●承前 東京都、井の頭公園――。 武蔵野市の南東から三鷹市の北東にかけて広がる公園。吉祥寺駅から間もなくの場所にあった。 公園の中心には井の頭池が北西から南東方向に延びる細長い形で形成され、沢山の人々が出入りしている。 人の気配がなくなった真夜中。 井の頭池を岸からぼんやりと眺めている青年がいた。 長髪を後ろに束ね、傍らには大きな旅行鞄を置いてある。 その鞄の取っ手には航空便の札が着いていて、海外帰りであることは一目で判った。 後方の木陰からむくりと現れた異形のもの――首から上のない胴体だけの存在が青年を狙っている。 身体は白熱した裸体で、胸の辺りに大きな口だけ笑みを浮かべる太った男のような姿。 「帰国早々、エリューションがお出迎えとは……」 青年は事も無げに視線を胴体へと向け、片手で空に印を切って人払いを手早く済ませた。 もう片方の手を翳すと、その手には意匠を凝らした優美な日本刀が現れる。 「奇妙な気配を感じたのが、不味かったか」 ぼやく青年に対し、低く呻り声を挙げた胴体は真っ直ぐ突進してくる。 それに合わせて刀を抜いた青年の全身が、瞬く間に青白い闘気で包まれた。 「……天馬流星剣!」 青年が胴体へと一歩踏み込んだ刹那。流星の如く無数の斬撃が四方八方から覆い尽くす――。 後に残ったのは先程までと同じ、長髪の青年がひとり佇んでいるだけだった。 ふと視線を向けると、先程までは見かけなかった小さな箱が地面に落ちている。 「あのエリューションが持ってたヤツか……?」 青年は少しばかり考えた様子で箱に手に取り、そして箱を開く――。 ●依頼 静岡県、三高平市――アーク本部。 「とあるエリューションビーストが持っているアーティファクトの破壊が依頼。場所は東京都、井の頭公園」 『リング・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はいつも通り、ブリフィングルームに集まったリベリスタたちへ結論から話し出した。 エリューションビーストは『白熱した胴体』と呼ばれている。フェーズは2。 「アーティファクトは小さな箱の形をしてる、通称『パンドラの苦悩』。パンドラの箱って伝説ぐらい、聞いたことある?」 パンドラとは、ギリシア神話に登場する女性のことだ。 彼女の持つ箱は『神々からの贈り物』だったのだが、中にはあらゆる災厄が閉じ込められていた。 ある日、好奇心に負けた彼女は最後に箱を開け、世界中へと災厄が広まる。 そして、最後に箱に残ったのは『エルピス(希望)』だけだったという。 「この箱には伝説のような災厄なんて詰まってない。実際に入っているのは『苦悩』だけ」 箱を開けた者は、本人の心にある『苦悩』を極端に増長されてしまう。 それに屈して箱の中に残った『希望』に縋りつくまで、開けた者を延々と苛み続けるのだ。 充分な災厄だと言わんばかりの表情をするリベリスタたちを無視し、イブは言葉を続ける。 「もし屈して『希望』に縋ったら、それが最後。意識を乗っ取られて、災厄を世界中に撒き散らす為の存在と化していくの」 こうなってしまうと使用者を一度倒した上で、アーティファクトを壊すしか方法がない。 「今回、運悪く箱に遭遇する者がいる。名前は草薙神巳(くさなぎ・かむい)、リベリスタの青年でナイトメア・ダウンの生き残り」 イブの言葉に、リベリスタたちから小波のような反応が返ってくる。 「でも少し問題がある。神巳はナイトメア・ダウン以降、周囲の人間関係を拒絶して生きているの」 ナイトメア・ダウンまではリベリスタとしての使命感を持ち、他のリベリスタと協調して戦っていたらしい。 だがその後、神巳はリベリスタやフィクサードといった覚醒者たちとの接触を一方的に断ってしまう。 「エリューションを狩る以外、ずっと隠遁生活のような状態。世界中を放浪してる」 他の覚醒者と争いになりそうになっても、その場から逃げ出すか、交渉して解決させることをとにかく優先させてきたようだ。 どうしても戦いが避けられずに刀を奮うことはあっても、人を殺すことだけは徹底して避け続けているらしい。 