かちかちに固まってしまった炒り卵。 水分が抜けきっていなくてぐちゃぐちゃのそぼろ肉。 色味の良くないほうれん草の白和え。 炊き方を間違えたのか、やけに柔らかいおかゆ一歩手前の白ごはん。 「どうしてこんなに下手なんだろう……」 自分で作ったものとは言え、酷過ぎる。いやいつもの事なのだけれど。酷いのは日常茶飯事なのだけれど。でも、今日こそと気合を入れた今日もまた、同じように手酷く失敗してしまった。 夫の寝静まった深夜、小さな灯りを点けたキッチンで、結婚三ヶ月目の真由はがっくりと項垂れる。 元々料理はそう巧い方じゃなかったけれど、結婚を機に頑張ろうと決めて、その決意通りずっと頑張ってきた。 初心者にも優しいと謳った料理のハウツー本はもう十冊ほど家にあるし、かんたん和食だのイタリアンの基本だの洋食の基礎だの、ジャンル別のテキストだって読み込んだ。 作るときはきっちり分量を計っているし、火を扱う時にはつきっきりで見ているのに、それなのに真由の作る料理はいつも失敗する。或いは不味い。途方もなく。 ちゃんとやっているのに、どこかで失敗をしてしまうのだ。何か、不本意な力が働いているかのようにして──真由の作る料理は、いつもどこかしらを失敗してしまう。 でももしかしたら今日のは見てくれだけで、味は大丈夫じゃないだろうかと、真由はどきどきしながら炒り卵をつまんでぽいと口へ放り投げた。けれど途端、彼女は眉間に皺を寄せる。卵はとてもしょっぱくて、食べられそうにない。 「ああ、またユーくんに呆れられちゃう!」 夫・祐介の優しい困り顔を思い出して、真由はぐすんと鼻を啜った。 ──明日の為のお弁当は、ユーくんからの折角のリクエストなのに。 それなのにリクエストのそぼろご飯はちっとも成功しないし、お弁当の他の部分を埋める副菜だってほうれん草の白和えしか決まっていない。 朝までに本当に、リクエスト通りの美味しいお弁当なんて、作る事が出来るのかしら。 ──悩む彼女のすぐ傍で、使ったまま放り出されている古い包丁が、穏やかでない鋭さを灯してぎらりと弾く。 ●彼女のお弁当 「お料理に、自信はある?」 唐突な『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉に、仕事だと説明を受けて集まったリベリスタ達は顔を見合わせた。 その内のひとりが、怪訝そうな顔で問う。 「……仕事?」 「勿論」 イヴの答えは簡潔である。肯定の形で首が振られた。 「お願いしたいのは、アーティファクトの回収。とあるマンションの一室に住む、新婚夫婦の家にある普通の包丁よ。……見た目は、だけど」 幼い指先がコンソールを叩く。モニタに映し出された予知のものと思しき映像には、キッチンで頭を抱える女性の姿が映っていた。 イヴは彼女を指差して、それから映像の端の方へと指標を滑らせる。不明瞭だが、包丁らしき影が見て取れる。 「彼女は里中真由、包丁の持ち主。それからこっちがその包丁……アーティファクト。及ぼす効果は、『作る料理が絶対に失敗する』こと」 きり、と眉尻を引き締めて告げられた言葉に、リベリスタ達は沈黙した。 「……え、それだけ?」 「それだけ。……でもね、」 その通りともう一つ頷いて、イヴが歳相応の仕草で小首を傾ぐ。 「放っておいたら、いずれ悪化するの。……作る料理が単純に美味しくないだけなら、まだ良い。でも酷い方へ傾けば、料理を食べた人に悪影響を与えてしまう。……愛情こめて頑張って作った料理が、愛する旦那さんに毒を盛るのも同じような事になってしまう」 しん、とリベリスタ達が静まり返る。ね、怖いでしょ、と囁いてイヴはモニターへと視線を向けた。 「──真由は今、翌朝に旦那さんへ持たせる為のお弁当を作っているの。旦那さんからリクエストを貰ったらしくて張り切ってるんだけど、アーティファクトの所為で失敗ばかり。だからね、」 モニターの映像が切り替わる。街の一画を示す地図上に、赤いポイントでアーティファクトの所在──里中真由の自宅が記されているようだ。 