●力が欲しいか? とある街のゲームセンター。 音ゲーやプリクラに押されて縮小された格闘ゲームコーナーの片隅に不気味な筐体があった。 真っ赤な台に、笑うピエロが大きく飾られたている。タイトルは『カースドジェスター』らしい。 「……昨日まであったっけ、こんなの」 通りかかった中学生くらいの少年は、首を傾げつつ初めて見るそのゲームに硬貨を投入する。 8人の特殊な能力を持つ者が廃ビルに集められて戦わされる……というストーリーらしい。 「雑誌にもこんなの載ってなかったよなあ」 彼が選んだのは胸の大きなスーツの女性キャラクター。 プレイが進むたびに、謎のピエロが画面に現れてささやきかけてくる。 『もっと暴れてみないかい?』 『このくらいじゃ物足りないだろ?』 『世界を変えるほどの力をあげるよ』 危ない場面もあったが、少年はコンティニューなしで8人すべて倒し、最後に登場したピエロをも撃破した。 ……その背後に、ピエロが現れた。 「おめでとう、少年。君は画面の中の世界を変えた……次は、画面の外を変えるゲームをしないかい」 少年の顔に引きつった薄笑いが浮かぶ。 どこか虚ろになったその瞳は、操られているかのようだ。 背後で流れるスタッフロールでは、ゲームのあらゆるスタッフが『JESTER』となっていた。 ●ブリーフィング 「……この男の子を最初に、5ヶ所のゲームセンターでこのゲームをクリアしたプレイヤーが8人、姿を消してる。ゲームの登場キャラクターと同じ数」 集まったリベリスタたちに『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げる。 「その後、ゲームの台も消えたみたい。ううん、戻った、って言うべきかな」 もともと『カースドジェスター』が設置される前にあった台に戻っていたらしい。 行方不明者を探すのが今回の仕事なのかと、リベリスタたちはイヴに問う。 「違う。行方はわかってる。ゲームの舞台になってるのと同じ造りのビルが近くにあって、そこにいるはず」 8人の行方不明者はそこに集められている。 しかも、彼らはゲーム中のキャラクターが持っていた能力を得ているらしい。 「このゲームはアーティファクトなの。ゲームをクリアした人に、実際に戦う力を付与する……でも、それは無理やり革醒させられたようなもの。いずれ、ノーフェイスになってしまう」 今なら犠牲者たちを助けることができる。 戦闘不能にしておき、その間に廃ビルのどこかにあるアーティファクトを壊せば彼らは元に戻る。 ただし、彼らは廃ビルにばらばらに散らばっている。助けられるうちに倒すつもりならリベリスタ側も分散して行動する必要があるだろう。 「格闘ゲームのキャラクターだから、8人はそれぞれ別の能力を持っているわ」 強大な攻撃力を持つ熱血漢の主人公『刃』と同じ能力を持っているのは痩せ型の青年だった。 トリッキーな戦いを得意とする幼いヒロイン『レティ』の能力を得た太目の男性らしい。 鉄壁の防御力を誇る寡黙なライバルキャラ『鋼』の能力を持った二十歳前後の女性だ。 宇宙陰陽術の使い手『エル・バランガ』と、中性的な魔術師『紫苑』の能力は、いずれも高校生と思われる少年が得ているという。 最速の暗殺者、『信厳』の能力を持っているのはサラリーマンと思しき男だ。 拳法の使い手である『レオン』は大柄な大学生がその力を得ていた。 そして、多種の銃器を使いこなすスーツの女性、『翠歌』が先ほどイヴが説明した少年だ。 「順に、デュランダル、ナイトクリーク、クロスイージス、インヤンマスター、マグメイガス、ソードミラージュ、覇界闘士、スターサジタリー……と、同じようなイメージと考えて」 それぞれ格好もキャラクターのものになっているらしい。 