●少女は願う くしゃり、ざくりと湿った音が響く。 やや湿り気を帯びた枯葉を踏みしめ歩く音。程深い森を歩くは一人の少女。 彼女はその身を引きずるようにして、ゆっくりと歩みを進めていく。 気づけば一人だった。何故このような森の中に自分がいるかもいまいちわからない。 決して体調は悪くない。むしろよくなっている気がする。それなのに身体は重く、引きずるように歩くしかなかった。 「どうしてこうなっちゃったんだろう……」 少女は呟く。 彼女に残る最後の記憶。彼女には恋人がいた。最初は彼のことなんて眼中にもなかったのだけれど、熱心に彼が口説いてくるものだから。 なし崩し的に付き合い始めた彼だったけれど、その優しさ、誠実さに逆に自分が夢中になっていくのがわかった。 彼と過ごす時間は楽しかった。あまり目立つ人ではなかったけれど、幸せだった。 ある日、彼と二人でドライブをしていた時だ。 山中の道を走っている時に動物が飛び出してきた。それ自体はよくあることなのだけれど、かわそうとした彼はハンドルを切りそこねて…… 記憶はそこで途切れている。 恐らく事故になったのだろう。でも自分が何故森の中で、一人で彷徨うこととなったのかはわからない。 「会いたいな……」 あの人に会いたい。 何故かは分からないけれど、あの人の居場所が私にはわかる。 多分町の病院だろう。救急の場合、この近辺だとあそこに運び込まれるような記憶がある。 そういった思いを元に、彼女は彼氏の元へと向かう。 大丈夫。 ――彼はきっと、私が血塗れでも抱きしめてくれる。 ●ブリーフィングルーム 「恋は盲目。他の全てを投げ打ってでも貫き通すまさにブラインド・ラヴってやつだろ?」 ブリーフィングルーム。集まったリベリスタ達へ『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はおもむろに切り出した。 「恋ってのは最高なモンさ。二人の人間に最高のハッピーを与えてくれる。 でもね、時にそれは人を縛り上げるのさ。愛の鎖がギリギリとね」 伸暁はそういうとポケットに捻じ込まれていた資料をテーブルへと放った。 「きっかけは些細な事故さ。山道でガードレールに激突した車両は大破、運転していた男は重傷、同乗していた少女は窓から投げ出され生死不明。不幸ではあるけれど決して珍しくないアクシデントさ」 だが、この出来事はそれで終わらなかったのだろう。 「その彼女だけど、ついに現れてしまったのさ。血塗れで、死んだ体を引きずってさ。彼氏に会うために歩いてるのさ。泣かせる話じゃないの」 だがそれはアンデッド。死者と生者、果たして再び出会ったときどのようになるか。それは誰にもわからない。 「彼女はまっすぐ彼氏のいる病院へ向かっている。その彼女をしっかりと、再度あの世へ送ってやってくれ。死者は死んでいるのが相応しい居場所なのさ」 状況はシンプル。動き出した死人を一人、もう一度葬るだけ。 さほど苦労する作戦ではないだろう。ただ、一つの問題に目を向けなければ。 「彼女の思いを尊重するかしないかなんていうのは、基本的に考慮はしなくていいものさ。 ただ、お前達がそれをしたいというのならば、好きにすればいい。ハートウォーミングでホットなエピソードになるかもね」 一つ残るは彼女の気持ち。 彼に会いたい。会わせる、会わせない。全ては処刑者の匙加減。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月04日(日)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Side:雪生 がさり、がさり。枯葉が踏まれ、割れる音が響く。 森の中、一人の少女がゆっくりとした足取りで進んでいく。 少女の名は瀬名 雪生という。 ひたすら歩を進める彼女の目的はただ一つ。恋人に逢いたい、それだけ。 少女らしい単純な願い。それは人によってはとても美しいと言えるだろう。 ――彼女の特異な点さえ目を瞑れば。 あと少しで町につく。事故にあった彼だけど、生きている。