●ケンジャの×× 「『賢者の石』――lapidis philosophorum。哲学者の石、万能薬(エリクサー)、錬金薬液(エリクシル)、染色液(テインクトゥス)。 卑金属を金へ、人間を不老不死へ。ご存知の方も多いかと思いますが、遥か古より語り継がれる伝説にして奇跡の魔石の事ですぞ」 そう言って事務椅子をくるんと回し振り返ったのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)。 いつもの様子。だが、瞳の奥には真剣さを孕ませて集まったリベリスタ達を見渡した。 「『賢者の石』はアザーバイドにしてアーティファクト、それ自体は周囲の物質や現象に増殖性革醒現象を齎しますが、本体そのものは直接的な崩界要因には成り得ません。 魔道技術の進歩や躍進に貢献してきた代物でこの世界との親和性が高いようでして――通常の調整で万華鏡の察知にかけるのは中々難しい、とは真白室長の仰っていた事なのですが。 取り敢えず、まぁ、ザックリ説明してゆきましょう。耳かっぽじってお聴き下さい」 と、メルクリィは視線で卓上の資料を示す。先日の依頼報告書のコピーだ。参考がてら目を通しておけとの事なのだろう。 「先日、アークのリベリスタ皆々様が『賢者の石』を入手しましたぞ、ってのはご存知ですね。 で、その『賢者の石』をアーク研究開発室の皆々様が調査なさいました。その結果――なーんと、『賢者の石』その波長と反応のパターンを割り出して万華鏡にフィードする事が出来たのですよ! つまり今まで視難かった『賢者の石』を楽~に視れるようになったワケですぞ。 ……しかも、何故か奇跡である筈の『賢者の石』が現在大量発生中。崩界が進んでいる所為だからでしょうか。目下調査中ですけどね」 サテ。機械男がゆっくりとした動作で組んだ膝の上に掌を重ねる。その背後モニターには――いつの間にやらアシュレイと『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)の画像が映っていた。 「『大規模儀式』の存在、『穴を開ける』という目的。アシュレイ様がカルナ様にお伝えした情報でございます。 詳細は不明ですが――おそらく。使うつもりなのでしょうな、『賢者の石』を。 千堂様情報によればシンヤ様一派も動き出しているとか。 ……フフ、そろそろお分かりですよね?」 フォーチュナの不敵な笑み。頷くリベリスタ。 『賢者の石が捜索できる様になった』 『賢者の石が大量発生している』 『アシュレイやシンヤ達が賢者の石を良からぬ事に用いようとしている』 考えられる事は、たった一つ。 「皆々様! ――日本中に散らばった『賢者の石』という『賢者の石』を片っ端からゲットして下さい!! それこそが今回の皆々様の任務ですぞ。 『賢者の石』をゲットすればするほどシンヤ様達の予定を挫けます。ダイレクト嫌がらせです。やるっきゃないですな。 しかもそれだけじゃあなくって、アーク設備や装備のパワーアップが望めるかもしれんのですよ。一石二鳥三鳥ですな。 …… と こ ろ が !!」 メルクリィが人差し指を立てて言葉を区切る。 「『恐山』とアークが協定を結んでる事はもう御存知でしょう。で、千堂様は新たに『逆凪』『剣林』『三尋木』とも話を通したとか。 この三派は我々の友軍です、一緒に『賢者の石』を探してゲットしてくれます が どっこい『戦力拠出についての協定と利益配分の協定』はこの三派とはナシ、つまり彼らは『自組織に賢者の石を齎す事』しか考えません! 指揮系統も別、信頼は危険、でもアークとはお互いに不可侵の立場――はい、ぶっちゃけ『対抗相手』ですぞ! 出し抜かれないようにくれぐれも注意して下さいね。ですが、上手く利用すれば戦いや状況を優位に進められるかもしれません。 