●理由 あぁ、憂鬱だ。 どこかで人が死のうと、デタラメな事件が起きても、それと関係なしに授業ってやつはある。学校自体に被害がなければのうのうと続いていく。俺の中に誰かの陰がちらついたってお構いなしだ。あぁ、やっぱり憂鬱だ。 なら授業に出なければいいって? それができるほど図太けりゃとっくにやってるって。それだからこうしてうだうだいいながらも、授業に出ているんだ。まぁ、どちらかといえば友人に会いにきているって言った方が正しいか。 全く、大学の教授というのはどうしてこうもつまらない話を延々とできるのだろう。高校まではまだ勉強に関係する話から外れることは少なかったから、まだ後々を思って聞いていられた。それなのにこの人たちはすぐ授業の本筋から外れて、自分の好きな物の話にいきたがる。それが面白ければまだいいが、大体は自慰に似た話だから質が悪い。全く、後ろの黒板でも倒れて、話を断ち切ってくれないものかね。いっそその方が色々とはかどるかもしれない。 ん? あの黒板ぐらついてね? その時、黒板がもの凄い勢いで倒れ、そこで講義をしている新田教授ごと押し潰した。ただでさえ静かだった教室に一層の静寂が訪れる。黒板と教卓の隙間から教授の頭が見える。それは死を見せつけるように奇妙にひしゃげ、眉一つとして動作を見せることはなかった。 突如、誰かが叫び声をあげる。それにつられて、狂乱が辺りを占領し始める。恐怖が決壊し、俺を含めて皆、頭の中に逃走という言葉だけを浮かべて、教室から出た。 その時ふと、教授を押し潰した黒板を見る。それはゆっくりと、潰した人間の血をその身に垂らし、起き上がる。それに表情はないはずなのに、俺はそいつが笑っているような、気がした。 ●理由なんて関係ない 「……というのが起こったこと」 と真白イヴ(nBNE000001)はもったいぶって言う。顔は無表情だけれど、その顔には悲しみがうかがえる。 「事件は大学のとある教室で起こった。黒板がE・ゴーレム化し、その目の前で講義している新田芳樹教授を、潰した。そのゴーレムの討伐をしてほしい」 イヴは抑揚のない声で、依頼の情報を話す。 「すでにフェーズ2のエリューション。チョーク、黒板消しを起用に扱い、こちらを翻弄して攻撃してくる。近づくと、その大きくて重い体でペシャンコにされてしまう。横には逃げられないほど長いから気をつけてね」 「しかし、それなら結構でかいだろ? そんなのが動けるほど、そこの教室は広いのか?」 「高さも広さも、動くには十分。それこそ壁に体を擦っても、エリューションの攻撃にはなんの支障もないわ。それに教室のものはあらかた壊されてしまったみたいだから、物を気にする必要もないでしょう」 イヴはフゥと、小さく吐息を漏らす。 「依頼当日は大学構内の人には出払ってもらう。危険だからね。制約は、部屋は壊さないこと、ゴーレムを必ず倒すこと。それだけ」 今後安心して生徒たちが授業を受けられるように、頑張って。イヴは最後のそれだけ付け加えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月02日(金)23:48 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●クラスルーム・デビル 我々は教室の前に陣取っているそれに嫌悪など持ったことはないだろう。 授業がなければ、なんて思考の矛先が向く方向ではない。 それはただの”物”だ。壊したところで何が変わるというのだろう。 言うなれば何でもない物。綺麗なら少し言葉が見えやすくなるだけで、汚くてもそれといって問題のない物。 だが動き出した時、それは何でもないと言うにはあまりに大きすぎた。 それが我々に敵意を向けないことが前提に、それは大きかったのだから。 「むしろ何でこんな大きい物を鎖か何かで繋いで置かなかったんじゃろうか?」 『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)は微かに浮かんだ疑問を述べる。