なお、ゲームプレイ時は必ず説明した順番で登場して、最後にピエロのボスが現れるらしい。 「アークとしては、アーティファクトさえ壊れれば彼らが死んでも問題はない。けど……」 助けられる命ならば、助けてやりたいのだとイヴは言った。 「さっきも言ったけど廃ビルにのどこかに『カースドジェスター』の台もあるはず。戦闘と平行して、こっちも探して欲しい。壊さなきゃいけないから」 ただ、見つけても単に殴っただけでは壊せない。 クリアすると、ボスキャラであるピエロの幻影が出現するらしい。クリアの『特典』を与えるために。……もっとも、リベリスタにはなんの影響もないと思われるが。 ゲーム中のピエロはは玉乗りしながら突進したり、ジャグリングして物を投げつけたり、猛獣を操って攻撃させてくるが、幻影にはなんの戦闘能力もない。 幻影を攻撃して消滅させれば、アーティファクトは壊れる。 「途中でゲームオーバーになった人は、もうクリアしてもピエロを出現させられないみたい」 クリアに失敗した場合は、別の者に交代しなければならない。ただし、10秒以内ならコンティニューして、進み具合を引き次いでプレイできる。 「平行して2つ仕事をこなすことになる。大変だと思うけど、がんばって」 イヴの形のよい眉が、心配げに寄せられた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月30日(水)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●ゲームの始まり 人気のないビルの中に、今総計で18人もの人間が集まっていた。 10人はリベリスタで8人は一般人。けれど、その一般人たちは、ほどなくノーフェイスとなる。 『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)と対峙しているのは、妙に尖った髪型の青年だった。 身長よりも大きなハルバードを構えた少女に対して、不敵な表情で剣を構えている。ただ、彼の身体はガリガリに痩せていて、12歳の岬と同じくらいの肩幅しかない。 「じゃあみんなは先に行っててー。ボク達には時間が足りないし、格ゲーで1対多は無粋だよもんねー」 「言っておくが、俺は手加減なんて器用な真似はできないぜ?」 『レオン』なるキャラクターの能力を得た青年が言う。様になっていないが、アーティファクトによって与えられたその実力は侮れない。 「生きてまた、約束の場所へ……!」 駆けぬけるとき声をかけてきた『ヴァルプルギスの魔女』桐生千歳(BNE000090)に、岬はハルバードを軽く持ち上げて応じる。ちなみに約束の場所とはアーティファクトのありかのことだ。 「ROUND 1……FIGHT!」 ラウンドコールとともに、岬の小さな体に爆発的な気が宿った。 しばしの後。 2人目の前に残ったのは、『燻る灰』御津代鉅(BNE001657)だった。 「倒しても骨折り損ではかなわん、こいつの相手はしておくからさっさとゲームを探しにいけ」 仲間たちが駆け抜ける横で鉅は『レティ』と対峙する。 鼻に引っかけたサングラスの奥から敵を見すえ、鉅は紫煙を吐き出した。 「……他人の趣味に口を出す気はないがな」 控えめに言って太目の男性が、ロリータファッションに身を包んでいる様を長時間見ていたいとはさすがに思えない。 「邪魔をするんならどいててもらいますよぉ」 舌ったらずな野太い声を聞いて、鉅がかすかに眉を動かした。 鉅以外の仲間たちは廃ビルの中を駆け抜ける。 「やっぱ見たくねえ外見になってる奴も居たな……」 『捻くれ巫女』土森美峰(BNE002404)は、『レティ』の姿を思い出してげんなりしていた。 その間にも足を止めるようなことはない。