●依頼 三高平市――アーク本部、ブリフィングルーム。 集まったリベリスタ達の前に『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が待機していた。 「横浜で活動するフィクサードを撃退し、彼女の持つアーティファクトを破壊。 それに加え、3体のノーフェイスを殲滅して頂くのが今回の依頼です」 フィクサードの名前は神木実花(かみき・みか)。横浜の街角で占いを営む、女子高生の間で恋占いが人気の女占い師。 「以前、他のリベリスタの皆さんに退治してもらったノーフェイス――霜月神楽――が革醒した原因をカレイドシステムで調べた所。背後に神木実花の存在を確認しました」 実花は一般人をエリューション化させるアーティファクト『革醒の矢』を有し、これまでに神楽を含む4人の女子高生をノーフェイスへと革醒させている。 女子高生達は何れも占いの常連客で、実花によって選ばれ『人を超えた力』を与えられたのだ。 「現在、3人の女子高生は神木実花によって保護されています。ですが明日以降には順次、いなくなってしまいます」 ノーフェイスとなった彼女達は、実花の用意してある隠れ家に保護されていた。 だがフェーズが2まで進行すると、極端な選民意識を有し、暴力によって死を振りまく『死神』として各地で猛威を振舞うようになる。 「そうなる前に決着をつけて欲しいです」 和泉はリベリスタ達に念を押し、彼女達が根城としている隠れ家までの地図を手渡した。 「神木実花のフィクサードの実力は高く、特に感知能力と魔術に長けたマグメイガスです。くれぐれも油断しないよう、お願いします」 ●承前 横浜市――横浜駅近郊。 「ねぇ、またやっていかない? ミカ様の恋占い」 「アンタそーゆーの好きねー。ま、良く当るって評判だから判らなくないけどー」 夕方から夜にかけて横浜の街角で行う恋占いには、噂が噂を呼んで毎日沢山の女性達が訪れていた。 小さな椅子に腰掛けるジプシー姿の神木実花は、一人ずつ丁寧に、また時にやんわりとした口調で諭しながら応対していく。 その実、彼女は自分に従順で支配下における者をゆっくりと物色しているのだった。 既に『革醒の矢』によってエリューション化した女性達も、フェーズが進んでいて旅立ちが近くなってきている。 (そろそろ、新たな『候補』を見つけ出す頃合――) 自身が品定めしている内面を見せることなく、実花は柔らかく向かいの女性客へと微笑し、開いたタロットを示しながら恋占いを続けていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月30日(水)22:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●偵察 横浜市郊外――坂の頂上にある一軒家。 昼間に現地入りしたリベリスタ達は、離れた位置から神木実花の隠れ家を監視していた。 自身を那由他と名乗る『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は、状況を確認して小さく独語する。 「傷つけた相手をエリューション化する矢とは、また珍しい物を……」 破壊を依頼された『革醒の矢』は、今後フェイトを持つ可能性のある一般人を革醒させる効果を持っていた。 『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は、少し前に戦った相手の事を思い返す。 「……あの『死神』に、こんな裏があったなんて、ね……」 『革醒の矢』でノーフェイスと化した少女――霜月神楽(しもつき・かぐら)は、その時に彼女達の手によって倒されている。 共に戦闘に参加していた『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)は、那雪の言葉に小さく息を吐く。 「あの可哀想な死神さんの事は、ちょっと気になっていたのですよね」 ノーフェイスと化した神楽はこの力を以て、『選ばれた』とでも思っていたのだろうか。 異形の力をそうとは全く思っていないユウに取って、彼女の言動は何処か異質に感じていた。 『黒鋼』石黒鋼児(BNE002630)も、あの時戦いに居合わせた一人。 「俺は操られていた女ぶん殴って、正義の味方を気取ってたっつうわけか……クソッタレだぜ、本当によ」 だとしてもその時、死の運命にあった一人の生命を救い出した。