●序 『Ripper's Edge』後宮シンヤ(nBNE000600)の私兵、如月ユミとの激戦を制し、リベリスタたちが持ち帰ったもの。 それは『賢者の石』――歴史の影で魔道技術の進歩や躍進に貢献してきた存在であり、この世界との親和性が高い代物だった。 アザーバイドであり、同時にアーティファクトでもあるこの石そのものが、直接的な崩界要因とは成り得ない。 だが石は周囲の物質や現象に増殖性革醒現象をもたらすことで、大きな変革をもたらすのだ。 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)がシンヤに囚われてる間、彼自身と『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)との対話で得た情報は、事態を深刻なものだと認識させるに十分足りた。 アシュレイの話す『大規模儀式』の存在、『穴を開ける』という目的から、彼等が単に研究の為に賢者の石の獲得を目指しているとは到底考えられない。 幸い、恐山会の『バランス感覚の男』千堂遼一(nBNE000601)から情報提供を受け、リベリスタたちの持ち帰った石の解析を進めた結果。万華システムでの探知位が可能になった。 立ち塞がる障害を、敵を、罠を、手持ちのリベリスタで薙ぎ払うための一斉動員をかける。 ――彼らより先んじて『賢者の石』を回収すると、アーク本部は決断したのだった。 アークと後宮派の激突。それとアークに協力を申し出てきた他派のフィクサードたち。 彼らの狙いも、同じく石の確保だと容易に想像できる。 相互に不可侵な状況でも、決して油断できない存在となるだろう。 『賢者の石』を巡る戦いが今、各地で幕を開ける――。 ●依頼 「依頼は青木ヶ原樹海の深奥部に発生する『賢者の石』の確保。これが最優先」 集まったリベリスタたちに『リング・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はまず任務の結論を述べ、そこから淡々と説明を始めた。 「樹海にいる敵の数は30名程度。殆どは駆け出しのフィクサードだから、余裕で相手できると思うけど。問題なのが二人」 ひとりは学生風のソードミラージュ、竜潜拓馬(りゅうせん・たくま)。 もうひとりは傭兵のクロスイージス、佐伯天正(さえき・てんしょう)。 シンヤの配下の中で、共に精鋭クラスに近い実力を持つ。 「彼らはそれぞれ半数ずつの手勢を率いて行動してる」 リベリスタたちに彼らの進軍ルートについて、映像と共に解説する。 ふたつの集団は一定の距離を保って前後に展開しながら、賢者の石の波動を追って樹海を進んでいった。 天正は前方向で策敵しながら前進し、拓馬はその後方で援護に回る戦術のようだ。 「私たちが有利な点はふたつ。ひとつは彼らよりも正確に『賢者の石』まで辿り付けること」 如何に彼らが多数であっても、情報の的確さでは万華システムを駆使するアークが圧倒的に優位に立つ。 一同が最短距離で『賢者の石』を目指せば、最初に目的地へ辿り付ける事は間違いない――ただし、樹海で迷わなければ。 「もうひとつ。彼らはそれぞれ理由があってシンヤに属しているけれど、盲目的に命を賭けるほどの使命感は持ち合わせてないの」 拓馬は雇われた一匹狼のフィクサードで、天正は元々戦場を渡り歩く傭兵。 共にシンヤへの忠誠心で作戦に参加している訳ではなかった。 つまり戦況次第では手を引く可能性もある、ということを意味する。 「必ず敵を倒す必要はないし、どうするかは一任。ただし、石の確保だけは確実に」 彼らに先んじて『賢者の石』を手に入れたとしても、樹海を出るまで気の抜けない状況が続きそうな依頼だと確認し、リベリスタたちは頷いた。 ●承前 富士山麓、青木ヶ原樹海――。 樹海の広さは30平方キロメートルで、これは山手線内の面積に匹敵する。 名前だけを聞くと『自殺の名所』の連想を抱きがちだが、実際は近くにキャンプ場や公園、青木ヶ原を通り抜けられる遊歩道が整備されていて、森林浴に最適な場所だ。 森と湖、富士山からなる景観も大変美しく、しかも東京圏から容易に行けることもあり、普段は人気の高い観光地スポットでもある。 磁場が安定していない、GPSが使えないという噂もあるが、それも単なる俗説に過ぎない。 方位磁石を使ってもせいぜい1~2度狂う程度だし、携帯電話も近郊に基地局ができてから、多少電波の通りが悪いだけで収まっている。 