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蟲喰いの夢

●夜、蟲、鼓動
 うずる、うじゅる、じゅる。
 這いずる蟲の音、カビ臭い廃ビルの中、瘴気のようなものを呼吸とともに撒き散らす蟲。
 その中心に立つ青年が一人。
 彼は死人、すでにその身はこの世のものでなく、もと居た場所のものでもない。それは人の身を焼き尽くす臭気を放つ醜悪な虫達の中でしか生きられない体。自分の名前も、何をしていたかも、自分がどのような姿をしているかさえ思い出せない。不快な蟲が、自分を侵し、操ろうとする。
 にごった、タールのような瞳が軋む音を立て、窓の外を見る。月が赤い、紅い。それだけで血が騒ぐ。
 喰う、喰わなくてはならない。でないと自分が蟲どもに喰われてしまう。その強迫観念が、死してなお青年の心を満たす全てだった。

●暗夜
「これが、私の見た『物』よ。食欲が失せるわね」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)があきらめたような口調でそう言った。白い肌が少し青ざめ、儚さがいつもより増しているように感じた。
「敵はエリューションアンデッド。パーカーとジーンズを着た青年が一人。山のような蟲たちと一緒に廃ビルで暮らしているわ。」
 そうしてゆっくりと、リベリスタ達を見回すイヴ。同じようにゆっくりと呼吸し、自分の髪に少し触れ、たっぷりと時間をかける。
「パーカーの青年、彼と呼称するわ……彼は、蟲を操って戦うわ。体内に飼っている蟲を射出しての遠距離攻撃と、虫を破裂させて相手を吹き飛ばす近接攻撃。威力はそこそこ、といったところよ」
 そこまで話すと、もう一度ゆっくりと息を吸うイヴ。見た目よりも消耗が激しいのだろうか、小さな体から深いため息が漏れる。
「……そして厄介なのは、大量発生している蟲ね。団体行動をとるこれは、おおよそ五グループ。攻撃が通用しない、なんてことはない。けれど、この蟲全ては毒攻撃を持ち合わせている上に、この蟲が一グループでも残っている限り、彼の体を自動的に修復するわ。そして、閉鎖空間であるビルは蟲の毒で満たされている。見た目のようなダメージはないけれど、どうにかして排除しないと明かりをつけても視界が狭いわ」
 目を閉じ、開けるリベリスタ達の表情を見逃さないように観察する。送り出す者達が、信用に足るかどうか。
「幸い、廃ビルは人の居る場所からは遠く離れているし、ちょっとやそっと暴れたくらいでは倒壊もしない。けれど壁とかはむき出しになっているから破壊もできるでしょう」
 イヴは一度だけ、満足そうに頷く。
「……お願い、彼を解放してあげて」
 そう言う声色は、慈悲の声色を含んでいた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:春野為哉  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月26日(土)23:27
 こんにちは、こんばんは、はじめまして、おはようございます。春野為哉です。今回は蟲によって囚われた哀れな青年を救っていただこうと思います。ホラーチックなシナリオを存分にお楽しみ下さい。

●成功条件
 エリューションアンデッドの撃破

●戦場
 住宅地から離れた五階建ての建設途中の廃ビル。電気は通っていません、鉄筋コンクリート製ですが、外壁の大部分は脆くなっています。が倒壊の心配はありません。
 夜、その四階に「彼」は存在するそうです。細かい時間などはイヴが指定してくれるので心配は要りません。
 ただし、戦場となる四階は蟲の瘴気で満たされており、非常に視界が悪いです。明かりをつけても五メートル程度しか視界を確保できません。これは換気をしてしまえば一気に排除することができます。

●敵
「彼」
 パーカーとジーンズが特徴的なやせ細った青年のエリューションアンデッドです。言語能力も失い、本能のみで行動しています。しかし「考えて戦う」くらいはできるので注意を。
 攻撃は遠距離攻撃とノックBつき近距離攻撃の二種類。威力はそこそこですが一撃で致命打になるほど厳しくはありません。油断なく戦えばやられることはないでしょう。ただし、下記の「蟲」が居る場合リジェネレートを持ちます。割とバカにならない回復量なので、お気をつけ下さい。