「……アーティファクトを円満に回収する為に、お弁当作りを手伝って来たらどうかな、って。リベリスタの貴方達がいれば、その時はアーティファクトの悪影響も心配しなくて良いだろうから」 「だから、『お料理に自信はある?』だったのか……」 リベリスタの一人が、得心したように呟く。イヴが継いだ。 「調理学校の生徒や教師を装って、『マンションの隣室で課題の練習をしているから煩くするかもしれない』、とでも伝えに行けば、彼女の方から手伝ってくれって泣き付かれると思うわ。……藁にも縋る勢いみたいだから」 真由が納得できるお弁当が完成すれば、お礼にその包丁下さい、なんて無茶振りでも快く聞き入れて貰えるだろう。 美味しいお弁当作り頑張ってね、と、イヴはひらひら手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:硝子屋 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月02日(月)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●魔法の準備 「これにこれを買って……これもですかね?」 小慣れた様子で、雪白 桐(BNE000185)が食材を買い物かごへと入れていく。今夜に控える『本番』を前に、メモ片手の買い物に対する眼差しは真剣だ。鮮度や値段、量をチェックしつつ、その厳しい視線をクリアしたものだけがかごの中へ積み上げられている。 「お弁当お弁当楽しいなぁ~♪」 賑やかな声色が桐の隣で弾む。『兎闊者』天月・光(BNE000490)も桐と同じく、今夜の為に買うべきものをかごの中へと収めていた。 買い物を担当した二人以外は、今頃今夜の為のお膳立てをしている頃だろう。隣室と、それから調理器具の確保はうまく行ったと先程二人に向けて連絡が入っていた。 最後にもう一度メモと買い物かごとを見比べて、桐は買い漏らしや間違いがないかチェックする。大丈夫な事を確かめて息を吐き、レジへ向かおうとした──が、向かえなかった。服の裾が引っ張られる。 振り返ると、光が赤い瞳を煌めかせ、棚に並べられている人参ジュースを指差していた。 「人参ジュース買ってくれないといやだぁ~」 子供のようなおねだりに、もう、と桐の指先がジュースの容器を一本掴む。一本だけですよと念を押すような彼の声が、のんびりとした店内へと明るく散った。 ●悩める新米主婦 ──里中真由は、悩んでいた。 「美味しいお弁当なんて、作れる訳なかったんだわ……」 失敗したそぼろや炒り卵を前に、すっかり意気消沈して肩を落とす。それでもやっぱりもう一度頑張ろう、と涙を堪えてよろよろ立ち上がった時だった。 コンコン、と玄関の方からノック音が聞こえてきて、真由は小首を傾ぐ。 チェーンを掛けたままで扉を開くと、見知らぬ男性と少女の姿にぱちぱちと瞬いた。 「隣室の者デース」 どちら様でしょうかと問うと、朗らかな笑顔と共に『奇人変人…でも善人』ウルフ・フォン・ハスラー(BNE001877)は隣を指さしながらそう言った。 「実は隣で調理学校の生徒達が、課題の為の練習をしているのデース。少し煩くしてしまうかもしれマセーンので、それを断りに来たのデース」 事前に勧められていた通りの方便を用いて、愛想良くウルフが告げる。真由は疑う様子もなく感心したように頷いた。 「あら、ご丁寧にどうも……って、調理学校?」 真由の雰囲気が変わる。明らかに食い付いたような様子の彼女に、光が駄目押しするようにもう一声掛けた。 「よかったら味見にとかきていいから許してね。つまみぐいもし放題うさ」 後半はちょっぴり本音が混じっていた。ともかくとして、二人の台詞は真由にとって効果覿面だったらしい。わたわたとチェーンを外して、真由が扉を開ける。そうして勢い良く、けれど深々と頭を下げた。 「課題の練習をお邪魔したらいけないと思うんですけど、どーしても! 朝までに美味しいお弁当を作らなきゃいけないんです! お願い、手伝って貰えませんか?」 