その事に鋼児は後悔していない。 一方『彼岸の華』阿羅守蓮(BNE003207)は、坂から隠れ家が視界に入る位置を調べていた。 「ここか……」 彼は念入りに坂の周辺の地形や、登る際の視覚範囲を何度も確認して頭へ入れている。 家の様子を観察していた浅倉貴志(BNE002656)は、2階から殺意の塊の様な強い感情をずっと感じていた。 「……2階に1人いますね」 だが残り2人の感情は、ここからでは何も感じられない。 貴志の隣で一緒に隠れ家の様子を観察していた『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の鷲の目は、遠くに離れた場所でも事細かに見る事ができる。 彼女は既に女子高生の1人が2階の窓の向こう側から、時折外を眺めていたのに気づく。 「アキコね、確認できた。絶対止めてみせるんだから」 リベリスタ達は神木実花が現れる前に、ノーフェイスの3人を先に倒すと決めていた。 ●死神 隠れ家に突入したリベリスタ達は、一斉に玄関先から2階へと突入する。 2階廊下は真っ直ぐ奥にひとつ、その手前にもうひとつ扉があり、物音を聞きつけた女子高生の1人が奥の扉を開けて廊下に出てきた。 虎美の目に、窓を開けて外を眺めていた少女が映る。 彼女達は一目で扉を開けたのがアキコだと判った――胴体から無数の触手の生えた双頭の大蛇、その左腕が何よりの証拠だ。 駆け上がった『Lost Ray』椎名影時(BNE003088)がアキコと対峙する。 「こんにちは元人間サン。俺達は死神を狩る死神です」 その発言で彼等が敵だと認識したアキコは、廊下から手前の部屋へと大声で呼びかけた。 「サチ! ノゾミ! 敵よ!!」 彼女の呼びかけに応じ、手前側の扉が開きかける。 だが珍粘と貴志が扉へ駆け寄り、そのまま扉を押し切って部屋へと踏み込んでいった。 アキコは扉越しに廊下のリベリスタ達と対峙する。 見下した様な目で影時を見やるアキコと大蛇。 その双頭が鋭く影時の身体を噛み付き、牙から滴る毒が体内へと注がれる。 「ガキが偉そうに……『死神』はあたし。あんたが狩られるの」 敵が扉越しの戦闘に持ち込んだのは、廊下の幅が狭い為、前衛で戦えるのは一人だけになるからだった。 虎美は前線から注意を引き付ける為に、アキコへと挑発を行う。 「霜月神楽って知ってるよね? あの子と同じ所に送ってあげるよ」 リボルバーを抜いて即座に正確な射撃を放ち、先程のガードで動きの鈍った触手を撃ち抜いた。 「あんた達が……神楽を……」 怒りに顔が歪み始めるアキコ。 ユウも後方から虎美と同じく触手を狙い、精密な気糸でひとつずつ潰していく。 「……哀れ、ですね」 「何がよ?」 哀れむユウに反応するアキコ。彼女は相手に構わず言葉を続ける。 「力を以て『選ばれた』と? 貴女達は単に『見逃されている』に過ぎない。 だから、哀れなのですよ」 もしこの世に全知全能の神なる者が居るとすれば、エリューションやリベリスタの様な異形異能の者を『選ばない』だろう。 彼女達も哀れだが、お目溢しを貰って『生かされている』リベリスタも同様だと、ユウは感じていた。 頭に血が昇ったアキコは、鬼の形相でユウを睨みつける。 「殺す! 殺してやるっ!!」 那雪はアキコの声を無視して、自身の集中力を高めていた。 「ようやく頭がすっきりとしてきたな」 口調がはっきりとした彼女は、敵への次の一手を探る。 虎美とユウの前に立っていた蓮が蹴りで真空刃を作り、牽制を仕掛けた。 「鋼児君。今の内に」 頷いた鋼児がその間に影時と位置を入れ替わり、自身を光り輝くオーラで覆いアキコへと立ち塞がる。 「あんたが悪ぃ訳じゃないのは分かってる。けどよ、革醒しちまったらもう手遅れだ。 ……だから俺はあんたの敵になるしかねぇ」 一方、手前の部屋へと踏み込んだ珍粘と貴志はそれぞれサチ、ノゾミと対峙する。 だがノーフェイス2人の動きは非常に鈍く、虚ろな瞳で周囲を見回している。 隙が大きくなったのを見逃さず、貴志はノゾミとの間合いを一気に詰めた。 「……どういう事だ?」 雪崩の様な回転してからの蹴りの連打で、ノゾミはその場で床へと叩きつけられる。 高速で残影を作り出した珍粘のナイフが、目の前のサチと倒れたノゾミを襲う。 「反応が鈍い……?」 あまりの相手の動きの悪さに、首を傾げる2人。 続けて部屋へと入った影時が、サチへと全身から気糸を放った。 