やられる前にやってまえ、脳味噌も筋肉もフル活用必至ですぞー。 まぁ『一応』友軍ですので、彼等も必要に駆られればシンヤ様派と真面目に戦ってくれるかもしれませんが。あ、期待は駄目ですぞだからといって。油断は絶対NGですぞ」 つまり、アークVSシンヤ派VSフィクサード達の三つ巴争奪戦――気は抜けない。リベリスタの表情が緊張に引き締まった。 それを見渡し、メルクリィはモニターを操作する。操作しながら言う。 「ではでは! そうと決まれば早速、私が『視た』モノをご覧いただきましょうか――」 ●ヒラメキキラメキ 「――見付けたぞ! 『賢者の石』だッ」 真夜中のゴミ処理場、埋立地、人気の無いそこで、羽の生えた者達は其処彼処。 その内の一人が満月に掲げるのは、溢れ出る鮮血の様に真っ赤な石で。 「隙アリなのダワーーー!!」 瞬間、転がっていた冷蔵庫がド派手に開いて。 電球頭の怪人物が飛び出してきて――同時、迸る気糸、刎ね飛ばされる指、悲鳴、血液、落ちる赤は液体と固体―― カランカラン、落ちる赤。 ボトリボトリ、落ちる指。 「な、何だ貴様ら!」 息巻く羽集団、へらへら電球人物。 「ハーイドゥーファッキン、後宮のマゴット共。それは『三尋木』の……我らがビッグ・マムのモノなのダワー。 ビッグ・マムのモノはビッグ・マムのモノ、三千世界の有象無象もビッグ・マムのモノなのダワー。これ常識認識荒唐無稽にイグザクトリーなのダワー」 ドゥー、ユー、アンダー、スタン? なのダワー。 現れた電球人物は自らの電球頭をコツコツと、指で突っつきへらついた声。 「貴様ァア! それはシンヤ様の――」 「ヤッテオシマイなのダワー!!」 武器を構えた一人を遮り、電球は集団を指差す。 瞬間、そこを荒れ狂ったのは一条の雷。厳然たる聖光。 電球の左右に並ぶ二人の巨漢。それに加え、更に5人が立ち並ぶ。 奇襲に乱れる羽集団。 目配せし合う三尋木派。 「さてさてとっとと賢者の石をゲットしてアラホラサッサとスタコラサッサなのダワー!」 「合点了解!!」 「全ては我等がビッグ・マムの為になのダワー!」 動き出す八人。貴様等よくも、逃がすか、怒気を露わに翼を翻し、襲いかかる大量の人影。 電球が、笑った様な気がした―― 「――オヤ! そこに居るのはもしかしなくってもアークの連中なのダワー!? ウレピー! ウチらを助けに来てくれたのダワーーっ!!!」 ズビシ、ワザとらしーく指差して。 ●出し抜き出し抜け 「ハイそんな訳でして。今回、皆々様には『三尋木一派とシンヤ様一派を出し抜きつつ賢者の石をゲット』して頂きますぞ。 早速ですが諸々の情報をば」 そう言ってメルクリィはモニターを操作した。ズーム固定されるのは電球人物と二人の巨漢、更に三人の男。なんともヘンテコな奴らだが……。 「穏健派『三尋木』。この八人はそれに属するフィクサード達です。穏健派らしく、戦闘は最低限にスマートに……という連中なのですが」 取り敢えずザックリ説明してきますね、と機械の指で示すのは電球頭。 「『発光脳髄』阮高同(グエン・カオ・ドン)。メタルフレーム×プロアデプトで、ボスである三尋木にゾッコンなんだとか。 へらへらしてて何かアレな奴ですが油断なさらず! 結構な切れ者です、この人。独自技も持ってますしね、侮っちゃあ駄目ですぞ。 それからこの二人」 と、指で示すのは例の巨漢達。 「『右の双塔』ドカン、『左の双塔』ボカン。それぞれジーニアス×ホーリーメイガス、ジーニアス×マグメイガスですぞ。 同様直属の部下で双子だそうです。クリソツですな。基本的に寡黙でクールな漢達ですぞ。 残りの五人は三尋木派の構成員、実力はそこそこなモノですぞ」 そして。次にモニターに現れたのは、羽の生えた30人ばかりの集団。 「後宮シンヤ様の兵隊、フィクサード集団『フライハイ』です。 