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<賢者の石・争奪>最速の追求

●希求
 僕は子供の頃、走るのが苦手で、嫌いだった。
 マラソン大会はいつもビリ、鬼ごっこみたいな遊びでは真っ先に捕まり、同級生にはウスノロとバカにされた。
 嫌だった。ただ走るのが遅いだけで、クズみたいに扱われるのが嫌だった。だから走って、走って、もっと走って、速くなって見返したかった。もう二度とバカにされぬように、誰よりも速くなれるように。
 クラスで一番速くなって、部内で最も速くなって、いつしか大会で優勝して、でももっともっと速くなりたくて。誰よりも先に行きたくて。
 そして俺は、フェイトを手に入れた。

●追求
「お前と組んで、『賢者の石』の争奪ねぇ……ついてこれんのか、ヒカリ」
 通達を受けて、相方のヒカリと合流した日向は、ふと疑問を投げかける。しかしヒカリは、関係ないわ、と一蹴する。
「争奪は貴方の役目。私の役目は、兵隊さんを引き連れて、邪魔する奴らを足止めすることよ」
「その『奴ら』の中に、速えのはいるのかい……?」
 ヒカリは日向の瞳を見て微笑む。それはまるで、子供のような純真で溢れていた。
「会ってからのお楽しみ。もしかしたら、とんでもないスピード狂がいるかも知れないわね」
 日向は思わず高笑いする。バカにされないための手段であった『速さ』は、いつしか彼の求める理想となっていた。
「遊んでもいいけど、くれぐれも忘れないことね。あくまで目的は、『賢者の石』を持ち帰ること。それが出来なければ……」
「あぁ、分かってる」
 当然だ、と言うようにヒカリの目を真っ直ぐ見つめ、日向は言う。
「勝負は勝てなくちゃ面白くねぇからな。いつだって全力勝負さ。負けねえよ。俺は最速を目指してるんだからな」
 それは負けるものかという驕りよりも、負けないという誓いに似ていた。
「それで、勝負の舞台はどこなんだい?」
「あぁ、場所は……」

●可及
「場所は三高平港の倉庫内にあります。倉庫の場所はお渡しした資料の通りです。皆さんにはそこに発生した『賢者の石』の獲得をお願いします」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は足早に告げる。矢継ぎ早に詳細を話しだそうとする彼女に、思わずリベリスタたちは口を挟む。
「ちょっと待ってくれ。いきなり行ってくれって言われても、俺たちは何もわからないぞ」
「そ、そうですね。ですが……話すだけの時間がないわけではありません、早口で言いますので、どうか聞き漏らさないでください」
 『賢者の石』と呼ばれる、アザーバイドでありアーティファクトでもある物体。それは直接崩界をもたらす物ではないが、周囲に多大なる影響を及ぼす物だ。アシュレイはかつて『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)に、自分たちの目的が『大規模儀式』であり、『穴を開ける事』であると漏らしているが、『賢者の石』はそれに役立つ可能性が高いという。
「それから以前、如月ユミと交戦したチームが持ち帰った『賢者の石』。それをアーク研究室が、その波長と反応のパターンを割り出し、それを万華鏡にフィードして『賢者の石』の詳細な場所が分かったのです……が、これにより『賢者の石』が大量発生している事もわかりました。加えて、後宮シンヤがこの件について動きを見せています」
「シンヤが?」
「はい。我々と協定を結んでいる恐山会からの情報提供で、後宮派が『賢者の石』獲得に動いている事が確認されました。彼らの手に『賢者の石』が渡るのは非常に危険ですので、阻止しなければなりません」
 和泉ははぁ、と深くため息を吐く。よく見ると、クールを気取ったその顔に、わずかながら疲労が見て取れた。
「そもそも、なんでこんなにいっぱい現れるんですか。そりゃあこんな奇跡みたいなものがたくさんあれば、アークの設備もリベリスタの装備もパワーアップするでしょうが、一歩間違えば後宮派の予定が大きく進んじゃうじゃないですか。阻止できれば予定の進行を挫く事はできますが、リスクが大きすぎです」
 目一杯愚痴った彼女の目には薄ら涙が浮かんでいた。
「まぁまぁ、ポジティブに考えればチャンスとも言えるんじゃない? というか、なんでこんなに大量発生したの? 世界が不安定になったり、崩界が進んだりしているの?」
「わかりません。調査中です」
 しかめっ面でそう言ってから、和泉は小さく深呼吸して、息を整えてから続ける。
「ともかく、今回皆さんが向かってもらう場所に、『賢者の石』があります。それを持ち帰るのが今回の仕事です。ただ、後宮派のフィクサードの内8人が、そこに来る事がわかっています。ただ、名前が判明しているのは二人だけですね」
 彼女はそう言って、資料の顔写真を指差す。
「『スピード狂』呉羽日向。ジーニアスのソードミラージュです。大した戦闘能力は持っていませんが、速度と回避が高いです。彼が『賢者の石』を奪取することになるでしょう。それをサポートするのが、木凪ヒカリとその連れのフィクサード6人。木凪ヒカリはビーストハーフのインヤンマスター。猫耳をつけてますがそれはライオンのものです。くれぐれも騙されないように気をつけてください。ただ……」
「ただ?」
「呉羽日向はスピード勝負を欲していて、木凪ヒカリはそれを促すように動く可能性が高いです。なめられてますね。我々としては、今回は『賢者の石』が確保できればそれで構いませんので、フィクサードの処理についてはお任せします」
 和泉は資料の紙を集め、それをトントンとまとめてから、ではお願います、と一礼してブリーフィングルームを出ていった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:天夜 薄  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月27日(日)22:34
どうも、天夜薄です。

