● あの時あの手に縋らなければ。 俺達は今、こんな生活を送らないで済んでいただろう。 けど。 あの時あの手に縋らなければ。 俺達は今、生きてなどいなかったのだ。 どちらが正しかったのかなんてわからない。 いっそ皆で死んだ方がましだったのかもしれない。 でも、そんなことは出来なかった。 「仕事だぞ。……後宮さんの頼みだ、全力を尽くそうな」 はーい。無邪気な、返事。 こちらを見上げる純粋な瞳に、罪悪感で一杯になる。 けれど、やるしかなかった。 覚醒し、行き場が無くなった自分達。年長の者が働き、何とか食い繋ぎ、けれどそれももう、限界だった。 もう全員、死ぬしかない。それを、救われた。 ──助けてあげましょう。 そんな言葉と共に差し出された手。頷いた途端に、生活は激変した──良くも、悪くも。 充分な食事と柔らかな布団の代わりに、自由は失われた。 幼く、なにも知らない子も容赦なく。 俺達は全員が、手駒になった。 生きる、ために。 ● ブリーフィングルーム、モニター前。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は硬い表情でリベリスタ達を迎え入れた。 色違いの双眸が複雑な色を湛え、伏せられる。 「依頼。件の、賢者の石絡み」 放たれた声も、何処か何時もより硬質。ばさり、資料を差し出してから、フォーチュナは淡々と詳細を語り始めた。 「目的は大量発生した賢者の石の獲得。場所は万華鏡で捕捉済み。……『奇跡』が何故複数表れたのかは不明。一応調査中」 近頃の酷く不安定な世界や突如の崩界進行とも関係があるかもしれないが、それはあくまで可能性に過ぎない。 ぺらり、資料が一枚捲られる。続いてぱらぱらと、紙を捲る音。その頁には、万華鏡が捕捉したのであろう何処かの地図が添付されていた。 「……先日獲得した石を、アークが調査した。お陰で、石の放つ特定の波長と反応パターンが解析できたの」 それを万華鏡にフィードする事で、石の出現の捕捉が可能になった。 けれど、それ以外細かい事は現在一切不明。それでもアークとしては、この状況を黙認する訳にはいかない事情があった。 「……塔の魔女達の目的は、大規模儀式によって、穴を開ける事みたいで……賢者の石は恐らく、それに役立つ」 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が耳にした、アシュレイの目的。 そして、千堂から入った、後宮派が動き出したとの報。 この二つから、推測するのは容易だった。そして、推測が出来たならば。 阻止する以外の選択肢など、存在しない。 それに、と、フォーチュナは言葉を継ぐ。 「石を多く獲得する事は、彼らの目的を阻止するだけじゃない。……アークにも、大きな利益を齎すかもしれないよ」 奇跡とも言える存在。それを上手く使用すれば、アークの設備や装備の発展に繋がるかもしれない。 これは、二つの意味で大きなチャンスであると言えた。フォーチュナの話は、続く。 「場所は、林の中の空き地。人目の心配は要らない。相手は、……全部で12人。覇界闘士とホーリーメイガス、ナイトクリークが4人ずつ」 モニターに映し出される、少年少女の集合写真。年齢は少々ばらついている様だが、全員が親しげに並んで笑い合っている。 まさか、と言わんばかりの表情を浮かべるリベリスタに、フォーチュナは完璧な無表情を以って応じた。 「……覚醒した事で世の中に馴染めなかった子供達が、寄り添って生きてきたみたい。年長者が年少の子を庇って、何とか生活していた」 けれど。子供が子供を背負って生きていけるほど、世間は甘くない。 年長とは言え高校生程度。力の使い方も教えられず、世間にも馴染めず。上手く働く事も出来なかった彼らは、あっという間に困窮した。 「そんな彼らに、……シンヤが、手を差し伸べた。自分の手駒に、するつもりだったんだと思う」 何時死んでも可笑しくない、そんな生活に苦しむ彼らが、差し出された手に縋ったのは、ある意味仕方の無い事だったのかもしれない。 シンヤは彼らを救った。食事を与え、寝る場所を与え、持て余す力の扱い方さえもきちんと教えた。 そして、当然の様に。自分の為に働く様にと、あの暗い愉悦に満ちた笑みを浮かべて、囁いたのだ。 「彼らは境遇故か、結束が固い。連携も上手いよ。3人一組で戦い、仲間を庇ったり、防御に徹したりもしてくる」 特に、年長の者が年少の者を庇う傾向にあるようだ、とも、フォーチュナは告げる。 