30人から成るフライエンジェのフィクサード集団でして、ジョブは色々ですぞ。でも、一人一人が滅茶苦茶強いってわけでもないです。まぁ油断は禁物ですが。 詳しくはそこの資料に纏めておきましたんで、暇な時にでもご覧下さい」 言いながら機械男がモニターを操作すれば、広大なゴミ埋め立て地が映し出される。様々なゴミが広がっている……足場は良いとは言えないだろう。星明かりや遠くからの街明かりで戦闘に問題はなさそうだが。 「それじゃ状況についてザーックリと。 『フライハイ』達はここで『賢者の石』を探しておりました。で、見付けました。それを三尋木派ズに妨害されちゃいました。 当然、『こんちきー』ですよシンヤ様一派ズは。で、……侮れないんですが同様、『きっとアークが来るだろう、万華鏡で見てるだろう』って直感してらっしゃるみたいでして。 まぁ、共闘を吹っ掛けて来るでしょうねぇ。口だけは。油断してたら皆々様が戦闘に夢中になってる間に石を見付けてトンズラしますぞ。 あと彼ら、いっそ清々しいほど完ッッ全に戦闘を皆々様に押し付けるつもりです。 ……で、こんな未来が見えてるのですよ」 メルクリィが電球頭の画像を再生した―― 『お疲れ様なのダワー。これやるから賢者の石はウチに頂戴なのダワー。 別に賢者の石が一個ぐらいウチにあったって問題無いのダワー? ウチは穏健派なのダワ~? 世界征服とかしないのダワー。 ……え? 『これやる』のコレ? んっふふふ、コレはねぇ、コレはねぇ。とっても素敵なアーティファクトなのダワー。 『プルートゥの囁き』――失ったものを一つだけ取り戻せる。どう? どう? 魅力的なのダワー?』 欲しいでしょ。欲しいでしょ。 賢者の石よかウンと欲しいでしょ。 さぁ さぁ 思い出して御覧なさいよ 大切だったモノ。もう手の届かないモノ。 あの笑顔。あの温もり。 帰って来るのよ、貴方のモトに。 『富める者』(プルートゥ)はきっと叶えてくれる。 「…………。」 メルクリィは無言だった。無表情だった。 「アーティファクト『プルートゥの囁き』……謎塗れの黒い宝玉です。 砕く事で『失ったものを一つだけ取り戻せる』と伝えられているそうですが……真実かどうかは分かりません。全ては『同が言った言葉』なのですから。 『失ったもの』が何を指すのか、どの様な過程を経れば『失った』事になるのか、ひたすら分からない事ばかりなのです。 同様はこれを交渉の道具に使ってくるでしょうな。」 それは、ああ。なんて、悪魔。 心の弱い所にそっと囁きかける。冥府の囁き。誘惑。 「気持ちは分かりますぞ。分かります。 ですがどうか忘れないで下さい。皆々様の任務を。 それから『穏健派『三尋木』はアークとは不可侵の立場にある為、こちらも向こうも攻撃は出来ません』と いう 事も、……お忘れなく」 後半に従って言い難そうに。私情を徹底的に殺せ、任務の事だけを考えろ、とリベリスタ達へ言っている様な心地がして――自分自身に嫌悪感を覚えているのだろう、このフォーチュナは。 長い溜息。顔を上げて、いつもの調子で機械男は言う。口角を擡げ、低い声で言い放った。 「それでは皆々様、行ってらっしゃいませ! ……どうかご無事で。 どうか、お気を付けて。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月27日(日)22:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ゴミゴミとしたゴミの中で キザな男なら気の利いたアルコール片手にこう言うのだろう、「君の方が奇麗だよ」――遠くの遙かな街灯り。摩天楼。散りばめられた幾つものライト。煌めく夜景を眼下に。 ところがどっこいここはゴミ処理場、そして……戦場。 