●目的
 『賢者の石』をアークが取得すること。
 後宮派のフィクサードの処理については依頼の成功・失敗条件に含めませんが、『賢者の石』をフィクサードに持ち去られた時点で依頼は失敗となります。

●場所・状況
 『賢者の石』は三高平港の倉庫の奥にある棚の上にあります。場所の詳細は予め伝えられ、その場所について把握しているということで構いません。棚はガラスや木の板などで覆われていない鉄棚です。そこについた時点で『賢者の石』がどこにあるかはきちんと把握でき、かつむんずと即座につかむことができます。また倉庫内は電気がついていて十分広く、スピード勝負をするにしても支障はありません。

●敵
・『スピード狂』呉羽日向
 ジーニアスのソードミラージュ。速度と回避が高く、攻撃・防御能力は大して高くありません。スキルはソードミラージュの初級スキルと幻影を所持。
 敵味方どちらかが『賢者の石』を取得するまで牽制目的以外で攻撃はせず、それの取得に専念します。取得時点から奪取する・奪取されないように攻撃を行います。取得後、すぐに倉庫から出て逃走します。

・木凪ヒカリ
 ビーストハーフのインヤンマスター。女性。猫耳に見えるけどライオン耳。スキルはインヤンマスター初級スキルとジャミング、ESPを所持。
 主にリベリスタたちを倉庫内に入れないための壁役として動きます。が、日向のために速度が高い1~2人は倉庫内に入っても見逃してくれるでしょう。それ以上は全力で止められます。リベリスタが全員倉庫内に入った場合、倉庫を壊す勢いで攻撃します。倉庫外に1人でもいればそんなことはありません。日向が『賢者の石』を取得し、倉庫から出てきた時点で、残りのフィクサードと共に逃走します。取得されていた場合、こちらの逃走等を妨害します。

・NO NAMEのフィクサードたち
 デュランダル二人、クロスイージス二人、マグメイガス一人、ホーリーメイガス一人の計6人。クロスイージスは男、他は女。全員そのジョブの初球スキルを所持。木凪ヒカリの指揮のもと動きます。行動はほぼ木凪ヒカリと同様と考えてください。

●備考
 スピード勝負をしたいのは敵の意向なので無視してもらっても構いませんが、敵はあくまでそれを前提に動きますから、考慮しないと速攻で『賢者の石』を持ち去られて依頼失敗の可能性もありますのでご注意を。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
クロスイージス
姫宮・心(BNE002595)

逢乃 雫(BNE002602)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
ナイトクリーク
宮部・香夏子(BNE003035)
スターサジタリー
レイチェル・ブルックナー(BNE003172)
ソードミラージュ
マク・アヌ(BNE003173)

