●転がるイガグリ それは栗と言うにはあまりにも大きかった。 大きく、重く、イガの鋭さと言えば鋼で出来た槍の様。 突撃されれば車程度ならぐしゃぐしゃに出来る程の威力を秘める。 その様はまるで冒険映画や冒険小説に出てくる坂道を転がる大岩のトラップ。 哀れな犠牲者をぺしゃんこにする。 そんな物が転がってくる心理的圧迫はいか程だろうか? そして、そんな物を転がしてくる栗の木が居る山に人は立ち入れるのだろうか? 倒すべき敵、エリューションが現れた山はただ不気味に佇むだけ。 ただ、哀れな犠牲者を求めてその木は風に吹かれている。 ●ブリーフィング 3m程もある巨大なイガグリが、ハイキングに来たであろう中年男性を追い掛け回す。 モニターに映ったのはそんなシュールな光景だった。 「えー……この巨大な栗は山から一歩でも出ると元の大きさに戻る事から、何等かの能力を用いてテリトリーを形成している様です」 先に映像の確認をした際、あまりのシュールさに乾いた笑いを浮かべてしまった『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が精いっぱいの引き締まった表情で説明する。 追い掛け回されたのはアークの協力者の一人。山の持ち主でもある。 山と言っても資料を見る限りではそう高い山でもなく、ハイキングコースに使える様な小さな物だ。 もっとも、街から離れている為ハイキングに来るのは持ち主の家族だけ。目的もハイキングではなくただの栗拾いだそうだ。 「栗拾いに来た所、頂上の栗の木が落としたイガグリが巨大化、追い掛け回されたそうです。この証言から、栗の木がエリューション化したものだと考えられます」 まぁ、3m程の栗が転がってくれば一種の怪奇現象だろう。 「目的は栗の木の破壊です。空から近づく場合、通常サイズのイガグリを発射して迎撃して来る事が確認されています」 色々と間違っている。主に植物として。 「色々と困難な任務となりますが、御武運をお祈りします」 美しい敬礼した天原に見送られ、色々な意味で困難な仕事が始まる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月26日(土)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●秋雨の止んだ午後 その日は朝から雨だった。 冷たい雨が草木を濡らし、乾いた風に水分が含まれる。 幸い、リベリスタ達が山に到着した時にはすっかりと晴れて柔らかい日差しが差し込んでいる。 湿気を伴った秋の風が任務をこなす為に現れたリベリスタ達の身体を吹き抜けた。 心地よい風が吹く山。 しかし、この山の山頂には植物として色々と間違った危険な栗の木が居る。 「栗かあ。もう秋も終わりだし、最後のチャンスだと思ったけど……これは栗拾いならぬ、栗狩りかな」 山頂の方角を見上げて飛び込んで来た遠くの山の紅葉に、少しだけ関心しながら『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が呟いた。 実際、人間に襲い掛かるイガグリと言うのは中々なシュールだし危険である。 狩り取った方が良いのだから、栗狩りと言うのは正しい。 「栗花粉は敵よ。合法的にフクシューする機会をくれるなんて、さすがアークだわ」 くちん、と小さくくしゃみをして鼻の赤みが少しだけ増したのは『あかはなおおかみ』石蕗 温子(BNE003161) だ。 彼女の慢性鼻炎は大よその植物の花粉や埃は殲滅対象になる。 くしゃみと言うのはこれで以外と大変なのだ。 「アークはこんなちまちましたもんまで相手にするのか。まっ、俺としては手頃で良い感じだな」 こちらは最年長ながら任務経験の薄い『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169) だ。 どちらかと言えばブレス自身、獲物である大斧バルディッシュでの戦いの習熟に主眼を置いている。 何事も慣れであるとは言ったものだ。 「外側はいたいいたいだけど……中身は……おいしいのかな~?」 「私、この戦いが終わったら焼き栗を食べるんだ……!」 「僕は、栗ご飯とか……」 早くも終わった後の事を考えているのは『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)と『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265) 、そして七布施・三千(BNE000346)だ。 