そして居場所はきっとあそこ。根拠はないけど私にはわかるよ。 そのような気持ちを抱えながら雪生は進む。 ゆっくり、ゆっくりと。その自由にならない足で、確実に。 やがて森は開け、眼前には麓の町が見えた。 深夜なれど、無数の光が町にはついている。それは照明を切らない施設であったり、宵っ張りの人間の灯火であったり。 今はその明かりが妙に雪生にとっては懐かしかった。 「今行くから、春樹……」 ぼそりと呟き、彼女は踏み出す。町へ下る道を。彼へと続く道を。 「――うっす、迷子の御姫様」 そこに声が掛けられた。雪生はびくりとなり、声の方を向く。 そこにいたのは複数の男女であった。 まるで待ち構えていたかのように。彼女が来ることを解っていたかのように。 「王子様に会いに行くエスコートはいかが?」 『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は雪生へとそのように笑顔で問いかける。 その言葉に彼女は一瞬警戒するような、下がる素振りを見せる。 何故ならば彼女の目的は誰も知らない。ましてやこのような自分の事を知る者も。 だが、少年ははっきりと言った。彼女の目的を。愛する彼の元へ行くという事を。 今の彼女の足では不審な相手から逃げることも出来ない。出来るかわからないけれど力押しで逃れるか……雪生がそう思い身構えた時。 「警戒を解いてください。貴女が須藤さんと問題なく再会する為の手伝いにきました」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)の言葉が投げかけられる。 「なんで……貴方達は彼のことを、私のことを知ってるの?」 投げかけられる疑問。それに答えたのは『残念な』山田・珍粘(BNE002078)。もとい、『自称』那由多・エカテリーナである。 「ええ、私達は貴女のことを知っています。どうしてそうなったかも」 「知っているの? なら、教えてよ。なんで私がここにいるか。こうなっているかを」 雪生は答う。自らの異変を。何故愛する彼と離別しているかを。自らで判断しきれぬことを。 その問いへとうさぎが答える。 「貴女は死人です。ゾンビなのですよ。体に異変があるでしょう? 自覚もあるはずだ」 一切の遠慮はなく、事実を突きつける。現実ではありえない、夢物語のようなことを。 だが、残念ながらそれは事実なのだ。夢物語こそが、今この世界の現実なのだ。 「私が……死んでる?」 雪生は呆然と呟く。いや、わかっていたはずだ。それから目を逸らしていただけなのだと、今はっきり突きつけられたのだ。 だって彼女の体は……こんなにも血塗れで。 へし折れねじ曲がった足は、黄泉返りによって歪つなまま癒合し。抉れた肉はそのままに、血は乾くことなく粘質のまま張り付いて。 ああ、これであんなに長い時間が経って。何故生きているなどと言えるのか。 「必要ならば証拠もありますよ? 貴女は呼吸をしていない。瞳孔も開いている。恐らく脈もないはずです。なんならば他にも指摘出来ますが……」 「――わかってた。なんとなくだけれど、自分がもう普通じゃないって」 雪生がぽつりと呟く。 「でも、私は会いたいから。彼に会う為にここまで歩いたんだから」 「でも、貴女が彼を抱きしめれば、彼はひとたまりもないよ」 『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)が口を開いた。 「貴女の力は神秘によって増しているから。嘘だと思うなら、あたしを力一杯抱き締めてみて?」 自らの身体を差し出すように前へ出る羽音。 だがそれには及ばない。雪生は決して愚かではない。眼前の四人が嘘をついているとは最早思いはしない。 なによりも自らの身体が。その事実を証明しているのだから。 「なら、私は彼に会っちゃいけないの?」 せっかくここまで歩いたのに。彼に抱き締めてもらいたかったのに。 「貴女のそれは感染します。ずっと一緒にいれば、最悪須藤さんも死んでしまいます」 うさぎがさらなる事実を突きつける。 