仮にもリベリスタに関係する者の為の大学だ。それ位の対策が取られていてもよさそうなものなのに。 「エリューションはふとした瞬間に出てきますからね。まさかこんな物が動き出すとは、って感じではありません?」 『下策士』門真 螢衣(BNE001036)が柔らかく反応する。しかしその顔は僅かに険しい。 教室に近付くにつれ、後者の揺れは大きくなる。ゴーレムが未だ暴れているのだろう。早くしなければ、教室自体が壊れかねない。彼らはいそいそと配置に付く。 「学級崩壊の流行は、ついに大学まで波及したか」 「まさか物理的に崩壊するなんて、誰も思わないでしょうね」 『影たる力』斜堂・影継(BNE000955)がしみじみと言うと、小鳥遊・茉莉(BNE002647)は釘を刺すように言った。これが流行されると、流石に困る。 「それじゃあ、行きましょう!」 『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)が元気よく突入を促すと、彼らは頷き、一斉に教室の中に突入した。 教室をふよふよと浮遊する黒色の物体。それは教室の真ん中で、破壊欲をちらつかせるように機敏に体を振るい、その身の所々には破壊した物体の痕跡や、黒ずんだ血痕が見て取れた。 ゴーレムは彼らに気付く。そしてその体を彼らに向けながら、使役するチョークを散り散りに飛ばした。 その合間を縫って、蘭堂・かるた(BNE001675)はゴーレムに向かって突っ込んだ。 「あなたの相手は私がいたしましょう」 両手に握った双剣にかるたは全身の力を込め、勢いのままゴーレムに一閃する。ゴーレムは衝撃を受け、窓側の壁に叩き付けられた。しかし同時に異様に殺気立ち、本能のままその大きな体が振るわれた。『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)はその様子を観察しつつ、攻撃の機会をじっと待った。 ゆっくりと宙を舞っていたチョークが攻撃対象を定め、一直線にかるたを狙った。その軌道を見た影継はすかさずそれをガードし、攻撃を引きつけようと試みた。 「そっちは今のところ通行止めだぜ?」 「そうじゃな、そしてお主らにはしばし『迷子』になってもらわねばのう」 迷子の作り出したかまいたちが、『迷子』たちの隙間を駆ける。チョークの一本にかすり、ほんの少し欠片が飛んだ。体勢を立て直したチョークは一斉に桜を狙い、彼女は防御に終始した。 やがて黒板消しが彼女を狙おうと飛行を始めたが、その動きを『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)の放った閃光が妨げた。黒板消しが彼女に敵意を向けた時、彼女の表情は柔らかく、しかし毅然としていた。 「あまり動かないでくださいね。少しでも楽にあなたたちを排除したいので」 しかしその動きは止まらず、カルナを狙う。桜はそのカルナと黒板消しの間に割って入る。 「おっと、カルナさんには触れさせないよ!」 威勢良く飛び出した、が、その瞬間黒板消しから破裂音がし、周辺にチョークの粉が撒き散らされる。桜はもろにそれを浴び、顔をひくひくさせながら、涙目になる。 「へっ……へっ……へっくち!」 両手で口を覆って、やや抑え気味に桜はくしゃみした。彼女は鼻をムズムズさせて怯んでいるところにチョークの突撃を受け、転んだ。螢衣は装着したマスクに手をやりながら、思わず呟いた。 「これは……大変ですね」 ●クラスルーム・フライ 影時が放った気の糸が、ゴーレムに絡み付き、締め付けようと試みる。大きな体は攻撃範囲こそ広いが、攻撃する側からすれば大きな的にも似る。しかし図体に反比例して機敏なゴーレムを、影時は十分に締め付けられなかった。 「いやー、物は物らしく人に使われてればいいものを」 彼女はふてぶてしく悪態を吐く。不格好に絡まった糸を引き戻して、次の攻撃の期を待った。 糸が解かれたゴーレムは活発に動きだし、攻撃を繰り返す。その一つがかるたをかすめ、彼女はそれが当たらぬよう十分距離を取った。