●狂える甘さ 「どうです、美味しいですか?」 「Yes! トッテモ美味しいデス。やっぱり元ガ可愛いとchocolateも美味しくナルという説は本当デスね」 「………」 (そんな説はありませんが、まぁ、この程度で役に立ってくれるなら安いものです) 『Ripper's Edge』後宮・シンヤの沈黙を、肯定と受け取り、爽やかな笑顔を見せる『So sweet』ノイエ・カカオール。 彼の外見を表すならば、ブラジルのサッカー選手よう……が簡潔だろうか。背の高い褐色の肌、筋肉質ながらもしなやかなバネを思わせる美しさを持った青年。 「では体力も十分回復したでしょうし、そろそろお願いしたいことがあるんですが……」 シンヤが問う。 部下、という位置づけの彼に対しても、決して命令はしない。 彼の力は役に立つし、何よりフィクサードたる者、自身の目的こそが第一だと言うことを、シンヤは誰よりも理解していたから。 それに『So sweet』の力を最大限に引き出すには、その興味を高めてやることが何よりだったから。 「『賢者の石』デショ。ダイジョーブよ。魔女サンから貰ッタ新しい子と一緒に、邪魔モノは全部、撃墜するヨ」 そう言って視線を向けた彼の足下には、不定形かつ茶褐色のスライムが無数に融合し、ノイエの周囲数mを覆うように広がっている。 ――制空権。 彼の周囲に近づけば、このスライムたちが襲う。そしてこのスライムたちの能力は……チョコレート化+ダメージ。傷を負わせる分、以前より格段の強化(狂化)である。 それは、今この瞬間こそほんの1mそこそこだが、最大限に広げれば、10m強まで広がると言う。 「前より一層、愛が深まったようですね……」 「Yes! ボクのloveを魔女サンが理解シテくれた結晶デース。男も、女の子もボクの周りは皆、美味しい美味しいchocolateにシテあげます。そしてボクのloveで美味しく味わってあげるヨ♪」 シンヤの皮肉もどこ吹く風。ロクでもないことを平然と言い放ちながら、用意してもらった美女……だったモノを口に放り込む。 「うーん、美味しい♪ So sweet!」 「まぁ良いでしょう。期待してますよ。出現場所は……」 チョコレートを味わっているノイエに、そっと耳打ち。 「残念かも知れませんが、決して女性が多い場所じゃありません。それに、分かっていると思いますが、リベリスタたちとの奪い合いになるのは必至ですよ」 「任せてクダサーイ。デモ、我慢シテ持ち帰るナラ、トビっきり美味しい娘ヲ用意シテ置いてネ」 爛漫な笑顔で応えるノイエ。 シンヤは、その調子の良さに一抹の不安を覚えていた。 ●狂おしく 想い、想われ ――次々と、リベリスタたちか入っては出てゆくアーク本部。 例によって、大規模な作戦の前は極めて慌ただしく、皆、ピリピリとした緊張感に包まれていた。 「早速ですが、本題に入らせていただきます」 少し疲れてきたのか、何の前置きもなく『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、集まったリベリスタたちを確かめながら、話し始めた。 「場所は、またしても東京です。ただし今回は渋谷ではなく新橋の駅前。時間は平日朝の通勤時間帯。あの駅で最も人の多くなる、その時間帯に顕れる『賢者の石』を持ち帰ることが今回の任務です」 やはり緊張の面持ちのまま一息つく和泉。そこにいる人の層は全然違うけれど、それでも厄介なことに変わりはない。 「駅前にSL広場というのがあるのを知っていますか?」 「あの、実際にSLが置いてある所だろ?」 「はい。恐山会から情報提供を受けた事によりEXNのチームが持ち帰った賢者の石――あの石の波長と反応のパターンを割り出して万華鏡にフィードした結果――そのSLの上に、『賢者の石』が顕れることが判明したのです」 「持ち帰るって言っても……そう簡単にはいかないんでしょ?」 和泉の説明に、リベリスタの1人がすかさず突っ込む。 「そう……ですね。暫く前に渋谷に現れた、チョコレート好きのフィクサードを覚えていますか? 南米系の爽やかな美形、ノイエ・カカオールという男性を」 「あぁ……あの男か。手強い相手だなな」 報告書を読んだか、実際に手を合わせたか、リベリスタのうち数人が頷く。 「彼の操るエリューションは、基本的には以前と同様のチョコレート色のスライムです。が、以前と違うのは、ほとんど融合し、彼とも一体化した感のあるものになりました」 そして、能力は相変わらず石化の代わりのチョコレート化です……と告げた。 「気をつけてください。ノイエはチョコレートを食べる、つまり……人喰いなんです」 「ワタシもこの前見たアルよ。