「蟲」
 「彼」と共生関係にある蟲です。全部で五グループ、「彼」の周囲を守るように待機しています。攻撃は近接攻撃で毒が付与されているもののみ。耐久力も高いとはいえませんが、かばいあう性質があるのでお気をつけ下さい。

 以上です、皆様の健闘をお祈りします。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
狐塚 凪(BNE000085)
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
クロスイージス
ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
インヤンマスター
駒井・淳(BNE002912)
デュランダル
館霧 罪姫(BNE003007)
デュランダル
エクス キャリー(BNE003146)

●天道虫
 満天の星空、大小さまざまな光が空にちりばめられ、冬も近くなり、肺を震わせるほどの冷気を帯びるようになる季節。ただ今日は、月だけが妙に紅い。自然現象といえばそれまでであるのだが、今日という日、殺し合いをする日と符合するのはいかにも、といった雰囲気で。まるで月が観戦を望むようであった。
 そこに集うのは男女八人。うら若い少年少女七人、と一人。いずれもリベリスタ達。見上げるビル、その一角に居るアンデッドを処分せねばならない。そのために集まった者たちだ。
「やー、動物は好きですが。これはちょい、気持ち悪いですね」
 『磊々落々』狐塚・凪(BNE000085)が苦笑気味に言葉を漏らした。この先に居るのは毒を撒き散らす蟲の巣窟なのだから、当然のリアクションである。よくよく目を凝らしてみれば、すでにビルの四階から瘴気のようなものがわずかに漏れ出しているのがわかる。
「……本当に、いやな蟲も、いたもの、ね」
 眠気もどこかにいってしまった、と、ぼんやりした瞳でビルを見上げるのは『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)なのだが。どうみても眠そうである。ただ、そのぼんやりとした瞳がだんだんと、戦いを感じているのかはっきりと焦点が合いはじめているようにも見える。
「そんなものの苗床になってしまった人にはもう一度死んでもらうのデス」
「そう、私が全部全部全部ばらばらにしてあげる、のよ」
 『飛常識』歪崎・行方(BNE001422)と『積木崩し』館霧・罪姫(BNE003007)の年頃も近い可憐な少女二人が楽しげに笑う。どことなく、狂気を孕んだ二人の声が夜の空気に混じり、さらさらと溶けていく。サイコパス、そんな単語が良く似合ってしまう。
「蟲に喰われる死人、でありますか。しかしなぜ彼はこんなところに……不可解であります」
「疑問ではある。しかし、我々のできることは、魂だけでも解放することだ……」
 『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)の疑問にエクス・キャリー(BNE003146)が自分の腰に提げた剣を少し撫で、答える。経緯はわからない、「彼」がなぜこのような姿になったのか。人の居場所からも遠いこのビルを拠点にしているのか。何を、想っているのか。誰にも、おそらく「彼」本人にすらわからない。だからこそ、倒すことしか出来ない。
「蟲に魅入られ、操られ。本能だけがそこにある……」
「実に今宵の血は不味そうだ」
 『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)と『背任者』駒井・淳(BNE002912)が各々つぶやく。想うところは理不尽への興味か、淡々とした贖罪の気持ちか。それらを胸に秘め、準備を整えていく。
 そうしてしばしの時間がたち、指定された時刻まであとわずか。各々の配置につき、各々の思いを秘め、各々の準備を終える。
 今宵、一つの夢に決着がつく。

