2束、人参、ごぼうを少々とその他少量の15の食材……大体一人分として計算した場合のがんもどきの構成成分だ。今の科学ではここまで判っているのに、実際に空飛ぶがんもどき錬成に成功した例は報告されていない。 まあ、がんもどき錬成それ自体は禁忌でもなんでもないが、がんもどきを「飛竜頭」と呼ぶのは、主に近畿である。おそまつ。 さて彼らが対峙する飛竜頭は、群がる十名のリベリスタなど眼中にナシといった様子で、屋台に向けて猛然と突進する。 「あたしが居る限りー、屋台に手出しはさせないよ!」 屋根の上で待ち構える斬乃の手に、紫雷を帯びたチェーンソーが唸りを上げる。 突進を正面から受け止める一撃は、火花を散らしながら飛竜頭の鱗を削り飛ばし―― しかし数々の屋台を補食し、たっぷりとダシを吸ってきたその重量は伊達ではない。 「おでんの為に! 負けてなるものかッ。 美味しく食べるために、わざわざご飯抜いてきたんだからな!」 食欲の力で斬り上げる一閃。超重量級突進の弾道を反らすのと引き換えに、斬乃は思い切り地に叩き付けられる。 「――っ!!」 「おいおい、大丈夫かよ。店よりなにより、あんたが壊れちまったらしょうがないぜ!?」 斬乃を気遣って、店主が屋台の屋根から出たのを狙いすましたように。 上空から放たれる、高温の出汁ブレス。 まだ立ち上がる途中であった斬乃は、秘伝のダシをまともに浴びる。 店主にも及びかけたその余波は、夏栖斗が身を呈して庇った。 「す、すまねぇ……」 「気にすんなって。おやっさんのおでん、楽しみにしてんだ」 さて、先程斬乃が飛竜頭と拮抗する間に、その頭上に飛び乗った者が二人。 「さぁて、めった刺しにしてやるわ」 ジルは不敵に笑み、逆手に構えたナイフが足下の鱗に突き立てられる。 彼女の影と共に、繰り返し。宣言通りのめった刺しにアツアツだったその表面は、次第に凍結してゆく。 対して竜の頭上に目を瞑り、流れる金髪を夜風に靡かせてユーフォリアは集中を重ねる。 一度上がった高度は、再び下がり始め。ティセと星龍が下からそれぞれ真空の刃と銃弾とを浴びせかける。 「絡め手無しの真っ向勝負だ。私の本気はちょっと痛いよ!!」 頭上の飛竜頭めがけ、ウェスティアはその強弓の弦を目一杯に引く。 つがえるのは単なる矢に非ず。四色に輝く光の矢。 旋律を帯びて放たれた光矢は、竜の顎に深々と突き刺さる。 注ぎ込まれた魔力は、飛竜頭の感覚を奪い。 「堕ちるよ、退避っ」 錐揉み落下しようとする飛竜頭を蹴って、ジルは離脱する。後退しながらも、先程こじ開けた傷口にナイフを撃ち込みながら。 そして地上から放たれた刹姫の気糸が左目を。飛び降りざま振るわれるユーフォリアのチャクラムが右目を。それぞれ抉る。 「ぐ、ぬぁああ」 視界を塞がれ、轟音とともに地に落ちた飛竜頭の前に立ちふさがるのは。 鉤爪と瞳に炎を宿らせるティセ。 「焼きがんもどきも美味しいかもしれないね!」 焼け付く拳が、鱗を突き抜けて飛竜頭の体内を灼く。 おでんとはまた一線を画した香ばしい匂いが辺りを包んだ。 姿は変異しようと、この飛竜頭はあくまでおでんである。他の食品に調理されてはかなわぬと、逃走を図る。 「あっ、逃げるんだ。意外とチキンなんだねー、雁だけに」 「おのれっ。我を愚弄するかぁああ!!」 ティセの言葉によって怒りに駆られた飛竜頭が放つのは、身を焦がす劫火……ではなく、魅惑のおでんスメル。冬の風物詩である。 