爽やかに、笑いながら噛み千切ったアル! しかも、覇界拳士の技を使うアルよ。ワタシたちよりも高い次元の技を……」 『迂闊な特攻拳士』李 美楼(nBNE000011)が説明の最中に口を挟んだ。よほど悔しい想いをしたらしい。 「良いですか。今回は気を付けることがいくつかあります。皆さんには不要なことかも知れませんが……皆に言っておかなくては、私が後悔しそうなので……」 そう言って頷いた和泉が続けたのは、今回の特殊な状況について。 「アシュレイ達の目的は知っての通り。『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)さんが聞いてきた『大規模儀式』を行い、この世を混沌に作り変えると言う『穴を開ける』事にあると思われます。『賢者の石』は、その為に必要なものなのでしょう」 奇跡である筈の『賢者の石』が大量発生した理由は誰にも分からない。 最近、突然世界が酷く不安定になり崩界が進んでいる事象と何か関係があるかも知れないけれど。 その因果関係については依然として調査中。 真相を知るためにも、今回は後宮派を阻止し、『賢者の石』を多く獲得する事こそが肝要。 成功すれば敵の予定を挫くだけでは無く、設備や装備などのパワーアップも望めるかも知れない。 ――これは、考えようによってはチャンスとも言える。 和泉は、成功を祈ります……と告げ、戦地へと向かうリベリスタたちを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:斉藤七海 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月30日(水)22:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●SL広場 ――平日早朝。 『迂闊な特攻拳士』李・美楼(nBNE000011)を含む総勢13名のリベリスタたちが、多忙なビジネスマンの行き交う新橋の地を踏みしめた。 「伝説の殺人鬼、そして賢者の石の大量発生、か……」 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は深刻な表情で髭を撫で付けるようにして、誰にともなく呟いた。 「こんな場所に、賢者の石とノイエだなんて……最悪!」 前回の渋谷での1件を思い出しながら、『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)は思わず声に出して吐き捨てる。正直、この場所は自分たちには似合わない。行き交っているのは、良くも悪くも『普通』の人々なのだから。 それだけに、ここで人々に犠牲が出てしまうことの方が恐ろしい。 「だから……今回は、絶対に負けない……。何一つ、ノイエの好きにはさせない!」 そんな彼女の強い想いは、共にいるものたちの中にも共感を呼んだ。 「渋谷の一戦……。あの時逃した獲物に、再び見える事が出来るとはな」 『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)が、アクセスファンタズムに指先を触れさせながらニヒルな顔を見せると、『初代大雪崩落』鈴宮・慧架(BNE000666)も真剣な表情で頷く。 「あちらもパワーアップしてるようですが……私たちだって、武具を改造したりして強化してきました。たとえまだ届かないスキルの違いがあったとしても、負けられません!」 「勿論!」 『深層に眠るアストラルの猫』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)が力強く応えた。 「ノイエは絶対ここで仕留めてやるわ! また目の前で一般人が巻き込まれて、もう『次』なんて考えたくないの」 無関係な誰かが命奪われる所なんて、2度と見たくはない。だけど……。 「今回もまた、以前同様に周囲に無関係な一般人が沢山いるときた。ひでー能力にゃ、おあつらえ向きだな」 『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)がイラついたように告げる。すると、『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)は困ったような顔を見せるが、すぐに思考を切り替える。 「正直どうすればいいか分かんないけど、ノイエを倒せば何とかなるよ」と。 凪沙からすれば、人をチョコレートにするなんて……美味しいチョコレートを侮辱する行為としか思えない。が、 「そうだね。なら今度こそ……前歯全部叩き折ってやる!」 