元は全くの赤の他人であろう彼らだが、今では家族と言っても過言で無い程の強い絆を持っているようだった。 「因みに、各ジョブに一人ずつ、この集団を纏めてる年長者が居るみたい。詳細は資料を見て」 そこまで淡々と話し切り、小さく息をつく。ほんの僅かに、フォーチュナの無表情が揺らいだ。 「今回の目的は、あくまで賢者の石。だから、彼らの安否は問わない。……でも」 決して、説得が通じない相手じゃない。だから。 そこまで告げ、けれど首を振り、フォーチュナは残りの言葉を飲み込む。いってらっしゃい、無理に硬さを保った声が、リベリスタ達の背を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月27日(日)22:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 日も落ち始めた、夕刻。 そこだけが開けた林の奥の空き地で、リベリスタ達は待っていた。 賢者の石と、此処に来るであろう、子供達を。 一切の武装を装備せず、ただ静かに待機する中。『おっぱい天使』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082) は小さく、眉を寄せた。 学校へ行って、友達を作って。怒られたりする事もあるだろうけれど、楽しく、自由に遊ぶ。 教師をやっているシルフィアにとって、それは子供の有るべき姿であり、最も素敵な姿だった。 けれど、この後此処にやって来る彼らは。 「当たり前の日常を享受出来ないなんてね……」 苦いものを飲み込む様に、言葉が漏れる。その声につられた様に、『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)もまた、優しげな面差しを僅かに曇らせ、思案する。 シンヤは確かに、彼らの命を救った。それは間違いなく、事実だ。 しかし。非力な子供を利用するのは、決して助けとは言わない。ぐ、と白い手が握り締められる。 もっと早く救えたなら良かった。けれど、今からだって絶対遅くない。 「……皆まとめて、救い出すわ」 優しげな青色の瞳が、決意に彩られる。そんな彼女を見つめながら、『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)も子供達へと想いを馳せていた。 自分にも、子供が居る。 そんな彼女にとって、これからやってくるであろう子供達を見捨てる事など、とても出来なかった。 例え自己満足と言われようと、何とかしたい。そう願う彼女の瞳はまさに母親のものだ。 賢者の石だけではなく。苦しむ子供達ごと、救いたい。 それは、この場に立つリベリスタ達共通の想いだった。 どれくらい、時が流れただろうか。 ――ザリッ。 それぞれに想いを巡らせる彼らの耳に、靴底が砂利を踏み締める音が届いた。次いで視界に現れる、人影。 ――少年、だった。同年代の子供に比べ明らかに華奢な体付きに、白い肌。 最初に現れた、恐らくは纏め役であろう少年は、リベリスタの想像を大きく外れる程に、幼かった。否、幼く見えた。 黒い瞳が、此方を確認したと同時に見開かれる。 「っ……あんた達がリベリスタ、って奴か。悪いけど邪魔しないで貰いたい!」 素早く武器を掴み、戦闘の構えを取る子供達。特に、年長者の表情は焦りと緊張に満ちていた。 「手には何も。話を聞いてはくれませんか?」 『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)が丸腰であることを示すように両手を挙げてみせる。 警戒は解かないものの、怪訝な表情を顕にする子供達の前に、あひるが柔らかな笑みと共に進み出た。 「こんにちは。急に、ごめんね……? 驚かなくて、大丈夫。戦いに来たんじゃ、ないから……」 安心感を与える、優しげな声と表情。 その言葉を耳にして、纏め役の少年は漸く、警戒の色を薄めた。 「……じゃあ、何しに来たんだ? 皆仲良くピクニックって時間じゃないぜ」 年長者の一人、 サトシが皮肉たっぷりに言葉を投げる。 疑いに満ちた目がリベリスタを見つめ、武器が無い事を確認したのか怪訝そうに眉を寄せる。 「賢者の石を探しに、来たのよね。……それがそのままシンヤに渡れば、どうなるか分かるわよね?」 だからそれを、阻止しに来た。そう、努めて優しげな調子を保ってあひるが告げれば、少年達の表情が俄かに硬くなる。 ――戦うのか。明らかに警戒を強めた彼らを見て取り、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が否定する様に前に進み出た。 