何やら冬芽が太いフラグを立てた様な気がしたが、そんな事は無かった。 「や、流石にお腹壊しそうだよ」 そんな三人に小さくツッコミを入れたのは芸能活動を始めたばかりの神代 凪(BNE001401)だ。 以外と食べ物系のフィクサードが多いのも事実。それを食べて腹を下したと言う話はあまり聞かないが、用心した方が良いのは確かである。 「てっぺんには栗の木一本、おっさんのハゲ頭っと。ちゃっちゃと終わらせようぜー」 『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)が愛用のナイフを抜きながら促してミツションスタートと相成った。 因みに持ち主のおじさんはハゲでは無い。むしろフサフサだった。 ●植物として色々間違っています。 「フハハハ、どーだ!お前の仲間が食われる様は!」 瞑が持参した栗の和菓子を頬張りながら、各自準備を開始する。 各自が自己強化を施し、最後に三千が翼の加護を全員に与える。その場に居るリベリスタ達の背に小さな羽が生えると、身体がまるで重力を忘れた様に軽やかに空に浮かんだ。 和菓子の供給元の瞑が栗菓子を齧りながらやはり持参した拡声器で栗の木を挑発していたが、それが引き金になったのか異変が起こる。 最初は山頂の栗の木から何かが飛んだ様に見えた。射程外だから、と言う慢心があったのだろう。それに気づけたのはビーストハーフであるテテロ、三千、凪、温子、ブレスの五名だった。 空から何かが落ちてくる。大きさは……小さい。球体の様に見える。 「おい、何か来るぞ!?」 ブレスの言葉を聞いて、瞑が訝しげながら後ろに下がると今まで瞑が居た場所から数歩前の場所に何かが着弾した。 イガグリだ。 「ちょ、射程外じゃねぇの!?」 「いや、多分射程外だぜ。曲射の要領で無理やり飛ばしたんだろ」 思わず出てきた悪態に、武器こそ近接武器ではあるが本来は射手であるスターサジタリーのブレスが解説を入れる。 「ぬぬぬ、やっぱり栗の木は敵なのよ」 「この分だと制度は大分落ちそうだね。今のうちに接近してしまおう」 ますます闘志を燃やす温子と、冷静に周囲を観察した快の言葉で快の後ろに隠れていた女性陣が動き出す。 「い、急ぐのっ!」 果たして、快の言葉通り曲射の精度は悪かった。 打ち合わせ通り栗の木から21m時点にたどり着くまでには一度も被弾しなかったからだ。 テテロの翼の加護による回避力の補正効果も含め、本来の使い方では無い行為では一般人は兎も角リベリスタには威嚇にもならない。 「予定通り行くよ!」 冬芽の言葉と共に空中で整えた陣形のままに地面に降り立つ。相変わらず曲射での攻撃は続いているが当てられる気配はない。 だがそれも地面に降りた瞬間に終わる。 栗の木が戦法を変え、地面を転がる巨大イガグリを飛ばしてきたのだ。 「ふゎ~~~おっきないがいがいががほんとにきたのっ!?」 テテロの声を後ろに聞きながら快が一歩踏み出す。 転がってきた巨大イガグリを両手で受け止め、足を踏ん張りこれ以上進ませない様にする。 イガグリの棘は存外に固く鋭い。だが快は防御に秀でたクロスイージス、それも不沈艦だ。この程度ならば傷一つ、と言うには大げさだが致命傷を負う事は無い。 「せーの!」 「これでも喰らうのよ!」 「さ、いっくよー!」 覇界闘士であるテテロ、凪、温子が一斉を中空を蹴りぬき真空の刃を作り上げ投射する。 不可視の刃を不可思議な知覚能力で察知した栗の木が、その進路上に一つイガグリを落とした。 それがみるみる巨大化し、転がる直前のイガグリと同じサイズになる。 真空の刃は棘を斬り飛ばしてイガグリに叩きつけられるがイガグリを粉砕するには至らない。 「だけどこれで御終いだよ!」 冬芽の放った気糸が防御用イガグリに絡みつき、締め上げる。 ギシギシと音を立て、締め付ける力とイガグリの耐久力がしばしの間拮抗するがそれも一瞬の事。 バカン、という音を立てて盛大にイガの部分が粉砕し中身である栗の実が転がってくる。 大きいが、危険と言う訳では無い。無害なそれがリベリスタ達を追い越して麓まで転がり小さくなった。 「うっしゃ、突撃するぜ!」 「一気に終わらせてやんよ!」 遠距離攻撃を持たない二人、瞑とブレスの二人が突撃する。 ブレス自身は防御用のイガグリを破壊する心算だが、21mを一気に0にする方法は今の所無い。それは瞑も同じだが、こちらは本体の破壊を念頭に置いている。 ビーストハーフであるブレス、そしてソードミラージュである瞑は防御に気を回しながら接近する。 