と、ウーニャはそれを、より過激に発展させて。 ――チョコなんて二度と囓れないように。 そう言おうとしたとき、リベリスタたちの視界の端に、褐色の肌で背の高い青年の姿が映った。 駅の方からSL広場へ。その真ん中に堂々と鎮座するSLに向かって悠々と歩みを進める姿は、邪魔が入ることなど微塵も気にしちゃいないような。 たぶん、自身の望むこと以外は何があろうと変わらないのだろう。そんなノイエの様子は、常に先を急ぐように歩くビジネスマンたちの中にあって物凄く異質で、誰より明らかに浮いて見えた。 リベリスタたちが自身の佇まいに感じた違和感よりも、もっとハッキリと。 「今はただ……この地の混乱の収束のために、賢者の石を抑えなくてはならぬな。頼んだぞ」 将来を見据えて何かを考えていたウラジミールだったが、その瞬間に視線を現実に戻しつつ、盾を構えて一気に走り出していた。 ●A crazy chocolate lover 「美楼さん、最初は避難を手伝ってもらえたら嬉しいです。そして避難後はいっしょに思いっきり戦いましょうっ!」 小脇でウズウズと落ち着かない様子の美楼に対し、『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)が声を掛ける。 「さぁ、手早く片付けるアルっ!!」 ノイエに向けて走ろうとした美楼を、だから避難させてから……と、ななせが引き戻す。 「鈴宮慧架……参ります!」 その間にも、羽音と慧架はウラジミールに続いてノイエの元へ。 賢者の石を奪われないため、そして狂えるチョコレート好きから人々を守るためにも、彼ら3人が最初の砦のようなものだったから。 「また会ったな、ブラジリアン」 口火を切ったのはウラジミール。まずは向こうの気を引くところから、だ。 「ん? キミは……。そうカ、ボクは別二会いたくナカッタけどネ」 ノイエが、滅多にない苦々しい表情を浮かべた。過日の1件で、彼がチョコレート化に耐性を持っていた事を思い出したに違いない。 しかし、慧架と羽音の姿を認知するや、再び笑顔を取り戻し、 「んー、君タチには会いタカッタよ。美味しソウナ君たちヲ、夢にマデ見タほどサ」 事が事でなければ、どこのナンパかと言わんばかりの台詞を平然と語るノイエ。その周囲に、1つなのか無数なのかも判然としないチョコレート色の粘体が沸きあがってきた。 その瞬間、慧架の大雪崩落。高々とあがったしなやかな足がスライムの体を突き破り、チョコレート色の粘液がノイエの頬に飛ぶ。 「今回は躊躇も戸惑いもなく貴方を、倒します!」 それに更に続くのは羽音。チェーンソーの激しいエンジン音が町中に響き、電気を纏った刃が、スライムをギュルルルッとぶった斬る。 「今度は……絶対に逃がさないんだから!」 こうしてノイエを抑えてるうちに、人々を! その中でまず最初に行動を起こしたのは、凪沙。 彼女がSLの傍で煙草を一服して落ち着いているビジネスマンたちの元へ近付くや、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)のライフルが、空を裂く鋭い銃声と共に火を吹いた。 それは勿論空砲だったけれど、その音に合わせて凪沙が仕込んだ浮き袋を破って胸を押さえる。派手に飛沫をあげる真っ赤な血糊。 当然、衆目の視線が一瞬にして凪沙に集まる。が、大半はそそくさと煙草の火を消し、見ない振りで立ち去ってゆく。彼らに取っては現実味のないそれが「関係ない」という露骨な態度になって。 が、中で1人だけ彼女のもとに立ち寄る男。しかし凪沙はそれを由とはしなかった。 彼の手を無碍に振り払うと、 「逃げて……無作為に撃ってくる……」 そして2発目の銃声。 巧みな演技と息の合ったコンビネーションに、男性も怯んで立ち去ってゆく。 (……上手くいったわね) ――そう。ここからの一連の流れを、彼らに見られることは、極力避けたかったから。 次いで広場に何かの爆ぜる音が響く。ただの爆竹だったけれど、いっぺんに爆発させればそれなりに派手な音に。 そこにきて『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の紡いだ幻影。それは音の効果を補う爆発と、火柱と。 途端に辺りがちょっとした騒ぎになる。街中での爆発事件はあり得ない事例ではない故に、さすがに朝のビジネスマン達も危険を認知して走り出す。 ただしそれは……避難というよりは単純なパニック。 そのパニックを抑えに廻るのが、ななせと美楼の2人だった。 「こんな時こそ日本人っ! 慌てず、騒がず、並んでください! それがいちばん早いですよっ!」 