「お前達と戦いに来たんじゃない。アークに勧誘に来たんだ」 少々荒い口調ながらも、優しさの滲むフツの言葉に纏め役――カズマの瞳が、驚きに瞬きする。 状況を理解し切れていない様子の彼に、フツは更に言葉を重ねる。 「アークにゃオレやお前たちみたいな能力者がいて、ちゃんと自分の生活を送ってる」 オレだって学校に行っている。彼女も居る。言葉と共に、差し出される生徒手帳。 それは、子供達の半数以上が持った事の無いものだった。覚醒が遅く、学校に行けた者も居れば、全く教育を受けていない者もいる。 そんな彼らにとって、能力者が学校に通えると言う事実は、少なからずその心を揺らすものだったようだ。 「貴方達が今置かれている状況は不可避な物だというのは理解しているわ」 その揺らぎを見逃さず、今度はシルフィアが口を開く。 少なからず、助けられた恩がある。それは、紛れも無い事実だ。 確かに、それは感謝すべき事だろう。しかし。 「……もう恩義は果たしたのじゃないかしら?」 ぴくり、と。カズマの肩が揺れる。 恩がある。裏切る訳にはいかない。恐らく誰よりそう思い続けているであろう彼は、突然示された道に、明らかに動揺を見せていた。 「そんな、……そんな簡単じゃない! あんた達の所に行って助かる保障が何処にある? こいつらを護れる保障が何処にあるんだよ!」 考えて、考えて。まだ幼い胸に全て抱え込んで考えた少年にとって、このイレギュラーは完璧に予想外のものだった。 故に、受け入れ切れない。信じられない。不安と葛藤に押しつぶされそうな少年を気遣うように、年長者の紅一点、カナエが口を開く。 「……貴方達についていったら、私達は恩人を裏切る事になるんです。恩なんて、返し切れる訳無い。今もお世話になってるのに」 だから、そんな事言わないで。 精一杯、冷静に言葉を紡ごうとする少女。後ろに控える子供達が、不安げにその手を握る。 大丈夫よ、そう無理矢理に微笑んで子供達を落ち着かせる彼女は必死に、差し出されたものから目を背けようとしている様に見えた。 ● 「――年長者以外は邪魔だから全員殺せ」 不意に、冷ややかな声が投げかけられる。 その一言で一気に表情を凍らせた年長者を無表情に見遣りながら、言葉を発した本人、『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314) は再びゆっくり、口を開く。 「そういう命令を君達は聞けるんだね。……ねえ、彼を少しでも知ってるから言うけど、後宮の手駒になるってそういう事でしょ」 あの男なら、遣りかねない。必要な内はとことん使い続け、恐らく用済みになれば何の躊躇いも無く切り捨てる。 彼は、そういう男だ。それを、アークの面々は嫌と言う程理解していた。 恐らく年長者達もその可能性に気付いて居たのだろう。凍りついた表情が、怯えを顕にする。 もし、用済みになったら。彼の気が変わったら。そんな不安がじりじりと湧き上がってくる。 そんな彼らを、それまで黙って見詰めて居た『地球・ビューティフル』キャプテン・ガガーリン(BNE002315)が、ミカサの後を引き取る様に前に出る。 「少年少女達よ、恩があるのは分かった。……だが、その恩の為に捨てるべきではないことがある」 それは、歳若い君達の未来だ。そう、老成した深い優しさを覗かせながら、キャプテンは思う。 出会いは、人生の宝であるという。この広い地球で、出会うという事はとても貴重な事だ。 しかし、その貴重な出会いが、もし不幸なものであったなら。 道を、引きなおしてやらねばならない。子供達の未来の為にも、多少なりとも健全な道を。 「でも、そんな、……っ、どうしろって言うんだ……」 漸く状況が飲み込めたのか、カズマが小さく呻く。それも当然だった。突如差し出された手。今までの恩。 何より、彼の肩には11人の命が、乗っている。迂闊な決断を下す訳には、いかなかった。 「貴方達は安静を求めているはずです、だから……」 ――だから気づいて、貴方達がいるところが、一番安静から離れているということを! 影時が、必死に訴える。彼女もまだ、幼かった。恐らく、子供達の大半と同年代だろう。 だからこそ、思う。本当にそれでいいのかと。今回は偶然、救いの手を差し伸べようとしてくれる相手だったけれど。でも。 「次は、無いかも知れないんです。……友達に、なりませんか?」 一緒にアークへ行って、友人として過ごせたら。