だか遊歩道を外れて森に入り、しばらく歩けば360度どこを見ても木しかなく、特徴のない似たような風景が続き、様々な俗説が真実味を帯びてゆく。 また足場が悪くまっすぐ進めないため、なかなか元いた場所へは戻れなくなることが多い。 もっとも何処の森の奥でも、この条件は似たようなものだが……。 樹海の中を行軍する数多くの男達がいた。 誰もが剣や槍、銃器などの武装をしていて衣服に統一性がなく、傭兵ともならず者とも違う異様さがあった。 「……あの女はどうした?」 先頭近くを歩く隣の迷彩服を着た天正が、後ろの学生服姿の拓馬に声をかける。 「合流ポイントに来なかった。この任務には俺たちだけで当たれということだろう」 「まぁ、構わん。どうせ他がいようがいまいが、どのみち大して変わりはない」 天正は切り捨てるように告げ、自身の手勢と共に進み始めた。拓馬は静かに頷き返す。 「行くぞ。天正たちの先導に続け」 集団はふたつに別れ、樹海の深奥へと消えていく。 木々の重なり合う風の音だけがする薄暗い樹海で、争奪戦が幕を開ける――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月27日(日)22:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●先行 青木ヶ原樹海――。 その中を疾風の様な速度で、突き進む影が2つあった。 1つは樹海の木々の上スレスレの位置で飛翔し、後ろのもう1つの影を先導する『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)。 そしてもう1つの影は、先導する亘を追って疾走を続ける『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)である。 2人は出来得る限りの速度で樹海の中心を目指して直走っていた。 彼等の目的は、樹海の中央に発生する『賢者の石』の回収。 同じく反対側から回収へと向かっている後宮シンヤの兵隊達に先んじて、石を持ち帰る事。 単純に30人のフィクサード達と正面から激突すれば、リベリスタ達が全滅になりかねない。 加えて、シンヤ派の兵隊達を指揮する竜潜拓馬(りゅうせん・たくま)と佐伯天正(さえき・てんしょう)は実力派のフィクサードとして知られている。 彼等を出し抜く為に、リベリスタ達はある一計を事前に案じていた。 先行する亘、アッシュと別に、『賢者の石』の発生地点へ『飛常識』歪崎行方(BNE001422)が怪しげな笑みを浮かべて移動を続けている。 「さてさて森の鬼ごっこ。鬼が出るか蛇が出るか、はたまた死人が出るかデスネ」 一方、『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は鬱蒼とした樹海の途中にいた。 「敵の数が多い上、2隊に分かれて行動ですか……」 肩をすくめた星龍は、周囲の警戒に当たりながら森の中で作業を続ける仲間達に目を向ける。 地図とGPSを照らし合わせ、念入りにルートを確認してから印を入れている風見七花(BNE003013)の姿があった。 「この辺りが良いでしょう」 そう言って頷くと、七花は足止め用のトラップとしてワイヤーを張り巡らせていく。 『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)はその隣で罠の作成を手伝っていた。 「なるほど。ワイヤーを使った罠でありますか」 感心したように頷きながら、彼自身は七花の指示に従って蔦を結び合わせた罠を作成している。 七花と同じように『侠気の盾』祭義弘(BNE000763)も木々の間に器用にワイヤーを通し、足止めの策を講じていた。 「『賢者の石』か……俺たちが言うのもなんだが、随分と場違いな物が出てきたもんだ」 呟きながら義弘は、警戒に当っていた『鋼鉄の戦巫女』村上真琴(BNE002654)へと視線を向ける。 真琴は義弘の視線に気がつくと、応じた様子で軽く頷き返した。 「曰く付きの名所として知られる此処に出現したというのも、何か引き寄せるものがあったということでしょうか?」 ふと疑問に思った真琴が、誰ともなく尋ねる。 その問いに誰かが返答するよりも早く、一行へとアクセス・ファンタズムの通信が飛び込んできた。 「天風です。