かぐわしきかほりを間近で胸一杯吸い込んだティセの瞳が、お出汁の中で一晩寝かせた感じにとろんと濁る。 「こ、これが何でも受け入れるオデンのダシの魔力ですか……」 ティセが魅了されたのを見届けて、上昇を再開した飛竜頭。しかし。 ブレスを斬り払って跳躍、頭上をとっていた光が、空を蹴るようにして空中で反転する。 そしてそのまま剣を下に、自由落下に任せた刺突。 「天井落ちだ!!」 剣撃に重力加速度を加えた一撃が、飛竜頭を地に縫い付けた。 光は即座に飛竜頭の上から離脱すると、仲間に刃を向けるティセに組み付く。 ティセが已然纏い続ける炎が、光の肌を焼いた。 「ティセくん、気をしっかりもて!! 戦い終れば食べれるおでんを想像するんだ!」 「ご、ごめんねー。でも、今このかぐわしさには抗えないよー」 「光さん、このままティセさんを抑えて下さい!! ダメージはこちらでなんとかします!!」 「おっけー、ルカくん! ティセくんは任せてっ」 結果的に二人の戦力を損なったリベリスタたちに向けて、飛竜頭は二連続の豆鉄砲。 その一方を躱した刹姫は、そのまま流れるように身を翻して竜の左目を撃ち抜く。 「き、貴様ッ。一度ならず二度までも……!!」 「来いよ、豆腐頭。あたいが相手になってやんぜ!」 復讐に燃える飛竜頭の隻眼には、もはや刹姫しか映らない。ただ猛然と、突進する。 「うぉおおおおお!!!!」 牙を剥き出して開いた大顎から、咆哮が放たれた。 その音波を貫くようにして、内部を曝けたその口内にナイフが撃ち込まれるのを皮切りとして。 「止まれェえええええ!!!!」 その牙が、刹姫に届く前に。集中砲火を浴びせるリベリスタたちの叫びが、飛竜頭の咆哮と激突した―― ●おでん語り 「薄目の出汁がよく染みたほくほくの人参。 食材の食感を残しつつも出汁の味わいと人参の旨味が口の中で混ざりあい、温かさと一緒に喉を通ってゆく……」 おい、この『究極』とか『至高』とか言っちゃいそうな顔でおでん語りをする兎さんは誰だよ。 僕らの知ってる光ちゃんと違う! なんてツッコミはさておき。 「人参うめぇ!」 屋台の座席をぎゅうぎゅうに埋めたリベリスタたちは、仲良く並んでおでんを食す。 背後にはほかほかと湯気を上げる飛竜頭の残骸を置き去りにして。 「なるほど、コンビニおでんとはモノが違うわ」 コンビニのおでんは、正直微妙だった。屋台のおでんも、サラリーマンのおっさんの溜まり場としか見ていなかった。 どうやらその認識は改めねばならないらしい。 感慨深げにおでんを味わいながら、ジルはしみじみ頷く。 「このタマゴが良いのよ……ダシが良く漬かった、ダシ色に染まるタマゴが……!」 「っていうかアナタ、さっきまで倒れてなかった?」 ジルは隣でタマゴに目を輝かせる斬乃に問いかける。 「ふふ、こんな肝心な時に倒れていられるかっ。 おでんだおでんだー!! はふはふ……あっつぅ!!」 がっついたおでんに舌を焼かれ、斬乃は悲鳴を上げる。 「ほら、慌てて食べるからですよ」 ルカの魔導書から放たれた淡い燐光が、斬乃の火傷を癒した。 「なんとも贅沢な天使の息の使い方ねぇ」 「寒空の下、熱々のおでんと日本酒なんて最高じゃないですか。こちらの方がよほど贅沢ですよ」 日本酒をちびちびやりながら大根とタマゴをつつくルカは、店主に追加のオーダーをする。 「親父さん、せっかくなのでがんもどきも。 いやぁ、屋台のおでんって、食べてみたかったんですよ」 「がんもどきなら後ろにあるじゃない。遠慮しなくてもいいよー?」 