● およそ誰も住まないような、ボロボロのログハウス。 長いこと放置されていたのだろうそこは、臨時の隠れ家にはもってこい(?)の場所だったのだろう。 「くそ、こんなボロ家をいつまで使う事になるやら……だな」 「しょうがないですよ、前のアジトは爆破されちまいましたしね」 その中では4人ほどの男達が、それぞれトレーニングに励みながら会話を交わしていた。 決まった組織名を持たないフィクサードである彼等は、己が求める『悪役のぶっ飛び道』を追求するため、過去にリベリスタと一度戦った事がある。 「中々に良い連中だと思ったんですがねぇ……」 軽くため息をついた1人の男の脳裏を過ぎるのは、リベリスタ達にすがすがしくぶっ飛ばされた記憶だ。 リベリスタは正義の味方として。そして彼等フィクサード達は悪役として。 朝の特撮よろしく、気持ちよくぶっ飛ばされた記憶は今でも鮮明に残っている。 そして別れ際に、共に戦わないか――と持ちかけられた事も。 「確かにな。だがアジトを爆破するための演技だったのかもな」 「あの爆発で半数以上が未だ病院ですからね」 しかしその戦いの後、帰還した彼等を待ち受けていたのは『アジトの爆破』という、それまでの戦いのすがすがしさを一掃する事件だった。 演技用にと保存してあった火薬が全て爆発したためにアジトは木っ端微塵になり、メンバーの半数以上が未だに入院したままなのだ。 「組織としては現状、ほぼ壊滅ってとこっすかねー……」 などと誰かが言うのも、無理はない。むしろそれが事実だと、誰もが頷いて返すほどである。 「アークっていったっけか、連中の組織は。あれが俺達のようなフィクサードと戦う組織なんだよな」 「そうだったはずだ。だけど悪事を止めようとする割には、最後のアレはな……」 フィクサードの悪事を止めるアークのリベリスタ達の存在は、彼等にとっては自身の求める姿の正義の味方だったと言えるだろう。 そしてその求めるがままに戦ったリベリスタ達と熱い拳を交わした事に、フィクサード達も満足していたはずだったのだが、最後の仕打ちはとても彼等にとって許せるような行為ではない。 「もう1度、拳を交わすしかないだろうな。だが、もしもまたあんな事になるようなら――」 「なるようなら?」 ボス格の男の静かな言葉に、その場にいる誰もが視線を向ける。 「……そんな連中に、悪がどうとか言う資格はねぇよ」 軽く怒気を孕んだ声で、ボス格の男は言葉を紡ぐ。 「そしてそんなのに守られている世界なら、そんな世界もいらないな」 求める正義がその眼鏡にかなわないならば、壊してしまえ。極端な話ではあるが、彼等がそれだけ受けた仕打ちに対して怒りを覚えているという事だろう。 「ところで作戦だが、今回も悪役らしく夜に宝石でも盗みにいくとするか。俺の怪人スーツは用意できているか?」 「兄貴、それただの泥棒っす! まぁそれは置いといて、今回は予算ギリギリでダサダサです!」 「すまん、頭に血が上って思い浮かばん。しかし、ダサダサだな……まぁ、悪役をやるのも最後かもしれん。倒れるときは派手にぶっ飛べよ」 ギリギリのところで、まだ悪役としてのぶっ飛び道を貫こうとするフィクサード達。 だが一歩間違えば深い闇に落ちてしまうだろう彼等を、どうすれば止めることが出来るだろうか……。 ● 「今回は遊びは無しで、本気で来るようですね」 カレイドスコープを通して見たビジョンからも、フィクサード達の感情が怒りに燃えているのは容易にわかる。 前のように簡単に吹っ飛んではくれないだろうと、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は最初に集まったリベリスタ達へと釘を刺した。 「ところで、宝石を盗みにいくとか言ってたようだが……?」 「あ、その点については問題ないです。彼等の目的はあくまで『アークのリベリスタと戦うこと』ですから、迎え撃てば犯行に及ばないようですね」 悪さをしようとすればリベリスタが来るだろうという事は、前回の狙い済ましたかのようなリベリスタの登場でフィクサード達もなんとなくわかってはいるらしい。 彼等は人気も無く灯りもない暗い公園を抜け、4人くらいが並んで歩ける程度の細く長いトンネルを通り、目的の宝石店へ向かうようだ。 「迎え撃つならば公園か、トンネルか……後は宝石店で迎え撃つか、でしょうか」 そのポイントくらいしか戦場に適した場所がないと和泉は言うものの、どれも大なり小なりの問題を孕んでいるとも彼女は続ける。 「公園は電灯がないために薄暗いですし、トンネルは少数精鋭のフィクサードが、地形的に多少有利かもしれません。