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<賢者の石・争奪>PigmentVermillion

●創ヲ作ル
 あんたさ、創作の『創』って字には『きず』って意味もあるの、知ってる?
 創傷。きりきず。さしきず。じくじくと血を流す、真っ赤な創(きず)のこと。
 だから『創作』ってのは『創(きず)を作る』ことでもあるんだよ。
 そう考えると、なんだか背筋がゾクゾクしない?
 真っ白なカンバスに、斬りつけるみたいに絵の具を引いて、取り返しのつかない創にするんだ。
 それがあたしの、『創作』。
 あんたらフィクサードがやってることと、本質的には変わらないと思うけどな。
 だからあたしは、あんたらが好き。仲間になっては、やんないけどね。
 
 ……例の石、『賢者の石』って、言うんだって?
 
 そう、合成樹脂なんて味気ないものが作られるずっとずっと前の時代、とびきり上等な絵の具ってのは宝石や貴金属を砕いて作られてたんだ。
 例えば青は、アクアマリン。聖人のローブだけに許された、高貴な色。
 例えば赤は、ヴァーミリオン。硫黄と水銀の、化合物。又の名を丹砂。
 この丹砂って顔料はね? お国を変えて中国へ行くと、かつて『賢者の石』って呼ばれてたんだ。
 神秘に至ったと騙る、知ったかぶりの錬金術師たちはこう言った。
「太陽の象徴たる硫黄と月の象徴たる水銀が結びつけば、そこには永遠が生まれるに違いない」
 神秘に対する羨望が生んだ、ニセモノの奇跡だよ。
 秦の始皇帝の死因は、このニセ賢者の石を飲んだから、って言われてるんだぜ?

 この絵を見てくれよ。これ、その丹砂を溶かした絵の具で描いたんだ。
 どうしようもない紛い物が、それでもこんなに美しい赤色を描き出す。
 だったら!!
 だったらさ、とあたしは思うんだ。
 ホンモノの『賢者の石』を使えば、どれだけ素晴らしい絵を描けるだろう、ってね。
 
 不死の霊薬、奇跡の石。
 永遠に消えない創を作るのに、いつまでも血を流し続ける創を刻むのに。
 これ以上の『画材』って、ないと思わない!?
 いや、ないね。絶対にない。
 
 だからさ、欲しいんだ。その石。
 ……ああ、別にあんたの力を貸せとは言ってない。
 あたしは絵を描く。あんたは金を払う。
 あたしたちはただそれだけの、『絵に描いたように』シンプルかつクッリィインな関係だろ?
 だから大丈夫。創作に必要なものは、自力で、盗りにいくさ—— 