「こう、勧善懲悪! とかとにかく倒す! とかやったらえぇけど……敵対組織と共闘やから、仲良くしつつ騙して任務遂行してね☆ いうんはどうも苦手やね」 遥かな夜空に吐き出す紫煙、愚痴。 まぁ受けた依頼や、できる限り精一杯頑張ってこか。銜え煙草の『イエローシグナル』依代 椿(BNE000728)は脳を卓越した集中状態へ高めると共に、愛銃ラヴ&ピースメーカーをその手の中でくるりと回す。 その反対側の手、そして橙色の視線先には鮮血を固めて作り上げたかの様な真っ赤な真っ赤な――賢者の石、の、ダミーが。 当然偽物なので本物の様に魔力の波紋を感じ取れないが攪乱には使えるか。仲間達とダミーの確認を行い懐へ仕舞い込む。 「なんか厄介な状況ですが出し抜いて石を確保できるようがんばるのですよー」 言葉と共にアゼル ランカード(BNE001806)の加護が皆に翼を与えた。「これで足場は問題ないのですよー」と彼が言う通り、ゴミが詰まれた不安定な足場に対する心配は最早不要だろう。 ありがとよアゼル。そう笑いかけたのは白獅子が如くの白髪を夜風に靡かせる『白夜を劈く』雷鳥・タヴリチェスキー(BNE000552)。Людмила четвергを手に、しかし表情はすぐ引き締められたものと変わる。 現場にはもう直に到着するだろう。喧噪が聞こえてくる。 居るのだろう、シンヤの兵隊が。名ばかりの友軍が。奇跡の赤石が、富める者が。 「失ったモノを一つだけだなんて、舐めてもらっちゃあ困る。そんなもの多過ぎて、普通選べやしないだろ」 白獅子の脳裏に過ぎるのは『悪夢の日』――護れなかった戦友達。もう居ない人達。 木曜日のリュドミラを握り締めるその手に指に力が籠もる。 雷鳥の言葉に『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)は遙かな星空を黙って仰いだ。 回顧すれば失ったモノは数知れず。正に今、彼の赤眼に映る星々の煌めきほどに。 然し、と源一郎は思う――取り戻そうと言えばまた異なる話。目を閉じる。黒い視界。 「努々忘れるなかれ、我らは今を生きるのだ。懐旧の念に囚われてはならぬ」 言葉と共に開いた赤の眼光に迷いは無い。歩みに躊躇は無い。 行く手を阻む者が多すぎた。だから我が道を貫くようになった。 もし彼等を上手くあしらう器量が己にあったなら? きっと今の『古賀・源一郎』は居らず、『彼』は別の道を歩んでいた事だろう。 それでも彼は否定しない。『彼』を羨ましいとも思わない。思った事も無い。 寧ろ。 「――我は満足している。 良き仲間を得た。良き戦友を得た。大切な『とも』も得た。 それらに背を向ける事が如何して出来ようか。」 彼には『今』がある。それ以上でもそれ以下でもない。そして同時にそれは源一郎にとって『それ以上でありそれ以上』の宝物であった。 徐々に人影が見えてくる。幾つもの革醒者達、声、閃光、雷撃。 かくして電球頭がこっちを見る―― 「オヤ! そこに居るのはもしかしなくてもアークの連中なのダワー!?」 ズビシ、ワザとらしーく指差して。 ●乱れ乱れる大乱闘! 電球頭。三尋木一派。 羽集団。シンヤ一派。 落ちて転がって行った賢者の石はどこへやら、同が指差した事でフライハイ達の視線×30はアークのリベリスタへ。 「アークのリベリスタのお仕事、初体験なんですよねぇ。その割には結構に刺激的っぽい感じでクセになりそう♪」 軽いノリ。真面目にやってると思われるのもアレだし。セレア・アレイン(BNE003170)は向けられる殺気にニヤニヤ笑いを返しながら詠唱を始めた。 「目の前の相手をぶちのめす。単純明快、判りやすくていいわね!」 構築された魔は火柱。フライハイを狙って先ずは一発。 へらへら、しかしその心は冷静真面目――実際はそんなに単純な話じゃない事ぐらい重々承知している。