そして――」 宝石店での水際を狙った場合、巡回してくる警備員が現場に遭遇する可能性が非常に高いようだ。 そのため、迅速に勝利しなければならないと言う制約がつく。 「そして最後になりますが、彼等が求めているのは『正義の味方』です」 フィクサードの求める『正義の味方』の存在。その存在を体現しなければ、彼等は深い闇に落ちてしまう。 最低限、それさえ体現出来ればそんな後味の悪い結果を残すことはないはずだ。 「彼等と良い関係が築けるかどうかは、この一戦にかかっています。頑張ってくださいね」 共に切磋琢磨する良い好敵手となるか、遺恨を残す敵となるか――。 全ての判断は、リベリスタ達の判断に委ねられた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月01日(木)23:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●求めるは『正義の味方』 夜も更ける頃、4人のフィクサード達は一応の目的地である宝石店へと歩を進めていく。 だが彼等の目的は、決して宝石泥棒をする事ではない。 「アークの連中、来ますかね?」 「わからん。だが……前に戦った連中の大半は、こういう時には現れそうな奴等だった」 1人の戦闘員の問いかけにボスがそう答えると、後ろを歩く3人も『確かにその通りだ』と肯定するかのように頷いた。 アークのリベリスタと、再び拳を交えたい。 そのためには何らかの悪事を起こす気配を見せる必要があると、フィクサード達は行動を起こしたのである。 「問題は連中の本質ですかねぇ……」 「それを確かめるために、もう1度拳を交えると決めたんだ。俺は戦っていた時の奴等の姿を、もう1度だけ信じてみたい」 フィクサード達が完全に悪に染まらず、すんでのところで己の信念を貫く姿勢を保っていられるのは、まだリベリスタに期待を寄せる気持ちがあるからに他ならない。 爆破された事実に対しての不信感は拭い去ることは出来ないが、それでも僅かな希望を胸にフィクサード達は前へと進む。 「また前みたいな事があるようなら、その時はその時だ。連中にフィクサードの悪事を止めようとする資格は、ない」 ボスがそう言い放ったその時、彼等の歩みは丁度公園へとさしかかろうとしていた――。 「おいでなすったぜ」 公園へと入り込んできたフィクサードの姿をいち早く察知した『静寂なる炎』八十神 九十九(BNE001353)の視線が、入り口へと向けられる。 「準備万端ッス!」 何時でも来いと気合十分の『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)の準備万端という言葉の通り、リベリスタ達はすでに公園で迎え撃つ態勢を整えていたのだ。 「後は真正面からぶつかり合うだけ、か」 「小細工は無しでな」 互いの顔を見た『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)と『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)が頷きあうように、この戦いに小細工は無用。 真正面からぶつかり合い、撃破することだけがフィクサード達の信頼を得られる方法だと、誰もが信じて疑ってはいない。 否、それ以外に方法がないと言っても良いだろう。 そしてフィクサード達の姿がはっきりと視界に映ったその時、 「止まれ! 我々はアークのリベリスタだ!」 堂々とした口調で『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434)が彼等の歩みを止めるべく、吼えた。 「お前達の企みはすでに露見している。悪事を諦め、大人しく退散しろ! でなければ……ここで我々が相手となる!」 「悪事は二の次三の次なんだが……良いだろう、止められるなら止めてみろ。数は倍……だがソレは俺達のメンバーが欠けているからしょうがないか」 フィクサードの目的は悪事よりもリベリスタと戦う事であったが、どちらにしろ戦うなら良いだろうと風斗にあわせたようにボスは返答する。 待ち構えていたリベリスタの数は倍ではあるものの、ボスはそれを『しょうがない』の一言で片付ける辺り、あまり気にしてはいないらしい。 むしろそれよりも、気になる事があると言う様子でゆっくりと動くボスの視線。 「……まぶしいデコだな」 その視線は暗闇を切り裂くように輝くデコ……もとい全身を発光させている『ソリッドガール』アンナ・クロストン(ID:BNE001816)へと向けられていた。 「毎度おなじみ発光デコです。