●奇蹟の赤色を求めて
「塔の魔女は、『穴』を開けようとしてる」
 招集されブリーフィングルームに集ったリベリスタたちに向かって、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はいつにも増して真剣に語りはじめる。
「アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア。『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)に語った言葉が真実なら、彼女の目的は、何らかの大規模儀式。それもおそらく、『賢者の石』を用いた。
 仔細はまだ見えないとはいえ、なんにせよアークにとって……世界にとって喜ばしくない企みであることに間違いはない。必ず止めて」
『止めて』。それは三文字にして、リベリスタたちがすべき全ての事柄を集約していた。
「恐山派の千堂さんから、後宮派が動き出したとの報を受けたわ。後宮派の狙いは私たちと同じ。『賢者の石』の獲得よ。
 先の依頼でアークにもたらされた『賢者の石』。その解析によって、私たちにも万華鏡による賢者の石追跡が可能になった。情報の点で、最早彼らに遅れをとることはない」 
 きり、と結んだイブの口元には、アークのフォーチュナの筆頭、万華鏡の担い手としての揺るぎない自信が満ちている。
「あなたたちに向かって欲しいのは、三高平駅と三高平南駅を結ぶ路線上の丁度中間地点。線路が川を渡る架橋上。賢者の石のひとつが、そこに出現する。
 該当地点に差し向けられる後宮派の兵隊は、数こそ多いもののとりわけて危険度の高い幹部級ではないわ。
 問題があるとしたら、むしろ、別。
 今回、後宮派以外のフィクサード主流七派も、友軍として協力を申し出ている。
 けれどアークと利益配分協定を結んでいない彼らの目的はボランティアなんかじゃない。それだけ言えば、分かるでしょ?」
 歴史の中に時折現れては、魔導技術を躍進させ、『奇蹟』とさえ呼ばれて来た石。
 その『奇蹟』が今大量に出現した意味は、まだ明るみになってはいないが。
 ただひとつ明らかなのは、ひとつでも多くの賢者の石を獲得することが、そのままその組織の戦力の拡大を意味する、ということだった。
 喉から手が出る程欲しいのは、魔女も、アークも、フィクサードも同じ。
「『友軍』なんて名ばかり。実際のところ、これは三つ巴の闘いよ。
 でも、あなたたちの相手は、ちょっとばかり面倒なの。能力も、人間性も、その立ち位置も」
 イヴは物憂げにその『面倒くさい子』の名を告げる。
「『ペイントペイン』鍵崎切絵。フィクサード集団三尋木派が囲っている絵師。
 今までアークは、如何なる悪事も、如何なる善事も行わず、ただひたすら自身の創作に没頭する彼女を『保留』としてきたけれど、どうやら今回の一件で正式にフィクサード認定されそうね。
 アークと後宮の一個部隊同士がぶつかるその戦場に、単騎特攻してそのうえ勝てる気でいる。
 その自信は、裏打ちのないものじゃないわ。
 彼女は三尋木派の意図とは別に、あろうことか『画材』として賢者の石を入手しようとしてる。
 つまり、賢者の石を砕いて、粉々にして、おまけに油で溶いてキャンバスに塗ったくろうっていうの。
 それだけでも、人間の壊れ方が窺えると思う。
 もっとも、三尋木は粉々にされる前に彼女から賢者の石を奪う気でいるのでしょうけど」
 『賢者の石』の性質は未知だ。細かい破片に分断され、更には絵の具にまで加工されて尚、その機能を保つかどうかは定かではない。
 手駒として利用した後は、大人しく戦利品を差し出してもらうのが妥当な判断というものだろう。 
「鍵崎切絵の戦闘能力は相当のもの。うまく利用できれば頼もしい味方かもしれないけれど……。
 『お抱え絵師』という彼女の立場、実は非常に厄介よ。
 正式な兵隊は言わずもがな、立場だけ見るならむしろ、幹部クラスよりも扱いが難しい」
 どういう事だ? と問うリベリスタ達の視線に、イヴは答える。
「こちらから攻撃すれば、『不可侵を破り、先に手を出したのはアークである』という恰好の口実を彼らに与えることになる。 
 逆に向こうから攻撃をしかけてきたとしても、『彼女は三尋木の正式な一員ではない』の一辺倒で無かったことにされかねない。
 『ペイントペイン』との交戦は、アーク側に損しかもたらさないわ。だからこそ彼女の独断専行は看過されている。
 いいえ、むしろ三尋木は最初から、鍵崎切絵が暴走すると踏んで意図的に情報を流した可能性が高い。
 誘導された自発性、想定されたイレギュラー。
 ……『穏健派』とはいえ、フィクサードらしい姑息なやり口ね」
 ふぅ、と吐き出される嘆息の後、イヴはすぐさま表情を引き締めて。
 賢者の石入手に向かうリベリスタたちに向けて、最後の檄を飛ばした。

「あなたたちの為すべき事はひとつ。可能な限り鍵崎切絵との交戦を避け、彼女よりも、後宮の兵隊よりも、他の誰よりも早く、『賢者の石』を手に本部へと帰還して」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:諧謔鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月27日(日)22:37
全体シナリオです。
誰よりも先んじて賢者の石を入手してください。
後宮派の目的を挫き、同時にアーク側の戦力増強を図るチャンスです。

■目的
賢者の石の取得

■敵
<後宮派>
・『白磁』空石 陶冶(そらいし とうや)
真っ白な装束に身を包んだジーニアス、インヤンマスターのフィクサード。
後宮派の兵隊。目的は『賢者の石取得』。リベリスタ、切絵両者に攻撃を仕掛ける。