これはピクニックやゲームじゃないのだ。 (競争相手にバカが居ると思わせとくほうがいいでしょ?) 魔炎に飛び下がり、散開し、飛びかかってくる敵を見据えて。動き始めた戦場を見澄まして。 「美味しい匂い探すれす。美味しい石探すれす」 リベリスタ達も動き出す。同がフライハイ達の注意をこっちに向けた所為で殆どの敵が襲いかかってくる……その最中『髪の毛お化け』マク・アヌ(BNE003173)は自由奔放に賢者の石を探し始めた。 (マクアヌ戦う弱いれす……) 常識のトんだ頭はただ一つの目的の為に。フライハイから逃げつつ、目立たぬよう自己強化もせず灯りも持たず、己の嗅覚頼りにゴミ山へ這い蹲る。 しかし。 「ぅ……?」 分からない。賢者の石に匂いは無いらしい。そして戦いが始まった事で辺りは次々と血の匂いに染まってゆき、マクの鼻を惑わせた。 「……え。」 呆然とする者がもう一人。『素兎』天月・光(BNE000490)は己を呪った――間違えた、別の依頼の支度で来てしまったなんて。 それでも一本でも人参ソードを構えて睨み付ける。360度にて武器を炎を氷をオーラを振り上げ襲い掛かって来る敵達を。視界が暗転しても。 「――くッ」 敵の数が多い。圧し遣られる。前衛後衛の関係が無い程に。乱戦でヒットアンドアウェイは難しいか、仲間が射程に入らない。圧し遣られる。捜索専心の者も集中できない。戦闘に入る前に三尋木派へ何かしらアクションを行った方が良かったのだろうか。 範囲外へ逃げても追い掛けて来た者のピアッシングシュートが『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)の体を射抜いた。翼の加護が解け、地に落ちる。 なるべくなら石捜索者の為にも戦闘を長引かせたい、と思っていたが……それどころではない。詠唱しながら放たれる弩矢を転がる様に躱し、癒しの歌を戦場に響かせる。三尋木一派も含めて。そう、奴らの――特にあの電球頭の動向を監視していなくては。 そう思い戦場に視界を走らせる。居た。すっかりフライハイがアークへ気が向いているのを良い事に悠々と賢者の石を探している。同と視線が合った。 「 ッ!」 直後にゾクリと不快感、まるで脳味噌を覗きこまれた様な――ハイリーディングか! 『オケオケ、一応『友軍』だしほっぽっとくのもアレだし援護ぐらいはしてやるのダワー』 マスターテレパスで送られてきたその言葉は嘘か真か。「まさか、私達だけに戦闘を押し付けるなんて事はしませんよね?」とルカの気持ちに対する返答。 「ドカン、ボカン」 「合点」「了解」 同の命令に双塔達が前へ、刹那に神気閃光とチェインライトニングがフライハイのみに襲い掛かる。 しかしそれを回避したフライハイの呪印が双子を縛るも――アゼルのブレイクフィアーがそれを解除する。三尋木一派へ放たれたマジックミサイルを源一郎のバウンティショットが撃ち落とす。 「今は仲間ですから回復ぐらい当然ですよー」 「互いに事情あれど、共闘せし仲間を見捨てる程落ちぶれてはならぬ」 立ちはだかる。ヘェ、と同は両手のバットで肩を叩きながら一歩、前へ。 ゾクリ。思考を読まれて悪寒が走る。もう一度ヘェと言う電球。笑いながら。 かくして、電球が放った言葉は。 「ハハッ、あっはっはーん。アンタらビックリするぐらい出し抜く気マンマンじゃないのダワー? 面白ぉい、から気に入ったのダワー。 オケ、死ぬ気でお互い出し抜きあいましょダワー。戦闘ぐらい協力したげる――三尋木の仁義に賭けてッダワー!!」 嘘か真か不明だが取り敢えず同とドカン、ボカンの三人は戦闘に協力してくれるようだ。証拠としてかインスタントチャージと天使の歌で回復をしてくれる。 お互い出し抜く気が満々、それでも味方。 ここに奇妙な共闘関係が成立した。 