但し光は全身から出ている事に気付いてくれるかしら?」 「すまない。あまりに目立ったものでつい、な」 思わず突っ込むアンナではあったが、苦笑いを浮かべて答えたボスの目が笑っていない事にも同時に気付く。 (数では勝っていますが、油断すればやられますね) アンナの隣に立つ『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)にすらも、その攻撃的な気迫を肌で感じ取らせる程にその戦意は高まっているらしい。 だからこそ、負けるわけにはいかない。 その思いが、ラインハルトにこの発言を言わしめたのだろう。 「悪為す者を裁くが正義、そんな物、私は認めないのであります」 それはフィクサード達の怒っている理由を真っ向から否定するものであり、彼等の怒りを正面から受け止めようとする気持ちの表れでもあった。 「個人ならばな。だが一般的に言えば、悪を正すものは正義であれ。それが人の願いだ」 かといってボスの方も、その気持ちは汲みつつも同調するような事はない。 「……互いにまだまだ言いたい事はあるだろうと思う、が。……先ずは、行動にて示そう」 ならばこれ以上問答を重ねても並行する意見が交わることもない、後は戦って語れば良いと構える拓真に、フィクサード達も頷いて返す。 「伏兵はいないのか?」 「そんなくだらねェ事はしねェよ」 先の戦いを振り返り言うボスに、やれやれといった雰囲気で答える九十九。小細工抜きでぶつかろうとするフィクサードに、リベリスタ側も真っ向勝負で挑む構えだ。 いつ始まってもおかしくない戦いを前に、両者の間を流れる空気に走る緊張感は最高潮に達している。 「私が求めていたのは、敬愛する殺人鬼のコピー。つまりは悪だったのでしょう。でも、三高平で結んだ縁が、繰り返される悲劇が、私の進むべき《正義の路》を教えてくれました」 その緊張感を破ったのは、おもむろにホッケーマスクをその手に握り締めた番町・J・ゑる夢(BNE001923)だ。 「私はホッケーマスクの女子ジェイソン……そして、人々の安夜を護るヒーロー、聖ゑる夢です!」 「良かろう、来い!」 彼女がホッケーマスクを装着して構えたと同時に、開かれる戦端。 それぞれの信念を胸にぶつかる両者は、口ではなく拳で互いを知る事となる――。 ●ぶつけ合う信念 「人々の平穏な生活のために、アンタ達に引導を渡す! 尋常に勝負ッス!」 「とか言って、またアジトを吹き飛ばしたりされたらたまらないっすよ」 真っ先に飛び込んだイーシェの強烈な一撃を受け止め、逆に彼女の体を大地へと叩きつける覇界闘士A。 しかし彼の敵はイーシェだけではない。 「そんな事はしません! 私はこの印に賭けて、貴方を倒します!」 「ちょ、そんなとこ見せ付けないでほしいっす! でも2対1っすか……問題はないっすけどね!」 直後に迫ってきたゑる夢が、胸に刻まれた『J』の痣を見せ付けてながら見栄を切れば、2対1の戦いを覇界闘士Aは強いられる事となる。 際どいところに刻まれた痣を見せ付けられて赤くなりながら、それでも2対1の戦いに問題がないと言い切る程に、その気迫は満ちているようだ。 (数の差をものともしていないわね……) 倍の人数を前にしても怖気付く気配を見せないその姿を目にしつつ、アンナは何時でも仲間の援護が出来るようにとタイミングを伺っている。 そんな彼女の前では、次々と仲間達が戦闘員に扮したフィクサードへと攻撃を仕掛けていった。 「オレの名は楠神風斗。お前たちを止めるため、ここに来た! いくぞ!」 「お受けしますよ、全力で……ね!」 まず目に飛び込んだのは、覇界闘士Bに肉薄しつつ自身の生命力すらも戦闘力へと変換した風斗の姿だ。 「ではまず、こちらから!」 彼と同時に仕掛けてきた九十九の姿を確認すると、ガトリングを手に一気に弾丸をばら撒き始める覇界闘士B。 その弾は接近してきた2人だけではなく周囲のリベリスタや、あらかじめ設置された光源を撃ち抜き、明るく照らされた公園に闇をもたらし始めた。 と言ってもデコ……、 「光は全身から出ています」 ではなく突っ込まれた通りに全身を眩しく輝かせたアンナの存在がある限り、暗闇が公園を覆う事は決してない。 「俺ァ、俺が許せねェ事、やらなきゃならねェ事をやるだけだ」 そして銃撃に傷を負いながらも、九十九は足元から影を伸ばして次の攻撃のために態勢を整え、言う。 「そして今、俺がやるべき事は、テメェらをぶっ飛ばす事。それ以外に無ェ」 「なるほど、それが貴方の正義……ということですか」 たとえそれが2対1での戦いを挑む事であったとしても。 