ティセの無茶ぶりに、ルカは苦笑いを返した。 「おじちゃん、大根とコンニャクと……大根とコンニャクおねがいー!」 練り物系が苦手なティセは同じメニューを繰り返しオーダーする。 「タマゴもどうだ? ほら、あーん」 光がお箸で差し出す褐色のタマゴに、ティセは嬉々として齧りつく。 「美味いか?」 うん、うんと頷くのを見て、光もまたにこりと微笑んだ。 「飛竜頭の正体、白滝の滝の字って竜の字含まれてるし…ってボケたかったんだけど、それで失敗したら大事だからね……」 ひとりごちながら、ウェスティアはちゅるちゅると白滝を啜る。 それに、ボケならばその斜め上を行ってくれた者がここに一人。 「え〜と、あたしはぁ。大根にタマゴにこんにゃく、はんぺんも頂きますよ~。 あ、それと熱燗〜」 「おじょうちゃん欲張るねぇ」 ユーフォリアのオーダーに、店主は軽くあきれ顔を浮かべる。 「……はんぺんさんはやっぱりはんぺんですか」 「ユーフィです〜。はんぺんさんじゃないです〜」 真新しい傷を抉られたユーフォリアは、手渡された熱燗をぐいと一気に煽る。 「おやっさん、熱燗追加〜!」 「ええっ、もうかい!?」 「私にも大根と熱燗を。それと……ここには静岡おでんはあるのでしょうかね?」 いわしの黒はんぺんとか」 星龍の問いかけに、店主は首肯して鍋の片隅を指した。 そこだけはだし汁の色が他より濃く、入っている具材も異なる。 「ああ、あるぜ。俺は東京からの流れもんでね、最初は知らなかったんだが。 こっちに来てからちょくちょくにいさんみたいな人が来てね」 店主はおでんとともに味噌の入った器を差し出した。 「僕も大根! しみてるとこがいい! あとタマゴ! 牛すじも!」 「へいへい。そっちのにいさんにはさっき助けてもらったからね、サービスだ」 元気よくオーダーする夏栖斗に、店主はちょっと多めに盛りつけられたおでんを手渡した。 「そうだ、おやっさん。記念に写メろうぜっ!!」 ちくわを齧っていた刹姫が不意に立ち上がり、屋台の裏へと回る。 戸惑う店主の腕を強引にとると、刹姫は携帯のカメラを構えた。 「はい、チーズ!!」 「あ、ああ。なんだチーズか。……そんならあるぜ」 店主が鍋の片隅から召喚したのは、どっぷりとチーズにフォンデュされたおでん。形状からおそらく、大根。 「んなっ……!?」 ぱしゃり。 動揺した手がシャッターボタンを押して。 若いおなごに胸をあてられ、可愛く頬を染めたカタブツ親父と。 その親父が片手に持つまさかの「チーズおでん」に驚愕を浮かべる刹姫のツーショットが見事写メられたのであった。 「おやっさーん!! 熱燗追加〜!!」 「またかい!!」 ユーフォリアのオーダーに、店主は思わず叫ぶ。 「ったく……お客さん追い返した挙句タダ飯喰われたんじゃ、こちとら商売あがったりだぜ」 口では毒を吐きながらも、店主の表情は柔らかい。 「明日は倍働いて取り返さねーとな。 あんたらのお陰で、どうやら明日も営業できるようだから、さ。 ……いいか!! この機会にたーんと喰いやがれ!! 奢ってやるのは今夜だけだからな!!」 「おー!!!!」 初冬の寒空に、ここだけはおなかも心も温かく。 リベリスタたちの明るい声が、響き渡った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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