●Seeker and Observer
 心は既に昂っていた。
 過去の加虐に怯えていた自分はもう無く、ただ未来の栄光をつかむためにその身を捧げた。
 それは屈辱という痛みから自が身を守る武器ではなく、見下ろすだけの場所を手に入れるための手段。
 そしてリベリスタではなく、フィクサードとして生きることを決めたただ一つの理由。
 得られるのは目眩を起こすほどの、興奮。
「さぁ、速えのはどいつだ……?」

 彼らが倉庫に急行した時、フィクサードもほぼ同時に、そこへ姿を現した。紙一重。仮にも最速の追求者がいるのだから、一つの行動の遅れが命取りになる。それは相手も同じことだ。
「ルアさん、リンシードさん、ご武運を!」
 『超守る守護者』姫宮・心(BNE002595)が、『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)と『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)に声をかける。二人はほとんど同時にうなずいた。しかし呉羽日向が先陣を切って、倉庫に突入する。ルアとリンシードはその後に続いた。
 日向、ルア、リンシードが行ったのを確認すると、木凪ヒカリとその取り巻きが、リベリスタたちと倉庫を遮るように立ちはだかった。
「これ以上は、行かせないわ。勝負の邪魔だもの」
「あなたたちも行かせないよ」
 レイチェル・ブルックナー(BNE003172)が言うと、ヒカリはハッと乾いた笑いをこぼす。
「違うわ、『行く必要がない』のよ。だって、『賢者の石』を取ってくるのは、日向の仕事。私たちはその勝利のお膳立てをしに来たにすぎないの」
「へぇ、ずいぶん信頼してるんですね」『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は咥え煙草を弄りながら微笑んだ。「じゃあこちらは、貴方方の邪魔をしなくては、ね」
「随分余裕ね、『最速』が帰って来ちゃうわよ」
「あぁ、そうですね」
 星龍は魔力を込めた銃口を、ヒカリに向ける。
「邪魔だから、どいてもらいますよ」
 銃声が響く。それが戦い開始の合図。

 リベリスタ。フィクサードがそれぞれ散る。その中に一つだけ動かない影があった。逢乃 雫(BNE002602)。彼女をフィクサードの一人が狙う。『第4話:コタツとみかん』宮部・香夏子(BNE003035)は急いで彼女を庇い、黒いオーラをフィクサードに向けて放ち、吹っ飛ばす。それと同時、彼女らの前にヒカリが立つ。彼女の放った式神が、彼らを狙い、香夏子は慌ててそれを避けたが、雫はなお動かなかった。ヒカリは彼女の頭をつかんで言った。
「動かないのは結構だけど、邪魔なの。どっか行ってなさい」
 ヒカリは雫を思い切り蹴り飛ばし、雫は声もなく転がっていった。
「次に痛い目見たい子は、どの子かしら?」
 彼女は手にしたナイフを器用にクルクル回しながら微笑む。しかし、その表情が少し曇り、彼女は自身の首筋を見た。
「いたらきます」
 きちんと食前の挨拶をすませてから、『髪の毛お化け』マク・アヌ(BNE003173)はヒカリの血を吸い始める。しばらく呆然とその様子を見ていたヒカリだったが、ふと我に返ったのか、思い切りマクアヌを叩き落とした。マクアヌは力なく転がっていったがすぐに起き上がり、次の食事を求めて彷徨いだした。
 ヒカリはいらいらとナイフを弄りだす。不意打ちを食らった怒りからだろうか、その手はわなわなと震えていた。
「いいわ、こうなったらとことん虐めてあげるんだから!」