エリューションであること。運命に祝福されなかったこと。それによって起きる現実。 ああ、何故歩けてしまったのだろう。何故会うことすら出来ないのに、私は歩けるのだろう。雪生の心は絶望に塗りあげられる。 「君にもう一度死んでもらうのは変わらない。それは世界のルール」 夏栖斗が続ける。祝福されなかったものは死ななければならない。世界を維持する為に。 「――だけど、ルールが許す限りなら。君がやりたいことは手伝いたい」 続けて投げかけられた言葉に、雪生はきょとんとした表情になる。 だって、彼らは私を止めにきたはずなのに。殺しにきたはずなのに。 「……抱き締めて貰いなさいな。その為にまた歩いたんでしょう?」 「あまり酷い姿で会うのは嫌でしょう? 身支度も整えないと。手伝いますよ?」 うさぎが、那由多が、彼女の思いを肯定する。 雪生はこの状況がいまいち理解しきれなかった。だから彼女は、一言だけ口にした。 「――春樹に、逢いたい」 それは彼女の今持ち得る唯一の望みだったから。 ●Side:春樹 須藤 春樹は無気力に生きていた。 彼の心を支配するのは自罰。自らがふがいなかったばかりに、最愛の人を失ったという思い。 あの時飛び出してきた動物が悪いわけではない。 道が悪かったわけでもない。 危険な運転をしていたわけでもない。 ならば、責めるものは何か? 自らのふがいなさ以外に、責めるものはなかった。 身体の傷は順調に癒え、彼はもうじき退院出来るだろう。 だが心の傷は癒えず。自らを罰する気持ちも変わらない。 彼女は未だに見つかっていない。 それ故に。春樹は毎日を無気力に生きていた。 「須藤さん、失礼しますね」 こんな夜更けに看護士が来ることは珍しい。けれど、それもどうでもよかった。 残り短い期間の付き合いとなる人達ではあるが。彼にとってはそれこそどうでもよかったのだ。 「他の患者さんのいらっしゃらない所に場所を移させて頂けませんか?」 こんな奇妙なことを言う看護士だが。やはり彼にはどうでもよくて。 「瀬名さんのことでお話したいことがあります」 ――一気に春樹の意識が現世に帰った。 視線の先にいる看護士は、担当でもなく。見たことがある人物ではなかったが。はっきりと言ったのだ、彼女の名を。 睨みつけるような春樹の視線を浴びながら、その看護士は……『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)は微かに微笑んだ。 病院の屋上。夜も更けた今、この場所に来る者などいない。 しばしば怪談の舞台ともなるこの地点ではあるが、そんなものはどうでもよいことだろう。 ましてやリベリスタ達にとっては恐れる必要もないだろうから。怪談とエリューションは違う、と主張する者もいるだろうけれど。 「初めまして。須藤……春樹、だな? 君に話がある」 『眠る獅子』イリアス・レオンハルト(BNE003199)が率先して言葉をかける。 屋上にいるのは五人。春樹と、四人のリベリスタ。 「彼女の名前を言ったよね? 何のつもりだよ?」 「瀬名さんにもう一度会えるとしたら、どうしますか?」 『リピートキラー』ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)の言葉に春樹の表情が変わる。驚きと、疑いと、怒りをない交ぜにしたかのような微妙な表情に。 「ただし、生物学的には死亡しています」 続けて紡がれた言葉に、春樹の感情は一気に怒り一色に染まった。 「ふざけるなよ! 彼女の名前を出して、わざわざそんな事を言って! 俺をからかいにでもきたのか、悪趣味な!」 感情に任せ叫ぶ春樹。 長い時間が経っている。正直春樹自身も、生きていて欲しいがそこまでの希望がもてなくなるほどの時間が。 彼女は奇跡でもない限り、死んでいる。そんなことは解っている。 それをわざわざ抉り返しにくるこの連中はなんなのか……そこに『黒鋼』石黒 鋼児(BNE002630)が携帯電話を無造作に差しだし。 ――春樹は膝から崩れ落ちた。 そこに写っていたのは、変わり果てた雪生。