赤い袴に脚の形が浮き出ている。 「んふー、あそこー」 千歳の勘に従って、リベリスタたちは階段の1つを進んだ。 懐中電灯の明かりに3人目の姿が浮かんだのは、階段を登りきったホールだった。 鉄杖を手にした女性は服装を白一色でまとめていた。 「さすがに、希望者以外は出会わない、というわけにはいかないか」 無表情に『悪手』泰和黒狼(BNE002746)が、拳を作る。 「この階にはゲーム機はないぜ。敵はもう1人いるみたいだがな」 透視で周囲を探った『てるてる坊主』焦燥院フツ(BNE001054)が数珠型のアクセス・ファンタズムから装備を取り出す。 「上のほうからちょっと音が聞こえるわ。よく聞こえんから、2階か3階くらい上……やんな」 栗色をした髪の下に隠れた耳が、遠くの音を聞きつける。音楽好きな『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)の絶対音感は廃ビルに流れる音楽とそれ以外の雑音を聞き分ける。 もっとも、絶対音感は音を聞き分けるだけで耳がよくなるわけではないので、遠くで音楽が流れている以上のことはまだわからなかったが。 3人が集中攻撃をしている間に、残る仲間たちがさらに上の階を目指す。 千歳の勘が、暗闇の中に自分の戦うべき敵がいることを察した。 「んふ、私一人で十分よ! さきにいきなさい!」 「お任せします、ちーちゃん。お気をつけて」 ハートの眼帯をした『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の声を背に、千歳は歩を進める。 「んふっ。舞姫ちゃんに、ちーちゃんって呼ばれたわ。嬉しい」 呟いた千歳の前方で明かりひとつない廃ビルの闇から黒いローブの少年が染み出るように現れた。 階段を登っていくリベリスタたち。 「こういうのって一番上にあったりするよね」 ファンシーに飾られたチーターの耳の横、サイドテールの黒髪が揺れる。『さくらのゆめ』桜田京子(BNE003066)の言葉に、舞姫は足を止めずに思案顔をした。 「だったら、試しにこのまま一番上まで行っちまうか?」 美峰があごで階段の上を示す。 「それがいいかもしれません。ただ、ゲーム機の周囲に犠牲者がいないようなら、僕は捜索に戻らせてもらいますが」 浅倉貴志(BNE002656)は廃ビルにおいても引き締まった身体をフォーマルな服装に包んでいた。 「無論です。人はゲームの駒なんかじゃない。それを弄ぶような破界器なんて、わたしは許せません! 絶対にみんな助けてみせます!」 舞姫の言葉が、力強く闇に響いた。 ●1on1×4 気をまとった斧槍と、雷気をまとった拳が激しくぶつかりあう。 雷鳴の拳は岬に直撃し、デュランダルの膂力は小さな身体をしたたかに打つ。 もっとも、幼いが体力ではこの廃ビルを訪れたリベリスタたちの中でトップを誇る岬である。デュランダル同士のダメージレースは、彼女のほうが優勢だった。 突進から繰り出された禍々しいハルバードは、画面端――もとい、壁へと青年を叩きつけていた。 「格ゲー好きの人を見捨てるわけにいかないから、ゆっくりはしてらんないんだー。それに、タイムは短いほうがスコアは高いんだよー」 バックステップをした岬は身体よりも大きな得物を鋭く振るう。 起き上がりざまに重ねられた真空刃を敵は回避することができなかった。 『刃』が飛び込んできた。フェイントの蹴りから、裂帛の気合と共に剣が繰り出された。 衝撃に貫かれる。 だが、直撃ではない。 武器で受け止めた拳を捻りあげ、斧の赤い瞳にエネルギー球を込める。 一閃した刃で吹き飛ばした敵はが壁から起き上がってくることはなかった。 「死んでないよねー? 