・空石の部下8名。
前衛職を中心に構成された、詳細不明の後宮派の兵隊たち。
実力的には空石と殆ど大差ないが、シンヤの指示により空石の指揮下に入っている。

<三尋木派?>
・『ペイントペイン』鍵崎 切絵(かぎざき きりえ)
アーティファクト『色彩恐怖症(クロモフォビア)』を所持する三尋木のお抱え絵師。
ヴァンパイアの女性。ソードミラージュに近い戦闘スタイルを持つ。
非戦スキル『ハイバランサー』『面接着』『幻想殺し』を所持。
三尋木が流した情報に誘導される形で賢者の石争奪戦に加わるが、あくまでも彼女の独断専行という体。
目的は『賢者の石取得』であり、後宮派とリベリスタ両者のうち賢者の石を所持している方に攻撃を仕掛ける。自身が石を所持している場合は逃走を図る。
戦闘は専門ではないが、空石ら全員を相手取っても引けをとらない程度の実力者。
勝敗よりも戦闘の『美しさ』を優先しがち。泥臭いことをするくらいなら潔く負ける派。
戦闘相手の『殺害』には消極的だが、それが『絵になる』死に様である場合殺害する。

・アーティファクト『色彩恐怖症(クロモフォビア)』
『顔料』のアーティファクト。
このアーティファクトから生成された絵の具は、その色彩に応じた力を持つようになる。
今回彼女が使用しているのはお気に入りの『赤』一色。裂傷と炎上の色。
絵筆が引く赤いラインは灼けつく斬撃となり、エアブラシから噴霧される顔料は火球となる。いずれの攻撃にもBS『火炎』『業炎』が付与される。
尚『色彩恐怖症』から得られた絵の具は、洗い落とすまで涸れることがない。

■戦域
川に架けられた橋の線路上。『賢者の石』出現地点は橋の中央部。
橋の下には中州があるポイントもある。
戦域到着は、後宮派、切絵、アークの順になるものの、殆ど同時。
リベリスタ到着時に既に誰かが賢者の石を所持していることはない。
賢者の石は、全員が十分に視認できる場所に出現する。
尚戦闘中に橋へと電車が侵入する可能性あり。
フィクサード集団は民間人を巻き込むことに躊躇しない。
民間人に対する切絵の態度は不明。

●その他
 イヴにほぼスルーされた空石くんたちですが、決して弱くはありません。対策を怠れば、この後宮派一個隊だけでも強敵になりえます。
 切絵ちゃんは面倒くさい子ですが、重傷にならないような傷をいちいちパトロンにチクる程セコくはありません。大人の事情を汲んで無抵抗にやられるくらいなら、むしろ適度に殴りましょう。
 共闘、無力化、回避、正面衝突。それぞれの道があり、切絵ちゃんの扱いとそのタイミングが鍵になるでしょう。
 皆サマの健闘を祈ります!!


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
テテロ ミーノ(BNE000011)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
クロスイージス
ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
ナイトクリーク
譲葉 桜(BNE002312)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
デュランダル
館霧 罪姫(BNE003007)
■サポート参加者 2人■
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
覇界闘士
浅倉 貴志(BNE002656)