●白蟻
 その空間はまるで、濃紺の花びらが充満した箱の中のようであった。しかし、それは人の身には重過ぎる毒。鈴蘭の花びらが舞散る丘よりも濃く、薔薇の弦に絡みつかれた彫像よりも、痛い。
 その中、異形の蟲たちの中心に立つ「彼」その腕に、脚に、体に蟲を這わせ、ビルの四階に無数の蟻塚とでも言うべきものを作り、立ち尽くす。今宵、何処かに命を狩り、食い尽くすために。自分が食い尽くされる前に、そのどうしようもない空腹を癒すために。
 ゆっくりと、「彼」が背中を離す。それにあわせて蟲も塚から出、飛び、這い、周囲を警戒する。それから、数秒と間はなかった。
「さて、開戦の狼煙といくデスカ。ドカンと派手にやるデスヨ。物理的に」
「せーの!」
 外壁が二箇所、派手に音を立てて砕かれる。吹き飛ぶコンクリート、暴風のように吹き出す瘴気。リベリスタ達も、想像以上の濃度に思わず顔をしかめる。
 しかし、それにひるむ暇はない、リベリスタ達が踊るように中に突撃する。リベリスタ達の取った戦術はいたってシンプル、出口となりえる換気穴を塞ぎ、あとは全力で殴る短期決戦。毒の回復手段こそあれど、回復手段そのものがないこの状況では当然とも言える戦術である。
 凪と罪姫が穴を塞ぐように立ち、突入前に強化しきったリベリスタ達が一斉に攻撃を開始する。「彼」はソレにあわせ、軽く口元を歪ませる。それだけで蟲の群を一つ彼に残し、一斉に飛び掛る。耳がちぎれるかと思うほどの音を立て、蟲の群とリベリスタが激突する。視界はマシになってきたが、まだ換気は完全ではない。
「悪いが、そうダメージをもらうわけにはいかないのだ」
 淳が後方からすばやく式符・鴉を放ち、蟲の群が一つ、離脱する。怒り狂った蟲は淳に向かうが、それは行動を一手無駄にするということ。
「まずは蟲達からだな……」
 静かに佇むエクスが眼光鋭く、電撃を全身に纏う。それらが剣に集中し、振り抜かれる。瘴気の流れ、形まではっきりとわかるほどの放電。捨て身の一閃が淳へと向かう虫たち、その群を深々とえぐる。
「はいどうもこんにちはデスヨ。都会の片隅に倒れた不幸なアナタの元に、都会の片隅で気って殺して刻んで過ごす都市伝説がご挨拶」
 楽しそうな口調でオーラを纏い、行方が包丁を振り回す。踏み込みの一瞬でビルが震え、瘴気が吹き飛ぶほどの勢いで蟲が切り裂かれる。鮮やかに両断された蟲の死体が飛び散り、群ごと吹き飛ぶ。手負いの群をかばおうと、別の群が飛び出す。それこそリベリスタ達の狙いとも知らずに。
「邪魔だよ!」
「邪魔だな、どいて貰おう」
 ルカルカが槌を派手に振り回し、ぶちぶちと虫達が裂ける、吹き飛ぶ。辺りに体液が飛び散り、悪臭を撒き散らす。そこに更に那雪が追撃、気糸が突き立てられる。先ほどまでのとろんとした雰囲気とはうってかわって凛々しいその姿に気おされたかのように、蟲が打撃を受ける。
「邪魔する蟲はバラバラにするわ、邪魔しない蟲もバラバラにするの。さぁさ、罪姫さんと遊びましょ。皆、皆、綺麗に御片付けしてあげる」
 群の体をなすかギリギリなほどに追い詰められた蟲の群に、罪姫の疾風居合い斬りが直撃する。たまらず、蟲の群が吹き飛び、四散する。
「こんにちは、食物連鎖の上に立つのはさぞかし悦楽でしょう?申し訳ないが、倒させていただきますね」
 期待せずに動物会話で問いかけ、同じく居合い切りを放つ凪。「彼」は答えず、ポケットに手を突っ込んだまま軽くステップを踏み、回避。
「私達は世界の境界線。貴方を解放しに来たのであります」
 さらに追撃のジャスティスキャノンを放つ、が「彼」はこれをガード。パーカーの生地が吹き飛び、腕が焦げるもすぐに修復され始める。やはりここは彼の領域、リベリスタ達はそれをすぐに察する。
 反撃が始まる、蟲達は怒り狂った群を除いた三つが行方に一斉に群がる。
「痛いデスネ……」
 包丁を振り回し、襲い掛かる蟲を叩き落し、防御するも腕を、脚を、かじりつかれる。そこに放たれる、一回り大きな蟲。「彼」の放った蟲は炸裂し、蟲たちが作った隙に叩き込まれた。知命打には遠いものの、ごそりと一連の攻撃で削り取られる体力。
 急がねばならない、そう思うリベリスタ達を見てか、「彼」の表情は至極楽しそうになものだった。