格ゲーなら心配ないんだけどー」 意識を失って壁にめり込んだ青年を、岬は見上げた。 その頃、鉅と『レティ』の戦いも、続いていた。 巧みに位置を入れ替えつつ、気糸が2人の間を飛び交う。 (遊戯は遊戯だから面白いものだと思うんだがな。遊戯の世界を現実に持ってきても、思う通りにいかずに幻滅するだけだろうし) どちらもなかなか直撃はしなかったが、影人間とともに戦う鉅に分があった。 気糸が男を縛った。太めの身体を包むフリルのついた服が裂ける。 吸血して傷を癒した後で、呪縛から逃れるたびに鉅は縛り直す。 「は……はめ技なんて卑怯だよぉ」 「ゲームは一日一時間だ。もう十分堪能したなら、電源は落とさせてもらう」 抗議の声を言下に否定し、鉅は『レティ』が動かなくなるまで縛り続けた。 1対1での戦いを繰り広げている者たちは、廃ビルにあと2組いた。 千歳は『紫苑』に対し、魔法の矢を放つ。 「本物のマグメよ、舐めないでよね!」 敵もマジックミサイルを放ってくるが、所詮はアーティファクトで一時的に力を得たに過ぎない。 (でも……戦闘不能ってどこまでやっていいのかな) 殺してはいけないという制約が、魔曲・四重奏が使うのをためらわせる。 だが、敵にためらいはない。 魔術により生み出された大鎌が衣服を裂き、白い肌から血をほとばしらせる。 黒い羽根が闇に舞う。 途切れそうになった意識を千歳はかろうじて引き寄せた。 「んふ、すぐ解放するから、寝てなさいな」 魔法の矢が『紫苑』に突き刺さる。 戦闘不能になった彼に、千歳はよろめきながら近づき、スタンガンで完全に意識を奪った。 ――次の瞬間、鋭い直観が少女を振り向かせる。高速で黒装束の男が襲ってくるのを、ぎりぎりのところで彼女は回避した。 最後の1対1は、最上階で行われていた。 貴志は格闘家の『レオン』になりきった大柄の男と戦っている。 ゲーム機のところへと急ぐ舞姫たちを先行させて、彼は単身大男の相手をしていた。 「確か、僕と同じ大学生という話でしたね」 身体は大きいが筋肉質ではない。長身の引き締まった身体を持つ貴志とは大違いだ。 しかし、アーティファクトの影響を受けた彼の動きは、貴志に勝るとも劣らなかった。 押し当てられた掌から流し込まれた気が貴志を麻痺させてくる。 動きを止められたところにしかけられた攻撃が、フォーマルなスーツを血で汚す。雪崩のように襲う技が貴志の身体を大地へと叩きつけていた。 必殺の一撃をヒットさせ、勝ちを確信した敵が警戒を緩める。 瞬間、貴志は『レオン』の脚を取った。 「一度負けてもコンティニューは出来るなら、それを活用しない手はありません」 負傷が大きいのは敵も同じこと。 今度は敵が、先ほど貴志が受けた雪崩のような打撃で地を這う。 アーティファクトに操られた一般人に、コンティニューはなかった。 ●3対1 黒狼は『鋼』の間近へと接近する。 指の内側に仕込んだ鋸刃で彼女の肩口をつかみ、切り裂いた傷口から気を流し込む。 後方からは珠緒が放つ魔法の矢が降り注いでいた。 「悪いが……余興の全てに乗ってやれるほどの余裕は、ない」 2人がかりの攻撃を受けても、鉄壁の防御力を誇るという敵は平然として攻撃をしかけてくる。 大上段に振り上げた鉄の棒が黒狼へと振り下ろされる。 しかし、フツの結界で防御力が上がっている黒狼にとっては致命的な一撃ではなかった。 「無理はするんじゃねえぜ」 「ああ。興味本位で救える命を取りこぼすような真似はしない」 フツが貼り付けてくれた符が傷を癒してくれる。 いかに頑丈であっても、倒しきられるほどの攻撃力がなければいずれは倒せる。 男物の服を押し上げる胸に、黒狼は無言で掌を触れる。 流し込んだ気が『鋼』の全身に浸透した。 トライバル系のブレスレットが反動で揺れ、敵が無言で膝をつく。 