石を確保しました、後は作戦通りお願いします」 ●遭遇 ラインハルトはかねてからの打ち合わせ通り、1度目で敵を罠へ誘い込む為の、2度目でアッシュ達に自分達の位置を確認させる為の照明弾を放つ。 それからしばらくして、アッシュと亘が2回目の照明弾へと真っ直ぐ駆け込んで一行に合流して来る。 まだまだ余力を残したアッシュは、余裕の笑みを浮かべていた。 「自分の速度に絶対の自信、ねえ……本当かどうか」 肩をすくめるようにし、大きく伸びをしてストレッチを行う。 待機していた一行に、亘はこれまでの動向を簡単に報告した。 そのまま真っ直ぐ移動を開始した2人に、七花は声をかけて見送った。 「ライトニングさん、天風さんも道中お気をつけて」 2人が去ってからしばらく、次に合流地点まで姿を現したのは行方だった。 彼女の偵察によれば、集団は天正1人が指揮したまま中央地点を越え、まっすぐ罠のポイントへと向かっている。 拓馬の姿は何処にも見かける事はなかったらしい。 行方の予測した時間とほぼ変わらず、迷彩服を着た天正を先頭にして、兵隊達は散会した隊形て罠のポイントへと現れた。 注意深く辺りを伺いながら、天正が配下に策敵を指示する。 配下の何人かが七花の仕掛けた落とし穴へと落ち、ワイヤーに引っかかり蔓に足を取られて転倒した。 それを見た天正は指先で配下達に合図を送り、自分を先頭に縦列隊形にさせた事で、罠を交わして進軍を再開する。 やがてその隊列は、待ち構えた一行にも視認できる位置までに接近してきた。 合わせて星龍、真琴、ラインハルト、行方、義弘がそれぞれ自分達を強化するべく精神を集中させる。 後方に位置した七花から一筋の稲妻が放たれ、兵隊の何人かがその場で感電して動けなくなる。 その稲妻を無視した天正はリベリスタ達を視認すると、十字を切って配下達に加護と力を付与していく。 「うろたえるな! いつもの通りに戦え!!」 天正の叱咤に何人かの感電の呪縛は解き放たれ、縦列隊形から3人ずつが一塊になって散会を始める。 最後尾に位置していた2つの塊は後方の木陰へとそれぞれ入り、距離を取ったまま七花と同じように稲妻をリベリスタ達へと投げ掛けて手傷を与えていた。 星龍は稲妻に顔を顰め、敵の最後衛が隠れた木陰へ回り込もうと、持ち場から一旦離れる。 「やれやれ面倒なことです」 数では圧倒的に不利なリベリスタ達にとって、全体攻撃の目がある敵は先に殲滅しておかなくてはならない。 突然、行方が縦列の脇へと飛び出して行き、フィクサード達を挑発する様に構える。 「アハ、さあさあ皆さん鬼さんこちら」 両手に肉斬り包丁を構えた行方の縦列越しでは、同じ様に真琴が兵隊達の引き付けに掛かっていた。 「ここから先へは行かせません!」 輝くオーラが真琴の身体を覆い、護りの力が漲っていく。 ラインハルトは天正を七花達へ向かわせない様に接近しつつ、十字の光を天正へと浴びせる。 「境界最終防衛機構、ラインハルトであります。ここから先は一歩たりと進ませません!」 そう宣言したラインハルトと並ぶようにして、義弘も天正へと接近していた。 「シンヤ派に『賢者の石』を渡す訳にはいかないな」 義弘はラインハルトに合わせる様に十字の光を天正へと放つ。 その二重の十字の光を悉く正面から受け止めたにも関わらず、天正は何ら動じることなく自らの力を全身へと覆わせていく。 「よかろう、ワシの鉄槌に耐え切れる器かどうか……試してやる」 その背中から身長を超える巨大な鉄槌を抜き、天正は不敵な笑みを浮かべた。 ●追撃 既に合流地点からかなりの位置まで、アッシュと亘は樹海の中を移動している。 これまではフィクサードがやってくる気配は感じられない。 走りつつも少し拍子抜けしたように、アッシュは周囲を見回す。 「この地点から俺様を抜ける奴なんざ……」 言いかけた彼自身の持つ獣の因子が、前方から襲う危険に反応して走りを止めさせた。 亘もアッシュの異変と前方上空の異質な気配に気づき、動きを止めて警戒する。 「……気づいたか。なかなかだな」 2人の前方上空に、背中の龍の翼を羽ばたかせる拓馬が既に待ち構えていたのだ。 学生服姿の拓馬を見て、アッシュの前へと進み出た亘がナイフを抜いて構えに入る。 「竜潜さん初めまして、天風亘と申します」 挨拶する亘の動きとは対照的に、アッシュが少しずつ拓馬と距離を取り始めていた。 拓馬がそれに気づいて前に進み出ようとすると、亘が浮き上がって進行方向へと立ち塞がる。 「……たった一人で、この俺の速さが止められるとでも?」 