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聴こえし音は焼き地獄

●なき叫びしは誰か
 ——ねぇ、知ってる?
 ——何を?
 ——最近ね、出るんだって。
 ——だから、何が?
 ——こんなにもったいぶってるんだから、空気読みなさいよ。
 ——はいはい、お化けか何か?
 ——ふふ、違うの。
 ——はぁ。じゃあ、何?
 ——牛が泣いてるんだって?
 ——牛?
 ——そう、牛。
 ——ここら辺に牧場なんて、ないでしょ?
 ——でもね、聞こえるんだって。夜になると。
 ——今、夜だけど。
 ——いつも聞こえるわけじゃないでしょ。
 ——それもそうね。
 ——でね、それを聞いたっていう友達が言ってたんだけど。
 ——うん。
 ——その声ね、なんか、昔の拷問器具の鳴らす音に似てるんだって。
 ——へぇ、なんて道具?
 ——なんていったかな……フェリス、いや、ファラス……?
 ——もしかして、ファラリスの雄牛ってやつ?
 ——そうそう、そんな名前。
 ——でも、それが聞こえたからなんだって言うの。
 ——聞こえるのが問題じゃなくて、聞いたらね。
 ——うん。
 ——焼けちゃうんだって。
 ——焼ける?
 ——そう、焼ける。
 ——聞いただけで?
 ——多分。噂だから、本当かは知らないけど。
 ——でも、本当だったら怖いね。
 ——そうね、音だけでも怖いのに。
 ——拷問器具の出す音なんて、お化けと大して変わらないものね。
 ——ねぇ、でもさ。
 ——うん?
 ——その子は、どうしてそれがファラリスの雄牛の音だって分かったのかな?

 静止。沈黙。恐怖。不穏。

 ——テレビで見た、とか……?
 ——テレビでそんなの、やるかな? やったとしても似てる音な気がする。
 ——ゲームとかで聞いた。
 ——製作者は一体どうやって聞いたのかしら。
 ——じゃあ……実際に聞いたとか?
 ——そんな、まさか。それじゃああの子、

 死んじゃってるじゃない。

 その時彼女たちの耳に、牛のそれに似た鳴き声が、不快に響いた。

●誰が為に雄牛はなく
「ファラリスの雄牛、というものをご存知でしょうか」
 それは古代ギリシアで用いられた、真鍮製の雄牛。中は空洞。死罪に処された罪人を中に閉じ込め、そして雄牛が黄金色になるまでじっくりと炙り、殺す。その時中では、外にいる衆人の叫びが、雄牛の唸り声のように響くという。
 それは史上最悪ともいわれる、拷問器具の一つ。
「拷問器具が実際に何かしてくる、というわけではありません。だからこそ、ちょっと危険かもしれません」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、手元の資料に目を落としたまま、続ける。
「対象はフェーズ2のE・フォース。神出鬼没なエリューションで、中々発見することができませんでした。これまでにこのエリューションによる4名の死者と13名の重傷者、それに多数の軽傷者が確認されています。与えられたコードネームは『ファラリスの笛吹き』」
「笛吹? 笛でも吹くのか」
「はい。少し前から事例が報告されていたのですが、ようやく次に彼女が出没する場所を特定することが出来ました。元は拷問器具マニアの少女と、彼女の持っていた笛が統合して革醒したものだそうです。『ファラリスの笛吹き』と言いましたが、彼女が自分の出している音をファラリスの雄牛の音だと吹聴したのが、呼び名の始まりです。出没時、周りの人間に笛の音を聴かせようと演奏しますが、この音色が問題です」
「というと?」
「聴くと、焼けます」
 は? と周囲が一斉に疑問符付きの声を出す。
「彼女の演奏、と言ってもエリューションが発している音なのですが、それを聴くと、体がどこからともなく焼け——燃えではありません——そしてしばらくすると黒焦げになり、焼死します。まぁ、これは一般人の話で、皆さんなら戦闘不能程度で済むでしょう。容姿や服装がどうなるかは、保証いたしかねますが」
 誰もが息を呑む。その現象が、おそらく鉄板で焼かれるような感覚であること、あるいはそうでなくても、燃えるとは異なる、恐ろしいものであることは、想像に難くなかった。
「一見、耳を塞げばよさそうですが、耳栓をしていても焼かれ終わるまでの時間が2倍になるくらいでしょうか。完全に防げるわけではありませんが、有効な手段ではあるでようですね」
 あとは資料をご覧になって下さい、と言って彼女はファイルをまとめて部屋を出ようとする。あ、と思い出したように呟くと、彼女は振り返って言った。
「彼女の本体は『笛』です。笛を壊せば、彼女は消えるでしょう。ですが、この笛自体が小さいだけでなく、彼女自身も相当俊敏なようですから、攻撃を当てるのは難しいでしょうね。それでは、頑張ってください」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:天夜 薄  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月05日(月)22:18
 どうも、天夜薄です。

