●食 森の中。 心地よい音を立てて流れる川のほとりに、その少年と少女はいた。 ――否、その存在を少年と少女、と表記するのはいささか問題があるかもしれない。二人は確かに十歳程度の子供ではあるのだが、その背には真っ白い翼が一対ずつ生えているのだ。 その外見の通り、彼らは人間ではない。D・ホールからやって来た人外の存在、アザーバイドだ。 金色の髪をした少年アザーバイドと銀色の髪をした少女アザーバイドは、しばらくほとりで楽しげに談笑していた。その穏やかな会話に誘われたのだろうか、傍らの茂みから、野兎がひょこりと顔を出す。 二人はぴくりと反応し、野兎の方を見つめる。無邪気な三対の瞳はしばし見つめあい、そしてアザーバイド達の顔が優しげにほころんだ。 口腔にぞろりと覗く、針のような歯を光らせて。 ●Black Wing 「アザーバイドの退治をお願い」 集まったリベリスタ達を前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)はどこか張り詰めた声で依頼内容を告げる。 「退治して欲しいアザーバイドは、二体。金色の髪をした男の子と、銀色の髪をした女の子。二体とも背中に翼が生えているの」 「それはフライエンジェと同じく『飛行』するということ?」 リベリスタの言葉にイヴは頷く。 「そう。けど、リベリスタのフライエンジェとは性質がぜんぜん違う……目の前にある存在をひたすら食らうだけの存在。今はまだ小動物くらいしか食べてないみたいだけど、人間の犠牲者が出るのも時間の問題」 イヴが言うには、そのアザーバイドの口には針のような歯が並び、捕らえた獲物をその鋭い歯で捕食するのだと言う。また、少年アザーバイドには風を操る力が、少女アザーバイドには炎を操る力が備わっているのだと言う。 「二体はずっと一緒に行動していて、連携を取って獲物を襲うの。姿かたちは天使そのものだけど、そのやり方は本当に悪魔みたい……、外見に騙されちゃダメ」 半ば吐き捨てるような口調でそう言ったイヴは、最後に――今度は懇願するように言葉を出した。 「フェイトを持っていないアザーバイドは崩界を加速させる……。強力な相手だけど、頼れるのはみんなだけ。お願い、この二体のアザーバイドを倒して」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:水境 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月26日(火)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●遭遇 足元の石を『Dr.Physics』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が踏みしめると、からんとかすかな音がした。 それはすぐ傍らにいる『優しい屍食鬼』マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)の耳にもようやく届くか否かといった小さな音ではあったが、どうやら数十メートル先にいる二体のアザーバイド達は気付いたらしい。 金色の髪の少年と、銀色の髪の少女。この二体が今回彼らの討伐すべき対象だ。 二体は一瞬驚いたように目を見開き、それから微笑んだ。わずかに覗く口腔の中には針のような歯が並んでいる。その様子から察するに、どうやらこちらに好意を持ってくれたらしい――もちろん、食料という意味で。 「元の世界に帰ってくれない? って言っても聞いてくれなさそうね」 オーウェンのすぐ背後を歩いていた『春招鬼』東雲 未明(BNE000340)は、肩をすくめて誰ともなく呟く。頷き、一歩前に進み出たのは間宵火・香雅李(BNE002096)だ。 「アザーバイドを相手にするのは初めてだなあ。強いって聞いてるし、姿形はどうあれ……」 そう言って、すっと目を細める。 「油断も容赦もしないよ」 二体のアザーバイドは立ち上がり、愛らしい仕草でリベリスタ達に駆け寄ってくる。背中の翼は使っていない。 それを確認すると、『悪夢の忘れ物』ランディ・益母(BNE001403)はバトルアックスの切っ先を天使たちに突きつける。 「この世界にゃこの世界の流儀があんだ。……お前らにはさっさと退場願うぜ!」 仲間達はその台詞を鬨の声代わりにして、走り出す。 ●金と銀 「みんな、気をつけて……!」 接近してくるアザーバイドを前に、キッカ・シュワルべ(BNE002294)が力を放った。たちまち仲間達の身体が輝き出す。『翼の加護』だ。 「シュワルベちゃん、ありがとねっ! 助かるわ!」 キッカに軽く手を振り、接近してくるアザーバイドへと最初に行動したのは『風のように』雁行 風香(BNE000451)だ。微笑む銀の少女を目指し、滑るようなグラインドで飛ぶ。同時に彼女の小太刀が力を宿し、ほんの数メートル先へと近付いたアザーバイドに叩き付けた。 「この攻撃が見切れるかしら? ついでに麻痺してしまってちょうだい!」 ソニックエッジ。それは狙い違わず銀の少女を肩口から袈裟懸けに斬りつけることに成功した。風香は息もつかさぬ速さでもう一度得物を振るおうとするが、それはするりとかわされる。が、その時には既に淡い光を纏った未明が背後から接近し、バスターソードを振り下ろしていた。 「覚悟決めなさい!」 こちらも銀の少女の肩口から袈裟懸けに傷を負わせる。命中に勇気付けられるように、未明は再度バスターソードを振るう。二撃目も同じ箇所を斬り付ける。アザーバイドの傷は更に深くなった――ところで、三撃目を避けられた。 「この世界に天使はお呼びじゃないのよ」 風香と未明の連撃を後ろから見ていたマリアムは、その様子を見てそっと微笑んだ。手の平に乗せたティーカップに形の良い唇をつけ、紅茶をすする。 「自分の世界にお帰りなさいな」 彼女の言葉と同時にティーカップが淡く輝き出す。次の瞬間、マリアムはティーカップの中からバトルアックスを抜き出し、滑らかな動作で銀のアザーバイドにその切っ先を突きつけた。翼の加護を受けた身体がふわりと地面から浮上し、彼女の闘志を否が応でも高ぶらせる。 (空を飛べるなんて夢のよう。……やる気満々で頑張らなくちゃ) そして褐色の肌をした吸血鬼の少女は、全身に死神のような闘志を纏わせた。 「よし。……俺もエンジンかけるか」 マリアムが爆砕戦気を使うのを横目で確認したランディもまた、その全身に闘志を漲らせた。ふつふつと沸いてくる眼前のアザーバイドへの敵意。燃えるようなそれを自身の攻撃力へと変化させながら、ランディは唇の端に笑みを浮かべた。 (あいにくこの世界に天使様は間に合ってんでな) アザーバイの微笑を恐怖へと変化させる事だけを考えながら、ランディはバトルアックスを握っていない方の手で拳を握った。 「ボクも頑張らないとね」 不意に二人の背後から飛行してきた香雅李が声を上げた。彼女はランディ達の脇まで飛んで来ると、地上に着地する。グリモアールをアクセスファンタズムから取り出し、眼前で戦いを繰り広げる銀色のアザーバイドへと視線を戻した。 「聞くといいよ、ボクの曲を……」 そう口にして歌い上げるのは、四種類の魔術の音楽。彼女に強大な力が集まり、合図をすると同時に銀のアザーバイドへ発射される。 四色の光は宙を駆け、地面から数メートル上に浮き上がっていた少女に次々と襲い掛かる。耳を劈くような破裂音。己の放った光を横顔に受けながら、香雅李は少女の姿を探す。立ち上った煙、その中からゆっくりと浮かび上がってきた少女の姿に、彼女は唇をかみ締めた。 「タフだねえ」 そう言ったのは、しかし香雅李ではない。デスサイズを握り締め、己の翼を羽ばたかせる『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)だ。が目を瞬かせて振り向くと、天使の名を冠した都斗はゆるくかぶりを振っているところだった。 「まったく、天使の姿をしているなら天使らしくして欲しいねえ」 そうしてデスサイズを構え、背中の翼をはためかせ――飛ぶ。 「ボクみたいにさ」 デスサイズが陽光に閃く。文字通り風を切って飛び出した都斗は、バックステップでわずかに少女から距離を取る風香と未明の脇を通り過ぎ、未だ香雅李の攻撃を浴びて身体から煙を立ち上らせる少女に接近。そのデスサイズを振り上げた。 「君らみたいな迷惑なそんざいは、地べたを這いつくばっていればいいよ」 メガクラッシュ。目もくらむような光が溢れ、ふわふわと飛んでいたアザーバイドを地面へと叩き落した。都斗の言葉通り地面に這いつくばる形になった少女は、しかし―― その口元から、笑顔は消えてはいなかった。 銀の少女が傷つけられている様子を見て、すぐに少年が立ち止まり、そちらの方へ援護に向かおうとした。