●Pride of Observer
 心がデュランダル二人の攻撃を懸命に防いでいる後ろで、レイチェルと星龍はホーリーメイガスのフィクサードと交戦していた。星龍が抵抗の薄い彼女を狙い打とうとしたとき、不意に横から現れた、男が、彼女を庇った。
「させねぇよ!」
 星龍が放った銃弾は、その男を打ち抜き、彼女に当たることはなかった。
「京君!」
 女が叫ぶ。恐らく、男の名前だろう。
「悪いな、こいつは俺の女なんだ。怪我させるわけにゃいかねぇぜ!」
「なるほど、そうでしたか」
 星龍は対象を変え、男にライフルを向ける。男は女に銃口が向かぬよう牽制しながら、じりじりと星龍に詰め寄る。十分に近付いたところで、男はその腕を思い切り突き出し、星龍はそれを擦りながらも避けた。
「その程度かよ、おら!」
 男は大振りでもう一発攻撃を加える。彼は正面から食らいながらも、倒れることはなかった。男に銃口を向けながら、星龍は微笑む。
「えぇ、貴方に攻撃するのは、ね」
「減らず口を!」
 男はもう一度腕を振り上げ、今度はレイチェルに殴り掛かる。
「そんなわかりやすい攻撃には、当たらないわ」
 難なく避けると、二人は武器の矛先を女に向ける。男はハッとして、素早く振り向く。
「私の狙いは初めから貴方ですよ」
 放たれた二つの弾丸はまっすぐに彼女の両肩を貫く。彼女は力なく膝をつき、動くのを止めた。
「貴様らー!」
 暴れる男の攻撃をさばきつつ、星龍はマグメイガスの、レイチェルはヒカリの方へ向かった。ところが、星龍の前には、二人の巨漢が立ちはだかった。
「……ヒカリさんは、守らなくていいんですか」
「あぁ、あの人は強いからな」
「そうですか」
 星龍は言葉に決意を込める。
「通らせてもらいますよ、そこ」

 香夏子は心に襲いかかっていた二人のデュランダルに黒いオーラをぶつける。一人を吹き飛ばしたが、まだ動きを止めるような傷ではなさそうだ。もう一人が香夏子の方へと体を向ける。
「ま、いけない子! そんな子にはこうしてやる!」
 彼女は目にも留まらぬスピードで香夏子に斬り掛かる。しかし心はそれを必死で庇った。
「香夏子さん、ここで抑えるのデス!」
「えぇ、わかりました!」
 心を攻撃した女を、手にした剣で斬る。キンと金属のぶつかる音がし、間もなく二人は離れた。先ほど香夏子が吹き飛ばした女も、ようやく起き上がって剣を構えた。
「よくもやってくれましたわね!」
 女はキッとこちらを睨むと、素早い動きで香夏子を襲う。ナイフの女も続いたが、そちらは心がブロックした。香夏子は女の攻撃を受けつつ、ジリジリと間合いをつめる。攻撃がなかなか決まらないことに腹を立てたのか、女は少し大振りに、剣を振った。香夏子は女と剣を合わせ、互いに詰め寄った。
 いい間合いです、と彼女は呟いた。
「ちょこまかと……! さっさと斬り掛かって来たらどうですの?」
 言葉の節々に刺をちらつかせて、彼女は吐き捨てる。
「いえ、ちょっと考えていたんですよ」
「何をですの?」
 その時彼女は、違和感を抱き、香夏子から目を逸らす。
「考えるの、面倒くさいなぁって」
 伸び上がった黒いオーラが、香夏子の肩越しに女の頭部に一撃を加えた。彼女の顔は無様に歪み、やがて力なく地に叩き付けられた。
 追い討ちをかけようと香夏子が踏み出したその時、ヒカリが彼女の前に立ちはだかる。ナイフの女もヒカリに並び、こちらには心とレイチェルが並んだ。
「2対3ねぇ。ま、1対3よりはましかしら」
 ヒカリが不適に笑いながら見る方向では、星龍が3人相手に苦戦しつつも応戦していた。香夏子は唇をかみながらそちらに向かう。
「さて、これで対等。遠慮なくいくわよ」
 ヒカリが攻撃開始の口火を切った時、またしてもマクアヌがヌゥッと彼女の肩越しに現れて、おいしそうに血を吸い始めた。もの凄い形相で睨みながら、ヒカリはマクアヌを払い落とし、その隙を見てレイチェルがライフルの銃口を向ける。
「教わった通りに狙って……撃つ!」
 放たれた銃弾は、ヒカリの左腕に傷を付けた。苦みに耐えるようにヒカリはレイチェルを睨む。
「遠慮なくいくのは、こちらもよ」
「その余裕が、続くといいわね!」
 ヒカリは叫んで、地を蹴った。