●目的
 エリューションの退治。

●敵
 E・フォース・フェーズ2・『ファラリスの笛吹き』
 少女と笛が統合して誕生したエリューション。少女の生前の名前は早見涼音。笛がなくなると何も出来ないので消えます。あまりしゃべりませんが、消える前に2、3言くらいなら会話してくれるかもしれません。
 周囲に人や生物を見つけると、少女が笛を吹くわけでも、笛が音を鳴らすわけでもなく、その体から雄牛のような音がします。要は束縛しても眠らせても音は流れ続けます。ただし少女と笛が一体となって初めて音が出るので、どちらかが壊れると音はしなくなります。
 音を聴くと体が焼けていきます。そこにいる全員が対象です。焼けきるまでの時間は、前衛・中衛・後衛ごとに10・20・30秒で火炎状態、もう20・30・40秒経つと焼け終わり、戦闘不能になります。ただ火炎状態を治すとそれはリセットされ、また一定時間経つと火炎状態になります。耳栓等で聴覚対策をしていた場合、その時間は2倍になります。戦闘不能になった場合はそれ以上焼けるなんてことはないです。
 それ以外一切攻撃してはきませんが、回避は高いです。

●戦場
 三高平湖の湖畔。夜も更けて人通りも少ないですが、時たま散歩している人がいます。
 戦闘するのに十分な灯りはあると考えて構いません。
 周辺にベンチがあり、『ファラリスの笛吹き』はそこに座っています。

●備考
 純戦闘……とはちょっと違う気がしますね。
 回復役がとても重要になる戦いです。
 BS回復役がいらっしゃることを信じましょう。
 
 前衛・中衛・後衛がはっきりしない場合、その方は前衛として処理します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
ホーリーメイガス
アゼル ランカード(BNE001806)
クロスイージス
ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
プロアデプト
廬原 碧衣(BNE002820)
クリミナルスタア
イスタルテ・セイジ(BNE002937)
クロスイージス
女木島 アキツヅ(BNE003054)
スターサジタリー
桜田 京子(BNE003066)