しかし、 「おっと、行かせないのじゃ!」 真横から『有翼の暗殺者』アルカナ・ネーティア(BNE001393)のギャロッププレイが放たれる。少年の腕が気糸に絡め取る。目を瞬かせて自身の腕を見つめた少年は、その視線を自分を拘束しているアルカナへと向けた。 アルカナは手の平からギャロッププレイを紡ぎ出しつつ、その視線を正面から受け止め、笑む。 「お前の相手はわらわじゃよ」 そう口にしていても、少年に通じているのかどうか分からない。討伐対象である少年は、ただ目を瞬かせてアルカナを見つめ――そして酷薄に微笑んだ。その様子は新しい玩具を見つけたような顔で、アルカナは唇をかみ締める。 (……とても話が通じているようには見えないのじゃ。向こう側の世界では、意思疎通をどうやっていたのか気になる所だったのじゃがの……) しかし、今は出来ることをやるしかない。彼女がそう決意を新たにし、ちらりと背後を振り向いた。 そこにいたのはオーウェンだ。彼は静かに瞳を閉じ、その力を蓄えている。――コンセントレーション。 神経伝達物質が脳を感化させていく様子を手に取るように感じながら、彼はうっすらと瞳を開けた。そこには微笑む少年の姿。 (……誰かを獲物とみなすのならば……その反対に、狩られる覚悟もしているのであろう?) 諭すように心中で語りかける。たとえ口にして問いかけようとも、恐らく彼の言葉は少年に通じないだろう事はオーウェンにも分かっている。しかし彼の元大学教授としての性が、アザーバイドを諭す事を戸惑わせなかった。 彼の視線を受け、少年は不快そうに眉根を寄せた。そしてアルカナの気糸を引きちぎると、ふわりと浮き上がる。アルカナは小さく息を吐き、それを追うため背中の翼を羽ばたかせた。 銀の少女は周囲に群がるリベリスタ達を前に笑みを絶やさなかった。可憐とも言うべきその笑顔は、しかしリベリスタ達には恐怖しか想起させることは無かった。 それを振り払い、風香が再度攻撃を叩き込もうとする――その前に、少女は両手をかざした。 瞬間、リベリスタ達の周囲が赤く染まる。それが突如巻き起こった炎だと知れたのは一瞬後だった。 燃え盛る炎がリベリスタ達の身体を焼いた。不快な匂いが漂う。地を舐め、炎がようやく治まると、未明は唇をかみ締めて眼前のアザーバイドを見据えた。 これを耐えて、またオーララッシュを叩き込むわ――そんな風に考えた未明は、しかし少女の身体から光が去っていないことを確認して目を見開いた。まだ攻撃は終わっていないのだ。 少女は可憐に微笑みながら、もう一度両手を振った。再び、リベリスタ達の身体を灼熱の炎が焼く。 ●危機 オーウェンが川に転がり込むが、炎による攻撃を受けた傷は癒えない。じくじくと痛む両腕を押さえ、彼は歯噛みしながら立ち上がる。 「大丈夫、オーウェン?」 傍らで少女に魔曲を打ち込んでいた香雅李が声をかけてくる。彼女は火傷を負っている様子は無いが、けれどダメージだけは確実に身体を苛んでいるようだった。その表情には余裕がない。決して『大丈夫』な状態ではなかったが、オーウェンはそれでも頷き立ち上がる。 少女が放った二発の炎攻撃は、リベリスタに甚大とも呼べる被害を与えた。攻防が長引けば、身体に負った深い火傷により、恐らく戦闘を続けられなくなる者が続出するに違いない。 アルカナは飛行途中で、金の髪のアザーバイド少年を追うのをやめた。 「あついの、きらいだ……」 ゆらりと立ち上がる都斗。傍目から見ても、その身体が限界に思えたからだ。アルカナは急いで天使の息を送り込む。 「もう大丈夫じゃぞ、都斗……」 そう呟くが、けれど彼女の力は全体の被害状況から見ても微々たるものにしか過ぎない。そのことはアルカナ自身も分かっていた。 「くっ……」 彼女をじくりとした痛みが襲う。とその時、背後から襲い掛かってきたのは金髪の少年。 「! ――アルカナ!」 遠目から彼女の様子を見つめていたオーウェンが叫ぶ。次の瞬間、アルカナの首筋に噛み付いた少年。アルカナはびくりと身体を震わせると、力なく地面へと落下する。 「いい加減倒れなさいっ……!」 「全く……私よりすばしっこいなんて……!」 銀の少女の前では、未明がオーララッシュを、風香が幻影剣を使って、懸命に攻撃を繰り返している。その攻撃のほとんどは命中し、体力は確実に削っているはずだ。それでも――少女の表情からは、笑みが消えることは無かった。 