「乱戦かい! いいねぇ!」 ライフルをぶっ放しつつ雷鳥は戦場を駆ける。それでも懐中電灯の光を頼りに石の捜索も疎かにする事は無い。 何処だ。周囲を見渡す雷鳥の目に立ちはだかるフライハイ達。面白い。符式の鴉を指に止まらせ、命じる。「貫け」と。突き出された刃にその頬を裂かれながらも。 「何処にあるんや……!」 椿もESPを発動して勘を研ぎ澄ませ、賢者の石を探し回る。その傍で吹き上がる凄まじい火柱――直撃は免れるも、爆風と熱風に転倒してしまう。髪の焦げた臭いがする。 それでも羽集団は容赦無く十字のキャノンをぶちかましてくるものだから…… 「困るわぁ、そういうのって」 広げた紫扇鏡。依代家当主の証。代々受け継がれてきたその扇子に着弾したジャスティスキャノンの爆風に目を細めながらも椿は真っ直ぐにラヴ&ピースメーカーの銃口を向けた。 逃れる隙など与えはしない。引き金を引く。流星が如く。敵を撃ち墜とすは刹那の魔弾。 それを見届けた椿は再度ESPを発動すべく集中し始める。その彼方では雷鳥がまた銃声を響かせて、アゼルは戦場の様子を見渡しながら天使の歌を奏でる。 「そっちに向いましたよー」 最中に注意を呼び掛けるのはフライハイの動き、その先にて積まれたゴミを探るマク。 「あふ、あぶないれす。いたいはいやれす」 スピアの猛撃に逃惑う。自己強化を施していれば或いは、逃げ切れたかもしれない……破滅のオーラに痩せた身体が叩き潰される。 激戦は続く。 三尋木、アーク、どちらも倒れる者が出てくる。 全員が戦う事を選べばフライハイはすぐに殲滅出来たのであろうが――状況が状況、仕方無しか。 「墜ちよ!」 源一郎の凄まじい早撃ちがフライハイの眉間を射抜く。撃ち落とす。その身体の傷は決して少なくは無い。 その背中合わせ状態である同も無傷では無かった。 ルカはすぐに天使の歌を奏でるも――その所為で賢者の石捜索の為に遮断していた気配が否応無く露呈してしまう。攻撃の標的となる。歯噛みする。捗らない。 敵も数が減ってきているが、こちらの精神力体力とて無限ではない。精神力の枯渇したセレアが激しいダメージに倒れてしまう。 「そっち何人倒れちゃったのダワー?」 「……三人だ」 「こっちも三人ダワー」 肩で息をする源一郎のフィンガーバレットが火を吹く。同が気糸を放つ。 フライハイの数はあと少し。 賢者の石を見付けなければ。早く、早く、相手より早く! 「退きなぁ!」 蜂の様な銃撃に耐えながら雷鳥の銃弾が一直線に飛んで行く。椿が放つ呪いの鎖がフライハイの羽を絡め取る。 アゼルが放つ癒しの吐息に再び木曜日のリュドミラを構える雷鳥、焦る脳を落ち着かせる為に深呼吸をする椿。 そこへルカが肩で息をしながらやってくる。 「椿さん……!」 「お、無事で何よりやなルカさん……で、どないしたん」 「ESPで、カレイドシステムにも映っていた……シンヤ一味の指が撥ねられた所、分かりますか?」 「……やってみる」 集中する。その間にも弾丸が、魔が飛んでくるも――落ち付け、落ち着け、集中しろ。 かくして彼女の第六感は告げる。 「あっちな気ぃする」 指差した方向。見遣る捜索班、同時に雷鳥が「あたしに任せな!」と走り出す。ならばと椿、ルカは彼女の援護を。 走る最中に猛攻を繰り広げている源一郎と三尋木一派が見えた――銃声、悲鳴、血の匂い、アゼルもまた走る捜索班を見守った。 走った。急いだ。 そして見付ける。 「……チッ、見られたか」 椿の勘が告げた場所、三尋木構成員の手にあるのは赤く妖しい魔力を纏った――賢者の石! 一歩遅かったか、どうする、友軍である彼等には攻撃できない。三人が目を合わせた瞬間であった。 「うぐっ!?」 フライハイの1$シュートが構成員の手を打ち抜き、賢者の石を空に放たせる。 それを翼を広げたフライハイが空中でキャッチする。