●湖畔の演奏会
 木々の合間を吹き抜ける風。揺れる木々。聞こえる葉音は涼しげに。影を作らぬ暗闇と、数秒後の未来を映す点々とした灯り。人通りの少ない夜道。湖へ続く細道。幾つも見える立ち入り禁止の表示とそれを示す看板やコーン。その一つのある道の先。薄暗い闇に映る八つの影。
 湖畔に至り、見えるのは一人の少女と傍らの笛。未だ彼らには気付かず、ただどこか遠くを見つめる少女は、『涼音』の名前を表すような、清涼な音色をその笛で奏でるように思われた。涼風が彼女の頬を撫ぜる。ふと、顔をしかめ、覚えた違和に目を向ける。彼女の方へと駆ける八人のリベリスタ。彼女は立ち上がり、そして、その手に握る笛を思い切り、吹く仕草をする。
 同時、吐き気を催すような、雄牛の鳴き声に似た轟音が耳をつんざく。
「恐ろしい攻撃だな」
 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は耳栓をはめつつ、呟く。
「だが、運が良かった。今回のメンバーが選出されたのはな」
「本当にね」
 『さくらのゆめ』桜田 京子(BNE003066)はそれに呼応する。彼女は真っすぐに、涼音を見つめる。迷わない、そう決めた。
 十字の光が涼音をかすめる。『10000GPの男(借金)』女木島 アキツヅ(BNE003054)が、涼音に語りかける。
「肉焼拷問が好きとは良い趣味してるねぇ。良い肉だからベリーレア位で止めとかないか」
 涼音は応えず、ただひたすら音を発し続ける。『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が素早く駆け寄り、連続攻撃を仕掛ける。涼音は涼しい顔でその攻撃を避けた。
「うーん、大人しく当たってくれると嬉しいのですが」
 それでも音はやまない。孝平はじりじりと前に出る。アキツヅとゲルトはその後ろで待機する。後は少し離れたところで行動の期を待った。誰もが、体に熱い気を帯びながら。
「耳障りなんだよ、お前の奏でる音は」
 廬原 碧衣(BNE002820)は発した気糸に想いを乗せるように、呟いた。しかし涼音を捉えきることは、できない。
「……二度と、その音を奏でられないようにしてやるよ」
 徐々に、辺りに焦げ臭さが漂い始める。孝平が指先を気にしながら、右手を上げて後退する。代わりにゲルトが前に出て、アゼル ランカード(BNE001806)が孝平に向け、神々しい光を放つ。その光は、焦げ臭ささえも払っていった。
 『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が放った光が、涼音を狙う。彼女は軽いステップでそれを避け、見届けると少し彼らから距離を取った。
 一瞬の静寂に、冷ややかな風が吹き抜ける。それは無臭をかき消す異臭を運ぶ。湖畔には少しづつ、肉の焼ける臭いがはびこる。
 焦げ臭さの漂い始めた戦場を見渡して、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は呟く。
「……もっと楽しい用事で訪れたかったぜ」
 その言葉は切実に。