●Runner's High
 ルアが倉庫内に入ると、先に入ったはずの日向が、静止して待っていた。そして彼女に合わせて、彼はスタートを切った。
「随分と余裕だね!」
「勝負は正々堂々、ってなぁ!」
「そうこなくっちゃ!」
 『白の最速』と『スピード狂』。二人は圧倒的な早さで、『賢者の石』目がけて駆けていく。リンシードは二人の様子を、眺めながら走っていた。彼女も、決して遅いわけではない。常人からすればむしろ速いくらいだ。しかし、彼らのスピードは、余りにも常識を超えていた。
「リンシードちゃん! 私の背中は任せるね!」
「うん……」
 その呟きも、届いたか怪しいほどに、速い。
「ラディカル・グッド・スピード……」
 リンシードは思わずそう呟いていた。
 目紛るしく変わる世界。過ぎ去っていく背景。現れる物体。その中で、少しも変わらずに、横につけているこの男。速さへの絶対の自信。
 ルアは自分のスピードを信じる。自分のためではなく、誰かのために『速さ』を求めたからこそ、負けるわけにはいかないのだ。
 リンシードをグングンと引き離しながら、二人は並走する。相手が前に出ようとするとすかさずその前に出る。その繰り返しで、互いに先行を許さない。倉庫の物をうまくかわし、相手の動向をうかがいながら、それでも決してスピードは落とさず、翔る。息があがり、疲労が見え始めても、興奮と気力は冷めず、ただひたすらに地を蹴った。
 その体は、汗も、涙も、疲れも、苦しさも、果ては勝利の色気と敗北の恐れすらも後景とし、全てを駆けるための力として消費する。
 仲間のために。
 自分のために。
 異なる意志で『最速』を目指した、彼らの勝利のために。
 並んで、駆けて、最後のコーナーを曲がると、『賢者の石』が見える。それは来る勝者の栄光を称えるように煌びやかに、敗者の愚劣を罵るように怪しく、光っていた。
 一歩、また一歩とルアはそれに向けて、翔る。彼女の視線はその一点だけを捉え、手を真っすぐ、それに向けて伸ばす。並行して、もう一本の腕が伸びる。彼女は何も考えず、ただ目の前のその石を、かすめ、取った。