「でも彼が箱を開けて、『苦悩』に負け『希望』に縋ってしまえば……」 リベリスタたちにとって、非常に厄介な敵が誕生してしまう。 それだけは、避けなくてはならなかった。 「彼に箱を開けてしまう前に『パンドラの苦悩』の破壊はお願い。手段は一任するけれど……気をつけてね」 厄介な課題に考え込む仕草を見せつつ、リベリスタたちは部屋を後にするのだった。 ●パンドラの箱 プロメテウスは天界から火を盗み出し、人類へと与えた。 ゼウスはそれに大いに怒り、人類へ災いをもたらすための――『パンドラ』――女性を創造する。 ヘーパイストスが、泥から彼女の形を創り出し、神々はあらゆる贈り物を与えた。 アテナからは、機織や女のすべき仕事の能力を。 アプロディーテからは、男を苦悩させる魅力を。 ヘルメスからは、犬のように恥知らずで狡猾な心を。 そして神々は、最後に彼女に決して開けてはいけないと言い含めて箱を持たせ、エピメテウスの元へ送り込んだ。 美しいパンドラを見たエピメテウスは、兄であるプロメテウスの『ゼウスからの贈り物は受け取るな』という忠告を無視し、彼女と結婚した。 そしてある日。パンドラは好奇心に負け、箱を開いてしまう。 するとそこから、次々とありとあらゆる『災厄』が飛び出していった。 しかし、『エルピス』だけは縁の下に残って出て行かず、パンドラはその箱を閉めてしまう。 かくして、世界には災厄が満ちることとなり、人々はそれらに苦しむことになる――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月24日(木)23:20 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●承前 東京都――井の頭公園。 真夜中、人通りも少なくなったこの公園に侵入してきた8人の男女。 誰かを探して歩き回っている様子だった。 『復讐者』雪白凍夜(BNE000889)は先頭で警戒しつつ、明かりもなしに周囲を見回している。 「同業か。随分実力者みてえだし、あんま敵対はしたくねえな」 今回リベリスタ達が探している草薙神巳(くさなぎ・かむい)は、ナイトメア・ダウンの生き残りとあって、それなりの実力なのは間違いなかった。 眼帯がトレードマークの『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)は、懐中電灯を片手にぐるりと周囲を見回す。 「この草薙ってのを探すのが先ず随分面倒そうだよな」 透視能力で先を見ながら歩くアッシュに、桐生武臣(BNE002824)が後ろから声をかける。 「……俺達が今入ってきた入口から、現地へと向かっているらしい」 そう言う武臣も凍夜と同様、光源を手にはしていない。彼らには暗視能力があり、暗闇でも変わりなく視界が保たれているからだ。 リベリスタ達の歩調が、その言葉で少しだけ早まった。 一方、後ろ側を歩く『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)は、隣の『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)と破壊するアーティファクト『パンドラの苦悩』について話し合っている。 「明るい未来と思わせて罠とは……いやらしい……」 「パンドラの箱の一番最後は苦悩でした。なんて面白くねぇ結末だ」 なら、そんな箱ぶっ壊せばいい。とばかりに頷いて、夏栖斗はユウに同意を求める。 ユウもそれに同意したように隣へと頷く。 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)はその会話に少し溜息を吐いた。 「……興味深い破界器なのですがねえ、壊さねばならないとは残念至極」 彼としてみれば、知的好奇心でこのアーティファクトを調査したい欲求があるのだろう。 やり取りの間、リサリサ・J・マルター(BNE002558)は終始考え込んでいた。 「この様なアーティファクトは存在してはいけない……」 彼女には過去の記憶が殆ど無かった。