血に染まり、瞳孔は開き、到底生きた者の姿ではない彼女。 そんな死者である彼女が、写真に写っている。生前そのままの挙動で。撮られるのを恥ずかしがるような様で。 ――ずっと彼が目で追い続けた、魅力的な彼女そのままの動きで。 「とある作用により、彼女は遺体が動き回る状態にあります。生前と同じく話すことも出来ますが、黄泉返りではないのです」 ステイシィが放心の春樹に言葉を紡ぐ。 「私達はそういった事例の専門家。このような御遺体を有るべき場所へと戻す、再殺代行者」 現実離れしている話。平常時の春樹であれば、余他話として無視するような内容。 だが、それに彼は縋りたかった。雪生に再び会えるなら、なんでもよかった。 「本来であれば君と彼女を引き合わせる必要はない」 イリアスが言葉を引き継ぐ。 「なんでこんな事をしているかって言ったら――俺達にも感情くらいはあるのさ。後ろめたい、少しでも終わりに救いが欲しい……俺達の都合ではあるがね」 「今、瀬名さんはこちらに向かっています。あなたに会うために」 計都が春樹へと語りかける。彼の為か、彼女の為か、自分達の為か。だが、考えうる限りの最善へ向けて、言葉を紡ぐ。 「生きてはいませんが、あなたへの思いはそこに確かにあります。 あなたが蘇った瀬名さんを受け入れられないとしても、わたしはあなたを責めることは絶対にしません。 ――もう一度、抱き締めてあげてくれますか?」 その言葉。雪生を抱き締めてあげてほしい。 それは彼の身体に再び活力を戻す。何故ならばそれこそが、事故以降に彼が望み続けてきたことなのだから。 ●Side:Xross 「悪いけれど最初はこの状態からで。何があるかわからないからさ」 夏栖斗が春樹へと言葉をかける。 少しの時間が開き、夜はさらに更けた時。 病院の一階裏側。人の余り通らない、まあしてや深夜ならば巡回するのはナースのみ。そんな場所に、春樹とリベリスタ達はいた。 「早く、逢わせてくれるんだよね?」 窓もなにも関係ない。春樹が望むのはただ一つ。彼女との再会。ほんの一時であろうとも、彼女に会いたいという思いだけでここにいるのだ。 やがて、窓の向こうに人影が現れる。 雪生。その姿は最初見た時より遙かに整っていた。 ぼろぼろだった服は着替えさせられ、血は丁寧に拭き取られ。損壊の激しい部分は医療用具で補われ、血の気の失せた顔や打撲の跡は丁寧に化粧で整えられている。 それは彼女の為の死化粧。最後の一時を、よりよくする為のリベリスタ達の手向け。 「逢いたかった、春樹……」 歩きだした理由、そして意味。それらの全てが、その一言に詰まっていた。 ――その瞬間だった。 春樹が一切の躊躇いなく、窓を開け放つ。 咄嗟に止めようとするリベリスタ達の制止も振り切り、窓枠を乗り越え、外に飛び出し…… 力いっぱい。全力で、雪生を抱き締めた。 突然の抱擁に、雪生も咄嗟に抱き返そうとし――その手が動こうとして止まる。 「だめ、春樹……私、いままでと違うから。抱き返したりしたら、春樹が死んじゃう」 「だったらこのままでいい。代わりにぼくが抱き締め続けるから」 二人が望んだこの瞬間。お互いの死は望まず、お互いに愛情を注ぐことだけを望んで。後悔も、悲哀も、全て混ぜ合わせて一方的な抱擁は続く。 「ああ、しかしなんと羨ましい。私のような『成り損ない』にとっては……憧れの光景ですよ」 「死して尚残る恋慕、尊重したからこそのこの一時。きっと素敵な結末になりますよね?」 ステイシィが、那由多が、思い思いの感想を述べる。 それぞれがそれぞれの理想を抱き、それぞれの感情のままに動いた。それが今、この時を作り上げているのだ。 二人は抱擁の中に、二人にしか聞こえないような囁きでお互いの思いを伝え合う。 それは離れ離れだった時を埋めるように、溶かすように。一つに混じり合うように。その時は続いた。 ――時には限りがある。 巡回がこないよう、誤魔化し警戒し、合わせるのにも限度がある。 イリアスが張った結界も、ナースが仕事で巡回する以上、完全に押さえることはできない。時間一杯であった。 