切にそう願う影時を見詰め、年長者達は選択をしかねているようだった。 沈黙が、落ちる。誰もが口を開きかねる中、不意に、場の空気が変わった。 ざわり。風も無いのに、木々が揺れる。そして。 それまで何も無かった空間に、紅色の煌めきが突如、滲み出した。 ――賢者の石。宙に浮かぶ様に現れたそれが、重力に従い地面へと、否、不安げに状況を見詰めて居た幼い少女の手の中へと、落ちる。 小さな手が、しっかりと。紅の輝石を、抱き止めていた。 途端に、空気が張り詰める。もし、このまま逃げられたら。リベリスタにも焦りが生まれる。 しかし、手は出さない。まだ、どうなるか分からない。固唾を呑んで見守るリベリスタの前で、カズマが震えた声を、上げる。 「逃げろ! 今すぐだ、それを持って後宮さんのところに行け……!」 そう告げ、庇う様に前に出る。戦うしか無いのか。悔しげに表情を歪めるリベリスタ達。 カズマに続くように、他の子供達も動こうとする。けれど、石を持った少女は動こうとしなかった。カナエが焦った様に、少女の背を押しても、頑なに動かない。そして。 「いやだよ、もういやなの! あったかいおふとんも、おいしいご飯もいらないよ。前みたいに戻りたい!」 大きな円い瞳が、泣き出しそうに揺れる。幼い彼女の言葉に、それまで大人しくしていた子供達も大きく頷く。 彼らは薄々、気付いていた。年長者の葛藤に。その表情が暗くなっていくのがきっと、辛かったのだろう。 何があっても動かない、と言いたげ石を抱え立ち尽くす少女に、カズマの表情が苦しげに歪んだ。 「……まあ、美味い話は疑うよね」 そっと、ミカサが言葉を紡ぐ。 ――また裏があったら。そう思わない訳が無い。現に彼らは一度、シンヤに騙されている。 けれど。 「武器をしまったまま戦場に来るなんて、そんな馬鹿な事をしてでも違う道を示したかったってのは、理解して欲しいね」 アークは決して楽園ではない。けれど、シンヤの傍はもっと、違う筈だ。 やり直すならまだ間に合う。義理の為に大事な物を壊すのは、早すぎるよ。そんな呟きを、小さく添える。 「我々アークは君達を受け入れ未来を与える用意がある。事が終わるまで保護する用意も。この美しい地球で幸せに過ごす為に、決断して欲しい」 それに、戦う戦わないは、選んで貰って構わない。その一言を添え、キャプテンが優しく問いかける。 子供達は、明らかに迷っていた。あと、もう一歩。リベリスタ達は、諦めるつもりなど無かった。 ● 「……オレ達はシンヤ達より強い。当然お前達よりも強いから、シンヤの報復は心配しなくていい。守ってやる」 押し黙る子供達を見かねたように、フツが口を開く。 報復。恩に縛られるのと同じくらい、彼らはそれが怖いのではないだろうか。 そんなリベリスタ達の考えは、やはり的を射ていたようだった。苦い表情を浮かべていたサトシの顔が、驚いた様に上がる。 「信用できないようなら、オレ達と戦おうぜ」 強い筈が無い、そんな呟きを漏らしそうな年長者へと、フツは続ける。戦えば、分かる事だ。 此方は8人、子供達は12人。決して悪くない筈だ。 「そうですねぇ、奏音たちが勝ったら降参して一緒にアークに。単純明快なのですよ♪」 どんなに理で説いたところで、彼らはまだ幼い。 言葉だけでは踏ん切りが着かないのかもしれない。そう思い、それまで周囲に任せ黙っていた来栖 奏音(BNE002598)がフツに続く。 それに、恐らくこの戦いの様子は、シンヤにも漏れ伝わるだろう。そう、前置きして。 「奏音たち程度に負けるのであれば、捨て駒にすらならないと判断して、捨て置かれるかもなので安全かもなのですよ?」 その調子こそ軽いものの、奏音の言う事は一理あるように思われた。 カズマはその提案を吟味する様に目を伏せ、そしてゆっくりと、口を開く。 「……わかった。なら、試させて欲しい。ただ……戦うのは、俺達3人だけだ」 途端に、幼い子供達から非難の声が上がる。リベリスタにとっても、彼の提案は予想外のものだった。 「けじめを、つけたい。……決断するのはそれからだと、俺は思うから」 そう告げる少年の顔は未だ硬いものの、此処に現れた時よりは幾分晴れやかだ。 彼に同意するように、残り二人の年長者も構えを取る。その覚悟を感じ取ったのか、子供達は大人しく後ろに下がった。 そして覚悟は無論、リベリスタ達にも十分に伝わっていた。各々が仕舞い込んでいた武装を、引き寄せる。 「よしわかった、……じゃあ、勝負だ!」 フツが言葉と共に素早く印を組む。ゆらり、揺らめく守護の障壁を張り巡らせる彼の横をすり抜け、ミカサとセルマが前に出た。 