九十九のその言葉に、それもまた正義のひとつの形だろうと覇界闘士Bは笑みを浮かべながら答える。 「戦況は互角? いや、やはり数の面でこちらが不利か」 一方でアンナと同じように戦況を眺めていたボスは、この時どう攻めようか逡巡している様子だった。 デュランダルには拓真と明奈。 2人の覇界闘士には九十九と風斗、ゑる夢とイーシェがそれぞれ張り付き、2対1の戦いを強いられている。 いかに数の差をものともしない気迫を持っていたとしても、やはり戦況はリベリスタの有利と見て間違いはない。 「あなたのお相手は私が務めるのであります!」 当のボスには動きを見せなかったラインハルトが一気に距離を詰め、『悪に堕ちるな』と強い想いを込めた十字の光がボスの身を撃ち貫いていった。 「良い気迫だ……! それだけの気迫がありながら、あんな事をする手合いが組織にいるのは残念だな!」 防御をする暇もないままにジャスティスキャノンを受けつつも、怒りに震える声でラインハルトへと叫ぶボス。 「貴方の痛みは貴方だけの物。分かるなどとは言わないのであります」 その事件を伝え聞いただけでしかないラインハルトにとって、その怒りに対して返せる行動は1つしかないのだ。 「ですがその憤りが消せないのであれば、受けましょう。貴方の悪も、また正義。私は絶対に、貴方達を放って等置かない」」 それは怒りを受け止めた上で、自身の気持ちを伝える事――。果たしてボスに、彼女の気持ちは届くのだろうか。 そのまましばらく続く一進一退の攻防。 だが数で勝るリベリスタは、確実に勝利を手繰り寄せようとしていた。 「このまま押し切れば勝てるわね……気を緩めないで!」 後方から戦況をしっかり把握しつつ激を飛ばしながら、アンナは天使の歌で仲間の傷を癒しにかかる。 数の有利のみならず、リベリスタが戦況を優位に進める事が出来ているのは、彼女の援護があるからに他ならない。 「がふぁっ!?」 「やっぱり無理っす!」 「デコがまぶしっ……!?」 そして三者三様の台詞と共に部下達がぶっ飛んだその時、勝敗はすでに決したと言えよう。 「だから光は全身から……もう良いわ」 最後の台詞にやれやれと突っ込みを入れたアンナは、もう突っ込む事に疲れている様子のようだ。 さておき、残るはボスただ1人。 「少し、問いたい事がある」 先んじて仕掛けていたラインハルトとボスの間に割って入った拓真が、その時初めてボスへと直接声をかけた。 「……1人の少女が居た。彼女は放っておけば多くの人間を殺す事になる。しかし……まだ年端もいかない、これから多くの事を経験する事が出来る子だ」 「それで?」 剣戟を交えながら、拓真とボスの語らいは続く。 「だが、彼女はノーフェイスだ。救いはない、殺す以外に道は無い」 2度3度と刃を交え、ボスの武器を捌いたところで一撃を加えると、拓真は最後にボスに問う。 「それは……正義か。フィクサード」 苦い思いを胸に、彼は熱い思いを込めてさらに言葉を紡いだ。 「他にどうする事も出来なかった、でなければ多くの人間が殺されたかも知れない。その理由の末にその少女を殺した者は……正義か、否か!」 「ほう……」 「正義という言葉は、仕方が無かったと! そんな諦めと同時に語っても良い言葉か! 答えろ、フィクサード!」 悲痛とも言える問いかけは、わずかな時間ではあるが戦場に静けさをもたらす。 それはボスの答がどういうものであるか、リベリスタの誰もが聞きたいと思ったからこそ出来た空白の時間かもしれない。 「それ以外に方法が無かったのか?」 しかしボスは、その問いに疑問を投げかけた。 「本当にそれ以外に方法が無かったのか? 最後まで諦めずに、なんとかしようとしてみせたのか?」 確かにノーフェイスになったとはいえ、運がよければフェイトを得られた可能性もある。 ボスがその事を知っているわけでは決してない。だが、『正義の味方』ならばこうするべきだと、彼は自身の正義観で彼に続けて返す。 「最後まであがいてそれでもだめなら、人として終わらせる――正義を成すには、辛い事もある!」 奇麗事だけでは正義は貫けない。ボスは明確にそう答えた。 「さぁ、まとめてかかってこい! お前達の正義を、俺に見せろ!」 「では遠慮なくいきます! 私達の想い、受け取ってください!」 敗北を悟りながらも、ボスは最後まで戦う道を選び……そしてゑる夢はその想いに応えんがため、仲間と共に駆ける。 その姿は特撮さながらの悪役を目指すボスが望む、協力して悪をくじく『正義の味方』そのものだった――。 ●悪役達の行末 「ハハハハ! 参った参った、さすがにやるな!」 最後に盛大に吹っ飛んだボスは、自身の傷の痛みも忘れて高らかに笑う。 