●焼き肉
 宙を舞ういくつもの光。その間を舞う一人の少女。それは不格好で、しかし華麗だ。もしこれがダンスであれば。典雅な音楽と、妖艶な踊りと、幽玄な景色。ライトに照らされ踊るはあどけなさも残る端正な少女。なんと優雅な宴であろう。
 しかし光は質量を伴って少女を襲い、流れる音色は不気味な唸り声で、そこは血と肉が乱れる戦場であった。
 アゼルは、なんとなくその音色は悲しみを帯びているように、感じた。確証はないけれど。少しでも早く、その悲しみから彼女を解放したい。そう思ったのだ。
 ゲルトの首が爛れ始める。右手を上げて下がり、それを受けてアキツヅが前に出る。集中を重ねた鋭い目線は決して涼音を逃さず、その手を突き出す。
「ほら、あんたも一緒に焼けちまいな!」
 十字の光が飛ぶ。狙い澄ましたその光は、涼音に向かって一直線に飛んでいき、その首を刎ねようかという角度で宙を飛ぶ。しかし彼女は器用に、笛だけは攻撃にかすりもしないように逸らした。体は攻撃の軌道から逃れることはできなかったが、それでも服の一部が焦げ付く程度でしかなかった。
 アキツヅは足に違和感を覚える。軽く舌打ちをしてから、右手を上げて後退を促す。孝平が前に出て、アキツヅを横目に、雑念を払う。
 払った、つもりだった。
 涼音と目が合う。些細な崩れも見せない表情がふと、微かな微笑みを浮かべた。その幼気な様に、ふと見とれる。それは今なお彼らの耳を不快で占拠する敵には似つかわしくなかった。
 膝の辺りがほんのり熱くなる。それでもなお、見つめる。
 背後から光が飛んで、彼は我に帰る。膝の違和感を気にしながら後退し、アキツヅの方を見る。彼の体にもまた焼き色が散見された。
 アキツヅは不意に後ろを見る。回復が遅い、そう感じたのだけれど、後方では至る所に赤黒い跡が見え、まさに焼き肉の真っ最中であった。
「熱い……熱いぞ! まだなの、か」
「大丈夫です、すぐ治りますから!」
 悶える碧衣にイスタルテは応じ、一面に光を振りまく。同じように悶えていたエルヴィンは治ったが、碧衣は未だ熱さに文字通り身を焦がしていた。
「あっつー!」
 京子がビックリしてその場に寝転ぶ。恐る恐る焼けている場所に触れ、その痛みに打ち震えていた。
「そんなことしてっと、跡が残るぞ!」
 エルヴィンは厳しく指摘しつつ、それを癒す。碧衣と京子の二人とも、どうやら治ったようだった。
 アゼルが奏でた福音が、リベリスタたちを癒す。そして自分に言い聞かせるように言う。
「あたい焼けるの嫌だからさー……さっさと終わらせちゃいましょうよ」
「あぁ、そうだな」
 碧衣はすでに行動を始めていた。幾重にも展開させた気糸が、涼音の周囲に張り巡らされる。彼女の目は怒りのせいか、笑っていた。
「悪い子には少し、おしおきが必要だな」
 涼音はゲルトの繰り出す攻撃を避けつつ、周囲を確認する。罠の存在、その性質、その位置。そしてそれを避ける為には、それほどこの場から動くことができないということ。
「ほら、今のうちだ」
「サンキュー、碧衣さん」
 京子は碧衣に礼を言いつつ、自分のライフルの銃口を、涼音に向ける。集中に、集中を重ねる。
「さぁ、撃ち落とすよ」
 種々の光が飛び交う中、彼女は引き金を引く。銃弾は一直線に、涼音に向けて、飛んでいく。彼女はアキツヅの攻撃を避け、その体勢を立て直そうと顔を上げる。そして気付く。その高速でこちらに向かう物体に。しかし、それを避けるには、あまりにも時間が足りなかった。彼女がいろいろと試みるよりも先に、銃弾が彼女にたどり着く。それは笛のほんの少し左、涼音の左腕を貫いて、やがて湖に沈んだ。京子の想定からは、少し外れた。撃たれた衝撃で、涼音の体が宙を飛ぶ。空中で体勢を立て直し、転倒することなく地に足をつけた。人知を超えた彼女にとって腕の傷や銃撃による衝撃など、動作には大して影響はないようだったが、しかし存外痛手を負っているようだった。
「もう一息、か」
 ゲルトは上がった息を整えつつ、なお音を発し続ける涼音を見つめる。体に発熱を感じるが、それは即座に消える。じっと、睨みつける。
「これ以上犠牲者を増やすわけには、行かないんだよ」
 ゲルトの言葉に怖じ気づいたのか、涼音はトテトテと、突然走り出した。

●バーベキューと流れ星
「おい待て! どこに行く!」
 彼らは慌てて追いかける。歩幅の安定しない歩調で涼音は走り、時たま走行の衝撃で外れる音調が彼らの耳をついた。走りながらの攻撃は、涼音にかすりはするものの、やはりその精度は不安定だ。そしてその間にも、彼らの体には焼き跡ができ続ける。
 彼女は振り返って背走する。そして対して距離が開いていないことを確認すると、ゆっくり減速して立ち止まった。その顔は、心なしか怯えている。
「そんな顔したって、もう遅いんだよ」
 十字の光が飛ぶ。涼音は避けるが、左肩に少しこすり、焦げた。笛から漏れる音がほんの少し、揺れる。
「……終わりにしようぜ、もう」
 ゲルトは優しい口調で語りかける。指先から、膝から、首から、熱を感じるのに、それを一切気にせずに。
「これ以上人を傷つけて、何の意味がある」
 その言葉が本当に涼音に伝わったのか、彼にはわからない。しかし、涼音は彼の言葉が途切れたその瞬間、その身の鳴らす音をいっそう強めた。彼らの身を焼く速度が速まるわけではなかったが、彼らの耳に届く不快はいっそう強まった。
 轟音を振り払おうと、孝平は涼音との距離を詰め、素早く斬りつける。已の所で避けられたが、同時に彼は少し体に違和感を覚え、左手を上げる。それに気付いた碧衣は、彼と意識を同調させる。
 京子は十分に狙いを付けて涼音を狙う。目の端でその動きに気付いた涼音は、上手く体を捻ってそれの軌道から逸れる。次いでイスタルテが、涼音に向けて聖なる光を浴びせる。重心の崩れた体はその光を防ぐことができず、もろに攻撃を受けた。彼女の顔が歪む。全身が焼けこげ、笛が欠片ほど欠けた。涼音は音を発しながら、笛を見る。悲しそうに、泣きそうに、表情を曇らせる。
 焦げ臭い湖畔を照らしていた光の頻度が、徐々に低くなる。ゲルトが左手を上げたが、その光は弱々しく、彼は思わず振り向く。碧衣が、これが最後だ、というように首を横に振る。
 ならば、次で決めよう。
「日焼けサロンはもう十分だよ」
 アキツヅの攻撃は涼音を貫こうと直進するが、彼女はそれを難なく避ける。その回避軌道を、京子は追いかける。
「絶対止めるって、決めたんだから」
 笛を貫かんと飛んだ京子の一撃は、しかし涼音の首筋をかする。同時に京子の首筋が焼けるように熱くなるが、アゼルが手をかざすと、それは抜けていった。
 涼音は体勢を立て直そうと、地を蹴る。
「幕を引きましょう」
 孝平は高速で跳躍し、涼音を狙う。宙に浮く彼女は、笛だけをなんとか守り、攻撃を受けて飛ばされる。地を転げ、そしてその勢いで彼女は再び立ち上がる。
 気糸が高速で、涼音の笛を貫く。ひびが入り、亀裂が笛全体に現れ、やがて壊れ始める。彼女の手にあった笛は、粉々に崩れ、手には欠片だけが残った。彼女の手は震え、やがてその手から欠片は、落ちた。
「次に奏でるのは、優しい音にしてくれ」
 その言葉は、切実に。

