●創ヲ作ル あんたさ、創作の『創』って字には『きず』って意味もあるの、知ってる? 創傷。きりきず。さしきず。じくじくと血を流す、真っ赤な創(きず)のこと。 だから『創作』ってのは『創(きず)を作る』ことでもあるんだよ。 そう考えると、なんだか背筋がゾクゾクしない? 真っ白なカンバスに、斬りつけるみたいに絵の具を引いて、取り返しのつかない創にするんだ。 それがあたしの、『創作』。 あんたらフィクサードがやってることと、本質的には変わらないと思うけどな。 だからあたしは、あんたらが好き。仲間になっては、やんないけどね。 ……例の石、『賢者の石』って、言うんだって? そう、合成樹脂なんて味気ないものが作られるずっとずっと前の時代、とびきり上等な絵の具ってのは宝石や貴金属を砕いて作られてたんだ。 例えば青は、アクアマリン。聖人のローブだけに許された、高貴な色。 例えば赤は、ヴァーミリオン。硫黄と水銀の、化合物。又の名を丹砂。 この丹砂って顔料はね? お国を変えて中国へ行くと、かつて『賢者の石』って呼ばれてたんだ。 神秘に至ったと騙る、知ったかぶりの錬金術師たちはこう言った。 「太陽の象徴たる硫黄と月の象徴たる水銀が結びつけば、そこには永遠が生まれるに違いない」 神秘に対する羨望が生んだ、ニセモノの奇跡だよ。 秦の始皇帝の死因は、このニセ賢者の石を飲んだから、って言われてるんだぜ? この絵を見てくれよ。これ、その丹砂を溶かした絵の具で描いたんだ。 どうしようもない紛い物が、それでもこんなに美しい赤色を描き出す。 だったら!! だったらさ、とあたしは思うんだ。 ホンモノの『賢者の石』を使えば、どれだけ素晴らしい絵を描けるだろう、ってね。 不死の霊薬、奇跡の石。 永遠に消えない創を作るのに、いつまでも血を流し続ける創を刻むのに。 これ以上の『画材』って、ないと思わない!? いや、ないね。絶対にない。 だからさ、欲しいんだ。その石。 ……ああ、別にあんたの力を貸せとは言ってない。 あたしは絵を描く。あんたは金を払う。 あたしたちはただそれだけの、『絵に描いたように』シンプルかつクッリィインな関係だろ? だから大丈夫。創作に必要なものは、自力で、盗りにいくさ—— ●奇蹟の赤色を求めて 「塔の魔女は、『穴』を開けようとしてる」 招集されブリーフィングルームに集ったリベリスタたちに向かって、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はいつにも増して真剣に語りはじめる。 「アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア。『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)に語った言葉が真実なら、彼女の目的は、何らかの大規模儀式。それもおそらく、『賢者の石』を用いた。 仔細はまだ見えないとはいえ、なんにせよアークにとって……世界にとって喜ばしくない企みであることに間違いはない。必ず止めて」 『止めて』。それは三文字にして、リベリスタたちがすべき全ての事柄を集約していた。 「恐山派の千堂さんから、後宮派が動き出したとの報を受けたわ。後宮派の狙いは私たちと同じ。『賢者の石』の獲得よ。 先の依頼でアークにもたらされた『賢者の石』。その解析によって、私たちにも万華鏡による賢者の石追跡が可能になった。情報の点で、最早彼らに遅れをとることはない」 きり、と結んだイブの口元には、アークのフォーチュナの筆頭、万華鏡の担い手としての揺るぎない自信が満ちている。 「あなたたちに向かって欲しいのは、三高平駅と三高平南駅を結ぶ路線上の丁度中間地点。線路が川を渡る架橋上。賢者の石のひとつが、そこに出現する。 該当地点に差し向けられる後宮派の兵隊は、数こそ多いもののとりわけて危険度の高い幹部級ではないわ。 問題があるとしたら、むしろ、別。 今回、後宮派以外のフィクサード主流七派も、友軍として協力を申し出ている。 けれどアークと利益配分協定を結んでいない彼らの目的はボランティアなんかじゃない。それだけ言えば、分かるでしょ?」 歴史の中に時折現れては、魔導技術を躍進させ、『奇蹟』とさえ呼ばれて来た石。 その『奇蹟』が今大量に出現した意味は、まだ明るみになってはいないが。 ただひとつ明らかなのは、ひとつでも多くの賢者の石を獲得することが、そのままその組織の戦力の拡大を意味する、ということだった。 喉から手が出る程欲しいのは、魔女も、アークも、フィクサードも同じ。 「『友軍』なんて名ばかり。実際のところ、これは三つ巴の闘いよ。 でも、あなたたちの相手は、ちょっとばかり面倒なの。能力も、人間性も、その立ち位置も」 イヴは物憂げにその『面倒くさい子』の名を告げる。 「『ペイントペイン』鍵崎切絵。フィクサード集団三尋木派が囲っている絵師。 今までアークは、如何なる悪事も、如何なる善事も行わず、ただひたすら自身の創作に没頭する彼女を『保留』としてきたけれど、どうやら今回の一件で正式にフィクサード認定されそうね。 アークと後宮の一個部隊同士がぶつかるその戦場に、単騎特攻してそのうえ勝てる気でいる。 その自信は、裏打ちのないものじゃないわ。 彼女は三尋木派の意図とは別に、あろうことか『画材』として賢者の石を入手しようとしてる。 つまり、賢者の石を砕いて、粉々にして、おまけに油で溶いてキャンバスに塗ったくろうっていうの。 それだけでも、人間の壊れ方が窺えると思う。 もっとも、三尋木は粉々にされる前に彼女から賢者の石を奪う気でいるのでしょうけど」 『賢者の石』の性質は未知だ。細かい破片に分断され、更には絵の具にまで加工されて尚、その機能を保つかどうかは定かではない。 手駒として利用した後は、大人しく戦利品を差し出してもらうのが妥当な判断というものだろう。 「鍵崎切絵の戦闘能力は相当のもの。うまく利用できれば頼もしい味方かもしれないけれど……。 『お抱え絵師』という彼女の立場、実は非常に厄介よ。 正式な兵隊は言わずもがな、立場だけ見るならむしろ、幹部クラスよりも扱いが難しい」 どういう事だ? と問うリベリスタ達の視線に、イヴは答える。 「こちらから攻撃すれば、『不可侵を破り、先に手を出したのはアークである』という恰好の口実を彼らに与えることになる。 逆に向こうから攻撃をしかけてきたとしても、『彼女は三尋木の正式な一員ではない』の一辺倒で無かったことにされかねない。 『ペイントペイン』との交戦は、アーク側に損しかもたらさないわ。だからこそ彼女の独断専行は看過されている。 いいえ、むしろ三尋木は最初から、鍵崎切絵が暴走すると踏んで意図的に情報を流した可能性が高い。 誘導された自発性、想定されたイレギュラー。 ……『穏健派』とはいえ、フィクサードらしい姑息なやり口ね」 ふぅ、と吐き出される嘆息の後、イヴはすぐさま表情を引き締めて。 賢者の石入手に向かうリベリスタたちに向けて、最後の檄を飛ばした。 「あなたたちの為すべき事はひとつ。可能な限り鍵崎切絵との交戦を避け、彼女よりも、後宮の兵隊よりも、他の誰よりも早く、『賢者の石』を手に本部へと帰還して」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諧謔鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月27日(日)22:37 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|