「食すのはあなたたちだけの特権じゃないのよ」 背後からひらりと浮遊し、たちまち銀の少女に接近したのはマリアムだ。先ほどの二発の炎攻撃で体力を削られた彼女は、いっそ優しいと思えるほどの表情で銀の少女に噛み付いた。ヴァンパイアの吸血だ。 「チッ……てめぇ、これでも食らいやがれ!」 ランディも少女に踊りかかる。マリアムの攻撃を何とか抜け出したアザーバイドにメガクラッシュが襲い掛かった。爆発的な勢いを持った攻撃は銀のアザーバイドを地に伏せる。 「どう?」 「……殺せた、みたい」 負った傷を庇いながらやって来た都斗は、アザーバイドの息を確認しながらほうと息を吐き出した。 「よっし……あとは金の奴だけだな」 ランディがそう言って振り返る。が、そこに見たのは、オーウェンのピンポイントを受けてなお怯まない少年が、その力を繰り出し彼を吹き飛ばした瞬間だった。 「オーウェン君!」 風香が叫ぶ。吹き飛ばされたオーウェンの身体は手近な地面に叩きつけられた。ぴくりとも動かない。――いや。 「……それだけは……その状況だけは、許すわけには行かん!」 命を燃やし、立ち上がるオーウェン。彼を纏うのは静かな青い光。その静かに燃える瞳に見えているものは、少年の姿か、はたまた友人が危機に陥っている様子か。 彼が立ち上がった様子を見て胸を撫で下ろした香雅李だったが、すぐに少年へと向き直ると、手にしたランプを青く光らせた。 「後は君だけだよ!」 再度放たれる魔曲。それは確実に少年を射抜くが、けれど相手は――片割れの死体を見たのだろう――ほとんど狂ったような体で動き回る。続けられた風香と未明の攻撃を受けてもなお立ち回り、彼女たち二人をその力で吹き飛ばした。 「さ……さすがに、これ以上は無理……かも、ね」 叩きつけられた地面に蹲った風香が呟き、そのまま倒れ伏した。しかし未明は、 「……命以外は出し惜しみなし、倒れてる場合じゃないのよ……!」 オーウェンと同じく命を燃やし、再度立ち上がった。未明のフェイトが彼女自身に力を与え、身体を苛んでいた火傷を吹き飛ばし、傷を癒す。歯を食いしばって立ち上がる様子に敬意を表しながら、マリアムはメガクラッシュを放つ。マリアム自身、炎によって負った傷により息も絶え絶えだ。しかし痛みすら振り切り、彼女はバトルアックスを振り回す。 「こいつっ、噛み付くなら俺にしろよ!」 『イケメンヴァンパイア』御厨・夏栖斗(BNE000004)が作り出したかまいたちで少年を攻撃するが、怒りに震える相手は銀の少女を殺した相手しか見ていない。しかし生じた隙に、少年にデスサイズを叩きつける都斗。一撃、二撃と振り回し、そしてそこで眼前のアザーバイドが視界からかすんでいく様を見て、目を瞬かせた。 「あれ……血だ。まったく、いたいじゃない、か……」 そこで力尽きる。次々と倒れて行く仲間を見て、ランディは力を振り絞る。 「てめぇ、いい加減にしやがれ――!」 闘志と怒りを纏った一撃は少年を直撃するが、相手もまだ凶悪なまでの怒りを孕んだ瞳でランディを睨み付けている。ただ、その間に態勢を整えた未明とオーウェンは、静かにその得物を握り、互いに頷き合っていた。 「……これで終わりにしましょ」 「そうだな。……狩りも、これで終わりだ」 命を燃やし立ち上がった二人は、仲間達を傷つけたアザーバイドを睨み据え――同時に地を蹴った。 オーララッシュ。 ピンポイント。 燃え盛るようなその攻撃は、金髪の少年を確実に打ち砕いたのだった。 ●結末 香雅李はアルカナに肩を貸して立ち上がると、周囲を見回し嘆息した。戦闘不能三名。とても大勝利とは言えないが、しかし回復役が一人しかいなかったことを鑑みると、この状況はほとんど僥倖だろう。 少年に止めを刺した未明は、少し離れた場所で二体のアザーバイドを並べる形で埋葬している。ランディとマリアムは動けなくなった者に手を貸していた。 オーウェンはと言うと、未だ友人を傷つけられているビジョンから逃れられていないのだろうか。蹲ったまま、動かない。 香雅李はもう一度唇の端から息を吐くと、ゆっくりと歩き出した。仲間達を鼓舞し、彼らの帰るべき場所――アークへと帰還するために。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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