●Red Red Red
 鍵崎切絵は両手の指で枠を作ると、自らと後宮派の間に立ちふさがるリベリスタたちをその額縁の中に収めた。
 構図を1:1.6に区切る、黄金分割に収まるのは『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)。
 背景は夕焼けの、赤。欄干の鉄骨の、赤。そして描くは彼女の纏う衣の、赤。二振りのチェーンソーが巻き上げる血風の、赤。彼女に向けられた刃が描く、赤。
 授けられた白亜の翼は、みるみるうちに血に染まる。
「なあに?貴方もバラバラにされたいの?ふふ、あはははははは!」
 守りを捨てた猛攻ながらも、多少の損害は前衛のサポートにあたる『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が厚い回復で埋める。
 壊乱の宴は、止まらない。
 食い止めようと前に出た後宮派のクロスイージスが、闘気を纏った剣の直撃を受けて空に弧を描く。
 橋の上から川の底へ。描く見事な放物線は――
「ふぅん……悪くない構図ね。むしろ、完璧?」
 しかし、そんな『完璧な構図』にぐい、とフレームインするぴん、と尖った耳。くりくりの目。
「はじめまして、切絵ちゃんっ。ミーノっていうの~」
 切絵が(今のところ)いまいち戦闘に積極的になれずにいるのは、先程からまとわりつくこの小動物『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)に気勢を削がれたからに他ならない。
 狐は小動物であるのか、などというそもそも論はさておき。
 賢者の石が顕現するまでは、この友軍という立場に甘んじるのも悪くない、この期にリベリスタを観察してやろうと後衛に留まっていた。
「切絵ちゃんすごく絵がうまいってきいたの~いつもはどーゆー絵をかいてるの~?」
「……そうさな、例えばあーゆー絵だ」
 気怠い声とともに切絵が再びフレームを合わせる先には。
(さおりん! さおりん! さおりん!)
 心の中で愛しい人を呼んだその数だけ集中を積み重ねた、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)。
 (さおりんへの)愛を込めた魔法の苺は、吸い込まれるように敵陣へ。 
 着弾と同時にふわり広がる魅惑のフレーバー。心も脳味噌も蕩かすそれは、ちょっとアブナいとちおとめ。こちらもまた、赤色。
「キュートだけどちょっとポップが過ぎるかな。美しさとはまた、違うベクトルだ」
 切絵の言葉とは裏腹に、魅了を受けた後宮派のデュランダルが隣の味方に向けてポップならぬ大剣を振り上げる。迷う事無く応戦するそちらも、既にいちごばくだんの虜である。
「揺るぐな!! 騒ぐな!! 狼狽えるな!!」
 白装束に身を包み、漆黒の長髪を後ろで束ねた青年、空石陶冶は錯乱する味方に檄を飛ばす。
 その声が届く範囲に、守護の結界が薄青く広がった。
 しかしその青に拮抗するように、視界を白で塗りつぶしたのは。
 前衛の壁の後ろからフィクサードを貫く神気閃光。
「そうか、お前が……お前の名は聞きしに及んでいるぞ、カルナ・ラレンティーナ!!」
「そうですか。私も有名になったものです。……だからといって嬉しくは、ありませんが」
 柔和な風貌に厳しさを浮かべて、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は応える。
「あの石は希望と絶望の双方を内在させているモノです
 あなた方の手に委ねる訳には参りません」
「痴れたことをッ!! そう言われて我らが退くとでも!?
 丁度いい、貴様もシンヤさんへの手土産にしてやるッ」
「おーっと、そいつはよくないぜ? 欲張りも、女性を土産物扱いすんのもな!」
 カルナに向いた刃を一手に受け止め、それでも余裕で笑むは『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)。
 サングラスの奥から空石を見据える瞳は燃えるような、赤。
 切絵はひゅう、と口笛を吹く。
「あれがいわゆるイケメンって奴ね。で、そっちの彼は?」
 切絵の問いかけの先に居るは、『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)。
「……どちらの赤が見たい。爆ぜる砲火の赤。飛沫く血の赤」
「ケチんなよ、両方見せろ」
 銃口と着弾地点を、同時に見せることは叶わない。切絵の無理難題に、龍治はふっ、と乾いた笑いを漏らす。
「だが、『出来ない』などとは口にすまい。それでは雑賀の名が廃る」 
 まず網膜に焼き付くは砲火の赤。浅倉 貴志(BNE002656)と罪姫が二人掛かりで抑えるフィクサードの巨体は、鉛玉ひとつで、浮いた。しかしそれで終わりではない。驚愕を形作ろうと歪むその髭面は、完成をみる前に赤く爆ぜ、中身をぶちまける。遅れて響く砲声は不可能を可能にする二連撃の証。
 銃口に燻る紫煙を。龍治は露払いするがごとく砲身を振るった。
「へぇ……それ、火縄銃か。切絵ちゃんびっくりだぜ……温故知新って奴?」
 龍治は切絵の問いかけには応えず、ただ黙々と次の的に狙いを絞る。