「そろそろいいでしょうか?」 おずおずとうさぎが二人に声を掛ける。それに対し、雪生は静かに頷いた。 元より望むことすら許せない一時だったのだ。過剰に望むのは贅沢というもの。 「ありがとう。愛してたよ、春樹」 最後の言葉。彼女は一言を残し、リベリスタ達へと連れられ森へと還る。 森に帰り、天に還る。彼女の外れた輪廻は元に戻される。 「彼女を忘れるのも思い続けるのも、貴方次第。 ――誰だって愛する人には幸せでいて欲しいもの。雪生もきっと同じ」 だから、前を向いて生きて欲しい。雪生を連れ、森へと消えていく羽音が春樹に残した言葉。 死者のオーバーステイはこうして終わる。 これは果たして運命の悪戯か、もしくは妥協点だったのか。もしくはただの悲劇だったのか。それは誰にもわからない。 ●End:雪生 森の中で最後の時は訪れる。 「それではこれで終わりにしましょう」 うさぎが手にした愛用の暗器を握り込む。 最後の時。この物語の一つの終わりを告げる時。 雪生は頷く。もう十分に滞在した。これ以上は許されない。 夏栖斗が、羽音が、那由他が、それを見守る。 たった四人だけ。愛する人が同席することは許されない、最後の時。 「ごめんね」 夏栖斗の言葉に再度雪生は頷く。 それと同時に、凶器は容赦なく振るわれ……おしまい。 「死にたくなんて、なかったよ――」 それが彼女の、本当の最後の言葉。 こうして生者と死者は、分かたれる。 ●End:春樹 雪生が去った後、春樹はそこに立ち尽くしていた。 伝えたかった思いは伝えた。後悔も伝えた。 彼女は全てを許してくれた。優しい人だったから。 ――だが、自分は自分を許さない。 持て余した感情のやり場に迷う彼は、ただそこに立ち尽くしていた。 「――須藤さんよ、あんた死にてぇとか思ってねぇよな?」 そんな彼に言葉を投げつけたのは鋼児だった。 びくり、となる春樹。 未練も全て解消し、自罰のみが残った彼にとって、その選択は大いにありえた。むしろ望んでいたかもしれない。 「自分のせいで瀬名サンを殺しちまったとか考えてよ。さらにもう一度殺すことになっちまって」 彼の言葉は核心を抉る。春樹自身が長く抱え続けたその澱は根深く、再会出来たとて払いきれるものではなかったから。 「だとしたらとんだ馬鹿野郎だ。――敢えて言うならよ、運が悪かったとしか言えねぇよ」 抉る、抉る。否定し、肯定し、春樹の心の闇を抉る。 それは鋼児の持つ強さであり、優しさで。春樹に対する手向けで。 誠実とは私利私欲を交えず真心を持って人や物事に対することだという。 自罰を行う春樹が、自らの思いに捕らわれ後ろを向き、闇を見つめ、死に捕らわれた彼が誠実であるか、と鋼児は答うた。 「多分違ぇよな。今の須藤サンは悔やんでばっかのクソ野郎だよな」 叩きつける。遠慮なく、叩き伏せる。言葉を持って、春樹の心を。ねじ曲がった金属を鍛え、延ばすように。熱く、重く、叩き上げる。 「本当に瀬名サンを想うならよ。どうやって誠実になるかは……須藤サンが考えるべき事だと思うぜ」 再殺代行者、と名乗ったリベリスタ達はそうして病院を去った。 後に残されたのは、大事な者を失った抜け殻一つ。 ――抜け殻ということは中身がないということだ。 それは後に何かを入れることも出来る、ということである。 神秘に触れ、悲劇に触れ。世界の真実に気づいた力を持たない男がいた。 後にリベリスタではない、アークへの協力者として一人の男が参加することとなる。 彼は悲劇的に恋人を失い、神秘の悪戯で再会し、世界の定めによって再度失った男だった。 世界の表側からリベリスタを支えることを選んだその男のことは、語られることはないだろう。 だが、そういった決断をした男がいた。その事だけは覚えていて欲しい。 リベリスタ達はそういった人物の協力によって活動しているのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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