「……ラスボスまで24周必要とかでないだけマシと思うべきか」 侮れる敵ではなかった。手甲から生えた鋸刃を戻し、黒狼は呟いた。 一方、最上階を探し回っていた京子たちは廃ビルの一室から流れる音楽を聴きつけていた。 真っ赤に塗られた筐体はお世辞にも趣味がいいとは思えない。上部に貼り付けられたインストには、操作説明の横に薄笑いを浮かべたピエロがいる。察するところ、これがラスボスか。 (ラスボスがピエロってのはちょっとセンスが無いかなぁ。やっぱりラスボスはカリスマ性に溢れてないと) 皆にはとても言えないが、ゲーム好きの京子としては敵は強ければ強いほど燃えてくる。 もちろん、遊びじゃないのはわかっている。 インストをしっかりと読んでから硬貨を投入し、キャラクターセレクト。 「つか、宇宙陰陽って何だよ。陰陽師なめてんのか」 美峰が思わず呟いたのは、どう見てもイロモノ枠の『エル・バランガ』が画面に表示されたときだ。歌舞伎役者のような隈取りをして、肌もあらわにアレンジされた衣装を身につけている。 「わたしが敵を警戒しているので、京子さんは安心してゲームを進めてください」 舞姫の言葉に頷いて、京子が選んだのは格闘タイプの巨漢だった。やはり格ゲーといえば素手格闘キャラが浪漫だ。 「ゲームは研究ですねー。ワンコインクリアが条件だから、敵が弱いうちに理解しないと」 技のリーチや当たり判定、技の隙確かめるのは当然のこと。CPUのクセは早めに見抜いておきたいし、使い勝手のいいコンボも見つけておかなければ。 時間がないことはわかっている。 それでも京子は制限時間一杯使って、システムを研究しながら進めていった。 プレイ開始の連絡を珠緒が受けたのは、『エル・バランガ』の能力を得た少年と遭遇したときだった。 「宇宙陰陽術の前には生も死も等しく意味がない」 などという言葉とともに放たれた式神の鳥に黒狼が毒に侵される。 珠緒はギターを爪弾く。 歌声は清らかなる存在へと呼びかけ、鳴り響く福音と交わって黒狼を癒していく。 「……助かる」 「う、うちが殴りあいとかするはめになったらたまらんしっ」 穏やかな謝礼の言葉。珠緒は照れて横を向く。 フツが数珠を手に念仏を唱えると、激しい光が毒をもかき消していった。 黒狼の触れた掌から気が流れ込んで動きを止める。 「時間もない。さっさと袋叩きにしてやろうぜ」 「せやな。がつーんとゲーム機ぶち壊して、みんな助けんと!」 その隙に、フツの式符が変じた鴉と、珠緒の弦より生み出た矢が飛ぶ。 敵が倒れ伏すまでにさして時間はかからなかった。 アクセス・ファンタズムを通して救援要請が来たのは、3人が奥へと進もうとした時だった。 ●ゲームクリアー! スーツの男……『信厳』がもはや人でないことは、容易に感じ取ることが出来た。 「ごめんなさい、あと一歩早ければ……」 赤と金の瞳が悲しげに揺れる。 光の飛沫と共に全身を貫かれた千歳が、岬の前で倒れた。 「千歳ちゃん!」 襲撃を受けたのが千歳だったのは単純に近場に居たからだろう。そして、戦闘の最中にリミットが来た。 エリューション化して強化された敵と1対1で戦えるほどの余力が彼女にはなかった。 「覚醒イベントが起きちゃったねー。って、落ち着いてる場合じゃないか」 足音が聞こえてくる。 フツの透視で戦場を探し、黒狼や珠緒らは最短距離でたどり着いていた。 「できれば殺さないようにしたかったぜ。だが、やるしかないようだな」 衆生の想いを身にまとって、フツは仲間たちを守る結界を張る。 ゲーム機の画面には『CONTINUE』の文字とカウントダウンする数字が表示されていた。 「あと一歩だったのに!」 レバーを握る京子の手に力が入る。 残るは翠歌とラストボスだけだった。 