それを察知したゴーレムは、追撃を試みたが、その瞬間かるたも同様に間合いを詰め、武器を振りかざした。 「させませんよ!」 一閃、振るった武器の道筋は、しかしゴーレムを捉えきることはできなかった。詰めた間合いは、彼女だけでなくゴーレムにも味方し、豪快な一撃が容赦なく彼女を吹っ飛ばした。 「かるた、大丈夫か!?」 影継は向かって来たチョークをうまく去なしてから、黒板に向けて走り、かるたを更なる追撃から庇った。続いて茉莉が黒板の前に立ち、素早く術式を組み上げて、魔光を放った。鋭い光線がゴーレムを貫き、その体は痺れて動きを失くした。 「影時さん! 今です」 「はいよ!」 声と共に地を蹴り、教室で唯一壊れていなかった教卓に倒れ伏している彼を、影時は抱き起す。 「ずっとここにいるのも大変だったでしょうに」 既に生気のない顔を流し見て、影時は呟いた。 その時、痺れを切らしたゴーレムは、かるたのブロックを押しのけて影時の前にまでたどり着く。彼は一瞬怯んだが、抱きかかえた体を庇いつつ逃走を試みた。長いリーチの攻撃は、影時もろとも突き飛ばしたが、その反動はほとんどなかった。そのままの勢いで壁際まで至り、そっと彼を寝かせた。 「ちゃんとここにいてくださいね。これ以上巻き込まれるのも嫌でしょう?」 返事のない屍に気を置きながら、影時は再び戦場に足を運んだ。 「全く、ちっちゃい奴らの相手は嫌になっちゃいますね」 自分の周りを飛び回る小飛行物体に、桜は嫌みを言う。鼻のムズムズは治まっていないが、騒ぎだした腹の虫を抑えるには、撃つしかない。 「桜ちゃんの投げナイフは、チョークなんかに負けませんよっ!」 握りしめたダガーで連続攻撃を繰り出す。チョーク、黒板消しは素早くそれをかわそうとするが、かわしきれない。動きの鈍ったチョークの一つを彼女は見逃さず、すかさず叩き落として砕いた。粉々になったそれが動くことは、なかった。 「さぁ、この調子でどんどん行きますよっ!」 その声に感化されて、螢衣もそれに続く。 「大人しく、貫かれなさい」 螢衣はチョークから目を離さずに式を組み、鴉を作り出す。そして向かってくるチョークにそれを合わせた。鴉はその嘴を真っすぐチョークに向け、激しく正面から突っ込んだ。鋭い嘴はチョークをその勢いでガリガリと削り、終には粉々にした。 「さてと、わしはお主の相手をするかの」 迷子は黒板消しの一つに照準を定め、鋭く蹴り込んだ。鋭い衝撃波が黒板消しに当たったが、負けじと粉を撒き散らした。隙を生じていた彼女は顔を覆う暇もなくそれを食らった。 「くっ……はっ、はっくしょ!」 くしゃみの間を狙って、もう一つの黒板消しが迷子を狙う。しかしカルナがそれを止め、同時にその体に光をまとう。彼女の柔らかな息吹が、迷子を癒した。 「ほら、ぼやぼやしてると潰すぜ」 カルナの方を向く黒板消しを影継が不意打ちし、電撃をまとった一撃を叩き込む。黒板消しは痛快な音と共に潰れて、果てた。 もう一つの黒板消しは影時の方を向くが、彼の後ろで茉莉がじっとそれを睨んでいた。 「ちゃんと、燃え尽きてくださいね」 瞬間、黒板消しのあるその場所に、豪炎が現れ、それを影継に突っ込んで来ていたチョークもろとも飲み込んだ。その炎は黒板にまで飛び火し、飲み込まれた二つはその身のすべてをあらかた焦がされた後、炎が尽きると同時に眠るように落ちた。 「さぁ、あとはアンタらだけだぜ」 上空をふよふよと漂う二つのチョークに向けて、影時は呼びかける。チョークはしばらく攻撃を避けつつさまよい、やがて急旋回してカルナを狙った。カルナはかわせず、攻撃を受けた。距離を取った彼女は高速の閃光を放つ。攻撃は当たり、しかしチョークはなお行動を止めなかった。 桜が、カルナの前に立って、武器を突き出した。目にも留まらぬ連続攻撃は、残った二つのチョークを、芥子粒のごとき小ささに粉砕した。 ●クラスルーム・ルーラー 「…知らせばや成せばや何にとも成りにけり心の神の身を守るとは…」 螢衣が言葉を紡ぐと、現れた呪印がゴーレムを拘束した。