「まずは駅から離れるアルっ! あっちの方へ行くといいアル!!」 などと誘導している影で、こそっと可燃性のスプレー缶とオイルライターをセットするななせ。 火気厳禁のスプレー缶がボンっと爆発して破片を飛び散らせ、終が幻視で火だるまになった様を演出。 「時間を掛けちゃ居られないからな。いくら何でも3人じゃ……キツいだろうしな」 ディートリッヒも人々に危険を煽りつつ、誘導を援護する。 が、多くは騒ぎを聞き付け逃げていくが、逆に遠方から何があったのかと近付いてくるものたちの姿もちらほらと。 それを阻止するのは……、 「ピンクになりたい奴はかかってこーい。きゃははっ……」 ハイになってピンクの缶入り塗料をぶち撒けるウーニャ。 駅の反対側から向かってくる人々に対し、ぐるぐると回転しながら盛大に。 「ほら、大事なスーツに滴でもかかったら一大事でしょ!」 ペンキ缶がカラになったら今度は、二挺拳銃よろしくスプレー缶2本を以て噴き付ける。そこに龍治もカラーボールを投げつけたりして加わる。 本来とは違った意味でのテロリストさながらである。 こうして一般の人々を遠ざけてゆくリベリスタたちに、さすがにノイエも焦りをみせ始めた。 「コレじゃ、セッカク石を取ってモ、楽しみガ無イじゃナイか!」 囲む3人を振りきって逃げ遅れた女性を狙おうと試みる。手近な補給……とでも言うつもりか。 そんなヤツの足許、スライムがうねるところに龍治の銃弾が叩き込まれた。 「悪いが、そう簡単に通す訳にはいかないな」 「だろうネ、でもコッチも素直に止めラレる訳ニハ行かないサ」 壱式迅雷。ノイエの隠し技の一つが囲んでいる3人に次々と叩き込まれる。 「くっ……! 私たちにその技はまだありません。でも私には大雪崩落があります」 衝撃にくらっとする痛みに堪えながら、それでも退がらない慧架。一息にスライムの上を駆け抜け、大雪崩落を叩きつけた。 ガシッ。 そんな慧架の脚を、ノイエがしっかりと掴んだ。 「せっかくだから、じっくり味わうとしようか」 ペロリと舌なめずり。 ぞくぞくっとする悪寒を感じながら、羽音がチェーンソーを振り回す。スライムたちさえ倒せれば……。 当然、ウラジミールも両腕の盾を力の限り叩きつける。 嫌な音と共に弾けるスライム。が、領域型の生き物らしく、またしても別の隆起部分がスライドして立ちはだかる。 「キリが……ないんじゃ?」 「いや。1つになって耐久力が高いだけだ」 不安を一蹴するウラジミール。だがそれも、特段の根拠がある訳じゃなかった。 そんな彼らをあざ笑うかのように、突如、SLの上に紅い光が灯った。誰の目にも明らかな、目映いまでの紅。 透き通ったその光こそは、『賢者の石』出現の印。 すかさずウーニャがスプレー缶を捨てて走る。一刻も早く、石を手に入れるその為に。 そしてノイエも……と思いきや、彼は座したまま動かない。代わりにスライムたちが囲む3人に襲いかかると、慧架と羽音の身体が徐々にチョコレートと化していった。 (ああっ……) ゆっくりと立ち上がったノイエが慧架をハグ。 「……愛シテるヨ」 ヤツの唇から、白く輝く歯がこぼれる。 賢者の石はゲットできそうだったが、その代わり、狂えるヤツによって、別の大切なモノが奪われる気がした……。 ●LOVE LOVE LOVE! 「冗談じゃないわ。賢者の石を狙いにきたんでしょう? コレが欲しいなら、死ぬまで付き合ってね」 ヤツの気を逸らせようと、飛び乗ったSLの上でウーニャが高々と紅く輝く石を掲げる。 同時に、人々の避難を終えた面々が戦闘に加わる。 火を噴く龍治の銃。そして凪沙の掌がスライムの体を捉えた。 (このスライムってさ、別に全部がドロッとしてる訳じゃないと思うんだよね……) と、土砕掌の一撃。スライムが爆ぜるように内から弾けた。 「しかし、噂にゃ聞いていたが、本気でひでー能力だな」 言いながら、ディートリッヒの剣がスライムを貫く。人がチョコレートと化す様を目の当たりにしたのは、コレが初めてだったから。 でもそれは、決して退く理由にはならない。そのまま前衛の1人としてノイエを囲む輪に加わると、周囲のスライム除去に力を注ぐ。 その間に、ウラジミールの元からは神々しき光が広がり、チョコレートと化した2人が復帰。 「大丈夫ですか。私が代わります」 ななせが走り込んで、慧架を退がらせる。同時に鉄槌に込められた全身のエネルギーが弾けた。地面を蹴るように吹っ飛ぶノイエ。 その間に響きわたるは『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の天使の歌。さらに『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)の天使の息が吹き抜ける。