けれど、ノーフェイスと化した『翠歌』の襲撃が起こり、手元が狂った。建て直しをはかったが、及ばなかったのだ。 美峰が襲撃してきた敵と対峙していた。 舞姫はゲームの進行状況と共に、敵の襲撃を仲間たちにアクセス・ファンタズムで伝えた。背もたれのない椅子から立った京子と入れ代わる。 京子がプレイしていた様子で、リズムはつかんでいる。 「片手でプレイできるんですか?」 「心配は無用です!」 硬貨を投入すると、舞姫は片足の靴と縞々のソックスを脱ぎ捨てた。 彼女はかつてエリューションとの戦いで右目と右腕を失った。だが、手が使えないならば足を使えばいい。 片膝を立てて足の指で器用にボタンを押す舞姫は、ミニスカートだった。 救援要請を受けた鉅や貴志がゲーム機の部屋に飛び込んでくる。 「ちょっ! 男子、こっち見ないでくださいっ!」 「……なにをしている」 ダガーを構えながら、鉅は呆れ声を出した。 美峰は小鬼を生み出して、『翠歌』の銃撃を受け止めさせる。 「ちっ……解ってるさ、やりゃいいんだろ」 式の鴉が敵の注意を引き寄せる。 鉅が気糸を放ち、貴志が蹴りで真空の刃を生む。 2人がノーフェイスを攻撃するのを、美峰はひたすら耐えしのぐ。強力な銃撃も、鉄壁を誇る彼女の守りを崩すことは出来ない。 舞姫が、画面の中の『翠歌』を撃破していた。 最後の敵であるジェスターと舞姫が操るレオンの会話シーンを、一気にスキップする。 使っているキャラクターに深い意味はない。ただ、ここまでゲームを研究していた京子がアドバイスしやすいように選んだだけだ。 「初見でノーコンテニュークリアしてる人が8人も居るんです。大丈夫です、戦場ヶ原先輩」 「ええ、お願いします、京子さん」 1ラウンド目を落とした。 しかし、その1戦で京子が攻略パターンを見つけた。 助言を聞き入れながらラストボスの体力を削っていく。 タイムアップの表示が出たとき、ゲージの残りは舞姫のほうが多かった。 仲間たちが『翠歌』を倒す。舞姫が気づかないうちに全員が集まっていた。 焦らないように……舞姫は決してミスをせずに最終ラウンドを戦う。 一撃が強力なラストボス相手には、1つのミスが命取りになるからだ。 「……クリアしました!」 わずかな体力ゲージを削りきった瞬間、舞姫は立ち上がっていた。 アクセス・ファンタズムから無骨な太刀を引き抜く。 出現したピエロの幻影に仲間たちが一斉に攻撃を重ねた。 「これでゲームオーバーです、ジェスター!」 スピードを乗せた舞姫の刃が連続でピエロを切り裂く。 幻影が消え去ると同時に、筐体が煙を吹いていた。 生き残った犠牲者たちはそれぞれ目を覚まし、なぜ自分たちがここにと首をかしげながら去っていった。 アーティファクトがもう動かないのを確認して、リベリスタたちも廃ビルを出る。 少し暗い雰囲気が漂うのは、助けられなかったものがいるためか。 「……せっかくこんな件に関わったんや。みんなでゲーセンでもいこか?」 意を決して、珠緒が仲間たちに呼びかける。 「……いいかもね。私、クリアできなかったからゲーセンでリベンジしたい!」 「まあ、うちがやるんは格ゲーやなくて音ゲーやけどな!」 気勢を上げる京子に珠緒は告げた。 「ゲームをやるかどうかはともかく、よければ話を聞かせて欲しい。今後の参考になるかもしれん」 盛り上がる少女たちに、黒狼が生真面目に話しかけた。 犠牲をゼロに抑えられなかったのは事実だ。 けれど、リベリスタたちは6人の一般人を救うことができた。 それもまた、間違いのない事実だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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