何故リベリスタになったかも定かではない。 それでもこんな未来は起こって欲しくはないと、自ら志願して依頼に参加した。 皆のやり取りを耳にしていたツァイン・ウォーレス(BNE001520)が夏栖斗達の会話に割って入る。 「ま、なんにせよ草薙さんを助けねぇとな!」 ツァインに対し、頷きで返すリベリスタ達。 彼等の前方には、やがて旅行鞄を手に歩いている神巳の姿が見えてきた。 ●邂逅 神巳は既に後ろからやって来るリベリスタ達の存在に気がついていた様だ。 しかし特に警戒する訳でもなく、無視した様に歩みを進めている。 凍夜は自分の気配を遮断し、先回りして神巳の前方へと回っていく。 同時にアッシュもブロックしようと別方向から移動を始めていた。 そして凍夜が一気に距離を詰め様とした時、視線も向けていない神巳から声が掛かる。 「どちら様かな?」 相手の言葉に警告の色が含まれているのを感じ、凍夜は空にした両手を上げて敵意の無い仕草を見せつつ近づいた。 「っと悪い。突然だが、ちっと進むの止めてくれねえか」 凍夜を見た神巳は首を傾げ、少し間を置いた。その間に後ろから他のリベリスタ達がやって来る。 先頭に進み出たツァインが凍夜に合わせる様に挨拶した。 「こんばんは、草薙神巳さんだよな?」 振り返って肯定した彼にリベリスタ達は軽く目礼し、凍夜は言葉を続ける。 「見りゃ分かるたあ思うが、同業だ。 アークって言って、三高平ってとこで結成されたリベリスタ組織だ」 彼は自分達が日本中の神秘事件の解決を担当してる旨を補足する。 その説明になるほど。と神巳は軽く頷いたものの、今ひとつ腑に落ちない様子の相手に対し、言葉を続ける凍夜。 「今回、この公園で厄介な化物と破界器が出現するっつー予言を受けた」 凍夜の話に神巳は考え込むように返答し、イスカリオテが正面から切り出す。 「草薙さん、貴方に本件への協力をお願いしたい」 その要請に神巳はしばし沈黙し、やがて重たい口を開く。 「ごめん。君達には悪いけど……」 「『ナイトメア・ダウン』、御存知ですね? 我々は、あの日始まった組織です」 申し出を断ろうとした神巳を遮る様に、イスカリオテが唐突に尋ねた。 『ナイトメア・ダウン』という言葉に、神巳の表情が反応して硬くなる。 意に介さぬような仕草で、彼は言葉を続けた。 「エインズワースの姉妹、真白の万華鏡、悪夢の被害者が集っています。 彼女らは今も戦っている。あの悲劇を二度と引き起こさない為に。 それは貴方も、同じではないのですか?」 その言葉で、神巳は初めて知った。 悲劇にも負けず、前に進もうとしているかつての同胞達の存在。 「ならば問いましょう。それでも何故、貴方は孤独を選ぶのですか?」 イスカリオテの質問は、神巳の心に大きく揺さ振りをかけた。 神巳は目を細めて視線を池に、ぽつりぽつりと語り始める。 「あの日。『R-TYPE』の撃退と引き換えに、俺は全てを失った……」 大切な親友、仲間達、関わった沢山の人々、尊敬する同胞――愛する人さえも。 神巳の心に蘇ったのは、あの時の『苦悩』そのもの。 イスカリオテの言葉を引き継ぐように、やんわりとした口調でユウは訴えかける。 「では貴方が『ナイトメア・ダウン』を生き残った理由は何故なのか。 生き続けて今も戦う理由は一体何故なのでしょう?」 頷いたイスカリオテが、ユウに続く。 「喪失は恐い。そうですね。ですがだからといって逃げるのですか? では何故、貴方はリベリスタを続けているのです?」 ずっと神巳の中に抱えていた、大きな矛盾。 それは『ナイトメア・ダウン』の傷から逃げ出し、革醒者達と隔絶して世界を放浪していたにも関わらず、人知れずエリューションを狩り、ゲートを消し去ることで、未だに崩界を防ごうとしているという事実。 2人の言葉はその矛盾点を開かせ、彼の中にある真意――世界を護ろうとする――リベリスタとしての使命感を自身に気づかせようとしている。 イスカリオテはもう一度、神巳へと向き直って願い出る。 「改めて言います。