少し面白そうに拓馬は呟き、腰に下げた小太刀を抜き放つ。 アッシュは周囲を視線だけで見回し、拓馬の他にフィクサードの気配がない事を確認した。 「確かにてめえは速いのかもな。だが、一人だ」 ゆっくりと間合いを広げ、スタートダッシュのタイミングを図る。 「一人じゃ俺様は超えられねえ、今からそれを証明してやるぜ!」 言い切るや否や、先手を取ろうと走り出すアッシュ。 しかしそれよりも僅かに速く反応した拓馬が、高速で跳躍して木々を蹴り角度を変えた斬撃をアッシュへと叩き込む。 想定以上の速さに対処できず、アッシュの肩口は深々と斬り裂かれた。しかしその苦痛に耐え切ると、全力で逃走を始める。 僅かに遅れて反応した亘が拓馬へと飛翔し、澱みのない連続したナイフの突きを入れた。 「悪いですが……ここで落ちて貰いますよ」 亘の繰り出すナイフを小太刀で受けにかかるが、予想外の速度に捌ききれずに手傷を負う。 その一方で、アッシュが革醒者でも驚く程の速さで距離を広げていく。 拓馬は目の前の亘を先に片付ける事を選択していた。 「全力で相手しなければ、間に合わなさそうだ」 久々に渾身の速さで相手取れる敵達に、拓馬は少しだけ嬉しさを滲ませている。 その小太刀の切っ先を水平に構え、亘へと華麗にして瀟洒なる無数の刺突を繰り出す。 亘は咄嗟に防御姿勢を取ったものの、まるで光の飛沫が散る様な拓馬の速さに対処しきれず、忽ち身体の数箇所を切り裂かれていく。 「絶対にここは通しません。もうすぐ援軍も来ます」 手傷を受けながらも揺さぶりを掛ける亘の言葉に、拓馬は平然と言いのける。 「何、天正を短時間で撃破できる相手はそういない。時間はある……」 ●激戦 リベリスタとフィクサードの兵隊達の争いは、熾烈さを増していく。 互いに足場が悪く遮蔽も多い事から、普段よりも攻撃を当て辛い状況下にあり、普段よりも時間を要していた。 数の上では圧倒的な優位に立っていたフィクサード達だが、事前にリベリスタが仕掛けた罠の数々が、効率良く全員が攻撃に回ることを阻害している。 両サイドから挟み込むように位置している行方と真琴は、罠で身動きの取れない兵隊達を無視し、それぞれがフリーとなっているフィクサードを1人ずつ片付けていた。 狂ったように笑みを撒き散らす行方は、闘気の込められた肉切り包丁を奮って敵を吹き飛ばしていく。 「森で出会えど都市伝説。鬼と伝説の刻み合い殺し合いデスヨ。アハハハハ!」 狂気を帯びた行方の言動にも関わらず、怯まなかったフィクサード達は複数が必ず同時に反撃する事で、その動きを封じに掛かる。 向かい側の真琴は全身の膂力を込めた一撃を、1人ずつへと確実に仕掛けていった。 「……手古摺らせる」 真琴がそう呟いたのは、敵も自分達と同様に防御を強化し、1人倒すのにも普段より手数を必要としていた為だ。 後方から七花の稲妻がそれに呼応して援護に入るものの、同様に相手側からの稲妻がリベリスタ達を襲い、消耗戦の様相を呈してきている。 「このままでは……」 七花が危惧した通りになれば、数の上で不利なリベリスタにやや分が悪い。 一方、星龍は大きく迂回したルートで、最後尾のマグメイガス達へと接近していた。 敵の全体攻撃を先に阻止した側が戦況で優位に立つ。そう判断していたからだ。 「やれやれ、面倒なことです」 手早く狙撃ポイントを見極めてライフルを構えると、後方で稲妻を飛ばす相手へと弾丸を放つ。 その一撃はフィクサードの身体を貫き、激しい出血を与えた。 別方向からの攻撃に気づいた最後尾の魔術師達は、狙いを全体から星龍へと切り替え、立て続けに魔力の弾丸を飛ばす。 激しい射撃戦となって双方が深手を負ったものの、運命を味方に付けた星龍は弛まずに射撃を続け、やがて相手は完全に沈黙した。 だが2人のマグメイガスが放つ弾丸を全て引き受けたことで、星龍の体力も限界近くにまで追い込まれている。 「これでしばらく戦線は持つでしょう……」 一度後退して木陰へと身体を沈め、傷を抑えつつも援護射撃を続けていく。 ラインハルトと義弘は、完全に天正1人へ掛かりきりとなっていた。 クロスイージス達とあって簡単に沈みはしないが、それでも実力が上回る天正相手にかなり苦戦を強いられている。 天正は幾度となく、目の前へと両手にしていた巨大な鉄の塊を振り下ろしてきた。 「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 一点の曇りもなく鮮烈に輝いた鉄槌。 