●幕引きはディナーの後で
 涼音はゆっくり、湖に目を向ける。静かに揺れる水面は彼女の心を穏やかにしたのだろうか。彼女の体から、わずかに光が漏れ始める。
「涼音さん、聞かせてくれないかな。あなたが笛を吹く理由」
 彼女は振り向かない。答えない。じっと遠くを見つめて動かない。
「誰か仕返ししたい方でもいたんでしょうかー?」
「……仕返し」
 アゼルの言葉を、涼音は繰り返す。それが彼女の初めての言葉。足が消え始める。
「助けてくれなかったのに、倒すのは早いのね」
「誰かを傷つけるものは排除する。それが仕事ですからね」
「……誰も私を助けてくれなかった」
 声を上げたのに。手を求めたのに。
「私を救ってくれなかった世界なんて、消えてしまえばいい」
 拷問器具が好きだったのは、それが罪を罰する手段であったから。
 この笛は、最も苦しい罰を与える音を奏でる為に。
 指先が消失を始める。
「大丈夫」
 イスタルテがそっとその首に手を回す。抱きしめて、その鼓動を聞く。人間のそれと同じように、一定のリズムを刻む。
「でも関係ない人に危害加えたらだめですよー?また恨みだけがふえちゃいますからー」
「……これを奏で続ければいつか、あの人を殺せると思った」
「聞かせて欲しい。お前は…殺されたのか?」
 涼音俯く。その口が、答えとなる言葉を紡ぐことは、なかった。
「どうであれ、お前を殺した相手がいるなら必ず罪を償わせる。だからもう眠れ」
「……ありがとう」
「感情がこもってないぞ」
 碧衣が指摘する。涼音が振り向き、彼女を見る。
「笑顔」
 碧衣はニカッと笑う。涼音も、それにつられて、微笑んだ。
 涼音はイスタルテの抱擁を離れ、湖に歩を向ける。その体は、もはや全て光の粒となりつつあった。
「じゃあな」
 エルヴィンが手を振る。
「次は楽しい演奏会に呼んでほしいな」
 アキツヅの言葉は果たして届いたのか。彼女はすでに消えてしまったからわからない。しかしその光は、優しく瞬いていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 回復役が潤沢におり、プレイングも十分、失敗する要素はおろか、重傷になる要素も何一つありませんでした。
 もう少し苦戦するかなーと思ってた自分が甘かったのでしょうか……。
 お疲れさまでした。
 きちんと焼き跡を消して次の依頼に備えてください。