●針金虫
 戦況は、リベリスタ達が押し込んでいた。このメンバー構成、一見不利なように見えるが、そうではない。毒を回復する最低限の手段と、豊富な誘導、バッドステータス、高い攻撃力。パワーが根本的に違いすぎた。群を落とすことが早々に出来なければ瓦解していたであろうが、そうはならなかった。最初の怒りによる誘導と、かばいあう性質を利用した群の早々の脱落、これが効いた。もとより短期決戦という覚悟あってのこれは、蟲をあっという間に駆逐していった。
「……ほ、これはこれで悪くない。どれ、残さず喰ってやろう。」
 獣の咆哮に近い物をあげ、淳がフードをめくれるほどの勢いで、蟲に食らいついた。群の中核を担っていた蟲は割れたスイカのようにしぶきを上げ、その残された体力を根こそぎ吸われた。整った淳の容姿、対照的に苦しそうに軋むような音を立て、蟲の群は四散する。
「残すは……決着をつけにいこう」
 「彼」を睨み、エクスが静かにつぶやく。
 「彼」自身は手傷はほぼ無い、死んでいった蟲たちが絶えず修復されていたからだ。だが、手傷を負っているとはいえ誰一人として欠けていないリベリスタ達。勝負は決したに等しい。
 しかし、「彼」は不気味に笑ったまま体勢を整え。体内の蟲を両手に纏い、同時に動いた。
 エクスのギガクラッシュが悲鳴のような音を上げて閃光を放つ。派手に出血、「彼」は止まらず手に握った蟲を炸裂させる。エクスがかわしきれず、派手に吹き飛ぶ。
「遠慮なく死んで再び死んで構わないデスヨ」
 行方の包丁が踊る、虚ろな行方の瞳と、フードの下の「彼」と目が合う。生者の虚ろな目と、死者の濁った目と、それは明らかに違っていた。一切の共感も無く、振り下ろされる一撃。彼の腕に纏った甲虫の群が吹き飛び、骨が折れる音がする。そのまま折れた腕を振りぬき、行方を叩きつける。
「こんなところにいないで、早く行くべきところへ逝きなさい……!」
 わずかに語気を強めた凪が、再び居合いを放つ。彼の肩口を深々と捉え、黒い皮膚が露になっていく。手ごたえはある。深い、確実に彼の命を抉り取っている。だが、まだ足りない。牽制のように彼から放たれた蟲が辺りで炸裂し、ビルを揺らす。
「食われて、壊れて、不条理ね。操られて、自分の存在さえクワレテ。貴方は一体、何になったのかしら」
 詠うかのように語りながら、ルカルカの槌が振り下ろされる。空気を切り裂き、暴風の塊のようなそれは、「彼」が両腕を盾に防ぐ。血が、蟲が、体から抜け落ちていく。
「食わなきゃ食われる、そりゃあ怖いですよね……」
 力が入らないのか、両腕をだらりと下げた彼を見ながら、つぶやくルカルカ。それでもなお、彼の動きは止まらない。哀れみなどいらぬと、安っぽい感情だと、それらを振り切るように。
「思考も思念も無く、ただ恐怖に動かされる屍……」
 歯噛みして、ラインハルトが声を漏らす。蟲に食われ続け、食い続けなければ何も出来なくなってしまったモノ。
「そんな哀しい方を。このままになどしないのであります。だからどうか、もうほんの少しだけの辛抱を。絶対に、絶対に救ってみせるでありますから!」
 放たれたジャスティスキャノン。防ぐことすらままならない「彼」は、歯を見せて笑い、怒りなのか、ラインハルトだけを、射抜くように見る。お前に、何がわかるのかと。
「もう、御片付けしましょう?」
 致命的な隙。ぞっとするほど甘い声で、罪姫が後ろから、待ちかねたとばかりに、チェーンソー剣を突き立てる。「彼」の腹から刃が突き出る。うなりをあげるチェーンソー。「彼」が口から吐血し、限界を迎えた体を、なおも動かそうとする。
「……もう、十分だろう?そろそろ眠るといい」
 那雪が、気糸を放つ。ずん、と、致命的な何かを貫く感触。「彼」の口が、ぱくぱくと、二度三度動く。その言葉は、誰に伝わったのか。誰が受け取ったのか、わからない。そもそも、言葉であるのかすらも。
 そうして彼は、ついに動かなくなった。