強い殺意を持つ気糸がその全身を覆い、ノーフェイスはその場に麻痺して動けなくなっていく。 命令する神木実花がいなければ、精神を支配され自我を失っている彼女達だけで戦うのは難しかった。 まるで親からはぐれた子供がおろおろしているかの様に、ちぐはぐな動きを繰り出す女子高生達。 3人の攻撃により、意図も簡単に敵は追い詰められている。 「おやすみ、死神」 そう影時が告げた時、サチとノゾミは二度と覚めない眠りへと既に旅立っていた。 怒り狂ったアキコは、ユウ達の壁となる鋼児へと大蛇を絡ませ、噛み付かせ、毒を注ぎ込もうとする。 鋼児が事前にオーラで防御を強化していていなければ、厳しい戦闘となったかもしれない。 しかしその間にも那雪、虎美、ユウが後方から触手を薙ぎ払い、蓮の真空刃と鋼児の炎の拳が本体を襲う。 アキコの触手はやがて対処しきれなくなり、戦闘を続けるには厳しい状況となっていた。 彼女はちらりと後ろに視線を向け、威嚇すると後方へと飛んだ。 意図に気づいた那雪が飛翔して部屋へと入り、そのまま窓の前へと降り立つ。 「……可哀想だが、ここまでだ。もう、眠れ」 那雪の言葉と同時に、虎美の容赦のない射撃がアキコの足を貫く。 続けてユウが動く暇も与えず、魔弾で瞬時に身体を射抜いていった。 「あ……あたしは……しに………が…………」 喘ぐ様に窓の前の那雪へと手を伸ばすアキコに、部屋へと突入した鋼児と蓮がそれぞれ拳と蹴りを叩き込む。 アキコの残された希望を打ち砕くには充分な一撃だった。 その場に沈む彼女を見て、鋼児はぽつりと呟く。 「悪ぃな……」 ●死闘 真夜中。ジプシーの様な姿をした神木実花は、食料を手に隠れ家への坂を登ろうとしている。 上空から確認したユウは、アクセス・ファンタズムで出現を知らせた。 双眼鏡で薄暗い中だが、丘の上で待機していた珍粘もユウの連絡から実花の姿を確認できている。 (一体どんなエゴがその心に潜んでいることやら……ふふ) 彼女は坂を反対側へと駆け下り、退路を断つ為に丘を回り始めていた。 一方坂を登っていた実花の動きが、隠れ家が見えた位置で突然止まる。 「……どなたかしら?」 周囲を見回すようにして、彼女はリベリスタ達へと告げた。 坂の下いる複数の気配を感じ取ったらしい。 その間だけあれば、蓮には充分だった。 探知を無視して集中を続けていた彼は、事前に確認した位置に実花が足を踏み入れたと同時に飛び出す。 一気に間合いを詰め、相手に有無を言わさず蹴りから生ずるかまいたちを見舞う。 足を狙った一撃は狙い通り彼女の足を斬り裂くが、彼女はその場に倒れずに踏み留まる。 「……どんな理由があってもね。誰かの人生まで捻じ曲げる何て、駄目なんだよ。お嬢さん」 蓮の言葉に続いて、坂の下からリベリスタ達が現れた。 実花はその数を確認した様にして、その場に魔法陣を開いて魔力を高めつつ、じりじりと身体を道路脇の電柱へと寄せる。 「貴方達……アークのリベリスタね」 その言葉に応じるかの様に那雪は坂の上から現れ、気糸で彼女の足元を狙う。 「自分を慕う少女達を使い死神作りとは……随分いい趣味をしているな、占い師殿?」 蓮の傷に重なるようにしてその足を切り裂かれ、実花はその場に膝を着いた。 「そう。あの娘達、始末したの」 事も無げに言い放つ態度に、殺意を覚えた影時が全身から気糸を送る。 「貴女のせいで罪も無い人がまた死んだよ? どういう神経か知りませんが、速やかに死んでください」 彼女の気糸に締め付けられつつも、実花の言葉は止む気配がない。 「もし運命が持てたら、私達と同じ様になれたかもしれないのに……貴方達、残酷ね」 可笑しそうに笑んだ実花に、坂の下の虎美は憮然としつつ、自己の極限まで集中力を高めていく。 (ひどい話……こんなの、許せない) 虎美は注意して確認したが、実花の移動した場所に逃げ場は何処にもない。 袋の鼠になりつつあるのは間違いなかった。 躍り出た貴志が実花の頭上へと回転して蹴りと手刀を連続で見舞う。 「崩界を助長させるためにノーフェイスを作り出す意図は分かりませんし、分かりたくもないですね」 だが実花はその攻撃を堪え、地に倒れはしなかった。 「そう? やってる事は貴方達とさして変わらないわ。 邪魔なものを排除して目的を達する為に、人を殺すのも、人だったものを壊すのも厭わないでしょう?」 リベリスタもフィクサードと同類だと言い放ち、笑っている実花。 鋼児は実花の目の前へと立ち、再びオーラで自身を包んだ。 