●Red over Red
「……くっ、殺られたのが一人、橋下に落とされたのが一人、その上鍵崎切絵は体力温存か。
 ……劣勢だな」
 戦場を駆け回り、符を用いた術で味方の傷をいやしていた空石は、戦況を俯瞰してほぞを噛む。
 そんな空石に、ひとりのフィクサードが耳打つ。
「指揮が執れないなら、俺が代わってやろうか? 空石の坊ちゃんよぅ!!」
「黙れ!!!! これは僕がシンヤさんから直々に賜った大任だッ。雇われのお前が口を挟むな!!」
「『大任』ねぇ。リベリスタに三尋木の絵師、どちらも俺らより格上だ。
 そんな奴らとぶつかる戦場に、癒し手はお前だけの前衛部隊とは。
 貧乏くじ引かされたんだよ、そろそろ気づいたらどうだ、『捨て石』くん!!」
「……!!」
「おい、アレを見ろ!!」
 絶句する空石の頭上を越えて、長身のフィクサードが天を指差す。
 橋の丁度中央、高圧電線を超えた向こうに、集約する光。
 赤づくめの戦場、その背景に埋もれても。燦然と輝く絶対的な存在感。握りこぶしの大きさにも満たないそれは、一瞬、橋上の全ての視線を一手に奪い去った。
「やぁあっとお出ましか、賢者の石!! 期待どーりの美しさじゃねーの!!」
 ゆっくりと下降を始めた賢者の石に向かって、まずは切絵が地を蹴る。
 しかしその足取りに影のように並走する『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)が、切絵が最短距離で石へと接近することを赦さない。
「一人で突っ走っちゃ危ないですよ!
 ここは友軍の桜ちゃん達に任せて下さい!」
「ちっ、何が友軍だ。しれっと妨害しやがって。なるほど、読めたぜ、てめーらの魂胆がよっ」
 切絵はトップスピードまで加速。桜を引き離して一気に敵陣中央まで斬り込む。
 しかしあと一歩の所で、ナイトクリークと刃を合わせるエルヴィンの背中が切絵の進路を塞いだ。
「おい、イケメン、退けッ」
「……っと、悪ぃな。今ちょっと手が離せねぇんだ」
 それは口先。彼の防衛能力を以てすれば、剣撃を受けて尚後退せずに踏みとどまる事は可能だったのだが。敢えてよろめくふりをして、さらりと切絵の進路に入り込む。
(……!? 何故前に出ない、リベリスタ……)
 切絵のルートを遮断しながらも、自ら石に手を伸ばそうとはしないリベリスタたちに、空石は怪訝の目を向ける。
 しかし一瞬の躊躇の後、空石はフライエンジェの味方に視線を送った。
 翼を打って飛び上がり、空中の石を胸に抱いたフィクサードは、そのまま高度を上げてリベリスタの刃を逃れる。
「……賢者の石、確保しました!!」
「敵には術士と高命中の狙撃手が居る、高度飛行では狙い撃たれるぞ!!
 地上に退路を拓け!!」
「おおおっ!!!」
 地上組のフィクサードたちが雄叫びを上げ、橋の出口に向けて突進する。
 しかしその勢いに、正面からぶつかってゆく者が一人。
「いくぜっ、てめぇら……持ち逃げ出来ると思うんじゃねえぞ!」
 『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)は、先鋒の剣戟を甘んじて受け、その足を止める。
 反撃とばかりに放たれる、パイルバンカーの重撃が巻き起こす風圧は。当たらずともそれだけでフィクサードの気勢を削ぐに十分だった。
「怯むな!! 既に石はこちらの手にある、勝利は目前なのだぞ!!
 ……降り注げ、陰陽・氷雨!!!!」
 狭い戦域を、埋め尽くすように注いだ雨は。
 賢者の石所持者の足止めへと回っていたリベリスタたちを射抜いた。
「今だ、突破しろ!!」
 空石が指差す方向へ、賢者の石を抱えたフライエンジェは飛ぶ。
「……おいおい。あたしを忘れんじゃねぇよ。『赤い』あたしに、氷は効かねぇぜ」
 飛び散る絵の具を燐火に変えながら、振るわれた絵筆の軌跡は弧を描き、火焔となる。
 そして狙いすまされたその一太刀は、空中を滑るフライエンジェの右翼を、半ばから両断した。
「……!!」
 冷たく濡れた路面に叩き付けられるフィクサードの傍らで、切断された翼を炎が包んだ。
「足掻くなよ。美しくねーな。泥に塗れた時点でお前の美術的価値は終わりだ」
 味方に石を投げ、託そうとしたその肘を、ブーツの踵が踏み砕く。
 ぐしゃり、と嫌な音がして、掌から転げた賢者の石を。
 しかし後宮派のひとりが放った式神が、切絵の指先から掠めとる。
 その頃リベリスタの陣営は燐光が包み、相互の癒しによって体勢を立て直しつつあった。
「ちっ、どいつもこいつも必死こきやがって。やっぱりださいよ、お前ら。
 ちょっとでも『美しい』なんて思ったあたしが馬鹿だったね!!」
 石を目指して再び後宮の陣営に斬り込む切絵に、やはり桜が近づく。
 桜と、彼女の影が放つナイフの連打が、賢者の石を手にした空石への道を強引にこじ開けた。斯くして敵陣深くまで潜り込んだ切絵だったが――
 そう、それこそがリベリスタの狙い通り。
 多数を活かしたブロック、及び陣の外縁に向かって定期的に放られるいちごばくだんによって後宮派の動きは封じられ。罪姫の剣撃が、陣の中心へと敵を導く。そこでは切絵がアーティファクトを振るい、桜がナイフを放っており。適度に噛み砕かれた頃合いを見計らって龍治が遠距離から的確にとどめを刺す。
「ふふ。次は貴方が吹き飛ばされたいの? 良いわ、もっともっと血塗れになって、もっともっと朱く染まって。
 その朱い朱い命の焔で、さあさ、罪姫さんをもっと愉しませて!!」
 血陣の中に、まるで屠殺を待つ牛を放り込むごとく敵を突き飛ばす罪姫の声は、歓喜にうち震える。
 戦場を満たす癒しの讃歌は切絵にも届き、石に手を伸ばすは能わず、刃下に倒れるも能わず。ただ目の前の敵を斬り続けるその一角は、破砕機の様相を呈していた。
 炎と影とが渦巻く陣の中心は、さながら抽象絵画のごとく。一歩退いてそれを眺める後衛の者たちにはことさらに、美しく映った。
 