我々には、貴方の力が必要なのです」 神巳は静かに目を閉じる。 「何処にいても、何をしていても、リベリスタである事に変わりは無い。か……」 息を吐いて協力に応じた神巳へ、今まで沈黙していた夏栖斗が口を開く。 「一緒に戦おうぜ! 『ナイトメア・ダウン』前のリベリスタの戦いは見たい。それに『天馬流星剣』も見てみたい」 夏栖斗の言葉にハッとして視線を向けた神巳。 彼の『天馬流星剣』を知る者は、日本ではもう極限られたリベリスタしかいないはずだったからだ。 少し驚いた顔をした相手に、夏栖斗は肩をすくめて小さく笑う。 「これが僕等の持つ、予知の力」 神巳はその答えに不思議な表情をしたまま、一緒に歩み始めた。 彼等の会話から、神巳の苦しみを見て取っていたリサリサは強く思う。 (その『苦悩』を増やす要素は、少しでも取り除いてあげなくては……) 『パンドラの苦悩』を全力で破壊する。 例えそれが『苦悩』の根本を取り除く事ではないにしても、これ以上彼の苦しみを増長させない為に。 ●共闘 井の頭公園――池のほとり。 ここに神巳が1人で迎えるはずの運命は、もはや存在しない。 9人のリベリスタ達が、現れた『白熱した胴体』の前に立ちはだかっている。 前衛に回った夏栖斗、アッシュ、武臣、神巳は包囲するように間合いを詰めた。 凍夜、イスカリオテ、ツァイン、リサリサ、ユウは後衛に回り、4人を援護する態勢に入る。 神巳は片手を広げ、手の中に突然現れた日本刀を構えて頷く。 「じゃ、行こうか……」 その言葉に最初に飛び出したのは、速度に自信のあるアッシュだ。 「まさか『雷帝』たるこの俺様から逃げられるたァ、思ってねェよなァ?」 『胴体』の前へ一瞬で躍り出ると、澱みの無い連続した攻撃で痛みの王を振り切り、手傷を与えていく。 後ろに回っていた凍夜は雛護を振り抜き、遠距離から高速で跳躍すると角度をつけた斬撃を叩き込んだ。 「周囲に害を振り撒くしかしねぇんじゃ、丸きり駄々を捏ねる餓鬼だな」 小さく首を横に振って元の位置へと戻り、凍夜は再度援護する態勢へと入った。 ちらりと神巳を見て集中を高めた武臣は突進し、突然消えたかと思うと背後から『胴体』を切り裂いた。 「……草薙も頼むぜ」 いつでも庇える態勢を整え、彼は他の動きを待つ。 イスカリオテが集中を高めた光を放って牽制を行う。 合わせて、リサリサは魔力の矢を飛ばす事で『胴体』の体力を削った。 「できる限り……持てる力のすべてを使って戦います」 自分が駆け出しで魔力の限りもあることを熟知していた彼女は、いつでも仲間を癒せるよう態勢を整えている。 ツァインが両手を交差させると、十字の光が放たれて『胴体』を貫いていく。 「池に叩き込んだらとか思ったが、干上がっちまうねこりゃ!」 そう言って、熱気を周囲に放つ『胴体』の動向を注意深く見ている。 更にユウが驚異的に集中を高め、魔弾を高速で放った。 「援護射撃しますね」 後衛から立て続けに放たれた攻撃で、『胴体』は震えたように身体を捩じらせる。 神巳は全員の動きが終わったのを確認すると小さく苦笑した。 「これだけ味方が密集してると、あの技は使い辛い……」 その場から踏み込むと『胴体』の正面から日本刀を一閃させ、その右腕を斬り飛ばしていく。 合わせた様に夏栖斗が、その拳に冷気を纏わせる。 「炎より熱い絶対零度の魔氷、喰らってみっか?」 拳に込めた氷結の一撃は『胴体』の背後から深々と貫き、それまでの傷と重なるようにして致命傷を与えていた。 『胴体』が反撃しようにも、右腕を切り飛ばされて敵を掴むことすらできない。 その口を大きく開いて、正面の神巳へと噛み付こうとしたが、その攻撃も軽く刀で受け止められてしまう。 幾ら普段は強敵なフェーズ2のエリューションといえども、共闘した9人が相手となれば脅威の敵でも苦戦することはなかった。 棘が、ナイフが、剣が、刀が、拳が、魔力がリベリスタ達から次々と放たれ、抵抗する間もなく『胴体』の身体は四散していく。 その姿を見つめ、凍夜がそのナイフと同じ鋭さのある言葉で言い放つ。 「てめえの居場所は、この世界にはねえよ!」 