「……腸わたが煮えくり返ってんぞ、おい。神木サンよ」 その拳がワナワナと震えている。笑いながら鋼児から視線を反らし実花は告げる。 「6人ね……準備できたわ」 ユウは退路を断とうとして上空にいたが、不意に動きを止めた。 彼女が自分から壁を背にしてリベリスタ達を囲ませる事に疑問に感じ、その理由が上空から見ていた為に判りかけていたのだ。 (全員が視認できる位置に、彼女はわざと移動している……?) 次の瞬間、誰が行動するよりも速く、実花は自身の手首を突然切り裂いた。 そこから血液ではなく黒い鎖が次々と飛び出し、濁流となってリベリスタ達を一斉に飲み込んでいく。 あまりに強大な一撃は、これまでリベリスタに優勢だった戦況を一変する。 その場に倒れた6人を実花は冷たく見据えた。 「リベリスタにしては、よくやる方ね。でも次に同じ魔術を受けて、何人生きてるかしら……?」 ゆっくりとその場を立ち去ろうとした実花の行く手に、ユウが静かに降り立った。 「……どちらに行かれるのです?」 上空が死角となっていたことに気づき、実花は小さく笑う。 「まだ仲間がいたのね。貴方も死にたいの?」 その問いにユウはやんわりとした笑みで返す。 「貴女も選ばれた存在なのでしょう? ならば、私達程度蹴散らして頂きませんと。ね」 ユウは気糸を迷わず実花の胸元へと飛ばし、その豊満な胸の『革醒の矢』は強かに傷つけられた。 「くっ……」 後ずさった実花の手を、不意に黒鋼の腕が掴んだ。 鋼児はオーラによる防御を重ねていた為に、彼女の魔術に最後まで耐え切っていた。 「一発で良い、一発で良いから。そのツラ、ぶん殴らせろよ」 そのまま全力で炎を纏った拳を、実花の顔面へと奮う。 同時に、鋼児と同じく魔術に耐え切った虎美が精密な射撃で『矢』を撃ち付ける。 「絶対、許さないんだからねっ………」 胸元を撃たれ、たじろぐ美香の『矢』は大きくひび割れた。 そこへ、運命を手繰り寄せた仲間達が次々と起き上がる。 「バロックナイトなんかさせない……」 倒れそうになる実花の足を、噛み付く様に影時は抱え込む。 実花は自身の死を省みない彼等の行動に、虚を突かれていた。 「貴方達……」 次に実花が鎖を解き放てば、彼等の何人かは死ぬかもしれないというのに。 立ち上がった貴志は、そのまま跳躍する。 「僕は目の前の敵を打ち倒すのみ」 雪崩の如く繰り出す連続撃に、実花の身体は大きく揺れる。 唖然としたままの彼女へ、更に蓮の真空刃が襲った。 「彼女ら3人は無念だったろう。 君が今まで踏み滲って来たのはね、絶対に踏みつけちゃならないものだったんだ」 蓮の蹴撃は、彼女の身体を深く切り裂いている。 そこへ那雪の気糸が放たれ、実花の胸を襲いかかった。 「……逃がすわけにはいかない。だから、まだ倒れられないんだ」 大きくひび割れた『矢』は、その一撃で呆気なく砕けていく。 更に回り込んだ珍粘が坂の下から現れた。 「間に合いました……」 実花へと移動しつつ、珍粘は自身の速度を最大限に高める。 死を覚悟で戦いに臨むリベリスタ達に『矢』は破壊され、また新手が現れている。 予想外の展開に実花はあっさりと敗北を認め、あまりの面白さに声をあげて笑い出した。 「私の負けね。素敵よ、貴方達……狂ってる位のその覚悟。最高……」 彼女は再度手首を斬り、その血液を黒き鎖へと変える。 「いいわ……どちらが最後まで立ってるか、試してみましょう?」 その目は狂気に歪み、赤く不気味に光った。 実花は恍惚の表情で、リベリスタ達を見つめている。 「うふふ……いいわ…………最高だったわよ。貴方達」 その口から血を吐き出し、壁を背にして不自然な方向に崩れたまま。 リベリスタ達も立っているのは極僅か、しかも無傷の者は誰一人としていなかった。 既に致命傷を負い、気を失っている者も数多くいる。 それでも彼等は最後まで、倒すことを諦めなかった。 不意に実花は空を見上げる。 中空には、歪んだ月が映し出されていた。 「月が……赤い………月…………」 その目は血に染まり、視界を赤く染めていた為に、頭上の月も赤く見えたのだろう。 言葉は、そこで止まった。 彼女の手から新たな『死神』を生み出される事は、もう永遠にない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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