呪印を抜けようと微細な動きを見せるそれを、かるたは展開させた周囲の刀儀陣を操り、攻撃する。しかし堅固なそれは彼女の攻撃を弾いた。 「こうも固くては、かないませんね」 「構いはしませんよ。固くても、いつかは壊れる」 影時は気糸を展開し、黒板を締め付けるが、やがてゴーレムが呪印を退けると、それと一緒に気糸も払われた。ゴーレムは素早く影時の方を向いて倒れ込み、近くにいた影継と共に彼を吹っ飛ばした。しかしその隙を見て、迷子が駆ける。 「ちょっと大きすぎるな、その隙は」 豪炎をまとった拳は、起き上がりかけたゴーレムを再び地に叩き付ける。次に起きた時、その表面にはうっすらと傷が見えた。 ゴーレムは怒ったように身を振り回し、彼らはそれが当たらぬよう距離を取る。激化した攻撃が治まりの気を見せ始めた時、影継は素早く間合いを詰め、体に電撃をまとってタックルした。 ゴーレムはその衝撃に押され、後退する。続いて集中砲火を浴び、ゴーレムはただひたすらにそれらに対して防御を貫いた。そこに後退はなく、それどころか、リベリスタを徐々に壁に追いやっていった。十分距離を詰めてから、ゴーレムはその身を振るい、比較的前方にいた彼らは弾き飛ばされ、地に倒れた。続けてゴーレムは倒れ込もうとするが、影継は鉄槌をつっかえ棒にしてその攻撃を防ぐ。それを受けて、ゴーレムが後退したところを、影継は追い立て、攻める。 「闇に染まりし漆黒の板よ! 汝のあるべき姿に戻れ!」 激しくタックルすると、ゴーレムの中心辺りにひびが入る。かるたが続けて、ゴーレムに対して一閃する。再び彼らの集中砲火がゴーレムを襲う。今度は明らかに後退していた。 「皆の勉強する教室を、こんなにしちゃって黒板失格ですよっ!!」 桜が心の丈を叫び、素早い連続攻撃を加える。ゴーレムの動きが、鈍る。すでに黒板のその大きな体は傷で溢れていた。 「……終わりにしましょう」 四色の魔光が黒板を貫く。その時、黒板のひびが大きく、大きく、やがて黒板を縦に分断した。そしてそのひびから微かな音を立てて、割れた。ゆっくりと宙を旋回して、耳をつんざく轟音と共に、落ちた。黒板は二度と動くことはなく、そして前と違って潰された者は、なかった。 ●クラスルーム・ウィル 教室の隅で迷子は額に浮かんだ汗を拭う。もうあらかた片付いたじゃろうか、と顔を上げると、まだ多くの残骸が残っているのがわかり、彼女は顔をしかめる。 「桜も突飛なことを言うのう」 「何か言いました?」 後ろからひょこっと桜が現れる。迷子は気まずそうに顔を背けた。彼女の手には、彼らの倒したチョークの欠片や黒板消しの残りかすが、大事そうに乗せてあった。 「そんなもの、どうするつもりじゃ?」 「供養するんですよ。いつもあんまり感謝してあげられなくて、ごめんなさい、ってね」 桜があまりにも無邪気に微笑むので、迷子は何も言えなかった。すっと現れた影継が桜の手にあるチョークを一つ。手に取った。 「これ、エリューションじゃないんだよな」 「はい、そうですね」 「流石に、これに変な力が宿ったりはない、よな?」 「気になるなら、持って帰っても構いませんよ」 桜は影継に笑いかける。 「エリューション化の原因は、わかりましたか?」 カルナはしかめっ面で調査を続ける螢衣と茉莉に話しかける。茉莉は残念そうに首を振った。 「それが、全くわからないんです」 この学校の中には、エリューション化の原因になりそうな物、それも強力なエリューションを作り出すような物は、見当たらなかった。 「もう持ち出されてしまった……としか、思えませんね」 「ないなら仕方ないでしょ」 かるたが影時とそこにやってくる。 「あとはアークがなんとかするでしょう。その方が確実です」 「……そうだね」 茉莉は同意する。その時、影時が口を挟んだ。 「それよりも、早く帰りましょう。これ以上、仏さんを放置しておくのは、心苦しいですしね」 影時は遺体の方向を指差す。彼らは皆同意し、教室を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|