真由は両手を合わせ、おずおずと視線を持ち上げウルフと光を交互に見やる。うまくいった、と二人はこっそり視線を交わし合った。 調理器具も揃っていますし、良ければこちらの部屋で料理教室をしましょうか、と言うと、真由は何度も何度もお礼を言いながら頷いた。 「もし調味料が不足した場合……ご協力お願いできます……?」 「勿論! 家にだいたいのものは揃ってるんです」 穏やかに微笑みながら『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が声を掛けると、真由は笑ってそう返す。彼女が持ってきた大きな紙袋の中には、お弁当で使えそうな食材やある程度の調理器具、それと今はまだ空っぽの弁当箱が見て取れた。 その間に、不穏な気配がひとつ。 急いだのだろう、乱雑に新聞紙へと包まれた──件のアーティファクトと思しき包丁が、皆の視界に留まる。 「使い慣れたものがいいかと思って……古いから恥ずかしいんですけど」 少しだけ走る緊張感など気にした様子もなく、真由が頬を掻く。新聞紙に包まれたアーティファクト『悪食』をそっと受け取って、『襲歩を翼に変えて』森野 朱音(BNE000264)は予め用意しておいた道具の並ぶキッチンを示した。 「たまには気分転換で違う包丁を使ってみてはどうですか?」 テーブルに置かれた『悪食』を、真由の手が届かないようにとさり気ない仕草で『おじさま好きな幼女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が遠ざける。 「器具は全部こっちである物を使うから、気にしないでね」 それじゃあお言葉に甘えますね、と真由が笑う。調理学校の生徒さん達が言うのだからと、疑う事はないようだ。 「メニューは決まってるの……?」 浅く首を傾げて、『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が問い掛ける。真由はそぼろご飯とほうれん草の白和えしか決まっていないのだと、しょんぼりして呟いた。 「聞いただけでヨダレが出てしまいそうね」 改めてステキなお仕事だと、今回のお弁当作成のサポートをそう思う。『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)は予習の為に読んでいた料理の本を置いて、用意しておいたエプロンを差し出した。 「それじゃあ、作りましょうか」 桐が号令を掛ける。神妙な面持ちで、真由が深く頷いた。 ●杖のかわりに腕前ふるって まな板を叩く包丁の音が軽やかに響く横で、野菜を洗う水が跳ねる。八人と一人が和やかに会話を重ねながら進められていくお料理会は、沈んでいた真由の心をすっかり浮かせてしまっていた。 ──今度こそ、美味しいお弁当が作れそう、なんて。 「ご飯は、炊けたら十分に蒸らすのがポイント……かな」 アンジェリカが手際良く唐揚げの下処理をしながら、真由が炊飯器をセットするのを見守っている。アンジェリカが教えた通りにきっちり水を計り、時間にも気を付けて炊かれ始めたご飯は、きっとふっくら美味しく出来上がるだろう。 コンロの方では熱持つフライパンの上で、香ばしい音が弾けている。ふんわり仄かな優しい香りは、アリステアの焼くそぼろご飯用の炒り玉子のものだ。 「そぼろごはんの玉子は、さくっとフライパンでかき混ぜて……」 アリステアが丁寧に説明しながら手順を進める様子を、真由が真剣な眼差しで見つめて頷く。折角教えて貰えるのだからと持ってきたメモ帳には、既にたくさんの走り書きが記されていた。 「旦那さまは、たまご焼きは甘いの好きかな?」 「ええ! 少し甘めに味付けしたのが好きだ、って」 子供みたいでしょう、と真由が頬を緩める。銀の髪をふわりと揺らして、アリステアは屈託無く笑った。じゃあ甘めの玉子焼きにするね、と請け負ってみせる。 「わわ、美味しそうです♪ 何かコツとかあるのですか?」 「気になる? えっとね……」 ふわふわの香りに導かれて、朱音が手元を覗き込む。