ミカサが紫に煌めく指先を振るえば、気糸で作り出された捕縛の罠がサトシへと絡みつく。 その隙を突く様に、遅れて駆け寄ってきた影時が作り出した糸でカズマを縛り上げる。 戦うとは言ったものの、リベリスタ達は彼らを極力傷つけない事を決めていた。 それに気付いたのか、後衛に控えるカナエが微かに驚きを浮かべながらも、魔方陣を展開させる。飛び出す魔力の矢がミカサを撃つも、彼は表情一つ動かさない。 サトシが、与えられた呪いで痛む身体を引きずるようにリベリスタ達の只中に駆け込む。 振るわれる、小ぶりのナイフ。軽やかに舞うような足取りと共に、前衛達の血が飛び散った。 奏音が放つ聖なる閃光を浴びても、シルフィアが呼び出した魔炎に焼かれても。少年達は倒れない。 ただ苦しげに、何かと葛藤するかの様に此方を見詰めていた。 「……何で、何で俺達を気にかける! 石を奪って逃げれば、邪魔なら殺せばいい。なのに、何で!」 悲痛な声と共に、少年が全力で火焔の拳を振るう。リベリスタの言葉は届いていた。響いていた。 けれど、信じられなかった。彼らは、大人に、誰かに大切にされた事なんて、殆どなかったのだから。 酷く重たい一撃を甘んじて受け、それまで堪えていたセルマは湧き出す怒りをそのままに、声を荒げた。 「貴方達が子供だからよ! 子供は大人が守るべきもの、けして利用するものではない!」 恩を売り、この子達を縛り付け使い捨てるシンヤが気に入らない。 幼い彼らが、シンヤを疑う事も出来ないのが腹立たしい。 子供を持つ彼女だからこそ、許せなかった。辛かった。やるせなかった。 だから、せめて。 持前の穏やかな調子を、取り戻して。セルマは語りかける。 届いて欲しい。聞いて欲しい。自己満足だろうと。 なんとかしてやりたいと願わずには居られない、この心を。 「貴方の決断は立派だと思います。けれど、後悔しているなら、未来を憂えているのなら」 逃げないで、選んで。真っ直ぐな言葉が投げかけられる。 途端に、少年の顔が泣きそうに歪んだ。たすけて。小さく、言葉が漏れる。それは確かに、リベリスタの耳に届いた。 あひるが素早く清廉な風へと語りかけ、キャプテンが進み出て、未だ抗おうとするサトシに全力を以って重たい一撃を見舞った。 がくり、膝が落ちる。彼らは決して、強い訳ではない。数で負けるのなら、リベリスタに勝てる筈も無かった。 続いて、フツの放った漆黒の鴉がカナエを崩し。影時の糸が再度、カズマに絡みついた途端。彼の膝もまた、耐え切れなくなった様に崩れ落ちた。 ● 「……俺達の、負けだ」 嗚呼、強いな。そんな呟きが少年の唇から漏れる。完敗だった。 地面に倒れ込み見上げた空は、既に暗い。胸を覆う暗雲が晴れた気がして、カズマは小さく笑みを漏らした。 差し出される、フツの手。それを取って立ち上がれば、同じ様にカナエやサトシにも、リベリスタの手は差し伸べられていた。 「戦いも済んだしノーサイド♪ 回復なのですよ~♪」 奏音がそう言って、清らな微風を呼び寄せる。敵味方問わず、等しく全員を回復したその風が、少年達の髪を優しく揺らした。 待機していた子供達が、堪え切れなくなった様に駆け寄ってくる。 それを受け止めながら、カズマはゆっくりと、リベリスタ達へ目を向けた。 「……信じていいのか。着いていって、いいのか。……俺達は少なからず、悪事に手を染めてる」 それでも、アークは俺達を救ってくれるのか。そう小さく呟く瞳は、真直ぐだが不安に揺れている。 そんなの愚問だ。それを代弁する様に、ミカサが口を開く。 「子供は笑ってるべきだ、違うかな。……それに」 生きてりゃ何とか挽回できるよ。そんな言葉に合わせ優しげに微笑み頷く面々に、カズマは漸く肩の力を抜いて、ぎこちなく微笑んだ。 子供達もまた、事態がが収束した事は理解出来たのか嬉しそうに笑い合う。 あひるが、影時が、友達になろうと告げれば、勿論、と言う言葉と共に笑みが零れる。 セルマの自分の所の子供にならないか、と言う問いかけには、気恥ずかしげに考えてみる、と言う返事が返ってきた。 賢者の石を持っていた子供が、躊躇い無くリベリスタにそれを差し出す。 それを受け取って。漸く、彼らは全員で、帰路に着いた。 賢者の石だけでなく。子供達も。 そんなリベリスタ達の願いは見事に、完遂された。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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