それは義弘とラインハルトの事前の防護すら跳ね除け、幾度も地面へと跪かせていた。 並のリベリスタでは致命傷になる一撃を何度も喰らい続け、それでも2人は自らの役割を貫く姿勢を崩さない。 「俺は壁だ。眼前に立ち塞がる壁になってやる!」 義弘が気迫に満ちた叫びと共に起き上がり、続いたラインハルトも立ち上がって防御姿勢を取った。 「諦めろ……オマエにもう勝ち目はない」 拓馬は目前で血塗れの状態で立ち上がろうとする亘に、冷たく突き放すように告げる。 だが亘に諦めた気配はない。それどころか、小さく笑ったようにも見えた。 (泥臭く、這いずり満身創痍でも。一分一秒でも……時間を稼ぐ……) 幾度となく拓馬の刺突を受け、亘は出血で朦朧となりながらも、運命を引き入れて踏み止まっている。 もう何度となく、ナイフでの連続攻撃を放ってはいたが、拓馬を追い詰めるに至らなかった。 速さが決して相手より格段に劣っている訳ではない。 光が飛び散る様な拓馬の刺突の連続と比べ、一撃一撃に威力の差があり過ぎたのだ。 一方で小太刀を構え直した拓馬は、ふと疑問に思う。 目の前の亘はその命を散らしてでも、拓馬を食い止めようとする――それは、何故なのか。 「……オマエは、何故こうまでして俺を止めようとする?」 不意に訪れた質問に、亘は朦朧とした意識の中で答えを探す。 『賢者の石』を奪還する。これがアークからの任務だからなのか。 世界に崩界を齎そうとするフィクサードを戦うのが、リベリスタの使命だからか。 いや違う。 その答えは自分の心の中で純粋に思っているもの――。 「はは、こんな状態でも……最速を誇りとする者同士、もっと戦いたい、そう思う自分はおかしいでしょうか?」 亘の答えに、拓馬はハッとなり目を細める。 それはかつての自分が相手に向かって答えた言葉と、然程変わりがなかったからだった。 「どうやらオマエも、俺と同じで生き急ぐ性質(たち)の様だな……」 小さく息を吐いた拓馬が、水平に小太刀を構え直す。 亘が朦朧とした意識を立て直し、次撃に備えて目の前の相手へと視線を向ける――が、そこには誰もいない。 直ぐ後ろから拓馬の声が聞こえる。目を離した一瞬で彼は亘の背後を取っていたのだ。 「天風亘……手間取らせたが、これで終わりだ」 その刹那。後頭部に激しい衝撃が伝わり、亘の意識は弾けた。 ●撤退 「ミッション・コンプリート。この地点から俺様を抜ける奴なんざ居ねえよ。出直しな!!」 アクセス・ファンタズム越しに、樹海を抜け出たアッシュからの高らかな宣言が響く。 その声は拓馬や天正達にも伝わっていた。 天正は目の前へと振り下ろそうとした鉄槌を止め、小さく息を吐く。 ラインハルトは呼吸を整えるようにして、天正へと問い掛ける。 「この競争、私達の勝ちであります。それでもまだ、この不毛な戦いを続けるでありますか?」 そう言いつつも、度重なる強大な鉄槌を喰らい続けたラインハルトと義弘の体力は、既に限界に近い所まで追い詰められていた。 鉄槌を背中に収めた天正は片手を上げて指先を軽く2回振り、その合図と共に戦闘を続けていたフィクサード達の動きが止まる。 「……仕方あるまい。撤退だな」 リベリスタ達に更なる追撃がないかを見極め、フィクサード達は慎重に後退を始めていく。 「よく2人だけでワシの攻撃を凌ぎきったものだ。もしオマエの仲間の報告が、もう少しでも遅れていれば……」 皆まで言わずとも理解できていた。恐らく天正によって彼等は倒され、戦線が崩れた事で仲間も危機に瀕していただろう。 「運が良いのは、戦場で生き残るには大きな要素だ。その運を大事にな!」 殿となった天正もやがて後退し、樹海に静寂が再び戻る。 一同は往々にして大きく息を吐き、その場へと座り込んでいた。 そんな中、行方だけが状況に不釣合いな程の明るさでフィクサード達を見送る。 「さて、名残惜しくはあるデスガ本日はこれまで。またの機会にさようなら、アハハ」 樹海の入口近く、散歩道から程近い場所。 亘は大きな木を背にしたまま、座るようにして気を失っている。 木々はそれぞれの葉が重なり合う小波の音を、いつまでも奏で続けていた。 まるで拓馬の猛攻を最後まで凌ぎきった、彼の小さな勝利へ拍手を贈るかの様に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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