そのまま飛んで逃げる気なのだろう――させるか、椿と雷鳥の呪印封縛が刹那の直後に彼を雁字搦めに縛り上げた。 瞬間の悪寒。思考を読まれた不快感。 「させるかなのダワーーー!!」 奴が来る。電球頭が。 「こっちの台詞ですッ!」 ルカも負けじとフライハイの手へ、賢者の石へ。 しかし若干同が速いか。電球の手が魔石に届かんとする。 ――同が掴んだのは空気だった。 「掴ません……!」 源一郎がバウンティショットでフライハイの手の位置を変えさせたのだ。 それでもルカの手の先に賢者の石は無い。ならばと同がピンポイントでフライハイの手を穿ち落とした所為で。 「ゲット! アンド! リリース! ドカンボカン頼むのダワー!」 「合点」「了解」 同が石を握った手首を投げる。ほぼフライハイを壊滅状態に追い込んでいた舎弟二人へ。 皆の目が赤い石へ。 赤い石は気配遮断で急接近したアゼルの手へ。 「源一郎さん!」 「相分かった」 手筈通り、アゼルは千切れた手から引き剥がした賢者の石を源一郎へ。受け取った無頼はすぐさまそれを己がAFへ……しかし賢者の石は『アザーバイド』、収納が出来ない。それでも石を掴んだ手は堅く、絶対に離すまいと。 「…… あぁーーー!!? なのダワー!」 素っ頓狂な声を上げつつも――同の手には黒い宝玉。『奪われた』から使うつもりか! 「取引には応じられないよ!」 雷鳥の術が呪印となって電球頭に絡み付く。動きを禁じる。 「!?」 魂消たのは三尋木派だけでない、リベリスタも同じ。 「アンタっ、友軍に……!?」 「同のアニキ!」「同のアネキ!」 まさかの雷鳥の行いに三尋木一派は驚きを隠せないようだ。 やってもたな、吐く息を飲み込み椿は同を真っ直ぐ見据える。もうフライハイも倒しきったようで、あたりは急に静かなモノとなっていた。 「それ『プルートゥの囁き』やろ……、知ってる。 とりあえず、そんなモノに頼ってまで取り戻したい過去なんてうちには無い。 過去を振り返っても成長はあらへん、うちらが目指すべきなんは未来にあるんやしな」 交渉は全却下。源一郎も賢者の石を用心深く懐に仕舞い、同へ語りかけた。 「汝は失いし物を取り戻したく思わぬのか」 「プライベートは黙秘なのダワー。アナタは? 源一郎さん、でしたっけ」 「其の言の葉に対し誰が言えよう、取り戻したくないと。されど我は今と未来が大事だ、故に要らぬと言おう。 ……幸いに恵まれし今を壊しかねぬ申し出は、受けられぬよ」 「あー、そォ。……はぁ、ウチらの負け……ダワー。もうとっとと行ってダワー、それとも緊縛されたウチをもっと見たいワケ? それ以上は金取るのダワー」 言われなくとも、とリベリスタ達は踵を返す。重傷者を担ぎ、辛勝を手に、本部へと連絡しながら。 「……同のアニキ」「同のアネキ」 「何さ、ドカンにボカン。つか誰かブレイクフィアープリーズなのダワー」 「あの、何故『プルートゥの囁き』を使わなかったのですか?」 「握り潰すぐらいならば出来たでしょうに……」 「バッカねぇ、あそこで『取り戻し』ててもウチ緊縛プレイよ? すぐパチられてお終いだったのダワー。 それに ね これはビッグ・マムが使いたいって時にしか使わないのダワー。ウチの忠誠の証なのダワー。 ちなみに奴らにゃニセモン渡す気なのでしたのダワーあっはははははははは」 「……へぇ~……」 「笑い事じゃない気が……」 「まぁいいじゃないのダワー。帰って美味しいご飯でも食べましょ……その前に怪我人の治療なのダワー」 ――そして、そこは完全な静寂となる。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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