●羽虫
「痛かったでしょう、苦しかったでしょう。貴方はよく戦ったのであります。だからもう、楽になって良いのであります」
 哀しげな表情で、黙祷を捧げるラインハルト。ウェーブの金髪が、風か、感情か、そのせいで揺れる。あのときの、ラインハルトにだけ見せた怒りの表情は何を意味したのか、もうわからない。黙祷を終えると、ラインハルトはそっとその場を去った。
「御片付け……できない」
「仕方ないデス。塵は塵に、灰は灰に。そして死体は死体に戻るのデスから」
 残念そうにつぶやく罪姫と慰める行方。そう「彼」の死体は、活動を停止したと同時に、周囲の蟲の死骸とともに音も無く、服も風化したように消えていってしまった。文字通り、何も残っていない。あるのは、戦いの爪跡だけ。
 綺麗にしたかったのに、とつぶやく姿は。玩具を取り上げられた子供そのものだった。それを見て、行方はポンと一度肩に手を置いてから一緒に立ち去る。ココにはもう興味はないと言わんばかりに。
「眠い……」
「理不尽ね、何も残らないなんて。でも……」
 眠そうにする那雪、そのそばにルカルカ。那雪の脳裏に夢のように浮かぶのは、とどめをさしたときの、彼の言葉。ぼうっとしている那雪に聞こえる程度の声で、大丈夫、私の中に残してあげるから、とルカルカがつぶやく。あのとき、自分にそんなことが言えただろうか。那雪はそう思い、そして何も言わず二人は去っていく。
「後処理とかは不要だな……そうそうに帰るとしましょう」
「……そうだな」
 エクスが言い切り、その場を立ち去る。魂は解放されたのだから、自分達はやることを為しただけなのだから。これでまた救われたのだから、何も問題は無い。そう、何も。
 淳も、何かを思い、足を動かす。孤独、彼がそれに沈んだために、そうなってしまったのか。自分もそうなっていたのではないか、あらぬ推測が頭をよぎる。無駄だ、そのようなことは、と切り捨てて。その場を去る。
「独りは、寂しかったでしょうに……」
 残った凪が、ぽつりとつぶやく。風のきる音だけが部屋に響き、この場がまた時の流れに埋もれていくことを知る。
 ふいに、頬に何かが触れる。
 凪が、頬に手を当ててそれを取る。手に乗っていたそれは、トンボの物のような羽。
 異形でもなんでもないそれは、この場に居たリベリスタ達の手元に残った唯一の、物。だった。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 皆様、お疲れ様でした。同時に、お見事でした。前のめりと言うこともあり、最初は少々不安でしたが統制の取れた動きには蟲も真っ青です。
 この一件で、彼は救われました。孤独に苛まれていた者でしたが、散り逝く間際に思ってくれる人が居て幸せだったことでしょう。
 あらためまして、お疲れ様でした。と同時にありがとうございました。また縁があればぜひご参加くださいませ。