アリステアが悪戯っぽく瞬いて、ここはこうしてとか、それじゃあこっちはこうするんですねとか、少女二人の楽しげな囁きがひととき、調理の音に混じって真夜中のキッチンを賑やかす。 「ね、真由。一緒にほうれん草の白和え、作りましょ?」 金平ごぼうの下拵えを終えたあひるがひょこりと顔を覗かせて、真由ヘ向けて豆腐の入ったボウルを持ち上げてみせた。『一緒に』との言葉に、また何か失敗をしてしまうのではないかしら、と少しだけ不安そうにする真由へ、その側でポテトをぐにぐに潰していた国子が声を掛ける。 「真由さんは経験者だもんね、きっと頼りになるもん」 だからいろいろお手伝いして貰えたら嬉しいのだと、国子が朗らかに頬へと笑みを浮かべた。暖かな言葉に励まされた様にして、真由ははい、と頷いた。 ──頬を染めて夫の為にと奮闘する様子を、ウルフは双眸を優しく細めて見つめる。彼の青い瞳の先では真由が慣れた手つきでざくざくとほうれん草を切り、あひるが豆腐を潰している。 (『新婚時代デースか。ミーにもありマーシタねー』) かつて自分も通った甘酸っぱい時代を垣間見て、懐かしさに目尻に皺を刻んだ。前途有望な若人達が楽しく任務をし、その任務により里中夫婦の円満が保たれるなら嬉しい事だ。 「すみません、味付けってこのくらいでいいでしょうか?」 調理学校のアドバイザーだと名乗ったウルフに向けて、あひると共に白和えの味付けをしていた真由が問い掛ける。任せて下サーイ、とウルフは試食用のスプーンと小皿を掲げてみせた。グルメ王と名乗る事を誰も厭いはしない程の味覚でもって、愛情こもったお弁当に更なる美味しさをもプラスするのが、今日のウルフの役目である。 もう少し胡麻を足して香ばしさを──なんて的確なアドバイスを送るウルフをちらりと横目で見やって、光はそろそろとピーラーを置いた。皮を剥いていた途中の人参もそっとその隣に転がして、自由になった指先が伸びるのは既に出来上がり、盛られるのを待つばかりの料理たちだ。 つまみ食いの魔の手が背後であちこちに忍び寄っているのを知ってか知らずか、肉じゃがを作りながら桐が真由に向けて問う。 「お二人はどこで知り合われたんですか?」 自分と夫の事を聞かれているのだと気付いて、真由ははにかむように微笑む。その手元では、朱音の提案によるウサギリンゴが生み出されている最中だった。 「中学からの同級生だったんです。一緒の高校に進学して、卒業する時に告白されて付き合いだして……」 花でも飛ばしそうな雰囲気で呟き、照れ隠しなのか手元では物凄い勢いで林檎の皮が剥かれていた。そろそろ林檎の実の部分が削れてますよと桐が冷静に突っ込むと、真由がわたわたと包丁を使う手を止める。 「それから、」 桐がくるりと振り向く。金平ごぼうや白和えや、コロッケ用に味付けしておいた種などそれぞれを吟味し終え、今度は肉じゃがに魔手をそろそろと差し向けていた光が慌てた様子で手を引っ込めた。 「ばれたうさ!」 ちぇー、と残念そうに唇を尖らせる光の姿に、真由がくすくすと笑う。真由だってつまみ食いしたい気持ちがあるほどだ。だって美味しそうな匂いが重なって層を成して、美味しいお弁当の香りが室内に広がり始めているのだから。 「お二人は仲良しで素敵です。憧れちゃいます」 幸福に満ちた微笑みで料理を続ける真由に、朱音がそっと囁く。少し不器用だけれどきちんとウサギの形になっている林檎を、彼女の指先がそっと薄い塩水へ落とす。 「仲良さそうに見えますか?」 「だって、旦那さんへのお弁当にこんなに全力投球なんですもの」 その通りだと言いたげな表情で問い返す真由に、朱音は穏やかに笑って頷いた。アーティファクトの悪影響にも挫けず、ここまで毎日家事を頑張っていたのはひとえにその仲の深さによるものなのだろう。 恋愛の色濃い会話に、国子はそわそわと落ち着かなさそうに肩を竦める。コロッケに添えるキャベツをゆっくり刻みつつ、ちらりと視線を真由へ向けた。 「……こっちが恥ずかしくなるわ!」 