●Red under Red 
 こうして後宮派は石を抱えたまま囲みを抜け出すことができず、一人、また一人と倒れていった。現時点で空石を含み、四人。リベリスタ側の損害、軽微。
 しかしこの状況を打破する好機を、空石は今か今かと待ち望んでいた。
 時計に目を落としたレイチェルは、欄干の上からいちご爆撃を行っていたそあらに視線を送る。その意味を察知してそばだてたそあらの耳が、ぴくり、と反応した。
「電車……!! 皆さん、電車が来ます!!」
 そう、有利に戦況を操っている側にとっては、望ましからぬイレギュラー。
 電車の突入によって強制的に、陣を崩される。
 しかもこの状況は更に空石にとって好都合に働いた。リベリスタにはできないことが、空石にはできる。つまり一般人の間に斬り込み、彼らを盾にして逃走を図ることが。
(いいぞ、来い……!! 早く……!!)
 足元に打ち込まれるそあらのマジックアローをいなしながら期を待つ空石はしかし、自分が徐々に、徐々に、橋の際まで追いつめられていることに気づいていなかった。
「どーん!!」
 囲みを突破してぶつかって来たピンク色のかたまりによって、空石の身体はふわりと宙に浮く。
「な、に……!?」
「えへへ、いっしょにだいぶ、しよっ?」
 空中で空石の肩を掴んだまま、ミーノはにこりと微笑んだ。
 二人は組み合ったまま上下を取り合い、そのまま橋下の中州へと落ちてゆく。
 最終的に上をとったのは、空石。
 背中からのワイルドダイブに目を回したミーノを振り払って、逃走を図る。
「陶冶さん!!」
 戦闘序盤、罪姫によって落とされたクロスイージスが空石の傍に駆け寄った。
「他の奴らは降りてこないか……薄情者共がっ。まあいい、このまま逃げ切るぞ」
「ざーんねん!! 切絵ちゃんが追いついちゃったぜー、っと」
「桜ちゃんもいますっ!!」
 面接着を用いて橋脚を駆け下りてきた切絵、そして橋の上で翼の加護を受け直し、降下してきた桜が二人のフィクサードの前に立ちふさがる。
 加えて、ローゼスとエルヴィンの二名が退路を塞ぐように中州へ降り立った。
 その時丁度列車が架橋を行き過ぎ、陣営は中州と橋上反対路線とで完全に分断される。
「どけっ。僕は捨て石なんかじゃない。僕は捨て石なんかじゃないんだ!!」
「ははっ、お前が描く自画像は、幾分写実的じゃねぇようだな? 空石陶冶ぁ!!」
「黙れ、黙れ、黙れぇえええ!!」
 切絵及び桜と斬り結んでいた空石を、十字の光が背中から射る。
「が、がはっ……!?」
「やぁああっと当たったぜぇっ!!」
 燃え上がった敵意によって、空石の注意はエルヴィンへと引き寄せられる。
 空石が注意を目の前の敵から反らしたのは、ほんの一瞬。だがしかしそれが、命取り。
 桜のブラックジャックと切絵の斬撃が、賢者の石より先に彼の命を奪い去って行った。
「切絵さんナイスです!」 
「おっと、残念だけど友達ごっこはここまでだぜ?」
 ハイタッチに見せかけて、切絵をブロックにかかった桜だったが。
 フィクサードに囲まれて過ごして来たこの絵師は、すぐさまその目論みを察知してすり抜けようとする。
 しかし隙は僅かで十分。回復を受けたミーノが、倒れた空石の手から賢者の石を奪い取る。白磁の肌と装束は血に染まり、その指に最早力は無い。
 彼の血を受けて、賢者の石はより赤く、不気味に煌めいた。
 ミーノは背筋を震わせながらも、その石を懐深く抱いて駆ける。
「逃がすか、このピンク狐ッ」
 ミーノを追おうとする切絵の前に立ちふさがる巨体は。