残るダメージはきっと、ウラジミールにもたらされたオートキュアが賄ってくれるだろう。 勝負はいよいよ、終盤戦へと突入しようとしていた。 ウーニャを狙い、囲むリベリスタをかわそうとするノイエ。しかし、四方を囲まれていては思うようにいかない。 そこに立て続けに呵責ない攻撃を加える面々。 ヤツを取り囲むチョコレート色の粘液の輪が、目に見えて小さくなっていった。 そこへ慧架が遠間から蹴りを放つ。衝撃がノイエを切り裂く。 「ノイエ! あんたなんて怖くない。だって……あたしには頼れる仲間がいるもの。唸れ、エンジン!」 チェーンソー『ラディカル・エンジン』の回転数が勢いを増した。だが、ノイエはそれを辛うじて避ける。 「物騒ダネ、全ク……」 「あんたが言うなー」 凪沙は、思わずツッコミながら炎の拳でスライムを焼く。 「これ以上、チョコにするだなんてふざけた真似はさせない」 龍治の銃から放たれた魔弾がスライムどもをさらに弾いた。 「ワタシもやるよー。腕前、試したいアルっ!」 ようやく美楼も参戦。流れるような足捌きでスライムをかわし、ノイエに掌を突き出す。 「ボクはイツだって本気さ……ダッテ」 そんなリベリスタたちの反応に、ノイエは追いつめられたように小さく呟く。その声に反応するかのようにスライムたちが一斉に周囲の面々に纏わりつき、何人かをチョコと化す。既にその範囲は周囲3m程度。一足飛びに越えられる距離ではあったけれど。 「ああっ、ノイエが……」 彼の体から蒸気のようなものが立ち上る。例のあの技の予兆か!? 「拙いな……」 すかさず、ななせの前に立ち、ペットボトルの水を撒くウラジミール。 「コンナニ、愛シテるのに……LOVE、LOVE……」 うわごとのように漏らすノイエ。直後、彼の全身から激しい熱が迸った。 チョコレートと化した美楼、そしてチョコと化しながらもノイエの技を最後まで見極めようとしていた凪沙らが相次いで倒れる。 一方でウラジミールは十分に余力を残していたものの、その後背に位置していたななせ、そしてディートリッヒや羽音、慧架や龍治、ウーニャは辛うじて無事といった体。 「まだだよ……あたしの覚悟だって、こんなものじゃないんだから」 倒れたはずの凪沙が立ち上がり、戦列に復帰。ガントレットで覆った拳を突き出すも、激しい負傷ゆえか、ノイエに叩きこむ前にかわされてしまう。 「まさか、逃げるつもりじゃありませんよね」 再び慧架が前へ。そして、自身の拠って立つところの大雪崩落。 ……まともに決まった。 ノイエは完全な形で地面に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちてゆく。 「やりましたか?」 「いや……まだだ!」 ウラジミールは警戒に余念がない。過日の事件の折、これで終わる相手じゃないことをよく知っているから。 そう告げた瞬間、ノイエがゆっくりと立ち上がる。さすがに跳ね起きるほどの余力はないらしい。 「仕方ナイね。今日はボクの負けデ構わないカラ……その石ヲ……ボクに」 「舐めないでよね! 貴方を倒す為なら、あたしは何だって……」 羽音の台詞。もちろん交渉の余地がないのは明らか。しかも最後の方はラディカル・エンジンの音にかき消されながら。 「当然だな。俺たちの目的はあくまでも、賢者の石の確保だ」 その上で。 「さあ、その命――そこに置いていって貰おうか!」 ディートリッヒの宣言に、龍治が重ねた。剣先と銃弾が相次いでノイエを貫いた。 「そうよ、言ったでしょう? 死ぬまでつきあってって」 それまで道化を演じなさい……と。 「運命の女神が微笑むなら、それに応えるまでだ」 トドメは魔落の鉄槌。神聖なる一撃がのイエの頭上に振りおろされた。 「悪いがリタイアはさせぬよ……」 ●甘さは溶けて消えゆく…… 端正な顔立ちも、しなやかな体つきも、すでに見る影はなかった。 褐色の肌をした美青年は、すでに運命からは見放されていた。スライムなどのようなモノに自らの力の一部を委ねたがゆえに。 「So sweet……」 うわごとのように呟いた一言を最期に、ノイエという存在は世から跡形もなく失われたのだった。 「はぁ……美味しいチョコで口直ししたいですね……」 とは、ななせ。 賢者の石を巡る戦いで疲れた身体を癒すためにも。 ただ……しばらくはチョコを見るたび、この日のことを思い出すかも知れないけれど。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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