そして地面にぽつんと残ったのは、金属製の小さな箱――『パンドラの苦悩』だった。 ●破壊 落ちた箱へと手を出そうとする神巳を、アッシュが素早く間に入り、武臣が制止する。 ツァインが『パンドラの苦悩』についてと、神巳に本来起こるはずだった出来事を告げた。 「箱に残ったのは『希望』に見せかけた最大最恐の災厄……『苦悩』。 こいつが出張ると人は生きる意味すら失う」 彼の説明に、思わず考え込むような表情を見せる神巳。 神巳の肩を武臣が軽く叩いて語りかける。 「……だがよ。ホントの『希望』ってのは、未来へ足を踏み出す勇気と運命を切り拓く意思。 ……それがあって見いだせるものなんじゃねぇかな」 その言葉をゆっくりとかみ締める様にして、頷く神巳。 箱を睨み付けた武臣は一同へと振り返る。 「一人じゃ無理だな。だから、皆でやろう」 武臣に同意したリベリスタ達がタイミングを合わせ、各人が得意の攻撃を一斉に炸裂させていく。 夏栖斗が鋭い蹴りで真空刃を放ち、凍夜はナイフを鋭く連続で突き出した。 アッシュが棘で立て続けに連続して斬り、払い、突きを入れる。 「希望なんてのはよ、誰かに与えて貰う様な代物じゃねェんだよ!」 イスカリオテが灼熱の砂嵐で箱を焼き、リサリサが魔力の矢で射抜く。 ツァインは大きく振りかぶって剣での重厚な一撃を叩き込んだ。 「端から希望なんぞ! 入っちゃいねぇんだよぉーーッ!!」 武臣が鋭くナイフを振り下ろし、ユウが狙い澄ました銃撃を放つ。 神巳もその輪に加わり、まるで光の飛沫が散った様な、華麗にして瀟洒なる無数の刺突を繰り出す。 箱は9人がタイミングを合わせたことで完全に破壊され、そのまま消失していった。 確認した凍夜が神巳に声をかける。 「あんがとよ、助かったぜセンパイ」 ●希望 落ち着いたところで、いそいそとリサリサが持ってきていた包みを開いてきた。 「皆さん、御苦労様でした……。 戦闘ではお役に立たなくても何かできる事はと思い、一生懸命作りました……」 包みの中には料理の得意な彼女が作って来たお弁当。色取り取りの食材が目を引く逸品だ。 だが、暗闇で良く見えない。残念な事に。 「お腹、空いていませんか?」 その言葉に誰かの腹の虫がなり、一行はちょっとしたピクニックを始める。 神巳が苦笑したまま、光を放ってお弁当周りを照らし、一同はベンチに座って舌鼓を打つ。 さっきまでの緊張した雰囲気が嘘の様に、リベリスタ達は談笑している。 リサリサは遠慮がちに神巳へと尋ねた。 「あなたも如何ですか……?」 余りの呑気さからか、それとも可笑しさからか、神巳は小さく笑い出して頷く。 「頂くよ……いつも、こんな感じ?」 誰ともなしに尋ねた神巳へ、おにぎりを頬張った夏栖斗が笑顔で答えた。 「たまにはこういうのもいいもんだろ? まあ、アークはこんな感じでいろんな奴がいるぜ?」 夏栖斗の言葉に相手は頷き、ツァインは日本の事情に疎い神巳へ、最近の国内事情を教える。 「無理にアークに協力してくれなくてもいい。でも何かあったら頼ってくれよ」 神巳は少し間を置いて、小さく笑んで頷く。 その向こうではユウと武臣が食べながら、神巳達の様子を見ている。 ユウは眠そうな目で笑顔を見せながら、武臣に話しかけた。 「箱にはやっぱり『希望』が残っていた、なんて筋書きは…ベタですけど。私って王道好きなんですよね」 武臣は肯定するように頷き、視線を仲間達へと向ける。 (オレの『希望』は『いま共に在る仲間(オマエラ)』……小っ恥ずかしくて言えやしねぇ) 照れ笑いして武臣は首を横に振り、視線を戻すとユウと話を再開した。 イスカリオテは新たに神巳を輪の中に入れた一行を観察する様に眺める。 (どうやら上手く纏まった様ですね……奇手を使いはしましたが。結果としては良好でしょう) 今回の出来に満足して頷き、ふと公園の風景に目を向けた。 落ち葉の季節を迎えた公園は、最後の紅葉の彩りを鮮やかに見せている。 気がつけば冬の足音が、すぐそこまで近づいてきていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|