 切絵は歯噛みするとともに、ローゼスに斬りつける。
「痛ぇなぁ、おい。
 さっきの味方が今の敵、か。厄介だな、三つ巴じみた関係ってのも。
 ……まあいい、厄介事ってのはどこの戦場でもついて回る、って訳だ」
 傷跡に炎を揺らしながらも、頑として揺るがないローゼス。
 切絵は苦し紛れに、ミーノの背中に向けて火球を放った。
 射程圏ギリギリのそれはミーノの尾を掠り――
 文字通りお尻に火がついた彼女は脱兎のごとく……いや、脱狐のごとく駆けて行った。 
「何度斬ろうと、何人斬ろうと、こちらの癒し手の方が早いですよ、切絵さん。
 いかな貴方が強かろうと、体力を使い切ったら終わりの貴方と、いくらでも癒せるこちらとの、立場の違いはお分かりでしょう?」 
 ローゼスの傷を癒しながら、カルナが不敵に舞い降りる。
「ああ、多勢に無勢ってヤツだぜ? なぁ姐ちゃんよ」
 木刀を肩に預けたエルヴィンが、切絵の背後に立った。
「下に居る奴らだけで四対一、か」
 切絵は周囲を見渡して、突破の可能性を探る。四人ならば、ともすれば。しかし。
「俺を忘れるな。この銃口がいつでもお前の脳天を狙っている。
 腕前の方は、先程見せた筈だが……それとも、泥臭く戦ってみるか?
 お前が泥濘に塗れる姿も、きっと絵になるだろうよ」
「願わくばこのまま、友軍として終わらせては、いただけませんか。
 貴方がローゼスさんとミーノさんに向けた刃は、不問として差し上げますから、ね?」
「……わーったよ。降参だ、降参! 悔しいけど、あんたらの詰みの方が美しいぜ」
 ぶすっ、と不平顔で中州に腰を下ろした切絵の横に、桜がずずいとにじり寄る。
「な、なんだよ」
「ねぇね、切絵さん。もう闘わなくていいんですよね?
 だったらお化粧教えてもらえませんか?
 ルージュの塗り方とか、映えるネイルアートとか!
 だってだって、お化粧は芸術!! ですよね!!」
「……別にいいけど、切絵流メイクアップはちょーっぴり野獣主義(フォービズム)だぜ?」
「ふぉ、ふぉーびずむ……?」
「ま、ビスハにゃぴったりかもな」
 そう言って切絵はニヤリ、と悪意ある笑みを浮かべる。 
「さあ覚悟しな。今日の腹いせに、あんたの顔面を、あたしのキャンバスにしてやるぁ!!」
「な、なんだかとっても不安ですー!!!!」

 さて、桜が切絵に若干前衛的なモテカワメイク(笑)を教わっている丁度その頃。
 アーク本部には賢者の石がひとつと、尻尾をぶすぶすに焦がした狐娘が到着したという。
「おつかれさま」という職員の労いが、聴こえるか聴こえないかの瀬戸際で。
 ミーノはばたりと倒れ伏したのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
諧謔鳥です。ちょっと捻れた三つ巴戦、お疲れさまでした!!

結果はご覧の通り。賢者の石は無事アーク本部へと届けられました。
切絵もパトロンの元へ戻り、今頃こっぴどく叱られていることでしょう。

橋上に残った後宮のうち、空石にそれほど仲間意識のない者たちは逃亡したようですが、今回の目標はあくまで賢者の石確保。十二分な成功です。

なんといっても今回のパーティは回復が厚く、後宮派との交戦においても、切絵を諦めさせる決め手としても、その回復能力が鍵となったように思われます。
他の依頼にもちょっと分けてあげたかったくらい……

ともかく、必要最小限の損害で賢者の石確保に成功したリベリスタの皆サマに心よりの拍手を贈らせて頂きます。