●Continued Pursuit
 勝者と敗者がくっきりわかれ、なお二人は睨み合う。静寂を破ったのは、日向。
「負けちまったか」
 そう言った彼の表情に、悲哀は浮かんでいない。むしろ見て取れたのは、興奮。
「まだ足りない、か。最速には遠いな」
「私に負けるようじゃ、『最速』なんて、夢ね」
「ふん……。まぁ、負けちまったものはそれはそれ。今やるべきことは、一つだ」
「えぇ、そうね」
 ガシャン、と大きな音がして、近くの棚が壊れる。リンシードが、その中から現れ、二人の間に割り込む。日向は笑いながら、その様子を観察していた。
 その先には第二のゴールとなる出口が、真っすぐ続いていた。。
「二回戦といきましょうか、『スピード狂』。絶対に逃げ切ってみせるわ」
「へっ、逃がさねぇよ、『白の最速』!」
 ルアが出口に向けて地を蹴ると同時に、日向はルアとの間合いをつめる。しかしリンシードが、その行く手を阻む。
「スピードでは負けましたが、剣戟の……速さでは、負けません……」
 やや大振りに、リンシードは剣を振るう。しかしその速さは、日向のルアへの追撃を妨げるには十分だった。彼はそれを受けつつ、攻撃に転じる。
「いいねぇ、そっちの最速も好みだよ!」
 隙に乗じて、彼は二発の攻撃をリンシードに加える。彼女は苦い顔をしつつ、一歩後退する。彼はそれを横目に見ながら、ルアの後を追う。リンシードも負けじとそれに続いた。
 最速同士の差は僅か、日向の攻撃はギリギリでルアに届く。ルアはそれを全く避けずに受け、なおも走り続けた。それを何度か繰り返し、やがて、外への光が近付いてくる。
 日向が、ルアを外へ行かせまいと連続的に攻撃を繰り出す。しかし、リンシードがそれをすかさずブロックする。
「貴方も諦めが悪いですね、負けたんですから、潔く帰ったらどうです『スピード狂』……?」
「悪いね、俺の帰り道もこっちなんだよ!」
 背後で剣戟が振るわれる。その音を尻目に、ルアは外へ出る光をくぐる。そして探した。用意された『道』を。
 しかし見えたのは、劣勢な仲間たち。星龍、雫、香夏子、レイチェル、マクアヌは既に倒れ、立っているのは心のみ。彼女もすでに傷だらけであった。
 敵で立っているのはヒカリと、デュランダル、クロスイージスが一人ずつ。ルアは思わず息を呑む。
 心が振り向き、ルアの脱出に気付き、微笑む。
「ルアさん! こちらデス!」
 ルアはふと気付く。仲間たちが倒れている位置、その構図に。
 行かなきゃ。彼女は踏み出そうとする。その時、後ろから叫びが耳に響いた。
「行かせるかよ!」
 日向が剣を振り下ろす。しかしリンシードが彼を追撃し、攻撃を阻む。彼女はすかさず、ルアに呼びかける。
「ルアさん早く……行ってください……」
「……えぇ!」
 彼女は鳥の羽ばたくように、翔る。デュランダルが彼女に向けて突進し、手にしたレイピアで攻撃を計る。しかし、香夏子が立ち上がり、それをブロックする。
「通しません……今日の香夏子は本気です」
 剣を弾く音を聞きながら、彼女は突き進む。クロスイージスが盾を構えて彼女を阻もうとしたが、マクアヌがそれに突進し、道を開ける。ほんの一瞬できた隙、しかしそれはルアが押し通るには十分だった。
「今のうちにいくのれす」
 マクアヌは殴り飛ばされ、息をあげながら動きを止める。武器を取り出しながら、男は不意打ちを試みるが、その頬を銃弾がかすめた。男はあわてて、星龍の方を見る。
「何のために今まで寝てたと思っている?」
 銃弾が再び男をかすめる。その銃声を聞きながら、なお進む。ヒカリが、最後の砦として、立ちはだかる。
「通さないわ、絶対!」
「させないのデス!」
 ヒカリの放った攻撃は、心によって弾き飛ばされ、その衝撃で彼女は倒れた。ヒカリは思わず怯み、その横を、風のようにルアが、抜き去った。
 ルアは最後に、ごめんね、とだけ呟いて、その足をさらに速めた。全速力で、誰の目にも留まらぬように、その場から逃げ出せるように。
 ヒカリが振り向いた時、ルアはすでに攻撃の届かない遠い彼方にいて、そして攻撃の気力を失って見ていると米粒になって、やがて消えた。
 
「石、ルアさんがもってちゃいましたけど、まだ続けますデス?」
 心が、子供をなだめるようにヒカリに話しかける。ヒカリはしばらくルアの影を見つめてから、振り向いて言った。
「『賢者の石』でもなきゃ、あなたたちと戦う理由なんて、何もないわよ」
 ゆっくりとした歩きで、彼女は心の隣を過ぎ去る。心は殺気もなく、彼女を通した。気配を察したのか、部下たちもその足を逃走という目的へ向ける。
「もっと速くなってくる。首でも洗ってろ」
 『スピード狂』らしく、彼は素早く姿を消した。
 敵のいなくなった戦場を、リベリスタたちは傷を押さえながら、『最速』の勝負のあった場所に似つかわしくないトボトボとした歩みで、去った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 最速勝負、お見事でした。
 無事、『賢者の石』を持ち帰ることができ、依頼としては大成功、
 と言いたかったのですが、それにはあまりにも被害が大きく、また内容も十分ではありませんでした。
 正直、成功も紙一重のところです。
 一人一人がきちんと仕事をした結果だと思います。

 では皆さんご参加ありがとうございました。
 またお会いできたら嬉しいです。

 日向とヒカリは、機会があればまたどこかで顔を見せるかもしれません。