ぽつり零す呟きに、またひとつ、その空間の雰囲気が暖かくなる。空腹を誘う料理の香りと炊飯器から立ち上る真白の湯気、それから和やかなお喋りのエッセンス。 「ボクにもいつか結婚したい人が現れるのかな……?」 アンジェリカの囁きは、誰に届く事もない。その思いを巡らせる相手は、もうアンジェリカの傍には居ないのだ。黒い十字架に繊細な指先が絡み、空間の淵に漂う幸せな気配に身を浸す。 ──食欲をそそるような芳しい香りが、ふうわりと鼻先を擽ってゆく。 「か、完成……!」 感極まったような真由の囁きが散ると同時に、あひるがそっとその傍らに歩み寄る。 「よかったら、交流の記念に……そうだ、包丁交換しない?」 さも今思いついた事のように、あひるがごく自然な流れでそう切り出した。真由が瞬く。 「うちの包丁と、そちらの包丁を? あんなに扱い易くて綺麗なものを貰えるなら、それは嬉しいですけれど……」 用意したばかりの包丁はぴかぴかと真新しい。手伝って貰った上に、交換とは言えこんなに良いものを貰っていいのだろうかと、真由が眉尻を下げる。 「あのね。お料理が上手く作れない時には包丁を変えるのもいいみたいだよ?」 アリステアが言い添える。その言葉に真由はもう一度だけ逡巡してから、けれど最後には頷いた。 新聞紙に包まれたままだった『悪食』を、どうぞ、と彼女は差し出す。 「何から何まで、お世話になりっぱなしですみません。……でも、これでこれからも、お料理を頑張ろうと思います」 その言葉に、悲壮な響きはもう見えない。 八人から確かに受け取った自信と勇気を大切に抱いて、真由はぐすんと鼻を啜った。 ●おべんとうの魔法 出来上がったものは、お弁当に入り切らないほどいっぱいだった。折角だから皆でパーティーをしようと、そういう流れになったのもきっと、お弁当を作る内に舞い降りた幸せの魔法のうちだ。 実は人参ジュースもあるんですよ、と桐が差し出したボトルに光が慌てて、それぼくのおやつうさ! とぴょんぴょん跳ねる。それにまた皆が笑って──結局そのジュースが食卓に供されたのかは、定かではないけれど。 いつまでも仲良しで、と朱音が囁きに祝福を織り交ぜて贈る。結婚生活25年の大ベテランであるウルフから聞いた夫婦円満の秘訣を、真由は料理の時と同じように真剣な顔をしてメモに書き留める。食事とお喋りに満ちた幸せな時間は、けれど一晩限りの──そう、魔法のような。 「美味しかったです!」 朝方近く、八人を見送りながら真由は顔をくしゃくしゃに崩して頭を下げた。全部美味しかったけれど、好物の唐揚げを美味しく作って貰えて嬉しかったと真由が続ける。作り手であるアンジェリカが、頬を桜色に染め上げた。笑い返して真由はもう一度、全員にありがとうと頭を下げる。 ──美味しい輝きを詰め込んだそぼろご飯のお弁当は、彼女が望んだ通りに出来上がった。 「どうしたの? これ!」 里中祐介は、用意されていた弁当箱の蓋を開けて中身を見、驚くと同時に嬉しげに顔を綻ばせて真由を見た。 差し込む朝の光の中、キッチンで朝食の準備をしていた真由はにっこり笑って振り返る。その手には、つい数時間前に交換したばかりの包丁が誇らしげに握られていた。 「あのね、素敵な学生さんたち……ううん、魔法使いさんね! その人達が、助けてくれたの」 まるで魔法を使うみたいに、素敵なお弁当にしてくれたのよ、と彼女は微笑んだ。 入り切らなかったのは今晩のおかずにするから期待しててねと囁いて、真由は幸せそうにおかずの詰まった弁当箱を見下ろす。 「今までたくさん失敗したけど、きっともう大丈夫。そんな気がするの……勇気を、くれたのよ」 お弁当に掛かった幸せの“魔法”はこれからずっと、里中家を明るく照らしてくれるだろう。 真由の唇がそっと囁く。素敵なあの人達に、──ありがとう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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