彼の表情に先程までの怒りの形相はすでになく、心が晴れたと言ってもいいすがすがしい表情が浮かんでいた。 それは全力で戦ったリベリスタも同じであり、全てを出し切った双方には、敵意というよりも良きライバルという感じが見て取れる。 「そっちもな……とりあえず、軽く応急手当をするぜ」 そしてぶっとんだフィクサードの傷を心配した明奈の提案により、彼等に軽い手当てが施される事となった。 「少し良いか?」 応急手当の最中、ボスにそう話しかけたのは拓真だ。 彼の真面目な眼差しと雰囲気を感じたのだろう、フィクサード達は一様に黙り彼の次の行動を待ち――逆にリベリスタ達は、この時が来たかとフィクサード達に向き直る。 「先日、行き過ぎた行為があったことを謝罪する」 「入院している仲間の治療費は、アークに賠償するよう交渉してみるが……それで怒りを納めてはくれないだろうか?」 次いで風斗から謝罪の言葉が飛び出し、拓真からはさらに治療費の話が伝えられた。 「アジトの件か……」 最初は何事かと首を傾げたフィクサード達も、拓真の言葉に『あの事か』と理解した表情で互いの顔を見合っている。 「この気持ちは先程の闘いに込めました。だからこの気持ちが嘘じゃないとは、わかってもらえてると思います」 「アークは一枚岩じゃない。色んな考え方の奴がいる」 畳み掛けるようなゑる夢と明奈の言葉に静かに耳を傾け、聞き入るフィクサード達。 「エリューション事件が多すぎて、最悪犯罪者じゃないってぐらいの人間掻き集めて、何とか平和を維持しているだけなのよ」 さらにアンナが、 「綺麗だけでは終わらない。後悔は常に尽きないッス」 「だが……それでもオレは、誰かが泣いたり苦しんだりすることが、少しでも少なくなるように戦っている……」 イーシェと風斗が次々と言葉を投げかけていく。 あの時ああしておけば、と後悔するような経験もしながら、リベリスタ達は崩界を食い止めるために戦っている。 だが決して、自分達は正義の味方などではない。 「私だっていて欲しいわよ、正義の味方! でもいないのよ! だから私達みたいな半端物が頑張るしかないんじゃないか!」 そう思うがゆえに、そんな者がいるならいてほしいというアンナの叫び。 「後悔することも多いけど僕達も頑張ってるッス。だからこそ、正義になれとは言わないッス。でも悪は卒業して欲しいッス」 「あなた達は本当は悪い人じゃないって信じているから。仲間になれなんて言わないけど。本当の悪事に手を染めて欲しくないんだ!」 そして静かではあるが凛とした声で気持ちを伝えるイーシェと、涙混じりに思いを吐露する明奈。 「わかっているさ……俺達は自分の我侭で、正義の味方を押し付けようとしている事くらいはな」 嘘偽りのない説得を聞き終えた後、ゆっくりとボスが口を開いた。 「一枚岩でない事もわかっている。だが世界を守ろうと戦うお前達は一般的に見れば『正義の味方』であり、道を外れれば俺達フィクサードと変わりはない」 アークを詳しくは知らないからこそ出たのかもしれないが、ボスの言葉は的を射ていたと言えるかもしれない。 あまりに道を踏み外した行動を取ったリベリスタはアークの監視下に置かれ、『失格』の烙印を押され制裁を受けるだろう。 「個人がどうであれ、お前達はそういう立場で戦っている事を忘れないでほしい。そして簡単に負けられない事も、な」 ボスのその言葉がリベリスタ達にどう受け止められたかは、定かではない。 「だからこそ、俺達は今の立場を保ってお前達の敵となろう」 「……は?」 しかし次に彼の口から出た言葉には、誰もが耳を疑った事は言うまでもなかった。 「勘違いするな。腕っぷしの面でお前達に強くなってもらいたいと思っているだけだ。悪事はしない」 ならそれを先に言えとリベリスタ達が思った事も、言うまでもなかった。 あえてリベリスタと敵対する事で、強くなってもらいたい。このフィクサード達は、その想いを胸にこれからも己が道を進んでいくようだ。 深く掘り下げれば、『ぶっとび道』を極めたいと願うフィクサードの思惑としても都合が良い――という事か。 「……今度は、子供達に見せられる戦いをしたいな」 「あぁ、そうだな」 最後にそう声をかけた風斗にそう言い残すと、フィクサード達はゆっくりと戦場を後にする。 闇に落ちずに済んだ彼等は、きっとまた近いうちにリベリスタにぶっ飛ばされにやってくるだろう……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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