だがそれを阻むかの様に、巨大化したイガグリが転がる。それも二人を同時に押しつぶすべく二つ同時にだ。 「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」 「どっこいしょっと!」 最初に転がってきたイガグリを脇に退けてさらに前進していた快がブレスに向かった物を、瞑に向かった物は蹴った足を引き戻したばかりの凪が受け止める。 防御に秀でた快は兎も角、凪の防御力は快の半分しかない。 戦闘服から露出した部分に棘が突き刺さり出血を促してしまう。 「大丈夫、直に治しますから」 だがそれも待機し周囲を観察していた三千が歌を響かせ二人の負った傷を纏めて治癒する。 それだけでは凪の出血は止まらないが、それもテテロが素早く飛ばした光によって完全に癒えてしまう。 守りは万全なのだ。 阻む物の無いブレスと瞑が突き進む。 それでも栗は阻もうと足掻く。 ならば今度はもう一つ追加だと言わんばかりに今度は三つ、巨大化したイガグリが落ちた。 「移動不可の分際でオモシロ進化するなんて生意気よ!絶対!へし折ってやるッ」 オオカミの耳と尻尾を揺らして温子が中空を蹴り飛ばして真空の刃を放つ。 「3mは流石に大きいけど、きっちり止めるさ。砕いたら勿体無いからな!」 防御に回っていた快も、光の弾丸を作り出し投射する。 テテロや冬芽、凪もイガグリの破壊に回り元より転がってくる以外に手段の無いイガグリを捉え一つを破壊する。 快が放った光弾だけ、他の者が狙ったのと別のイガグリにその棘を粉砕しながら着弾する。 そのイガグリが動き出した瞬間、そのイガグリが快を目指して一直線に転がってきた。 それを難なく受け止める。 もう一つの担当はやはり凪だ。 身体を貫かれながら、イガグリを退かす。 すかさず三千が歌と共に二人を回復し、テテロが出血を止める。 パターンに嵌った栗の木には、もはや成すすべは無い。 「これでぇ!」 「終わりだ!」 瞑のナイフが残像を残す程に加速され、大よそ人間が出来うる可能な限りに攻撃を無数に繰り出す。突く、斬る、殴る。無数の乱舞が栗の木に叩き込まれ、その樹皮が大きく抉れる。 痛みがあるのか、ざわざわと木の葉が暴れ、出鱈目にイガグリが地面に落ちては巨大化して転がり落ちる。 「こっちは気にしなくて大丈夫なの~」 間延びしたテテロの声が響く。 「多少の被弾は僕達が対処します!」 癒しを齎す聖なる歌の合間に三千の声が届く。 未だ完全に接近できていない6人が居るが、そちらもテテロが指揮を飛ばして対処し三千が癒す事で最後の足掻きによる致命傷は避けている。 「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁ!!」 ブレスが大斧を振るう。 横薙ぎ、縦薙ぎ、石付きによる打撃に無理やりに刃を突き刺す事等。 闘気を纏った斧が振るわれる度、樹皮が削れ木くずが散乱する。 当然、木から零れ落ちるイガグリは大量になるがそれでもブレスの動きは止まらない。 がりがりと木を削る音が山に響き、ほんの一呼吸のにも満たない時間でそれは聞こえなくなった。 代わりに、メキメキと木が倒れる音。 はた迷惑な栗の木、ブレスの斧によって完全に切り倒されたのだ。 ●そして帰路へ 傷を癒し、武器をアクセス・ファンタズムによって亜空間に収納してリベリスタ達は帰路についた。 帰り際に山の持ち主から大量の栗をお土産として持たされ、なかなか好評であった。 ただ、瞑の 「栗の木破壊しちゃっておっさんごめんね。おっさんの頭に育毛剤塗るみたいに、栗の木の種子を植えておこうよ!」 と言うセリフに持ち主の男性は笑っていたが目だけは笑っていなかった。 失礼な事を言うな、と言う総ツッコミで怒りは静まった様だが。 この男性はハゲではない。フサフサである。 さておき、もう一度栗の木を植えると言うのは快諾された。 「持ってかえったら、かし研のみんなでまろんぐらっせともんぶらんをつくるの~♪」 テテロのこの言葉が現在のリベリスタ達の心情を代弁しているだろう。 これからも、危険な食べ物が出てくると言う事は想像に難くない。 この栗の木が最後ではないのだ。 もしかしたら、次は桃の木や柿の木かもしれない。 それでも、リベリスタ達の戦いは続くのだ。 お土産を期待してる、と言うのは否定できないが。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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